キョウエイマーチとは、1994年産まれの競走馬である。その豊かなスピードで桜花賞を制し、その後も短距離~マイル路線を長く沸かせた女傑。
父*ダンシングブレーヴ、母インターシャルマン、母父*ブレイヴェストローマンという血統。馬主は松岡正雄氏→松岡留枝氏。生産者は松岡氏が経営するインターナショナル牧場(門別)。栗東・野村彰彦厩舎所属。主戦騎手は松永幹夫→秋山真一郎。
主な勝ち鞍
1997年:桜花賞(GⅠ)、報知杯4歳牝馬特別(GⅡ)、ローズステークス(GⅡ)
1999年:阪急杯(GⅢ)
2000年:京都金杯(GⅢ)
概要
キョウエイマーチは生まれつき骨端症という病気で脚部不安を持ち、デビューさえも危ぶまれていたのだが牧場スタッフの懸命な治療でどうにかデビューに漕ぎ着けた。そしてデビューすると新馬戦と3戦目をダート短距離で大差の逃げ切り大楽勝。芝のマイルでも4戦目のエルフィンステークスで勝利を挙げ、この時点でメジロドーベル一強のムードだった牝馬クラシックの有力候補と呼ばれる。そして次走の4歳牝馬特別では、阪神3歳牝馬ステークス2着のシーズプリンセスを7馬身差とちぎり捨てる圧勝。一方のメジロドーベルはチューリップ賞で3着に敗れており、ここで二頭の評価は逆転する。
本番の桜花賞は不良馬場となり、ダートで強さを見せる逃げ馬キョウエイマーチにとってはもってこいの馬場。単勝人気はキョウエイマーチが2.6倍、メジロドーベルが3.4倍と二強ムード。勝ちっぷりの割りに人気が意外と落ち着いたのは、大外18番枠を引いてしまったこと、そして1400m以下でのあまりの圧勝ぶりにどうもマイルでも長いのではないかと見られたからであろう。マイルでは3着・1着(半馬身差)だったし。そんな不安をあざ笑うかのように、レースでは2番手から直線入口で先頭に立つと後は突き放す一方でメジロドーベルに4馬身差をつける快勝。野村厩舎とインターナショナル牧場に初GⅠをプレゼントした。また父ダンシングブレーヴにとってもこれが日本での初GⅠであった。しかし次走のオークスでは2.2倍の1番人気に押されたものの、さすがに距離が長すぎ逃げ潰れて11着と大敗。これを覚えておけばキングヘイローもさっさとマイル路線に行けたのに……。
休み明けのローズステークスでは、NHKマイルカップを制したマル外の怪物シーキングザパールと激突。キョウエイマーチには距離が長いと見られ(当時は芝2000m)、シーキングザパールが単勝1.4倍と断然の人気を集めるものの、レースは前半を62秒7とスローに持ち込んだキョウエイマーチがシーキングザパールが伸び切れないのを尻目に脚を伸ばし逃げ切りで快勝。シーキングザパールは直線でノド鳴りを発症していたようで、秋華賞を回避してしまった。こうなると秋華賞は古馬牡馬を相手にオールカマーを制したメジロドーベルとの三たびの二強対決。しかしやはり微妙に距離が長かったか、直線でメジロドーベルに差し切られ2着。これを見た陣営は、本来の適性である短距離~マイル路線へ向かうことを決意し、次走をマイルチャンピオンシップに定めた。
この年のマイルCSはキョウエイマーチと同世代の強豪が多く出てきていた。安田記念3着のなぜか1番人気スピードワールド。前哨戦スワンステークスを制したなぜか2番人気タイキシャトル。同じく前哨戦アイルランドトロフィーを好タイムで制した3番人気トーヨーレインボー。とにかくこの世代は短距離~マイル戦線で強い世代だったのである。そんな中で5番人気に押されたキョウエイマーチは、6番人気のこれまた同世代サイレンススズカと並んでスタートからぶっ飛ばす。600mが33秒2、800mが44秒6という超ハイペースで、サイレンススズカはこのスピードについて行けず直線入口で脱落(不運なことに鞍ズレが起きて競馬にならなかったそうだ)。というか他の馬も直線で全く伸びない。あまりのハイペースで後方待機の馬すらも道中で脚をなくしてしまう、それほどのハイペースだった。タイキシャトルにはさすがに捉えられ2着となったものの、トーヨーレインボー以下は抑えきっており、改めてこの馬の強さを見せつけたレースであった。
