ファンダムをとらえ購買につなげる、アサヒビール
──アサヒビールでは、様々なアーティストとコラボし、ブランディング活動を行っていらっしゃいます。その背景を教えてください。
梶浦:まず、お客様の数を増やすために顧客を創造するという目的が前提にあります。その上で、どこであれば新たな顧客の創造がしやすいかを考えた時に「ファンダム(熱心なファン)」に注目。様々な形でアプローチをしています。
元々当社ではスポーツのファンダムは規模が大きいと考え、以前からスーパードライを心に野球・バスケットボール・ラグビーなどで積極的にアプローチを行ってきました。これらのスポーツは熱狂的なファンの皆さまがいらっしゃり、観戦の際にビールをキーにしてつながっていくことが多いので、お酒とスポーツは非常に相性がいいのです。
音楽も、スポーツと並んでファンの熱狂度が非常に高く、しかも日常に根付いているコンテンツです。ブランドとファンをつないでいくことで、新たな顧客の創造ができると考え、施策を打っています。
──なぜ今、音楽カルチャーを取り入れた活動に力を入れているのでしょうか。
梶浦:機能や種類、差別化ポイントを語るカタログ的な広告は、せっかく音楽を聴いているファンの時間を中断してしまう。しかし、生活者にとって意味のあるストーリーの中に、ブランドが自然と入ってくれば、生活者は興味をもち、手に取ってくださる確率が飛躍的に上がってきます。
また、音楽のカテゴリーでは商品やサービスのデジタル化が特に進んでおり「そこにいるファンの皆さんとつながりやすくなっているのでは」と仮説を立てています。ただ、デジタル化によりファンダムやカルチャーは細分化が進んでいるため、丁寧に文脈を読み解いた上で、そのファンダムに馴染むストーリーを作る必要があります。そうしてファンダムとブランドをつなぐことができれば、新たな顧客の創造も実現できるだろうと考え、試行錯誤しながら現在チャレンジしているところです。
「お酒と音楽」を体験に落とし込む
──音楽とお酒はどういった位置関係にあるとお考えでしょうか。
梶浦:音楽とお酒のカテゴリーはライバルでもあり、友達でもあります。なぜなら、お酒もある種のエンターテインメントだからです。
お酒は「なくてもいいけれど、あると生活が豊かになるよね」という存在で、生活消費財の中でも、極めて嗜好性の高いカテゴリーです。リラックスしたり、気持ちを上げたり、人とつながったりと、お酒と音楽は持っている本質的な機能が極めて近いです。
その一方で、そもそもの用途などが異なるのでバッティングはしません。むしろ視点を変えると、余暇の中で、音楽とお酒が一緒になれるシーンは様々あると考えています。
──具体的に、音楽カルチャーを取り入れたマーケティング事例を伺えますか。
梶浦:昔はライブなども主催していましたが、最近はアーティストやプラットフォーマーと共創する形を取っています。
2023年末には、Spotifyさんと『Spotifyリスナーへ年末のご挨拶・おつかれ生です企画』を行いました。2023年に人気が出たアーティスト3名に参加してもらい、その年を振り返りと「一年間、おつかれ生です。」というメッセージをSpotifyで広告として配信しました。加えて年末にふさわしいオリジナルプレイリストを用意し、ブランドの世界観を伝える施策も実施。手ごたえが非常に良く、ファンの方に喜んでいただいたり、Xでもブランドに関するポジティブな発話が見られたりしました。
次に、当社が期間限定でオープンした没入型「スーパードライ」のコンセプトショップ『SUPER DRY Immersive experience』でも「音楽と一緒に何かできないか」と考え、私たちの広告で音楽をずっと使わせていただいているONE OK ROCKさんとのコラボコーナーを開設。アーティストのサインやコンセプトショップ限定のオリジナルグッズなども販売し、ファンとの交流を深めました。