免許証が見つからない。整理整頓のできない私の場合、物が無くなるのは毎度のことだが、免許証がないのは困る。二日ほど探しまくった。「私の人生から物を探している時間が無くなれば、どんなに余裕のある生活ができるだろう」と呪いながら。しかし、出てこなかったので、しかたなく再発行のため役所に行った。
受付で尋ねると、すぐにどの部屋へ行けばよいのか教えてくれた。そして、そこで番号札を引いて待っていると、たちまち順番が来た。無くなった免許証のコピー(ドイツでは更新が無いので30年以上も前の物)を持っていたので、それを出すと、係の女性がキーボードを叩き、ものの30秒もしないうちに私のデータをすべて洗い出した。現住所も、現在の名前も言う必要がなかった。
コンピューターの計算能力と、ドイツ人の整理整頓能力が束になるともの凄い威力を発揮するものだと感心し、同時に少し動揺した。ドイツ国民は国勢調査のたびに、個人情報の侵害だと大騒ぎするが、国民の情報は、すでに私たちの思っているよりずっと筒抜けなのではないか(日本で話題になっている総背番号制もしかり?)。
ドイツ人の整理整頓能力は半端ではない
ドイツの秩序というのは有名だ。今でも彼らの価値観は、「整然としていること」と「規則を守ること」に尽きるといっても過言ではない。なのに、なぜかロマンチックで、その不思議は、ベートーヴェンの音楽を聴くとよくわかる。
いずれにしても、彼らの整理整頓能力は半端ではない。だからドイツ人が、他の国の人間は、皆自分たちよりだらしないと思っていても無理はない。ドイツの事務所を見慣れた私が日本の職場を見ると、その雑然とした様子に仰天する。こんな混沌とした場所で仕事ができるはずがない、と目を疑う。それほど、ドイツの事務所は整然としている。
あらゆる書類はちゃんとファイルに分類され、ぴたりと棚に並んでいる。彼らがその「整然」を愛しているということもあるが、おそらくこれは、こうしておけば仕事の効率が上がるという理由で始まった習慣が、子々孫々受け継がれてきたものだと思う。また、今となっては、休暇の多いドイツのこと、これだけわかりやすく整頓されていれば、休暇で人がいなくなっても代行業務が滞らないというメリットは大きい。
家庭内でも、あらゆる書類が分類され、ファイルがきっちりと並んでいるところは同じだ。家の中はインテリアの本に出てくるように美しく整えられ、彼らはスーパーに行く前に、すでに、自分が何を持って家に帰ってくるかをちゃんと知っている。寝室で箪笥の引き出しを開ければ、すべての衣料品が畳まれ、レンガのようにかっちりと並んでいる。しかも、驚くべきことに、下着も布巾もすべてアイロンがかけてある。