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これぞ日本の歌! 二階堂和美の命が燃えている
二階堂和美 / にじみ 名盤『二階堂和美のアルバム』から5年。多くの人が待望し、その期待を大きく上回る奇跡の一枚『にじみ』が遂に完成しました! 全編に満ち溢れる多幸感。時に鋭く、時に悲しく、時に可笑しく、あらゆる感情を包み込んで、生活と共に歩みだしてくれる。これぞ2011年の日本の音楽。二階堂和美の命が燃えている。いま必要なのは二階堂和美の歌! この先の人生のお供に! 世代を超えて、多くに皆さんに届いてほしいアルバムです!
【Track List】
1. 歌はいらない / 2. 女はつらいよ / 3. 説教節 / 4. あなたと歩くの / 5. PUSH DOWN
6. ネコとアタシの門出のブルース / 7. 麒麟 / 8. 蝉にたくして / 9. 岬 / 10. ウラのさくら
11. Blue Moon / 12. 萌芽恋唄 / 13. とつとつアイラヴユー / 14. いつのまにやら現在でした
15. お別れの時 / 16. めざめの歌 / 17. 足のウラ
歌に潜む不思議
二階堂和美ことニカさんの歌を聞くと、なぜこんなに気持ちが揺さぶられるのかいつも不思議に思う。それはオリジナル楽曲のみのフル・アルバムとしては5年ぶりの新作『にじみ』でもそうだ。
今作を聞いてまず耳を引くのは、昭和歌謡を中心に演歌、ジャズ、(歌謡曲のいちジャンルとしての)ブルース、ミュージカル調と様々な曲調があることだ。そして、ニカさんはどれも当時の歌い方をニカさんなりに消化して歌いこなしている。時にコミカルにも聞こえるが、楽曲のテーマを軽くしてしまうようなことはせず、同時に聞き入ってしまう。とても引出しの多い歌い手だとわかる。本作で聞けるニカさんの歌唱法は、戦後の日本で欧米の音楽を取り入れるにあたって、日本人が聞きやすいように編み出されたものだが、彼女はおそらくこれらを懐古趣味で歌っているわけではない。ニカさんはこれらの歌唱法を日本人の歌い手にとっての型として使っているのではないだろうか。ここで言っている型は、空手などを思い出してもらればわかると思うが、ある動作を洗練させ、形式化したものだ。それと同様に、戦後の専業歌手たちが輸入音楽を日本人の感性に適した形で作り上げた歌い方を、ある表現をするために適した型として使っているのではないだろうか。実際に一部を除けば、歌詞の意味やメロディ・ライン自体もシンプルで親しみやすいものがほとんどだし、アレンジも抑え目で必要以上にムードを出すことはない。しかし、ニカさんの歌唱力によって、シンプルさが逆に武器になっている。今作ではすべての作詞作曲を本人が手がけているが、意識的にせよそうでないにせよ、自身の資質をつかめているのだろう。
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しかし、こうした楽曲をここまで胸を突くものにできるのなぜだろうか。そのことを考えるために、ニカさんのまた違う面に目を向けてみよう。それはボイス・パフォーマーとしての側面だ。直近ではTara Jane O'Neilとの共作『タラとニカ』で聞くことができ、今作「あなたと歩くの」のスキャットにもそうした側面を聞いて取ることができる。ボイス・パフォーマンスとは、特定のメロディや意味のある言葉を用いず、即興的に声を発して演奏することで、ここでは赤ん坊が「あー」とか「だー」とか言葉になっていない言葉を発する行為を、音楽的に高めたようなものだと思ってもらえればいい。つまり、音楽が人に何かを伝達しやすくするために、ある楽曲構造や歌詞などのルールから離れることで、より抽象的な表現が可能になるのだ。これは前段で書いたような型とは逆のことのように見えるかもしれないが、こうした抽象的なレベルの表現力がいい歌い手には必須だと思う。異なる言語の歌に感じ入るという経験を思い出してもらえればわかるだろうし、実際にニカさんが海外で受け入れられやすく、ツアーを行えるのもこの点で優れているからというのは理由のひとつだろう。そして、平均的な歌い手であれば伝えやすくするための音楽的なマナーに従いつつ、いかにこの部分を含ませていくかということで試行錯誤するのだと思うが、どうにもニカさんの歌にそういった感覚はない。彼女にとってはポップスを歌うこともボイス・パフォーマンスをすることもあまり区別がないのではないかと思えるほどだ。言い換えれば、ニカさんは歌というものの捉え方自体がもっと大きいために、専業歌手の日常的で親しみやすい表現とボイス・パフォーマンスの非日常的な表現を区別なく持てているのではないかと思えてしまう。
もし、この考えがある程度的を得ているとすれば、そんなことをこんなにも身近な形でできている歌い手は他にいないだろう。『にじみ』からはいつも聞いているはずの歌に潜む不思議さを感じて止まない。
(Text by 滝沢 時朗)
OTOTOY Kazumi's Archives
INFORMATION
2011年07月17日(日)@タワーレコード梅田NU茶屋町店6Fイベント・スペース
2011年07月17日(日)@梅田ムジカジャポニカ
2011年07月24日(日)@タワーレコード新宿店7Fイベント・スペース
2011年08月14日(日)@NHKみんなの広場 ふれあいホール
PROFILE
二階堂和美
天真爛漫〜自由奔放というイメージから神秘的、叙情的、そして狂気! な雰囲気までも併せ持つシンガー。
これまでに単独作として4枚のアルバムと2枚のミニ・アルバムをリリース。客演も多数。優しくも力強い歌声と幅広い音楽性、素晴らしいセンスと筋のある音楽スタンス、そして、優しく人懐っこい性格が世界各国、日本全国から愛されている。
聴けばわかるし、見れば伝わる。命が燃えているというか、音楽はこうやって人に伝わって行くんだなと心と体が認識するライブは必見。