これほど問題が解けない舞台は初めて(勘九郎)
コロナ禍で、コミュニケーションの手段は大きく変化を遂げた。中でもとくに変わったのは、人と面と向かって話す“会合”のあり方ではないだろうか。リモートでの会議や打ち合わせなどが一般的となり、直接対面しなくても、意思の疎通を図るための選択肢は格段に増えた。お客さんの目の前にしてこそ成立する舞台芸術さえも、VR(ヴァーチャル・リアリティ)テクノロジーで、人間の知覚の延長にある身体的現実を拡張し始めている。現在、東京建物Brillia Hallで上演中の「スペクタクルリーディング バイオーム」は、朗読劇としてスタートしながら、五感で体験していくことのできる進化型演劇である。
それまで、とりわけ舞台を主戦場にして、自らの肉体をフルに使った表現を追求してきた中村勘九郎さんと花總まりさんに舞台についての話を聞くと、開幕を2週間後に控え、まさに“産みの苦しみ”を味わっていることがうかがえた。
――「バイオーム」は、勘九郎さん演じる男の子とその家族を取り巻く人々の物語でありながら、俳優がそれぞれ、人間以外に植物や精霊なども演じるという、現実とファンタジーがクロスオーバーした物語になっています。
勘九郎 いやね、大変なんです本当に(苦笑)。経験したことのないものを、1から皆さんで作っていく作業がこんなにしんどいとは思いませんでした。
花總 これまでの舞台なら、俳優である私たちも、ある程度の完成形がイメージできましたけど、今回は、私たちにも、見えていないものがたくさんあって……。たぶん演出の一色(隆司「精霊の守り人」「麒麟がくる」などを演出)さんが、この先は、うまく導いてくださると思うのですが、今は、まず自分のやるべきことをやることだけで精一杯の状態です。
勘九郎 そうですね。みんな、手探りで作っている感じだと思うのですが、ここまで自分の中に生まれた問題を解いていくのが大変な作品は初めてです。もちろん、お芝居なので、正解というのはないんですが、毎日、宿題が増える一方で(笑)。