もう、たくさんだ! パレスチナ人の大量虐殺をやめろ! [世界の動き]
もう、たくさんだ! パレスチナ人の大量虐殺をやめろ!
1)もう、たくさんだ! パレスチナ人の大量虐殺をやめろ!
11月末、数日間の戦闘中止に入り捕虜の一部を釈放したが、イスラエルは休止後、攻撃を再開するとしている。戦闘中断ではなく即時停戦を求める。
イスラエルはガザを破壊し、5,000人以上もの子どもを含む12,000人以上のパレスチナ人をすでに殺害した(11月末)。病院、国連の避難所、大学、住宅などへの爆撃は正当化できない。電気や水を奪うことも正当化できない。医療、市民防衛、食糧・生活物資供給、メディアで働く人たちが、死にもの狂いで仕事をし、文字通り死んでいる。なのに、国際社会はこれを放置したままだ。どうして私たちはこのような事態を毎日、目にしなければならないのか? どうして止められないのか?
ガザ最大のアル・シファ病院がイスラエルによって包囲され破壊されている。イスラエル軍は「病院の地下にハマスの最大の司令部がある」として攻撃しているが、病院の医師もハマスも「そこに司令部はない」と言っている。
アルジャジーラはアル・シファ病院の医療関係者の声を伝えた。(「越境3.0」石田和靖 11月16日、27日)
「アル・シファ病院には650人の患者が入院中。その内45人が腎臓透析患者、36人が未熟児。病院内には500人の医療スタッフと5,000人以上の難民がいる。・・・・イスラエルの無人機が病院を監視し、移動する者を射撃するため、医療スタッフも患者も避難民もアル・シファ病院の建物間を移動できないし、施設から出られない。・・・・イスラエル軍は病院から発砲があったと公表しているが、医療関係者たちは一切発砲していない。・・・私たちは患者を一人にさせることはない。ともに生き、共に死んでいく」。アル・シファ病院から医師・医療関係者はだれ一人避難していない。
どうしてこのようなことが起きるのか!
イスラエル軍は何と非道的なことをしているか!テロそのものだ。West Bank(ヨルダン川西岸地域)への入植もテロ行為だ。West Bankでは10月7日以降、500人以上のパレスチナ人がイスラエル軍と武装した入植者によって殺されている。
ハマスは日本政府も含めいくつかの政府から「テロ組織と認定」されているが、イスラエル政府こそテロ組織と認定されなくてはならない。76年の歴史と、殺害した桁違いの人数が、証明している。パレスチナ住民は違法に占領され、違法の包囲の下にあって、残酷に支配されている。しかし、イスラエルの虐殺行為が、テロ行為、テロリストだと非難されていない、おかしいだろう!
「イスラエルの自衛権」を主張する者は、パレスチナ人の自衛権を認めていない。ハマスをテロリストと呼ぶ。誰がこんなことを平然とした顔で言うのか!この吐き気をもよおすような中傷は「大量虐殺への扇動」に他ならない。
イスラエルはガザやヨルダン川西岸地域を軍事占領し、植民地支配している。そのことの不法性、残虐性をまず指摘し止めさせるべきだ。しかし、米政府とG7政府はこれを容認し支持する。人類に対する犯罪だ。米政府は、イスラエルに武器と資金を提供し、西側諸国政府は外交的にイスラエルを擁護する。岸田政権バイデン政権の言うままに従い、声を上げない。ジェノサイドは沈黙から始まることを知っているか!
ガザにおけるパレスチナ人の虐殺を即刻止めさせなればならない。イスラエルによるパレスチナ戦時占領と支配、植民地化こそを徹底して批判されなくてはならない。今やイスラエルとこれを支援する米国・G7 は、「人類の敵」であり「野蛮国」と呼ぶのがふさわしい。
パレスチナに平和と自由がない限り、私たちも自由ではない、平和ではない。
2)イスラエル社会に尊厳を取り戻す力はあるか?
イスラエル社会において、パレスチナ人に対する極端で人種差別的な非人間化が熱病的に広がっている。『タイムズ・オブ・イスラエル』紙や『エルサレム・ポスト』紙はパレスチナ人の大量虐殺を公然と呼びかけている。
ガザの全面的包囲攻撃を決定したイスラエル国防相ヨアヴ・ギャラントの言葉をここに記録しておく。「私はガザ地区の完全包囲を命令した。電気も食料も燃料も、すべてが閉鎖される。我々は人間の獣(human animals)と戦っているのだ。我々はそれに相応して行動する」
22年12月の政権発足当時36%だったネタニヤフ政権への支持率は、今では20%前後まで低下した。イスラエル国内でのネタニヤフ政権反対デモは確かに激化している。ただし、人質解放の声は大きいものの、即時停戦、パレスチナ人の大量虐殺非難へとは向かっていないようだ。富裕層の一部の国外脱出が続く。その一方で、貧困層やあとからイスラエルに来てパレスチナ人を追い出し土地を得た入植者は、右派政権の強力な支持層となっている。
ガザ戦争は長期化する! イスラエル軍首脳がこの軍事作戦は5ヵ月以上かかると認めた。予備役36万人を招集し、労働力は不足している。イスラエル産業の強みはIT産業だが、この産業からは約15%のエンジニア・労働者が軍務に入った。また、外国からの投資は激減しており、資金調達も深刻になる。イスラエルは戦争をできるだけ早く終わらせなければならない状況下にある。
暴露されたイスラエル政府文書が示す通り、ネタニヤフ政権は民族浄化、すなわちシナイ半島へのパレスチナ人の追い出しを狙っている。しかし、その実現性はない。対立と戦争が永遠に続くだけだ。
ガザ戦争を終えた後どうするのか、イスラエル首脳の誰も明確に語ることができない。仮に地下トンネルを支配したとしても、パレスチナ人々の心からパレスチナ国家樹立、ハマスへの支持を消すことはできない。永遠に戦時占領と支配が続く。そこに解決はない。民族浄化しパレスチナ人を追い出すことなどできないし、「大イスラエル」実現などできはしない。「怒りの連鎖」が続くばかりだ。
シオニストの夢は、イスラエル国家そのものの存立理由を失わせてしまうだろう。
3)米国のイスラエル支援こそ諸悪の根源だ!
堕落腐敗したバイデン/ネオコン政権は、シオニスト/イスラエル政権に武器を大量に送り込み、地中海に2つの空母群、砲艦を集結させ、イスラエルの大虐殺を支援している。英スナク首相は虐殺に声援を送っている。このガザ戦争中に欧米エネルギー資本は、イスラエル沖のガス田開発・生産の契約を行った。
ガザやパレスチナのどこであろうと、国連平和維持軍が国連決議を執行し、パレスチナ住民を保護したことなどこれまでなかった。パレスチナの犠牲者に対する慈悲のかけらも示してない。ましてやイスラエルに対して、これまで一度も満たしていない国連加盟の条件を強制すべき義務を負いながら、国連は70年にわたって放棄してきた。拒否権を発動し国連を機能不全した米国の責任はきわめて重いのだ。それを欧州や日本が追認している。
これまでつくり上げてきた米国とG7 主導の世界秩序は、イスラエルの責任追及などやりはしない。76年間に及ぶ歴史と証拠はそれを証明している。この米国主導の世界秩序そのものが問題なのだ! 米国と西側諸国、日本がこのような態度を改めないなら、世界は新しい秩序への転換を求めることになる。ガザ戦争の過程で、従来の米主導の世界秩序を終焉させ置き代える以外にないことが、明白になりつつあるのだ。
パレスチナ人大量虐殺を可能にし、加担しているすべての政府、組織、政権は、その責任を問われなければならない。
4)アラブ諸国、BRICS、グローバルサウスは即時停戦を求めている
アラブ諸国は米国を非難、中国・ロシアに期待、日本は蚊帳の外
11月11日、アラブ連盟、イスラム協力機構57ヵ国がサウジのリアドに参集し緊急首脳合同会談を開催し、共同声明を発表した。声明は、「ガザ戦争の即時停戦! 停戦を拒否する米国を強く非難する」内容だった。「西側諸国はウクライナで民間人を殺しているとロシアを非難しながら、イスラエルがガザで民間人を虐殺するのをすべて容認している」とし「偽善と二重基準、中東への無理解」を訴えた。米国のイスラエル支持こそ問題だとし、「ガザ地区での人命およびものの破壊インフラの破壊はイスラエルとその支持者アメリカに一方的に責任があり、イスラエルとアメリカにその賠償を求めると決定している」とまで表明した。
サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が「イスラエルへの武器輸出を停止するように世界に求めた」。イスラエルへの武器輸出の79%が米国から、20%がドイツからだ。米国とドイツに求めたのだ。
アルジェリアやカタールはイスラエルを支援する国(米国と欧州・日本)への原油・ガス輸出停止を提案したが、全参加国の合意にまでは至っていない。
57ヵ国は国際的な停戦支援を動員するため、代表団を中国、ロシア、英、仏に派遣している。中国/王毅外相は代表団と会談後、「アラブ・イスラム社会と協力し国際的な即時停戦を求める」と表明した。日本は蚊帳の外だ。米国にべったりの日本に来ても無駄だと端から判断されている。
米国に向けられたアラブ・イスラム世界の不満と不信感は頂点に達している。中東全域は中国とロシアにより大きな信頼を寄せており、「さようなら米国、こんにちは中国」(アルジャジーラ)が合言葉になっている。ロシアのプーチン大統領が、米国の軍事介入に対抗しシリアを一貫して揺るがずに支援し続けたことはアラブ諸国の首脳に感銘を与えた。それとは対照的に2011年エジプトのカイロ、タハリール広場に群衆が押し寄せた時、米政府がムラバク大統領を切り捨たことで不信感が広がった。ガザ戦争でアメリカ排除の流れは一挙に次の段階へ進む。
アラブ連盟、イスラム協力機構の要求する即時停戦に進展がなければ、イスラエルを支持する国(米国と欧州・日本)への石油・ガス禁輸、もしくは制限が日程に上ってくる。日本も大変だがその主な狙いは、デリバティブ金融商品を扱う米金融資本である。米金融資本こそがイスラエル支援の黒幕の一つだとする判断がそこにある。
5)世界戦争の危機!
「ウクライナ戦争での敗北がほぼ明らかになりつつある米バイデン・ネオコン政権は、ガザ戦争を中東戦争拡大する、特にイランを狙うことで挽回を企てている。ネオコンは全く懲りていない。」(ペペ・エスコバル)
イランとヒズボラはハマスの攻撃には関与していないが、ハマスを明確に支持している。イランやヒズボラは今のところ自重し、「米国を孤立させ、イスラエルの政治的敗北」に追いたてようとしている。
米国は地中海に二つの空母攻撃群をすでに派遣し、イスラエルのガザ攻撃をアラブ世界から保護している。11月19日、イランは超音速ミサイル「ファッタ2」を公表した。このミサイルは地中海に浮かぶ米空母を撃沈できる。マッハ10以上の「ファッタ2」を迎撃できるミサイルを米軍はまだ持っていない。その場合、米軍事力が対抗できるのは核兵器であり、中東戦争への拡大は核戦争への危険を一挙に高める。
6)岸田政権に求める!
パレスチナ人の大虐殺を、すぐやめさせろ!
バイデンに従って「イスラエルの自衛権」を支持するな! それは大虐殺への加担だ!
岸田首相は日本が世界中からどのようにみられているか知っているのだろうか? バイデンの「金魚の糞」だ。
/strong> 1973年に第4次中東戦争が勃発した時、米政府から「日本もイスラエルを支持して中東戦争に参戦してくれ!」と要請された。当時の田中角栄首相は「国益」から「日本はアラブから石油を買っている、中立を維持する」と明確に断った。そのあと角栄は米支配層によってロッキード事件で降ろされた。福田派ら自民党右派は米国の力を借りて政権に就いた。その結果、政権に就く政治家は米国への従属を徐々に深め、自民党すべてと野党の一部さえ米国に従属する現在の状態になった。並行して官僚もアメリカンスクール派が幅をきかせ、今では対米従属派一色となった。 岸田首相は、日本のエネルギー安全保障くらい対処しなくてはならない。今や日本の原油輸入の97%は中東からだ。せめて角栄と同じ主張くらいしたらどうだ! それくらいのこともできないか! 私たちは、現在進行中のパレスチナ人に対する大量虐殺を含む、あらゆる形態の戦時占領と支配、人種主義に終止符を打つことを求める。日本の「国益」ももちろん重要だが、それ以上に私たちは生命を尊重し平和と人権を求める立場から、即時停戦を要求する。 私たちは、日本政府がシオニストによるアパルトヘイト(人種隔離政策)を容認し、現在と過去の大量虐殺を傍観していることを非難する!日本政府に共犯者としての責任を問う。 そのために行動を起こそう! 瀕死のパレスチナ人を救えるかどうかは、私たち一人ひとりの行動にかかっている。虐殺はもうたくさんだ! 懲り懲りだ。すぐにやめさせろ! イスラエルは虐殺を止めろ! 戦闘を止めろ! ガザの包囲を解け! パレスチナを解放せよ! バイデン政権の支援こそが諸悪の根源だ! イスラエルとバイデン政権に、パレスチナ人虐殺犯罪の責任を問え! 岸田政権は即時停戦をイスラエルに求めろ! (12月1日記)
1)もう、たくさんだ! パレスチナ人の大量虐殺をやめろ!
11月末、数日間の戦闘中止に入り捕虜の一部を釈放したが、イスラエルは休止後、攻撃を再開するとしている。戦闘中断ではなく即時停戦を求める。
イスラエルはガザを破壊し、5,000人以上もの子どもを含む12,000人以上のパレスチナ人をすでに殺害した(11月末)。病院、国連の避難所、大学、住宅などへの爆撃は正当化できない。電気や水を奪うことも正当化できない。医療、市民防衛、食糧・生活物資供給、メディアで働く人たちが、死にもの狂いで仕事をし、文字通り死んでいる。なのに、国際社会はこれを放置したままだ。どうして私たちはこのような事態を毎日、目にしなければならないのか? どうして止められないのか?
ガザ最大のアル・シファ病院がイスラエルによって包囲され破壊されている。イスラエル軍は「病院の地下にハマスの最大の司令部がある」として攻撃しているが、病院の医師もハマスも「そこに司令部はない」と言っている。
アルジャジーラはアル・シファ病院の医療関係者の声を伝えた。(「越境3.0」石田和靖 11月16日、27日)
「アル・シファ病院には650人の患者が入院中。その内45人が腎臓透析患者、36人が未熟児。病院内には500人の医療スタッフと5,000人以上の難民がいる。・・・・イスラエルの無人機が病院を監視し、移動する者を射撃するため、医療スタッフも患者も避難民もアル・シファ病院の建物間を移動できないし、施設から出られない。・・・・イスラエル軍は病院から発砲があったと公表しているが、医療関係者たちは一切発砲していない。・・・私たちは患者を一人にさせることはない。ともに生き、共に死んでいく」。アル・シファ病院から医師・医療関係者はだれ一人避難していない。
どうしてこのようなことが起きるのか!
イスラエル軍は何と非道的なことをしているか!テロそのものだ。West Bank(ヨルダン川西岸地域)への入植もテロ行為だ。West Bankでは10月7日以降、500人以上のパレスチナ人がイスラエル軍と武装した入植者によって殺されている。
ハマスは日本政府も含めいくつかの政府から「テロ組織と認定」されているが、イスラエル政府こそテロ組織と認定されなくてはならない。76年の歴史と、殺害した桁違いの人数が、証明している。パレスチナ住民は違法に占領され、違法の包囲の下にあって、残酷に支配されている。しかし、イスラエルの虐殺行為が、テロ行為、テロリストだと非難されていない、おかしいだろう!
「イスラエルの自衛権」を主張する者は、パレスチナ人の自衛権を認めていない。ハマスをテロリストと呼ぶ。誰がこんなことを平然とした顔で言うのか!この吐き気をもよおすような中傷は「大量虐殺への扇動」に他ならない。
イスラエルはガザやヨルダン川西岸地域を軍事占領し、植民地支配している。そのことの不法性、残虐性をまず指摘し止めさせるべきだ。しかし、米政府とG7政府はこれを容認し支持する。人類に対する犯罪だ。米政府は、イスラエルに武器と資金を提供し、西側諸国政府は外交的にイスラエルを擁護する。岸田政権バイデン政権の言うままに従い、声を上げない。ジェノサイドは沈黙から始まることを知っているか!
ガザにおけるパレスチナ人の虐殺を即刻止めさせなればならない。イスラエルによるパレスチナ戦時占領と支配、植民地化こそを徹底して批判されなくてはならない。今やイスラエルとこれを支援する米国・G7 は、「人類の敵」であり「野蛮国」と呼ぶのがふさわしい。
パレスチナに平和と自由がない限り、私たちも自由ではない、平和ではない。
2)イスラエル社会に尊厳を取り戻す力はあるか?
イスラエル社会において、パレスチナ人に対する極端で人種差別的な非人間化が熱病的に広がっている。『タイムズ・オブ・イスラエル』紙や『エルサレム・ポスト』紙はパレスチナ人の大量虐殺を公然と呼びかけている。
ガザの全面的包囲攻撃を決定したイスラエル国防相ヨアヴ・ギャラントの言葉をここに記録しておく。「私はガザ地区の完全包囲を命令した。電気も食料も燃料も、すべてが閉鎖される。我々は人間の獣(human animals)と戦っているのだ。我々はそれに相応して行動する」
22年12月の政権発足当時36%だったネタニヤフ政権への支持率は、今では20%前後まで低下した。イスラエル国内でのネタニヤフ政権反対デモは確かに激化している。ただし、人質解放の声は大きいものの、即時停戦、パレスチナ人の大量虐殺非難へとは向かっていないようだ。富裕層の一部の国外脱出が続く。その一方で、貧困層やあとからイスラエルに来てパレスチナ人を追い出し土地を得た入植者は、右派政権の強力な支持層となっている。
ガザ戦争は長期化する! イスラエル軍首脳がこの軍事作戦は5ヵ月以上かかると認めた。予備役36万人を招集し、労働力は不足している。イスラエル産業の強みはIT産業だが、この産業からは約15%のエンジニア・労働者が軍務に入った。また、外国からの投資は激減しており、資金調達も深刻になる。イスラエルは戦争をできるだけ早く終わらせなければならない状況下にある。
暴露されたイスラエル政府文書が示す通り、ネタニヤフ政権は民族浄化、すなわちシナイ半島へのパレスチナ人の追い出しを狙っている。しかし、その実現性はない。対立と戦争が永遠に続くだけだ。
ガザ戦争を終えた後どうするのか、イスラエル首脳の誰も明確に語ることができない。仮に地下トンネルを支配したとしても、パレスチナ人々の心からパレスチナ国家樹立、ハマスへの支持を消すことはできない。永遠に戦時占領と支配が続く。そこに解決はない。民族浄化しパレスチナ人を追い出すことなどできないし、「大イスラエル」実現などできはしない。「怒りの連鎖」が続くばかりだ。
シオニストの夢は、イスラエル国家そのものの存立理由を失わせてしまうだろう。
3)米国のイスラエル支援こそ諸悪の根源だ!
堕落腐敗したバイデン/ネオコン政権は、シオニスト/イスラエル政権に武器を大量に送り込み、地中海に2つの空母群、砲艦を集結させ、イスラエルの大虐殺を支援している。英スナク首相は虐殺に声援を送っている。このガザ戦争中に欧米エネルギー資本は、イスラエル沖のガス田開発・生産の契約を行った。
ガザやパレスチナのどこであろうと、国連平和維持軍が国連決議を執行し、パレスチナ住民を保護したことなどこれまでなかった。パレスチナの犠牲者に対する慈悲のかけらも示してない。ましてやイスラエルに対して、これまで一度も満たしていない国連加盟の条件を強制すべき義務を負いながら、国連は70年にわたって放棄してきた。拒否権を発動し国連を機能不全した米国の責任はきわめて重いのだ。それを欧州や日本が追認している。
これまでつくり上げてきた米国とG7 主導の世界秩序は、イスラエルの責任追及などやりはしない。76年間に及ぶ歴史と証拠はそれを証明している。この米国主導の世界秩序そのものが問題なのだ! 米国と西側諸国、日本がこのような態度を改めないなら、世界は新しい秩序への転換を求めることになる。ガザ戦争の過程で、従来の米主導の世界秩序を終焉させ置き代える以外にないことが、明白になりつつあるのだ。
パレスチナ人大量虐殺を可能にし、加担しているすべての政府、組織、政権は、その責任を問われなければならない。
4)アラブ諸国、BRICS、グローバルサウスは即時停戦を求めている
アラブ諸国は米国を非難、中国・ロシアに期待、日本は蚊帳の外
11月11日、アラブ連盟、イスラム協力機構57ヵ国がサウジのリアドに参集し緊急首脳合同会談を開催し、共同声明を発表した。声明は、「ガザ戦争の即時停戦! 停戦を拒否する米国を強く非難する」内容だった。「西側諸国はウクライナで民間人を殺しているとロシアを非難しながら、イスラエルがガザで民間人を虐殺するのをすべて容認している」とし「偽善と二重基準、中東への無理解」を訴えた。米国のイスラエル支持こそ問題だとし、「ガザ地区での人命およびものの破壊インフラの破壊はイスラエルとその支持者アメリカに一方的に責任があり、イスラエルとアメリカにその賠償を求めると決定している」とまで表明した。
サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が「イスラエルへの武器輸出を停止するように世界に求めた」。イスラエルへの武器輸出の79%が米国から、20%がドイツからだ。米国とドイツに求めたのだ。
アルジェリアやカタールはイスラエルを支援する国(米国と欧州・日本)への原油・ガス輸出停止を提案したが、全参加国の合意にまでは至っていない。
57ヵ国は国際的な停戦支援を動員するため、代表団を中国、ロシア、英、仏に派遣している。中国/王毅外相は代表団と会談後、「アラブ・イスラム社会と協力し国際的な即時停戦を求める」と表明した。日本は蚊帳の外だ。米国にべったりの日本に来ても無駄だと端から判断されている。
米国に向けられたアラブ・イスラム世界の不満と不信感は頂点に達している。中東全域は中国とロシアにより大きな信頼を寄せており、「さようなら米国、こんにちは中国」(アルジャジーラ)が合言葉になっている。ロシアのプーチン大統領が、米国の軍事介入に対抗しシリアを一貫して揺るがずに支援し続けたことはアラブ諸国の首脳に感銘を与えた。それとは対照的に2011年エジプトのカイロ、タハリール広場に群衆が押し寄せた時、米政府がムラバク大統領を切り捨たことで不信感が広がった。ガザ戦争でアメリカ排除の流れは一挙に次の段階へ進む。
アラブ連盟、イスラム協力機構の要求する即時停戦に進展がなければ、イスラエルを支持する国(米国と欧州・日本)への石油・ガス禁輸、もしくは制限が日程に上ってくる。日本も大変だがその主な狙いは、デリバティブ金融商品を扱う米金融資本である。米金融資本こそがイスラエル支援の黒幕の一つだとする判断がそこにある。
5)世界戦争の危機!
「ウクライナ戦争での敗北がほぼ明らかになりつつある米バイデン・ネオコン政権は、ガザ戦争を中東戦争拡大する、特にイランを狙うことで挽回を企てている。ネオコンは全く懲りていない。」(ペペ・エスコバル)
イランとヒズボラはハマスの攻撃には関与していないが、ハマスを明確に支持している。イランやヒズボラは今のところ自重し、「米国を孤立させ、イスラエルの政治的敗北」に追いたてようとしている。
米国は地中海に二つの空母攻撃群をすでに派遣し、イスラエルのガザ攻撃をアラブ世界から保護している。11月19日、イランは超音速ミサイル「ファッタ2」を公表した。このミサイルは地中海に浮かぶ米空母を撃沈できる。マッハ10以上の「ファッタ2」を迎撃できるミサイルを米軍はまだ持っていない。その場合、米軍事力が対抗できるのは核兵器であり、中東戦争への拡大は核戦争への危険を一挙に高める。
6)岸田政権に求める!
パレスチナ人の大虐殺を、すぐやめさせろ!
バイデンに従って「イスラエルの自衛権」を支持するな! それは大虐殺への加担だ!
岸田首相は日本が世界中からどのようにみられているか知っているのだろうか? バイデンの「金魚の糞」だ。
/strong> 1973年に第4次中東戦争が勃発した時、米政府から「日本もイスラエルを支持して中東戦争に参戦してくれ!」と要請された。当時の田中角栄首相は「国益」から「日本はアラブから石油を買っている、中立を維持する」と明確に断った。そのあと角栄は米支配層によってロッキード事件で降ろされた。福田派ら自民党右派は米国の力を借りて政権に就いた。その結果、政権に就く政治家は米国への従属を徐々に深め、自民党すべてと野党の一部さえ米国に従属する現在の状態になった。並行して官僚もアメリカンスクール派が幅をきかせ、今では対米従属派一色となった。 岸田首相は、日本のエネルギー安全保障くらい対処しなくてはならない。今や日本の原油輸入の97%は中東からだ。せめて角栄と同じ主張くらいしたらどうだ! それくらいのこともできないか! 私たちは、現在進行中のパレスチナ人に対する大量虐殺を含む、あらゆる形態の戦時占領と支配、人種主義に終止符を打つことを求める。日本の「国益」ももちろん重要だが、それ以上に私たちは生命を尊重し平和と人権を求める立場から、即時停戦を要求する。 私たちは、日本政府がシオニストによるアパルトヘイト(人種隔離政策)を容認し、現在と過去の大量虐殺を傍観していることを非難する!日本政府に共犯者としての責任を問う。 そのために行動を起こそう! 瀕死のパレスチナ人を救えるかどうかは、私たち一人ひとりの行動にかかっている。虐殺はもうたくさんだ! 懲り懲りだ。すぐにやめさせろ! イスラエルは虐殺を止めろ! 戦闘を止めろ! ガザの包囲を解け! パレスチナを解放せよ! バイデン政権の支援こそが諸悪の根源だ! イスラエルとバイデン政権に、パレスチナ人虐殺犯罪の責任を問え! 岸田政権は即時停戦をイスラエルに求めろ! (12月1日記)
アブドゥッラー・オジャランのインタビューから [世界の動き]
藤永茂さんのブログ『私の闇の奥』を読んでいて、興味深かったので引用します。
アブドゥッラー・オジャランのインタビューから
オジャランは、1949年4月4日生まれ、75歳、クルディスタン労働者党(PKK)の創設メンバー、1999年から現在までトルコのイムラル刑務所の独房に収監。
インタビューは、1991年6月16日(湾岸戦争終了後4ヶ月の時点)、レバノンのベッカー高原での中川喜与志氏による。(中川喜与志著『クルド人とクルディスタン』 南方新社、2001年12月より)
*
****
オジャンラン: 日本は、米国の、極めて存在感の薄い、主体性のない、無人格な共犯者としての行動をとった。まるで村人が地主の言うことなら何でもそれに従うように(笑)。つまり極めて従属的な、そして無個性な政治である。あまりに主体性がない。あまりに限度知らずだ。90億ドルもの、しかも財源の当てのない巨額な資金を、米国の軍事独占資本家たちに送り届けた。ひと言で言えば、これは、日本政府の責任者が誰であれ、日本政府の主体性のなさを証明するものだ。明日また別の戦争が起こって、また日本が同じように米国を助け、追随するなら、日本はますます墓穴を掘ることになるだろう。
少なくとも独自の政策をもって登場していたなら、完全中立の立場であれ、調停者の立場であれ、この巨額の資金を使っていたなら、自国民の利益にもなったろうし、同時に中東の人々の利益にもなっただろうに・・・・。しかし、米国の政策にまったく異議を唱えることもなく、米国の命令に従ったことは、日本の人民の利益にも中東の人民の利益にも反する政策である。最悪の政策だ。こんな政策をとるべきではない。
このような隷属的な立場をとり続けるならば、それは現代において最も危険な、下男としての共犯政治となる。日本の野党がどのような態度をとったのか、詳しくは知らない。しかし私の考えでは、日本は強大な経済力をもった、しかしながら政治的な主体性を持っていない国家である。残念ながら、この事実を指摘しなければならない。言いたくはないのだが・・。経済の面ではあれほど創造的で豊かな力をもっているにもかかわらず、政治の面ではこれほどに無能である、無力である。これは深刻なる矛盾だ。・・・・・・・・
********************
32年後の現在でも、オジャランの政治的観察の鋭さに改めて感銘をうけます。中東、あるいは中東に限らず、グローバル・サウスの人々の抱く「日本観」ではないでしょうか?
アブドゥッラー・オジャランのインタビューから
オジャランは、1949年4月4日生まれ、75歳、クルディスタン労働者党(PKK)の創設メンバー、1999年から現在までトルコのイムラル刑務所の独房に収監。
インタビューは、1991年6月16日(湾岸戦争終了後4ヶ月の時点)、レバノンのベッカー高原での中川喜与志氏による。(中川喜与志著『クルド人とクルディスタン』 南方新社、2001年12月より)
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オジャンラン: 日本は、米国の、極めて存在感の薄い、主体性のない、無人格な共犯者としての行動をとった。まるで村人が地主の言うことなら何でもそれに従うように(笑)。つまり極めて従属的な、そして無個性な政治である。あまりに主体性がない。あまりに限度知らずだ。90億ドルもの、しかも財源の当てのない巨額な資金を、米国の軍事独占資本家たちに送り届けた。ひと言で言えば、これは、日本政府の責任者が誰であれ、日本政府の主体性のなさを証明するものだ。明日また別の戦争が起こって、また日本が同じように米国を助け、追随するなら、日本はますます墓穴を掘ることになるだろう。
少なくとも独自の政策をもって登場していたなら、完全中立の立場であれ、調停者の立場であれ、この巨額の資金を使っていたなら、自国民の利益にもなったろうし、同時に中東の人々の利益にもなっただろうに・・・・。しかし、米国の政策にまったく異議を唱えることもなく、米国の命令に従ったことは、日本の人民の利益にも中東の人民の利益にも反する政策である。最悪の政策だ。こんな政策をとるべきではない。
このような隷属的な立場をとり続けるならば、それは現代において最も危険な、下男としての共犯政治となる。日本の野党がどのような態度をとったのか、詳しくは知らない。しかし私の考えでは、日本は強大な経済力をもった、しかしながら政治的な主体性を持っていない国家である。残念ながら、この事実を指摘しなければならない。言いたくはないのだが・・。経済の面ではあれほど創造的で豊かな力をもっているにもかかわらず、政治の面ではこれほどに無能である、無力である。これは深刻なる矛盾だ。・・・・・・・・
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32年後の現在でも、オジャランの政治的観察の鋭さに改めて感銘をうけます。中東、あるいは中東に限らず、グローバル・サウスの人々の抱く「日本観」ではないでしょうか?
ウクライナ戦争 1)現時点は、停戦すべき戦況になっている [世界の動き]
友人の皆さんへ
「ウクライナ戦争とは何か? 私たちはどのような態度をとるべきか?」
突然このような文章を送ることをお許しください。
ウクライナ戦争続いています。どうしてこのようなことになったのか、どうしたら終わるのか、について以下の項目に従い、私の考えを一方的に書きました。ウクライナ戦争の背後にある対立の全内容を把握しなければならないと考えたため、ずいぶん長くなりました。友人の皆さんのお考えを聞かせていただければ幸いです。
1)現時点は、停戦すべき戦況になっている
2)ウクライナ戦争は、どうして起きたのか?
3)ロシアの言い分は正しいか?
4)ロシアは停戦に応じるか?
5)私たちはどのような態度をとるべきか?
日本のTV、新聞はすでに情報統制されています。みずから進んで統制されようとしている面さえあります。アメリカ政府、アメリカ戦争研究所(ネオコン)、CIA、豪戦争研究所、英政府 それらの情報を報じる主要メディア・・・・などから発信される情報がそのまま日本のTV、新聞で報道されています。その傾向は、ここ10年ほどで急速に強まりました。ウクライナ戦争を機に一段とひどくなりました。NHKはウクライナ政府、ウクライナ国営TVの報道を、真偽の検討もなくそのまま流しています。
一方、最近の日本の労働運動、平和運動、基地反対運動、環境運動、市民運動・・・・・など人々の側も、国際情勢にきわめて「疎い」のが特徴になっています。主要メディアの一方的な報道の影響下にあります。 国際情勢について、まともに研究していませんし、情報をきちんと得ようとする姿勢もその努力もありません。「国際主義」はどこに行ったのでしょうか?
私の立場は非戦です。ウクライナ戦争が早く終わること、もしくは停戦、あるいは休戦でもいい、とにかく目の前の戦争を止めることが重要だ、死者を出さないようにすることが平和運動であると考えています。そのよう立場から、私の考えを書きました。長いですがお付き合いください。
ウクライナ戦争
1)現時点は、停戦すべき戦況になっている
現時点の戦況は、一言でいえば、朝鮮戦争において休戦協定を締結するに至った状況ときわめてよく似てきています。ウクライナ戦争はすでに一年を超えており、戦争が始まった時期からも状況は大きく変わりました。犠牲者が多く、長期戦化し、「戦争をもはや続けられない」事態となりつつあります。
まず停戦すること、武器を送って戦争拡大してはなりません。平和運動、環境運動・・・・にかかわる市民はそのような立場に立つべきと考えます。まず、停戦すべき理由から始めます。
A:停戦すべき第一の理由
-ウクライナ兵/ロシア兵の死者が増え続けている
戦争から1年以上を経過し、犠牲者が増大しています。これが停戦すべき第一に理由です。即時停戦は多くの人の要求であると確信しています。
戦闘から1年を経たウクライナ戦線はどうなっているでしょうか?
