子どもの中学受験で「悪意なき毒親」が誕生してしまう「切なすぎる理由」
特別でなくていい。普通の幸せを手にしてほしい——。
親ならば誰しも我が子に願うことではないだろうか。
しろやぎ秋吾さんの話題作『すべては子どものためだと思ってた』(KADOKAWA)に登場する専業主婦の土井くるみも、そんなささやかな願いを抱きながら子育てに向き合う親のひとりだ。
ある日、地元の公立中学の評判が悪いことを知った彼女は、小学4年生に上がったタイミングで息子・こうたに中学受験をさせることを決意する。
しかし、この選択が“親子の地獄”の始まりだった。
「我が子の幸せのため」というくるみの親心は、次第に狂気へと変わり、こうたを追い詰めていく。
本記事では、親子が中学受験という選択に至った経緯を紹介する。
子どもは子どもらしく
ある晩、くるみは夫のけんじから同僚の子どもの話を聞かされる。スイミング、英会話、プログラミング、そして週2回の塾通い……。さらに、息子のこうたと同じ小学3年生ながら、すでに中学受験の準備も始めているという。
くるみは、夫のけんじもかつて中学受験を経験していることを思い出した。しかし、けんじは「途中で逃げた」と笑う。当時、中学受験をすることになった同級生がひとりいたが、だんだんと性格が暗くなっていってしまい、子どもながらにかわいそうに感じていたという。
だからなのだろう。大人になったけんじは中学受験にいささか否定的だ。
「子どもは子どもらしくさせてやりゃあいいのに、受験に習い事に、なんでもかんでも競争させてかわいそうに。ありのままのその子を愛してやれないもんかね」
一方で、くるみの心の内はすこし違っていた。
——こうたはこうたでいい。でもあの子が生きやすくなるためにできることがあるなら、それができる環境があるなら、させてあげた方がいいじゃないか。こうたが大人になったとき、どうしてあのとき中学受験をさせてくれなかったんだって思わせたらかわいそうじゃないか。そうなってからじゃ遅いんだから。