意味づけを変えようとする前に、そもそも意味づけしない選択肢を持つ

私の愛しいアップルパイへ

私たちのようなダイハードな夢想家であれば、人は過去の経験によって決定づけられるのではなく、過去に与える意味によって自らの生き方を決定していることはご承知の通りです。

なるほど確かに過去の経験に対する意味づけを変えることには間違いなく強大なパワーがあります。あれだけ酷い拷問を受けた後でもビッグ・ブラザーを愛せるようになるのですから、可能性は無限大です。

しかし、そもそも意味づけをしないことはもっと大きなパワーが秘められているかもしれません。

意味づけを変えるパワー

過去の経験に対する意味づけを変えることは人生を変えるほどの大きなパワーがあるのは間違いないでしょう。 私自身、過去のトラウマをギフトだと感じられるようになって人生が一変した経験があります。

このことは多くのメソッドや事例、書籍でも取り上げられています。

例えば、アドラー心理学の入門書として知られる名著「嫌われる勇気」では、アドラー心理学を紐解きながら過去の経験に対する意味づけを自覚し、それを自らの意志で変えていくとの素晴らしい力が描かれています。1

人間のエネルギーを最大化することについて語った名著「メンタル・タフネス 成功と幸せのための4つのエネルギー管理術メンタル・タフネス」では、精神のエネルギーを活用して現実の捉え方を変えることで人生を根底から変革する偉大な力について説かれています。

本書では、9.11アメリカ同時多発テロの被害を受けた金融会社カンター・フィッツジェラルドの社員たちが悲劇を機会と捉えることによって、ポジティブな行動へと突き動かす強力な推進力へ転換した素晴らしい例が掲載されています。2

かの夢見るリアリストたちの永遠のバイブルであるスティーブン・R・コヴィー博士の「7つの習慣」でも、第一・第二の習慣で精神の変革が説かれ、それから行動へと移す第三の習慣が説かれる構成になっています。3

意味づけを変えるのはコスパが悪いかもしれない

しかし、なんでもかんでも意味づけを変えることで対応しようとするのは得策ではないかもしれません。

意味づけを変えるのは大変なことです。望ましい意味づけを見出すだけでなく、それと一体になるまで自分の中に浸透させ、維持するには多大な努力を要します。

意味づけは良くも悪くも重荷になるということです。

それだけでなく、意味づけを変えるのは精神や心に属するものであり、目で見たり測定できるものではないため、問題はさらにややこしくなります。

大抵の場合、はじめは古い意味づけと新しい意味づけの間の迷宮で狼狽することになります。それを乗り越えるのは一苦労だし、うまくいくとも限りません。なにしろ、うまくいったかどうか判断することが難しいのですから。

新しい意味づけがしっかりと根を張ったと思ったら、ふとした拍子で古い意味づけがまだ自分を支配していたことに気づくこともしばしばあるものです。

どんな些細なことであれ、意味づけを変えるのは似たようなプロセスを経ます。対象が些細なことなら、このような努力を要して意味づけを変えようとするのは、コスパが悪いかもしれないってことです。

意味づけを変えようとする前に、そもそも意味づけしない選択肢を持つ

アリアドネの糸はあるのでしょうか?はい、あります。そのために今日私は馳せ参じたのです。

対象がなんであれ、問題が起こったときの対処法には大きく2つのアプローチがあります。1つは原因を取り除くことで、もう1つは症状に対処することです。

意味づけを変えることは、前者にあたる原因を取り除こうとする行為に他なりません。なぜそれが起こったのか?なぜそのような受難を私は経験しなければならなかったのか?と。

それとは別の切り口として、後者の症状に対処する切り口もあります。それは、意味づけに気づき、意味づけがポジティブなものであれネガティブなものであれ、その行為自体を手放すことです。なぜ私は今この経験に特別な意味をわざわざ与えようとしているのか?と。

つまり、意味づけを変えようと多大な労力を投資する前に、そもそも意味づけしないというオプションを持っておくことです。意味づけという原因に切り込むのではなく、意味づけしようとしている状態とその症状に切り込むわけです。

この方法でも、意味づけを変えるのと同様に、意味づけに振り回されなくなる結果を得られます。それだけでなく、意味づけを変える努力をするよりずっと身軽になれるでしょう。

私はこの方法の大切さをマーティン・セリグマン博士の「LearnedOptimism」を学ぶ中で強く意識するようになりました。

転んで膝を擦りむいたら、「なぜいつも通り歩いていたはずなのに転んでしまったのか?」と考えるよりも、まず怪我に消毒をしたり絆創膏を貼ったりする方がずっと役に立ちます。

精神や心についても同じことがいえます。問題となる意味づけに気づいたら、原因を特定して深掘りするよりも前に、もっとシンプルにその痛みを取り除くこともできます

具体的には、気をそらすか思い込みに反論することです。

マーティン・セリグマン博士の「LearnedOptimism」では、ABCDEモデルという自分の思い込みに反論し、意味づけを取り除くための有用なメソッドが紹介されています。意味づけが単なる思い込みであり一種の妄想に過ぎないことを、自身との対話で気づけるようになるメソッドです。

興味があれば以下の書籍を手に取ってみてください。

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貴下の従順なる下僕 松崎より

参考文献

  1. 岸見 一郎 and 古賀 史健, “嫌われる勇気,” ダイヤモンド社, Dec. 12, 2013. 
  2. ジム・レーヤー and トニー・シュワルツ, 成功と幸せのための4つのエネルギー管理術―メンタル・タフネス. Location 2272/4158 CCCメディアハウス, 2004,
  3. スティーブン・R・コヴィー and フランクリン・コヴィー・ジャパン, “完訳 7つの習慣 人格主義の回復: Powerful Lessons in Personal Change,” キングベアー出版, Aug. 30, 2013.
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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。