坂東龍汰×南果歩、『君の忘れ方』“親子”対談 2人が考える喪失との向き合い方とは?
柳楽優弥主演の『ライオンの隠れ家』(TBS系)で自閉スペクトラム症の青年を非常にリアルかつ真摯に演じ、絶賛を博した俳優・坂東龍汰。そんな彼が初の映画単独主演に挑むのが、脚本・監督を作道雄が手掛ける『君の忘れ方』。大切な人の喪失からの再生を描いたヒューマンドラマだ。
主人公・昴(坂東龍汰)は、付き合って3年になる婚約者・美紀(西野七瀬)を不慮の事故で亡くしてしまう。昴は深い喪失感に苛まれながらも、同じ悲しみを抱えるグリーフケアの仲間たちと出会い、少しずつ美紀の死を受け入れ始める。そんなある日、昴の前に突然、美紀が現れる。彼女は現実なのか、それとも“まぼろし”なのか。
「グリーフケア(グリーフ=決して癒えることのない深い悲しみ)」の概念が近年、日本国内にも広がりつつある中、本作が今伝えようとするものとは? 自身も過去に喪失を経験したという坂東龍汰が演じる意味とは? 今回、坂東と母親・洋子を演じた南果歩にインタビューを決行。しかし、意外にも取材現場は笑顔と笑い声に包まれていた。(田幸和歌子)
「心の奥底で動いていることを大事に」
――映画の2人とのギャップに戸惑っています(笑)。めちゃくちゃ明るいですよね。
坂東龍汰(以下、坂東):こっちが本物ですよ。
南果歩(以下、南):私たちって、ずっとこんな感じですよね。坂東くんは最初お会いしたばかりの頃は、すごくナチュラルな方だなと思いました。ぶらっと1人でやってきて、本読みが終わった後もさっと帰っていく姿が軽やかで、力みがなくて。
坂東:南さんは本読みのときから、この映画の脚本がすごく好きなんだろうなという感じが伝わってきました。気になるポイントなどについて、監督と意見を交わしていらっしゃるのを見て、僕も頑張らなきゃと思いました。
南:初めて会ったとき、声を録音していたのよね?
坂東:はい。初めて実際にお会いしたときに聞いた南さんの声をスマホのボイスレコーダーで録音させて頂いて、繰り返し聞いていたんです。
南:それを聞いて、もうびっくりしました。
――坂東さんは現場に入るとき、いつも共演者の方の声を録音されるんですか?
坂東:今回が初めてでした。初めて話したときの声と南さんの声を繰り返し聞きたいという単純な思いからで、今回は母と息子という役柄だったから。母の声って、よく聞くじゃないですか。ケンカしているときもあるし、何年も一緒に過ごして朝昼晩聞いている声なので、その声に馴染んでおきたいと思い、南さんの声を聞いてセリフを再生することを心がけていました。
南:坂東くんは作品ごと、役柄によってアプローチを変えているって言ってましたね。恋人・美紀役の西野(七瀬)さんに対する準備もしていたんですよね。
坂東:西野さんは声ではなく、一緒に撮った写真を撮影にインするまで毎日見ていました。美紀との時間は単純に少なかったので。西野さんが幻影として現れたときに、こっちの気持ちが整っていないとリアルな反応はできないと思ったので、そこまでに余白を埋めていくのに必死だったところはあります。
――最初に台本を読んだときにどんな印象を抱きましたか?
南:秀逸な台本で、どの役の心情も深く感じられるものでした。じっくり書き上げた時間が伝わってきました。
坂東:かなり緻密に引き算されていて、余白があって、委ねてくれる部分もある脚本で。実際、現場も脚本の意図を汲んだ撮り方をしていたことが、画にも出ているというか。(製作総指揮の)志賀(司)さんと(作道雄)監督がこだわって撮っている画には意味がしっかり込められていると感じましたね。
南:主人公の昴に関わる人間たちそれぞれの人生を感じられる脚本なんです。主人公を描いても、その人物に関わる人たちの人生観が表現できる映画ってなかなかないと思うんですけども、それにトライしようとしているところが素晴らしいと思いました。また、私が演じた洋子という役に関しても、お母さん役となるステレオタイプに描きがちですが、お母さんにも人生があり、お母さん以外の顔を持っているということをきちんと描いたシナリオだったところに魅力を感じました。
――「お母さん」という役割ではなく、息子の知らない人間関係も構築していて、何を考え、何をしているのかも見えないところがありますもんね。
南:自分の年代を楽しんで仕事しながら生きているように見えて、心に人に言えない重いものを抱えていて。昴も洋子も、一見普通に生きている人にしか見えないけれど、その心の奥底までは人には見えない。その悲しみの描き方が深いなと思うんです。
坂東:昴も、美紀を事故で失った直後じゃないですか。直後って、裏付けのないイメージだとパニックになってしまって、暴れたり叫んだり、泣きじゃくったり、とりあえず全部発散しようという方向に行くのかなと思うんです。
――それが一般的イメージであり、1つのアプローチでもありますね。
坂東:でも、それは想像でしかなくて。僕も身内の不幸が昔にあって、当時まだ3歳だったから、僕にその記憶はないんですけど、父親にその当時のことを聞くと、「全然受け入れられなかった。周りからは普段と何も変わらないように見えていた」と言われて。僕と父よりも、もう少し遠い関係性の方たちのほうがヒステリックになっている状況だったと聞いたんですね。今回演じた昴という役は、僕とは性格が全然違うので、それは昴というキャラクターを考える上でアプローチとして落とし込めるのかなと思い、監督に相談しました。昴にとっては、あからさまに悲しみとか絶望を表に出すことが全てではないのかなと思うとお話ししたら、監督も同じ考えで。
南:一見普通に見える中にも、心の奥底で動いていることを大事にしようというのは、共通した考え方でしたね。
坂東:そうなんです。表面的な表現を足すのではなく、むしろ引いて、抑えて抑えて、観ている人の気持ちを置いてあげる場所を作るほうが良いと思ったんです。僕が昴と同じ状況になったら、もっと違う表現方法やアウトプットになるかもしれないですけど、昴の悲しみ、苦しみ、絶望を表現する上では、父から聞いた話が参考になりました。
――幼い頃のことで記憶していなかったご自身の傷にも向き合うことになったわけですよね。
坂東:そうですね。でも、生きている中では誰しもが、飼っているワンちゃんとか、大切なかけがえのない存在の死に1回は遭遇するものですし、死は向き合うべき普遍的なテーマだと思うんです。僕の場合、早くにそれを経験したわけですが、だからこそ僕にできることがあるのも、今回このお話をお受けしたきっかけです。それに、僕自身の話を南さんに車で話したときに「作品を引き寄せたね」と言われたんです。監督もそれ(僕が早くに喪失を経験していること)を知らないでオファーしてくださったみたいなので。