鉄道が好きならば、みんなで乗って残そうブルートレイン。
「富士」・「はやぶさ」廃止から2週間が経った。
最後の日とその前日はテレビニュースでかなり大々的に取り上げられていた。「たくさんの見物客が詰めかけて」とか「旅情がある列車」とか「廃止が惜しまれる」とか、送り手にも受け手にも分かり易い切り口がたくさんあったからだろう。
僕も何度か乗ったことはあるし、幼少期に憧れた列車だし、その歴史的文脈も理解しているし、だから寂しさは感じるんだけど、ここ数ヶ月のフィーバーぶりにはかなり違和感を抱いていた。
一言で語るなら、「そんなに大切な列車なら、なんでみんな乗れへんねん」ということだ。
ブルートレイン、なんとかできないのか……という気持ちは少なからずマニアなら持っている。
九州方面なら需要はあるはず、「カシオペア」みたいに高級化路線なら客は取れたはず、JR海と西がやる気になれば何とかなったはず、国鉄民営化の時に分割していなければこんなことにはならなかったはず
……と、いろいろ考えてはみるが、これがダメであれが難しくて……と"できない理由"の方が先に頭に浮かんでしまう。「やればできたはず」という主旨の意見については、志望校に受からなかったときの言い訳みたいで、ちょっと苦手なんです。
この類の話は、1年半前に、「寝台特急が生き残る方法を淡々と考えてみる - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で取り上げている。
- スピードが遅くてビジネスや観光のニーズに合わない
- 夜行バスや飛行機と比べると料金が高すぎる
- 設備と車両が老朽化している
- JRにやる気がないs
と問題を指摘した上で、
- スピードをアップすればいい
- 値段を安くすればいい
- 新しい車両を導入すればいい
- JRがやる気を持てばいい
と処方箋を示し、それがいかに難しいのかということを黙々と書いてみた。
上のエントリーで書いた最後の妄想とかは照れ隠しであり、本気でそう思っているのではないというのは懸命な読者なら理解していただけたと思う。
日常、ブルトレってガラガラなんです。JRがんばれとは言いにくいぐらいに……
「これも時代の流れか…… - 一本足の蛸」は「どの程度列車に投資すればどの程度の収益が見込まれるのかということについての背景情報がないことには何とも判断できない」と指摘している。
昔、80年代に国鉄の営業部門のトップにいた須田寛が「鉄道ジャーナル」誌で特急は乗車率70%ぐらいがちょうど良くて、80%を超えると満席が常態化、60%を割ると採算が取れない……という主旨のコメントをしていたと記憶している。飛行機の搭乗率を巡る記事はよく見かけるけど、やはり6割前後になってくると廃止するのどうのという議論になってくると思う。搭乗率維持に過疎空港を抱える自治体が助成金をぶち込むとかいうのもよく聞く話。
豪華列車である「カシオペア」や「トワイライトエクスプレス」が採算取れているなら、週3〜4日運転でなく毎日運転するよな。90年代初頭、JR西はその色気もあったけど実施しなかったのは、パイを倍増しても利用者の伸びが飛躍的に伸びると言うことは考えにくい。24系や14系がそろそろ寿命が尽きそうなら、新車も必要。それにはどれだけの投資が必要なんだろうか。ランニングコストも昼間特急ほど安くはない。躊躇してしまう気持ちは分からないでもない。
僕は比較的平日の夜にブルートレインに乗る機会が多かったのだが、たとえば「銀河」で乗客9人というのに遭遇したことがある。1両で9人ではない。6両で9人しかいなかった。乗車率もヒト桁だ。
関西発ブルトレも上段まで埋まっていると、今日はよく乗っているなあと感じた。九州ブルトレって、人身事故なんがあったりするとすぐに運転打ちきりになったりする。なんで、ネットの新聞サイトを見ていると、その乗客数がよく公表されるのだけど、いつも散々たる数字だと記憶している。
そこらの認識を持っているかいないかというも、夜行列車廃止を巡る論議が空転する原因なんだと思う。「ムーンライトながら」のオフシーズンでの散々たる様子については「「ムーンライトながら」廃止か。オフピークには1両にヒト桁程度しか客は乗ってないからねえ…… - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書いた。
ちなみに、昨年、11月。「富士」「はやぶさ」廃止の報道がされる前に乗っておこうと思い、京都→大分間で「富士」に乗った。大阪発着時、開放式B寝台4両分で25人。乗車率2割台だ。個室も空きが目立っていた。これ、廃止前に乗っておこうという僕を含めた鉄道マニア系の人たちが十数人くらいプラスαで乗っていた上での数字だ。
3月9日の産経新聞は、「昨年12月の廃止発表以来、平均30%だった乗車率は約70%に上昇」と伝える。通年の平均で70%あるならなんとかなるのだろうけど、乗車率30%ではお商売としてはもう終わっている。
JRだけでなく、ビジネスマンもブルートレインを選択する動機がないんです
じゃあ、JR各社が寝台列車を存続させているモチベーションってなんなのか。
それはメイン商品である新幹線の補助手段としての期待があるからだ。
これも前述の「「寝台特急が生き残る方法を淡々と考えてみる - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」」で取り上げたが、「北陸」・「あけぼの」あたりは、上越新幹線や秋田新幹線の東京往復用企画切符の"おまけ"的な性格が強い。「なは」や「あかつき」なんかは国鉄時代からその大阪往復割引切符という新幹線&寝台をセレクトできる切符があって、僕なんかは重宝した。でも、「のぞみ」スピードアップで代替輸送手段を確保する意味合いが薄れた。「銀河」もその側面はある。
寝台列車の利用者というのは、大きく分けて3つに分類される。
- 1.仕事(出張)
- 2.所用(帰省、法事...)
