Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                
2024/10/04 11:00

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所

Hammer Head Shark

Hammer Head Sharkは「たからもの」だ。ながいひゆの声の力強さと温かさ、バンド・アンサンブルのダイナミクスと流麗さ。それらは音源のみならず、ライヴでこそ一層の輝きを増す。Hammer Head Sharkを愛するひとたちは皆、友人や知人や見知らぬ音楽好きに「ぜひ一度ライヴを観てほしい」と言いたい欲求を胸に秘めている。現に彼女らのライヴは客数が増えるとともに多様さを見せつつある。最近はいわゆる「ギターロック好き」以外の客層や、日本国外からの観客が目に見えて増えている。そしてこの秋、彼女たちは、日本のバンドがカナダの各都市をツアーでまわる〈Next Music from Tokyo vol 16〉に出場する機会を得た。2010年から行われているこの企画は、過去に、andymori、MASS OF THE FERMENTING DREGS、赤い公園、ZAZEN BOYS、group_inou、mouse on the keys、きのこ帝国、リーガルリリー、羊文学といった錚々たるバンドが選ばれてきたものだ。いよいよだ……とファンたちは思っているだろう。ツアー後にカナダからの「凱旋」イベントとして計画されている、ギャラリーを会場としたワンマンも含め、Hammer Head Sharkのこれまでとこれからについて、メンバー全員に話をきいた。

Hammer Head Shark 最近作

INTERVIEW : Hammer Head Shark

後藤旭 (Ba.), ながいひゆ (Vo./Gt.), 福間晴彦 (Dr.), 藤本栄太 (SprtGt.)

Hammer Head Shark (以下、Hammer) のライヴは歌も楽器も圧倒的な音像として聴き手に押し寄せてくる。だがそれは決して暴力的ではなく、一見鋭利だが実は温かさの塊のようなものだ。Vo./Gt.のながいひゆは、歌っているときは切迫感そのものかという存在だが、最初にステージに現れるときの柔らかな空気の揺らぎや合間にふと見せる照れるような笑みから、実は緊張感からは遠い存在であることが感じられる。なによりステージ上の4人はとても楽しそうだ。彼女たちはついに自らの道を見つけ、まだ誰も足を踏み入れたことがない場所を歩みつつある。そこは我々聴き手にとってもかけがえのない場所となるだろう。ここからどんな物語が紡がれるのだろう。

インタヴュー・文 : 高田敏弘
写真 : 藤咲千明

きのこ帝国のコピーで歌ったら、めちゃめちゃ褒めてくれて

──みなさんの音楽との出会いや楽器を始めたきっかけを教えてください

福間晴彦 (Dr.) : 中学2年生の時に仲良くなりたかった友達がいて、その友達にエルレガーデンのコピー・バンドをやるからドラムを叩いてほしいって言われたのが、ドラムを始めたきっかけです。なにもやったことなかったんですけど「この2曲だから」って言われて。スティックだけ買って当日スタジオに行って「いいじゃん」みたいな感じになって。でもそのスタジオ、1回きりなんですよ。
 1回やったきりでドラムもぜんぜん叩いてなかったけど、スティックだけ持ってるから、ちょっと勇気を出して大学で軽音サークルに入って。サークルでボンツビーズっていうオリジナル・バンドを組みました。ビートルズと加山雄三を足して2で割ったみたいなバンド。それで音楽に本気になりかけました。
 聴くほうもすごくよく聴いてました。TSUTAYAで1回10枚1,000円みたいなので借りては返してを繰り返して。ツェッペリンみたいな「ロックの教科書」からオルタナまで。

福間晴彦 (Dr.)

後藤旭 (Ba.) : 僕は、親が広く浅くいろんな音楽を聴くひとで、車でニルヴァーナやグリーンデイ、エルレや松田聖子も流れていて。生まれたときから音楽を聴いていたと思います。小学3年生か4年生のときの親父のマイブームがジューダス・プリーストで、僕もメタルにハマりました。中学生になって同級生のみんなが聴いてる音楽も聴きたくなって、いろいろ探していたときにRADWIMPSに大ハマりしました。いまでも本当に好きです。RADWIMPSを聴いて、ベースってこんなにカッコいいんだと思って、お小遣いを前借りして初心者用キットを買ってベースを始めて、そこからずっとですね。中学生のときに反抗期がきて、親がメタルなら自分は反対のジャズとかを聴いてみようと思って、ジャコ・パストリアスを好きになって。定番の “ザ・チキン” とかを練習してました。

後藤旭 (Ba.)

