「回転する質量の重力場」と題した1ページ半にみたないカーの短い論文は、学会誌にすぐに掲載されました。宇宙に存在する天体は、ほとんどが自転しています。自転している天体の厳密解が得られたことは、一般相対性理論研究に現実的な応用の道を開くことになりました。
カーの得た解は、ブラックホールの1つであることが、1年後にカーターによって明らかにされました。事象の地平面は2つあり、遠方から観測すると、外側の事象の地平面がブラックホールの境界面になります。また、中心部分にはリング状の特異点が存在します。自転によって全体の形状は平べったく変形しています(図2‐4)。
のちには、ホーキングやカーター、ロビンソンらによって、回転しているブラックホール解はカー解に限られることが数学的に証明され(ブラックホールの唯一性定理→5‐3節)、カー解の重要性が確固としたものになりました。
カー解が発見されるまでは、「自転の効果を考えれば遠心力がはたらいて、永久に潰れていくようなブラックホール形成は回避できるかもしれない」と期待する研究者もいましたが、その予見は打ち砕かれました。ブラックホールは、数式としても、現実の宇宙にも確実に存在し、私たちはアインシュタイン方程式がみずから破綻を招く特異点形成をなんとかしなければならないことが確実になったのです。