ゾウは来園者の存在で元気になっていた
飼育動物への来園者の影響については、ここ10年間で着実に研究が進んでいます。
特にコロナ禍に報告された幾つかの調査が大きな注目を集めました。
例えば、2020年に豪クイーンズランド州にあるケアンズ水族館では、ロックダウン中に人が来なくなったことで館内の魚たちが次々と「うつ症状」を起こし始めたのです。
また本研究チームによる昨年の調査では、ロックダウン中のイギリスの動物園で、ボノボやチンパンジー、ゴリラを含む霊長類が、来園者がいなくなったことで1日の活動量や食事量が減り、ひとりぼっちで過ごす時間が増えたことが分かっています。
このように来園者は動物たちにとって重要であり、あらゆる種に多様な影響を与えていると考えられるのです。
研究主任でNTUの動物福祉学者であるサマンサ・ウォード(Samantha Ward)氏は「来園者の存在は、動物にとってコントロールできない環境要因であり、それにうまく適応できる種もいれば、逆にストレスになる種もいると予想される」と話します。
そこで研究チームは今回、動物園で飼育されている霊長類以外の250種以上にスポットを当て、来園者の存在がそれぞれの種にどう影響するかを調べました。
具体的には、飼育動物への来園者の作用について調べた105件の先行研究のメタ分析という方法を採っています。
調査された動物の大半は哺乳類(56%)と鳥類(28%)で、残りは両生類、爬虫類、魚類、無脊椎動物です。
来園者の影響の測定には、動物の活動レベル・飼育スペースの使い方・食事量・活動量・休息時間・異常行動・警戒心・社会的行動などを指標としました。
その結果、来園者の存在によって最もポジティブな影響を受けていたのが「ゾウ」でした。
ゾウは来園者の数が多いときほど、ひとりぼっちで過ごす時間が減り、仲間とのコミュニケーションなどの社会的行動が増加していたのです。
さらに来園者の前で行われる公開の食事量も増え、より活動的になっていました。
加えて、同じ場所を何度も歩き回るなどの「繰り返し行動」の数が減っています。
繰り返し行動とは動物が退屈していることを示す行動とされます。
そのため、ゾウは人が来てくれることで元気になり、心身の健康にプラスの影響を受けていると考えられるのです。
ゾウ以外の動物の反応はどうなった?
ゾウ以外にも来園者の存在がプラスに働いている動物たちがいました。
例えばオウムは、来園者が多い日ほどケージの近くに寄ってきて、人前で過ごす時間が増え、仲間との社会的行動も増加させています。
それから肯定的な影響は、ペンギンやジャガー、グリズリー、ホッキョクグマ、チーター、ウシ科のバンテン、リス科のプレーリードッグなどに少なからず見られました。
反対に、来園者の存在が悪影響になっていたのは、主にダチョウやカンガルー、ハリネズミ、キリン、サイなどでした。
これらの動物では来園者が多いほど、活動量や食事量が減り、孤独時間や繰り返し行動が増える傾向があったとのことです。
またこれまでの研究では、もともと森林などの閉鎖的な環境にいた被食者(天敵に狙われる動物)や、人と遭遇しにくい夜行性の被食者ほど、人に対して恐怖心を抱く可能性が高いことが示されています。
それから今回のメタ分析では、上記以外のほとんどの種で、来園者の影響はプラスにもマイナスにも作用しない中立なものであることが確認されました。
HAUの動物学者であるエレン・ウィリアムズ(Ellen Williams)氏は「動物たちが受ける影響は種によって様々であり、それを種ごとに明らかにすることは動物福祉を向上させる上でとても重要です」と述べています。
ゾウやオウムは非常に知能が高く、他の動物に比べて人間とのコミュニケーションにも優れた動物です。
そうした人への慣れもあって、私たちの来園を喜んでくれているのかもしれません。