藤本栄太 (SprtGt.) : 僕は小学生のときスピッツが好きで。中学生になってから00年代の日本のギターロック、ピロウズやsyrup16g、ART-SCHOOLとかそういうバンドにのめり込んでいったんですけど、それは自分の世代のバンドっていう感じでもなくて。みんながバンプ聴いてる時にそういうの聴くのかっこいい、みたいなところから始まって。自分のリアルタイムはミイラズとかテレフォンズとかボヘミアンズとか毛皮のマリーズとか。そこからアークティック・モンキーズ、ストロークス、リバティーンズとかを聴くようになって。大学生のときにみんなでノリで学園祭でバンドやろうかってなって、それでやってみたらすごく楽しくて、そこからギターをやり始めました。その後、同級生とGLASGOWっていうバンドを始めて、いまに至るって感じですね。

藤本栄太 (SprtGt.)

ながいひゆ (Vo./Gt.) : 私の実家は音楽を聴かない家だったんです。でも車ではYUIだけが流れていて。YUIだけが私の知ってる音楽でした。別に音楽が好きというわけでもなく、中学ではソフトボール部に入ろうとしたんですけど、結局、仮入部の時点でやめて、仲の良い友達が入ってたので合唱部に入ったんです。けっこう厳しかったので、音楽や歌の基礎みたいなものはすべて部活で習得しました。そこで歌うのは好きだなって気づいたんですけど、友達とカラオケに行っても「めっちゃ下手だね」って言われるので (笑)、積極的に歌うとかではなくて。
 唯一知ってるYUIが活動休止して聴く音楽がなくなっちゃったなと思ってたら、YUIがバンド (FLOWER FLOWER) になったんです。それで今度はバンドが気になってきて。バンドってかっこいいなって。福間くんが当時高校が一緒で、めちゃめちゃ音楽知ってたんで「なんかおすすめある?」って言って教えてもらって聴いたのが、シャンペイン (現、[Alexandros]) とかエルレガーデンとかクリープハイプとか。あとは、きのこ帝国。いまでも好きなのが、きのこ帝国と、うみのてです。
 YUIが好きだったから高校に入ったときにアコギを買ったんです。そのあと、きのこ帝国を好きになってエレキギターを買って。で、バンドやりたいな、かっこいいな、やってみたいなっていうのはあったんですけど、まさか自分歌下手だし (笑)、やれると思ってなくて。

ながいひゆ (Vo./Gt.)

──Hammerができた経緯は?

福間 : 大学の軽音サークル内でメンバーを入れ替えてはいろんなバンドを組んでたんですが、ちょっと違う風を吹かせたいねって話になって。じゃあ自分の高校の友達で歌が上手いやついるよって、ながいさんを誘って。

ながい : スタジオに入って、きのこ帝国のコピーをやったんですけど、そこで歌ったら、めちゃめちゃ褒めてくれて。超いいじゃんって。自分がやることを初めて肯定されたというか。

──福間さんは、ながいさんが歌えるのは知ってたんですか?

福間 : 高校のときにみんなでカラオケとか行ってたし、合唱部にいたのも知ってるんで。

ながい : しばらくはコピバンをしてたんですけど、実は小学生ぐらいのときから自分で詞は書いてたんですよ。でたらめな言葉を書いていて。歌詞の破片みたいなやつがあって、家にアコギもあったのでポロンポロンってやったら「あ、なんかできた」って。それを弾き語りの状態でバンドに持っていったら、めっちゃいいじゃんってなって。きのこ帝国のコピー・バンドからオリジナル曲をやるようになりました。

──“Hammer Head Shark” というバンド名は?

ながい : 私は知らないんですけど、当時のギターの飲み友だちみたいなひとが「ハンマーヘッドシャークでいいんじゃないって」って言ったから。

藤本 : このエピソードやばいよね (笑)。誰も知らない赤の他人がバンドの名前をつけたっていう。

ながい : そのときはなにもこだわりがなかったので (笑)。

4人でスタジオに入ったら、これじゃんって

──その後ギターとベースが続けて抜けて、藤本さんと後藤さんが順にサポートで入りました。藤本さんは外からHammerをどう見ていましたか?

藤本 : いやもう、めちゃめちゃいいバンドだなって。初めて対バンしたときから、本当にこれは冗談とかじゃなくて、感動的な、なんてすごいバンドなんだって思っていました。ただただ好きなバンド、すごいバンド。でも当時は怖くて。音も大きいし、ひゆちゃんは圧倒的なステージングで、晴彦くんも喋りかけてくる感じでもなくて。めちゃめちゃ怖いひとたちだって思ってました。好きだけど。

福間 : こっちも (GLASGOWに) 同じことを思ってた (笑)。

──後藤さんは外から見たHammerをどう思っていましたか?

