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2016/09/23 18:27

一時期小説ばっかり書いてたけど、いまは音楽──いとうせいこう『再建設的』をめぐって

いとうせいこう & Tinnie Punx『建設的』は1986年にリリースされた最初期の日本語ラップの楽曲を含んだ作品として名高い。そんなクラシック・アルバムのリリース30周年を記念して、このたび、いとうせいこう & リビルダーズ名義でトリビュート盤『再建設的』がリリース。豪華メンツが参加し、当時の楽曲をカヴァーしている。また日本語ラップの金字塔的作品たる「東京ブロンクス」では、いとうせいこう自らがヤン冨田とともにスリリングにカヴァーしており、間違いなくアルバムのクライマックスと言えるだろう。OTOTOYでは本作を配信開始。またオリジナルの『建設的』もリリース30周年記念に再リリース。こちらも配信開始しています。そして本アルバム・リリースとともに9月30日、10月1日、東京体育館にて「いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会~」が開催。アルバム参加の豪華メンツに加えて、さまざまなアーティスト、DJやお笑い芸人が入り乱れての、まさにいとうせいこうにしか成しえないイベントとなるだろう。

豪華メンバーによる『建設的』トリビュート

いとうせいこう & リビルダーズ / 再建設的
【Track List】
01. スチャダラパー & ロボ宙 / MONEY
02. 高橋幸宏 / なれた手つきでちゃんづけで
03. 大竹まこと with きたろう & 斉木しげる / 俺の背中に火をつけろ!!
04. Sunaga t experience feat. Akiko / 水の子チェリー
05. 田口トモロヲ / アナーキー・イン・ザ・JAP.
06. ユースケ・サンタマリア with KERA & 犬山イヌコ / JOE TALKS
07. 竹中直人 & Sandii / 恋のマラカニアン
08. 真心ブラザーズ / だいじょーぶ
09. RHYMESTER / 噂だけの世紀末
10. レキシ / ザ・プライベート・ソウル・ショー(直弼バージョン)
11. サイプレス上野とロベルト吉野 / マイク一本
12. MCU / BODY BLOW
13. ゴンチチ / 渚のアンラッキーボーイズ
14. 岡村靖幸 / Healthy Morning (Remixed By 岡村靖幸)
15. いとうせいこう & ヤン富田 / スイート・オブ・東京ブロンクス


【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 300円(税込) / アルバム 2,600円(税込)

MP3
単曲 250円(税込) / アルバム 2,400円(税込)


こちらはいまだにフレッシュな30年もの! オリジナル『建設的』

いとうせいこう & TINNIE PUNX / 建設的
【Track List】
01. MONEY
02. なれた手つきでちゃんづけで
03. 俺の背中に火をつけろ!!
04. 水の子チェリー
05. アナーキー・イン・ザ・JAP.
06. JOE TALKS
07. 恋のマラカニアン
08. 東京ブロンクス
09. だいじょーぶ
10. BODY BLOW
11. Healthy Morning
12. LIVE AT Mounkberys TOKYO BRONX
13. 渚のアンラッキーボーイズ


【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC / MP3
単曲 257円(税込) / アルバム 1,851円(税込)

Interview : いとうせいこう

いとうせいこう & Tinnie Punx(藤原ヒロシ、高木完)『建設的』といえば、日本語ラップの最初期の作品として名高いが、実際はヒップホップ以外(ラップ曲は実は2曲のみ)にもさまざまな音楽性を含んでおり、ヴァラエティに富んでいる。まさに当時のさまざまなカルチャーを含んだアルバムだったことがわかる。そして『再建設的』参加メンツもスチャダラパーやライムスターといった、日本語ラップの遺伝子を引き継いだアーティストたちから、ヒップホップだけでなく、さまざまなカルチャーのクロスポイントとして存在していた『建設的』トリビュートらしく、高橋幸宏やKERA、田口トモロヲ、竹中直人やシティーボーイズといった人々が参加。そのラインナップは、『建設的』のアティチュードを正しく継承していると言えるだろう。いとうせいこうは、いま、口ロロやダブフォースへの参加などここ数年音楽活動を活発化させ、そして本作でも日本語ラップ・クラシック「東京ブロンクス」をヤン冨田とともにスリリングにセルフ・トリビュートしている。小説家、テレビ出演などなど、さまざまな活動を行ういとうせいこうの「いま」の音楽活動を中心に話を聞いた。

取材 : 河村祐介

“建設的濃度”の高い人には優先してお願いしてみた

──『再建設的』に関して今回はフォーカスしてお話いただければという感じです。いろいろな方が参加されていますが、人選的な部分でいとうさんはどの程度関わられているんです?

