この事態を受け、オバマ大統領は10月30日、シリアへの地上部隊派兵を余儀なくされた。「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(地上部隊派遣)を否定してきたオバマ政権にとって大きな政策転換である。
現時点での作戦は、特殊部隊約50人をシリア北部に送り込んでクルド人反政府勢力を支援し、ISの「首都」ラッカ奪還作戦を進めるに止まっているようだ。
しかし、米国は特殊部隊の増員や独自の急襲作戦実施の可能性を排除しておらず、「将来は予言できない」(アーネスト大統領報道官)。パリ同時多発テロを受け、米国内ではすでにシリアでの地上作戦の強化を求める声も出ており、米国がずるずると地上戦を拡大していく可能性も出てきた。
米国はロシア参戦を受け、急遽、シリアに隣接するトルコに空対空の戦闘能力しか持たないF15戦闘機などを配備した。対ISでは不要の兵器であり、明らかにロシアの軍事行動をにらんだものだ。
冷戦時代を彷彿とさせる、米露がシリア内戦で間接的に対峙する構図が生まれ、ロシアのラブロフ外相からは「米国もロシアも代理戦争へエスカレートすることを望んでいないはずだ」と牽制する発言も飛び出した。
シリアでは、各勢力が入り乱れて敵と味方の区別も容易ではなく、偶発的な衝突への懸念が増す中、アサド大統領の処遇などをめぐり、オバマ大統領とプーチン大統領のどちらが最初に譲歩するかという「チキン・ゲーム」が進んでいるのである。
プーチンの戦略的思考
それでは、プーチン大統領がアサド政権支援に強くコミットする狙いは何なのだろうか。
シリア西部タルトゥースにある地中海に面したロシア唯一の海軍基地を維持することだとはよく指摘されるが、彼にはより深い戦略的思考があるようだ。
米ブルキングス研究所のフィオナ・ヒル氏によると、プーチン氏は、シリア情勢をチェチェンやアフガニスタンなど過去数十年に渡って繰り返されるイスラム教スンニ派過激主義と世俗国家の紛争の歴史の一つのケースでしかないと捉え、シーア派系のアサド政権をその対抗バランスとして支えているのだと分析している。
カダフィ後のリビアがまさにテロ輸出の温床となっているように、プーチン氏は米国が仮にアサド政権を追放してもシリアを安定させることはできず、グローバル・ジハードの新たな温床となり、ロシアへもその影響が及ぶことを警戒しているのだという。