ロシア政府、ウクライナ政府ともに正確な死者数を公表していません。アメリカ国防総省(23年2月)は、ウクライナ・ロシア双方とも戦死者は10万人以上と公表しました。すでにウクライナは相当数の兵を失っています。アメリカ国防総省の死者数は、実際よりは少ない「数」でしょう。なぜならば、これまでウクライナ政府、アメリカ政府ともに、「ウクライナ軍が勝った!」という宣伝に熱心であり、実際の死者数、被害を過少に公表してきた「実績」があるからです。戦況報道には、明らかに2種類あります。一つは、「レトリック」であり宣伝です。こう言った宣伝を払いのけ、客観的な戦況の把握に努めなければなりません。
ゼレンスキー政権の報道は、明らかに誇張と嘘があります。これまでのウクライナ政府の戦況報告を記録し時系列に並べてみれば、わかります。不審に思うなら一度やってみてください。22年11月15日、ウクライナ軍の迎撃ミサイルがポーランド領内に飛びポーランド人2名がなくなりました。アメリカ政府、NATOともにウクライナ軍の迎撃ミサイルによるとしましたが、ゼレンスキーは「ロシアのミサイルだ」という主張を最後まで下ろしませんでした。ウクライナ政府の報道は特に、そのまま受け取ってはならない、割引いて受け取らなくてはならないことを教えています。
(日本のTV、新聞はすでに、アメリカ政府、CIA、米戦争研究所などの情報+ウクライナ国営TVの報道を、そのまま流すだけです。例えば、NHKはウクライナ(政権)のTV報道をそのまま垂れ流しています。ロシアのTV報道は偽情報として報道しません。過去の報道の数の対比、扱い方を見れば明らかです。それから、事実や元の資料を報道しないで、識者?の見解だけ報道します。例えば、「プーチン演説」をそのまま報道するメディはなく、識者?の評価だけを報道しました。このような姿勢の報道機関・ジャーナリストは、「信用できない、もはやジャーナリスト/学者/報道機関ではない」ことを教えてくれています。)
ロシアの報道については、SPUTONIKを見ていますが、ウクライナTVのような誇張、嘘はより少ないことがわかります。ただし、ロシア側に立った主張であり、かつまたすべてのことがわかるわけではありません。戦死者数、ウクライナ軍の攻撃によるロシア軍側の被害などについては、軍事秘密扱いなのか正確な情報を伝えてはいません。
戦況報道は、一般的には自国側/自軍側を有利に報道する傾向があります。それしか情報がなければ、ジャーナリストは双方の情報を入手し、読み比べて戦況を判断します。すべてはわかりませんが、ある程度わかることはあります。日本ではそんなことさえしないジャーナリスト、TV報道、新聞報道ばかりです。それを鵜呑みにして語る人ばかりです。日本の市民運動、労働運動……にも、そういう人があまりに多いのです。
さて、戦況ですが、22年末から23年3月まで、ウクライナ軍の犠牲が急速に大きくなっています。特に東部戦線のバフムト攻防戦で多くのウクライナ兵士が死んでいます。特にロシア火砲の優位によりウクライナ兵の損失がロシア側より何倍も多い理由となっています。ワシントン・ポストは「ウクライナは損失により熟練した軍隊と軍需品が不足し悲観論が高まっている」(23年3月)と書いています。
ウクライナ軍の累計の死者数は、きわめて大雑把ですが、現時点までで私は、約25万人程度にのぼるのではないか、と推定しています。死んだ兵士の約3倍は負傷し兵としては役に立たなくなるとされていますので、約100万人程度のウクライナ兵がすでに失われているのではないでしょうか。(ウクライナ政府は死亡した兵、負傷した兵の数を公表はしていません。) 厳密に正確な戦死者数は、なかなかわかりません。ここで言いたいことは、兵士の死傷者数の多さからして、すでに停戦しなければならない戦況だということです。
22年11月30日にフォンデアライン欧州委員長が「ウクライナ兵死者数は10万人を超えた」と発言した後、そのyou tubeは消されました。フォンデアライン発言に対し、ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は翌12月1日、ウクライナ軍の戦死者は「1万~1万3,000人」だと反論しました(読売新聞オンライン)。フォンデアラインとて少なめに言うでしょうから、当時、少なくとも10万人以上の死者だったのでしょう。それからでも約4ヵ月が経過しています。
おそらく、ウクライナ軍は兵隊がいなくなりつつある状態でしょう。「ウクライナは過去9年間、アメリカの訓練を受けた下級将校の多くを失い、侵略開始時にウクライナ人がロシアの敵に差をつけるのを助けた指導者軍団を損なった」とウクライナ当局者は述べています。
SUPTONIKによれば、バフムトでの最近のウクライナ兵捕虜は50歳以上の高齢兵と20歳前の若者兵が多く、しかもほとんど訓練を受けていないと報道しています。NATOのポーランド兵やルーマニア兵(形式上は志願兵)、さらには元IS、アルカイダ系の傭兵もずいぶん入っており、その数%以上は戦死していると指摘されています。
ロシア軍も相当数、兵隊を失っています。詳細は分かりませんが、約10万人程度ではないでしょうか。仮にそうであれば、負傷者も含め約40万人となり、あくまで推定ですが、これとて膨大な人数です。最近の砲弾の数、ミサイル数、その頻度を比べると、ロシア軍が優勢のようですが、どちらかが優勢かではなく、すでに犠牲者が膨大な数に上っており、とにかく即時停戦すべき戦況なのです。
ウクライナ戦争は、そもそも「代理戦争」であり、現時点ではすでに「ロシア vs アメリカ/NATO間の戦争」に変質しています。アメリカ政府、NATOの「ロシア弱体化」という目的達成の前に、ウクライナ兵の死者増大、兵士枯渇、武器不足が起きています。停戦すべき第一の理由です。倫理的にも犠牲者を出し続ける意味がありません。
朝鮮戦争は3年たって、双方が消耗して、それまでの主張は降ろし、38度線を引いて休戦に入りました。38度線には何の「根拠」もありません。戦争をはじめてみたが、「もはや続けられない」と双方が判断する戦況まで進んだからです。当時、李承晩大統領は休戦に反対し「北進統一」を頑固に主張しましたが、アメリカ政府はこれを押し切り、休戦協定を締結しました。李承晩は休戦協定に参加せず署名もしていません。この時、李承晩はアメリカ政府のマリオネットでした。ゼレンスキーも似た存在であるのは明白でしょう。代理戦争であるからには停戦・休戦を決めるのはアメリカ/バイデン政権であり、ゼレンスキーではありません。
B:停戦すべき第二の理由
--ウクライナへの「支援疲れ」、欧米とロシアの衰退
NATOは武器支援/経済支援に躍起です。ウクライナの2022年のGDPは▲30%(ウクライナ政府による、日経)と公表しています。世界銀行は、2022年末までに国内総生産(GDP)が40%近く減少すると予測していました。詳細は不明でしょうが、ウクライナはすでに、十分破壊されています。
ウクライナはすでに経済的に破綻しています。ウクライナ政府単独では、すでに戦争を継続できません。ゼレンスキー大統領がアメリカやEUを歴訪し、毎回、武器支援、経済支援を訴えている理由です。武器だけではなく、食糧やあらゆる生活物資、建設資材、輸送機器、発電機・・・・・などを支援しなければ、戦争を続けられない状態に陥っています。
22年3月にはゼレンスキーは停戦に応じようとしました(後述)が、アメリカ政府が止めました。それ以降、停戦には応じない姿勢を貫いています。それはゼレンスキーが「クリミア奪還」を掲げたことに表現されています。「クリミア奪還」とは「停戦などしない、戦争継続する!」という意味です。ゼレンスキーは、アメリカのマリオネットでしょうから、ヌーランド米国務次官などのネオコンから言わされている可能性が高いでしょう。
おそらく、戦争をもはや続けることができなくなり、停戦もしくは休戦せざるを得ない状態に追い込まれつつあり、その時期は近いと思われます。しかし、「レオパルド2戦車提供」を決めましたから、アメリカ、NATOはやめるつもりはありません。
アメリカ、EUは「レオパルド2戦車」提供を決めたものの、春までに配備できそうにありません。仮に、大量の戦車を提供しても戦況を変えることはできません。ウクライナ軍はバフムト周辺には400両のT72などの戦車を配備していましたが、今やそのすべては破壊されました。和平合意のために少しでも有利となるよう一部地域を奪回しておきたいという程度の考えでしょうが、それさえ難しいと思われます。
戦車提供で戦況は変わるか?
※米陸軍退役軍人ダニエル・デイビス中佐 戦車戦専門家、元NATO騎兵隊副司令官のインタビュー記事。
ダニエル・デイビス 「戦車提供が戦況を変えると報道されているが、実際の戦闘現場ではそうではない。戦闘の90%は戦車を操縦する人の能力にかかっている。その能力育成には数年かかる。」、「戦車戦は、小隊としての戦闘、中隊としての戦闘、大隊としての戦闘などそれぞれ訓練による戦術習得が必要であり、かつまた歩兵や戦闘機・その他との連携した機動的な戦術の訓練など、・・・・6週間の訓練では不可能である。……我々は訓練に6年要した。…また(戦場での戦車の故障率は非常に高いため)戦車の修理・部品供給態勢の整備なども必須だ……」
このような戦況を、アメリカ軍、政府は認識しているはずです。しかしネオコンのバイデン政権にとって、ウクライナとウクライナ国民がどうなろうと眼中にありません。
おそらく、戦車提供にかかわる報道は、ドイツにもっと本気で戦争に関与するようにするバイデン/ネオコン政権による政治的圧力でしょう。私はそのように見ています。実際に、ショルツ首相はレオパルド2戦車提供に態度を転換し、ウクライナ支援継続を表明しました。
ウクライナ戦争は、米軍・NATO vs ロシアの戦争に変質しました。戦争は長期戦となり、ロシア、ウクライナともにどちらかが一方的に勝利することはもはやありません。そのため、アメリカ政府にとって、ヨーロッパ、とくにドイツを引き込もう、さらには日本からも支援金を出させたいというのが現局面です。バイデン政権は、あくまで戦争継続であり、決して停戦をする姿勢を見せていません。
一方、ロシアも犠牲と負担を負っています。しかしロシアは、戦争に対する耐性が予想以上にあることが、最近指摘されています。22年のロシアGDPは▲2.1%であり、大方の予想を裏切って「軽微な影響」しかありませんでした。NATO(=G7)が経済制裁しましたが、期待した効果を上げることはできませんでした。経済制裁に参加した国が少なかったこと、石油やガスの輸出先を欧州から中国、インドなどに切り替えたこと、石油・ガス価格が上がり収入が増えたことなどがその理由です。22年の経済収支は▲5兆円でしたが、外貨準備高が25兆円ほどありそれで補填しています。長期的には、ロシアも厳しい条件下ありますが、ウクライナに比べて予想外に「軽微」ではあり、プーチン政権とロシア社会の対応能力も指摘されています。ミサイル・砲弾・弾薬などの生産・供給は、NATOを凌駕しているとNATO関係者が語っています。
佐藤優氏は23年2月、大地塾(月例)での講演で、次のように語っています。
「……むしろ、ロシア防衛戦争として、多くのロシア国民がプーチン政権を支持するに至っている。プーチンの支持率は80%程度。22年9月、プーチン政権は予備役の招集を公表した。その時支持率が一旦60%台に落ち、22年はのべ200万人(観光客を含む)が国外に脱出したと報じられた。しかし、そのほとんどは帰国した。反プーチンの人たちの一部が欧州に出国したが、西側の報道・非難があまりにでたらめなことに失望し、多くの人は帰国した。アメリカ・NATOの目的が「ロシアの弱体化」「ロシアの分断支配」であることを知り、ロシア人は悲惨であったゴルバチョフ・エリチン時代を思い出した。ソ連社会主義解体後、欧米資本とその手先のオルガルヒが国有財産を略奪/簒奪してしまい、多くのロシア人は貧困に陥った。プーチンは不法に乗っ取られた石油やガスを再び国有化し、その収入(国家予算の約40%)を国民に再配分(年金・社会福祉費、軍事費……)し、数年で立て直した。国家資本主義態勢をさらに再編することで、ウクライナ戦争に対処しようとしている。 プーチンに批判的だった人もアメリカ・NATOの戦争目的を前にして、「これは仕方のない戦争だ」として、プーチンの戦争を支持するに至っている。カザフスタン、トルクメニスタン、ジョージアなどロシア語の通じる国への出国者は現地にとどまっているようだが、ほとんどが帰国した。プーチンの支持率も80%程度まで回復している。」(以上、佐藤優/大地塾での講演 23年2月)
プーチン政権とロシア社会の対応能力については、23年2月22日、プーチンの「一般教書演説」を参照ください。
現時点では、戦争が長期化するのは明白です。
停戦となる要因の一つとして、戦争を推進してきた側の「支援疲れ」が影響します。ロシアも疲弊していますが、ウクライナへの武器支援・経済支援で、アメリカ、欧州が疲弊し、アメリカ、欧州の弱体化が進みかねない状況が生まれています。そこからNATO内の分裂が目立ってきました。アメリカのネオコン政権は、ドイツ、フランスを武器支援、戦費調達の点でさらに一段と戦争に引き込みたいのですが、ドイツ、フランス、イタリアなどは嫌がっています。アメリカ、ポーランド、バルト三国、ルーマニアなどは、ポーズでしょうが、好戦的な姿勢を強めています。23年2月以降、NATO内の分裂が表面に出てきました。
また、戦車(レオパルド2)提供を決めたことに対し、独・仏・伊・オーストリア・スペインなどで、市民による「即時停戦!ウクライナへ武器を送るな! NATO即時撤退(もしくはNATO脱退)」を掲げた平和運動が急速に拡がりつつあります。特に戦争後1年を経過した2月26日、欧州各地で上記の「即時停戦!ウクライナへ武器を送るな! NATO即時撤退(もしくは脱退)」のスローガンを掲げたデモが繰り広げられました。これは「新たな、注目すべき動き」です。私はこれこそが「国際主義」だと評価しています。(日本の平和運動、市民運動、労働運動・・・は、この動きに注目しなければなりません。)
欧州経済はロシアの安いガスを受給できず、代わりに5~6倍の価格(長期契約でなくスポット価格であり、かつLNG船で運ぶため、高い!)であるアメリカのシェールガスに切り替えたため、ドイツの化学産業は一挙に衰退しその輸出力を失いました。ドイツ政府は企業と国民に多額の燃料補助金を支出せざるを得なくなりました。燃料価格・資源価格は高騰し、6~10%のインフレに見舞われ、欧州経済は後退局面に入りました。
アメリカはこれまですでにウクライナに武器支援に11兆円注ぎ込みました。その分米財政は赤字になります。武器支援の資金で実際には、アメリカ製武器を買うのでアメリカ軍産複合体に資金は流れてはいますが。あとは、汚職体質のウクライナ政府高官の懐にも流れます。アメリカ政府の支援とて無制限ではありません。
アメリカ政府の債務は23年1月19日に上限31.4兆ドルに達してしまいました。バイデン政権は、就任以来、大判振る舞いし、債務の増え方が異常です。オバマの8年間+トランプの4年間で使った以上の額をバイデンは2年間で使ってしまいました。債務上限額(31.4兆ドル)自体は、議会で引き上げることはできますが、現局面は米国債を買ってくれるところがありません。
米国債の買い手は、①商業銀行、②外国政府、③FRB ですが、世界経済は景気後退局面に入っていますので、この3者とも売っています。
ウクライナ戦線は膠着しており、戦争を継続するには、さらなる武器支援、食料・生活物資支援が必要です。米国内では下院が共和党多数となったため、特に23年夏以降、これまでのように際限なくウクライナに武器援助することはできなくなりました。
アメリカ政府も資金援助の限界が近づきつつあります。そのため23年半ばころには、停戦・休戦せざるを得ないのではないかと推定する報道が出はじめています。
C:停戦すべき第三の理由
-ー第3次世界大戦、核戦争の危機
停戦すべき第三の理由は、第3次世界大戦と核戦争の危機が現実化していることです。レオパルド2戦車に続き、ゼレンスキーは戦闘機、あるいは「297㎞の長距離射程の米国製ミサイルATACMS」を要求しています。ともに、現時点までアメリカ政府が提供を拒んできた兵器です。提供することになるかもしれません。(バイデン政権のネオコンが提供前の兵器を指定してゼレンスキーに要求させているという見方もあります。)
これらはさらなる戦争拡大、第3次世界大戦や核戦争の危機が現実化していることにほかなりません。ゼレンスキーは、単独では戦争を継続できないので、NATOを一段と戦争に引き込むことによって、自身が生き残りたいという立場にあります。ゼレンスキーはロシアに対して核兵器を使え!と公言しています。 欧米、日本のメディアは報じません。
こんななかで、23年2月中旬、ビクトリア・ヌーランド米国務次官(国務省No.2、ネオコン、夫はネオコンのロバート・ケイガン、2014年マイダン革命=クーデターを企て実行した中心人物)が「ゼレンスキー政府の主張するクリミア奪還を支持すべきだ」とする新たに主張しはじめました。これまでバイデン政権はクリミア奪還まで明言していませんでした。新たな戦争拡大・介入への発言です。ウクライナ戦線が膠着していても、ネオコンは決して「懲りていない」ことが分かった瞬間でした。極めて危険です。バイデン政権の中枢にいるのです。
これに対し、ネオコンでない米資本家層からでしょうか、批判が出ています。ヌーランド発言に対し、「ネオコンは核兵器を使うつもりだ、きわめて危険だ!」と感じ取りました。
ヘンリー・キッシンジャーが、23年1月ダボス会議で「第3次世界大戦を回避せよ! そのためには停戦せよ! NATOを東方拡大するな!」と提言しました。キッシンジャーは以前から、第3次世界大戦となる危険性/核戦争の危険性を指摘し続けています。「ネオコンのバイデン政権」の危険性をよく理解しているのでしょう。
イーロン・マスク(テスラ経営者)は、ヌーランド国務次官のクリミア攻撃発言は「ロシアに宣戦布告する発言で危険だ」と批判しました。23年2月23日 ツイッターで、「ヌーランドほどウクライナ戦争を推進している人はいない。(2014年のことを言っている。イーロンは「ウクライナ戦争は2014年から始まった」と主張している)。」と書き込みました。米主要メディアがネオコンに支配されていることも指摘してきました。イーロン・マスクのツィッター買収はそれに関連しているかもしれません。
トランプ前大統領は、2月23日、「ウクライナ紛争は、ヌーランドが戦争挑発して起きたものだ。」指摘しました。また「(自身が大統領であった時)政権内にいたネオコンやグローバリストたちから、戦争挑発のアドバイスを何度も受けたが、私は従わなかった。………私が唯一、戦争挑発を拒否した大統領だ。」と(誇張を含めて)述べています。
フランク・コスティオーラ/ネチカット大学名誉教授が、2月10日(金) ワシントン・ポスト論説記事で、冷戦に冷静に対処した米外交官ジョージ・ケナンの功績を讃え 「外交は冷戦の危機を救った、今日再びその力を発揮することができる」として、バイデン政権(ネオコン)の進める戦争政策を批判し、外交で解決せよと要求しました。こんな記事が、ワシントン・ポストのような主要メディアに載ったのは初めてです。これまでは決して載りませんでした。
ほかにも、Jack Matlock元ソ連大使、 William Perry元国務長官(クリントン政権時)、 John Mearsheimerシカゴ大学教授などが第3次世界大戦、核戦争の危機から、ウクライナ戦争を停戦せよ、外交交渉で解決せよと主張し始めています。2月20日のヌーランド発言を機に、これまで報道してこなかった主要メディア上での主張が目立つようになりました。ビクトリア・ヌーランドを名指しにしているのは、ヌーランドこそが戦争を推し進めている中心人物だと評価しているからでしょう。
※ なお、ジェフリー・サックス/コロンビア大学教授、ノーム・チョムスキーなど左派系米知識人の一部は、ウクライナ戦争が始まった当初から、「戦争の背景には、NATOの東方拡大がある、ウクライナ戦争は2014年から始まっている、決して22年2月24日からではない、即時停戦すべきだ」などと主張し続けており、メディアやネット上で大量の非難を浴びせられ続けられ、主要メディアからは排除されてきました。しかし、最近発言が再び注目されてきています。
D:停戦すべき第4の理由
--戦況の評価から――すでに停戦すべき時期だ
戦況の評価については、明らかに2種類の相反した評価が存在しています。
一つは、欧米主要メディア、ウクライナ政府からのウクライナ大勝利という戦況報道・評価です。これは「レトリック」にすぎません。日本の主要メディアはこれをそのまま報道しています。実態とは程遠く、宣伝のための報道、偽報道にほかなりません。このようなワイドショー報道に影響を受けているようではだめです。
「レトリック」ではないリアルな戦況評価を、報道を選び読み解くなか自身のなかにつくり上げなければなりません。できなければ騙され、コントロールされるだけです。
断片的に報じられる報道から「戦況」の把握に努める必要があります。断片的ですが、おおむね次の通りです。 〇すぐには決着がつかない、〇長期戦となる、〇全体としてウクライナ軍の武器・弾薬不足、〇膠着状態だがロシア軍やや優勢、〇そのなかでもバフムトでのロシア軍の地域的勝利、などが現時点の戦況の特徴でしょう。
注目した記事/報道を下記に記します。
23年2月16日、アメリカの三軍のトップ、マーク・ミリー統合参謀会議議長は「戦争は長期化する、どちらかが勝利する見込みはない」と発言。23年春以降に1,000台程度の戦車をウクライナに提供するという条件をも考慮して。
3月22日には、「ロシアもウクライナも軍事力によって目的を達成することはできないだろうと確信している」、「ある時点で、人々は、軍事手段を通じてこの戦争を実行し続けることのコストが非常に困難であることに気付くだろう」、「軍事的にロシアを完全にウクライナから追い出すのは非常に困難であり、莫大な血と財宝が必要だ」このため、「誰かが交渉のテーブルに着く方法を見つけようとしており、それが最終的にこの問題が解決される場所だ。トルコ、中国が和平案を提示している」と述べるに至っています。(ビジネスインサイダー)
2月6日ニューヨーク・タイムズ 「……劣勢で疲弊しきったウクライナ軍が東部戦線でロシア軍の攻撃を受けている。ロシアの総攻撃はすでに始まった。ウクライナ軍によるとバフムトは間もなく陥落するだろう。ウクライナ軍は第1次世界大戦型の古い塹壕型の消耗戦をやっている。第1次世界大戦がそうであったように資源を持つ側が勝利する。 ……となるとあの連中(ネオコン)は、必死な行動に出るだろう。NATO有志連合をロシアにぶつけるだろう。独仏はより消極的になり、NATOは分裂することになる。」
英テレグラフは、「ロシアは兵力数ではるかに有利である。楽観的な報道がなされているが、ロシアの軍備は膨大で、工場は24時間の生産体制、西側は長距離ミサイル、戦車、装甲車の提供を約束したが、間に合うとは思えない。我々は今後数週間のうちにロシアが大きな利益を売ることを覚悟しなければならない。現実的となる必要がある。そうでなければ衝撃によって西側の決意は揺らぐことになるだろう。」
また、中国人民解放軍直属の軍事科学院(軍の最高意思決定機関や中央軍事委員会への提言や報告がその役割)が、2022年12月ウクライナ情勢をめぐるシミュレーションをまとめており、それによれば「23年夏ごろ、ロシア軍が優勢なまま終局に向かう」、「ウクライナ、ロシアとも経済的疲弊が激しく、23年夏にも戦争継続が難しくなる」と評価しています。この評価に基づき停戦仲介案を提示しました(次の5)項で詳述)。
ほかにもあるでしょうし、今後も把握に努めなければならないでしょうが、今のところの戦況は概ね上記のようです。
実際の「戦況」からしても、即時停戦すべき時期となったと、私は考えています。
具体的には、停戦とは、まず双方が武力使用停止を合意すること。次に「ミンスク合意2」が停戦条件、あるいはその出発点として浮上してくるでしょう。
奏法の武力停止が重要です。「まず、ロシア軍の撤退」を主張する人がいますが、戦況を理解していませんし、現実的ではありません。双方が兵を引くことが重要です。ロシア軍の一方的撤退は、例えば、ブチャの虐殺のような悲劇、同じ悲劇が繰り返されるでしょう。ブチャの虐殺はウクライナ軍/ネオナチの仕業だととらえています。(ウクライナ軍/ネオナチの仕業と証言する当時現地にいた記者がいます。ウクライナ政府から犠牲者の身元がいまだに明らかにされないことも理由の一つです。「犠牲者は白腕章をしていた」とする映像もあります。・・・これらから上記のように判断しています。いずれ、全容がわかるでしょう。)
(続く)
ウクライナ戦争 2)ウクライナ戦争は、どうして起きたのか? [世界の動き]
ウクライナ戦争
2)ウクライナ戦争は、どうして起きたのか?
22年2月24日から始まったのか?
アメリカ政府・NATOによる「戦争計画」「戦争挑発」はあったのか?
私は即時停戦すべきだと主張しました。ではどのように、双方が軍を引きあげるのか? 「ミンスク合意2」が出発点となるでしょう。
「ミンスク合意」にも関わりますが、その前に、ウクライナ戦争はどうして起きたのか?を明らかにしておかなくてはなりません。この「問い」は重要です。欧米日の主要メディアは、22年2月24日のロシア侵攻によりウクライナ戦争が始まったと描き出しており、アメリカのネオコン政権の宣伝をそのまま受け入れています。日本の知識人、ジャーナリスト、市民運動・労働運動・・・にかかわる多くの人も、ここから議論をはじめます。
実際の戦闘は、22年2月24日にロシア軍の「特別軍事作戦」として、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まりました。確かに、その事実は間違いありません。しかし、この1年間でいろんな経過が明らかになってきました。
何が原因で、ウクライナ戦争が起きたのか、その背景は? ウクライナ戦争が起きた経過について把握しなければなりません。主要メディアの報道、「宣伝」ではなく、そうではないネット上の海外記事や発信から、戦争の実態の把握に努めなければなりません。現時点の戦況、被害の実態、対立と戦争の性格なども把握しなければなりません。どうしてウクライナ戦争が起きたのか?を検討する際に、アメリカ政府とNATOによるロシアへの「戦争計画、戦争準備」と「戦争挑発」が続いてきた事実もきちんと明らかにしなければなりません。私は、それら全体を把握したうえで判断しなければならないと考えるに至りました。
まず、アメリカ政府やNATOはロシアに対しどのように「戦争準備」「戦争挑発」してきたのか? 「ロシアには「特別軍事作戦」以外の選択肢はなかったのか?」という「問い」の検討から始めます。
A:メルケル前首相発言から
メルケル: 「ミンスク合意は、ウクライナが軍事力を強化するまでの時間稼ぎ」
2015年の「ミンスク合意」について、ドイツのメルケル前首相は、22年12月7日に公開されたドイツ紙「ツァイト(Die Zeit)」のインタビューで、「2014年から15年にかけてのウクライナの軍事力は今ほどではなかった」、「(ミンスク合意は)ウクライナが軍事力を強化するための『時間稼ぎ』を狙ったものだった」と語りました。メルケルは、「ミンスク合意」のなかの武力使用停止、人命保護などは表向けの言葉であり、目的ではなかったと述懐したのです。
「ミンスク合意」は、アメリカ政府とNATOにとって軍事支援し、ロシアと戦争できるまでにウクライナ軍を強化するのが当時の第一の目的であり、そのための時間稼ぎであったことを、当の交渉当事者であったメルケル前首相自身が認めたのです。ロシアを真の対話パートナーとみなしてはいなかったことも明らかになりました。「ミンスク合意」も含め、2014年マイダン革命以降から対ロシア戦争を準備していたというNATO側の本心が暴露されたことになります。
反故にされた「ミンスク合意」とは何でしょうか? 国連決議を踏まえた正式な国際条項に基づく合意(国連も認めた)合意です。22年12月になって、メルケル(メルケルだけではないでしょう、マクロン、ポロシェンコも)の告白により、世界中で顰蹙を買いましたが、合意そのものの廃棄は未だ決議されず生きています。
「ミンスク合意」の基本は武力衝突の永久禁止です。したがって、武力行使は合意への違反であり犯罪にほかなりません。欧州安全保障機構(OSCE)、相手のドンバス側がともに停戦監視を今も続けています。
ドンバス側の監視によれば、「口径122mm以上の重火器・榴弾砲などを撃つことは禁止条項に入っているのに、ウクライナ軍は当たり前のように違反を続けている、今では155mm NATO砲に格上げしている」と主張しています。停戦監視合同委員会は、ミサイル、大砲の発射回数、砲弾数を記録しており、その事実からして、「ミンスク合意」違反は一方的にウクライナ側であることは紛れもないと告発しています。一方、ポロシェンコ前大統領は、「ミンスク合意など遵守しなくていいんだ」と発言しています。この発言は日本のメディアでも報道されました。そうであるのに「ミンスク合意」違反は犯罪であることが、欧米でも日本でも、少しも報道されませんし指摘されません。
メルケル発言を聞き、22年12月9日、プーチンは、「ドイツ政府は誠実に行動しているとずっと思っていたが、予想外のことで失望した。メルケル氏の言葉は、ロシアが人々を守るために特別軍事作戦を始めたことが正しかったことを裏から証明するものだ。欧州諸国でさえ、どの国もミンスク合意を履行しようとせず、ウクライナを兵器で満たそうとしていただけだった」と述べています。そして、「このような発言の後では、どうすれば合意できるのか、合意する相手はいるのか、保証はあるのかという疑問が湧いてくる」と批判しました。それでもこの時プーチンは、「ウクライナ紛争を終わらせるためには最終的には合意を締結する必要がある」と述べています。
私は、メルケル前首相をはじめ、アメリカ政府、G7の指導者たちがこんな危険なことをしていたと知り、背筋が寒くなるような思い、恐ろしさを感じました。ドイツ統一の際に、「NATOは東方へは1インチも拡大しない」とゴルバチョフを騙したことといい、「ミンスク合意」でのメルケル、マクロンの「あしらい」といい、きわめて悪意に満ちた対応であり、野蛮で危険な振る舞いです。目的のためには平気で嘘をつき手段も選ばないこんな指導者に政権をゆだねておれば、第3次世界大戦や核戦争など、すぐに起きてしまいます。
「メルケル発言」は、22年2月24日以前に、アメリカ政府、NATO(G7)がロシアに対する「戦争計画」「戦争準備」を進めたことの証拠でもあります。そのなかで「戦争挑発があった」(ロシアが指摘している)ことも、一つ一つ検証されるべきでしょう。ご存知の方があればご教示ください。
メルケル発言は、ウクライナ軍による「ミンスク合意」違反のドンバス攻撃を止めるつもりはなく、ウクライナ側によるロシアに対する「戦争挑発」をやらせる意図があったことの証明でもあります。アメリカ/バイデン政権とNATOによる対ロシアの「戦争計画」の一環であることを示しています。
ウクライナ戦争がどうして始まったか? その「大元の原因」でもあります。この地域における対立の内容とは何か? 把握しなくてはなりません。
B:シーモア・ハーシュ「米国はいかにしてのルドストリームを破壊したか?」の記事から
シーモア・ハーシュ(85歳)は、伝説的な記者であり、1969年、ベトナム戦争中のウィリアム・カリー中尉によるソンミ村虐殺事件の暴露し(1970年度ピューリッツァー賞受賞)、またイラク戦争時のアブグレイブ刑務所における捕虜虐待を暴露しています。
シーモア・ハーシュが23年2月8日、「アメリカ政府はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したか?」という記事を公表し、22年9月のノルドストリームの爆破がアメリカ軍の仕業だと暴露したのです。
ハーシュによれば、22年6月のNATO軍事演習の際に、特別な訓練を受けたアメリカ海軍潜水夫がパイプライン(深さ80m)にC4爆弾を8ヵ所設置し、3ヵ月後の9月にノルウェ―海軍がソナーで爆破装置を作動(6発しか作動しなかった)させたとのことです。機材資材を準備し、かつ訓練を受けた軍にしか実行できません。(国防省内、米軍内のネオコンでない軍人や当事者がハーシュに情報をもたらしたようです。情報源を守ることにおいて、ハーシュにはその実績から「信頼」が寄せられているようです)。この計画は事前に準備され、その準備の上に21年12月には、アメリカ/バイデン政権(ブリンケン国務長官、サリバン補佐官、ヌーランド国務次官)が、ノルドストリーム爆破作戦の実行を決めていました。これは22年2月24日以前です。
また、遅くとも2月7日(バイデン―ショルツ会談)までに、バイデン政権は独ショルツ首相に、ロシアとの戦争が始まったらノルドストリームを爆破することを通告していました。22年9月に爆破されたときに、ショルツ首相が爆破者を非難しなかったのは、誰が犯人か知っていたからでした。バイデン政権によるノルドストリーム爆破の狙いは、ロシアからドイツを引きはがし、ウクライナ戦争、ロシアとの戦争に引きずり込むことだと推測されます。
バイデン政権によるノルドストリーム爆破計画は、「戦争計画」の一環にほかなりません。アメリカ政府、NATOが、ロシアとの戦争準備をしてきたことになります。爆破は、アメリカ軍+ノルウェ―軍の共同作戦ですが、それが事実なら、「戦争行為」です。ロシアは(ドイツも)賠償を求める権利がありますし、「戦争行為」ですから「報復」されても文句は言えません。
ハーシュの暴露記事が真実なら、バイデン政権、NATOが、対ロシアの「戦争準備、戦争計画」を具体的に進めてきたことになります。
この記事が公表されたあと、プーチンは、誰がノルドストリームを爆破したのか、国連調査を要請しました。すでに証人として、ジェフリー・サックス/・コロンビア大学教授、レイ・マガバーン元CIA幹部、CIAアナリストの2名呼ばれ証言しています。
(シーモア・ハーシュの記事 参照)
どうしてウクライナ戦争が起きたか? アメリカ、NATOの「戦争計画、戦争準備」がその背景にあったことが暴露されているわけです。
C:プーチン演説(23年2月22日)の内容から
欧米の主要メディアは、プーチン演説(23年2月22日)の内容を報道しませんが、ネット上ではプーチン演説を評価する声が、特にアメリア知識人の中から上がっています。日本では内容については報道されません。そもそも読もうとさえしていません。プーチンの指摘していることが事実なのかどうかを検討もせず、情報統制されたワイドショーで得た「断片的な知識」に影響・支配されています。日本の知識人の大半、ジャーナリストもそのような態度を示しているのは残念なことです。
⑴プーチン「この戦争は22年2月に始まったのではない」
プーチンは、「ドンバス戦争」(当時はウクライナ国内の戦争)は2014年から始まっている、「ウクライナ戦争」が2022年2月24日に、突然始まったのではないと主張し、2014年から継続した戦争であるとしています。
これは事実でしょうか? ウクライナ戦争が始まる経過を、まずきちんと把握しなければなりません。
調べてみれば、2014年からウクライナ国内で、ウクライナ軍/ネオナチの武装組織が東部ロシア系ウクライナ市民を一方的に攻撃し虐殺してきたことが、次々と明らかになります。2014年以降のウクライナ政府はステパン・バンデラの系譜であるネオナチ政権となっていますから、その人種差別思想から、ウクライナ人が至高であり、ロシア人は劣等人種であるとして、ロシア語系ウクライナ市民を攻撃してきました。ウクライナ軍とウクライナ市民との間の国内戦争(ドンバス戦争)です。
プーチン「我々はこの問題(ドンバス戦争)を平和的手段で解決するために、できる限りのことを行い、忍耐強く協議を行ってきた。しかし、我々の背後では全く別のシナリオが用意されていた。……それは、西側の指導者たちがドンバスの平和を目指すとした約束は口実であり、残酷な嘘だった。……西側はドンバスにおけるネオナチのテロ行為をますます奨励した。」
「ドンバスが燃え、血が流され、ロシアが誠実に、平和的解決に邁進していた時に、彼らは人々の命をもてあそんでいたのだ。」と述べています。
2014年以降のウクライナ内の戦争に対して、ロシア、ウクライナ、西側諸国首脳間で何度も交渉、協議を重ね平和的な解決を目指しました。その結果が「ミンスク合意」です。この時のウクライナ国内問題に対して、独仏露ウクライナ4国は「ミンスク合意」よって、①武器使用永久禁止、②ドンバス、ルガンスク両州の自治を認めさせる「平和的解決」をめざし、いったん合意しました。
しかし、ウクライナ政府は「ミンスク合意」を無視し、市民への攻撃をやめませんでしたし、西側指導者はウクライナ軍へ一方的に軍事支援を増大してきました。それはウクライナのネオナチ政権をけしかけたロシアとの「戦争計画」の一部でもありました。「ミンスク合意」を締結したものの、メルケルも、マクロンも、ポロシェンコも腹の中では和平合意など考えておらずまったくの芝居であったこと、プーチンだけが騙されていたことが、22年11月に最終的に判明しました。ウクライナ戦争に先行し、ウクライナ軍によるドンバス内戦があり、しかもそれはNATOの支持のもとにドンバス戦争を仕かけたというプーチンの説明は、実際にたどった経過であり、ほぼ間違いありません。
それから、プーチンだけでなく西側指導者であるNATOストルテンベルグ事務総長も、ウクライナ戦争が2022年2月ではなく、2014年から始まっていると23年に入って発言しています。
ストルテンベルグ「……この戦争は昨年2月に始まったものではない。2014年から始まっている。……2014年以降NATOはウクライナに訓練や装備を提供し、ウクライナ軍は2014年より2022年の方がはるかに強くなっている。」
ストルテンベルグは、NATOの支援によってウクライナ軍がはるかに強くなっていると言いたかったようですが、つい本音を漏らしてしまったようです。2014年からのウクライナ国内戦争(ドンバス戦争)もNATOの戦争計画の一部であったことを意味します。
したがって、私たちの問いは、こういう状況下――NATOとウクライナによる戦争挑発があり、さらにドンバス戦争が拡大されようとするなか――で、22年2月24日ロシアが「特別軍事作戦」としてウクライナへの侵攻始めたことは擁護できるか? ロシアにはそれ以外の選択肢はなかったのか? になります。
プーチンはそれ以外の選択肢はなかったと主張しています。果たしてそうなのか? を検討しなければなりません。
並行して、NATOの戦争計画こそより重大なウクライナ戦争の原因であり、より犯罪的ではないか、という問いが浮上してきます。その「問い」と比較検討したうえで、「プーチンの選択」を評価することになるでしょう。
少なくとも、西側の指導者は、ドンバス戦争を止めるつもりなどなく、さらにロシアとの戦争を準備してきたわけですから、これこそ「戦争挑発」です。「プーチンの選択」を非難する資格はありません。
⑵プーチン「NATOに平和条約を提案したのはロシアである」
プーチンは、なぜ「特別軍事作戦」を開始したのか?という問いかけに、次のように説明しています。
「2021年12月、我々は米国とNATOに対し、安全保障条約の草案を正式に送った。ところが、真っ向から拒否された。」、「この時、彼らが攻撃的な計画を実行に移すゴーサインを出し、それを止めるつもりがなかったことが、あとでわかった。」と。
このような経過は確かにありました。プーチンは2021年12月に提案し、バイデンは「検討する価値もない」と拒否しています。そのことを各メディア(Newsweekなど、多数)が報じていました。記事は残っています。
ウクライナ軍が軍隊を移動し、ドンバスでの大規模攻撃が起きるという緊迫した情勢を察知した故に、プーチンはNATOとの安全保障条約草案を提案したと主張しています。ドンバス戦争、ウクライナ戦争にロシアを引きずり込む戦争方針を決め作戦をすでに作動させていたバイデン/ネオコン政権は、これを拒否したというのが実情だと判断されます。
⑶プーチン「ウクライナ軍によるドンバス大規模戦争が予定されていた。」
プーチンは、「入ってくる情報からウクライナ軍は2022年2月までにドンバスで再び流血を起こす準備が万端に整えられていることは疑いようがなかった。……彼らはドンバスへの直接攻撃を試み、しかも封鎖、砲撃、民間人に対するテロを続けた。」
「こうしたすべてのことは、国連安全保障理事会が採択した決議に完全に違反している。にもかかわらず、西側指導者のすべてが何も起きていないふりをしていた。」と演説しています。
ドンバス地方にいるのは民間人であり、そこにウクライナ正規軍が軍の兵器とともに攻撃してきたらひとたまりもありません。それは2014年以降、起きたことです。ドンバス地方の人たちは、民兵組織をつくり何とか抵抗してきましたが、抵抗できるわけがありません。その結果、2014年以降、14,000人以上のドンバス地方の民間人(ロシア語系ウクライナ人)が殺され、最終的に280万人ものウクライナ人がロシアに避難しています。この市民への暴力、殺人(ドンバス戦争)について、2月24日以前に国連人権委員会に報告と解決のための提案が出されています。アムネスティ・インターナショナルも取り上げています。
しかし、西側指導者のうちだれ一人、これを何とかしなければならないと考えた者はいませんでした。バイデンも、メルケルも、マクロンも、です。ウクライナ政府とウクライナ軍にいかに軍事支援、兵器支援を行うことばかり考えており、ウクライナ内戦を止めようとはしませんでした。この経過は、過去の報道をたどれば明らかです。
西側のメディアは「ドンバスで虐殺があるなんてそんな証拠がどこにあるか!」という「報道」(というより「宣伝」)をあふれさせ、目をふさごうとしていました(その宣伝は残っています)。
確かにこの時、止めようとしたのは、ロシアのプーチンだけでした。この経過がどれほど事実か、きちんと検討しその全体像を把握しなければなりません。自分たちで調べなくてはなりません。検討しないで、「ロシアは悪」とする人は、アメリカ政府と米主要メディアの情報操作を繰り返しているだけです。
これもウクライナ戦争が起きた要因の一つです。
実際に「23年2月…ウクライナ軍によるドンバス大規模戦争が予定されていた・・・」かどうか、それが事実なのかどうかがの検証が必要です。引き続き調べていますが、ご存知の方があればお教えください。
⑷プーチン「戦争ビジネス」が背景にある
プーチン「西側によるキエフ政権武装のための費用は1,500億㌦(約20兆2,500億円)である。一方、ことになるウクライナのGDPは2,000億㌦である。GDPの3/4の額を支援したことになる。 OECDのデータによれば、同じ時期に、2020-2021年G7が世界の最貧国にどれだけ支援したか? それは600億㌦だけだった。それに比べ、ウクライナ一国の軍事支援のために1,500億㌦支出している。 ……他国の混乱やクーデターを助長するための資金は、G7から世界中へと惜しみなく注がれている。」
「‥…アメリカの専門家の試算では、2001年以降、アメリカが始めた戦争による死者数は90万人で、難民は3,800万人以上となった。……2022年、難民総数は1億人を超えた。……これがアメリカ、G7の推し進める世界であり、その結果だ。」
「……(バイデン/ネオコンは)民主主義と自由を装い、本質的には全体主義的な価値観を流布している。」
現代世界で、なぜこんなことが起きるのか? アメリカとNATOはこんなことを引き起こすのか? ということについてのプーチンの解釈と説明です。
私は、きわめて現実に即した描写・説明であり、説得的であると判断しています。これこそがG7が世界を支配する「やり方」だからです。戦争ビジネスであり大儲けするシステムがあり、それを動かす指導者がいます。ウクライナに武器支援してきました。ロシアを「戦争挑発してきた」ことは、ほぼその通りです。戦争ビジネスであり大儲けするシステムはアメリカとNATOだけが持っています。中国もロシアも持っていません。
アメリカとNATOが戦争を起こし支配する「やり方」が横行する理由・背景について、キチンと把握し批判しなければなりません。現代に生きる私たちは、これに対抗していかなければならならないからです。私たちの平和運動、市民運動、民主運動・・・・にとって必要です。本物の知識人であり続けるために、本物のジャーナリストであることを証明するためには、必要です。
バイデン政権、NATO、G7が、戦争準備・戦争挑発をしてきたことは、上記以外にほかにも、この先いくつも暴露されるでしょう。
プーチンの言う、ウクライナ戦争は22年2月24日から始まってはいない、2014年からだ、という主張は、一定の根拠を持っていると判断することができます。
「ウクライナ戦争は22年2月24日から始まった」ということだけから、戦争の性格、対立の内容を評価する主張を支持することはもはやできません。
プーチンは、ドンバス、ルガンスク両共和国からウクライナ軍から戦争を仕かけられているので支援してもらいたいという両国からの要請に基づき、集団的自営権を行使し、ロシア軍がウクライナ戦争(「特別軍事作戦」)を始めたとしています。その直前に、ドンバス、ルガンスク共和国は独立を宣言しています。2014年から2022年までは、ロシアから志願兵が両州に支援に行き、攻撃するウクライナ軍と戦闘してきました。両国の独立から支援要請、集団的自衛権行使の「特別軍事作戦」発動した論理には、賛成できない「危うい」ところがあります。
しかし、ロシア/プーチンの説明は、まず平和的解決をめざした、しかし、ウクライナ軍は攻撃をやめない、NATOはウクライナ軍へ軍事支援を増大させる、NATO加盟も日程にあげてきた、この経過は重要です。そのうえで評価することになります。
アメリカとNATOは止める機会を持っていたのに、意図的に無視しました。この地域へNATOの「戦争計画」が、ウクライナ戦争の大元の原因です。
ウクライナ戦争は、どうして起きたのか? を検討すれば、この地域における対立がその背景にあることが判明します。NATOの東方拡大であり、NATOがロシアへの軍事的脅威の拡大です。ウクライナのネオナチ政権に軍事支援し、戦争挑発をけしかけてきました。繰り返しますが、ウクライナ戦争の大元の原因です。
NATOの東方拡大がなければ、あるいはロシアに対して安全保障を確保し約束さえすれば、上記の「大元の原因」がなければ、ウクライナ戦争は起きていません。
さらには、ロシアが特別軍事作戦を侵開始する直前でも、(対立は回避しないでも)戦争を回避することは可能でした。ゼレンスキーが、NATO に加盟しないことを約束し、東部の 2州に高度な自治権を与えればそれで解決しました。ゼレンスキーだけでなく、おそらくアメリカの指導者もできたはずです。しかし実際にはそうしませんでした。逆に、ウクライナに戦争挑発させ戦争状態をつくり出し最終的には「ロシアの弱体化」を狙っていたからです。(続く)
2)ウクライナ戦争は、どうして起きたのか?