基本的には、僕がどんどん思い出して「ライムスターにやってほしい、スチャもやらないと! あ、ゴンチチにもお願いしよう」という感じで。あとは、もともと〈ポニーキャニオン〉で『建設的』を担当していたディレクターがいまの所属事務所の社長で。だから当時の状況をよく知っていて、たとえばそこで「あのひとにもやってもらった方がいいんじゃんない?」みたいなのもあったから、ふたりで選んでいった感じかな。

──当時の縁がある人、たとえば(高橋)幸宏さんはもともと「なれた手つきでちゃんづけで」を提供していて、それをセルフ・カヴァーするみたいなものなんで必然性はすぐにわかるんですが。

『建設的』に関わって、“建設的濃度”の高い人には優先してお願いしてみるというのはあって。ラップの曲が足りなくなって、そっちは12インチとか『MESS/AGE』の収録曲を含んじゃってる。ラップに関してはそっち方面で話あって決めてくれっていう。

──ああ、ヒップホップ系のアーティストがどの曲をやるかっていう話ですね(笑)。

そうそう。ラップに関しては、そこでどういう手打ちが行われたのかは僕は知らないんだよ、さっきも他の企画でボーズにあったけど、なにも聞いてない(笑)。だけどゴンチチに関しては「渚のアンラッキー・ボーイズ」やってもらいたいとか、竹中直人さんが参加してくれそうだけど……「“恋のマラカニアン”が絶対に合うからやってもらおう! サンディーさんに一緒に歌ってもらって」みたいな指定はしましたね。

──サウンドのオーダーも基本的にはその人にまかせると。

もちろん、そこは完全に好きなようにやってくれって。

“録れちゃった”スリリングな「東京ブロンクス」

──そして、今回、唯一、せいこうさんが「東京ブロンクス」をセルフ・カヴァーした「スイート・オブ・東京ブロンクス」をやっていて。「東京ブロンクス」は、時代的に当時ああいうったディストピア的な世界観を歌うことと、現在、ディストピアを歌うといういのは、それこそ311や政治的状況も含めて違った意味を持ったんじゃないかなとか。とくに後半部はそういったことを想起させるような雰囲気、言葉が溢れていて。

当時は「東京ブロンクス」では、チャンバラに出てくる言葉をラップにしていくというのをやったんだけど、その部分、8小節というか7小節を変えたという部分がまずひとつあって。それは放射能であるとか、金融商品、サブプライム・ローンみたいに危機をあらかじめ小さくしていれておいてしまうみたいな、言ってしまうと、両方とも微量に毒が入っていて、知らない間に回ってしまい駄目になっていうしまうというのが今回付け足した部分で。あとの言葉は、歌っててもとても切実ないまのことだなと。

──現実は反映していると。

いまの東京のイメージって、オリンピックとか言ってるけど、どこもかしこも壊れてしまっているというようなイメージがあって。それは無理しないでも自然に出てきたしまったところではあると思う。ヤン(富田)さんとやったんだけど、あれは、またものすごい数のケーブルがつながれたアナログ・シンセでものすごい音をつけていて。あとは僕の体に電極をつけて、その電気信号でまた音を出していて。そして向こう側にはピアノ、もともとの「東京ブロンクス」で弾いてもらったジャズ・ピアノの高橋誠一さんがいて。それを聴きながら、ポエトリー・リーディングをするという形でセッションしたんです。ヤンさんとはなにも打ち合わせもなくやって。とにかく、ヤンさんとピアニストが音をならしてくるから。僕は読むネタ、みたいなものをいくつか置いて、曲を聴いてとっさに「あのときの詩を入れよう」とか、それこそ『親愛なる』の最後の一部のシーンを「ここは絶対にあってる」って入れたり。

