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④丸山泰史氏に聞くエグゼクティブサーチ(全2記事)

困った時に1人採れると「ぜんぜん話が変わるおもしろさ」がある 経営人材の採用コンサルが語る、「盤面をひっくり返す力」

人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、人事の初学者の方に向けて、経営層に特化した社外採用活動「エグゼクティブサーチ」について、エゴンゼンダー社の前東京オフィス代表・丸山泰史氏にお聞きします。後編は、経営人材の「見立て」のポイントや、採用担当者のキャリアについても意見を交わしました。

経営人材の採用のプロに聞く、出会いとつながり方

坪谷邦生氏(以下、坪谷):丸山さんがどうやって経営者と知り合って、「エグゼクティブサーチを頼むよ」となるのか、その入り口とプロセスを聞いてみてもいいですか?

秋山紘樹氏(以下、秋山):僕も聞きたいです(笑)。

丸山泰史氏(以下、丸山):そうですね。やはり私個人もいろんなフェーズをくぐってきた気がします。最初は誰もが駆け出しなので、関係も蓄積もないところで、必死にあちこち営業に行く時代があったんですけど。今の感覚を申し上げると、ちょっとおこがましいかもしれないですが、ウイスキーのマスターブレンダーみたいな感じかもしれないです。

企業と組織のニーズがあった時に、こことここを混ぜるとうまくいきそうだというのが見えて、つなぐとバチンとはまるような感じになっていくんですよ。常にそういう感覚でいると、一つひとつのいろんなリーダーとの出会いが全部そこにつながり得る、非常に興味深い粒々に見えてきて。

今この方とすぐに何かなくても、もしかしたらこの方が事業を成長させたい時に、「リーダーが必要」と言われるかもしれない。逆に、「違うキャリアに行きたい」と言われるかもしれない。どちらでもいいんですけど、そういうところにすごく好奇心が湧いていて。

「この人はどんな人なんだろう? 何がしたいんだろう? どんな人と組むといいんだろう?」というものを常にあちこちで持っておくと、関係が成熟していって、機が熟した時につながってくるんですね。

そういうふうに接していると、いろんなリーダーの方から、自分が仕事を探す時にも人を探す時にも、「とりあえず、丸山さんと関わるといいことありそう」と思ってくださるので。こちらもがんばって考えて、同僚も一緒に巻き込みながら探したりするという感じですかね。

「人の課題」で困ったら、外部人材の採用か人材育成か

丸山:それから、私がクライアントさんのお手伝いをする時は、大きく2つのアプローチがあります。1つは、やりたいことがあるけど人の課題がある時にサーチで採用すること。もう1つは、今いる人をコーチングして育てること。

コーチングや育成はもちろん大事だし効くんですけど、短期的に盤面をひっくり返す力に関しては、やはり採用のほうが明らかに強いんですよね。コーチの人に言うと怒られたりするかもしれませんけど。

秋山:(笑)。

丸山:困った時とかどうしようもない時に1人入ると、ぜんぜん話が変わるおもしろさがすごくあります。それは経営レベルでも本当にそうですね。

坪谷:私もいろいろな人事業界の人たちと接している中で、流派があるなと思っているんですが、一番流派の対立が激しいのが採用流派と育成流派だなと思っています。

(一同笑)

坪谷:極端に言うと、採用流派の方々は「人は変わらない」と思っているんですよ。適した人を適したバスに乗せればうまくいくのに、間違えた人を乗せてしまうから、ややこしい管理をしなきゃいけない。それはそもそも採用が間違っているからだという、『ビジョナリー・カンパニー2』の「誰をバスに乗せるか?」が採用流派の代表的な考え方ですね。

一方、育成流派は「人間は必ず可能性があって成長するし伸びる」と信じていて、採ったからにはその人を信じて関わり続けて伸ばすし、必ず伸びるのであると。これが研修会社などの育成流派の人たちの主な主張です。

丸山:おもしろいですね。たぶん私はその間でフラフラしていて(笑)。それぞれにいいところがありますけど、やはり決まった時に盤面がひっくり返る気持ち良さはサーチならではですね。

さまざまな手法の効能と限界を知っておく

坪谷:一見、採用流派のような丸山さんが、コーチングという育成の手段を身につけていらっしゃるのはおもしろいですね。

丸山:たぶん、私が根本は人は変われると信じたい派だからなのかもしれないです。ただ、人は変われるけれども変われる範囲は決まっている、というのが私の流派なんですけど。

それから、先ほどの話のように、日本はエグゼクティブの採用や人材マーケット、プールがそんなに発達していないので、サーチで解決できるかというと、そもそもそんなにフィットする人がいないという台所事情もあるんですよね。

サーチをしていると「いい人がいたら採りますけど、そんな人はいません」というところが見えてきたりするので、それなら(コーチングで)ポテンシャルのある中の方を育てたほうがいいという合理性もあると思います。

これもアメリカでのいろいろな研究を見ていてなるほどと思ったんですけど、例えばCEOを社内から上げる場合と外から採る場合について両方のケースがたくさん研究されています。