22年2月24日から始まったのか?
アメリカ政府・NATOによる「戦争計画」「戦争挑発」はあったのか?
私は即時停戦すべきだと主張しました。ではどのように、双方が軍を引きあげるのか? 「ミンスク合意2」が出発点となるでしょう。
「ミンスク合意」にも関わりますが、その前に、ウクライナ戦争はどうして起きたのか?を明らかにしておかなくてはなりません。この「問い」は重要です。欧米日の主要メディアは、22年2月24日のロシア侵攻によりウクライナ戦争が始まったと描き出しており、アメリカのネオコン政権の宣伝をそのまま受け入れています。日本の知識人、ジャーナリスト、市民運動・労働運動・・・にかかわる多くの人も、ここから議論をはじめます。
実際の戦闘は、22年2月24日にロシア軍の「特別軍事作戦」として、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まりました。確かに、その事実は間違いありません。しかし、この1年間でいろんな経過が明らかになってきました。
何が原因で、ウクライナ戦争が起きたのか、その背景は? ウクライナ戦争が起きた経過について把握しなければなりません。主要メディアの報道、「宣伝」ではなく、そうではないネット上の海外記事や発信から、戦争の実態の把握に努めなければなりません。現時点の戦況、被害の実態、対立と戦争の性格なども把握しなければなりません。どうしてウクライナ戦争が起きたのか?を検討する際に、アメリカ政府とNATOによるロシアへの「戦争計画、戦争準備」と「戦争挑発」が続いてきた事実もきちんと明らかにしなければなりません。私は、それら全体を把握したうえで判断しなければならないと考えるに至りました。
まず、アメリカ政府やNATOはロシアに対しどのように「戦争準備」「戦争挑発」してきたのか? 「ロシアには「特別軍事作戦」以外の選択肢はなかったのか?」という「問い」の検討から始めます。
A:メルケル前首相発言から
メルケル: 「ミンスク合意は、ウクライナが軍事力を強化するまでの時間稼ぎ」
2015年の「ミンスク合意」について、ドイツのメルケル前首相は、22年12月7日に公開されたドイツ紙「ツァイト(Die Zeit)」のインタビューで、「2014年から15年にかけてのウクライナの軍事力は今ほどではなかった」、「(ミンスク合意は)ウクライナが軍事力を強化するための『時間稼ぎ』を狙ったものだった」と語りました。メルケルは、「ミンスク合意」のなかの武力使用停止、人命保護などは表向けの言葉であり、目的ではなかったと述懐したのです。
「ミンスク合意」は、アメリカ政府とNATOにとって軍事支援し、ロシアと戦争できるまでにウクライナ軍を強化するのが当時の第一の目的であり、そのための時間稼ぎであったことを、当の交渉当事者であったメルケル前首相自身が認めたのです。ロシアを真の対話パートナーとみなしてはいなかったことも明らかになりました。「ミンスク合意」も含め、2014年マイダン革命以降から対ロシア戦争を準備していたというNATO側の本心が暴露されたことになります。
反故にされた「ミンスク合意」とは何でしょうか? 国連決議を踏まえた正式な国際条項に基づく合意(国連も認めた)合意です。22年12月になって、メルケル(メルケルだけではないでしょう、マクロン、ポロシェンコも)の告白により、世界中で顰蹙を買いましたが、合意そのものの廃棄は未だ決議されず生きています。
「ミンスク合意」の基本は武力衝突の永久禁止です。したがって、武力行使は合意への違反であり犯罪にほかなりません。欧州安全保障機構(OSCE)、相手のドンバス側がともに停戦監視を今も続けています。
ドンバス側の監視によれば、「口径122mm以上の重火器・榴弾砲などを撃つことは禁止条項に入っているのに、ウクライナ軍は当たり前のように違反を続けている、今では155mm NATO砲に格上げしている」と主張しています。停戦監視合同委員会は、ミサイル、大砲の発射回数、砲弾数を記録しており、その事実からして、「ミンスク合意」違反は一方的にウクライナ側であることは紛れもないと告発しています。一方、ポロシェンコ前大統領は、「ミンスク合意など遵守しなくていいんだ」と発言しています。この発言は日本のメディアでも報道されました。そうであるのに「ミンスク合意」違反は犯罪であることが、欧米でも日本でも、少しも報道されませんし指摘されません。
メルケル発言を聞き、22年12月9日、プーチンは、「ドイツ政府は誠実に行動しているとずっと思っていたが、予想外のことで失望した。メルケル氏の言葉は、ロシアが人々を守るために特別軍事作戦を始めたことが正しかったことを裏から証明するものだ。欧州諸国でさえ、どの国もミンスク合意を履行しようとせず、ウクライナを兵器で満たそうとしていただけだった」と述べています。そして、「このような発言の後では、どうすれば合意できるのか、合意する相手はいるのか、保証はあるのかという疑問が湧いてくる」と批判しました。それでもこの時プーチンは、「ウクライナ紛争を終わらせるためには最終的には合意を締結する必要がある」と述べています。
私は、メルケル前首相をはじめ、アメリカ政府、G7の指導者たちがこんな危険なことをしていたと知り、背筋が寒くなるような思い、恐ろしさを感じました。ドイツ統一の際に、「NATOは東方へは1インチも拡大しない」とゴルバチョフを騙したことといい、「ミンスク合意」でのメルケル、マクロンの「あしらい」といい、きわめて悪意に満ちた対応であり、野蛮で危険な振る舞いです。目的のためには平気で嘘をつき手段も選ばないこんな指導者に政権をゆだねておれば、第3次世界大戦や核戦争など、すぐに起きてしまいます。
「メルケル発言」は、22年2月24日以前に、アメリカ政府、NATO(G7)がロシアに対する「戦争計画」「戦争準備」を進めたことの証拠でもあります。そのなかで「戦争挑発があった」(ロシアが指摘している)ことも、一つ一つ検証されるべきでしょう。ご存知の方があればご教示ください。
メルケル発言は、ウクライナ軍による「ミンスク合意」違反のドンバス攻撃を止めるつもりはなく、ウクライナ側によるロシアに対する「戦争挑発」をやらせる意図があったことの証明でもあります。アメリカ/バイデン政権とNATOによる対ロシアの「戦争計画」の一環であることを示しています。
ウクライナ戦争がどうして始まったか? その「大元の原因」でもあります。この地域における対立の内容とは何か? 把握しなくてはなりません。
B:シーモア・ハーシュ「米国はいかにしてのルドストリームを破壊したか?」の記事から
シーモア・ハーシュ(85歳)は、伝説的な記者であり、1969年、ベトナム戦争中のウィリアム・カリー中尉によるソンミ村虐殺事件の暴露し(1970年度ピューリッツァー賞受賞)、またイラク戦争時のアブグレイブ刑務所における捕虜虐待を暴露しています。
シーモア・ハーシュが23年2月8日、「アメリカ政府はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したか?」という記事を公表し、22年9月のノルドストリームの爆破がアメリカ軍の仕業だと暴露したのです。
ハーシュによれば、22年6月のNATO軍事演習の際に、特別な訓練を受けたアメリカ海軍潜水夫がパイプライン(深さ80m)にC4爆弾を8ヵ所設置し、3ヵ月後の9月にノルウェ―海軍がソナーで爆破装置を作動(6発しか作動しなかった)させたとのことです。機材資材を準備し、かつ訓練を受けた軍にしか実行できません。(国防省内、米軍内のネオコンでない軍人や当事者がハーシュに情報をもたらしたようです。情報源を守ることにおいて、ハーシュにはその実績から「信頼」が寄せられているようです)。この計画は事前に準備され、その準備の上に21年12月には、アメリカ/バイデン政権(ブリンケン国務長官、サリバン補佐官、ヌーランド国務次官)が、ノルドストリーム爆破作戦の実行を決めていました。これは22年2月24日以前です。
また、遅くとも2月7日(バイデン―ショルツ会談)までに、バイデン政権は独ショルツ首相に、ロシアとの戦争が始まったらノルドストリームを爆破することを通告していました。22年9月に爆破されたときに、ショルツ首相が爆破者を非難しなかったのは、誰が犯人か知っていたからでした。バイデン政権によるノルドストリーム爆破の狙いは、ロシアからドイツを引きはがし、ウクライナ戦争、ロシアとの戦争に引きずり込むことだと推測されます。
バイデン政権によるノルドストリーム爆破計画は、「戦争計画」の一環にほかなりません。アメリカ政府、NATOが、ロシアとの戦争準備をしてきたことになります。爆破は、アメリカ軍+ノルウェ―軍の共同作戦ですが、それが事実なら、「戦争行為」です。ロシアは(ドイツも)賠償を求める権利がありますし、「戦争行為」ですから「報復」されても文句は言えません。
ハーシュの暴露記事が真実なら、バイデン政権、NATOが、対ロシアの「戦争準備、戦争計画」を具体的に進めてきたことになります。
この記事が公表されたあと、プーチンは、誰がノルドストリームを爆破したのか、国連調査を要請しました。すでに証人として、ジェフリー・サックス/・コロンビア大学教授、レイ・マガバーン元CIA幹部、CIAアナリストの2名呼ばれ証言しています。
(シーモア・ハーシュの記事 参照)
どうしてウクライナ戦争が起きたか? アメリカ、NATOの「戦争計画、戦争準備」がその背景にあったことが暴露されているわけです。
C:プーチン演説(23年2月22日)の内容から
欧米の主要メディアは、プーチン演説(23年2月22日)の内容を報道しませんが、ネット上ではプーチン演説を評価する声が、特にアメリア知識人の中から上がっています。日本では内容については報道されません。そもそも読もうとさえしていません。プーチンの指摘していることが事実なのかどうかを検討もせず、情報統制されたワイドショーで得た「断片的な知識」に影響・支配されています。日本の知識人の大半、ジャーナリストもそのような態度を示しているのは残念なことです。
⑴プーチン「この戦争は22年2月に始まったのではない」
プーチンは、「ドンバス戦争」(当時はウクライナ国内の戦争)は2014年から始まっている、「ウクライナ戦争」が2022年2月24日に、突然始まったのではないと主張し、2014年から継続した戦争であるとしています。
これは事実でしょうか? ウクライナ戦争が始まる経過を、まずきちんと把握しなければなりません。
調べてみれば、2014年からウクライナ国内で、ウクライナ軍/ネオナチの武装組織が東部ロシア系ウクライナ市民を一方的に攻撃し虐殺してきたことが、次々と明らかになります。2014年以降のウクライナ政府はステパン・バンデラの系譜であるネオナチ政権となっていますから、その人種差別思想から、ウクライナ人が至高であり、ロシア人は劣等人種であるとして、ロシア語系ウクライナ市民を攻撃してきました。ウクライナ軍とウクライナ市民との間の国内戦争(ドンバス戦争)です。
プーチン「我々はこの問題(ドンバス戦争)を平和的手段で解決するために、できる限りのことを行い、忍耐強く協議を行ってきた。しかし、我々の背後では全く別のシナリオが用意されていた。……それは、西側の指導者たちがドンバスの平和を目指すとした約束は口実であり、残酷な嘘だった。……西側はドンバスにおけるネオナチのテロ行為をますます奨励した。」
「ドンバスが燃え、血が流され、ロシアが誠実に、平和的解決に邁進していた時に、彼らは人々の命をもてあそんでいたのだ。」と述べています。
2014年以降のウクライナ内の戦争に対して、ロシア、ウクライナ、西側諸国首脳間で何度も交渉、協議を重ね平和的な解決を目指しました。その結果が「ミンスク合意」です。この時のウクライナ国内問題に対して、独仏露ウクライナ4国は「ミンスク合意」よって、①武器使用永久禁止、②ドンバス、ルガンスク両州の自治を認めさせる「平和的解決」をめざし、いったん合意しました。
しかし、ウクライナ政府は「ミンスク合意」を無視し、市民への攻撃をやめませんでしたし、西側指導者はウクライナ軍へ一方的に軍事支援を増大してきました。それはウクライナのネオナチ政権をけしかけたロシアとの「戦争計画」の一部でもありました。「ミンスク合意」を締結したものの、メルケルも、マクロンも、ポロシェンコも腹の中では和平合意など考えておらずまったくの芝居であったこと、プーチンだけが騙されていたことが、22年11月に最終的に判明しました。ウクライナ戦争に先行し、ウクライナ軍によるドンバス内戦があり、しかもそれはNATOの支持のもとにドンバス戦争を仕かけたというプーチンの説明は、実際にたどった経過であり、ほぼ間違いありません。
それから、プーチンだけでなく西側指導者であるNATOストルテンベルグ事務総長も、ウクライナ戦争が2022年2月ではなく、2014年から始まっていると23年に入って発言しています。
ストルテンベルグ「……この戦争は昨年2月に始まったものではない。2014年から始まっている。……2014年以降NATOはウクライナに訓練や装備を提供し、ウクライナ軍は2014年より2022年の方がはるかに強くなっている。」
ストルテンベルグは、NATOの支援によってウクライナ軍がはるかに強くなっていると言いたかったようですが、つい本音を漏らしてしまったようです。2014年からのウクライナ国内戦争(ドンバス戦争)もNATOの戦争計画の一部であったことを意味します。
したがって、私たちの問いは、こういう状況下――NATOとウクライナによる戦争挑発があり、さらにドンバス戦争が拡大されようとするなか――で、22年2月24日ロシアが「特別軍事作戦」としてウクライナへの侵攻始めたことは擁護できるか? ロシアにはそれ以外の選択肢はなかったのか? になります。
プーチンはそれ以外の選択肢はなかったと主張しています。果たしてそうなのか? を検討しなければなりません。
並行して、NATOの戦争計画こそより重大なウクライナ戦争の原因であり、より犯罪的ではないか、という問いが浮上してきます。その「問い」と比較検討したうえで、「プーチンの選択」を評価することになるでしょう。
少なくとも、西側の指導者は、ドンバス戦争を止めるつもりなどなく、さらにロシアとの戦争を準備してきたわけですから、これこそ「戦争挑発」です。「プーチンの選択」を非難する資格はありません。
⑵プーチン「NATOに平和条約を提案したのはロシアである」
プーチンは、なぜ「特別軍事作戦」を開始したのか?という問いかけに、次のように説明しています。
「2021年12月、我々は米国とNATOに対し、安全保障条約の草案を正式に送った。ところが、真っ向から拒否された。」、「この時、彼らが攻撃的な計画を実行に移すゴーサインを出し、それを止めるつもりがなかったことが、あとでわかった。」と。
このような経過は確かにありました。プーチンは2021年12月に提案し、バイデンは「検討する価値もない」と拒否しています。そのことを各メディア(Newsweekなど、多数)が報じていました。記事は残っています。
ウクライナ軍が軍隊を移動し、ドンバスでの大規模攻撃が起きるという緊迫した情勢を察知した故に、プーチンはNATOとの安全保障条約草案を提案したと主張しています。ドンバス戦争、ウクライナ戦争にロシアを引きずり込む戦争方針を決め作戦をすでに作動させていたバイデン/ネオコン政権は、これを拒否したというのが実情だと判断されます。
⑶プーチン「ウクライナ軍によるドンバス大規模戦争が予定されていた。」
プーチンは、「入ってくる情報からウクライナ軍は2022年2月までにドンバスで再び流血を起こす準備が万端に整えられていることは疑いようがなかった。……彼らはドンバスへの直接攻撃を試み、しかも封鎖、砲撃、民間人に対するテロを続けた。」
「こうしたすべてのことは、国連安全保障理事会が採択した決議に完全に違反している。にもかかわらず、西側指導者のすべてが何も起きていないふりをしていた。」と演説しています。
ドンバス地方にいるのは民間人であり、そこにウクライナ正規軍が軍の兵器とともに攻撃してきたらひとたまりもありません。それは2014年以降、起きたことです。ドンバス地方の人たちは、民兵組織をつくり何とか抵抗してきましたが、抵抗できるわけがありません。その結果、2014年以降、14,000人以上のドンバス地方の民間人(ロシア語系ウクライナ人)が殺され、最終的に280万人ものウクライナ人がロシアに避難しています。この市民への暴力、殺人(ドンバス戦争)について、2月24日以前に国連人権委員会に報告と解決のための提案が出されています。アムネスティ・インターナショナルも取り上げています。
しかし、西側指導者のうちだれ一人、これを何とかしなければならないと考えた者はいませんでした。バイデンも、メルケルも、マクロンも、です。ウクライナ政府とウクライナ軍にいかに軍事支援、兵器支援を行うことばかり考えており、ウクライナ内戦を止めようとはしませんでした。この経過は、過去の報道をたどれば明らかです。
西側のメディアは「ドンバスで虐殺があるなんてそんな証拠がどこにあるか!」という「報道」(というより「宣伝」)をあふれさせ、目をふさごうとしていました(その宣伝は残っています)。
確かにこの時、止めようとしたのは、ロシアのプーチンだけでした。この経過がどれほど事実か、きちんと検討しその全体像を把握しなければなりません。自分たちで調べなくてはなりません。検討しないで、「ロシアは悪」とする人は、アメリカ政府と米主要メディアの情報操作を繰り返しているだけです。
これもウクライナ戦争が起きた要因の一つです。
実際に「23年2月…ウクライナ軍によるドンバス大規模戦争が予定されていた・・・」かどうか、それが事実なのかどうかがの検証が必要です。引き続き調べていますが、ご存知の方があればお教えください。
⑷プーチン「戦争ビジネス」が背景にある
プーチン「西側によるキエフ政権武装のための費用は1,500億㌦(約20兆2,500億円)である。一方、ことになるウクライナのGDPは2,000億㌦である。GDPの3/4の額を支援したことになる。 OECDのデータによれば、同じ時期に、2020-2021年G7が世界の最貧国にどれだけ支援したか? それは600億㌦だけだった。それに比べ、ウクライナ一国の軍事支援のために1,500億㌦支出している。 ……他国の混乱やクーデターを助長するための資金は、G7から世界中へと惜しみなく注がれている。」
「‥…アメリカの専門家の試算では、2001年以降、アメリカが始めた戦争による死者数は90万人で、難民は3,800万人以上となった。……2022年、難民総数は1億人を超えた。……これがアメリカ、G7の推し進める世界であり、その結果だ。」
「……(バイデン/ネオコンは)民主主義と自由を装い、本質的には全体主義的な価値観を流布している。」
現代世界で、なぜこんなことが起きるのか? アメリカとNATOはこんなことを引き起こすのか? ということについてのプーチンの解釈と説明です。
私は、きわめて現実に即した描写・説明であり、説得的であると判断しています。これこそがG7が世界を支配する「やり方」だからです。戦争ビジネスであり大儲けするシステムがあり、それを動かす指導者がいます。ウクライナに武器支援してきました。ロシアを「戦争挑発してきた」ことは、ほぼその通りです。戦争ビジネスであり大儲けするシステムはアメリカとNATOだけが持っています。中国もロシアも持っていません。
アメリカとNATOが戦争を起こし支配する「やり方」が横行する理由・背景について、キチンと把握し批判しなければなりません。現代に生きる私たちは、これに対抗していかなければならならないからです。私たちの平和運動、市民運動、民主運動・・・・にとって必要です。本物の知識人であり続けるために、本物のジャーナリストであることを証明するためには、必要です。
バイデン政権、NATO、G7が、戦争準備・戦争挑発をしてきたことは、上記以外にほかにも、この先いくつも暴露されるでしょう。
プーチンの言う、ウクライナ戦争は22年2月24日から始まってはいない、2014年からだ、という主張は、一定の根拠を持っていると判断することができます。
「ウクライナ戦争は22年2月24日から始まった」ということだけから、戦争の性格、対立の内容を評価する主張を支持することはもはやできません。
プーチンは、ドンバス、ルガンスク両共和国からウクライナ軍から戦争を仕かけられているので支援してもらいたいという両国からの要請に基づき、集団的自営権を行使し、ロシア軍がウクライナ戦争(「特別軍事作戦」)を始めたとしています。その直前に、ドンバス、ルガンスク共和国は独立を宣言しています。2014年から2022年までは、ロシアから志願兵が両州に支援に行き、攻撃するウクライナ軍と戦闘してきました。両国の独立から支援要請、集団的自衛権行使の「特別軍事作戦」発動した論理には、賛成できない「危うい」ところがあります。
しかし、ロシア/プーチンの説明は、まず平和的解決をめざした、しかし、ウクライナ軍は攻撃をやめない、NATOはウクライナ軍へ軍事支援を増大させる、NATO加盟も日程にあげてきた、この経過は重要です。そのうえで評価することになります。
アメリカとNATOは止める機会を持っていたのに、意図的に無視しました。この地域へNATOの「戦争計画」が、ウクライナ戦争の大元の原因です。
ウクライナ戦争は、どうして起きたのか? を検討すれば、この地域における対立がその背景にあることが判明します。NATOの東方拡大であり、NATOがロシアへの軍事的脅威の拡大です。ウクライナのネオナチ政権に軍事支援し、戦争挑発をけしかけてきました。繰り返しますが、ウクライナ戦争の大元の原因です。
NATOの東方拡大がなければ、あるいはロシアに対して安全保障を確保し約束さえすれば、上記の「大元の原因」がなければ、ウクライナ戦争は起きていません。
さらには、ロシアが特別軍事作戦を侵開始する直前でも、(対立は回避しないでも)戦争を回避することは可能でした。ゼレンスキーが、NATO に加盟しないことを約束し、東部の 2州に高度な自治権を与えればそれで解決しました。ゼレンスキーだけでなく、おそらくアメリカの指導者もできたはずです。しかし実際にはそうしませんでした。逆に、ウクライナに戦争挑発させ戦争状態をつくり出し最終的には「ロシアの弱体化」を狙っていたからです。(続く)
ウクライナ戦争 3)ロシアの言い分は正しいか? [世界の動き]
ウクライナ戦争
3)ロシアの言い分は正しいか?
ロシアにも言い分はあります。その検討をするべきでしょう。
ロシアの要求(「特別軍事作戦」の目的)は、A ウクライナの非軍事化、NATO非加盟、 B ウクライナ政府の非ナチ化 であると主張しましたし、現在もそのように主張しています。
A ロシアの要求「ウクライナの非軍事化、NATO非加盟」に根拠はあるか?
「ウクライナがNATO に加盟すれば、モスクワまでの距離は500㎞となり、そこにNATOが戦略核兵器を配備すれば、ロシアは安全保障の戦略を失ってしまいます」(23年1月、ダボス会議でキッシンジャーの発言)。
おそらく、その通りなのでしょう。私は「核軍事戦略」が、どのようにして「均衡」を保っているのか?・・・・について詳しくありませんので、詳しい方に教えていただきたいと思っています。
ウクライナ戦争を引き起こした歴史的な背景は、NATOの東方拡大にあります。1991年ソ連解体の直前にワルシャワ条約機構は廃止されました。しかし、これに対抗し組織されていたNATOは廃止されず、それどころかじわじわと東方へ拡大していきました。すでにポーランド、バルト3国が加盟し、ウクライナ加盟が日程に上がってきました。NATOは軍事同盟です。加盟すれば、戦略核ミサイルを含めあらゆる軍事力の配備が可能になります。これはロシアの安全保障にとって極めて重大な脅威です。ロシアは一貫してNATOの東方拡大を止めるよう求めてきましたが、NATO側は無視してきました。
ロシアの安全保障にとって重大な脅威であることには間違いありません。
1960年代初めアメリカはソ連を攻撃可能な大陸間弾道ミサイルだけでなく、西ヨーロッパとトルコに中距離核ミサイルを配備しました。これに対抗し1962年夏、ソ連はキューバに密かに核ミサイルと発射台などを配備しました。これを知ったアメリカ/ケネディ政権は、核ミサイルの撤去を迫りました。当時のケネディ政権は重大な脅威と感じたのでしょう。最終的にケネディ大統領とフルシチョフ第一書記の交渉により、ソ連が核ミサイルを撤去してこの危機は一応、収まりました。
アメリカ政府は、核ミサイルが近い距離に配備されれば核戦略は崩れることをよく知っているはずです。そうであるのに、この30年、一方的にNATOを東方へ拡大してきたわけです。
22年2月27日(日)フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」で、安倍元首相がプーチンの意図について問われ、安倍首相の「理解」を述べています。
安倍「プーチンの意図はNATOの拡大、それがウクライナに拡大するという事は絶対に許さない、東部二州の論理でいえば、かつてボスニア・ヘルツェゴビナやコソボが分離・独立した際には西側が擁護したではないか、その西側の論理をプーチンが使おうとしているではないかと思う。」、
「プーチンは基本的に米国に不信感をもっているんですね。NATOを拡大しないことになっているのにどんどん拡大している・・・・・・。ポーランドにTHAADミサイルサードミサイルまで配備している……プーチンとしては領土的野心という事ではなくて、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしていることもあるだろうと思います・・・・・・。」 (孫崎享ブログ23年3月25日から)
ここに「大元の原因」があります。これはだれしも認めるところでしょう。ウクライナ戦争は停戦すべきですが、戦争と対立の危機を最終的になくすには、NATOの東方拡大をやめること、軍事同盟NATOによる脅威でもって世界を脅し支配するアメリカ政府の現在のやり方をやめること、最終的にはNATO解体することが必要になるでしょう。
そのような認識をぜひ多くの人と共有したいと希望します。この「真実」を「忘れる権利」は、誰にもありません。常に意識し、事態に対応しなくてはなりません。
私は、ロシアによる「ウクライナのNATO非加盟」「ウクライナの非軍事化」の要求には正当な根拠があると判断しています。
B ロシアの要求 「ウクライナ政府の非ナチ化」
B-1:ウクライナ政府はネオナチ政権なのか?