- 3.観光(鉄道旅行趣味、普通の移動手段)
えてして鉄道マニアは「3.観光」の側面を強調する。ブルトレブーム以降は特にそうなんだけど、そうした動きが大きくなるのは、「2.所用」とも重なるお盆や年末年始の前後1週間ほど。80年前後のブルトレブームの時代には遠く及ばないにしても、春休みや夏休み、連休にはそれなりには増えてはいる。でも、その数でなんとかなるというほど甘くはない。
一番問題なのは、「1.仕事」だ。意外と認識されないのがよく分からないのだが、ブルートレインを利用してきた最大の顧客は観光客でも鉄道マニアでもなく、現実、仕事での出張を強いられた人たちだ。
宮脇俊三が「時刻表2万キロ (1978年)」でも当時の状況を紀行の中で触れていたが、ブルトレの転機になったのは1976年だ。財政再建を目指した国鉄が運賃・料金の50%値上げを行い、ブルトレや特急、新幹線など中長距離列車からビジネス客が逃げ出したのだ。ブルトレのメリットだった安さがそれで失われた。
それから30年あまり。まだブルトレがビジネス客にとって必要とされていた時代が終わり、航空運賃の度重なる値下げと増便、新幹線の延伸とスピードアップで、命運は尽きた。
いわゆる団塊の世代、あるいはもう少し上の世代なら、ブルトレを移動の手段として認識してくれていただろう。だが、競争力を失った後の80年代以降にビジネスの現場に出てきた人たちにはそれだけの思い入れはない。仕事の移動というのはかなりパターン化されるモノである。「飛行機&新幹線で前日現地入り→ホテルで宿泊して会議に……」という行動になっている人たちに寝台列車の便利さを説いても受け入れられることはない。
90年代以降、平日のブルトレに乗っていたのは団塊世代とかオッサンばかり。彼らがビジネスの一線から退くのと、ブルトレが消えていく時期が重なったというのも単なる偶然ではないのかもしれない。
なら、どうすればいいのか。
答は簡単。ブルトレを残して欲しいと思っている鉄道マニアたちが、JRがケシカランとかウダウダ言う前に、ブルトレに乗ればいいんです。
たとえば、3月13日に東京と熊本・大分を発車した「富士」・「はやぶさ」の見物客は以下の通り(Googleニュースで検索。リンクは面倒なんで記事見出しだけ書きました)。
3月13日発の下り列車 計10000人
- 東京駅 下り13日18:03 3000人
日経「ブルトレ最後の旅、東京駅に3000人 「富士」「はやぶさ」」
- 多摩川 下り13日18:18 100人
- 横浜駅 下り13日18:30 1500人
- 富士駅 下り13日20:00 300人
読売「さようなら 富士駅で」
- 静岡駅 下り13日20:30 700人
静岡「「富士・はやぶさ」ラストラン 鉄道ファンが別れ」
- 名古屋駅 下り13日22:48 1000人
中日「ブルトレ、君を忘れない 名古屋駅でもファンら別れ惜しむ」
- 京都駅 下り14日0:50 300人
- 大阪駅 下り14日1:38 500人
朝日「ブルトレにお別れ「ニュースをみて飛んできた」 京都駅」
- 新山口駅 下り14日9:21 200人
西日本「「富士」「はやぶさ」 県内各駅見送りの列 ブルトレ最終列車が通過」
- 博多駅 下り14日12:11 200人
読売「ラストラン「富士」「はやぶさ」万感の九州終着」-
熊本駅 下り14日14:07 1000人
毎日「ブルートレイン:「長い間お疲れさま」 「はやぶさ」運行終了」
- 大分駅 下り14日13:00 1200人
3月13日発の上り列車 計5000人
- 熊本駅 上り13日15:37 1000人
読売「「はやぶさ」1000人が見送り」
- 大分駅 上り13日16:43? 1200人
毎日「ブルートレイン:「感謝いっぱい」 富士ラストラン、多くのファンが見送る」
- 広島駅 上り13日23:45 630人
中国「ブルトレ見送りに630人」
- 岡山駅 上り14日2:00 200人
山陽「岡山駅にブルートレイン到着 200人が寝台特急「富士・はやぶさ」見送る」
- 名古屋駅 上り14日6:38 少数
中日「ブルトレ、君を忘れない 名古屋駅でもファンら別れ惜しむ」
- 東京駅 上り14日11:30 2000人
産経「最終ブルトレの雄姿 目に焼き付け 東京駅に2000人出迎え」
こんなに話を単純化するのは申し訳ないんですが……
記事化されただけで約1万5千人。これに、門司や下関、あるいは東海道本線各駅の通過駅、各種撮影地で待ち受けていた人たちを含めると、2万5千人を越えるがラストランを見ていたのだろう。
さて、この人たちが、年に一度、「富士」・「はやぶさ」で1往復すればどうなるのか。
