いいなあ、この本。ナミダが出るなあ。現代版『逝きし世の面影』だね。
「誠実、正直、謙虚、繊細、平和…。世界32ヶ国の外国人が見た日本はどんな姿をしているのか。風土、文化から国民性まで、"外の眼"を通じて、日本の魅力と美質を再発見できる一冊」そのエッセンスを紹介しよう。
【毛丹青(マオタンチン)中国 作家 一九六二年生まれ 滞在期間十七年】
日本に興味を持ったのは、 北京大学を卒業して中国社会科学院哲学研究所で助手をしてい た頃でした。いろいろ日本の本を読んだけれど、 一番面白かったのが本居宣長の『古事記伝』 。「もののあはれ」というのにすごく魅かれたんです。 それで僕は一九八七年から、宣長が一 生を過ごした松阪に近い三重大学に留学しました。
国費留学だと東京大学になるんだけど、僕は私費留学にしました。 なぜかというと国費だ と一年しか滞在が許されないから。 でも私費では物価が高くてとても生活できないんですよ。 そこで僕は、生活費を稼ぐために、 魚屋でアルバイトを始めました。
鈴鹿山脈にほど近い湯の山温泉に魚屋のおっちゃんが保養所を持っ ていて、そこに寝泊り しながら毎朝三時に起きて名古屋の市場まで車で魚を買い付けに行 きました。そのアルバイトをしている三年間、 僕は日本人と日本語の大きな海の中を必死で泳いでいたんです。 後に 日本語で文章を書くほど僕が日本語の力を持つようになったのは、 この頃の現場での生活があったからだと思います。
・アルバイトしていた魚屋のおっちゃんが面白い人で、 自分は愛知県の田舎の小さな村の出身だけど、「村の顔は寺だ」と言うわけです。自分は、 お寺の息子と仲が良くて親しくさせてもらっているので運が強い、「だからもうかるんや」とも言う。 聖なる部分と俗なる部分がいっしょになったそういう発想は面白いでしょう。 そしておっちゃんの顔がすごくいいんですよ。生き生きして表情が可愛い。 僕の日本文化への入り方が本ばかり読んでいた人より早いのは、 こういう生身の人間との接触が背景にあるからでしょうね。 その後、魚屋のアルバイトをやめて水産関係の商社に移るんですが、 時間に余裕ができたので『歎異抄』と倉田百三の『出家とその弟子』を中国語に翻訳・出版しました。
・日本のお寺の住職は保育園の園長先生をやっていたりしますね。 子どもの両親と話してい る姿を見ると、 聖職者というよりどこにでもいる優しいおじさんみたいな顔をして いる。日本は、お坊さんが生活の中に入り込むことによって、 仏というか南無阿弥陀仏みたいなもの が一人ひとりの人間の中にいるんじゃないか。 日本の素晴らしいところはそこだと思う。
・中国では人が亡くなると町の外に埋葬しに行きます。 北京で有名なのは八宝山ですが、市内からかなり離れていますね。 ところが日本では墓地が街の至る所にある。もっと不思議なのは、お寺の裏に墓地があって、 隣に幼稚園があったりするんです。
黄昏の夕日が墓地に射して、 その美しい光の中で幼稚園の子どもたちが鬼ごっこをして夢 中で遊んでいる、僕はそういう情景を何度も見ました。 死者と生者がむつみあうようなのどかさ。 亡くなった人たちは子どもたちの無邪気に遊ぶ姿を見て幸せだった んじゃないか、そこには死者と生者の会話があったんじゃないか、と思いましたね。 現代の中国ではありえない光景です。子どもの時からそういう体験をすると、 死生観や生命に対する考え方が違ってみえるんじゃないですか。
・日本人について僕は二つのキーワードがあると思います。一つは「 儀式」、もう一つは「職人」です。 僕の知り合いの大学の先生や作家が記者会見を開くとき、 まず最初に「よろしくお願いします」と頭を下げますね。それはいいとして、 会見が終わって出て行くときも歩きながらお辞儀している。あれはいけないと思うのね。 なぜかというと外国人からは敗者のように見えるんですよ。僕は「 こういう習慣は直したほうがいいですよ」と言うんですが、直さないですねえ。
それは日本人の可愛いところでもあるんです。 そういう習慣であり儀式であり、無意識に やっているんですね。儀式を頑固に貫くところや、 無意識に身体が動くところ、手を使って ものづくりするのが得意なところは日本人の職人気質ですよね。
・こういうお洒落な装丁の本を持って、スターバックスでコーヒーを飲みながら、 パソコンをやるのがファッションなんです。若い人を中心に、 日本に対する関心は高いですよ。逆に言うと、 これまで日本の文化や風土、普通の日本人についての情報がほとんどなかったんですね。
・日中関係がぎくしゃくしてるけど、僕は楽観的に見ています。 僕といっしょに日本を旅したり、文章を書いたり、雑誌で報道したり、 テレビで紹介したりする、作家や文化人、マスコミ関係者の仲間が五、六十人はいるでしょう。これからも僕は、 彼らと協力して日本のことを中国に伝えていくつもりです。中国にはそれを求める読者が、 支持者が、たくさんいるんですから。