まず、ウクライナ政府がネオナチかどうかですが、この一年、意識的に調べてきました。やはりネオナチです。ステパン・バンデラの系譜であるネオナチ集団が権力を握っており、恐怖政治を敷いています。最近ではいくつかの報道が出てくるようになりました。しかし、西側政府と主要マスメディアは、これを意図的に隠しています。
ウクライナ政府の呼びかけに応じて、世界の極右団体(=ナチズムを復興しようという勢力、白人至上主義)がウクライナに結集しています。ウクライナ政府、軍隊、議会にネオナチがかなり浸透してきており、すでにネオナチが政府権力を握っています。
2019年ゼレンスキー政権もネオナチと関係を深め、ネオナチ政権となりました。
ウクライナにはいくつものネオナチの団体、私兵集団、政党と議員が存在しています。「アゾフ大隊」が最も有名ですが、それだけでなく、「右派セクター」、「C14」、「ドニプロー1大隊」、「エイダー大隊」・・・・・など数限りがありません。
その特徴は、まず民間の私兵集団・武装組織として発足し、市民を暴力で襲い時に殺人を犯し人々を黙らせ、ウクライナ政府である警察や軍の一部になっていくことで、政府内に基盤を持ち警察組織や正規軍となり、さらに政党を結成し議会に議員を送り出すに至っています。そのようにして今や、ウクライナ政府はネオナチの政権となっています。思想はナチズムであり、ステパン・バンデラを始祖としています。
「アゾフ大隊」は、2014年マイダン革命以後、ウクライナ政府内務省の認可を受けたパトロール警察となり、アゾフ大隊私兵集団がロシア人、親ロ派の政党、団体、労働組合などを武力攻撃してきました。のちに国家親衛隊所属(=正規のウクライナ軍)になりました。
アゾフ大隊指導者はアンドリー・ビレツキーで、ネオナチ政党National Corpを創設し、議席も持っています。アンドリー・ビレツキーの思想はかつてのナチス・ドイツの思想そのものです。例えば、「ユダヤ人のような劣等人種に対する最後の戦いで白人世界をリードする」という発言も残しています。現在は、ユダヤ人ではなく、ロシア人を標的にしています。アメリカのネオコンの意向と合致しているからです。2014年以降、ロシア人、ネオコンに敵対する政党と支持者、労働組合…などを暴力・武力で襲ってきました。
ウクライナの大富豪イゴール・コロモイスキーは、アゾフ大隊のスポンサーであり、資金を提供しました。ちなみにゼレンスキーを大統領候補に引き立てたのもイゴール・コロモイスキーです。
ビクトア・メドヴェドチェック野党第一党党首が、アゾフ大隊に襲われました。2020年8月、アゾフ大隊はメドヴェドチェックの支持者(野党支持者)の載ったバスも襲っています。この野党は2014年のクーデター(マイダン革命)以前には、政権を担っていました。テロ行為であり、犯罪ですが、捕まりません。21年5月ゼレンスキー政権はアゾフ大隊を告発するのではなく、逆にメドヴェドチェック党首を国家反逆罪で逮捕しました。彼は今獄中にいます。先日(23年3月中旬)、ロシアとの捕虜交換で釈放されたとの報道がありました。
「右派セクター」の指導者はドミトロ・コチュバロ(Dmytro Kotsyubalo)です。ゼレンスキー大統領は22年1月、ウクライナ英雄勲章授与しました。
「C14」は、ギャング組織、ヘイトグループ(ニューヨーク・タイムズ)。 指導者はイェウヘン・カラス。顧客から金をもらって敵対する相手を襲うことで、勢力を拡大してきました。ロシア人粛清だけでなく、ロマ人粛清もやっており、アメリカ政府と懇意で大使館にも出入りしています。2017年11月、「ウクライナ保安庁から親ロ派に関する情報が「C14」に送られる態勢になっている」ことが報じられました。また2018年3月には、キエフ市が市内の警備活動を「C14」に委託しました。「警備活動」により、ロシア人、親ロ派の人々、ドンバス戦争に反対する人々を粛清しています。
2021年11月、有名な極右活動家であるドミトリー・ヤロシが、ウクライナ軍最高司令官顧問に就任しています。
ゼレンスキーは2019年5月の大統領選挙で、「⑴ネオナチを解体する、⑵ドネツクの戦闘を止める、⑶ミンスク合意を遵守する」と公約して大統領に当選しました。ゼレンスキーはユダヤ人であり、ネオナチとは関係ないとアピールしました。国民の多くは、ポロシェンコ前大統領によるドンバスへの攻撃、ロシアとの戦争を嫌っていましたので、ゼレンスキーに投票しました。
しかし、ゼレンスキー政権成立直後から、ネオナチは議会では「ミンスク合意」破棄を主張し、ウクライナ軍と私兵集団による「合意違反」を頻発させました。アゾフ大隊、右派セクターは、東部ドネツクに兵を送り、ロシア語系市民を攻撃しました。大統領となったゼレンスキーはこれを抑えるのではなくネオナチに接近し、ドンバス戦争を支持しロシアと戦う方針に転換しました。その過程で、ゼレンスキー政権は、(内部にネオナチに敵対する者のいない)完璧なネオナチの政権となりました。
2014年以降、ウクライナ政府はネオナチが権力を握っており、ネオナチによるテロ支配が横行しています。ゼレンスキー政権となっても、ネオナチ政権であることは変わりません。ゼレンスキーはアメリカ政府とウクライナのネオナチのマリオネットであり、彼が全権力を握っているわけではありません。
アメリカ政府、特にそのなか巣食うネオコン(中心人物はビクトリア・ヌーランド国務次官)は、ネオナチを育て支援し利用することを一貫して行ってきました。「ロシアを弱体化する」「ロシアを4つに分断し支配し、資源を奪う」というネオコンの戦略目標のために、ウクライナのネオナチを育て支援してきました。ウクライナ政府がナチ化することを、西側は止めませんでした。
プーチンが軍事作戦の目的の一つを、非ナチ化を掲げているのは、ウクライナのネオナチ政権が、人種差別思想に基づき、ロシア語系ウクライナ人を弾圧・迫害・攻撃しているからです。それだけでなく、アメリカのネオコン政権とNATOの手先となって戦争挑発、戦争準備をしてきたからです。
アメリカ政府・NATOは、ウクライナ政府がネオナチ政権であること、ネオナチがウクライナ政府、ウクライナ軍、議会に深く浸透していることを隠しています。2014年のマイダン革命(ネオナチによるクーデター)は、米国が資金援助しました。ビクトリア・ヌーランドによれば50億㌦つぎこんだと言っています)。
上記以外に、ウクライナで何が起きているのか、断片的にいくつかのことを下記に記します。
〇 2014年のマイダン・クーデターのあと当選したポロシェンコ前大統領は、「ロシア語を公用語から外す、ロシア人は公務員/軍人には採用しない、年金は支給しない」と演説し、実際その政策を実行しました。ポロシェンコ演説はyou tubeで公開されています。ポロシェンコはまた「ミンスク合意」を遵守するつもりはないと公言していました。彼の発言/政策もネオナチの思想からきています。
ウクライナ軍がドンバス地域のロシア語系市民を直接攻撃しました。ウクライナのロシア語系市民は生きていくことができません。ドンバス、ルハンシク、クリミアなどで選挙が実施された時、親ロシア派が圧倒的多数で支持されたのは、これが理由です。
〇 ウクライナでは公式にはロシア語使用禁止です。ロシア語文学はすでに読むことはできなくなりました。プーシキンも、トルストイも、ドストエフスキーも読むことはできません。
〇 2014年から、東部のロシア系住民に対してアゾフ大隊などが民間人を攻撃してきました。14,000人殺されたと国連に訴えています。22年2月24日ウクライナ戦争後の現在もウクライナ軍によるドンバス地域の住宅、都市など民間施設への無差別攻撃・砲撃として続いています。
〇 ウクライナ軍の戦闘では、民間人を盾に使っています。マウリポリでも、バフムトでも。これは交戦中の行為としては「戦争犯罪」(伊勢崎賢治/東京外語大学教授 22年12月10日宮古島での講演で、「長周新聞」)です。
〇 ウクライナ共産党は解散命令が出ており、指導者たちは獄中にいます。(日本共産党を除き)世界の共産党は抗議声明を出しました。野党13党(ゼレンスキー政権の与党以外の党)は禁止されています。ロシアとの戦争に反対する指導者は獄中にいます。
〇 18歳~60歳の男性の出国は禁止されています。最近、ネオナチの軍人が、オデッサなどの街中で男性を捕まえ何件もの強制徴兵を行ったことが問題になっています(ウクライナTV--ロシアでも西側でもなくウクライナ政権のTV放送)。兵が足りなくなっているのでしょう。
こういうウクライナを、西側政府と主要メディアは「自由と民主主義」のウクライナと報じています。
断片的に記しましたが、これらネオナチ政権が何をしているか、ウクライナ社会の実態も引き続ききちんと調べ継続して全体像を明らかにしなくてはなりません。
ウクライナのネオナチとその所業について、自身で調べることが大切です。ウクライナ政権支援が決して「自由と民主主義」支援ではないことが判明します。
Bー2:ネオナチ政権であることをもって、ロシアは「特別軍事作戦」発動の理由とできるか?
上記のことを踏まえたうえで、次のことを確認しなければなりません。
「ウクライナ政府がネオナチ政権であるという理由で、ロシアの「特別軍事作戦」は許されるわけではありません。」
どんな独裁政権であったとしても、他国が軍事加入することは、国連憲章、国際法からすれば、それは違法です。
ただし、アメリカ政府、NATOは、そのことを批判する権利を持ちません。なぜならば、例えば、リビアのカダフィ政権が独裁政権であることをもって、アメリカ、英、仏、伊はリビアを空爆し、他方でアルカイダ系の雇い兵が地上戦を行い、カダフィ政権を倒しました。
また、アメリカ政府は、シリアのアサド政権は独裁政権であるから認めないとして、アメリカ軍を派遣しシリア国内に勝手に14もの基地を建設し、現在もなお駐留し、シリアの石油を盗掘・販売しています。(青山弘之 東京外語大教授)
ほかにもたくさん例はありますが、アメリカ政府、NATOがこれまで国連憲章、国際法に違反した戦争を自分勝手に行ってきたという事実です。しかも、現在も行っています。アメリカ政府、NATOがこれまでやってきたリビアやシリア、コソボそのほかの戦争行為は国連憲章、国際法に照らして正当だと主張するなら、ロシアの軍事作戦も適法として認めなければならないでしょう。
ロシア政府は「特別軍事作戦」の根拠として、ロシアはネオナチ政権だから作戦を実行したとはしていません。ウクライナ軍から攻撃を受けたドネツク共和国、ルガンシク共和国から要請があったので、集団的自衛権を行使し、作戦を実行したと説明しています。私は、「根拠としては危ういところがある微妙な説明」だとは思います。
ウクライナの非ナチ化の実現を、他国(この場合はロシア)が軍事力で実行することはできません。ウクライナ国民だけにその権利があります。ネオナチの思想や行動を批判はできますし、そのような訴えをウクライナ国民に対して行うことは可能ですが、軍事作戦を実行する理由にはなりません。
(続く)
3)ロシアの言い分は正しいか?
ロシアにも言い分はあります。その検討をするべきでしょう。
ロシアの要求(「特別軍事作戦」の目的)は、A ウクライナの非軍事化、NATO非加盟、 B ウクライナ政府の非ナチ化 であると主張しましたし、現在もそのように主張しています。
A ロシアの要求「ウクライナの非軍事化、NATO非加盟」に根拠はあるか?
「ウクライナがNATO に加盟すれば、モスクワまでの距離は500㎞となり、そこにNATOが戦略核兵器を配備すれば、ロシアは安全保障の戦略を失ってしまいます」(23年1月、ダボス会議でキッシンジャーの発言)。
おそらく、その通りなのでしょう。私は「核軍事戦略」が、どのようにして「均衡」を保っているのか?・・・・について詳しくありませんので、詳しい方に教えていただきたいと思っています。
ウクライナ戦争を引き起こした歴史的な背景は、NATOの東方拡大にあります。1991年ソ連解体の直前にワルシャワ条約機構は廃止されました。しかし、これに対抗し組織されていたNATOは廃止されず、それどころかじわじわと東方へ拡大していきました。すでにポーランド、バルト3国が加盟し、ウクライナ加盟が日程に上がってきました。NATOは軍事同盟です。加盟すれば、戦略核ミサイルを含めあらゆる軍事力の配備が可能になります。これはロシアの安全保障にとって極めて重大な脅威です。ロシアは一貫してNATOの東方拡大を止めるよう求めてきましたが、NATO側は無視してきました。
ロシアの安全保障にとって重大な脅威であることには間違いありません。
1960年代初めアメリカはソ連を攻撃可能な大陸間弾道ミサイルだけでなく、西ヨーロッパとトルコに中距離核ミサイルを配備しました。これに対抗し1962年夏、ソ連はキューバに密かに核ミサイルと発射台などを配備しました。これを知ったアメリカ/ケネディ政権は、核ミサイルの撤去を迫りました。当時のケネディ政権は重大な脅威と感じたのでしょう。最終的にケネディ大統領とフルシチョフ第一書記の交渉により、ソ連が核ミサイルを撤去してこの危機は一応、収まりました。
アメリカ政府は、核ミサイルが近い距離に配備されれば核戦略は崩れることをよく知っているはずです。そうであるのに、この30年、一方的にNATOを東方へ拡大してきたわけです。
22年2月27日(日)フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」で、安倍元首相がプーチンの意図について問われ、安倍首相の「理解」を述べています。
安倍「プーチンの意図はNATOの拡大、それがウクライナに拡大するという事は絶対に許さない、東部二州の論理でいえば、かつてボスニア・ヘルツェゴビナやコソボが分離・独立した際には西側が擁護したではないか、その西側の論理をプーチンが使おうとしているではないかと思う。」、
「プーチンは基本的に米国に不信感をもっているんですね。NATOを拡大しないことになっているのにどんどん拡大している・・・・・・。ポーランドにTHAADミサイルサードミサイルまで配備している……プーチンとしては領土的野心という事ではなくて、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしていることもあるだろうと思います・・・・・・。」 (孫崎享ブログ23年3月25日から)
ここに「大元の原因」があります。これはだれしも認めるところでしょう。ウクライナ戦争は停戦すべきですが、戦争と対立の危機を最終的になくすには、NATOの東方拡大をやめること、軍事同盟NATOによる脅威でもって世界を脅し支配するアメリカ政府の現在のやり方をやめること、最終的にはNATO解体することが必要になるでしょう。
そのような認識をぜひ多くの人と共有したいと希望します。この「真実」を「忘れる権利」は、誰にもありません。常に意識し、事態に対応しなくてはなりません。
私は、ロシアによる「ウクライナのNATO非加盟」「ウクライナの非軍事化」の要求には正当な根拠があると判断しています。
B ロシアの要求 「ウクライナ政府の非ナチ化」
B-1:ウクライナ政府はネオナチ政権なのか?
まず、ウクライナ政府がネオナチかどうかですが、この一年、意識的に調べてきました。やはりネオナチです。ステパン・バンデラの系譜であるネオナチ集団が権力を握っており、恐怖政治を敷いています。最近ではいくつかの報道が出てくるようになりました。しかし、西側政府と主要マスメディアは、これを意図的に隠しています。
ウクライナ政府の呼びかけに応じて、世界の極右団体(=ナチズムを復興しようという勢力、白人至上主義)がウクライナに結集しています。ウクライナ政府、軍隊、議会にネオナチがかなり浸透してきており、すでにネオナチが政府権力を握っています。
2019年ゼレンスキー政権もネオナチと関係を深め、ネオナチ政権となりました。
ウクライナにはいくつものネオナチの団体、私兵集団、政党と議員が存在しています。「アゾフ大隊」が最も有名ですが、それだけでなく、「右派セクター」、「C14」、「ドニプロー1大隊」、「エイダー大隊」・・・・・など数限りがありません。
その特徴は、まず民間の私兵集団・武装組織として発足し、市民を暴力で襲い時に殺人を犯し人々を黙らせ、ウクライナ政府である警察や軍の一部になっていくことで、政府内に基盤を持ち警察組織や正規軍となり、さらに政党を結成し議会に議員を送り出すに至っています。そのようにして今や、ウクライナ政府はネオナチの政権となっています。思想はナチズムであり、ステパン・バンデラを始祖としています。
「アゾフ大隊」は、2014年マイダン革命以後、ウクライナ政府内務省の認可を受けたパトロール警察となり、アゾフ大隊私兵集団がロシア人、親ロ派の政党、団体、労働組合などを武力攻撃してきました。のちに国家親衛隊所属(=正規のウクライナ軍)になりました。
アゾフ大隊指導者はアンドリー・ビレツキーで、ネオナチ政党National Corpを創設し、議席も持っています。アンドリー・ビレツキーの思想はかつてのナチス・ドイツの思想そのものです。例えば、「ユダヤ人のような劣等人種に対する最後の戦いで白人世界をリードする」という発言も残しています。現在は、ユダヤ人ではなく、ロシア人を標的にしています。アメリカのネオコンの意向と合致しているからです。2014年以降、ロシア人、ネオコンに敵対する政党と支持者、労働組合…などを暴力・武力で襲ってきました。
ウクライナの大富豪イゴール・コロモイスキーは、アゾフ大隊のスポンサーであり、資金を提供しました。ちなみにゼレンスキーを大統領候補に引き立てたのもイゴール・コロモイスキーです。
ビクトア・メドヴェドチェック野党第一党党首が、アゾフ大隊に襲われました。2020年8月、アゾフ大隊はメドヴェドチェックの支持者(野党支持者)の載ったバスも襲っています。この野党は2014年のクーデター(マイダン革命)以前には、政権を担っていました。テロ行為であり、犯罪ですが、捕まりません。21年5月ゼレンスキー政権はアゾフ大隊を告発するのではなく、逆にメドヴェドチェック党首を国家反逆罪で逮捕しました。彼は今獄中にいます。先日(23年3月中旬)、ロシアとの捕虜交換で釈放されたとの報道がありました。
「右派セクター」の指導者はドミトロ・コチュバロ(Dmytro Kotsyubalo)です。ゼレンスキー大統領は22年1月、ウクライナ英雄勲章授与しました。
「C14」は、ギャング組織、ヘイトグループ(ニューヨーク・タイムズ)。 指導者はイェウヘン・カラス。顧客から金をもらって敵対する相手を襲うことで、勢力を拡大してきました。ロシア人粛清だけでなく、ロマ人粛清もやっており、アメリカ政府と懇意で大使館にも出入りしています。2017年11月、「ウクライナ保安庁から親ロ派に関する情報が「C14」に送られる態勢になっている」ことが報じられました。また2018年3月には、キエフ市が市内の警備活動を「C14」に委託しました。「警備活動」により、ロシア人、親ロ派の人々、ドンバス戦争に反対する人々を粛清しています。
2021年11月、有名な極右活動家であるドミトリー・ヤロシが、ウクライナ軍最高司令官顧問に就任しています。
ゼレンスキーは2019年5月の大統領選挙で、「⑴ネオナチを解体する、⑵ドネツクの戦闘を止める、⑶ミンスク合意を遵守する」と公約して大統領に当選しました。ゼレンスキーはユダヤ人であり、ネオナチとは関係ないとアピールしました。国民の多くは、ポロシェンコ前大統領によるドンバスへの攻撃、ロシアとの戦争を嫌っていましたので、ゼレンスキーに投票しました。
しかし、ゼレンスキー政権成立直後から、ネオナチは議会では「ミンスク合意」破棄を主張し、ウクライナ軍と私兵集団による「合意違反」を頻発させました。アゾフ大隊、右派セクターは、東部ドネツクに兵を送り、ロシア語系市民を攻撃しました。大統領となったゼレンスキーはこれを抑えるのではなくネオナチに接近し、ドンバス戦争を支持しロシアと戦う方針に転換しました。その過程で、ゼレンスキー政権は、(内部にネオナチに敵対する者のいない)完璧なネオナチの政権となりました。
2014年以降、ウクライナ政府はネオナチが権力を握っており、ネオナチによるテロ支配が横行しています。ゼレンスキー政権となっても、ネオナチ政権であることは変わりません。ゼレンスキーはアメリカ政府とウクライナのネオナチのマリオネットであり、彼が全権力を握っているわけではありません。
アメリカ政府、特にそのなか巣食うネオコン(中心人物はビクトリア・ヌーランド国務次官)は、ネオナチを育て支援し利用することを一貫して行ってきました。「ロシアを弱体化する」「ロシアを4つに分断し支配し、資源を奪う」というネオコンの戦略目標のために、ウクライナのネオナチを育て支援してきました。ウクライナ政府がナチ化することを、西側は止めませんでした。
プーチンが軍事作戦の目的の一つを、非ナチ化を掲げているのは、ウクライナのネオナチ政権が、人種差別思想に基づき、ロシア語系ウクライナ人を弾圧・迫害・攻撃しているからです。それだけでなく、アメリカのネオコン政権とNATOの手先となって戦争挑発、戦争準備をしてきたからです。
アメリカ政府・NATOは、ウクライナ政府がネオナチ政権であること、ネオナチがウクライナ政府、ウクライナ軍、議会に深く浸透していることを隠しています。2014年のマイダン革命(ネオナチによるクーデター)は、米国が資金援助しました。ビクトリア・ヌーランドによれば50億㌦つぎこんだと言っています)。
上記以外に、ウクライナで何が起きているのか、断片的にいくつかのことを下記に記します。
〇 2014年のマイダン・クーデターのあと当選したポロシェンコ前大統領は、「ロシア語を公用語から外す、ロシア人は公務員/軍人には採用しない、年金は支給しない」と演説し、実際その政策を実行しました。ポロシェンコ演説はyou tubeで公開されています。ポロシェンコはまた「ミンスク合意」を遵守するつもりはないと公言していました。彼の発言/政策もネオナチの思想からきています。
ウクライナ軍がドンバス地域のロシア語系市民を直接攻撃しました。ウクライナのロシア語系市民は生きていくことができません。ドンバス、ルハンシク、クリミアなどで選挙が実施された時、親ロシア派が圧倒的多数で支持されたのは、これが理由です。
〇 ウクライナでは公式にはロシア語使用禁止です。ロシア語文学はすでに読むことはできなくなりました。プーシキンも、トルストイも、ドストエフスキーも読むことはできません。
〇 2014年から、東部のロシア系住民に対してアゾフ大隊などが民間人を攻撃してきました。14,000人殺されたと国連に訴えています。22年2月24日ウクライナ戦争後の現在もウクライナ軍によるドンバス地域の住宅、都市など民間施設への無差別攻撃・砲撃として続いています。
〇 ウクライナ軍の戦闘では、民間人を盾に使っています。マウリポリでも、バフムトでも。これは交戦中の行為としては「戦争犯罪」(伊勢崎賢治/東京外語大学教授 22年12月10日宮古島での講演で、「長周新聞」)です。
〇 ウクライナ共産党は解散命令が出ており、指導者たちは獄中にいます。(日本共産党を除き)世界の共産党は抗議声明を出しました。野党13党(ゼレンスキー政権の与党以外の党)は禁止されています。ロシアとの戦争に反対する指導者は獄中にいます。
〇 18歳~60歳の男性の出国は禁止されています。最近、ネオナチの軍人が、オデッサなどの街中で男性を捕まえ何件もの強制徴兵を行ったことが問題になっています(ウクライナTV--ロシアでも西側でもなくウクライナ政権のTV放送)。兵が足りなくなっているのでしょう。
こういうウクライナを、西側政府と主要メディアは「自由と民主主義」のウクライナと報じています。
断片的に記しましたが、これらネオナチ政権が何をしているか、ウクライナ社会の実態も引き続ききちんと調べ継続して全体像を明らかにしなくてはなりません。
ウクライナのネオナチとその所業について、自身で調べることが大切です。ウクライナ政権支援が決して「自由と民主主義」支援ではないことが判明します。
Bー2:ネオナチ政権であることをもって、ロシアは「特別軍事作戦」発動の理由とできるか?
上記のことを踏まえたうえで、次のことを確認しなければなりません。
「ウクライナ政府がネオナチ政権であるという理由で、ロシアの「特別軍事作戦」は許されるわけではありません。」
どんな独裁政権であったとしても、他国が軍事加入することは、国連憲章、国際法からすれば、それは違法です。
ただし、アメリカ政府、NATOは、そのことを批判する権利を持ちません。なぜならば、例えば、リビアのカダフィ政権が独裁政権であることをもって、アメリカ、英、仏、伊はリビアを空爆し、他方でアルカイダ系の雇い兵が地上戦を行い、カダフィ政権を倒しました。
また、アメリカ政府は、シリアのアサド政権は独裁政権であるから認めないとして、アメリカ軍を派遣しシリア国内に勝手に14もの基地を建設し、現在もなお駐留し、シリアの石油を盗掘・販売しています。(青山弘之 東京外語大教授)
ほかにもたくさん例はありますが、アメリカ政府、NATOがこれまで国連憲章、国際法に違反した戦争を自分勝手に行ってきたという事実です。しかも、現在も行っています。アメリカ政府、NATOがこれまでやってきたリビアやシリア、コソボそのほかの戦争行為は国連憲章、国際法に照らして正当だと主張するなら、ロシアの軍事作戦も適法として認めなければならないでしょう。
ロシア政府は「特別軍事作戦」の根拠として、ロシアはネオナチ政権だから作戦を実行したとはしていません。ウクライナ軍から攻撃を受けたドネツク共和国、ルガンシク共和国から要請があったので、集団的自衛権を行使し、作戦を実行したと説明しています。私は、「根拠としては危ういところがある微妙な説明」だとは思います。
ウクライナの非ナチ化の実現を、他国(この場合はロシア)が軍事力で実行することはできません。ウクライナ国民だけにその権利があります。ネオナチの思想や行動を批判はできますし、そのような訴えをウクライナ国民に対して行うことは可能ですが、軍事作戦を実行する理由にはなりません。
(続く)
ウクライナ戦争 4)ロシアは停戦に応じるか? [世界の動き]
ウクライナ戦争
4) ロシアは停戦に応じるか?
A:ロシアは停戦交渉に応じるか?
プーチンは、「ウクライナ紛争を終わらせるためには最終的には合意を締結する必要がある」と一貫して言い続けています。
ロシアがどのような態度をとってきたか、調べてみてわかりますが、2014年からのマイダン革命、ドンバス戦争以降、これまでロシアは一貫して戦闘停止、平和的解決を主張し行動してきました。プーチンに領土的野心はなく、求めているのはロシアの安全保障の確保だからです。現在も停戦に応じる立場をとってきています。拒否しているのは、アメリカのバイデン政権です。したがって、停戦交渉に応じるでしょう。
ウクライナ戦争はすでに「アメリカ・NATO vs ロシアの戦争」に変質しています。すでにゼレンスキー政権だけで停戦を決めることはできません。代理戦争をやらせているアメリカ政府、バイデン大統領の「決断」にかかっています。逆に言えば、バイデン大統領が指導力を発揮しないかぎり、この戦争は続きます。
ロシアの主張は、当初からプーチンが主張している通り、ロシアの安全保障の確保、ウクライナの非軍事化と非ナチ化です。ウクライナ全土の占領ではありません。
B:22年3月初めに停戦交渉があった
23年1月31日になって、イスラエルのベネット前首相が22年3月に停戦交渉したこと、およびその内容を暴露しました。You tubeに載っています。「プーチンとゼレンスキーは合意し、ショルツ(独)とマクロン(仏)も賛成したが、ボリス・ジョンソン(英)とブリンケン、サリバンが反対し、潰れた」と述べています。
ナフタリ・ベネット/イスラエル首相(2021年6月~22年6月まで首相)は、22年3月4日モスクワを訪問しました。なぜイスラエルが仲介したのでしょうか? もともとロシアにはユダヤ人が多い、ロシアからイスラエルに移住したユダヤ人も多いこと、などから深い関係にあります。ゼレンスキー/ウクライナ政府が反ユダヤのネオナチ政権であることも理解しています。ウクライナ戦争が起きた時、親米国であるイスラエルは「中立」の立場をとり、ロシア侵略非難の国連決議にも経済制裁にも賛同していません。「中立」がイスラエルの安全保障にとって絶対に必要だからです。イスラエルにとってロシアは国家安全保障上、きわめて重要です。シリアを軍事的に支えているのはロシアであり、ロシアがイスラエルに対してシリアを止めている面もあるので無視できないのだろうと、私は理解しています。
ベネットの暴露によれば、22年3月4日の会談での合意内容とは、
⑴ プーチンは「ロシアはゼレンスキーを殺さないと、約束する」と言いました。そのあと、ベネットがすぐにゼレンスキーに連絡を取ったところ、ゼレンスキーは「それは確かか?」、ベネットは「100%確かだ」・・・というやり取りがあったと述べています。
⑵ それからプーチンは、「(NATO加盟をあきらめるならば、)ロシアはウクライナの武装解除要求も取り下げる」と譲歩しました。――この時、「ウクライナの非軍事化」を下ろしたことになります。「非ナチ化」は触れていません。
⑶ 一方、ゼレンスキーの譲歩は「ウクライナはNATO加盟をあきらめる」でした。
この3項目でロシア、ウクライナ双方は一旦、合意しました。この時点でベネットはロシア、ウクライナ間では「和平合意」に成功しています。そのあと、ベネットは西側の指導者の説得をしなければなりませんでした。西側指導者が和平を壊しました。
ベネット前首相によると「(英国の)ボリス・ジョンソン首相は、まったく譲歩しなかった。マクロンとショルツは賛成した。アメリカ政府は、ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン補佐官が最終的に反対しつぶした。2人は「プーチンに報復せよ」と主張したし、「和平へのチャンスでもある」という発言もしたが、最終的にはつぶした。そして、結果的には「和平合意」は実現しなかった。ただ、今でもあの時は「和平のチャンスだった」と確信している。」と述べたのです。
当時、このような内容の一部は、報道されていました。このことを2023年1月31日になって、ベネット首相が暴露したのです。
そのあと、22年4月、トルコのエルドアン政権が仲介に入りました。
22年4月21日、チャヴシュオール外相は、「NATOには戦争を長引かせたい国がある。戦争を継続してロシアを弱体化させたい人々がいるという印象があった。彼らはウクライナ情勢を気にしていない。」と語り、仲介が不成功に終わったと述べています。
C:アメリカのウクライナ戦争の目的は、ロシアの弱体化
22年4月25日、ポーランドで米オースティン国防長官が「アメリカのウクライナ戦争の目的はロシアの弱体化だ」と本音を言いました。バイデンも同じ発言をしました。
アメリカ政府が和平合意をつぶしたのは、アメリカ政府にとってウクライナ戦争の目的が、ウクライナの防衛、ウクライナ国民の安全確保ではなく、「ロシアの弱体化」であったからであることも、明らかになりました。
そのために、トルコの仲介は成功しなかったとチャヴシュオール外相は述べているのです。
これらの経過を見てもわかりますが、停戦を拒否しているのは、バイデン/ネオコン政権です。バイデン政権の戦争目的が、「ロシアの弱体化」だからです。ウクライナの死者増大、破壊は考慮していません。
D:ロシアの目的
繰り返しますが、ロシアの主張は、ウクライナの非軍事化と非ネオナチ化であり、そのことを通じたロシアの安全保障の確保です。ウクライナ全土の占領ではありません。ロシアと軍事的に敵対しない(NATO加盟しない=ロシアに向けたミサイルを配備しない)ウクライナ政府の樹立であり、非ナチ化です。ロシアに軍事的な脅威をもたらそうとする政府は認めない、緩衝地帯をつくる、緩衝国家でなくてはならない、ということです。NATOがミサイル配備している現状では、確かにロシアにとって、NATOの東方拡大停止、ウクライナの非軍事化・緩衝国家化は現実的な要求であると、思われます。逆の言い方をすれば、NATOの存在、東方拡大が大元の原因であることになります。
停戦後、ロシアはウクライナのロシア語系の人々(ウクライナ人口の約3割)の自決する国家――ルガンスク共和国、ドネツク共和国――を通じた独立国家の運営はできるでしょうが、占領して敵対するウクライナ人を長期的に支配する(ウクライナ全土支配)ことは難しいはずです。軍事的(長期にわたり相当数の軍隊を張り付かせなければならない)にも、政治経済的にも。私はそのように理解しています。おそらくプーチンもそう考えているでしょう。
23年2月22日にイーロン・マスクがヌーランドを批判した時に、ヌーランドは「私たちが、この侵略の被害者たちを支援しなければ、ロシアの侵略が世界中に広がる」(ワシントン・ポスト)と反論しました。これは、ネオコンらしい言い方です。ネオコンはこういう言い方を多用します。ベトナム戦争にアメリカ軍が本格的に介入した際の「ドミノ理論」(ベトナム社会主義国家を認めれば周辺に社会主義国がドミノのように広がるから、ベトナム戦争にアメリカは介入しなければならない)とよく似ています。こういう「論理建て」で宣伝し、戦争介入・戦争拡大へと突き進んできました。私たちの多くも聞き覚えがあるのではないでしょうか? 日本の主要メディアは、ヌーランドの言い方をそのまま繰り返していますから。ヌーランドの主張とは峻別した考えを私たち自身が持たなくては、戦争拡大、ウクライナ戦争継続の主張を拒否できません。
E:国際法違反の戦争
それから、あらためて指摘しておかなくてはならないのは、国連憲章、国際法違反の戦争は、第2次世界大戦後、アメリカがずっと行ってきたことでもあります。アメリカの専売特許です。そう断言して間違いありません。
ロシアの「特別軍事作戦」と最も類似しているのは1998年にコソボ支援と称し、アメリカ政府がNATO軍を送りセルビアを攻撃したことです。「セルビアによる独裁政治と弾圧があり、コソボで5,000人の虐殺があった」として、NATOは軍を送り、セルビアを爆撃しました。5,000人虐殺の事実はなかったことが、侵攻後に明らかになりましたが、NATOの爆撃によって、コソボはセルビアから離れ実質的に独立しました。現在コソボには大きな米軍基地があり米軍が駐留しています。仮に上記の理由があったとしても、NATOが軍を送り攻撃するのは、国連憲章違反、国際法違反であると指摘されてきました。ロシアによる「特別軍事作戦」とよく似ています。
もちろん違うところもあります。セルビアからNATOへの脅威はありませんでしたし、ドンバスでは14,000人の死者が出ています。そのような違いはありますが。
リビアへの攻撃(米、英、仏、伊)によるカダフィ政権打倒も、国際法違反です。米、英、仏、伊は、カダフィが独裁だとして、空爆しリビア軍を撃退しました。そのうえで、地上戦はアルカイダ系の雇い兵(LIFG)で戦闘させ占領し、カダフィを虐殺しました。その結果、現在ではリビアの石油は、リビア国民のものではなくなっています。
イラク戦争も大量破壊兵器があるとしてフセイン政権を倒しましたが、のちに大量破壊兵器はなかったことが暴露されました。これも明確な国際法違反です。アメリカ政府とNATOは、罪を犯しても罰せられていません。責任を取っていません。こういうでたらめな世界秩序をつくってきているのです。
アフガン戦争も、アフガン・タリバン政権が、オサマ・ビンラディンを匿っていることを理由に「反テロ戦争」としてNATOがアフガンに侵攻しタリバン政権を倒しました。タリバン政権は、「公正な裁判が保障されるのであれば、ビンラディンを引き渡す用意がある」との立場を取りましたが、これを無視して侵攻しました。これはアメリカ軍、NATOがタリバン政権に戦争を仕掛ける理由にはなりません。国連憲章違反、国際法違反です。
中南米政府に対するクーデター………など、上げれば限りがありません。
アメリカ政府による国際法違反、国連憲章違反の例は、数に限りがありません。現在ではアメリカ政府は国連を通じた支配に代わってNATOによる戦争と脅し、NATO以外でも有志連合による軍事作戦、ドルを背景にした経済制裁によって、世界支配するに至っています。国連からNATOへのシフト、それがアメリカ政府の現代的な世界支配の「やり方」となっています。私たちはこのような現代の現実をきちんと認識しなければなりません。国連無視は、アメリカ政府がやってきたことです。
こういうことを書き連ねるのは、私は下記のことを言いたいからです。言いたいことは、4つ。
⑴ダブルスタンダードに立ってはならない、ということ。アメリカとNATOのこれまでの国際法違反、戦争を批判しないでおいて、ロシアの批判をする政府、団体・人を、私は信用しません。 議論する前提として、ダブルスタンダードに立たないことを、まず求めます。 ⑵第2次世界大戦以後に限っても、自身の戦争で殺した人数を数えれば、アメリカがダントツです。決してロシアでも中国でもありません。その事実がどうしてなのか、深刻に考えなければなりません。考える力のない者は真の知識人、ジャーナリストではありません。(伊勢崎賢治/東京外語大教授、22年12月10日宮古島での講演) ⑶現代において人類に最も危険な存在は、アメリカとNATO、欧州です。アメリカ・欧州は地域戦争、雇い兵を使った戦争・クーデターなどを起こして混乱をつくり出し、G7以外の国々・人々を新植民地主義によって支配しています。ナオミ・クラインは「ショック・ドクトリン」と呼んでいます。この現実に対して批判する立場に立たなくてはなりません。 ⑷ 欧州は今回、ロシアとの戦争に引き込まれることによって、アメリカに従属する関係になりました。まるで日本のようです。EUを結成した一つの理由は、欧州を共同市場としアメリカに対抗しより独立的に振舞える欧州を実現しようという志向があったはずですが、ウクライナ戦争を前にして一挙にアメリカの支配を受け入れた欧州、アメリカの戦争政策に従属した欧州となったことに、私はショックを覚えました。国連憲章も国際法も、あるいは欧州不戦条約も歯止めにはならず、NATOによる欧州支配が実現したのは大きな驚きでした。私たちが国連憲章違反、国際法違反を指摘するのは、私たちが何を守ろうとするのか、何を実現しようとしているのかも、同時に明確に意識しなければなりません。
アメリカ政府による戦争と新植民地主義こそ、もっとも現代の最も重大な危険、敵として明確に意識し批判する立場に立たなければ、そのような平和運動、労働運動、市民運動・・・・でなければ、対抗することはできません。取り込まれてしまいます。欧州の既存の平和運動・環境運動・・・・は、現代の最も重大な危険に対する批判が欠如しているからこそ、ウクライナ戦争を前にして「祖国擁護」に取り込まれつつあります。第2インターへの先祖返りでしょうか? アメリカ政府の依存することを選択した欧州では 「背教者カウツキー」(の子孫)が大量に生まれているように見えます。ここに必要なのは、「国際主義」です。(続く)
4) ロシアは停戦に応じるか?
