25/01/25
年金を繰り下げたのに「全く増えない」4つの年金

人生100年時代の老後は30年、35年と長いものです。「長生きするなら少しでも年金額を増やそう」と年金の繰り下げ受給を検討する人も多くなってきました。しかし、年金の繰り下げ請求は誰にでもできるわけではないことをご存知でしょうか。増やせると思っていた年金が想定どおりにいかなくなるとショックも大きいですね。繰り下げには知っておかなければならない注意点があります。
今回は、年金を66歳以降に繰り下げても、65歳時点の金額で計算されてしまうものをご紹介します。
年金の繰り下げ受給とは
老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ることができます。しかし希望すれば、65歳で受け取らず66歳以降75歳までの間で繰り下げて増額した年金を受け取ることができます。これを年金の繰り下げ受給といいます。老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ繰り下げ時期を選択することが可能です。
年金の繰り下げ受給をすると、年金の請求をひと月遅らせるごとに年金額が0.7%ずつ増額します。年金の受け取りを先に延ばすほど増額率が上がります。また65歳を超えて老齢年金の受給資格期間を満たした人は、そのときから1年経過後に繰り下げ請求をすることができます。
年金の繰り下げ加算額の計算式は、次のとおりです。
【繰り下げ加算額の計算式】
繰り下げ加算額=65歳時点の老齢年金の金額×(0.7%×繰り下げた月数)
たとえば、65歳時点の年金額が180万円(月額15万円)の人がいたとします。この人が以下の年齢まで年金を繰り下げた場合の増額率と繰り下げ加算額は次のとおりです。
・66歳まで繰り下げた場合:増額率は8.4%、繰り下げ加算額は15万1200円
・70歳まで繰り下げた場合:増額率は42%、繰り下げ加算額は75万6000円
・75歳まで繰り下げた場合:増額率は84%、繰り下げ加算額は151万2000円
になります。年金受給までの期間に生活費の手当てができる場合、繰り下げ受給をすることは老後資金を増やす有効な手段となります。
年金には他にもさまざまなものがありますが、すべての年金が繰り下げられるわけではありません。中には次のように66歳以降に繰り下げても増えない年金もあります。
繰り下げても増えない年金1:65歳以降に増えた厚生年金
元気に働けるうちは仕事を続けたいと考える人が増え、65歳以上でも現役という人は珍しくありません。65歳以降も厚生年金に加入して働く人は、在職中でも保険料が年金額に反映されるようになっています。
厚生年金は保険料を納めた期間と額に比例する年金ですが、仕事を続けても繰り下げ増額になる対象は、65歳時点の厚生年金のみです。65歳以降に増えた部分は、繰り下げても増額になりません。
年金は繰り下げた期間が長いと増額率が高くなりますが、単純に遅ければ遅い方がいいというわけではありません。65歳時点で老齢基礎年金を受け取る権利がある場合には、75歳に達した月を過ぎて請求を行っても増額率は増えません。75歳にさかのぼって計算され年金が支払われるのです。ただし、1952年(昭和27年)4月1日以前に生まれた方は、70歳が繰り下げ請求できる上限になります。
繰り下げても増えない年金2:繰り下げた人が亡くなったときの遺族厚生年金
遺族厚生年金は、遺族厚生年金の受給要件を満たした人が亡くなったときに、亡くなった人によって生計を維持されていた遺族が受け取る年金です。
繰り下げ受給を選択して年金を受け取っている人が亡くなったときの厚生遺族年金には、繰り下げで増加した分は反映されません。遺族厚生年金の額は、65歳から受け取っていた場合の本来の額をもとに計算され、老齢厚生年金額の4分の3です。繰り下げ増額された老齢厚生年金の4分の3ではないので注意しましょう。
配偶者が繰り下げ受給して増加した年金を受け取り始めてから亡くなると、配偶者の基礎年金がなくなったうえに、厚生年金は65歳時点をもとに計算されるので大幅減となり、家計に大きな影響を与えます。なお、繰り上げ受給(年金を60歳〜65歳になるまでの間に受け取ること。1か月受け取りを早めるごとに0.4%ずつ減額される)で減額されていても、本来の65歳の年金額を基準に計算されます。
繰り下げても増えない年金3:老齢年金以外の年金を受け取る権利が発生したあとの老齢基礎年金・老齢厚生年金
