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2024.12.20
# 歴史

幕末の「踏み絵」の恐ろしい実態…親は子どもに「踏み外さないよう」言い聞かせた

戦乱を生き延びる強かさ

歴史から得られる学びは多くあります。その「歴史」とは、研究や調査により明らかにされている「史実」だけに限りません。誰もが知る偉人たちのほかにも、同じ時代に日々の生活を営んでいた市井の人たちがいます。その人たちの声や語りという形での「歴史」を記した作品から得られるものもまた多くあります。

そのような市井の人々の語りを書き記した作品の1つが、石牟礼道子『西南役伝説』です。

石牟礼道子『西南役伝説』

著者の石牟礼は、1877年に西郷隆盛が新政府にたいして起こした西南戦争について、当時の戦地の様子や暮らしぶりを聞くために、九州中南部の古老たちのもとを訪れます。そこで聞いた話を書き起こし、西南戦争と、その後の日清戦争、日露戦争、世界大戦の世を生きた人々の目から見た社会を描いたのが本作です。

石牟礼は聞き書きをすることで、文化の根っこの育ち方を知りたかったと、初版のあとがきで書いています。人ひとりが現れ、家ができ、村ができ、町になり、社会ができて人々が仕事をもつようになり、文化が創りあげられていくその過程をなぞってみたかった、そうして書かれたのが『西南役伝説』です。

では、なぜ西南戦争なのか。同じく初版のあとがきで以下のように書いています。

〈目に一丁字もない人間が、この世をどう見ているか、それが大切である。権威も肩書も地位もないただの人間がこの世の仕組みの最初のひとりであるから、と思えた。それを百年分くらい知りたい。それくらいあれば、一人の人間を軸とした家と村と都市と、その時代がわかる手がかりがつくだろう。そういう人間に百年前を思い出してもらうには、西南役が思い出しやすいだろう。始めたときそう思っていた。それは伝説の形であるだろう。〉

本作は、市井の人たちの目から見た歴史を伝えてくれます。

例えば第一章 曳き舟の中では、当時はお金で士族の株を買って成り上がりの侍になった者がいたこと、その者たちの立ち合いでイエス=キリスト(耶蘇)の踏み絵が行われていた様子が語られています。

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