A:ロシアは停戦交渉に応じるか?
プーチンは、「ウクライナ紛争を終わらせるためには最終的には合意を締結する必要がある」と一貫して言い続けています。
ロシアがどのような態度をとってきたか、調べてみてわかりますが、2014年からのマイダン革命、ドンバス戦争以降、これまでロシアは一貫して戦闘停止、平和的解決を主張し行動してきました。プーチンに領土的野心はなく、求めているのはロシアの安全保障の確保だからです。現在も停戦に応じる立場をとってきています。拒否しているのは、アメリカのバイデン政権です。したがって、停戦交渉に応じるでしょう。
ウクライナ戦争はすでに「アメリカ・NATO vs ロシアの戦争」に変質しています。すでにゼレンスキー政権だけで停戦を決めることはできません。代理戦争をやらせているアメリカ政府、バイデン大統領の「決断」にかかっています。逆に言えば、バイデン大統領が指導力を発揮しないかぎり、この戦争は続きます。
ロシアの主張は、当初からプーチンが主張している通り、ロシアの安全保障の確保、ウクライナの非軍事化と非ナチ化です。ウクライナ全土の占領ではありません。
B:22年3月初めに停戦交渉があった
23年1月31日になって、イスラエルのベネット前首相が22年3月に停戦交渉したこと、およびその内容を暴露しました。You tubeに載っています。「プーチンとゼレンスキーは合意し、ショルツ(独)とマクロン(仏)も賛成したが、ボリス・ジョンソン(英)とブリンケン、サリバンが反対し、潰れた」と述べています。
ナフタリ・ベネット/イスラエル首相(2021年6月~22年6月まで首相)は、22年3月4日モスクワを訪問しました。なぜイスラエルが仲介したのでしょうか? もともとロシアにはユダヤ人が多い、ロシアからイスラエルに移住したユダヤ人も多いこと、などから深い関係にあります。ゼレンスキー/ウクライナ政府が反ユダヤのネオナチ政権であることも理解しています。ウクライナ戦争が起きた時、親米国であるイスラエルは「中立」の立場をとり、ロシア侵略非難の国連決議にも経済制裁にも賛同していません。「中立」がイスラエルの安全保障にとって絶対に必要だからです。イスラエルにとってロシアは国家安全保障上、きわめて重要です。シリアを軍事的に支えているのはロシアであり、ロシアがイスラエルに対してシリアを止めている面もあるので無視できないのだろうと、私は理解しています。
ベネットの暴露によれば、22年3月4日の会談での合意内容とは、
⑴ プーチンは「ロシアはゼレンスキーを殺さないと、約束する」と言いました。そのあと、ベネットがすぐにゼレンスキーに連絡を取ったところ、ゼレンスキーは「それは確かか?」、ベネットは「100%確かだ」・・・というやり取りがあったと述べています。
⑵ それからプーチンは、「(NATO加盟をあきらめるならば、)ロシアはウクライナの武装解除要求も取り下げる」と譲歩しました。――この時、「ウクライナの非軍事化」を下ろしたことになります。「非ナチ化」は触れていません。
⑶ 一方、ゼレンスキーの譲歩は「ウクライナはNATO加盟をあきらめる」でした。
この3項目でロシア、ウクライナ双方は一旦、合意しました。この時点でベネットはロシア、ウクライナ間では「和平合意」に成功しています。そのあと、ベネットは西側の指導者の説得をしなければなりませんでした。西側指導者が和平を壊しました。
ベネット前首相によると「(英国の)ボリス・ジョンソン首相は、まったく譲歩しなかった。マクロンとショルツは賛成した。アメリカ政府は、ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン補佐官が最終的に反対しつぶした。2人は「プーチンに報復せよ」と主張したし、「和平へのチャンスでもある」という発言もしたが、最終的にはつぶした。そして、結果的には「和平合意」は実現しなかった。ただ、今でもあの時は「和平のチャンスだった」と確信している。」と述べたのです。
当時、このような内容の一部は、報道されていました。このことを2023年1月31日になって、ベネット首相が暴露したのです。
そのあと、22年4月、トルコのエルドアン政権が仲介に入りました。
22年4月21日、チャヴシュオール外相は、「NATOには戦争を長引かせたい国がある。戦争を継続してロシアを弱体化させたい人々がいるという印象があった。彼らはウクライナ情勢を気にしていない。」と語り、仲介が不成功に終わったと述べています。
C:アメリカのウクライナ戦争の目的は、ロシアの弱体化
22年4月25日、ポーランドで米オースティン国防長官が「アメリカのウクライナ戦争の目的はロシアの弱体化だ」と本音を言いました。バイデンも同じ発言をしました。
アメリカ政府が和平合意をつぶしたのは、アメリカ政府にとってウクライナ戦争の目的が、ウクライナの防衛、ウクライナ国民の安全確保ではなく、「ロシアの弱体化」であったからであることも、明らかになりました。
そのために、トルコの仲介は成功しなかったとチャヴシュオール外相は述べているのです。
これらの経過を見てもわかりますが、停戦を拒否しているのは、バイデン/ネオコン政権です。バイデン政権の戦争目的が、「ロシアの弱体化」だからです。ウクライナの死者増大、破壊は考慮していません。
D:ロシアの目的
繰り返しますが、ロシアの主張は、ウクライナの非軍事化と非ネオナチ化であり、そのことを通じたロシアの安全保障の確保です。ウクライナ全土の占領ではありません。ロシアと軍事的に敵対しない(NATO加盟しない=ロシアに向けたミサイルを配備しない)ウクライナ政府の樹立であり、非ナチ化です。ロシアに軍事的な脅威をもたらそうとする政府は認めない、緩衝地帯をつくる、緩衝国家でなくてはならない、ということです。NATOがミサイル配備している現状では、確かにロシアにとって、NATOの東方拡大停止、ウクライナの非軍事化・緩衝国家化は現実的な要求であると、思われます。逆の言い方をすれば、NATOの存在、東方拡大が大元の原因であることになります。
停戦後、ロシアはウクライナのロシア語系の人々(ウクライナ人口の約3割)の自決する国家――ルガンスク共和国、ドネツク共和国――を通じた独立国家の運営はできるでしょうが、占領して敵対するウクライナ人を長期的に支配する(ウクライナ全土支配)ことは難しいはずです。軍事的(長期にわたり相当数の軍隊を張り付かせなければならない)にも、政治経済的にも。私はそのように理解しています。おそらくプーチンもそう考えているでしょう。
23年2月22日にイーロン・マスクがヌーランドを批判した時に、ヌーランドは「私たちが、この侵略の被害者たちを支援しなければ、ロシアの侵略が世界中に広がる」(ワシントン・ポスト)と反論しました。これは、ネオコンらしい言い方です。ネオコンはこういう言い方を多用します。ベトナム戦争にアメリカ軍が本格的に介入した際の「ドミノ理論」(ベトナム社会主義国家を認めれば周辺に社会主義国がドミノのように広がるから、ベトナム戦争にアメリカは介入しなければならない)とよく似ています。こういう「論理建て」で宣伝し、戦争介入・戦争拡大へと突き進んできました。私たちの多くも聞き覚えがあるのではないでしょうか? 日本の主要メディアは、ヌーランドの言い方をそのまま繰り返していますから。ヌーランドの主張とは峻別した考えを私たち自身が持たなくては、戦争拡大、ウクライナ戦争継続の主張を拒否できません。
E:国際法違反の戦争
それから、あらためて指摘しておかなくてはならないのは、国連憲章、国際法違反の戦争は、第2次世界大戦後、アメリカがずっと行ってきたことでもあります。アメリカの専売特許です。そう断言して間違いありません。
ロシアの「特別軍事作戦」と最も類似しているのは1998年にコソボ支援と称し、アメリカ政府がNATO軍を送りセルビアを攻撃したことです。「セルビアによる独裁政治と弾圧があり、コソボで5,000人の虐殺があった」として、NATOは軍を送り、セルビアを爆撃しました。5,000人虐殺の事実はなかったことが、侵攻後に明らかになりましたが、NATOの爆撃によって、コソボはセルビアから離れ実質的に独立しました。現在コソボには大きな米軍基地があり米軍が駐留しています。仮に上記の理由があったとしても、NATOが軍を送り攻撃するのは、国連憲章違反、国際法違反であると指摘されてきました。ロシアによる「特別軍事作戦」とよく似ています。
もちろん違うところもあります。セルビアからNATOへの脅威はありませんでしたし、ドンバスでは14,000人の死者が出ています。そのような違いはありますが。
リビアへの攻撃(米、英、仏、伊)によるカダフィ政権打倒も、国際法違反です。米、英、仏、伊は、カダフィが独裁だとして、空爆しリビア軍を撃退しました。そのうえで、地上戦はアルカイダ系の雇い兵(LIFG)で戦闘させ占領し、カダフィを虐殺しました。その結果、現在ではリビアの石油は、リビア国民のものではなくなっています。
イラク戦争も大量破壊兵器があるとしてフセイン政権を倒しましたが、のちに大量破壊兵器はなかったことが暴露されました。これも明確な国際法違反です。アメリカ政府とNATOは、罪を犯しても罰せられていません。責任を取っていません。こういうでたらめな世界秩序をつくってきているのです。
アフガン戦争も、アフガン・タリバン政権が、オサマ・ビンラディンを匿っていることを理由に「反テロ戦争」としてNATOがアフガンに侵攻しタリバン政権を倒しました。タリバン政権は、「公正な裁判が保障されるのであれば、ビンラディンを引き渡す用意がある」との立場を取りましたが、これを無視して侵攻しました。これはアメリカ軍、NATOがタリバン政権に戦争を仕掛ける理由にはなりません。国連憲章違反、国際法違反です。
中南米政府に対するクーデター………など、上げれば限りがありません。
アメリカ政府による国際法違反、国連憲章違反の例は、数に限りがありません。現在ではアメリカ政府は国連を通じた支配に代わってNATOによる戦争と脅し、NATO以外でも有志連合による軍事作戦、ドルを背景にした経済制裁によって、世界支配するに至っています。国連からNATOへのシフト、それがアメリカ政府の現代的な世界支配の「やり方」となっています。私たちはこのような現代の現実をきちんと認識しなければなりません。国連無視は、アメリカ政府がやってきたことです。
こういうことを書き連ねるのは、私は下記のことを言いたいからです。言いたいことは、4つ。
⑴ダブルスタンダードに立ってはならない、ということ。アメリカとNATOのこれまでの国際法違反、戦争を批判しないでおいて、ロシアの批判をする政府、団体・人を、私は信用しません。 議論する前提として、ダブルスタンダードに立たないことを、まず求めます。 ⑵第2次世界大戦以後に限っても、自身の戦争で殺した人数を数えれば、アメリカがダントツです。決してロシアでも中国でもありません。その事実がどうしてなのか、深刻に考えなければなりません。考える力のない者は真の知識人、ジャーナリストではありません。(伊勢崎賢治/東京外語大教授、22年12月10日宮古島での講演) ⑶現代において人類に最も危険な存在は、アメリカとNATO、欧州です。アメリカ・欧州は地域戦争、雇い兵を使った戦争・クーデターなどを起こして混乱をつくり出し、G7以外の国々・人々を新植民地主義によって支配しています。ナオミ・クラインは「ショック・ドクトリン」と呼んでいます。この現実に対して批判する立場に立たなくてはなりません。 ⑷ 欧州は今回、ロシアとの戦争に引き込まれることによって、アメリカに従属する関係になりました。まるで日本のようです。EUを結成した一つの理由は、欧州を共同市場としアメリカに対抗しより独立的に振舞える欧州を実現しようという志向があったはずですが、ウクライナ戦争を前にして一挙にアメリカの支配を受け入れた欧州、アメリカの戦争政策に従属した欧州となったことに、私はショックを覚えました。国連憲章も国際法も、あるいは欧州不戦条約も歯止めにはならず、NATOによる欧州支配が実現したのは大きな驚きでした。私たちが国連憲章違反、国際法違反を指摘するのは、私たちが何を守ろうとするのか、何を実現しようとしているのかも、同時に明確に意識しなければなりません。
アメリカ政府による戦争と新植民地主義こそ、もっとも現代の最も重大な危険、敵として明確に意識し批判する立場に立たなければ、そのような平和運動、労働運動、市民運動・・・・でなければ、対抗することはできません。取り込まれてしまいます。欧州の既存の平和運動・環境運動・・・・は、現代の最も重大な危険に対する批判が欠如しているからこそ、ウクライナ戦争を前にして「祖国擁護」に取り込まれつつあります。第2インターへの先祖返りでしょうか? アメリカ政府の依存することを選択した欧州では 「背教者カウツキー」(の子孫)が大量に生まれているように見えます。ここに必要なのは、「国際主義」です。(続く)
ウクライナ戦争 5)私たちはどのような態度をとるべきか? [世界の動き]
ウクライナ戦争
5)私たちはどのような態度をとるべきか?
現在、起きている戦争をやめよ、止めろ!と主張するのが、平和運動/反戦運動であると私はとらえています。私の立場は非戦です。人が死ぬのを黙ってみている平和運動はありません。すぐさま停戦せよ! ウクライナに武器を送るな! まずは、この立場に立つことです。
そのうえで、どうするべきか? ウクライナ戦争の根本的な対立内容は、ウクライナをけしかけたロシアに対する戦争計画、NATOの東方拡大、ロシアにとっては安全保障の危機だと判断しています。これを解消することが、長期的に見れば、かの地での対立、戦争の原因を解消することになります。
当たり前の要求であり、認識だと私は思いますが、日本の平和運動団体、市民運動、環境運動、労働運動などの団体・グループは、このような認識を持つことがなかなかできていません。
A:日本政府に対して何を要求すべきか?
そのうえで、私は、ウクライナ戦争において停戦の現実性が増してきた現在、「岸田政権は停戦を仲介せよ!」と日本政府に要求すべきだと考えています。(岸田政権は3月21日ウクライナを訪問しましたので、実際には違う道を選択しました。それでも私たちはオールタナティブなプランとして日本政府に要求すべきです。「実現しそうにないから要求として掲げない」というのは間違いです。)
仮に、岸田政権が停戦を仲介する立場に立てば、各国政府と世界の人々に向かって日本政府は戦争に対して軍事力ではなく外交/話し合いによって解決する立場をとることをアピールすることになります。そうすることで、日本政府は名誉ある地位を獲得するとともに、各国の信頼を得るでしょう。そのことによって軍事費を倍増し、隣国を敵視しミサイル配備しない、善隣友好と平和外交を行うと宣言することにもつながります。中国に対しても、アメリカの尻尾にくっついて「台湾有事」を煽るのではなく、敵対ではなく友好を掲げ、外交交渉し、決して戦争とならない善隣友好の関係をつくりあげるべきです。そのことが日本の安全保障にとって最も必要なことです。
凋落の見えてきたアメリカ政府は、①世界一の軍事力、②国際通貨であるドルを利用した経済制裁で、世界の覇権を維持しようと躍起になっています。中国に対しても「台湾有事」を煽り戦争状態/緊張状態を作ることで覇権を維持しようとしています。仮に戦争となっても、核戦争でない限り、戦場となり破壊されるのは東アジア=台湾、中国東海岸、日本・・・に限られ、アメリカ本土には及ばないので、アメリカにとっては万々歳です。中国の覇権を阻止したいのです。
「台湾有事」は、ウクライナ戦争と同じ「代理戦争」であり、台湾や日本はウクライナと同じ「捨て駒」です。岸田政権は、ゼレンスキー政権のように代理戦争を行い、アメリカの捨て駒にされたいのか? ということです。ウクライナの死者、破壊・惨状は、明日の日本の姿であり、日本にとっては、破滅、安全保障の破壊です。もちろん台湾、中国にとっても。
現代における日本にとっての安全保障とは、ウクライナ戦争停戦であり、「台湾有事」阻止であり、日中友好です。戦争の時代となれば、日本(日本資本も含め)の出番はありません。アメリカにさらに従属することになります。それは悲惨な未来です。
アメリカ政府の影響から離れ中国との友好関係を築くこと、アメリカの主導する対中国経済制裁による世界の分断経済ではなく、開放経済であることが日本の安全保障をより確かなものにします。それ以外にありません。アメリカ政府による中国への経済制裁は世界経済の分断を生み出し、供給網が分断されコストが膨らみ、インフレが高進しています。したがって、米中分断阻止こそ、当面の経済危機回避でもあり、そこに日本の果たすべき役割があります。
しかし日本政府、岸田自民党政権は、そのようなことは何も考えておらず、アメリカ政府にただ従うことしかしていません。きわめて危険です。
※ 「米中等距離外交」は、決して非現実的な対応ではありません。目の前に「手本」があります。ASEAN諸国は、「米中等距離外交」を掲げ、アメリカの傘下に入らず、米中双方と付き合うことで、安全保障を確保し、経済発展を実現しています。22年4月、シンガポールのリー・シェンロン首相は、アメリカ政府に向かって「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」と強く要求しました。22年5月、シンガポールを訪問した米オースティン国防長官は、その気迫に圧倒され「米国は、貴国に対し米中、いずれかの選択を迫ることはしない」と明言させられました。ちなみにシンガポールは軍備を持っていません。
TPPを離脱したアメリカには、市場として魅力がないのです。一方中国は「一帯一路」で市場を開いています。アメリカはもはやASEAN(ASEANばかりではありません)をつなぎ留めておく経済戦略を提示できる力がないのです。
したがって、ウクライナ戦争に対してどういう態度をとるべきか? 「台湾有事」という偽の宣伝にどう対処すべきか、ロシアや中国との関係をどうすべきか? 世界情勢の理解の上に立ち、米戦略への従属した日本政府の軍備倍増、中国との危険な対立へ進む危険な外交・軍事政策に対して、別の道筋・オールタナティブなプランを提示することが、日本の平和運動、環境運動・・・・にとっても、必要です。
ウクライナ戦争に対しては、⑴即時停戦・休戦せよ! ⑵武器支援するな! ⑶NATOは東方拡大するな!解体せよ!を掲げるべきです。「台湾有事」「米中軍事対立」に対しても、「米中対立の緩和」、交渉/会談を!という態度をとるべきです。「ウクライナ戦争」へどのような態度をとるか、ときわめて似ています。しっかりした考え方を持たない限り、戦争への総動員体制へ取り込まれた80年、90年前の戦前と同じように、戦争への総動員体制に組み込まれてしまいます。(「安保3文書」は戦争への総動員体制について規定あり)
そんな問題意識は、特に最近特に欠如していると感じています。日本の労働運動、市民運動、環境運動、平和運動………に参加している人たちは、国際情勢に疎くなっています。世界は明らかに変動しており、変化する国際的な動きについて、情報を独自に集め検討し理解し、そのうえで運動の方向・内容を随時検討し見直すことができていないのではないでしょうか? それがなければ、新たな現実に対応できなくなります。日本の運動全体の「老化」「衰退」が進むことになります。
B:ヨーロッパの平和運動の新たな動き
ヨーロッパでは、これまでの平和運動団体、環境運動団体の多くは、ウクライナ戦争を前にしてNATOがロシアと戦争することを支持してきました。ドイツ外相である「緑の党」ハーベック党首はきわめて好戦的であり、ロシアとの戦争の積極的な推進派です。
ヨーロッパの環境運動、平和運動の多くが、「祖国擁護」の立場から、自国とNATOのウクライナ戦争支援/武器支援を支持する現象が生まれています。グレタ・トゥーンベリさんが、22年12月「CO2排出削減のために、原発稼働を容認する」と発言し、私は(そして世界の多くの人は)ずいぶん失望しましたが、そのような発言が出る背景には、「ロシアとの戦争は「祖国擁護」なので致し方ない、それを前提にした考えがあるのでは?」と解釈しています。詳細の事情を知っている方があれば、お教え願ください。
ヨーロッパでは、戦車「レオパルド2」のウクライナ提供を決めてから、各地で武器支援するな! 戦争を拡大するな!のデモが目立ち始めました。 ⑴即時停戦・休戦せよ! ⑵武器を送るな! ⑶NATOを脱退せよ! のスローガンを掲げる団体のデモが各地で生まれています。
23年2月26日に反NATO、ウクライナへの武器輸出に反対のデモは、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、スペイン、ポーランド、モルドバで行われました。G7諸国中5ヵ国で反戦デモがありました。これまでにはない新しい動きです。現在は、NATOは分裂へのモメントが働く局面へ移行しつつあります。欧州各国にとって、アメリカ政府と一緒になって(NATOがその推進組織ですが)、ウクライナ戦争の戦線拡大、戦争関与にさらに踏み込むことは、より難しくなっています。それどころか、現在と近い将来の足かせとなりかねない情勢が生まれています。
NATO、G7の政治指導者ばかりでなく、市民運動や平和運動、環境運動に取り組む市民も、起きている新しい事態、動きを正確に把握し、現実政治・戦争政策に対するより徹底的な批判と行動とることが必要となっています。現状の動きは変化していくので、私たちの批判や行動はこれに対応していかなくてはなりません。私は、この⑴~⑶の要求を掲げないものは、現代ではすでにニセモノの市民運動や平和運動、環境運動……と化したと、とらえています。⑴~⑶を掲げるのが、真の平和運動ですし、真の環境運動ですし、国際主義です。 戦争を前にして「真贋」がはっきりするものです。
日本の平和運動、環境運動、市民運動にとっても、真贋の判定基準になると私は考えています。
C:中国の停戦提案
別の面からもすでに停戦への動きは起きています。
23年2月24日、中国政府は早期停戦と和平交渉を促す12項目の仲裁案を発表しました。3月9日の日経記事(北京/羽田野主 記者)は以下の通りです。
**********
「これまで中国政府は、ウクライナ戦争に対する具体的な行動には慎重な態度をとってきたが、今回、仲裁案を公表し、その態度を今回変えたといえる。
その背景は、中国人民解放軍直属の軍事科学院――軍の最高意思決定機関や中央軍事委員会への提言や報告がその役割――が、2022年12月ウクライナ情勢をめぐるシミュレーションをまとめた。その内容は、「23年夏ごろ、ロシア軍が優勢なまま終局に向かう」というものだった。「ウクライナ、ロシアとも経済的疲弊が激しく、23年夏にも戦争継続が難しくなる」との見立てだ。
その根拠の1つ目は、23年夏以降、米国の支援が見込めないことだ。
これまでの米国の支援額は、ウクライナへの援助額全体の約半分を占めてきた。22年12月、米議会は450億㌦(約6兆円)の支援を決めたが、この予算は23年夏には切れると見込まれている。新たな追加支援支出は、米共和党が米下院で多数派を握ったこと、米政府債務が上限31.4兆ドルに達していることから、難しくなっている。
日本の首相官邸幹部は、「秋以降は米国の支援がどうなるかわからない」と語っている。
米国が主導しウクライナ戦争を推し進めており、欧州はNATOとして武器支援を拡大しているものの、独仏などには早期停戦を望む声がくすぶっている。
したがって、中国の仲裁案提示により停戦協議が始まるとのシナリオには、それなりに現実味がある。中国政府は軍事科学院の報告を受けて、仲裁案の作成を始め、2月24日の公表となった。
2つ目は、中国とウクライナは良好な関係を保ってきた。ウクライナを失う必要はない。仲裁案には、「経済復興計画策定」を盛り込み、すでに経済支援策の検討に入った。
3つ目は、(中国が)停戦の主役を勝ち取ることだ。習近平氏のロシア訪問も検討中だ。…中国が主導して停戦に持ち込めば、中国とも米国とも距離を置く途上国「グローバルサウス」を引き込む契機になる。
中国にとって欧州との経済関係は重要であるし、「欧州からの中国向けの直接投資や技術移転はまだ見込めるだろう」と期待しており、関係改善が経済回復にもつながる。
このような情勢判断から、「停戦協議の開始前に中国が積極的に関与すべきだ」との判断に至った。
これが、中国がウクライナ戦争に対するこれまでの慎重姿勢から、一転して仲裁案を提示するに至った背景であろう。」
**********
ウクライナ戦争後を睨んだ世界各国の動きが表面化しています。中国の停戦提案はその動きの一つです。
また、2月10日、訪米したブラジルのルーラ大統領は米CNNテレビのインタビューで、「ブラジルは戦争に加わらない、武器供与はしない」と語りました。そのあとバイデン大統領と会談しており、そこでもブラジルの立場を説明したと思われます。
それから、最近、新たな動きが続いています。
アメリカの地位は、徐々に低下しており、中東やアフリカ、ASEAN、南米における影響力は目に見えて低下しました。その分、アメリカ陣営内では、欧州、豪、日などの同盟国への負担強要・支配が厳しくなっています。ウクライナ戦争を機にNATOをテコとして、ドイツとヨーロッパはアメリカへの従属を強めました。日本は先にアメリカの言うなりの政府となっています。英国もEU離脱で存在感を失いアメリカの使い走りになることで存在感を示す以外に選択肢がなくなりました。3月20日、劣化ウラン弾をウクライナに供与すると発言するに至っています(英紙ガーディアンなどによると、英国防省のゴールディー閣外相が、「ウクライナに劣化ウラン弾を供与する」と議会で発言)。
それらは、G7が既存権益維持に躍起となり、反動化していることでもあります。G7反対運動は、そのような認識の上に立った運動を行うべきです。
その一方で、中国の姿が大きくなってきました。
23年3月10日、中国が仲介して、対立していたと思われたイランとサウジアラビアが関係正常化に合意し、2ヶ月後にお互いの大使館が設置されます。中国が一気に正常化に漕ぎ着けました。アメリカ政府はただ座視するだけです。イラン、サウジアラビアは共に中国、ロシアが加盟するBRICSへの加盟を希望しています。
ウクライナ戦争後の世界再編はどうなるか、を睨んだサウジとイランの対応です。特に、サウジはアメリカの勝手な振る舞いにうんざりし、距離を取ろうとしています。その向かう先が中国中心のBRICSでした。
これは画期的な出来事でした。中東におけるアメリカの地位が低下し、サウジもアメリカの影響下からより離れる選択を中国を仲介にして行ったのです。
南米ブラジルと経済同盟メルコスールを結成したアルゼンチンもBRICSに参加を希望しています。両国はドイツからのウクライナ支援、武器支援の要請を断りました。
メキシコ、インドネシア、イラン、サウジアラビア、トルコ、エジプト、アルジェリア、ベラルーシなど、20ヵ国がBRICS加盟を希望しています。
アメリカ、NATO諸国、G7の主導してきた世界秩序に対する批判・反発は、中国を軸にしたBRICSへの結集という世界秩序再編の動きとなって、顕在化しています。それはウクライナ戦争を起こして、しかも止めようとしないアメリカとNATO、G7への失望があるのでしょう。
アメリカは世界の覇権を維持しようと、⑴世界一の軍事力、⑵世界通貨ドルを根拠とした経済制裁で、支配し従わせようとしてきましたが、そのようなアメリカによる世界秩序に対する反発と「拒否」が広がるとともに、中国がその受け皿として登場しています。中国人民元を基準とした通貨バスケットによる貿易決済が急速に生まれています。アメリカ・ドル一極体制が解体する兆しが見えてきました。世界の覇権が英から米に移り、やや遅れて国際通貨が英ポンドから米ドルに切り替わってきた歴史が思い出されます。
ウクライナ戦争後を睨んだ世界各国の動きが表面化しているのでしょう。アメリカ、NATO、G7による秩序から離れ、中国とBRICを中心とした新たな世界秩序への移行が始まっています。アメリカ、G7(日本も含む)は、やがて時代遅れの産物と化すのではないでしょうか?
ウクライナ戦争後は、アメリカと欧州の権威と地位が低下した世界となるとグローバルサウスの国々は判断しているのでしょう。中国による停戦提案は、こういった世界の変化(アメリカの凋落、欧州の権威失墜)を睨み提示されていると理解すべきです。
私は、ウクライナ戦争については、中国の停戦提案を支持すべきだと考えています。「戦争継続/戦争拡大」は誰であれ間違いです。「停戦提案」は誰であれ、より正しいと判断します。市民運動、民主運動レベルでも、支持するべきではないかと思います。
D:G7に対して、私たちは何を掲げるべきか?
23年5月、広島でG7が開催されます。
G7反対の取り組みが準備されていますが、G7こそウクライナ戦争をやっている当事者です。アメリカとG7がつくり出している現世界秩序が、問題となっているのです。全米民主主義基金やソサイアティ財団(ジョージ・ソロス)で親米勢力を育て、暴動・混乱を起こしたら傭兵を使い戦争を仕掛け、社会に混乱状態をつくり出して政権を打倒し、傀儡政権を使って支配する、そのあと資源を略奪する――こういうG7が推し進めてきた世界秩序が、いま問われているのです。日本もその一員に加わっています。ウクライナ戦争もその一つと言えるでしょう。そのような理解に立たなければなりません。
広島で開かれるG7反対運動は、①ウクライナ戦争の即時停戦・休戦せよ! 交渉で解決せよ! ②ウクライナへ武器支援するな! ③G7は戦争継続するな!戦争を拡大するな!④戦争の原因であるNATOの東方拡大をやめよ! NATOを解体せよ! をメインスローガンとして掲げるべきだと考えます。これを掲げなければ、G7反対にはなりません。
以上
5)私たちはどのような態度をとるべきか?
現在、起きている戦争をやめよ、止めろ!と主張するのが、平和運動/反戦運動であると私はとらえています。私の立場は非戦です。人が死ぬのを黙ってみている平和運動はありません。すぐさま停戦せよ! ウクライナに武器を送るな! まずは、この立場に立つことです。
そのうえで、どうするべきか? ウクライナ戦争の根本的な対立内容は、ウクライナをけしかけたロシアに対する戦争計画、NATOの東方拡大、ロシアにとっては安全保障の危機だと判断しています。これを解消することが、長期的に見れば、かの地での対立、戦争の原因を解消することになります。
当たり前の要求であり、認識だと私は思いますが、日本の平和運動団体、市民運動、環境運動、労働運動などの団体・グループは、このような認識を持つことがなかなかできていません。
A:日本政府に対して何を要求すべきか?