──そのセッションから作っているんですね。

セッション自体は1時間から2時間やったかな。それを1回か2回やったらヤンさんが「もう、これは録れたね」って言われて、それでセッションは終わったわけです。あとはヤンさんにお任せて、できあがったのがコレなんです。全体的な構成としては3部作という感じでできていて、しかもオンエアーできるような感じで、しっかり区切りがついていて。でも、あれは構成があって作ってるわけではないんですよね。あれは完全にフリー・セッションの感覚で作っていて。「東京ブロンクス」の詩も、音が鳴って、リフが鳴り出したから「あ、東京ブロンクスやろう」ってスタートしたというか。一番最初の5分のところとか、「東京ブロンクス」をそのまま持ってきたという感じになっちゃったんだよね。

──あ、あれは単純にセルフ・カヴァーをやったわけではなくて、セッションの一部を採用したって感じなんですね。

そう、「ここでやるぞ」って自然になってしまったやつを持ってきた。『親愛なる』のサイバー・パンク的な世界観を読んでいると、音を出しているミュージシャンのほうもそれを聴いて、ヤンさんもまた音を出す、高橋さんもピアノのタッチが変わって、それが僕にフィードバックしてくるという。そのやり合いのなかで、ラップからメロディになったり、メロディの発生と抑圧をすごく気持ち良くやっているという。こういうものがスリリングだろういというところをさぐりながらやっていて。それをやっていたら録れちゃった。

──“録れちゃった”なんですね。

それをヒップホップなのかなんなのか問わずやってしまう感じがすごく良かったし。普通のラップを僕らがとってもしょうがないので、こういう言葉と音楽がおもしろいんじゃないのってことになったんだと思う。

ラップと言葉、そして音楽

──いまのいとうさんのやりたいところという。

そうですね。あとはいまだと、ダブフォースっていうミュート・ビートのコア・メンバーがやっているバンドも自分から入れてくれっていって加わって。そこでポエトリー・リーディングをやってて。あのバンドもセッション・バンドで、リハもやるけど全然本番だとみんな違うことをやってくる。もちろん、僕も違うことをやるという。演奏者の方も、僕の言葉も耳を澄まして聞いていて、「いまリフにいくべきか、いかないべきか」みたいなことを全員で意味を測ってやっているみたいなことをしてくれている。そこでやっていることも、ヤンさんとの今回のセッションはフィードバックしていると思う。それはDJ BAKUとの「DARHMA」っていう曲でやった演説、リズムから外れた言葉というところではじめたわけだけど、そこから10年くらいで、でてきたものじゃないかと思うんだよね。言葉を言ってるけど音として聴ける、意味の流れとしてぞっとしてもいいけど音楽にも溶け込んでいる、そいういうものをやりたいっていう。

ラップは1回『MESS/AGE』でつきつめてやったと思ってて、当時ライヴしたときに、ヤンさんとダブ(マスター・X)ちゃんがインプロビゼーションでガーッとやってて。当時はフリースタイルなんて思いもよらない、いまでも俺はできないけど、だから切れ切れの自分のラップの部分、部分みたいなものをサンプリングして、そこに乗っけるみたいなことをしてたんだけど、限界がある。で、いまは本を置いておいて、そこから読めばいいという発想になっていて。1980年代当時は、音楽と言葉はセッションできないんだなという敗北感が当時はあった。でも、それが最近になって、須永辰緒とかダブ・マスター・Xとか高木完とかのDJと、自分の本を読むとか政治的なメッセージを読むみたいなパフォーマンスをやってきたりして。そうしていたら、言葉もちゃんと音楽とセッションできるじゃないかとわかってきて。あと、前はつねに新しい言葉を言うべきだと思ってたんだけど、いまはリフレインというのもすごく大事なことだって気づいてきて。自分で読んでいくうちに、その日、自分がリフレインするべき言葉を「これかな?」って見つけるようになってきたり。逆にリフレインしようとして、言わずに止めちゃったり……ダブみたいなもんですね。そのことによってものすごく効果が出てくるというのもわかってきて。

