【イントロダクション】
スパイ小説の名手、ロバート・リテルによる1981年発表の『The Amateur (邦題:チャーリー・ヘラーの復讐)』を原作に、CIA(アメリカ中央情報局)の分析官が妻を殺害したテログループに復讐を誓い、独自の手段を用いて戦うスパイ映画。
主演に『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)のラミ・マレック。共演に『マトリックス』シリーズのローレンス・フィッシュバーン。
監督にジェームズ・ホーズ。脚本に『ブラックホーク・ダウン』(2001)のケン・ノーランと『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017)のゲイリー・スピネッリ。
【ストーリー】
CIA分析官、チャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)は、IQ170の天才で、CIAの誇る高度な監視システムの開発者の1人でもある。
彼は、妻のサラ(レイチェル・ブロズナハン)を深く愛していたが、彼女が出張先のロンドンでテロ事件に巻き込まれ、殺害されてしまう。
チャーリーは深い悲しみに包まれつつ、自らのプログラムを駆使して事件当日の監視カメラ映像にアクセス。犯人グループの4人を特定し、上司のCIA副長官ムーア(ホルト・マッキャラニー)に彼らの逮捕を進言する。
しかし、ムーアはチャーリーの違法捜査による国際社会への弁明を理由に、犯人グループの確保を保留。妻の無念を晴らしたいチャーリーは、犯人グループに自ら制裁を加える事を決意する。密かに交流していた謎のハッカー、インクワライン(カトリーナ・バルフ)から入手していたムーアによるCIAの非公式・非合法の軍事作戦の資料をネタに、スパイとしての訓練を受けられるよう手配させる。
訓練にはムーアお抱えの捜査員ヘンダーソン(ローレンス・フィッシュバーン)が起用される。銃は勿論、暴力すら振るった事のないチャーリーに、ヘンダーソンは「君に殺しは無理だ」と告げる。
時を同じくして、ムーアはチャーリーが手にした自身の違法作戦に関するデータのバックアップを捜索させ、チャーリーがハッタリを仕掛けていた事を察知。ヘンダーソンにチャーリーの排除を命じる。
しかし、既にチャーリーは用意させた偽造パスポートと費用を手に逃亡しており、妻の復讐というミッションに繰り出していた。
【感想】
まず、鑑賞後に本作を気に入った方なら真っ先に抱いたであろう疑問を。
「「「何故パンフレットが制作されていない…???」」」
大規模公開作で、キャスト来日によるジャパン・プレミアまで行われるような作品でパンフレットが制作されていないというのは珍しくないだろうか?(2022年の『アンチャーテッド』も、作品や公開規模に対してパンフレット制作なしだった)
それはともかく、異色のスパイ映画として非常に楽しめた。
チャーリーが最後まで銃を使わないというのが素晴らしい。持ち前の高いIQとコンピューター技術を駆使して作戦を練り、しかしアマチュア故に思わぬ反撃や窮地に陥る点が、最後まで作品に緊張感を与えている。次第に暗殺に慣れ、犯人達より優位に立っていく姿も魅力的。成長したチャーリーは、ショーン・シラー(マイケル・スタールバーグ)の漁船をハッキングしてルートを変更。ワザと彼の部下に捕まってみせる度胸まで獲得する。
演じたラミ・マレックの演技も素晴らしく、賢いが優しさや恐怖から銃を撃てない姿が印象的。しかし、最後のショーンとの対峙では、自らの意思で引き金を引かない決意をする。序盤は怯え眼だった彼が、次第に成長し冷静な眼差しを獲得していく過程を見事に演じていた。
ローレンス・フィッシュバーン演じるヘンダーソンは、出番こそ控え目で、ポスタービジュアルにあるようなメイン感は薄かったが、チャーリーの理解者として、彼に一目置く様子が良い。
チャーリーに銃を手渡し、「(俺に向けて)撃ってみろ」とけし掛けるも、彼に銃は撃てない。
「身がすくむだろ?(銃を)撃てるのは、よほどの自信家かバカのどちらかだ」
銃を撃てる人間がどういうものかを端的に表した、この台詞が素晴らしかった。
ラストでちゃっかり生きているのは御約束。
チャーリーの協力者となるインクワイラインが退場する展開には驚いた。こういうタイプの人間は、逃走ルートや死を偽装して、何だかんだ生きているパターンがテンプレートだと思うし、チャーリーの良き相棒になれそうだったので残念だ。
一点だけ残念な点を挙げるなら、予告編で面白いシーンを見せ過ぎていた点だ。特に、ホテルのガラス張りプールを破壊するシーンは、本作最大の派手なシーンでもあるので、そこは伏せておいた方が良かったかもしれない。
【総評】
主人公が「銃を使わない」という異色のスパイ映画ながら、高い知性を駆使したトラップによる暗殺が面白く、魅力的だった。
ところで、本作と同日に、リーアム・ニーソンの『プロフェッショナル』、韓国映画の『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』が日本公開されているのだが、1番のプロフェッショナルは、間違いなく本作のチャーリー。4度の暗殺計画により、作戦行動も最早ベテランの域に達した。
“殺し”はアマチュア、“発想”はベテラン、“コンピューター”はプロフェッショナル、といったところか。