そのうえで、私は、ウクライナ戦争において停戦の現実性が増してきた現在、「岸田政権は停戦を仲介せよ!」と日本政府に要求すべきだと考えています。(岸田政権は3月21日ウクライナを訪問しましたので、実際には違う道を選択しました。それでも私たちはオールタナティブなプランとして日本政府に要求すべきです。「実現しそうにないから要求として掲げない」というのは間違いです。)
仮に、岸田政権が停戦を仲介する立場に立てば、各国政府と世界の人々に向かって日本政府は戦争に対して軍事力ではなく外交/話し合いによって解決する立場をとることをアピールすることになります。そうすることで、日本政府は名誉ある地位を獲得するとともに、各国の信頼を得るでしょう。そのことによって軍事費を倍増し、隣国を敵視しミサイル配備しない、善隣友好と平和外交を行うと宣言することにもつながります。中国に対しても、アメリカの尻尾にくっついて「台湾有事」を煽るのではなく、敵対ではなく友好を掲げ、外交交渉し、決して戦争とならない善隣友好の関係をつくりあげるべきです。そのことが日本の安全保障にとって最も必要なことです。
凋落の見えてきたアメリカ政府は、①世界一の軍事力、②国際通貨であるドルを利用した経済制裁で、世界の覇権を維持しようと躍起になっています。中国に対しても「台湾有事」を煽り戦争状態/緊張状態を作ることで覇権を維持しようとしています。仮に戦争となっても、核戦争でない限り、戦場となり破壊されるのは東アジア=台湾、中国東海岸、日本・・・に限られ、アメリカ本土には及ばないので、アメリカにとっては万々歳です。中国の覇権を阻止したいのです。
「台湾有事」は、ウクライナ戦争と同じ「代理戦争」であり、台湾や日本はウクライナと同じ「捨て駒」です。岸田政権は、ゼレンスキー政権のように代理戦争を行い、アメリカの捨て駒にされたいのか? ということです。ウクライナの死者、破壊・惨状は、明日の日本の姿であり、日本にとっては、破滅、安全保障の破壊です。もちろん台湾、中国にとっても。
現代における日本にとっての安全保障とは、ウクライナ戦争停戦であり、「台湾有事」阻止であり、日中友好です。戦争の時代となれば、日本(日本資本も含め)の出番はありません。アメリカにさらに従属することになります。それは悲惨な未来です。
アメリカ政府の影響から離れ中国との友好関係を築くこと、アメリカの主導する対中国経済制裁による世界の分断経済ではなく、開放経済であることが日本の安全保障をより確かなものにします。それ以外にありません。アメリカ政府による中国への経済制裁は世界経済の分断を生み出し、供給網が分断されコストが膨らみ、インフレが高進しています。したがって、米中分断阻止こそ、当面の経済危機回避でもあり、そこに日本の果たすべき役割があります。
しかし日本政府、岸田自民党政権は、そのようなことは何も考えておらず、アメリカ政府にただ従うことしかしていません。きわめて危険です。
※ 「米中等距離外交」は、決して非現実的な対応ではありません。目の前に「手本」があります。ASEAN諸国は、「米中等距離外交」を掲げ、アメリカの傘下に入らず、米中双方と付き合うことで、安全保障を確保し、経済発展を実現しています。22年4月、シンガポールのリー・シェンロン首相は、アメリカ政府に向かって「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」と強く要求しました。22年5月、シンガポールを訪問した米オースティン国防長官は、その気迫に圧倒され「米国は、貴国に対し米中、いずれかの選択を迫ることはしない」と明言させられました。ちなみにシンガポールは軍備を持っていません。
TPPを離脱したアメリカには、市場として魅力がないのです。一方中国は「一帯一路」で市場を開いています。アメリカはもはやASEAN(ASEANばかりではありません)をつなぎ留めておく経済戦略を提示できる力がないのです。
したがって、ウクライナ戦争に対してどういう態度をとるべきか? 「台湾有事」という偽の宣伝にどう対処すべきか、ロシアや中国との関係をどうすべきか? 世界情勢の理解の上に立ち、米戦略への従属した日本政府の軍備倍増、中国との危険な対立へ進む危険な外交・軍事政策に対して、別の道筋・オールタナティブなプランを提示することが、日本の平和運動、環境運動・・・・にとっても、必要です。
ウクライナ戦争に対しては、⑴即時停戦・休戦せよ! ⑵武器支援するな! ⑶NATOは東方拡大するな!解体せよ!を掲げるべきです。「台湾有事」「米中軍事対立」に対しても、「米中対立の緩和」、交渉/会談を!という態度をとるべきです。「ウクライナ戦争」へどのような態度をとるか、ときわめて似ています。しっかりした考え方を持たない限り、戦争への総動員体制へ取り込まれた80年、90年前の戦前と同じように、戦争への総動員体制に組み込まれてしまいます。(「安保3文書」は戦争への総動員体制について規定あり)
そんな問題意識は、特に最近特に欠如していると感じています。日本の労働運動、市民運動、環境運動、平和運動………に参加している人たちは、国際情勢に疎くなっています。世界は明らかに変動しており、変化する国際的な動きについて、情報を独自に集め検討し理解し、そのうえで運動の方向・内容を随時検討し見直すことができていないのではないでしょうか? それがなければ、新たな現実に対応できなくなります。日本の運動全体の「老化」「衰退」が進むことになります。
B:ヨーロッパの平和運動の新たな動き
ヨーロッパでは、これまでの平和運動団体、環境運動団体の多くは、ウクライナ戦争を前にしてNATOがロシアと戦争することを支持してきました。ドイツ外相である「緑の党」ハーベック党首はきわめて好戦的であり、ロシアとの戦争の積極的な推進派です。
ヨーロッパの環境運動、平和運動の多くが、「祖国擁護」の立場から、自国とNATOのウクライナ戦争支援/武器支援を支持する現象が生まれています。グレタ・トゥーンベリさんが、22年12月「CO2排出削減のために、原発稼働を容認する」と発言し、私は(そして世界の多くの人は)ずいぶん失望しましたが、そのような発言が出る背景には、「ロシアとの戦争は「祖国擁護」なので致し方ない、それを前提にした考えがあるのでは?」と解釈しています。詳細の事情を知っている方があれば、お教え願ください。
ヨーロッパでは、戦車「レオパルド2」のウクライナ提供を決めてから、各地で武器支援するな! 戦争を拡大するな!のデモが目立ち始めました。 ⑴即時停戦・休戦せよ! ⑵武器を送るな! ⑶NATOを脱退せよ! のスローガンを掲げる団体のデモが各地で生まれています。
23年2月26日に反NATO、ウクライナへの武器輸出に反対のデモは、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、スペイン、ポーランド、モルドバで行われました。G7諸国中5ヵ国で反戦デモがありました。これまでにはない新しい動きです。現在は、NATOは分裂へのモメントが働く局面へ移行しつつあります。欧州各国にとって、アメリカ政府と一緒になって(NATOがその推進組織ですが)、ウクライナ戦争の戦線拡大、戦争関与にさらに踏み込むことは、より難しくなっています。それどころか、現在と近い将来の足かせとなりかねない情勢が生まれています。
NATO、G7の政治指導者ばかりでなく、市民運動や平和運動、環境運動に取り組む市民も、起きている新しい事態、動きを正確に把握し、現実政治・戦争政策に対するより徹底的な批判と行動とることが必要となっています。現状の動きは変化していくので、私たちの批判や行動はこれに対応していかなくてはなりません。私は、この⑴~⑶の要求を掲げないものは、現代ではすでにニセモノの市民運動や平和運動、環境運動……と化したと、とらえています。⑴~⑶を掲げるのが、真の平和運動ですし、真の環境運動ですし、国際主義です。 戦争を前にして「真贋」がはっきりするものです。
日本の平和運動、環境運動、市民運動にとっても、真贋の判定基準になると私は考えています。
C:中国の停戦提案
別の面からもすでに停戦への動きは起きています。
23年2月24日、中国政府は早期停戦と和平交渉を促す12項目の仲裁案を発表しました。3月9日の日経記事(北京/羽田野主 記者)は以下の通りです。
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「これまで中国政府は、ウクライナ戦争に対する具体的な行動には慎重な態度をとってきたが、今回、仲裁案を公表し、その態度を今回変えたといえる。
その背景は、中国人民解放軍直属の軍事科学院――軍の最高意思決定機関や中央軍事委員会への提言や報告がその役割――が、2022年12月ウクライナ情勢をめぐるシミュレーションをまとめた。その内容は、「23年夏ごろ、ロシア軍が優勢なまま終局に向かう」というものだった。「ウクライナ、ロシアとも経済的疲弊が激しく、23年夏にも戦争継続が難しくなる」との見立てだ。
その根拠の1つ目は、23年夏以降、米国の支援が見込めないことだ。
これまでの米国の支援額は、ウクライナへの援助額全体の約半分を占めてきた。22年12月、米議会は450億㌦(約6兆円)の支援を決めたが、この予算は23年夏には切れると見込まれている。新たな追加支援支出は、米共和党が米下院で多数派を握ったこと、米政府債務が上限31.4兆ドルに達していることから、難しくなっている。
日本の首相官邸幹部は、「秋以降は米国の支援がどうなるかわからない」と語っている。
米国が主導しウクライナ戦争を推し進めており、欧州はNATOとして武器支援を拡大しているものの、独仏などには早期停戦を望む声がくすぶっている。
したがって、中国の仲裁案提示により停戦協議が始まるとのシナリオには、それなりに現実味がある。中国政府は軍事科学院の報告を受けて、仲裁案の作成を始め、2月24日の公表となった。
2つ目は、中国とウクライナは良好な関係を保ってきた。ウクライナを失う必要はない。仲裁案には、「経済復興計画策定」を盛り込み、すでに経済支援策の検討に入った。
3つ目は、(中国が)停戦の主役を勝ち取ることだ。習近平氏のロシア訪問も検討中だ。…中国が主導して停戦に持ち込めば、中国とも米国とも距離を置く途上国「グローバルサウス」を引き込む契機になる。
中国にとって欧州との経済関係は重要であるし、「欧州からの中国向けの直接投資や技術移転はまだ見込めるだろう」と期待しており、関係改善が経済回復にもつながる。
このような情勢判断から、「停戦協議の開始前に中国が積極的に関与すべきだ」との判断に至った。
これが、中国がウクライナ戦争に対するこれまでの慎重姿勢から、一転して仲裁案を提示するに至った背景であろう。」
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ウクライナ戦争後を睨んだ世界各国の動きが表面化しています。中国の停戦提案はその動きの一つです。
また、2月10日、訪米したブラジルのルーラ大統領は米CNNテレビのインタビューで、「ブラジルは戦争に加わらない、武器供与はしない」と語りました。そのあとバイデン大統領と会談しており、そこでもブラジルの立場を説明したと思われます。
それから、最近、新たな動きが続いています。
アメリカの地位は、徐々に低下しており、中東やアフリカ、ASEAN、南米における影響力は目に見えて低下しました。その分、アメリカ陣営内では、欧州、豪、日などの同盟国への負担強要・支配が厳しくなっています。ウクライナ戦争を機にNATOをテコとして、ドイツとヨーロッパはアメリカへの従属を強めました。日本は先にアメリカの言うなりの政府となっています。英国もEU離脱で存在感を失いアメリカの使い走りになることで存在感を示す以外に選択肢がなくなりました。3月20日、劣化ウラン弾をウクライナに供与すると発言するに至っています(英紙ガーディアンなどによると、英国防省のゴールディー閣外相が、「ウクライナに劣化ウラン弾を供与する」と議会で発言)。
それらは、G7が既存権益維持に躍起となり、反動化していることでもあります。G7反対運動は、そのような認識の上に立った運動を行うべきです。
その一方で、中国の姿が大きくなってきました。
23年3月10日、中国が仲介して、対立していたと思われたイランとサウジアラビアが関係正常化に合意し、2ヶ月後にお互いの大使館が設置されます。中国が一気に正常化に漕ぎ着けました。アメリカ政府はただ座視するだけです。イラン、サウジアラビアは共に中国、ロシアが加盟するBRICSへの加盟を希望しています。
ウクライナ戦争後の世界再編はどうなるか、を睨んだサウジとイランの対応です。特に、サウジはアメリカの勝手な振る舞いにうんざりし、距離を取ろうとしています。その向かう先が中国中心のBRICSでした。
これは画期的な出来事でした。中東におけるアメリカの地位が低下し、サウジもアメリカの影響下からより離れる選択を中国を仲介にして行ったのです。
南米ブラジルと経済同盟メルコスールを結成したアルゼンチンもBRICSに参加を希望しています。両国はドイツからのウクライナ支援、武器支援の要請を断りました。
メキシコ、インドネシア、イラン、サウジアラビア、トルコ、エジプト、アルジェリア、ベラルーシなど、20ヵ国がBRICS加盟を希望しています。
アメリカ、NATO諸国、G7の主導してきた世界秩序に対する批判・反発は、中国を軸にしたBRICSへの結集という世界秩序再編の動きとなって、顕在化しています。それはウクライナ戦争を起こして、しかも止めようとしないアメリカとNATO、G7への失望があるのでしょう。
アメリカは世界の覇権を維持しようと、⑴世界一の軍事力、⑵世界通貨ドルを根拠とした経済制裁で、支配し従わせようとしてきましたが、そのようなアメリカによる世界秩序に対する反発と「拒否」が広がるとともに、中国がその受け皿として登場しています。中国人民元を基準とした通貨バスケットによる貿易決済が急速に生まれています。アメリカ・ドル一極体制が解体する兆しが見えてきました。世界の覇権が英から米に移り、やや遅れて国際通貨が英ポンドから米ドルに切り替わってきた歴史が思い出されます。
ウクライナ戦争後を睨んだ世界各国の動きが表面化しているのでしょう。アメリカ、NATO、G7による秩序から離れ、中国とBRICを中心とした新たな世界秩序への移行が始まっています。アメリカ、G7(日本も含む)は、やがて時代遅れの産物と化すのではないでしょうか?
ウクライナ戦争後は、アメリカと欧州の権威と地位が低下した世界となるとグローバルサウスの国々は判断しているのでしょう。中国による停戦提案は、こういった世界の変化(アメリカの凋落、欧州の権威失墜)を睨み提示されていると理解すべきです。
私は、ウクライナ戦争については、中国の停戦提案を支持すべきだと考えています。「戦争継続/戦争拡大」は誰であれ間違いです。「停戦提案」は誰であれ、より正しいと判断します。市民運動、民主運動レベルでも、支持するべきではないかと思います。
D:G7に対して、私たちは何を掲げるべきか?
23年5月、広島でG7が開催されます。
G7反対の取り組みが準備されていますが、G7こそウクライナ戦争をやっている当事者です。アメリカとG7がつくり出している現世界秩序が、問題となっているのです。全米民主主義基金やソサイアティ財団(ジョージ・ソロス)で親米勢力を育て、暴動・混乱を起こしたら傭兵を使い戦争を仕掛け、社会に混乱状態をつくり出して政権を打倒し、傀儡政権を使って支配する、そのあと資源を略奪する――こういうG7が推し進めてきた世界秩序が、いま問われているのです。日本もその一員に加わっています。ウクライナ戦争もその一つと言えるでしょう。そのような理解に立たなければなりません。
広島で開かれるG7反対運動は、①ウクライナ戦争の即時停戦・休戦せよ! 交渉で解決せよ! ②ウクライナへ武器支援するな! ③G7は戦争継続するな!戦争を拡大するな!④戦争の原因であるNATOの東方拡大をやめよ! NATOを解体せよ! をメインスローガンとして掲げるべきだと考えます。これを掲げなければ、G7反対にはなりません。
以上
中国によるウクライナ戦争 和平提案の意味 [世界の動き]
中国によるウクライナ戦争 和平提案の意味
3月9日の日本経済新聞(北京/羽田野主記者)は、中国による和平提案の背景について報じている。
23年2月24日、中国政府は早期停戦と和平交渉を促す12項目の仲裁案を発表した。
これまで中国政府は、ウクライナ戦争に対する具体的な行動には慎重な態度をとってきたが、今回、仲裁案を公表し、その態度を今回変えたといえる。
その背景は、中国人民解放軍直属の軍事科学院(トップは閣僚)――軍の最高意思決定機関や中央軍事委員会への提言や報告がその役割――は、2022年12月ウクライナ情勢をめぐるシミュレーションをまとめた。その内容は、「23年夏ごろ、ロシア軍が優勢なまま終局に向かう」というものだった。「ウクライナ、ロシアの経済的疲弊が激しく、23年夏にも戦争継続が難しくなる」との見立てだ。
これまでの米国の支援額は、ウクライナへの援助額全体の約半分を占めている。22年12月、米議会は450億㌦(約6兆円)の支援を決めたが、この予算は23年夏には切れると見込まれている。新たな追加支援支出は、米共和党が米下院で多数派を握ったこと、米政府債務が上限31.4兆ドルに達していることから、難しくなっている。
日本の首相官邸幹部は、「秋以降は米国の支援がどうなるかわからない」と語っている。
米国が主導しウクライナ戦争を推し進めており、欧州はNATOとして武器支援を拡大しているものの、独仏などには早期停戦を望む声がくすぶっている。
欧州各国は戦車「レオパルド2」のウクライナ提供を決めた。この政治的な意味は、武器支援に消極的なドイツを、一段と踏み込んだウクライナ支援、武器支援に引き込む政治的駆け引きであった。ショルツのドイツは戦車提供には応じた。米政府の要求は、さらなる資金援助であり、ドイツが、そして仏、伊、スペインなど欧州主要国が、ウクライナ戦争にさらに深く関与することだ。
しかし、戦車「レオパルド2」の提供を決めたものの、NATO各国には「分裂」の兆候さえ見られる。ウクライナ戦争支援に積極的な政治的発言を発するのは、アメリカ、英国、ポーランド、ルーマニア、バルト三国などであるが、それも「声ばかり」という面がある。ポーランドの提供台数はわずか14両である。1,000両レベルの提供できるのは、ドイツ以外にはありえない。ドイツをウクライナ戦争に引き込む意図がありありなのだ。
武器提供、戦争支援額が増えるに従い、独仏政府内には長期化するウクライナ戦争にこれ以上かかわりたくないとする声が大きくなりつつある。
2月20日のバイデンのキーウ訪問の主な意味は、政治的パフォーマンスである。独仏にもっとウクライナ戦争に関与するように、武器支援・財政支援を行え!という意味である。(日本の岸田首相にもキーウ訪問が要請されているが、訪問すれば巨額の支援を約束させられるのがオチだ。)
したがって、中国の仲裁案提示により停戦協議が始まるとのシナリオには、それなりに現実味がある。中国軍事科学院による「戦況評価」、NATO各国の「支援疲れ」などの評価の上に立っている。中国政府は軍事科学院の報告を受けて、仲裁案の作成を始め、2月24日の公表となった。
中国にとって欧州との経済関係は重要であるし、(停戦となれば)「欧州からの中国向けの直接投資や技術移転はまだ見込めるだろう」と期待しており、関係改善が経済回復にもつながる。
このような情勢判断から、「停戦協議の開始前に中国が積極的に関与すべきだ」との判断に至った。
2つ目は、中国とウクライナは良好な関係を保ってきた。中国はウクライナを失う必要はない。仲裁案には、「ウクライナ経済復興計画策定」を盛り込み、すでに経済支援策の検討に入った。
3つ目は、停戦の主役を勝ち取ることだ。習近平氏のロシア訪問も検討中だ。ウクライナ戦争で「ロシアを弱体化させる」のが米国政府の目的であり、米政府はこれをやめることができない。したがって、停戦など呼びかけることができない。米国政府は、中国のロシアへの武器提供疑惑で批判を強め、ロシアから引き離そうと牽制している。しかし、この「牽制」は効果が見込めない。
欧州は「和平合意案」に表立って異議を唱えてはいないが、中国の呼びかけにより停戦協議に持ち込めば、欧州と中国との関係は改善する。中国が主導して停戦に持ち込めば、中国とも米国とも距離を置く途上国「グローバルサウス」を引き込む契機になる。米国の凋落が一層明らかとなり、中国の権威は高まる。世界の覇権がアメリカから中国へ移行する「転換点」とみなされるようになるだろう。
これが、中国がウクライナ戦争に対するこれまでの慎重姿勢から、一転して仲裁案を提示するに至った背景であろう。
米中対立の緩和こそ日本政府のとるべき道だ [世界の動き]
米中対立の緩和こそ日本政府のとるべき道だ
世界経済を景気後退とインフレの同時進行であるスタグフレーションの影が覆う。主因は、米中覇権争いによる世界経済の分断にある。そこに、コロナ禍とウクライナ戦争が重なった。供給網が分断されコストが膨らんだ。分断によるコストプッシュインフレである。したがって、米中分断阻止こそ経済危機回避のカギだ。
米FRBは利上げしインフレ退治に躍起だ。インフレの芽はトランプ政権以来の米中対立で生まれ、コロナ禍が追い打ちをかけた。そもそも米中対立と米中分断を仕掛けたのは、中国ファーウェイに経済制裁を始めた米国側だ。
22年初め、インフレに慌てたFRBは大幅利上げを重ねたが、今ではオーバーキルの景気後退を心配しなければならなくなっている。そこへウクライナ戦争によるエネルギー価格、穀物価格が急騰し、対ロシア制裁が世界経済をさらに分断し、インフレと景気後退に追い打ちをかけている。
欧州はロシア産ガスの供給を自ら止め(米軍の了承のもとに英海軍が爆破したと言われている)、スポット市場で6倍の価格の米シェールガスへを買わざるを得なくなり、米国よりひどいインフレと景気後退に陥っている。
日銀もようやく超緩和政策を修正した。修正に追い込まれたのが実情だろう。国債金利が上がらないように日銀はいま必死に買い支えている。すでに選択肢はあまりない。アベノミクスからの転換だが、出口は難路が続くだろう。
スタグフレーションは構造的危機である。米中対立による米中分断は、グローバル経済に冷や水を浴びせ、世界貿易を鈍化させた。中国を封じ込め世界覇権を維持したい米国の戦略による規制が、市場経済をゆがめ自由貿易を後退させた。供給網の分断による供給制約で家計は物価上昇に苦しみ、企業はコスト増に悩む。米国のIT大手(GAFAM)の人員削減はコスト増対策であり、景気を下押しする。
米政府による米中分断政策は、半導体分断に象徴される。バイデン政権の対中国半導体規制や巨額の補助金による台湾積体電路製造(TSMC)の囲い込みで半導体市場分断が世界を巻き込む。米政府周辺が「台湾有事」を煽るのは、TSMCを中国から引きはがし囲い込むのが目的の一つだ。
米中対立をどう止めるか!
1)「台湾有事」に備えるより、どう防ぐかに専念すること。有事に至らないようにすることが大事だ。
日本とG7は「一つの中国」という中国の主張を尊重し、これまで通り「台湾独立」に反対する立場を再確認すべきである。そうすれば中国は台湾の民主主義と現在の経済発展を尊重し、武力行使を避けるのはより確実となるだろう。米国の軍産複合体やネオコンを除く、世界の利益となる。
2)分断と対立を解消するには、アジア太平洋地域の経済融合をめざす「スーパー自由貿易圏」を創設すべきだ。中国・台湾の要望でもあるしASEANの要望でもある。日本や韓国にとっても願ったりだ。米国も参加すればいい。対立と戦争に導かない平和的互恵的関係の基礎になる。
したがって、米中のはざまにある日本の役割は重い。
岸田政権は財政破綻の危険を冒して軍拡競争に走るべきではない。米中融和のため「複線的な外交戦略」こそ求められる。米国の言いなりの外交と戦争政策は危険極まりない、破滅への道だ。そこには日本の出番はない。このような政策は即刻放棄しなければならない。
スタグフレーションが広がれば社会不安は一層深刻化する。そのためには、危機の根源である米中分断を防ぐしかない。軍備倍増の軍拡競争ではなく、米中対立の緩和こそ日本政府のとるべき道だ。
景気後退は米中分断から
世界経済を景気後退とインフレの同時進行であるスタグフレーションの影が覆う。主因は、米中覇権争いによる世界経済の分断にある。そこに、コロナ禍とウクライナ戦争が重なった。供給網が分断されコストが膨らんだ。分断によるコストプッシュインフレである。したがって、米中分断阻止こそ経済危機回避のカギだ。
米FRBは利上げしインフレ退治に躍起だ。インフレの芽はトランプ政権以来の米中対立で生まれ、コロナ禍が追い打ちをかけた。そもそも米中対立と米中分断を仕掛けたのは、中国ファーウェイに経済制裁を始めた米国側だ。
22年初め、インフレに慌てたFRBは大幅利上げを重ねたが、今ではオーバーキルの景気後退を心配しなければならなくなっている。そこへウクライナ戦争によるエネルギー価格、穀物価格が急騰し、対ロシア制裁が世界経済をさらに分断し、インフレと景気後退に追い打ちをかけている。
欧州はロシア産ガスの供給を自ら止め(米軍の了承のもとに英海軍が爆破したと言われている)、スポット市場で6倍の価格の米シェールガスへを買わざるを得なくなり、米国よりひどいインフレと景気後退に陥っている。
日銀もようやく超緩和政策を修正した。修正に追い込まれたのが実情だろう。国債金利が上がらないように日銀はいま必死に買い支えている。すでに選択肢はあまりない。アベノミクスからの転換だが、出口は難路が続くだろう。
スタグフレーションは構造的危機である。米中対立による米中分断は、グローバル経済に冷や水を浴びせ、世界貿易を鈍化させた。中国を封じ込め世界覇権を維持したい米国の戦略による規制が、市場経済をゆがめ自由貿易を後退させた。供給網の分断による供給制約で家計は物価上昇に苦しみ、企業はコスト増に悩む。米国のIT大手(GAFAM)の人員削減はコスト増対策であり、景気を下押しする。
米政府による米中分断政策は、半導体分断に象徴される。バイデン政権の対中国半導体規制や巨額の補助金による台湾積体電路製造(TSMC)の囲い込みで半導体市場分断が世界を巻き込む。米政府周辺が「台湾有事」を煽るのは、TSMCを中国から引きはがし囲い込むのが目的の一つだ。
米中対立をどう止めるか!
1)「台湾有事」に備えるより、どう防ぐかに専念すること。有事に至らないようにすることが大事だ。
日本とG7は「一つの中国」という中国の主張を尊重し、これまで通り「台湾独立」に反対する立場を再確認すべきである。そうすれば中国は台湾の民主主義と現在の経済発展を尊重し、武力行使を避けるのはより確実となるだろう。米国の軍産複合体やネオコンを除く、世界の利益となる。
2)分断と対立を解消するには、アジア太平洋地域の経済融合をめざす「スーパー自由貿易圏」を創設すべきだ。中国・台湾の要望でもあるしASEANの要望でもある。日本や韓国にとっても願ったりだ。米国も参加すればいい。対立と戦争に導かない平和的互恵的関係の基礎になる。
したがって、米中のはざまにある日本の役割は重い。
岸田政権は財政破綻の危険を冒して軍拡競争に走るべきではない。米中融和のため「複線的な外交戦略」こそ求められる。米国の言いなりの外交と戦争政策は危険極まりない、破滅への道だ。そこには日本の出番はない。このような政策は即刻放棄しなければならない。
スタグフレーションが広がれば社会不安は一層深刻化する。そのためには、危機の根源である米中分断を防ぐしかない。軍備倍増の軍拡競争ではなく、米中対立の緩和こそ日本政府のとるべき道だ。
ウクライナ戦争は、なぜ終わらないのか? [世界の動き]
ウクライナ戦争は、なぜ終わらないのか?
アメリカの世界戦略―NATO拡大とロシア弱体化、中国との覇権争い-が背景にある
1)なぜアメリカはこれほどまでに
なぜアメリカは停戦に反対するのか?
ロシア・ウクライナ戦争が始まった時、当初は驚いたものの米バイデン政権は、チャンスが訪れたと内心「歓迎」した。ロシアを崩壊させ、軍事・経済・政治すべてにおいてアメリカが有利となる局面が生まれたと受け取ったのだ。ウクライナが破壊されようと、ロシアが崩壊するまで戦争を継続することがアメリカの利益であると考えた。アメリカの世界戦略は、NATO拡大による中国・ロシアの弱体化だからだ。アメリカにとっては、2000年以降のウクライナへの資金供与・武器供与とNATO拡大を非難されないために、ロシアのウクライナ侵攻が「絶好の機会」となったということでもある。ノーム・チョムスキーが、メキシコの新聞El Universalに語ったように、「アメリカは、キーウを支持して、西側諸国の反ロシア連合を組織し、政治舞台に対するロシアの立場を、できる限り弱めようとして、想像を絶するゲームを始めた」のである。
もちろん戦争を継続すれば、支援対象であるはずのウクライナとウクライナの人々が破滅してしまう。すでに多くの人が死に、傷つき、仕事と住居から逐われている。そればかりか、米欧からの「資金援助」で米国製武器を買い米軍産複合体は儲かったが、ウクライナには債務は莫大な額にまで積み上がっている。この先、ウクライナ国民は数十年をかけて返済しなければならない。また、ウクライナ農地の3分の1は、すでにカーギルなど外国農業資本の所有になっている。現時点でもウクライナは十分に破綻国家となっているのだ。
一方、ロシア軍も米国製の最新の通常破壊兵器によってすでに多くの兵士が死んでいる、GDPは3~4%減少しているし、エネルギー・資源の輸出先(主に欧州)を失っている。これが数年続けばロシアの決定的な弱体化は避けられない。
2)なぜアメリカはNATOの拡大を望むのか?
ロシア軍による主権国家ウクライナへの侵入(主権と領土の侵害、国際法の蹂躙)は、国際社会としては許すことはできない。ロシアは渡ってはならない橋を渡ってしまった。
ただ何がロシアを、キエフ、西ウクライナにまで侵攻させたのか?を考えると、ロシアの安全保障にとってのウクライナの重要性に加え、NATO拡大の脅威があり、とくに2014年以降増大した米欧からの武器流入を阻止したいという危機感があった。2014年以降、ウクライナ軍は自国であるドンバス地域のロシア語系住民への攻撃を行ってきた。ロシアの侵攻は非難されるべきだが、アメリカから大量の武器が入り、ロシア国境を越えロシア語系住民の避難が続き、他方ポーランドなどでくり返しNATOの軍事演習がおこなわれていたことも看過できない。
現在から、ウクライナ戦争が始まるまでの経過をたどってみれば、アメリカは1991年のソ連解体の後、国連など国際機関の役割を軽視・無視し、NATOによる支配へと転換してきたことがわかる。コソボにNATO軍が軍事介入しセルビアから独立させ、国境線を変えた。これはウクライナ戦争と同じく明確な国際法違反である。コソボには巨大な米軍基地がある。
中東などではイスラム原理勢力を傭兵として使い、混乱をつくり出し、アメリカにとって都合のいい政権に変えていった。そのときの合言葉は、「反テロ戦争」であり、「人権」であり「独裁反対」であった。リビアではカダフィ政権を倒したが、アフガンやシリアでは失敗した。これらすべてはロシアによるウクライナ侵攻と同じく、米軍とNATOによる軍事加入であり、国連憲章違反(国際法違反)である。
私たちは、先進国政府のように「ダブルスタンダード」の立場には立たないし、立つべきでないと考える。
現代のアメリカの世界戦略は、「民主主義vs.専制主義」の対立として世界を描き出し、専制主義(ロシアと中国が主な対象)を民主化(=弱体化・崩壊)することだ。これが1991年以来継続する長期的なアメリカの戦略になっている。
3)ウクライナ戦争が世界の構図を変えた
そのような米国によるNATO支配の結果としてウクライナ戦争があること、背後にある対立内容を見ておかなくてはならない。ウクライナ戦争を突発的な現象としてとらえれば、見誤ることになる。アメリカによれば世界は「民主主義vs.専制主義」の対立にあり、アメリカの世界戦略は軍事力と経済制裁によって専制主義国家を倒し覇権を実現することである。
ウクライナ戦争が起きて大きく変わったことは、欧州が米国戦略の影響下に入ったことだ。欧州が「日本化」した、欧州がアメリカのポチとなりつつあるのだ。欧州のOSCE(全欧安保協力機構)も、欧州の不戦共同体も機能しなかった。逆にフィンランド、スウェーデンはNATO加盟を決めた。アメリカの戦略にしたがって、NATO拡大、ウクライナ戦争支援、対ロ制裁へと欧州は「統合」されたように見える。
その結果なのだが、対ロ制裁の発動により、ロシアからの石油・ガス、鉱物資源などの供給が減少し、欧州は物価上昇に見舞われ、経済的には大きな後退を強いられている。現時点では欧州への経済的打撃が最も大きい。(対ロ経済制裁に参加しているのは欧米日加豪だけで、世界の3分の2は参加していない)。代替としてアメリカからの高価なシェールガスも含めたエネルギー・資源を依存することになり、さらには軍備拡大・戦争政策などアメリカ戦略への政治・軍事依存を深めることになっている。
4)アメリカのもくろみ通り、うまく行くか?
ウクライナ戦争は、アメリカの長期的軍事戦略の一環として継続されている。「ロシアの弱体化」が目的だから、そう簡単には終わらせない。ロシアのみならず、中国や他の「専制国家」も標的になっており、中国への見せしめという要素も非常に強い。
ただ、アメリカのもくろみ通りうまくいくかどうかは疑問だ。キッシンジャーが22年5月のダボス会議で、バイデン政権のウクライナ戦争加担に、疑問と警告を発した。「ロシアの侵攻開始前の状況を両国の国境とすることが望ましい、ウクライナ側にクリミア半島や東部の親露派支配地域の奪還を事実上あきらめるよう提案した」。その発言趣旨は「アメリカが確実に勝てる見込みがないではないか?」という一点に収束する。ただその声も軍産複合体とネオコンの影響下にあるバイデン政権には届かなかった。
中国、インド、ブラジル、アフリカ、ASEAN諸国などは米欧日などの先進国とは違う行動をとっている。対ロ制裁決議を棄権・投票拒否しており、「平和と安定、主権尊重、即時停戦」に共感的だ。自称「先進国」が戦争に訴えていることをみれば、実に対照的な行動をとっている。ロシアは石油や天然ガスの輸出先を、欧州からインドや中国などに転換している。
ロシアへの経済制裁への賛否と対応を世界の人口比でみると、①賛成は「先進国」(欧米、日豪加韓など)を中心に36%、②中立(インド・ブラジル、南ア、ASEANなど)が36%、③反対(ロシア、中国、イランなど)が32%であって、世界は対ロシアで結束はしていない、いわば世界は3極化しつつあるかのような様相を呈している(6月28日 「3極に割れた世界」日経)。
アメリカがこれまで国際法に違反し軍事介入してきたにもかかわらず、アメリカ政府とNATOの行動は不問にした上で、ロシアの侵攻を国際法違反と批判する先進国の「ダブルスタンダード」に、先進国以外の国々は、深い不信を抱いている。その不信が、「3極に割れた世界」の背景にある。
バイデン政権は、中国とロシアを「現状秩序を変える修正主義勢力」と位置づけ、ウクライナ戦争と同じ手法・同じ宣伝で「台湾有事」を煽り、軍事力と経済制裁でロシアの次は中国を抑え込もうとしている。米国にとって中国との覇権争いこそ、中長期的には最重要な課題だからだ。現在のところアメリカが中国に優るのは、①軍事力と②国際通貨であるドルの二点なので、これを最大限利用して中国包囲網の形成を狙っている。ただし、容易にはうまくいきそうにない。
アメリカの力は後退しており、20世紀末のように一強支配が再興できるわけではない。
5)停戦交渉の促進が急務 市民が声を!