──なるほど。

今回もリフレインが多いのは言葉なんだけど、音楽。音楽ってグルーヴだから、グルーヴって繰り返しなんだっていう。でも繰り返しすぎるのも駄目で、やっぱりそこはセンスの問題。

──そこは感覚の最後の砦というか。

そう、繰り返しすぎると歌になっちゃうから。歌にならないところでギリギリで止めるっていうのがポエトリー・リーディングのスリリングなところだと思う。「経験上、ここだろ」っていうようなことを、一番の御大たるヤンさんとできたことはすごくおもしろかった。

──いまのせいこうさんのモード、音楽的要素を削ることによって、ある種の別の音楽になっていくとか、さきほどおっしゃられた言葉そのもののダブ感みたいなものってすごくわかりやすい解説のような気がしてなりません。

音楽をやると、やっぱり音足したくなっちゃうと思うんだけど、せっかくダブみたいなものを経て音楽をやってる僕らの耳っていうのはそうじゃないだろうってことだよね。もっといえば、中世の能みたいに、鼓と笛と歌だけで成り立つものとか、間がすごくいいわけ。五・七・五だって、休符がついているということはそこにものすごくいい間があるわけで。間みたいなものをいれつつ、それを懐古的じゃないものとしてやるっていう。例えば、他の国のヒップホップを聴いた人がこの曲を聴いて「なんなんだ、この間は? この音色は? あ、ここでシャウトまでするんだな自由だな」っていうことは耳でわかる人もいるんじゃないかなって思うんですけどね。それはすごい思い通りにやれたという。

でもこれは新鮮なところ……もう、ヤンさんも、本当に俺のことを良くわかってるから、一番良いところを生け捕りにして「ここがいとうくんのフレッシュなところだ」っていうところを使ってくれている。それは信頼関係だよね。ダブ・マスター・Xもスタジオに来て、ヤンさんのモジュラー・シンセの組み立てを手伝っていて。なにせ2時間くらいかかってようやく音が出てくるっていう感じだから。それをずっとダブちゃんは手伝ってて、レコーディングをダブちゃんがやるのかなって思ったら、普通にずっと座って見てただけだっていう(笑)。ヒップホップ的にいう、バイブスってやつだよね。「いる」っていうだけ。そういう参加の仕方を自然にしちゃうっていう、ヒップホップと現代音楽みたいなものを同時に捕まえてきて、その自然なやり方をひとつ、ヒップホップでいえばバイブスとも言えるし、いるだけで参加になるっていうのは現代音楽的な感覚もあるし。「ダブ・マスター・Xが集中してきた感じだから、いまいいのかな」とか「ヤンさんが集中している」とか、それがまた僕にフィードバックするから。それはすごくうれしい体験でしたね。

──まさに30周年の活動そのものに対するトリビュート楽曲という感じですよね。信頼関係とか理解とか。それが結実したという。

そうそう、結実した。それは僕らが思うヒップホップのかっこいいところなんだよなっていう、そういう音源ができたなっていう。

──ちなみになぜ「スイート・オブ」なんでしょうか。

それは全然知らない、ヤンさんがつけて送ってきて。しかも英語でもなくカタカナで“スイート”。おそらく、おそらくだけど“スイート・スポット”の“スイート”という意味なのかな、核心という。でもわかんない。なんの説明はないけど“これが「東京ブロンクス」の核心なんだ”って思うような。

──やっぱりこれはせいこうさんがやらないっていうところだったんですか?

というか僕がやらないと収まりがさすがにつかないだろうという。僕自身もすごくやりたかった。『MESS/AGE』で突き詰めすぎて、自分から音楽から離れてしまったというのは自分でも「あのときなにかできることがあったんじゃないかな」って思うこともあるから。ぼんやり考えていたことが「ヤンさんとやったらなにか新しいことが生まれてくるかも」って予感があったんだよね。ヤンさんにはやり方の話とかもしてないしね。

気心しれている人たちと作ったアルバム

──他にはっとしたカヴァーとかありませんか?

