それどころか、民主党政権になって、今年度の科学技術振興費は27年ぶりに前年割れ。科学技術関係予算も5兆463億円から4兆1770億円に減った。また、政府が全省庁に一律10%の予算カットを命じたことにより、来年度の概算要求ではこれが3兆6360億円にまで減少(地方分を除く)。
もちろん、無駄削減は進めるべきだが、他国が科学技術関係予算を増やすなかにあって、このままでは科学技術立国・日本は2番どころか20番になってしまう可能性が高い。
中国・韓国に研究者が流出
iPS細胞研究で京都大学と並ぶ権威である慶応大学医学部総合医科学研究センターの八代嘉美特別研究助教が語る。
「民主党政権には理系の人が多いので、おカネを切り詰めるだけでなく、複雑な補助金制度を見直してくれるんじゃないかという期待もありました。しかし、実際には予算を切ることばかりで残念です。
たとえば、仕分けで『縮減』という判定を受けた『特別研究員事業』という制度があります。これは博士課程の学生や博士研究員(ポスドク)に補助金を出して、研究に専念してもらうという制度ですが、『政策コンテスト』でも低く評価されてしまった。
この制度が縮減されると研究を続けていけない若手が増えるでしょう。国内にいて食えないなら、海外に行こうという若手も少なくありません」
ポスドクは、大学の正規研究職や教授職というポストが空くまで、研究室で教授たちとともに研究を担う若き研究者たちだ。しかし、大学との正規雇用契約がなく、給与の保証すらない。
そこで日本の将来のため、ポスドクの若者には月額約36万円を補助する。これが「特別研究員事業」の趣旨である。この制度の縮減に際し、ある民間の仕分け人は、仕分け会場でこう断じた。
「たとえば普通に大学を出て、なかなか就職が見つからない人間に生活保護を与えるか、というのと同じ」
これでは、日本で研究を続けていこうという気にはなれないだろう。優秀な若手ほど、海を渡る傾向が強まるのも当然である。
「東大の物理を学んでいる学生が、自分たちで若手研究者数百人にアンケートを行っています。その結果、『今の状況が続けば、日本には先の見通しがないので、海外へ行く』と答えた人が圧倒的でしたね。
その主な流出先は韓国と中国でしょう。スーパーコンピュータの予算が事業仕分けで縮減される話が出た途端、韓国の研究所などから研究者に『高給を保証するから、ウチに来ないか』という誘いがあったという話も聞きました」(前出・山根氏)
現に韓国は'12年までに政府の研究開発投資額を1.5倍('08年比)にする計画を立てているし、中国でも'06年から'20年までの「国家中長期科学技術発展計画」を立て、国家単位で科学技術振興を行っている。
iPS細胞より地デジ優先?
一方、民主党が考えるのはあくまで目先の政権維持のための人気取りだけ。それが象徴的に表れたのが、小惑星探査機「はやぶさ」を巡るエピソードだ。