これ以上、破壊兵器をウクライナに送って戦争を長期化させれば、ウクライナそのものの破壊が進み、最貧国から立ち上がれなくなる。私たちの立場は、軍事力ではなく、あくまで対話と外交交渉による停戦、問題解決である。
22年3月末、トルコのエルドアン首相が停戦提案として6項目を示した。その内容は極めて現実的であった。①ウクライナの中立化、②非武装化、安全保障、③非ナチ化、④ロシア語の使用制限の解除、⑤東部ドンバス地方の(一部)ロシア帰属、⑥クリミア半島のロシア帰属だ。2015年「ミンスク合意2」をベースにしている。ゼレンスキーが⑤、⑥以外は認める方向に傾いた直後に、ブチャの集団殺戮事件が表沙汰になって、これがまさに「ちゃぶ台返し」となり、停戦交渉を中断させることになった。ちなみにブチャの集団殺戮事件は、いまだに犠牲者氏名さえ明らかにされていない。ロシアとウクライナは停戦交渉を継続すると言っていたが、アメリカは「戦争は継続される」「数年続くだろう」として、停戦ではなく戦争継続を決めた。
この停戦案、あるいは「ミンスク合意2」が停戦案のベースとなるのは間違いない。ただし、問題となているのは、停戦案の内容というより、アメリカ政府の態度であろう。
私たちは、どうしなければならないか? まず、何よりも停戦を実現すべきである。
ウクライナ、ロシア双方とも武器を置くこと・戦争停止すること。とともに、アメリカや欧州の軍事力や武器供与を停止し、平和と安定、主権尊重、国際法規遵守、外交交渉による解決を求めることが望ましい。私たちは、日本政府に対して、「アメリカ政府の後ろにくっついていないで、停戦を提案する立場に立て! 日本政府こそ、その役割を果たすべきだ」と要求する。市民の立場から、停戦を求める。
6)日本政府は?
日本政府は敗戦後から一貫して「米国に守ってもらえる、米国が主導する世界秩序が続く」という前提に立って、国家戦略を組み立ててきた。ウクライナ戦争でもアメリカ政府にそのまま従っている。近年中国・アジア各国の国力増大にともない、アジアで突出していた日本の経済的地位は低下した。それと同時進行であるかのように、日本政府は対米従属を深め、アジアでは孤立を深めてきた。対米従属とアジアにおける日本の孤立は別の事柄ではない。
現時点においてアメリカ政府にとって最も重要なのは中国との覇権争いであり、対中国政策である。対中国政策の中身は、「最先端半導体輸出禁止」の経済制裁と「台湾有事」を煽った軍事圧力だ。アメリカ政府の対日本政策は、あくまで対中国政策の一部にすぎないことを、日本政府も私たちも、まずしっかりと理解しておかなくてはならない。米戦略にとって日本は、ウクライナと同じ「利用する駒」である。
ウクライナ戦争を経てアメリカ主導の世界秩序がすでに壊れかけていることがあらためて露わになった。その前提の上に立ち、新たな日本の生きる道筋を探るべきなのだが、日本の政治家、官僚はそのような危機感からはほど遠く、「アメリカ政府に従っていればいい、それ以上何も考えていない」、まさに「平和ボケ」の状態にある。アメリカ政府に従うだけなのは、アジアでは日本だけであって、ASEANなどは独自の対応をとっている。日本はすでにアジアで孤立している。
現時点において、日本の安全保障にとって最も大事なのは米中対立の緩和であり、それゆえ日中友好だ。アメリカ政府の中国包囲網形成に加担すれば、軍事費は増大する。ミサイル防衛配備を行えばより危険になる。そのようなリアルな現実を、まず理解しなければならない。米中対立緩和は、中国政府を支持するかどうかの問題ではない。隣国との間で戦争を決して起こさない平和的友好関係を形成しておくということだ。アメリカ政府にしたがって軍備増大すれば、危険が増えるだけである。
2022年9月は日中共同声明50周年であるにもかかわらず、日本政府にはこの機に関係改善する動きを一切見せていない。逆に極めて危険な対応をとっている。日本政府はバイデン政権と一緒になって「台湾有事」を煽り、1,000基ものミサイル配備を検討すると言い出している。いわば中国に対して、「刀を抜いた」態度に出るというのだ。
日本のメディアからは、アメリカを通じた反中国、反ロシア情報が無批判に大量に流されている。覇者としての地位を失いつつあるアメリカの情報に影響・支配されている場合ではない。日本政府は米中対立を煽り、軍備増強する方針を示している。
こんな状況に対し、市民の側がどのように対応すべきか、新たな情勢と危険な動きを見据えたうえで、キチンと態度を表明しなくてはならない。日本政府の「平和ボケ」に付き合っている時ではない。平和運動を取り組んできた私たちの仲間のなかにも、急速に変わりつつある現代世界の対立内容と危険な情勢が正しく認識されていないところがある。
私たち市民にとって、ウクライナ戦争の停戦を求め、米中対立の緩和を意識的に追求することが、東アジアにおける平和を実現する上でとても重要になっているののだ。(2022年9月7日記)
アメリカの世界戦略―NATO拡大とロシア弱体化、中国との覇権争い-が背景にある
1)なぜアメリカはこれほどまでに
ウクライナを支援し続けるのか?
なぜアメリカは停戦に反対するのか?
ロシア・ウクライナ戦争が始まった時、当初は驚いたものの米バイデン政権は、チャンスが訪れたと内心「歓迎」した。ロシアを崩壊させ、軍事・経済・政治すべてにおいてアメリカが有利となる局面が生まれたと受け取ったのだ。ウクライナが破壊されようと、ロシアが崩壊するまで戦争を継続することがアメリカの利益であると考えた。アメリカの世界戦略は、NATO拡大による中国・ロシアの弱体化だからだ。アメリカにとっては、2000年以降のウクライナへの資金供与・武器供与とNATO拡大を非難されないために、ロシアのウクライナ侵攻が「絶好の機会」となったということでもある。ノーム・チョムスキーが、メキシコの新聞El Universalに語ったように、「アメリカは、キーウを支持して、西側諸国の反ロシア連合を組織し、政治舞台に対するロシアの立場を、できる限り弱めようとして、想像を絶するゲームを始めた」のである。
もちろん戦争を継続すれば、支援対象であるはずのウクライナとウクライナの人々が破滅してしまう。すでに多くの人が死に、傷つき、仕事と住居から逐われている。そればかりか、米欧からの「資金援助」で米国製武器を買い米軍産複合体は儲かったが、ウクライナには債務は莫大な額にまで積み上がっている。この先、ウクライナ国民は数十年をかけて返済しなければならない。また、ウクライナ農地の3分の1は、すでにカーギルなど外国農業資本の所有になっている。現時点でもウクライナは十分に破綻国家となっているのだ。
一方、ロシア軍も米国製の最新の通常破壊兵器によってすでに多くの兵士が死んでいる、GDPは3~4%減少しているし、エネルギー・資源の輸出先(主に欧州)を失っている。これが数年続けばロシアの決定的な弱体化は避けられない。
2)なぜアメリカはNATOの拡大を望むのか?
ロシア軍による主権国家ウクライナへの侵入(主権と領土の侵害、国際法の蹂躙)は、国際社会としては許すことはできない。ロシアは渡ってはならない橋を渡ってしまった。
ただ何がロシアを、キエフ、西ウクライナにまで侵攻させたのか?を考えると、ロシアの安全保障にとってのウクライナの重要性に加え、NATO拡大の脅威があり、とくに2014年以降増大した米欧からの武器流入を阻止したいという危機感があった。2014年以降、ウクライナ軍は自国であるドンバス地域のロシア語系住民への攻撃を行ってきた。ロシアの侵攻は非難されるべきだが、アメリカから大量の武器が入り、ロシア国境を越えロシア語系住民の避難が続き、他方ポーランドなどでくり返しNATOの軍事演習がおこなわれていたことも看過できない。
現在から、ウクライナ戦争が始まるまでの経過をたどってみれば、アメリカは1991年のソ連解体の後、国連など国際機関の役割を軽視・無視し、NATOによる支配へと転換してきたことがわかる。コソボにNATO軍が軍事介入しセルビアから独立させ、国境線を変えた。これはウクライナ戦争と同じく明確な国際法違反である。コソボには巨大な米軍基地がある。
中東などではイスラム原理勢力を傭兵として使い、混乱をつくり出し、アメリカにとって都合のいい政権に変えていった。そのときの合言葉は、「反テロ戦争」であり、「人権」であり「独裁反対」であった。リビアではカダフィ政権を倒したが、アフガンやシリアでは失敗した。これらすべてはロシアによるウクライナ侵攻と同じく、米軍とNATOによる軍事加入であり、国連憲章違反(国際法違反)である。
私たちは、先進国政府のように「ダブルスタンダード」の立場には立たないし、立つべきでないと考える。
現代のアメリカの世界戦略は、「民主主義vs.専制主義」の対立として世界を描き出し、専制主義(ロシアと中国が主な対象)を民主化(=弱体化・崩壊)することだ。これが1991年以来継続する長期的なアメリカの戦略になっている。
3)ウクライナ戦争が世界の構図を変えた
そのような米国によるNATO支配の結果としてウクライナ戦争があること、背後にある対立内容を見ておかなくてはならない。ウクライナ戦争を突発的な現象としてとらえれば、見誤ることになる。アメリカによれば世界は「民主主義vs.専制主義」の対立にあり、アメリカの世界戦略は軍事力と経済制裁によって専制主義国家を倒し覇権を実現することである。
ウクライナ戦争が起きて大きく変わったことは、欧州が米国戦略の影響下に入ったことだ。欧州が「日本化」した、欧州がアメリカのポチとなりつつあるのだ。欧州のOSCE(全欧安保協力機構)も、欧州の不戦共同体も機能しなかった。逆にフィンランド、スウェーデンはNATO加盟を決めた。アメリカの戦略にしたがって、NATO拡大、ウクライナ戦争支援、対ロ制裁へと欧州は「統合」されたように見える。
その結果なのだが、対ロ制裁の発動により、ロシアからの石油・ガス、鉱物資源などの供給が減少し、欧州は物価上昇に見舞われ、経済的には大きな後退を強いられている。現時点では欧州への経済的打撃が最も大きい。(対ロ経済制裁に参加しているのは欧米日加豪だけで、世界の3分の2は参加していない)。代替としてアメリカからの高価なシェールガスも含めたエネルギー・資源を依存することになり、さらには軍備拡大・戦争政策などアメリカ戦略への政治・軍事依存を深めることになっている。
4)アメリカのもくろみ通り、うまく行くか?
ウクライナ戦争は、アメリカの長期的軍事戦略の一環として継続されている。「ロシアの弱体化」が目的だから、そう簡単には終わらせない。ロシアのみならず、中国や他の「専制国家」も標的になっており、中国への見せしめという要素も非常に強い。
ただ、アメリカのもくろみ通りうまくいくかどうかは疑問だ。キッシンジャーが22年5月のダボス会議で、バイデン政権のウクライナ戦争加担に、疑問と警告を発した。「ロシアの侵攻開始前の状況を両国の国境とすることが望ましい、ウクライナ側にクリミア半島や東部の親露派支配地域の奪還を事実上あきらめるよう提案した」。その発言趣旨は「アメリカが確実に勝てる見込みがないではないか?」という一点に収束する。ただその声も軍産複合体とネオコンの影響下にあるバイデン政権には届かなかった。
中国、インド、ブラジル、アフリカ、ASEAN諸国などは米欧日などの先進国とは違う行動をとっている。対ロ制裁決議を棄権・投票拒否しており、「平和と安定、主権尊重、即時停戦」に共感的だ。自称「先進国」が戦争に訴えていることをみれば、実に対照的な行動をとっている。ロシアは石油や天然ガスの輸出先を、欧州からインドや中国などに転換している。
ロシアへの経済制裁への賛否と対応を世界の人口比でみると、①賛成は「先進国」(欧米、日豪加韓など)を中心に36%、②中立(インド・ブラジル、南ア、ASEANなど)が36%、③反対(ロシア、中国、イランなど)が32%であって、世界は対ロシアで結束はしていない、いわば世界は3極化しつつあるかのような様相を呈している(6月28日 「3極に割れた世界」日経)。
アメリカがこれまで国際法に違反し軍事介入してきたにもかかわらず、アメリカ政府とNATOの行動は不問にした上で、ロシアの侵攻を国際法違反と批判する先進国の「ダブルスタンダード」に、先進国以外の国々は、深い不信を抱いている。その不信が、「3極に割れた世界」の背景にある。
バイデン政権は、中国とロシアを「現状秩序を変える修正主義勢力」と位置づけ、ウクライナ戦争と同じ手法・同じ宣伝で「台湾有事」を煽り、軍事力と経済制裁でロシアの次は中国を抑え込もうとしている。米国にとって中国との覇権争いこそ、中長期的には最重要な課題だからだ。現在のところアメリカが中国に優るのは、①軍事力と②国際通貨であるドルの二点なので、これを最大限利用して中国包囲網の形成を狙っている。ただし、容易にはうまくいきそうにない。
アメリカの力は後退しており、20世紀末のように一強支配が再興できるわけではない。
5)停戦交渉の促進が急務 市民が声を!
これ以上、破壊兵器をウクライナに送って戦争を長期化させれば、ウクライナそのものの破壊が進み、最貧国から立ち上がれなくなる。私たちの立場は、軍事力ではなく、あくまで対話と外交交渉による停戦、問題解決である。
22年3月末、トルコのエルドアン首相が停戦提案として6項目を示した。その内容は極めて現実的であった。①ウクライナの中立化、②非武装化、安全保障、③非ナチ化、④ロシア語の使用制限の解除、⑤東部ドンバス地方の(一部)ロシア帰属、⑥クリミア半島のロシア帰属だ。2015年「ミンスク合意2」をベースにしている。ゼレンスキーが⑤、⑥以外は認める方向に傾いた直後に、ブチャの集団殺戮事件が表沙汰になって、これがまさに「ちゃぶ台返し」となり、停戦交渉を中断させることになった。ちなみにブチャの集団殺戮事件は、いまだに犠牲者氏名さえ明らかにされていない。ロシアとウクライナは停戦交渉を継続すると言っていたが、アメリカは「戦争は継続される」「数年続くだろう」として、停戦ではなく戦争継続を決めた。
この停戦案、あるいは「ミンスク合意2」が停戦案のベースとなるのは間違いない。ただし、問題となているのは、停戦案の内容というより、アメリカ政府の態度であろう。
私たちは、どうしなければならないか? まず、何よりも停戦を実現すべきである。
ウクライナ、ロシア双方とも武器を置くこと・戦争停止すること。とともに、アメリカや欧州の軍事力や武器供与を停止し、平和と安定、主権尊重、国際法規遵守、外交交渉による解決を求めることが望ましい。私たちは、日本政府に対して、「アメリカ政府の後ろにくっついていないで、停戦を提案する立場に立て! 日本政府こそ、その役割を果たすべきだ」と要求する。市民の立場から、停戦を求める。
6)日本政府は?
日本政府は敗戦後から一貫して「米国に守ってもらえる、米国が主導する世界秩序が続く」という前提に立って、国家戦略を組み立ててきた。ウクライナ戦争でもアメリカ政府にそのまま従っている。近年中国・アジア各国の国力増大にともない、アジアで突出していた日本の経済的地位は低下した。それと同時進行であるかのように、日本政府は対米従属を深め、アジアでは孤立を深めてきた。対米従属とアジアにおける日本の孤立は別の事柄ではない。
現時点においてアメリカ政府にとって最も重要なのは中国との覇権争いであり、対中国政策である。対中国政策の中身は、「最先端半導体輸出禁止」の経済制裁と「台湾有事」を煽った軍事圧力だ。アメリカ政府の対日本政策は、あくまで対中国政策の一部にすぎないことを、日本政府も私たちも、まずしっかりと理解しておかなくてはならない。米戦略にとって日本は、ウクライナと同じ「利用する駒」である。
ウクライナ戦争を経てアメリカ主導の世界秩序がすでに壊れかけていることがあらためて露わになった。その前提の上に立ち、新たな日本の生きる道筋を探るべきなのだが、日本の政治家、官僚はそのような危機感からはほど遠く、「アメリカ政府に従っていればいい、それ以上何も考えていない」、まさに「平和ボケ」の状態にある。アメリカ政府に従うだけなのは、アジアでは日本だけであって、ASEANなどは独自の対応をとっている。日本はすでにアジアで孤立している。
現時点において、日本の安全保障にとって最も大事なのは米中対立の緩和であり、それゆえ日中友好だ。アメリカ政府の中国包囲網形成に加担すれば、軍事費は増大する。ミサイル防衛配備を行えばより危険になる。そのようなリアルな現実を、まず理解しなければならない。米中対立緩和は、中国政府を支持するかどうかの問題ではない。隣国との間で戦争を決して起こさない平和的友好関係を形成しておくということだ。アメリカ政府にしたがって軍備増大すれば、危険が増えるだけである。
2022年9月は日中共同声明50周年であるにもかかわらず、日本政府にはこの機に関係改善する動きを一切見せていない。逆に極めて危険な対応をとっている。日本政府はバイデン政権と一緒になって「台湾有事」を煽り、1,000基ものミサイル配備を検討すると言い出している。いわば中国に対して、「刀を抜いた」態度に出るというのだ。
日本のメディアからは、アメリカを通じた反中国、反ロシア情報が無批判に大量に流されている。覇者としての地位を失いつつあるアメリカの情報に影響・支配されている場合ではない。日本政府は米中対立を煽り、軍備増強する方針を示している。
こんな状況に対し、市民の側がどのように対応すべきか、新たな情勢と危険な動きを見据えたうえで、キチンと態度を表明しなくてはならない。日本政府の「平和ボケ」に付き合っている時ではない。平和運動を取り組んできた私たちの仲間のなかにも、急速に変わりつつある現代世界の対立内容と危険な情勢が正しく認識されていないところがある。
私たち市民にとって、ウクライナ戦争の停戦を求め、米中対立の緩和を意識的に追求することが、東アジアにおける平和を実現する上でとても重要になっているののだ。(2022年9月7日記)
ウクライナ戦争を止めよう! 戦争の時代に入るな! [世界の動き]
ウクライナ戦争を止めよう! 戦争の時代に入るな!
1)ウクライナ戦争を止めろ!
ロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まってから2ヵ月が過ぎた。ロシアはまず批判されなければならない。戦闘をまず停止し、戦争をやめる方向へ踏み出さなくてはならない。
一方、米政府、NATOはロシアの侵略を非難し、ウクライナ政府が戦闘する支援を続けてきた。戦争は終わりそうにない、それどころか長期化しそうだ。
その間に、多くのウクライナ市民が犠牲になっている。戦争がさらに長期化すれば、ウクライナのロシア語系市民もウクライナ語系市民も、その双方とも犠牲者は増えるばかりだ。戦争の長期化は、1,000万人以上のウクライナ市民に避難生活を強い、市民の生活は破壊され続ける。
今現在となっては、選択肢は二つしかない。戦争継続か、交渉による解決の二つしか残っていない。戦争を継続することは、犠牲者をさらに増やし徹底的に破壊つくすことを意味する。そんなことは決してしてはならない。私たち市民が声をあげる時だ。いったん戦闘を止め、その上で停戦交渉をまとめ、交渉による解決に入るべきだ。それ以外に、解決はない。
2)ロシアはウクライナの中立化、NATO非加盟を求めている
ロシアのラブロフ外相は、侵略した初めに「戦争には二つの主要な目的がある、ウクライナの中立化と非武装化だ」と発言している。ゼレンスキー大統領の発言は揺れ動いているが「ウクライナの中立化を受け入れる」とも語っている。
したがって、政治的解決の内容・方向性はロシアとウクライナ双方で、かなり明確になっている。双方が互いの安全を保障をすること、またドンバス地域の扱いは2015年の「ミンスク合意」に準じて対応することだ。停戦すれば、より一歩実現可能となるだろう。戦争で決着をつけるより、双方にとってずっといいことだ。政治的解決の必要性は戦争を経てより明確になっている。
※ノーム・チョムスキー「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」 YouTube参照--(視聴を勧めまる)
3)戦争の長期化はだめだ!戦争支援を煽るな!
米国政府とNATO諸国、そして日本政府も、ウクライナ政府支援を言いながら、結局は戦争支援、武器支援による戦争継続を強力に後押ししている。米欧日政府は、戦争継続を支援しており、決して停戦・交渉による解決を言わない。
日本に住む私たち市民は、日本政府に要求する。政府としてロシア・ウクライナに停戦を呼びかける立場をとれ! 双方に交渉による解決を求めよ! 戦争継続を支援してはいけない。アメリカの後ろにくっついて武器支援してはいけない。
今、日本ではウクライナでの戦争を巡って、その責任をロシアに全面的に負わせ、ウクライナのゼレンスキー政権を「善」、ロシアのプーチン政権を「悪」とする報道や発言ばかり流し、そこからウクライナ市民への支援ではなく、ウクライナ政府の戦争支援へとすり替えた世論へと巧妙に導いている。日本国内では「挙国一致」でウクライナ戦争継続が煽られているのだ。繰り返すが、ウクライナ市民にとって今必要なのは、交渉による解決・停戦であって、戦争継続ではない。
日本のTVや新聞も、戦争支援の報道一色となっている。米政府の立場を支持し戦争支援を煽っている。これら報道は極めて犯罪的だ。そこには偽情報もある。いろんなコメンテーターが出てくるが、戦争を煽る者、交渉による解決・停戦を主張しない者や報道はすべて信用することはできない。日本のメディアやジャーナリストがいかに政府に従い腐敗しているか、批判精神が欠けているか、人々を挙国一致で戦争支援を煽る犯罪を犯しているか、その姿を私たちは毎日、見せつけられている。
4)ウクライナ戦争を機に、世界は戦争と対立の時代に入ろうとしている
米国にとってロシアのウクライナ侵攻は降って沸いた「絶好の機会」になった。ウクライナを「捨て駒」にして戦争を長期化させ、この際ロシアを疲弊させ崩壊させることが米政府の目的となった。中国とともにロシアは米政府の覇権にとって邪魔なのである。米国に軍事的に対抗するロシアをこの機会に潰してしまいたい。これを「ウクライナ戦争計画」と呼ぶ。
この計画は、ウクライナ支援と言いながらウクライナ人のことなど何も考えていない。ウクライナはその間、徹底して破壊され続け、ウクライナ人はさらに殺される。だから米政府は停戦を主張してこなかったし、今もしていない。目的はウクライナ戦争を長期化し、ロシアを疲弊させることにある。バイデンもオースチン国防長官もその魂胆を隠していない、公言している。
5)欧州は米政府の「ウクライナ戦争計画」に引き込まれた
米国のウクライナ戦争計画への協力を選択したEUは、これまでの方針を転換した。軍事費を増やして米製武器を買い、米国の戦争をEUの費用で賄って、そうやって欧州を危険に晒そうとしている。ウクライナ戦争支持へと動いたEUの未来は極めて危ういものとなる。
ウクライナ戦争への介入で米国の言いなりとなったEUは、この先米国への従属を強めることになる。対米自立を目ざしてきたEUの方針は頓挫し、しばらくは対米依存へとはまり込んでいく。冷戦が終結した今、NATOのさらなる拡大は不要だ。ドイツのシュルツ首相のように、いきなりGDP2%超の軍拡に転じるのは思慮深さを欠く。メルケル前首相なら、ドイツが戦後一貫してとってきた平和路線を崩す愚は避けたはずだし、ロシアとうまく付き合いEUの対米自立を推し進めたろう(4月15日、日経)。
ウクライナ戦争を受け「抑止力」という名の軍拡競争に走るか、戦争の時代を終わらせるため軍縮するのか、という時代転換の瀬戸際に私たちは立っている。そして、欧州、日本は米国に従い、軍拡に走ろうとしているようなのだ。これはきわめて危険だ。
このまま戦争を継続するなら、ウクライナ戦争は米・NATOとロシア間の戦争に転化し、軍事力対経済力の戦いとなる。ここで指摘しておきたいのは、ロシアへの経済制裁に参加しているのは欧米日の(野蛮な)「先進国」だけであり、中国、インド、アフリカや南米、東南アジアの国々はほとんど参加していないことだ。米国の振る舞いは、アフガン戦争時やイラン制裁時のそれとよく似ており、既視感があるからだ。
資源と外貨頼みのロシア経済に対して「先進国」による経済制裁は、世界経済への跳ね返りを覚悟するしかない。エネルギー価格高騰で世界経済が揺らぐ中で石油・天然ガス禁輸に踏み込めば、ロシア依存のドイツをはじめEU経済を直撃する。ロシアのガスは買えなくなれば、アメリカの高いシェールガス(22年4月、約6倍の価格)を買わざるをえない。サハリン2のガスも状況次第で日本にも影響を及ぼす。
戦争を継続すれば、多くの人の犠牲と徹底した破壊をもたらす。欧日政府の立場に立ったとしても、どうして犠牲と破壊を止めようとしないのか、わざわざ対米依存を深めるのか、ということになる。不可解だ。
6)ウクライナ戦争を機に、日本政府は軍事力強化に踏み込もうとしている
ところが、日本政府・自民党・維新の会をはじめとする右派勢力が、ウクライナでの戦争を絶好の機会とばかりに、日本の軍拡・戦争準備・憲法改悪に一斉に動き始めている。「ウクライナは他人事ではない。次は中国が台湾を攻撃する」、「ウクライナが攻撃されているのは敵基地攻撃能力がないからだ」、「『核共有』が必要だ」、「憲法9条では国は守れない」などと、ここぞとばかり言いたてている。
その結果、アメリカの世界戦略である中国への軍事的包囲戦略に、日本政府が財源をつぎ込み、日本の安全保障を危険に晒す、こういう方向へ一歩踏みだそうとしているのだ。中国に対する軍事的包囲、戦争準備、軍備増強と改憲を、ウクライナ戦争に関心が集まっている今一気に進めようとしている。いわば戦争「ショックドクトリン」(ナオミ・クライン)である。
・「三原則」を無視した武器輸出
岸田政権は、「武器輸出三原則」を踏みにじって、ウクライナに軍用ヘルメットと防弾チョッキを送った。輸送には自衛隊機のほか米軍輸送機も活用した。もともと武器の輸出・提供は、「武器輸出三原則」で禁止してきたが、2014年安倍内閣が「防衛装備移転三原則」をつくり、条件付きで輸出できるようにした。それでも「紛争当事国」には輸出しないとしてきた。にもかかわらず、岸田政権は「ウクライナは紛争当事国ではない」と強弁し、輸出した。「運用指針」には、武器提供先を「米国をはじめ我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国」に限定しており、ウクライナはこれに該当しないが、輸出を強行したのである。このようなことを実行し「実績」を積んで、武器輸出できる国に急ぎ変わろうとしている。
・日本への核兵器配備を狙う「核共有」論
安倍元首相や維新の会は「非核三原則」に矛先を向け、「核共有」を持ち出している。NATOの核共有とは、一部のNATO諸国に配備した核兵器を米国が運用することだ。米国が使用を決定したら、配備されている国に拒否する権限はない。日本は欧州以上に米国に従属している。日米安保条約・地位協定は、日米は対等ではない、米軍は日本で自由に振る舞うと規定している。「核共有」とは、米による日本への「核持ち込み」や恒常的な「核配備」を公然と行うようにすることであり、したがって日本の国是である非核三原則を解体することに他ならない。日本が米国にいっそう従属することをも意味する。米政府がINF条約を破棄し、米製の中距離ミサイルの日本への配備が主張されるなか、そんなことをするのは極めて危険なのだ。
・憲法9条
日本政府はこれら危険な動きを見せているが、そのなかでも最大の狙いは憲法9条だと、私たちは危惧している。2021年11月の総選挙で「改憲勢力」が2/3の議席を確保した。政府自民党・維新は、憲法に自衛隊を明記して9条を無力化し、対中国戦争への軍事力強化と軍事費増額を狙っている。そんなときに降ってわいたのがウクライナ戦争。「隣の中国はけしからんから、改憲をして軍事力を強化しなければならない」という主張を一斉に繰り広げている。「今なら多くの人が受け入れる」と踏んでいるからだ。
こんな動きを私たちは止めなくてはならない。
7)日本政府に問いたい
ウクライナ戦争を機に戦争の時代、軍事力の時代へと転換すれば、日本の出番はないのではないか。軍事力を増強しても、米国への従属が深まるだけで、日本の姿はいっそう霞む。いまは外交力を結集して停戦を急ぎ平和体制を構築すべきなのであって、戦争と対立の時代へ移行してはならない。
東アジアでも置かれている状況はウクライナとよく似ている。台湾有事を煽って米中対立を煽るのではなく、むしろ逆に、米中対立を防ぐことが日本の安全保障であるとあらためて深く理解しなければならない。また米中対立を深めブロック経済化するのではなく、対立を解消しアジア太平洋地域に巨大な経済圏を創設して経済融合を促すことのなかに日本の利益と未来があるのではないのか。
あらためて私たち市民は、日本政府に要求する。
政府としてロシア・ウクライナに停戦を呼びかける立場をとれ!
交渉による解決を求めよ!
戦争継続を支援するな!
2022年4月30日記
1)ウクライナ戦争を止めろ!
ロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まってから2ヵ月が過ぎた。ロシアはまず批判されなければならない。戦闘をまず停止し、戦争をやめる方向へ踏み出さなくてはならない。
一方、米政府、NATOはロシアの侵略を非難し、ウクライナ政府が戦闘する支援を続けてきた。戦争は終わりそうにない、それどころか長期化しそうだ。
その間に、多くのウクライナ市民が犠牲になっている。戦争がさらに長期化すれば、ウクライナのロシア語系市民もウクライナ語系市民も、その双方とも犠牲者は増えるばかりだ。戦争の長期化は、1,000万人以上のウクライナ市民に避難生活を強い、市民の生活は破壊され続ける。
今現在となっては、選択肢は二つしかない。戦争継続か、交渉による解決の二つしか残っていない。戦争を継続することは、犠牲者をさらに増やし徹底的に破壊つくすことを意味する。そんなことは決してしてはならない。私たち市民が声をあげる時だ。いったん戦闘を止め、その上で停戦交渉をまとめ、交渉による解決に入るべきだ。それ以外に、解決はない。
2)ロシアはウクライナの中立化、NATO非加盟を求めている
ロシアのラブロフ外相は、侵略した初めに「戦争には二つの主要な目的がある、ウクライナの中立化と非武装化だ」と発言している。ゼレンスキー大統領の発言は揺れ動いているが「ウクライナの中立化を受け入れる」とも語っている。
したがって、政治的解決の内容・方向性はロシアとウクライナ双方で、かなり明確になっている。双方が互いの安全を保障をすること、またドンバス地域の扱いは2015年の「ミンスク合意」に準じて対応することだ。停戦すれば、より一歩実現可能となるだろう。戦争で決着をつけるより、双方にとってずっといいことだ。政治的解決の必要性は戦争を経てより明確になっている。
※ノーム・チョムスキー「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」 YouTube参照--(視聴を勧めまる)
3)戦争の長期化はだめだ!戦争支援を煽るな!
