注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回は、リチウムイオン電池の電極に求められる4つの特性のうち残りの2つ、「機械的強度」と「化学的安定性」について解説する。
本連載第27回では、リチウムイオン電池の電極に求められる4つの特性の概要、続く第28回および第29回では、それら4つの特性の中から「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの特性について注目し、それぞれ解説をしてきました。
おさらいになりますが、リチウムイオン電池の電極に求められる「高エネルギー密度」と「低抵抗」の特性は、電極の構造や製造工程、使用する材料によって大きく影響を受けます。
電池における「容量」と「入出力特性」は、「高エネルギー密度」と「低抵抗」という2つの電極特性と密接に関連しており、いわばトレードオフの関係にあります。電極レベルでの高エネルギー密度化が進むほど、電池としても高エネルギーで高容量な電池に、電極レベルでの低抵抗化が進むほど電池としてもハイパワーで高入出力特性な電池になります。
しかし、電池における「容量」と「入出力特性」はトレードオフになりがちな要素であり、目的の電池性能を得るためには、電極レベルから適切に特性の制御をしていく必要があります。
そこで大切になってくる視点が、何を「減らして」何を「増やす」のか、といったものであり、この「減らすもの」と「増やすもの」のバランスをとることが、電極設計においては極めて重要です。
リチウムイオン電池の電極設計は、構造、製造工程、材料の各要素が互いに影響し合う複雑なプロセスであり、その中で、いかに最適な「減らすもの」と「増やすもの」のバランスを見つけることができるかが、性能向上の鍵となることをご紹介しました。
今回からは、残りの2つの特性である「機械的強度」と「化学的安定性」について、それぞれ解説していきたいと思います。
リチウムイオン電池の電極に求められる「機械的強度」と「化学的安定性」は、電池の性能、特に「充放電サイクル特性」などの長期耐久性、電池の「寿命」といった面に対して、とても大きな影響を与える重要な特性です。
これらの特性はさまざまな観点から説明することができますが、今回は主に電極構造や材料に注目して解説していきます。
あらためてリチウムイオン電池の電極構造と使用材料について振り返ってみます(図1)。
正極、負極ともに、集電体となる金属箔、一般的には正極はアルミニウム箔、負極は銅箔の上に、適切な厚みや密度、多孔度となるように調整された電極合材が形成されています。
電極合材を形成する材料は、電池容量を担う「活物質」、電極抵抗を低減させるために添加する「導電助剤」、各材料の結着を担う高分子材料である「バインダー」の3つに大別されます。
これらの材料の適切な配合比と均一な分散は、電極全体の機械的強度を決定します。
特に影響が大きいのが材料の分散性です。材料の均一な分散は電極にかかる応力を電極全体に均等に分散することにつながるので、局所的な電極構造崩壊の抑制効果が期待できます。
電極の厚みや密度、多孔度といった構造面の特徴は、電極の機械的強度にも直接影響します。
電極厚の観点でいえば、厚すぎる電極は内部応力が増加し、亀裂や剥離のリスクが高まるため、強度と柔軟性のバランスが取れるような適切な厚みにしていく必要があります。
電極の密度や多孔度の観点でいえば、より密度が高く、多孔度は少なく、合材が密に詰まった状態の方が構造安定性は高まり、機械的強度も向上します。しかし、前回まで解説してきたように、電極の多孔度は電池の入出力特性にも大きな影響を与える要素ですので、機械的強度と抵抗、寿命と入出力特性のバランスを考えた調整が必要になってきます。
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