アサヒコの人気商品「豆腐バー」を生み出した社長の池田未央さん。マーケターとして同社に転職した当時を「お豆腐業界に関してはまったくの門外漢でしたが、なんだか面白そうだゾ……という直感で即決しました」という――。

前編からつづく)

「えっ、お豆腐屋さんですか?」

遡ること30年前。アサヒコ社長・池田未央さんが新卒で製菓会社に就職したのは1997年の春だった。在職した約15年間のうちに2度にわたって外資系企業に買収されている。結果、池田さんは「突然、上司が外国人になる」事態にも遭遇しているのだが、同時に、チームビルドや課題解決について貴重な経験を積むことにもなったという。

それについては後述するが、製菓会社を退職した池田さんはその後4年あまり、いくつかの洋菓子メーカーを渡り歩く中で、新商品開発のプロフェッショナルとしてのキャリアを積み重ねていった。

そんな池田さんに旧知のエージェントから連絡が入ったのは、2017年9月のことだった。

「豆腐メーカーがマーケティングのできる人を探しているんだけど、池田さんどう?」
「えっ、お豆腐屋さんですか?」

製菓業界と豆腐業界ではさすがにギャップがあり過ぎるとも思ったが、流通菓子、お土産菓子、百貨店菓子と、製菓の仕事はやり尽くした感もあった。試食で、毎日のように菓子やケーキを完食しなければならないのも、正直なところ辛かった。

「お豆腐に関してはまったくの門外漢でしたが、なんだか面白そうだゾ……という直感で即決しました」。入社は2018年4月。待遇はマーケティング部長職である。

アサヒコ社長の池田未央さんは「お豆腐業界に関してはまったくの門外漢でした」
撮影=市来朋久
アサヒコ社長の池田未央さんは「お豆腐業界に関してはまったくの門外漢でした」

豆腐業界の市場規模縮小の実態

だが、入社直後からの1カ月間、豆腐業界についてリサーチを重ねた池田さんは愕然とする。豆腐は昔からある伝統食だから、それなりの市場を維持しているものと思い込んでいたが、近年は年率4~5%という勢いで市場規模が縮小していたのである。しかも、流通菓子に比べて原価率が異様に高い。水分を含んでいる豆腐は重いため、流通コストも高く日保ひもちもしない。そもそも利益の薄い商売を大量生産による徹底したコストダウンによってなんとか繋いでいるのが、豆腐業界の赤裸々な実態であった。

「エライところに来てしまった!」

これが偽らざる心の叫びだったというが、そこが池田さんらしさでもある。なにしろ普通、転職というものは業界動向を精査してから決めるものだから。

市場分析を終えて、もっとたくさん豆腐を食べてもらうための提案書を作成してみたものの、正直なところ決め手に欠ける提案しかできない。他業界から部長待遇で入ってきた池田さんに対して、「何かしらやってくれるんだろうな」という社内の視線も感じていた分、プレッシャーも大きかった。