三菱重工など地産地消に動き出す。世界の潮流、「水素」普及への今
再生可能エネルギーや天然ガスから水素を生成し、地産地消でカーボンゼロを推進する事業が始まっている。海外からアンモニアや液化水素を大量調達するのを最終目的に、国内の再生エネの設置エリアで高効率の水電解装置を利用し、水素を生成する動きが活発化。三菱重工業など国内メーカーは水素キャリア・再生エネ由来水素の地産地消に動き出した。
三菱重工は水素の地産地消に向け、水素専焼発電機を「高砂水素パーク」(兵庫県高砂市)を中核に長崎造船所(長崎市)や日立工場(茨城県日立市)で開発する。出力45万キロワットのガスタービンで30%水素混焼を実証。同4万キロワット級では水素、アンモニア専焼を実証中だ。水素製造設備はアルカリ水電解、PEM(ポリマー電解質膜)電解に加え、AEM(アニオン交換膜)水電解、固体酸化物形電解セル(SOEC)による高温水蒸気熱分解、メタン熱分解によるターコイズ水素の実用化を進める。
SOECは400キロワットのデモ機で2000時間の実証運転に成功。天然ガスの主成分であるメタンを熱分解して生成するターコイズ水素は、液化天然ガス(LNG)のインフラを活用し、26年にメガワット規模での実用化が目標だ。
水素の地産地消では米国ユタ州で「アドバンスト クリーンエナジーストレージプロジェクト」がほぼ完成した。再生エネ由来の電力で水素を製造。地下岩塩洞で5500トンを貯蔵する。三菱重工の同84万キロワットのガスタービン混焼・専焼機で25年からグリーン電気を発電し、カリフォルニア州に送る大規模な水素の地産地消のシステムだ。一方、日本では「水素の地産地消はまず小規模で進む」(田中克則GXセグメント副セグメント長)という。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が設置した福島水素エネルギー研究フィールド(福島県浪江町)では生産する水素をカードルで町に配送。温浴施設の定置型燃料電池に柱上パイプラインで供給するほか、新産業団地など数カ所に水素供給を検討する。
サントリー白州工場(山梨県北杜市)は太陽光発電・小水力由来の電力を利用する水電解装置により水素を年2200トン生成。25年度にも水素ボイラの熱のウイスキー蒸留への活用を始める。
地産地消では水素を再生エネの余剰電力で製造し、液化水素やアンモニアにして貯蔵し供給する。川崎重工業は液化水素で世界初の実用船を29年までに完成させる予定。「マイナス253度Cの液化水素の冷熱を空調に利用するなど価値の高い水素とする」(西村元彦専務執行役員エネルギーソリューション&マリンカンパニープレジデント)。
水素の価格はまだ高いが、整備されたアンモニアのサプライチェーン(供給網)活用は経済性が期待できる。三菱重工はアラブ首長邦連邦(UAE)のアブダビ石油と、ガスタービン向けに天然ガス由来のブルーアンモニア生産の調査を始めた。
米国が天然ガス回帰策を打ち出しているが、世界的に水素が普及するのは間違いない。川崎重工は「液化水素船でのグローバルサプライチェーン構築事業は全くトーンダウンすることなく、着実に進めていく」(西村氏)としている。(おわり。いわき・駒橋徐が担当しました)
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