優秀な人材をめぐる「初任給競争」
「マジで? オレが新入社員だった時は手取りで15万円とかだったぞ」
「33万もらえるなんて30歳手前でようやくだよ。なんかやる気が失せるな」
そんな風にショックを受けるサラリーマンが続出している。ユニクロを運営するファーストリテイリングや三井住友銀行、明治安田生命保険、大和ハウス工業など、大企業の間で初任給の引き上げが続いており、30万円超えが続々とあらわれているのだ。
この背景には、大企業は日本政府からも積極的に「賃上げ」を求められているということに加えて、人口減少でいよいよ人材確保が難しくなってきたということもある。
働き改革だなんだと言いながら、いまだに「社歴」を重んじて、新人に対しても「まずは雑巾掛けから」的な扱いをするザ・日本企業の場合、優秀な人材であればあるほど2〜3年で「先」が見えるのでサクッとやめてしまう。
仕事がデキる人は正当な評価を求めるものなので、新人だろうとも成果次第で高収入が得られる海外企業やベンチャーのほうが魅力的だからだ。
春闘による賃上げを実感できているか?
この「危機感」が今回の初任給の大幅引き上げに繋がっている。それはつまり、こういう動きをしている大企業というのは現状はさておき、これまでの古い労働慣習や企業文化から「変わらなくてはいけない」という意識は持っているということだ。
そういう意味では今回の動きは、大企業の将来性を見極める「判断材料」のひとつになるので、売り手市場の新卒社員たちにとってはハッピーなことだ。
ただ、大多数の日本人にとってはそうではない。大企業の新卒が30万を超えようが超えまいが、我々の暮らしにはほとんど影響がないからだ。
なぜそうなるのかというと「春闘」をイメージしていただくとわかりやすいだろう。
忘れている人も多いだろうが毎年このあたりになると、「春闘で賃上げの流れをつくるぞ」みたいな話がチラホラと聞かれる。
昨年もそうで、春闘で「過去最大のベア」が続々と報道され、メディアでは著名な経済評論家が「この効果は夏あたりから徐々に中小企業にも影響が出てくるでしょう」なんて予測をする。この5〜6年、こういう「春闘で賃上げ」というやりとりが、さながら「年間行事」のように繰り返されてきた。
だが、私はこの5〜6年ずっといろいろな媒体で「春闘で賃上げなどできない」と主張し続けてきた。理由はシンプルで、従業員が労働組合に加入して団体交渉に臨むような企業というのは「超マイノリティ」だからだ。