その後もキョウエイマーチは桜花賞馬としては珍しく長く現役を続けた。1999年阪急杯でブロードアピール(これも同世代)を抑えて勝ち、ダート戦線にも顔を出して1999年南部杯でも2着と結果を残すなど、「桜花賞馬」という単語につきまとう線の細いイメージを一新する活躍を長く見せ続けた。2000年になっても京都金杯を圧勝。2000年マイラーズカップで同期のGⅠ馬マイネルマックスの4年振りの重賞制覇を見届け引退。通算成績は28戦8勝、うち重賞5勝。当時にヴィクトリアマイルがあったらGⅠもあと1勝くらいはできたんではないだろうか。なんせ調教師がマイラーだと言うGⅠ5勝馬メジロドーベルにマイルで4馬身差をつけて勝ったんだし。
繁殖牝馬としては2007年にインペリアルマーチを出産した際に大腸変位で死亡してしまい、4頭しかターフに送り出せなかったのだが、その中でトライアンフマーチが皐月賞を2着、忘れ形見インペリアルマーチも中央で5勝するなど活躍を見せた。
娘はヴィートマルシェ一頭しかいないのだが、その仔出しが素晴らしい。初仔のグランマルシェから中央勝利馬を出したかと思えば、アヴニールマルシェが重賞連対。そしてマルシュロレーヌに関しては彼女自身のページを参照して頂きたいが、2020年のレディスプレリュードを勝ち孫世代での重賞初制覇、そして翌2021年には子孫のGⅠ初勝利をなんと海外、しかも米競馬の最高峰BCディスタフで成し遂げた。バーテンヴァイラーも姉に続けとばかりに2022年マーキュリーCや2023年佐賀記念を勝利している。
また、孫世代でのGI初出走を果たしたサンブルエミューズ(2010年産)も母同様仔出しが良く、第3仔のナミュールが2022年チューリップ賞を、第4仔のラヴェルが2022年アルテミスSをそれぞれ勝利。2023年にはナミュールがマイルCSを勝ち、中央GⅠでもキョウエイマーチの子孫が名を刻んだ。
・・・と、キョウエイマーチの血統は今後もかなりの間残り続けることになるだろう。
血統表
*ダンシングブレーヴ Dancing Brave 1983 鹿毛 |
Lyphard 1969 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Goofed | Court Martial | ||
Barra | |||
Navajo Princess 1974 鹿毛 |
Drone | Sir Gaylord | |
Cap and Bells | |||
Olmec | Pago Pago | ||
Chocolate Beau | |||
インターシャルマン 1987 鹿毛 FNo.7-d |
*ブレイヴェストローマン 1972 鹿毛 |
Never Bend | Nasrullah |
Lalun | |||
Roman Song | Roman | ||
Quiz Song | |||
トキノシュリリー 1978 栗毛 |
*スティンティノ | Sheshoon | |
Cynara | |||
トミニシキ | *ユアハイネス | ||
スズキナルビー | |||
競走馬の4代血統表 |
父*ダンシングブレーヴは80年代欧州最強馬といわれている。詳細は当該記事参照。
母インターシャルマンは13戦4勝の条件馬。
母父*ブレイヴェストローマンはサラナクS(GII)などアメリカで25戦9勝で、種牡馬としてはトウカイローマンやマックスビューティなど牝馬を中心に日本で活躍馬を輩出した。
牝系はあのオグリキャップ・オグリローマン兄妹と同じ天皇賞馬クインナルビーを祖とする系統、つまり遠戚である。