66歳になるまでに老齢年金以外に障害年金、遺族年金の受給権が発生している場合には、実際には受給していなくても、老齢基礎年金や老齢厚生年金の繰り下げ請求ができません。例外的に障害基礎年金のみ受給権がある人は、老齢厚生年金の繰り下げができます。
たとえば、夫が妻よりも長い期間厚生年金に加入していて、その妻が亡くなった場合で考えてみましょう。夫に支給される遺族厚生年金がわずかで、自分の老齢厚生年金が有利であれば、あえて遺族厚生年金を選ばないでしょう。ところが自分が66歳未満で妻が亡くなり遺族年金の受給権が発生すれば、以後は繰り下げ増額ができないルールになっています。
ただし遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給要件の「生計を維持されている」には、生計が同一であることと収入要件を満たす必要があります。例外的に収入が年収850万円以上あって収入要件を満たさない場合には、繰り下げ請求が可能になります。
また、自分が66歳以上で繰り下げ待機中に配偶者が亡くなって遺族年金の受給権を得た場合には、その時点で増額率が固定されます。それ以降の繰り下げ待機はできなくなり、年金請求の手続きを遅らせても増額率は増えません。この場合の年金は、他の公的年金が発生した月の翌月分から受け取ることができます。
繰り下げても増えない年金4:繰り下げの手続き前に亡くなった場合、一定の遺族が受け取る未支給年金
65歳で老齢年金を請求しなければ、自動的に繰り下げ待機の状態になります。年金は後払いのしくみになっているので、亡くなる直前の期間分は未支給年金が発生します。しかし、66歳を過ぎて繰り下げ請求をしないまま繰り下げ待機中に亡くなったとしても、繰り下げ請求は、遺族が代わって行うことはできません。
この場合、一定の遺族が65歳からの本来の年金額を請求し、65歳から死亡時までに受け取るはずだった年金の総額が一括して支払われます。
たとえば、65歳で年額120万円もらえる人が70歳まで繰り下げた場合には、年額170万4000円の年金額になります。しかし、繰り下げ待機中の69歳に亡くなると、遺族は増額前の年額120万円を基準とした年金額しか受け取れなくなるのです。
ただし、請求した時点から5年以上前の年金は時効によって受取れなくなることにも注意が必要です。
年金の繰り下げができる条件を要チェック
このほか、年金の繰り下げができないものがあります。
・加給年金額や振替加算額
・特別支給の老齢厚生年金
これらの年金は繰り下げることができません。
「○○年金」という名称だから繰り下げができると思わずに、繰り下げができるかどうかの確認が必要です。
また、在職老齢年金にも注意があります。在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金を受給できる人が厚生年金に加入した場合に、年金額と給与の合計額が月額50万円を超えると、年金の一部または全額が支給停止になる制度のことをいいます(なお、2026年4月より「月額62万円」に引き上げられる見込みです)。
在職老齢年金制度で支給停止されている年金額は、増額の対象になりません。繰り下げで増えるのは、年金を請求したならば受給できた額に限られます。そのため、収入の多い人が繰り下げをしても思ったほどは年金が増えないというケースもあります。
繰り下げできる年金の条件を確認しておこう
夫婦2人でなら何とか生活ができても、配偶者の死亡でシングルになれば急に生活が厳しくなることも考えられます。女性は長生きなので、自分自身の年金を増額しておくことはこれから有効な選択肢だといえるでしょう。年金の繰り下げについて条件を確認しておくことをおすすめします。
年金の繰り下げは、長生きをしてこそその効果を発揮します。人の寿命は予知できませんが、せっかく繰り下げたのに受給開始後すぐに亡くなってしまった場合には、年金の受給総額が繰り下げしなかった場合より少なかったという可能性があります。
繰り下げの制度をよく理解するとともに、繰り下げない場合も含め繰り下げ受給のパターンを複数設定する、何か月繰り下げるのかなど、健康状態を踏まえ慎重に判断するようにしましょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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