- 富士・はやぶさの平均乗車率30%→定員320人→96人
- ラストランの見物客25000人÷365日=69人
- 1日の乗客96人+69人=165人→乗車率52%
これでもまだ足りないのか。
でも、なんだか最近、鉄道ブームなんだとか世間では言っているらしい。鉄道趣味誌を買い求めるコアな人たちが15万人、フォロアーとなるライトな人たちが30万人いると仮定し、彼らも、年に一度、「富士」・「はやぶさ」で1往復する。
- 30万人÷365日=822人
- 1日の乗客165人+822人=987人→乗車率308%
おお、これは凄すぎる。定員の三倍だ。これだけ客が集まれば、「あさかぜ」も「みずほ」も「さくら」も黄泉の世界から蘇ることができるよ。鉄道好きと自称する人、年に一度、ブルートレインに乗りましょう。それはあなたの義務であり、責任です。
ノルマを果たして、御布施を積んで、乗って残そうブルートレイン。フォーエバー「富士」・「はやぶさ」。
とりあえず、もう少し寝台に乗る機会を増やしてみます。
と、書いていて、むなしくなった。
「廃止」と言う文字がマスコミ→ネットで躍り出すと、みんな急にマルスを叩いてお名残乗車にやってくる。
でも、日常はどうなんだろう。鉄道マニアでもマメに乗車している人たちは決して多くない。僕らの世代でも、上の世代でも、「最近、あまり乗っていないなあ」というセリフばかり。
で、「せめて鉄道好きと自称している人たちが、年に1往復ずつだけでも、JRに御布施するようなつもりで乗車回数を増やしていけば、乗車率向上→存続運動に繋がっていくんじゃない……」と、友人との雑談で思いついた。
計算上は、成り立つ。
でもねえ。そこまでカネとヒマを投じて鉄道趣味に殉ずる人たちがどれだけいるのか。
ここ数年、鉄道ブームだとかなんとか言われている。18きっぷなんかで日帰り旅行を楽しむ人なんかはかなり幅広くなってきているというのは東海道本線の新快速なんか見ていたら実感するんだけど、ブルトレみたいな高額商品の消費には繋がっていないんだよね。80年代と比べると、遠出を好まない人たちが増えてきたのかな。
というか、ローカル線の廃止が緊急課題となっていた国鉄末期、特定地方交通線とされた路線の存続をしようと、足尾線とか信楽線とか漆生線とか各地で、地元の老人会などを動員して乗車人員を増やす運動が見られた。いわゆる「サクラ乗車」だ。それで確かに微妙に利用実績はアップするのだが、用もないのに乗車する、しかもその費用は自治体負担、という裏技が長続きするはずもない。結局、どこも国鉄線としての存続はできなかった。
ビジネス需要として評価されなくなったブルートレイン。一生懸命努力してマニアとか観光客とかが乗ってくれるようになっても、それは週末とか盆暮れ正月の数十日くらいだろう。あとの三百日以上のオフの時期に、はたしてどれくらいの乗車があるのか。
鉄道マニアの期待を集めてきた「サンライズ」にしても、JR西日本株主総会で東海道&山陽新幹線との組み合わせを意図して誕生した旨の説明があったと「鉄道フォーラム」で聞いたことがある。単独では採算は取れていないと。一時期、なかなか切符が取りにくいと言われていこの列車も、ここ数年、それほど好調なんだとは言いにくいとは聞く。昨年、秋、滋賀県内で事故が起きたとの報道があったとき、「乗客約180人にけがはなかった。」と書かれていた。「サンライズ瀬戸・出雲」の定員の6割。11月3日東京発、三連休後の夜行だぜ。かなり寂しい数字だ。
ピーク時にあわせて寝台列車にかかる人材や資源を保持しておくのは不経済な話。「乗って残そうブルートレイン」運動なんて無意味である。
ただ、ブルートレインが本当に好きなら、廃止フィーバーでお祭り的に盛り上がった後も、自分たちのカネで地道に「消費」していくしかない。少なくとも、「70年代後半の「ブルトレブーム」と「富士」・「はやぶさ」の最期 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書いたように、自分の原点は70年代後半のブルートレインブームにあった。自己満足なんだとは分かっているのだけど、理屈では説明できない感情というのもある。
と、自己完結して今回のエントリーはおしまい。
現在生きている定期の夜行列車は以下の通り。
今年は1月に飯山線へ行くのに「きたぐに」に乗った。あと、2回ぐらいは年内に何かに乗ってみたい。ああ、関西〜東京の移動に「北陸」を使うというのもいいなあ。大阪駅19:27に出れば、翌朝の6:19には上野に着くよ。これで今は亡き「銀河」の代替手段になる……とか言い出したら目的と手段とがメタメタになるのだけど、それはまた別な話。