そこで言われることは、通常時であれば社内のほうがいいと。社外採用はやはりリスクも大きいし、パフォーマンスが下がるというのはよく言われています。やはりそういったマクロ観点から言うと、育成自体にすごく価値があるとも言えると思うんですよね。そういう合理性もありつつ、私はそっち(コーチング)をやっている気がします。

坪谷:(笑)。私も効能と限界を知ることが大事だと思います。採用だけでなく育成する手段をちゃんと持っておくこともとても大切ですよね。

経営人材の「見立て」のポイント

秋山:経営陣の持つビジョンや価値観を深く理解し、そこにシンクロしていくことが重要だというお話、非常に納得できます。一方で、候補者の方についても同様の深い理解があってこそ、良いマッチングができるのかなと思っています。

ただ、実際はそううまくいかないものがけっこう多いんじゃないのかなという気がしていて。候補者の方々が企業が求める要件に本当に合致しているか、その見極めのポイントについて、ご経験からアドバイスをいただけますでしょうか。

丸山:それで言うと、常に正確な見立てができているわけではなくて、うまくいかないこともあるので、常に反省と学びを繰り返しているというのが正直なところです。とはいえ、新たにご縁をいただいた方を紹介していくことも当然あります。そういう時は、よく言われる話ですが、まずは当然スキルや知識など、形式的に求められるものがフィットするかどうかを見ます。

あとは、やはりその方に直接お会いして、いろいろな質問をする中で、深いところの意識やパーソナリティをビビビッと感じるというところはすごく意識しますね。

エゴンゼンダーではサーチもしますけど、多能工モデルで、同じコンサルタントが社内の方のアセスメントインタビューもするので、たくさんの方の人生を掘り下げてうかがうトレーニングをすごく受けるんですね。

ご本人の意向を尊重しながらも、伺える範囲でその方の生い立ちや限界点などもお聞きします。そこで出てくるエピソードだけじゃなくて、経験の語り口や私への説明の仕方、こちらが出した問いにどう反応するかといった、いろいろなレイヤーの中でその方の情報をたくさん取っています。

その中で、ハードファクトもそうですが、その方の人となりが見えてくると、クライアントの方をよく知っていれば、かみ合うかどうかも何となく想像がついてきますね。逆に言うと、そこがある程度想像がつくぐらいまで見立てないと、ちょっと怖くて紹介できない感じかもしれないです。

このとおりに採用すればうまくいくという基準はない

秋山:なるほど。おそらく同じ情報を1つ取ったとしても、それをどの観点から分析したり見立てるのかという観点がものすごくおありなんだなと思いました。

丸山:そうかもしれませんね。別にマストではないんですけれども、例えば子どもの頃に対人関係で苦労した経験があると、感受性が磨かれたり。私自身はセンシティビリティが高すぎて苦労した面もあるんですけど、そういうことも武器にして使っていくと、今の仕事にけっこう活きている感じもしますね。

秋山:なるほど。

坪谷:秋山さんとこれまで『採用入門』を書いてきた中で「採用基準」について議論してきたのですが、「この基準のとおりに採っていったらうまくいく」……そんなものはないという感覚をもっています。今の丸山さんのお話は、その大きなヒントのように思いました。

「鍵と鍵穴」というキーワードが浮かびました。丸山さんはそもそも、企業側の経営者の方や人事担当者の方など、その企業にいらっしゃる方々の特性や求めていることや人となりをご存じですよね。

社長が何を求めているかを知っている上で、候補の方の人となりがどう合うかという、両方の凹凸を知っているから、かみ合う瞬間があるのかなと思いました。

それを「採用基準」にしてしまうと、やはりコミュニケーション能力が高いとか、知的能力が63以上というふうに、鍵と鍵穴の関係性で物事を見なくなってしまう。どうしても相手だけに求める行動になってしまうんですね。丸山さんはこの感覚をつかんでいるから、キメの細かいマッチングができるのかなと思いました。

既存組織や経営陣もポジティブ進化するような「採用」が理想形

丸山:なるほどですね。言われてみると、鍵と鍵穴という感覚はビビビッと来るところがありました。同時に思うのは、とはいえ、きれいに鍵と鍵穴がはまるケースはほとんどないということなんですね。

例えば企業側が鍵穴だとすると、鍵穴の「あそび」の理解とか、そこをどう動かすかという理解も本当はあるといいんです。完璧なマッチングなんてないので、だいたいはまらないんですよ。

坪谷:確かに(笑)。

丸山:やっぱり「受け止め側もここはわかっておいてね。ここはちょっと変わってね」というところがあるんですよ。そこはあまりにギャップが大きいとはまらないので、この人はここがずれているけどこのぐらいだったら通るし、むしろこの人を通すことで社長側にも成長してもらいたいと。

そういうアジェンダをセットしてうまくはめていくような感じですね。こんなにきれいにはいかないですけど、やりたいのはそういうことだなと思いながら日々やっています。

これはそれこそ、坪谷さんご出身のリクルートがIndeedを買って、Indeed流を学んで進化したのと似ている気がします。一番インパクトがある採用は、その人が機能するだけじゃなくて、その人が入ることによって既存組織や経営陣側も、何かを学んでポジティブ進化すると格好いいじゃないですか。そういうことは理想形としてあるかもしれないですね。