例えば岡村(靖幸)くんのリミックスじゃない? 解体して、こんなド派手なダンス・ミュージックをしちゃうっていうのも彼もすごく考えたと思うし。あとは(須永)辰緒が「俺にもなにかやらせてください」ってなったときに「水の子チェリー」があるって話になって、英語詩にしていいかって言われてああいう曲になって。自分から申し出てきて、英語詩にして、ジャズのバンドにしちゃうってところで、須永辰緒という存在をちゃんと出しながら、僕の曲もちゃんと大事にしてくれているしで、さすが長い年月やっていると、みんないろんな手をもってくるなって思いましたね。

──口ロロとかDJ BAKUとか、わりとここに並んでいるさらに下の世代と交わって音楽活動をされていた印象があって。あとはうちの若い20代の読者からしたら、やっぱり「フリースタイル・ダンジョンの審査員」というところだと思うんですよ。

もちろんね。

──そういう若い世代でやってもらうっていうことはなかったってことですよね。

そうだね。やっぱりそれはね。

──ちょっと違うかなと。

そう、それよりも気心しれている人たちというか。あとサ上とロ吉はずっと〈建設的〉っていうパーティをやっていたりとか。それで、一番若いところが彼らで、そこで若い世代、フリースタイルのジェネレーションともタッチしたという感じで。この年月の積み重なりはその部分で見えるというか、彼らより下にいくとわざとらしく見えちゃうからね。それはそれでまた別に一緒にやれることはあると思うから。でも、音楽をやる機会がとても増えたんだよね。レキシにしろ、ダブ・フォースにしろ……だからいまは本当に音楽をやっている時期という感覚があって。一時期小説ばっかり書いてたけど、いまは音楽。しかもすきなようにやらせてくれる人たちとやれている。

──『建設的』を聴き直したんですけど、ラップということだけで語られるだけではもったいないアルバムの気がしてて。

そうだよね、実はラップの曲2曲だけだしね。ごっちゃまぜでいいじゃんていう。バンドのサウンドって、そのバンドにしばられちゃうところがあるけど、あのアルバムはいろんなバンドを連れてきてやってるていう。ああいうことっていまもうあまりないと思うんですよ。

──ラヴァーズ・レゲエもやってるし、初期DJカルチャーの雑食性みたいなところをという感じもあったんじゃないかと、それもすごく新鮮で。

こういうことがあってもいいんだなっていう感じでしたね。

──まさにそれが引き継がれている人選ですよね。

うん、そうなんだよ。厚みがあるというか、お得なアルバムだと思う。〈フリースタイル・ダンジョン〉が好きだっていう世代が、サ上から入ってもらって「トラックすげーいいな」ってところから高木完をたどってもらうと、オリジナルの『建設的』になるし。「このバンド・サウンドすごいおしゃれだ」っていうところから、META FIVE、高橋幸宏さんに行くとか。それがショーケースとして、日本の音楽の円熟した、いいところを示すことができたというか、自動的にそうなっちゃったんだよね。

いとうせいこうフェスとは?

──まさにその現場版が「いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会~」として結実しているという。

当然そこでも、このアルバムをやるはずだけど、ここ以外ではそんななんどもやらないと思うから。それってやっぱり不思議なことですよね。そこまでなるって考えてたことじゃないから。会場には、幸宏さんがいてくれるわけだから、「なれた手つきでちゃんづけで」をやっぱり歌ってほしいなってなると「いやいや、俺嫌だよ、いとうくん歌いなよ」とかさ。当日誰が歌うかまだわからない(笑)。そういうやりとりはああるけど、その曲をやることはほぼ決まっていて。そういう意味ではこういうフェスってないよね。1枚のアルバムをめぐってやるわけだからね。