後藤 : 僕はぜんぜん知らなくて。

──そうだったんですか

後藤 : その頃僕はバンドをやりたいと思いながら、いろんなツテでサポートをやらせていただいていて、笹口騒音さんの太平洋不知火楽団やニューオリンピックスのサポート・ベースをしていました。2022年に、ひゆさんも弾き語りで出る笹口さんのイベントがあって、笹口さんが出演者を紹介するツイートをしていて。そこで初めて動画を観て「うわぁすげぇ」って。ひと “聴き” 惚れです。笹口さんに前日リハで「このひとやばいっすね」って言ったら、「最近ベース抜けたらしいよ」「明日僕が紹介してあげるよ」って言われて。

ながい : 笹口さんの紹介なんです。なので、すごい信頼があったんです。

福間 : そのすぐ後にayutthayaも出るイベントが入っていて、ベースがいないけどayutthaya大好きだから、どうしても対バンで出たかった。それであと1週間くらいしかないけど、旭くんを入れて4人でスタジオに入って、この曲とこの曲とこの曲、2回だけ合わせようって。で、1回目合わせたら、それがすごい良くて。これじゃんって。

ながい : ベースの音が「筆」みたいなんですよね。Hammerの音だなと思った。

この記事の筆者
高田 敏弘 (takadat)

Director。東京都出身。技術担当。編集部では “音楽好き目線・ファン目線を忘れない” 担当。

OTOTOY各スタッフ+αがそれぞれ選ぶ、2024年の10作品

OTOTOY各スタッフ+αがそれぞれ選ぶ、2024年の10作品

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.307 ロックだとかポップだとか

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.307 ロックだとかポップだとか

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.306 2024年リリースもライヴも良かったアーティスト

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.306 2024年リリースもライヴも良かったアーティスト

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.290 Please, Please, Please

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.290 Please, Please, Please

常に4人で面白いと思えるところへ──ANORAK!、試行錯誤で挑んだ“ダンス・ミュージック”

常に4人で面白いと思えるところへ──ANORAK!、試行錯誤で挑んだ“ダンス・ミュージック”

疑いながら答えを積み重ねていくdownt──自身を貫いた先で待つ名盤に向かって

疑いながら答えを積み重ねていくdownt──自身を貫いた先で待つ名盤に向かって

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.266 ロスレスをdigる

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.266 ロスレスをdigる

「ついに日本でやるんだ」──アジアの観客とアーティストたちが〈BiKN Shibuya〉で灯した光

「ついに日本でやるんだ」──アジアの観客とアーティストたちが〈BiKN Shibuya〉で灯した光

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.231 夏です

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.231 夏です

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.219 アズテック・カメラから、ウェブ経由、The 1975まで

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.219 アズテック・カメラから、ウェブ経由、The 1975まで

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.201 2022年をふりかえる

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.201 2022年をふりかえる

やりたいことが増えて満足してないです──バンドになったcolormalが目指す色彩と普遍

やりたいことが増えて満足してないです──バンドになったcolormalが目指す色彩と普遍

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.161 私立恵比寿中学と時と私

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.161 私立恵比寿中学と時と私

名盤を50年かけてでも作りたい──NaNoMoRaLが放つ、渾身の自信作『ne temo same temo』

名盤を50年かけてでも作りたい──NaNoMoRaLが放つ、渾身の自信作『ne temo same temo』

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.149 今年刺さった楽曲・アーティスト

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.149 今年刺さった楽曲・アーティスト

三方幸せな必然的邂逅──バンドとして深化したSACOYANSの2年間

三方幸せな必然的邂逅──バンドとして深化したSACOYANSの2年間

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.126 優しく力強い、確信

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.126 優しく力強い、確信

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.97 making our future

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.97 making our future

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.74 延期(中止)になったもの

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.74 延期(中止)になったもの

長期戦になるけど、またみんなに会うために──いまこそ下北沢にエールを!

長期戦になるけど、またみんなに会うために──いまこそ下北沢にエールを!

宅録とバンド、両岸を軽やかに渡り歩く喜びを分かち合う、colormal

宅録とバンド、両岸を軽やかに渡り歩く喜びを分かち合う、colormal

小樽発、plums──せめぎ合う3つの凛とした“メロディ”

小樽発、plums──せめぎ合う3つの凛とした“メロディ”

熊本発。3人のソングライターが織りなす透明感と強さ──Shiki

熊本発。3人のソングライターが織りなす透明感と強さ──Shiki

絡み合うふたりのヴォーカル。発見と驚き──メレ

絡み合うふたりのヴォーカル。発見と驚き──メレ

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.45 20年代の希望、ここにあります

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.45 20年代の希望、ここにあります

パンキッシュなアティチュードと甘美なメロディ、そして貫かれる美学──Waater

パンキッシュなアティチュードと甘美なメロディ、そして貫かれる美学──Waater

【REVIEW】The 1975 「People」、世界を驚かせた激情と抵抗

【REVIEW】The 1975 「People」、世界を驚かせた激情と抵抗

その天性のヴォーカルはあなたの心に痕跡を残すだろう──afloat storage

その天性のヴォーカルはあなたの心に痕跡を残すだろう──afloat storage

この記事の編集者

[インタヴュー] Hammer Head Shark

TOP