25/02/25
「標準報酬月額上限65万円→75万円」手取りはいくら減る?年金はいくら増える?

2024年7月に5年に一度の公的年金制度の財政検証結果が公表され、2025年中には、年金法の改正が予定されています。今回の年金法改正では、厚生年金の標準報酬月額上限額の改定ルールにより、新たな等級が追加され、標準報酬月額上限が引き上げられることが目玉のひとつとなっています。では、標準報酬月額上限が引き上げられると、どのような影響があるのでしょうか。今回は、具体的な試算をもとに、その影響を詳しく解説します。
そもそも「標準報酬月額」とは?
標準報酬月額とは、社会保険料や年金額を計算する際の基準となる金額です。標準報酬月額は、給与額に応じて等級が区分されています。そして、健康保険料や厚生年金保険料はこの標準報酬月額をもとに算出されます。
現在の厚生年金の標準報酬月額の最高等級は32等級の65万円ですが、これが近い将来35等級まで広がり75万円へ引き上げられる見込みとなっています。
<厚生年金の標準報酬月額が引き上げに>

筆者作成
厚生年金の標準報酬月額上限額が引き上げられるのはなぜ?
厚生年金の標準報酬月額上限額が引き上げられるのはなぜでしょうか。
従来より、標準報酬月額の上限の考え方は、将来の年金受給額の差があまり大きくならないようにするという観点から、被保険者全体の平均標準報酬月額の概ね2倍となるように設定するよう法律で定められています。具体的には、各年度末時点において、全被保険者の平均標準報酬月額2倍に相当する額が標準報酬月額の上限を上回り、その状態が継続すると認められる場合には、政令により上限の上に等級を追加できることになっています。
今回、このルールに該当したため、厚生年金の標準報酬月額の上限設定を現行の65万円から75万円へ引き上げることが検討されているのです。上の表の「報酬月額」は毎月の給与や手当の合計額で、それが66万5000円以上〜77万円未満の人が対象となるのですから、標準報酬月額の引き上げの影響を受ける人は、一部の高所得者に限られます。
標準報酬月額の上限額引き上げによる3つの影響
標準報酬月額上限額が引き上げられることによる影響は以下の3つが考えられます。具体的にみていきましょう。
●影響①:社会保険料の負担増
標準報酬月額の上限が65万円から75万円に引き上げられた場合、社会保険料の負担増により手取り収入が減少します。具体的にどのくらい減るのかを計算してみましょう。
標準報酬月額に基づく令和6年度(2024年度)の厚生年金保険料と、標準報酬月額の上限額が75万円になった場合の厚生年金保険料の負担額を比較すると、次のようになります。
<厚生年金保険料の負担額の比較>

筆者作成
厚生年金保険料の負担率は18.3%ですが、労使折半で本人負担は半分の9.15%になっています。標準報酬月額の上限額が65万円のときは、月給が66万円・69万円・72万円…と上昇しても最上級の32等級ですので、厚生年金保険料の負担額はみな5万9475円です。
一方、標準報酬月額の上限額が75万円になると、新たに33等級〜35等級に該当することにより、厚生年金保険料の負担が増加します。
上記の試算では、毎月の厚生年金保険料負担が約4575円~9150円増加し、年額にすると約5万4900円~10万9800円増加することになります。
●影響②:所得税・住民税の負担減少
社会保険料の増加により課税所得が減るため、所得税と住民税はわずかに減少します。所得税率を年収別に見てみましょう。
<社会保険料控除による節税効果の目安>

筆者作成
住民税(10%)も考慮すると、合計で約16,470円~47,214円程度の節税効果が見込まれます。
●影響③:将来の年金受給額増加
厚生年金の受給額は、加入期間中の平均標準報酬額に基づいて決まります。
例えば、40年間この変更が適用された場合、年金額は以下の式(簡略計算)で計算されます。
・65万円の場合:65万円 × 5.481 / 1000 × 40 = 1,423,572円/年
・75万円の場合:75万円 × 5.481 / 1000 × 40 = 1,641,972円/年
差額は最大で218,400円/年(約18,200円/月)。この分、厚生年金の年金額が増加します。
高所得者は保険料負担ももらえる厚生年金額も増える
以上の試算より、標準報酬月額の上限額引き上げの影響によって高所得者は厚生年金保険料が増え、現役時代の手取りは減ることがわかりました。一方で、老後の年金受給額は増えますので、今回の標準報酬月額の引き上げのメリット・デメリットは人によってさまざまと考えられます。特に高所得者の人は、現役時代の家計への影響と老後の年金額を考える参考にしていただければ幸いです。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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