坪谷:まさにそうですね。リクルートの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」そのものだと。

丸山:そうです。

採用の醍醐味は、「盤面をひっくり返す」ほどの変革の可能性

秋山:先ほどおっしゃっていたように、人事部門、特に採用担当の方々は外部の人材との接点が最も多い立場にありますよね。採用の醍醐味は、適切な人材をお迎えすることで組織に大きな変革をもたらせる可能性を秘めているところにあると思います。「盤面をひっくり返す」ですよね。

もちろん直接的な事業貢献ではないですが、人材を通じて組織の成長や変革に寄与できるという点で、非常に意義深い役割だと日々実感しています。

丸山:おっしゃるとおりだと思います。片や会社によっては、すごくそこにプレッシャーがかかって、外から何人採らなきゃいけないというめちゃくちゃ厳しいKPIがセットされているというお話も聞くので、(盤面をひっくり返すのは)そんなに簡単じゃないと思うんですけど。

人という、極めて興味深く複雑で奥行き深いものを扱う仕事なので、楽しみ方は無限にあるよねというのは、私も肝に銘じながら思っていますね。

坪谷:ティール組織で有名になった意識の発達段階モデルで考えたくなりました。レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、そしてティールというフェーズがあります。

「何人採らないといけない」というのはオレンジの合理的な意識です。一方で「これとこれをくっつけたりブレンドするとこういうものが生まれる」という丸山さんのお話は、ティールの統合的段階だと思うのです。

「合理的に達成する」というオレンジの意識レベルだけで仕事をしていると、なかなか味わえない感覚かもしれません。しかしそのオレンジをやりきった先に、こんなおもしろい世界が待っていることを伝えたいと思いました。

採用担当者のキャリアの「その先」は?

坪谷:そう考えていくと、キャリアの展望の話にもなりますね。採用担当者のキャリアってけっこう限りがあると思われています。1社で採用担当者としてそれなりに活躍したとしても、「その先どうする?」と言われた時に、人事企画や労務といった道しか見えなかったり。

運良く採用マネージャーのポジションがあったとしても、その先で人事部長をやろうと思ったら採用経験だけではできないんですよね。キャリアの選択肢がどうなるかが読めなくて悩んでいる採用担当者さんが、とても多いと思うのです。

でも、丸山さんのように、いろいろなリーダーたちに会いながら、「この話だったらこの方が合うな」と統合的に考えて結びつけていく姿は、ロールモデルとして非常に魅力的に映るだろうなと思ったんですね。いきなり丸山さんのようにはなれないとしても、そこに近づく道があり得ると思うと希望が持てる。

丸山:そのお話は、私にもすごく響くところがありますし、ちょっとつながるなと思うところがありまして。もともとエゴンゼンダーはサーチしかやっていなかった会社なんですね。

でも、私はむしろコーチングなどもけっこうたくさんやっているんです。それは、私が何もないところで無理やり始めたというよりは、実はもともとサーチとコーチングがすごく近い営みだったからこそ成立している気がしていてですね。

サーチで採用するところには、かかわるリーダーのアイデンティティシフトもあるし、考え方を変えて学んでいくことも含めて、コーチングなどとすごく相性がいいなと思っています。

採用という仕事から派生するキャリアとスキル

丸山:採用担当の方もまさに同じだと思います。採用のいろいろなプロセスにまつわるものはある意味、個人の人生の中の非常に濃いターニングポイントの伴走であり、企業サイドで見ると事業転換の非常に大きなターニングポイントですよね。

そういう繊細なところを手伝えることの学びも大きいし、実はすごいことをやっているので、そこから派生するキャリアやスキルの拡張の可能性はすごく開けているんじゃないかなと、あらためて感じました。

採用活動の中でその会社を背負っていろいろな方と接点を持てることは、ある意味すごくポテンシャルの大きな営みですし、いい仕事だなとつくづく思いますよね(笑)。

さらに言うと、いろんな方の転職のお手伝いやライフリフレクション、アイデンティティシフトのお手伝いをしていくことで、やはり都度自分のことを内省するようになります。「自分ってどう生きたいんだっけ?」ということを考えるきっかけもすごくいただけますし、自分にもすごくいいことがある気がしています(笑)。

坪谷:確かに。今回は、「エグゼクティブサーチとは何か?」ということを知らない採用の初学者の方に、手法を伝えることを目的に始めたのですが、採用という仕事の魅力、そして採用担当者のロールモデルという希望をお聞きできたと思います。

秋山:私も今日のお話を通じて、採用という仕事の醍醐味を改めて感じることができました。採用担当者の方々は日々の業務に追われ、なかなか立ち止まって考える余裕もないと思います。でも、一つのマッチングが組織に新しい可能性をもたらし、時には事業の風景さえも変えてしまう、そんな採用の持つ力を実感できたように思います。ありがとうございました。

丸山:こちらこそ、ありがとうございました。

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