・最も日本の良いところは、人間の資質だと思います。私は日本に来てから、私の足や、 歩き方について意地悪な言葉を言われたり、失礼な呼ばれ方をされたりしたことは一度もありません。 自分の国ではそうではありませんでした。日本人の正直さ、契約を守ること、時間に正確であること、 それから丁寧で清潔な暮らし方や伝統を守るところ、 勤勉さなどはとても優れた資質だと思います。そして、自分の宗教以外の他の宗教についても敬意を払うところも素晴らしい点です。
・私はイスラム教徒ですが、 同じ宗教で世界を見たことのある人たちと話をする時に、みんなで共通する日本の人たちについての意見があります。それは、 イスラム教国ではない、ノン・ムスリム・カントリーの中で、 良きイスラム教徒として求められる資質を最も備えているのは日本人だと。もちろん生活の習慣は大いに異なりますが、 日本の人たちの持つ良い人 間性は、 私たちが良きイスラム教徒として求められているものと重なるもの です。初めて日本を見た約二十年前とは、 安全さも人間も随分と望ましくない方向へ変わってき てしまい、残念に思っています。 どうかそれらの貴重さを日本の人たちが認識して大切にし て欲しいと願っています。
・洋服も大きいの探すのに苦労するけど、 それは買わなければすむ。でも電車は乗なけりゃならないし うーん それくらいかな、日本にきて困ったことっていえば。 いいところはいっぱいある。レストランがいつでも開いている。 しかも値段が安い。すし、 やきとり、とんかつなんか大好きだから、 それがいつでも食べられるのは本当にうれしい。 納豆はだめだけどね。 日曜日にデパートやスーパーが開いているのもいいな。 ノルウェーの日曜日は店が全部しまっているから。
・日本の町には人がたくさんいる。それもうれしい。 だって寂しくないじゃない。ノルウェーの人口知っていますか。四六〇万人ですよ。 日本と同じくらいの面積にたったそれだけね。 ボクがいま住んでいる横浜市の人口が三六○万だっていうから、 ノルウェーがどんなに寂しいかわかるでしょ。
・「ほら、これなんですよ。 アメリカにいるときの私が恋しくなるのは。日本では、コーヒー 一杯でも王侯貴族のような扱いを受ける」
・食事を終えて廊下に出ると、雨が降り出していた。 ビルの高い通路から見下ろすハチ公広 場前の大きなスクランブル交差点では、 信号が青になると色とりどりの雨傘がひしめいてい た。S夫妻は足を止め、じっと窓から見下ろした。
「私たち、こうするのが大好きなの。 日本のことが一番よくわかるから。雨の日、そしてことに渋谷のように大きな交差点。ほら、 あちこちの方向へ動く傘をよく見てごらんなさい。 ぶつかったり、押し合ったりしないでしょ? バレエの舞台の群舞みたいに、規律正しくゆ ずり合って滑って行く。演出家がいるかのように。 これだけの数の傘が集まれば、こんな光景はよそでは決して見られない」
・「日本は本当に差別のない国だと感じます」 と日本人にとってやや意外な発言をするのは、在日十数年のイラン人である。「これは、 意識の底に必ず人種差別の心を持っている欧米人とは異なるものです」。これに類した発言は、 難民を母にもつベトナム人など多く聞かれた。 自然の美しさについては様々な角度から語られている。 人間の特徴は“正直”“誠実”“謙虚さ”"繊細さ”などの言葉で表現される。 あるパキスタン人はお金の数え方がわからない ので、 乗り物の代金を支払うのに両手を開いてそこから運転手に取っても らうことにした。
「正直な日本の人たちは、 そこから必要な分しか取りませんでした。私にとっては信じられ ないことでした」。 その逆は信じられない私たちはびっくりしてしまう。 ウンターで、 半年前に百五十円多く払いすぎたからと返却されて驚く。
・侘び、寂び、そして「虫の音に対する日本人の感性」 の繊細さ。茶道や剣道に教育レベルの高さ、治安のよさ、時間厳守の電車やバス、 店員などのサービスのよさなど、社会組織のすべてがうまく機能している。 よりよい物を作り出そうとする向上心、伝統的文 化や技術を継承していく国民性。 旧ソ連により第二次大戦中に抑留された日本人たちがウズ ベキスタンの首都タシケントに建てたナヴォイ劇場は、 地震で他の建物は崩壊 しても残っ た という。仕事振りの確かさへの指摘も多い。 寺の石垣の上の看板の標語「感謝して今日もにこにこ働きましょう」に、「これこそ日本!」 と感激した英国人もいる。
・「最も素晴らしいこと、 それは毎日の生活が無事に繰り返されていくこと」とあるインド人は言う。「朝太陽が昇り、一日が始まる。 人々が目覚めて仕事に向かう。 やがて日が沈み人々は仕事を終えて家にもどって休む。 夜が来て月が天に昇る。その繰り返 しが今日も明日も明後日も・・・・・・」。 ただこれだけでもどんなに大切な素晴らしいことか、平和慣れした私たちは忘れていないだろうか。
いいなあ、日本って。あらためて外国人から言われると説得力あるよね。この国をつくった先人とご先祖さまに感謝だね。超オススメです。(^^)