競輪場の“ヤジ”が大幅に減った「意外な理由」。選手に「どのくらい聞こえるか」を聞いてみた
“野次は鉄火場の華”と言われたのも今や昔。ここ数年、特にコロナ以降は怒号に包まれるレース場はとんと珍しくなってしまった。
筆者が学生時代、初めて公営競技に触れたのは新宿の場外馬券売り場。レースが始まりゴール近くなると、場外売り場のビルが震えるほどのざわめきと野次が飛び交ったことを覚えている。モニター越しに騎手を罵倒するオヤジ、誰にむかって言っているのかわからないが大声で「ふざけんな、バカヤロー!」と絶叫する30代くらいの男性など、まさに鉄火場であった。
しかし、そんな野次も最近はあまり聞かれなくなった。客が上品になったのか、それともネット投票が主流になったために本場に人が来なくなったからなのか……。今回は公営競技と野次について、いろいろな人に話を聞いてみた。
まず、そもそもの話になるのだが、観客の野次や声は選手に聞こえているのだろうか。聞こえているのなら、どう感じているのだろうか。筆者は以前、とあるSG優勝経験もあるボートレーサーに「観客の声はどのくらい聞こえるのか」と聞いたところ、そのレーサーは「むちゃくちゃ聞こえますよ(笑)」と即答した。
「レース場にもよりますが、待機行動中はかなり聞こえます。SGとかG1みたいなお客さんが多いレースだと何を言ってるのかわかんないんですが、断片的には聞こえますね。むしろダイレクトに聞こえるのは一般戦の午前中に乗ったとき。スローに入ると特に聞こえます」
では、そういった野次は気にならないのだろうか。
「慣れですかね。昔は気になることもありましたけど、言われてるなぁ〜くらいな感じですが、さすがに誹謗中傷レベルのことを言われるとイヤですね。あと、プライベートなことに踏み込んだ野次もイヤです。応援されるとやっぱり頑張んなきゃって思いますから、できればプラス思考になれることを言われたい(笑)。一度、とあるレース場で『おい、〇〇(※この選手の名前)、スタート集中しろ!』って名指しで言われて、ビッと気が引き締まってメイチのスタート決めて5コースから捲ったことがあります(笑)」
聞こえてはいるが、それを聞き流す胆力とプラスに捉える気持ちで野次に打ち勝っているということだろうか。とはいえ、「選手には聞こえている」ということは、我々ファンは肝に銘じておいたほうがいいだろう。
公営競技で最も野次が激しいといわれる競輪も、ここ数年は“健全化”が進んでいる。競輪記者歴25年のベテランスポーツ紙記者に話を聞いた。
「私が記者デビューをした2000年前後はまだまだ野次がすごかったですね。よく『昔の野次は愛があった』なんて言いますけど、それは嘘です。スタートラインについた選手に向かって大声でずっと暴言を吐き続けているおじさんとか普通にいましたから。でも、そんな人、今はもうほとんどいませんね」
この記者の考察によると、競輪が健全化した要因は、コロナとガールズケイリンの存在が大きかったという。文字通り鉄火場の華となった彼女たちの存在は、どのような影響を与えたのだろうか。
「コロナで大声出すのが禁止になったことはもちろんですが、客層の若返りと競輪にいなかった人たちの参入でしょうね。ガールズのファンって、ちゃんと応援するんですよ。スタートラインについたら、野次じゃなくて応援しますから。一般的な常識を持ってる人なら、そういう状況下で汚い野次はなかなか言えません。ガールズケイリンが始まったばかりの頃は『サドルになりたいな〜』など、気持ち悪いセクハラを言いまくるおじさんはいましたけど、今はもうだいぶ減ったと思います」
さらに記者は続ける。
「ミッドナイト競輪の存在も大きいと思いますね。ミッドナイト競輪って車券を現場で買えないし7車立てで、一般のレースとは少し異なるレース形態になるんで、既存のおじさんファンはほとんど参入しなかったんです。そこに参入したのが若い動画配信者など。彼らは6番車をメロンと呼び、それまでの競輪の予想とは異なる予想や買い方をして、競輪に興味のなかった人たちをうまく引き込んでいったのです」
そしてミッドナイト競輪から始めた若者たちは、日中開催されるレースにも手を出すようになり、競輪は大きく客層を変えることに成功した。
選手に野次は届いているのか?
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写真はイメージ(以下同)
野次の殿堂、競輪界を変えたガールズケイリン
ミッドナイトの存在も大きい
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター
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