──しかもお笑いも入っているという。

そうそう音楽も大事だけど、僕はお笑いもやってきた人間だから、そちらもいまのキレッキレのところを見せたいという。いまネットで、自由に見えてるけど超タコツボ化しているから。そこしか見なくなっちゃうからもったない。若い子が背伸びしてきて、ひっかかったら「誰なんだあのおじさん」っていうところから知って欲しい。それで広がることってあると思うんですよね。もちろん全員知っている俺世代はストレートに楽しめればいいし。若い子がさらに「こういう音楽があるんだ……」ってなってもらったらいいよね。それがヒップホップってことだからさ。いろんな音楽を知っているということが。ヒップホップだけ聴いててもヒップホップじゃないと僕は思ってるから。

──ラップ・カルチャーとヒップホップはイコールではないというか。いまのラップはそれがおもしろいところではあると思うんですがDJカルチャーがちょっと下がっている部分はあるのかなって思います。

いろんなのかけて、踊らすってところにいきたいんだよ。

──さらに言葉があって。それがせいこうさんのヒップホップだと。

FPMの田中くんと辰緒が両日、客入れ / 客だしDJを入れ替えでやるわけですよ。こんな贅沢なことはないよ。そこで多彩な音楽をかけると思うんだよね。ラジオとクラブで当時「こんな音楽あるんだ、このレーベル、あのレコード屋にあったわ」って思って自分の音楽性を広げてきたから、そういうのをこのフェスでできたらいいなっていうことですね。ショーもあって、クラブ・カルチャーとしてのフェスみたいになっちゃったと思うんだよね。結局僕はそういうところから出てきてるから。

──せいこうさんがフェス全体を“選曲”して“ミックス”するDJというか。

そう、大きいプログラムをしてみせるっていう、2日間だけだけどいい夜になるよ。帰ってこのトリビュート盤を聴いて、やっぱり録音されたものもいいってなって、また10年後、20年後それで新しいものが生まれてくると思うから。

LIVE INFORMATION

いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会~
@東京体育館
2016年9月30日(金)
17:30 開場 / 18:30 開演
出演者 : いとうせいこう、有頂天 、Aマッソ、鬼ヶ島、かせきさいだぁ&ハグトーンズ、ロロロ、小泉今日子、須永辰緒、ダイノジ、田中知之(FPM)、DUBFORCE feat.Usugrow、東京パフォーマンスドール、中村ゆうじ、バカリズム、DJ BAKU、Bose(スチャダラパー)、ホフディラン、真心ブラザーズ、みうらじゅん、DJやついいちろう+いつか(Charisma.com)、RHYMESTER、レキシ

2016年10月1日(土)
15:30 開場 / 16:30 開演
出演者 : いとうせいこう、上田晋也(くりぃむしちゅー)、蛭子能収、大竹まこと・きたろう(シティボーイズ)、岡村靖幸、かせきさいだぁ&ハグトーンズ、勝俣州和、KICK THE CAN CREW、ゴンチチ、サイプレス上野とロベルト吉野、Sandii、水道橋博士、スチャダラパー、須永辰緒、高木完、高橋幸宏、竹中直人、田中知之(FPM)、テニスコート、東葛スポーツ、ナカゴー、久本雅美、藤原ヒロシ、細野晴臣、みうらじゅん、MEGUMI、やや、ヤン富田、ユースケ・サンタマリア、LASTORDERZ

チケットなどの詳細は下記公式ページで
>>いとうせいこうフェス公式WEBページ

PROFILE

いとうせいこう 作家・クリエーター。1961年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。アルバム『建設的』(1986年)にてCDデビュー。その後『MESS/AGE』(1989年)、アルバム『OLEDESM』(1992年)、『カザアナ』(2008年)などをリリース。また他アーティストへの作詞提供曲として、やや『夜霧のハウスマヌカン』、大竹まこと『俺の背中に火をつけろ!』、ももいろクローバーZ『5 The POWER』など多数。近年ではロロロへの加入や、レキシでの活動、DUBFORCEへの加入などがある。著書に小説『ノーライフキング』エッセイ集『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)『想像ラジオ』(第35回野間文芸新人賞受賞)『存在しない小説』『鼻に挟み撃ち 他三編』『我々の恋愛』など。執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。テレビのレギュラー出演に「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)「せいこうの歴史再考」(BS12)「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)などがある。「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。
>>いとうせいこう 公式ページ

この記事の筆者
鶯巣 大介

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