自閉症スペクトラム障害(ASD)がここ数十年で急増している原因を科学者たちが解明しようと取り組む中、環境汚染がその原因のひとつである可能性が高いことが明らかになりました。その環境汚染とは、大気汚染です。
大気汚染は、自閉症を含む多くの神経疾患の主なリスク要因である神経炎症を引き起こす可能性があります。
11月12日にオンライン版『Brain Medicine』誌で発表された総説で、研究者らは、大気汚染の有害性について、発達中の脳は特にリスクが高いと説明しています。妊娠中、母親は大気中の汚染微粒子を吸い込みます。これらの微粒子が母親の血流に流れ込むと、胎児は防御手段がほとんどありません。なぜなら、胎児の血液脳関門は、汚染の影響から身を守るには十分に発達していないからです。
この研究では、大気汚染と自閉症の関連性を示す証拠をたどり、治療と診断の新たな可能性を示唆しています。
研究者はさまざまな汚染微粒子を調査し、PM2.5と呼ばれる微粒子が特に問題であることを発見しました。微粒子は胎盤を通過し、胎児の脳の発達に影響を及ぼします。
また、車の排気ガスに含まれる一酸化窒素に早期にさらされることも問題を引き起こす可能性があるという重要な発見もありました。
この研究の主執筆者であるハイタム・アマル(Haitham Amal)氏は、細胞シグナル伝達と脳障害の分野で国際的に認められた専門家です。昨年、アマル氏と彼のチームは、一酸化窒素と自閉症の病因との関連性を初めて立証した研究者となりました。
これまでの研究では、一酸化窒素への曝露が自閉症につながる可能性が示唆されていました。しかし、アマル氏は、これらは単なる相関関係の研究に過ぎなかったと述べ、自身で初めて立証した人物です。
「私たちは一酸化窒素を生成する酵素を阻害し、行動レベルでの影響を観察しました。これは、一酸化窒素と自閉症の関連性を実験的に示した文献上唯一の研究です」と、アマル氏は本紙に語りました。
これらの発見は、自閉症以外の疾患にも影響を及ぼす可能性があります。アマル氏は、一酸化窒素は複数の神経発達および神経変性疾患に影響を及ぼす分子メカニズムを共有していると述べています。
一酸化窒素について詳しく見る
一酸化窒素は、主に自動車の排気ガスや化石燃料の燃焼によって発生する一般的な大気汚染物質です。この無色の気体を吸い込むことによる有害性は、数十年も前から知られています。
一酸化窒素は、私たちの健康にとっても不可欠なものです。心臓血管、呼吸器、免疫機能のために、体内で一酸化窒素が生成されています。これらの機能をさらに高めたいと願う人々には、一酸化窒素の生成を促すサプリメントや医薬品が利用できます。
「一酸化窒素は、体内だけでなく脳内でも非常に重要な分子です。シナプスや神経細胞の機能やその他のプロセスに関与しています」とアマル氏は言います。
しかし、環境中に存在する一酸化窒素への曝露は、また別の問題です。一酸化窒素は、特に炎症性疾患にかかりやすく、その影響を受けやすいと考えられている人々において、酸化ストレスを引き起こすことが分かっています。
自閉症の原因となる要因として一酸化窒素への曝露を特定するため、アマル氏と彼のチームは、ASDの低機能児、遺伝子組み換えマウスモデル、および体外培養ヒト細胞から採取したサンプルを調べました。このデータは強い関連性を示すものですが、すでに多くの過去の研究結果がこの関連性を指摘しています。妊娠中および幼児期の一酸化窒素およびその派生物である二酸化窒素への曝露は、正常な脳の発達を妨げることは以前から知られていました。
研究者たちは、自閉症の素因を持つ人は一酸化窒素の有害な影響を受けやすい可能性があると指摘しています。アマル氏と彼のチームは、酸化ストレスや一酸化窒素の制御を司る遺伝子に突然変異があると、炎症の影響が大きくなる可能性があると仮定しています。
暴露の制限
一酸化窒素への暴露がリスクであるならば、それを避けるのが理にかなっています。幸い、以前よりも少なくなっています。米国環境保護庁の報告によると、環境中の一酸化窒素は1980年以降大幅に減少しています。
研究者たちは、曝露を減らすことが非遺伝性の自閉症の予防と公衆衛生の改善に重要な役割を果たす可能性があると述べています。しかし、特定の期間における予防が極めて重要です。
「妊娠中および出生後の初期段階におけるこれらの汚染物質への曝露は、神経細胞の移動やミエリン化など、脳の発達に不可欠な期間であるため、自閉症のリスクを著しく高めます」とアマル氏と彼の同僚は書いています。
また、アマル氏は一酸化窒素の生成を抑制する薬剤の開発にも携わっています。動物実験では、一酸化窒素の生成を標的とすることで自閉症に似た症状が逆転することが示されています。また、ヒト幹細胞サンプルを用いたデータでも同様の結果が得られています。
「これは有効な戦略となり得ると考えています」とアマル氏は語りました。
このレビューは、大気汚染が自閉症に影響を及ぼしている可能性があるという考えにさらに説得力を持たせるものですが、アマル氏とそのチームは、科学者たちは調査を行う際に他の交絡因子も検討すべきであると述べています。
「妊娠中の喫煙や受動喫煙などのライフスタイル要因も考慮する必要があります。また、貧困地域では大気汚染が深刻で、これらの要因に対する脆弱性が高く、ASDのリスクも高い傾向にあるため、居住地や社会経済的地位も考慮することが不可欠です」と研究者は記しています。
(翻訳編集 呉安誠)
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