ATS-Pとは、自動列車停止装置(ATS)の方式の一つである。
概要
従来のATSにおいて頻繁に発生した取扱誤りや抜け穴をカバーするため、現代のデジタル伝送技術を使用し開発された。運転士の負担や無駄な減速を軽減し、かつ確実に安全を確保できる。
列車速度監視に優れており、極めて効率的な運転が可能である。そのため通勤路線において列車間隔を縮められ、輸送力の増強に一役買った。また総武快速・横須賀線の地下区間においては老朽化したATCを置き換えるなど、安全性においても絶大な信頼を受けている。
技術
ATSの至上命題である列車同士の衝突防止は、パターン型と呼ばれる速度照査によって理想的なブレーキとともに確実な停止を実現した。
これは列車上で信号までに確実に停車できるブレーキを計算し、生成された速度制限「パターン」をもとに実際の列車の速度を監視するというもの。計算に必要な信号までの距離や勾配などの情報は、線路上の発信子(地上子)から受け取る。パターンは列車自身のブレーキ性能を定数とした定加速度運動として計算しており、運転士のブレーキ操作におおむね沿っているため、正常な運転をしている限りATS-Pがブレーキの介入を入れることはない。
ATS-Pではこれに加えて、カーブや分岐器での速度制限についてもパターンを生成し、速度超過が起こらないよう適切なブレーキをサポートしている。この場合パターンを超過してATSによるブレーキが作動しても、速度が制限以下まで下がれば自動で緩むため、列車の遅れに繋がりづらい。
ATS-Pはその高機能ゆえ、使用路線で従来型ATSの車両が走行することはできない。また日本の鉄道事情ゆえ電車に特化した設定であるため、貨物列車を始めとるす機関車牽引列車では従来型とあまり変わらない動作をする場合もある。
私鉄でも名称が異なるものの似たような動作をするものがある。
停止信号パターンの例
※用語は実際と異なると思います。すべてここでの仮のものです。
これは横軸に距離、縦軸に速度をとり、ATS-Pが停止信号に対して生成したパターンを示したグラフである。ATS-Pでは主にこの図中にある3つのパターンを生成し列車の速度と照合する。
列車の速度が警報パターンを超過すると、ベル鳴動と共に運転台の「パターン接近」ランプが点灯する。ブレーキ特性は列車のブレーキ性能と線路状況から計算した、停止信号手前に停車する速度である。ブレーキパターンはブレーキ特性を元に、その時点でブレーキをかけ始めれば停止信号までに停車が間に合う余裕が加味された速度である。
停止信号に接近した電車列車のランカーブを重ねたグラフである。
55km/hで走行する列車がA地点を通過すると、ベル鳴動・ランプ点灯によってパターンに接近したことが運転士に知らされる。しばし空走の後、運転士はB地点からブレーキをかけ列車を信号手前までに停止させる。このときATS-Pがブレーキ操作について介入することはない。
パターン接近警報を受けても運転士によるブレーキがかけられなかった場合の電車列車のランカーブを示す。
列車の速度はC地点でブレーキパターンを超過する。すると直ちにATS-Pからブレーキが指令され、ブレーキが効くまでのわずかな空走(C~D地点間)ののち最大ブレーキがかかる。ブレーキパターンは余裕を持ったブレーキ力で計算されているため列車速度はE地点でパターンを下回るが、最大ブレーキはそのままかかり続け停車する。これは停止信号の冒進を確実に防ぐためと、運転士の異常を想定したためと思われる。