米国政府とNATO諸国、そして日本政府も、ウクライナ政府支援を言いながら、結局は戦争支援、武器支援による戦争継続を強力に後押ししている。米欧日政府は、戦争継続を支援しており、決して停戦・交渉による解決を言わない。
日本に住む私たち市民は、日本政府に要求する。政府としてロシア・ウクライナに停戦を呼びかける立場をとれ! 双方に交渉による解決を求めよ! 戦争継続を支援してはいけない。アメリカの後ろにくっついて武器支援してはいけない。
今、日本ではウクライナでの戦争を巡って、その責任をロシアに全面的に負わせ、ウクライナのゼレンスキー政権を「善」、ロシアのプーチン政権を「悪」とする報道や発言ばかり流し、そこからウクライナ市民への支援ではなく、ウクライナ政府の戦争支援へとすり替えた世論へと巧妙に導いている。日本国内では「挙国一致」でウクライナ戦争継続が煽られているのだ。繰り返すが、ウクライナ市民にとって今必要なのは、交渉による解決・停戦であって、戦争継続ではない。
日本のTVや新聞も、戦争支援の報道一色となっている。米政府の立場を支持し戦争支援を煽っている。これら報道は極めて犯罪的だ。そこには偽情報もある。いろんなコメンテーターが出てくるが、戦争を煽る者、交渉による解決・停戦を主張しない者や報道はすべて信用することはできない。日本のメディアやジャーナリストがいかに政府に従い腐敗しているか、批判精神が欠けているか、人々を挙国一致で戦争支援を煽る犯罪を犯しているか、その姿を私たちは毎日、見せつけられている。
4)ウクライナ戦争を機に、世界は戦争と対立の時代に入ろうとしている
米国にとってロシアのウクライナ侵攻は降って沸いた「絶好の機会」になった。ウクライナを「捨て駒」にして戦争を長期化させ、この際ロシアを疲弊させ崩壊させることが米政府の目的となった。中国とともにロシアは米政府の覇権にとって邪魔なのである。米国に軍事的に対抗するロシアをこの機会に潰してしまいたい。これを「ウクライナ戦争計画」と呼ぶ。
この計画は、ウクライナ支援と言いながらウクライナ人のことなど何も考えていない。ウクライナはその間、徹底して破壊され続け、ウクライナ人はさらに殺される。だから米政府は停戦を主張してこなかったし、今もしていない。目的はウクライナ戦争を長期化し、ロシアを疲弊させることにある。バイデンもオースチン国防長官もその魂胆を隠していない、公言している。
5)欧州は米政府の「ウクライナ戦争計画」に引き込まれた
米国のウクライナ戦争計画への協力を選択したEUは、これまでの方針を転換した。軍事費を増やして米製武器を買い、米国の戦争をEUの費用で賄って、そうやって欧州を危険に晒そうとしている。ウクライナ戦争支持へと動いたEUの未来は極めて危ういものとなる。
ウクライナ戦争への介入で米国の言いなりとなったEUは、この先米国への従属を強めることになる。対米自立を目ざしてきたEUの方針は頓挫し、しばらくは対米依存へとはまり込んでいく。冷戦が終結した今、NATOのさらなる拡大は不要だ。ドイツのシュルツ首相のように、いきなりGDP2%超の軍拡に転じるのは思慮深さを欠く。メルケル前首相なら、ドイツが戦後一貫してとってきた平和路線を崩す愚は避けたはずだし、ロシアとうまく付き合いEUの対米自立を推し進めたろう(4月15日、日経)。
ウクライナ戦争を受け「抑止力」という名の軍拡競争に走るか、戦争の時代を終わらせるため軍縮するのか、という時代転換の瀬戸際に私たちは立っている。そして、欧州、日本は米国に従い、軍拡に走ろうとしているようなのだ。これはきわめて危険だ。
このまま戦争を継続するなら、ウクライナ戦争は米・NATOとロシア間の戦争に転化し、軍事力対経済力の戦いとなる。ここで指摘しておきたいのは、ロシアへの経済制裁に参加しているのは欧米日の(野蛮な)「先進国」だけであり、中国、インド、アフリカや南米、東南アジアの国々はほとんど参加していないことだ。米国の振る舞いは、アフガン戦争時やイラン制裁時のそれとよく似ており、既視感があるからだ。
資源と外貨頼みのロシア経済に対して「先進国」による経済制裁は、世界経済への跳ね返りを覚悟するしかない。エネルギー価格高騰で世界経済が揺らぐ中で石油・天然ガス禁輸に踏み込めば、ロシア依存のドイツをはじめEU経済を直撃する。ロシアのガスは買えなくなれば、アメリカの高いシェールガス(22年4月、約6倍の価格)を買わざるをえない。サハリン2のガスも状況次第で日本にも影響を及ぼす。
戦争を継続すれば、多くの人の犠牲と徹底した破壊をもたらす。欧日政府の立場に立ったとしても、どうして犠牲と破壊を止めようとしないのか、わざわざ対米依存を深めるのか、ということになる。不可解だ。
6)ウクライナ戦争を機に、日本政府は軍事力強化に踏み込もうとしている
ところが、日本政府・自民党・維新の会をはじめとする右派勢力が、ウクライナでの戦争を絶好の機会とばかりに、日本の軍拡・戦争準備・憲法改悪に一斉に動き始めている。「ウクライナは他人事ではない。次は中国が台湾を攻撃する」、「ウクライナが攻撃されているのは敵基地攻撃能力がないからだ」、「『核共有』が必要だ」、「憲法9条では国は守れない」などと、ここぞとばかり言いたてている。
その結果、アメリカの世界戦略である中国への軍事的包囲戦略に、日本政府が財源をつぎ込み、日本の安全保障を危険に晒す、こういう方向へ一歩踏みだそうとしているのだ。中国に対する軍事的包囲、戦争準備、軍備増強と改憲を、ウクライナ戦争に関心が集まっている今一気に進めようとしている。いわば戦争「ショックドクトリン」(ナオミ・クライン)である。
・「三原則」を無視した武器輸出
岸田政権は、「武器輸出三原則」を踏みにじって、ウクライナに軍用ヘルメットと防弾チョッキを送った。輸送には自衛隊機のほか米軍輸送機も活用した。もともと武器の輸出・提供は、「武器輸出三原則」で禁止してきたが、2014年安倍内閣が「防衛装備移転三原則」をつくり、条件付きで輸出できるようにした。それでも「紛争当事国」には輸出しないとしてきた。にもかかわらず、岸田政権は「ウクライナは紛争当事国ではない」と強弁し、輸出した。「運用指針」には、武器提供先を「米国をはじめ我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国」に限定しており、ウクライナはこれに該当しないが、輸出を強行したのである。このようなことを実行し「実績」を積んで、武器輸出できる国に急ぎ変わろうとしている。
・日本への核兵器配備を狙う「核共有」論
安倍元首相や維新の会は「非核三原則」に矛先を向け、「核共有」を持ち出している。NATOの核共有とは、一部のNATO諸国に配備した核兵器を米国が運用することだ。米国が使用を決定したら、配備されている国に拒否する権限はない。日本は欧州以上に米国に従属している。日米安保条約・地位協定は、日米は対等ではない、米軍は日本で自由に振る舞うと規定している。「核共有」とは、米による日本への「核持ち込み」や恒常的な「核配備」を公然と行うようにすることであり、したがって日本の国是である非核三原則を解体することに他ならない。日本が米国にいっそう従属することをも意味する。米政府がINF条約を破棄し、米製の中距離ミサイルの日本への配備が主張されるなか、そんなことをするのは極めて危険なのだ。
・憲法9条
日本政府はこれら危険な動きを見せているが、そのなかでも最大の狙いは憲法9条だと、私たちは危惧している。2021年11月の総選挙で「改憲勢力」が2/3の議席を確保した。政府自民党・維新は、憲法に自衛隊を明記して9条を無力化し、対中国戦争への軍事力強化と軍事費増額を狙っている。そんなときに降ってわいたのがウクライナ戦争。「隣の中国はけしからんから、改憲をして軍事力を強化しなければならない」という主張を一斉に繰り広げている。「今なら多くの人が受け入れる」と踏んでいるからだ。
こんな動きを私たちは止めなくてはならない。
7)日本政府に問いたい
ウクライナ戦争を機に戦争の時代、軍事力の時代へと転換すれば、日本の出番はないのではないか。軍事力を増強しても、米国への従属が深まるだけで、日本の姿はいっそう霞む。いまは外交力を結集して停戦を急ぎ平和体制を構築すべきなのであって、戦争と対立の時代へ移行してはならない。
東アジアでも置かれている状況はウクライナとよく似ている。台湾有事を煽って米中対立を煽るのではなく、むしろ逆に、米中対立を防ぐことが日本の安全保障であるとあらためて深く理解しなければならない。また米中対立を深めブロック経済化するのではなく、対立を解消しアジア太平洋地域に巨大な経済圏を創設して経済融合を促すことのなかに日本の利益と未来があるのではないのか。
あらためて私たち市民は、日本政府に要求する。
政府としてロシア・ウクライナに停戦を呼びかける立場をとれ!
交渉による解決を求めよ!
戦争継続を支援するな!
2022年4月30日記
ウクライナに、即時停戦と持続的和平を! [世界の動き]
ウクライナに、即時停戦と持続的和平を!
1)今必要なのは、即時停戦と持続的和平
ロシア軍のウクライナ侵攻から約1ヶ月が経った。今必要なのは、即時停戦と持続的和平を実現だ。これ以上ウクライナ市民の犠牲を出してはいけない。必要なのは、戦争の拡大や持久戦でも、武器弾薬の供与でもない、直ちに停戦することである。
ウクライナ軍とロシア軍では、侵入したロシアが悪いに決まっている。ロシアの今回の侵攻は国連憲章に違反する侵略行為であり断固反対する。たとえ戦争の目的に正当な理由があったとしても、それを軍事力で実現することは許されない。まずロシア軍の撤退を要求することは当然のことだ。
現在は、ウクラウナ側の反撃によって、戦線が膠着している。欧米が大量に供給した兵器、とくに携帯用の対戦車ミサイル・ジャベリンや携帯用のスカッドミサイルによって、ウクライナ軍が反撃に転じている。米軍の支援によってロシア軍の通信妨害を引き起こすとともに、米軍事衛星からロシア軍の位置情報を提供して反撃が行われている。これまでとは違った現代的な代理戦争の様相を呈し、このまま長期戦になりかねない。
2) 停戦と和平をどうやって実現するか?
いまは、どうすれば停戦と和平に向けて政治的転換を図るのかを、私たち市民が真剣に考えるべき時だ。
まず、何よりもロシアに停戦と撤退を要求する。ロシアによるウクライナへの戦争は国連憲章違反だからだ。
しかし、一方的にロシアだけを非難するのは、結局は米・NATOの側に立って戦争熱を煽り、ロシア・ウクライナ戦争を長引かせることとなり、犠牲者をさらに増やすことになる。
私たちの立場は非戦である。だから、ロシアが侵攻したとする「原因」、すなわちこの地域における対立を取り除くことを同時に求める。プーチンの戦争目的ははっきりしている。ウクライナの領土獲得ではない、NATOの東方拡大を止めロシアの安全保障の確保にある。
したがって、即時停戦・持続的和平において、ロシア軍の撤退とともに、ロシアによるウクライナの安全保障の約束、米・NATO諸国やウクライナ政権がNATOの東方拡大を止め、ロシアの安全保障の確保を約束することが必要だ。
和平は、一方が他方を、他方が一方を支配・屈服させることではない。ロシアに即時停戦・持続的和平を求めると同時に、米・NATO諸国やウクライナ政権にも即時停戦・持続的和平を求める。
欧米諸国とメディア、そしてゼレンスキー政権は戦争拡大、徹底抗戦を煽ってはいけない。停戦が先であって、ウクライナのNATO加盟など、話題にすべきではない。
この地域における対立の歴史的原因は米・NATOの東方拡大にある。NATOは、プーチンの警告や交渉に全く耳を貸さず、ロシアを見下し封じ込めてきた。NATO加盟国にはミサイルが配備され、モスクワまで数分で届くところまで包囲網を狭めてきた。2021年2月、ゼレンスキー大統領は、「NATO加盟と東部2州およびクリミア奪還を今年中に実現する」と宣言した。2015年の「ミンスク合意」(停戦合意と東部2州の高度の自治権)の破棄を公言した。ウクライナのNATO加盟、東部2州とクリミアを奪還が、ロシアとNATOの全面対立になるのは誰の眼にも明らかであるにもかかわらず、だ。ゼレンスキーは米・NATOの意図通りに振るまったのである。
そのような経緯、この地域の対立からすれば、停戦と持続的和平の課題も明確だ。それは①ロシア軍の即時停戦、撤退、②ウクライナ軍の戦闘行為の中止を同時に行うこと、③さらにはウクライナのNATO加盟の断念、④ウクライナ軍による東部2州への攻撃中止、⑤中距離ミサイルのウクライナ配備計画の中止である。
3) 停戦はできるだろうか?
3月29日、トルコが仲介者に名乗りをあげ、第4回目の停戦交渉がイスタンブールで行われた。世界はその推移を見守っている。
当初、フランスのマクロン大統領が仲介を試みたが、EUの今の空気のなかにあっては完全に孤立して行き詰まってしまった。
中国はどうか? その資格が十分にあるが、米欧は国連のロシア制裁決議を中国が棄権したことを問題にしている。第一のライバルは中国なので、米国はこの機に中国も抑え込みたいとする本心を露わにし、中国への制裁をちらつかせている。そうすることで中国が停戦の仲介者となることをむしろ妨害している。
欧米は、停戦とは反対の方向に動いているように見える。米欧日など西側諸国は、NATOを巡るロシアとの交渉も、停戦や和平を巡る対話を一切せず、ただ武器を送りウクライナを焚きつけてロシアと戦わせている。米欧日など西側諸国が後押しする限り、ウクライナが停戦に進むのは難しい。英ジョンソン首相は「制裁はロシアの体制転換のためだ」と公言した。バイデンは訪問したポーランドで「プーチンを政権から引きずりおろせ!」と演説した。英米政府の本音が表にでた瞬間だ。ロシアに制裁を科し、ロシア経済を破綻させ、屈服させるのが米英の戦略のようだ。ウクライナはそのための「捨て駒」だ。米欧日など西側諸国の態度を停戦へと変えさせなければならない。
ウクライナ国民を守るべきゼレンスキー大統領自らが徹底抗戦を掲げ、米欧日の西側諸国に武器援助を要求し、国内では18歳から60歳男性を出国禁止とし根こそぎ動員している。非戦の人々、非戦の宗教者もいる、戦闘員になりたくない人もいるはずだが、それを認めない。ゼレンスキーは世界に向かって「戦闘員来てくれ!」と公言し外国人傭兵を募集した。これは国際法違反だ。国際法には、傭兵の募集や使用を禁止する条約があり、ウクライナも批准している。
ゼレンスキーは市民にも戦闘を呼びかけ、成人男性の国外退避を禁じ、希望者には無差別に武器を配っている。第2時世界大戦後、非戦闘員の犠牲への反省からジュネーブ諸条約がつくられ、「戦闘員と非戦闘員は区別しなければならない」「非戦闘員は保護しなければならない」と定義した。国家が扇動して「市民よ銃をとれ!」という強制は、現代ではやってはいけないことだ。実際の戦場では区別できない。すでにウクライナには国家の指揮命令系統では掌握しにくい非正規の戦闘員・傭兵が参戦している。
プーチンの侵略はだめだが、ゼレンスキーもおかしなことを煽っている。それなのに米欧日政府とメディアはヒーローに祭りあげている。
その間に犠牲となるのはウクライナの一般市民だ。米欧は、自分たちは戦わず、NATO加盟国でもないウクライナ市民を戦わせている。これがウクライナ戦争の本質的特徴になりつつある。
確かに戦争を始めたのはロシアだ。ロシアは即刻、停戦し撤兵しなければならない。しかし、ゼレンスキーにも重大な責任がある。ゼレンスキー大統領は戦争回避のために何の措置も取らなかった。逆に、膨大な量の対戦車ミサイルや対空ミサイル武器・弾薬を米国から受け取り、戦争体制を整えてきた。ウクライナ市民の命と生活を犠牲に米・NATOと結託してロシアを包囲し攻撃する前線基地になるという行為に出た。それがこの地域の対立の内容であることも間違いない。
欧米メディアは報じないが、東部2州の親ロシア地域では現在も市民がウクライナ軍のロケットや砲撃にさらされている。彼らは2014年以降の8年もの間、ゼレンスキーの国家親衛隊アゾフ大隊などのネオナチ部隊の襲撃でこれまでに1万4千人も殺された。ゼレンスキーはミンスク合意で約束した停戦と特別の自治権を破棄して攻撃してきたのである。
さらに言えば、最大の責任は米政府にある。米政権は、米戦略にしたがってロシアへの戦争挑発と緊張激化を推し進めるゼレンスキー政権を育てたあげたからだ。
ロシア側は昨年12月にウクライナのNATO加盟、東方拡大をやめ、「ミンスク合意」履行を繰り返し求め、そうならなければ軍事的措置を取らざるを得ないと警告した。バイデンはそれにゼロ回答を繰り返した。
このような対立を取り除き、停戦しなくてはならない。
4) 停戦せよ、人道回廊、原発管理
まずは停戦と人道回廊による避難の保障をすぐにでも実現すべきだ。その次は原発の管理。IAEA(国際原子力機関)や国際監視団がどうやって入っていくかという話となる。
例えば、原発の半径何㌔㍍以内は必ず非武装化するなどを決め、原発災害が起きないように管理しなければならない。原発の危険性は正規軍であれば理解できるだろうが傭兵は違う。その意味でも、傭兵が戦場を混乱させる前に停戦合意を進める必要がある。
停戦においては、「プーチンが悪い(悪いに決まっているが)」とか、「戦争犯罪をどうするか」とか、「クリミアや東部2州の帰属をどうするか」などと国際社会が不必要に騒ぐのは、停戦を進める当事者と仲介者にとっては、雑音でしかない。それは次の段階でやればいいことであって、それらを一時的に棚上げにしてでも、まず戦闘を止めるべきだ。
停戦交渉は4回目を数えている。楽観視はできないが、粘り強く交渉を続けていく以外にない。とにかくこれ以上の犠牲者を出さないために、戦況の凍結、その一点のみに国際社会の焦点を絞るべきだ。
欧米日諸国政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ!
5)情報統制、フェイクニュースによる世論誘導
現在メディアは欧米側の視線でしかウクライナ情勢を伝えていない。双方の情報戦や現地の混乱状況を考えれば、市街地・民家などの被害が実際どちらの攻撃によるものかもわからない。映像といえども本物とは限らない。ロシア侵攻前から、ウクライナ軍はロシア系住民の多い東部地域に空爆もしてきた。それらに関するすべての情報は、ウクライナ当局の発表だけが検証もなく垂れ流されており、あまりにも中立性がない。
一方で、ロシア系の放送はすべて遮断され私たちは見ることができない。ロシアのニュース・チャンネル「RT(ロシアン・トゥデイ)」は、プーチン批判もするようなところもある放送局だが、それさえも見れなくなった。ロシア政府の公式サイトにも繋がらない。欧米日のメディアとGAFAは、相手の言い分など何も聞かせないという対応に出ている。現代の情報統制は、ここまでやるのかというレベルにまでなっている、驚くばかりだ。
どのメディアも同じ方向を向いている。これは恐ろしいことだ。
6)ウクライナ戦争からみた日本の教訓
日本の国会は3月23日、ゼレンスキー大統領の要請に応じオンライン演説の場を提供した。ゼレンスキー演説は、停戦や和平が目的ではなかった、戦争拡大への支持取り付けが目的だった。戦争熱の煽動であって極めて危険な内容であったことに、驚いた。交戦国の一方の大統領の好戦的発言を一方的に垂れ流すことも異常だ。
今回の演説は、米欧日の西側諸国とゼレンスキーが共同で推し進めている対ロシア戦争強化拡大政策の一環ととらえざるをえない。バイデンのNATO、ヨーロッパ歴訪と連携している。バイデンは対ロシアの前線基地になっているポーランドで戦争を煽り、ブリュッセルでのNATO、G7、EUの各首脳会議に出席し、対ロシア戦争を激励し、追加制裁を決定しようとしている。停戦の話は決して出てこない。
岸田首相は、ゼレンスキー演説を全面支持し、「極めて困難な状況の中で、祖国や国民を強い決意と勇気で守り抜こうとする姿に感銘を受けた」と語った。日本の国会が戦争を礼賛したことに、強烈な違和感を覚える。停戦を掲げない、戦争熱を煽ることに、私たちは改めて反対する。
日本政府やメディアも、停戦や和平を主張するのではなく、一日中、ウクライナ戦争支援を訴え、戦争熱を煽り立てている。日本でも同じ方向を向いた熱狂が作り出されている。このようにして戦争に入っていくのか・・・・と痛感させられた。ウクライナのことでこれだけ扇情的になるのだから、例えば台湾有事などで自衛隊が戦闘を始めたら、この国はどうなっていくのか、本当に恐ろしくなる。
先の大戦で国家のために日本の一般市民があれほど犠牲になったのに、なぜ戦争を応援するのか? 「市民は死ぬな!」という応援ならいいが、「市民よ、銃を取れ!」という大統領の言葉をなぜ応援するのか?
ウクライナをめぐって善である欧米か、悪のロシアのどちらにつくのかを迫り、善の側につくように世論が醸成され、同調が強制されている。どちらかの国家につくべきだと煽ったり、市民を犠牲にするようなことはしてはいけない。これは二択問題ではない。非戦・中立という市民の選択、中立の主権国家という選択肢もある。また、市民や民衆は、国家に所属しなければならないのではない。
ゼレンスキー政府とその市民を区別する必要がある。ウクライナ市民は戦争の被害者であり保護されなくてはならない。しかし、そのことはゼレンスキーとその政府の戦争熱の扇動を支持することではない。ウクライナ戦争に反対し停戦を求める、しかし私たちはウクライナ国旗を掲げない。
2020年代に入り、日本はすでにウクライナと同じように米国と中国に挟まれた緩衝国家になっている。日本はまるでウクライナのように米国による中国挑発の「捨て駒」に使われる可能性が高まっていることを、私たちは改めて認識しなければならない。米国が煽る「台湾有事」で戦場となるのは、台湾であり日本であり中国東海岸であって、米国ではない。日本に米軍基地があり米軍が自由に振る舞っている現状は、むしろ危険なことであると知らなくてはならない。
緩衝国家・日本にとって安全保障とは、一方の側に立つことではない。いまや憲法9条を掲げ、米中対立を緩和することこそが、日本の安全保障となる。核兵器禁止条約を批准し、核兵器禁止にむけて戦争被爆国・日本が国際的世論を主導していくことこそが、日本と世界の真の安全保障となる。
偶発的な事故などから戦争につながる可能性を排除することも重要だ。南西諸島でのミサイル配備は、時間をかけた中国への挑発行為であって、もってのほかだ。むしろ沖縄は非軍事化しなければならない。東アジアの平和と安全保障、日中友好を掲げ、外交により中国側にも非軍事化を要請していくことこそ必要である。
また、原発を54基も配置している日本は、そもそもミサイル防衛などできはしない(ミサイル防衛できないから、イスラエルは原発を持っていない)。「先制攻撃能力を持つ」、米国と「核共有」するなど狂気の沙汰だ。大国と接してきたフィンランド、ノルウエーのような緩衝国家がどういう外交上の工夫をして生存してきたか、その努力と苦しみも含めた「知恵」を、日本政府と日本国民は共有しなければならない。「米国にしたがってさえおればいい」という能天気な日本政府を抱いていることこそが、私たちにとって極めて危険なのだ。
日本政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ! 戦争熱を煽るな!
戦争を煽るな!
1)今必要なのは、即時停戦と持続的和平
ロシア軍のウクライナ侵攻から約1ヶ月が経った。今必要なのは、即時停戦と持続的和平を実現だ。これ以上ウクライナ市民の犠牲を出してはいけない。必要なのは、戦争の拡大や持久戦でも、武器弾薬の供与でもない、直ちに停戦することである。
ウクライナ軍とロシア軍では、侵入したロシアが悪いに決まっている。ロシアの今回の侵攻は国連憲章に違反する侵略行為であり断固反対する。たとえ戦争の目的に正当な理由があったとしても、それを軍事力で実現することは許されない。まずロシア軍の撤退を要求することは当然のことだ。
現在は、ウクラウナ側の反撃によって、戦線が膠着している。欧米が大量に供給した兵器、とくに携帯用の対戦車ミサイル・ジャベリンや携帯用のスカッドミサイルによって、ウクライナ軍が反撃に転じている。米軍の支援によってロシア軍の通信妨害を引き起こすとともに、米軍事衛星からロシア軍の位置情報を提供して反撃が行われている。これまでとは違った現代的な代理戦争の様相を呈し、このまま長期戦になりかねない。
2) 停戦と和平をどうやって実現するか?
いまは、どうすれば停戦と和平に向けて政治的転換を図るのかを、私たち市民が真剣に考えるべき時だ。
まず、何よりもロシアに停戦と撤退を要求する。ロシアによるウクライナへの戦争は国連憲章違反だからだ。
しかし、一方的にロシアだけを非難するのは、結局は米・NATOの側に立って戦争熱を煽り、ロシア・ウクライナ戦争を長引かせることとなり、犠牲者をさらに増やすことになる。
私たちの立場は非戦である。だから、ロシアが侵攻したとする「原因」、すなわちこの地域における対立を取り除くことを同時に求める。プーチンの戦争目的ははっきりしている。ウクライナの領土獲得ではない、NATOの東方拡大を止めロシアの安全保障の確保にある。
したがって、即時停戦・持続的和平において、ロシア軍の撤退とともに、ロシアによるウクライナの安全保障の約束、米・NATO諸国やウクライナ政権がNATOの東方拡大を止め、ロシアの安全保障の確保を約束することが必要だ。
和平は、一方が他方を、他方が一方を支配・屈服させることではない。ロシアに即時停戦・持続的和平を求めると同時に、米・NATO諸国やウクライナ政権にも即時停戦・持続的和平を求める。
欧米諸国とメディア、そしてゼレンスキー政権は戦争拡大、徹底抗戦を煽ってはいけない。停戦が先であって、ウクライナのNATO加盟など、話題にすべきではない。
この地域における対立の歴史的原因は米・NATOの東方拡大にある。NATOは、プーチンの警告や交渉に全く耳を貸さず、ロシアを見下し封じ込めてきた。NATO加盟国にはミサイルが配備され、モスクワまで数分で届くところまで包囲網を狭めてきた。2021年2月、ゼレンスキー大統領は、「NATO加盟と東部2州およびクリミア奪還を今年中に実現する」と宣言した。2015年の「ミンスク合意」(停戦合意と東部2州の高度の自治権)の破棄を公言した。ウクライナのNATO加盟、東部2州とクリミアを奪還が、ロシアとNATOの全面対立になるのは誰の眼にも明らかであるにもかかわらず、だ。ゼレンスキーは米・NATOの意図通りに振るまったのである。
そのような経緯、この地域の対立からすれば、停戦と持続的和平の課題も明確だ。それは①ロシア軍の即時停戦、撤退、②ウクライナ軍の戦闘行為の中止を同時に行うこと、③さらにはウクライナのNATO加盟の断念、④ウクライナ軍による東部2州への攻撃中止、⑤中距離ミサイルのウクライナ配備計画の中止である。
3) 停戦はできるだろうか?
3月29日、トルコが仲介者に名乗りをあげ、第4回目の停戦交渉がイスタンブールで行われた。世界はその推移を見守っている。
当初、フランスのマクロン大統領が仲介を試みたが、EUの今の空気のなかにあっては完全に孤立して行き詰まってしまった。
中国はどうか? その資格が十分にあるが、米欧は国連のロシア制裁決議を中国が棄権したことを問題にしている。第一のライバルは中国なので、米国はこの機に中国も抑え込みたいとする本心を露わにし、中国への制裁をちらつかせている。そうすることで中国が停戦の仲介者となることをむしろ妨害している。
欧米は、停戦とは反対の方向に動いているように見える。米欧日など西側諸国は、NATOを巡るロシアとの交渉も、停戦や和平を巡る対話を一切せず、ただ武器を送りウクライナを焚きつけてロシアと戦わせている。米欧日など西側諸国が後押しする限り、ウクライナが停戦に進むのは難しい。英ジョンソン首相は「制裁はロシアの体制転換のためだ」と公言した。バイデンは訪問したポーランドで「プーチンを政権から引きずりおろせ!」と演説した。英米政府の本音が表にでた瞬間だ。ロシアに制裁を科し、ロシア経済を破綻させ、屈服させるのが米英の戦略のようだ。ウクライナはそのための「捨て駒」だ。米欧日など西側諸国の態度を停戦へと変えさせなければならない。
ウクライナ国民を守るべきゼレンスキー大統領自らが徹底抗戦を掲げ、米欧日の西側諸国に武器援助を要求し、国内では18歳から60歳男性を出国禁止とし根こそぎ動員している。非戦の人々、非戦の宗教者もいる、戦闘員になりたくない人もいるはずだが、それを認めない。ゼレンスキーは世界に向かって「戦闘員来てくれ!」と公言し外国人傭兵を募集した。これは国際法違反だ。国際法には、傭兵の募集や使用を禁止する条約があり、ウクライナも批准している。
ゼレンスキーは市民にも戦闘を呼びかけ、成人男性の国外退避を禁じ、希望者には無差別に武器を配っている。第2時世界大戦後、非戦闘員の犠牲への反省からジュネーブ諸条約がつくられ、「戦闘員と非戦闘員は区別しなければならない」「非戦闘員は保護しなければならない」と定義した。国家が扇動して「市民よ銃をとれ!」という強制は、現代ではやってはいけないことだ。実際の戦場では区別できない。すでにウクライナには国家の指揮命令系統では掌握しにくい非正規の戦闘員・傭兵が参戦している。
プーチンの侵略はだめだが、ゼレンスキーもおかしなことを煽っている。それなのに米欧日政府とメディアはヒーローに祭りあげている。
その間に犠牲となるのはウクライナの一般市民だ。米欧は、自分たちは戦わず、NATO加盟国でもないウクライナ市民を戦わせている。これがウクライナ戦争の本質的特徴になりつつある。
確かに戦争を始めたのはロシアだ。ロシアは即刻、停戦し撤兵しなければならない。しかし、ゼレンスキーにも重大な責任がある。ゼレンスキー大統領は戦争回避のために何の措置も取らなかった。逆に、膨大な量の対戦車ミサイルや対空ミサイル武器・弾薬を米国から受け取り、戦争体制を整えてきた。ウクライナ市民の命と生活を犠牲に米・NATOと結託してロシアを包囲し攻撃する前線基地になるという行為に出た。それがこの地域の対立の内容であることも間違いない。
欧米メディアは報じないが、東部2州の親ロシア地域では現在も市民がウクライナ軍のロケットや砲撃にさらされている。彼らは2014年以降の8年もの間、ゼレンスキーの国家親衛隊アゾフ大隊などのネオナチ部隊の襲撃でこれまでに1万4千人も殺された。ゼレンスキーはミンスク合意で約束した停戦と特別の自治権を破棄して攻撃してきたのである。
さらに言えば、最大の責任は米政府にある。米政権は、米戦略にしたがってロシアへの戦争挑発と緊張激化を推し進めるゼレンスキー政権を育てたあげたからだ。
ロシア側は昨年12月にウクライナのNATO加盟、東方拡大をやめ、「ミンスク合意」履行を繰り返し求め、そうならなければ軍事的措置を取らざるを得ないと警告した。バイデンはそれにゼロ回答を繰り返した。
このような対立を取り除き、停戦しなくてはならない。
4) 停戦せよ、人道回廊、原発管理
まずは停戦と人道回廊による避難の保障をすぐにでも実現すべきだ。その次は原発の管理。IAEA(国際原子力機関)や国際監視団がどうやって入っていくかという話となる。
例えば、原発の半径何㌔㍍以内は必ず非武装化するなどを決め、原発災害が起きないように管理しなければならない。原発の危険性は正規軍であれば理解できるだろうが傭兵は違う。その意味でも、傭兵が戦場を混乱させる前に停戦合意を進める必要がある。
停戦においては、「プーチンが悪い(悪いに決まっているが)」とか、「戦争犯罪をどうするか」とか、「クリミアや東部2州の帰属をどうするか」などと国際社会が不必要に騒ぐのは、停戦を進める当事者と仲介者にとっては、雑音でしかない。それは次の段階でやればいいことであって、それらを一時的に棚上げにしてでも、まず戦闘を止めるべきだ。
停戦交渉は4回目を数えている。楽観視はできないが、粘り強く交渉を続けていく以外にない。とにかくこれ以上の犠牲者を出さないために、戦況の凍結、その一点のみに国際社会の焦点を絞るべきだ。
欧米日諸国政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ!
5)情報統制、フェイクニュースによる世論誘導
現在メディアは欧米側の視線でしかウクライナ情勢を伝えていない。双方の情報戦や現地の混乱状況を考えれば、市街地・民家などの被害が実際どちらの攻撃によるものかもわからない。映像といえども本物とは限らない。ロシア侵攻前から、ウクライナ軍はロシア系住民の多い東部地域に空爆もしてきた。それらに関するすべての情報は、ウクライナ当局の発表だけが検証もなく垂れ流されており、あまりにも中立性がない。
一方で、ロシア系の放送はすべて遮断され私たちは見ることができない。ロシアのニュース・チャンネル「RT(ロシアン・トゥデイ)」は、プーチン批判もするようなところもある放送局だが、それさえも見れなくなった。ロシア政府の公式サイトにも繋がらない。欧米日のメディアとGAFAは、相手の言い分など何も聞かせないという対応に出ている。現代の情報統制は、ここまでやるのかというレベルにまでなっている、驚くばかりだ。
どのメディアも同じ方向を向いている。これは恐ろしいことだ。
6)ウクライナ戦争からみた日本の教訓
日本の国会は3月23日、ゼレンスキー大統領の要請に応じオンライン演説の場を提供した。ゼレンスキー演説は、停戦や和平が目的ではなかった、戦争拡大への支持取り付けが目的だった。戦争熱の煽動であって極めて危険な内容であったことに、驚いた。交戦国の一方の大統領の好戦的発言を一方的に垂れ流すことも異常だ。
今回の演説は、米欧日の西側諸国とゼレンスキーが共同で推し進めている対ロシア戦争強化拡大政策の一環ととらえざるをえない。バイデンのNATO、ヨーロッパ歴訪と連携している。バイデンは対ロシアの前線基地になっているポーランドで戦争を煽り、ブリュッセルでのNATO、G7、EUの各首脳会議に出席し、対ロシア戦争を激励し、追加制裁を決定しようとしている。停戦の話は決して出てこない。
岸田首相は、ゼレンスキー演説を全面支持し、「極めて困難な状況の中で、祖国や国民を強い決意と勇気で守り抜こうとする姿に感銘を受けた」と語った。日本の国会が戦争を礼賛したことに、強烈な違和感を覚える。停戦を掲げない、戦争熱を煽ることに、私たちは改めて反対する。
日本政府やメディアも、停戦や和平を主張するのではなく、一日中、ウクライナ戦争支援を訴え、戦争熱を煽り立てている。日本でも同じ方向を向いた熱狂が作り出されている。このようにして戦争に入っていくのか・・・・と痛感させられた。ウクライナのことでこれだけ扇情的になるのだから、例えば台湾有事などで自衛隊が戦闘を始めたら、この国はどうなっていくのか、本当に恐ろしくなる。
先の大戦で国家のために日本の一般市民があれほど犠牲になったのに、なぜ戦争を応援するのか? 「市民は死ぬな!」という応援ならいいが、「市民よ、銃を取れ!」という大統領の言葉をなぜ応援するのか?
ウクライナをめぐって善である欧米か、悪のロシアのどちらにつくのかを迫り、善の側につくように世論が醸成され、同調が強制されている。どちらかの国家につくべきだと煽ったり、市民を犠牲にするようなことはしてはいけない。これは二択問題ではない。非戦・中立という市民の選択、中立の主権国家という選択肢もある。また、市民や民衆は、国家に所属しなければならないのではない。
ゼレンスキー政府とその市民を区別する必要がある。ウクライナ市民は戦争の被害者であり保護されなくてはならない。しかし、そのことはゼレンスキーとその政府の戦争熱の扇動を支持することではない。ウクライナ戦争に反対し停戦を求める、しかし私たちはウクライナ国旗を掲げない。
2020年代に入り、日本はすでにウクライナと同じように米国と中国に挟まれた緩衝国家になっている。日本はまるでウクライナのように米国による中国挑発の「捨て駒」に使われる可能性が高まっていることを、私たちは改めて認識しなければならない。米国が煽る「台湾有事」で戦場となるのは、台湾であり日本であり中国東海岸であって、米国ではない。日本に米軍基地があり米軍が自由に振る舞っている現状は、むしろ危険なことであると知らなくてはならない。
緩衝国家・日本にとって安全保障とは、一方の側に立つことではない。いまや憲法9条を掲げ、米中対立を緩和することこそが、日本の安全保障となる。核兵器禁止条約を批准し、核兵器禁止にむけて戦争被爆国・日本が国際的世論を主導していくことこそが、日本と世界の真の安全保障となる。
偶発的な事故などから戦争につながる可能性を排除することも重要だ。南西諸島でのミサイル配備は、時間をかけた中国への挑発行為であって、もってのほかだ。むしろ沖縄は非軍事化しなければならない。東アジアの平和と安全保障、日中友好を掲げ、外交により中国側にも非軍事化を要請していくことこそ必要である。
また、原発を54基も配置している日本は、そもそもミサイル防衛などできはしない(ミサイル防衛できないから、イスラエルは原発を持っていない)。「先制攻撃能力を持つ」、米国と「核共有」するなど狂気の沙汰だ。大国と接してきたフィンランド、ノルウエーのような緩衝国家がどういう外交上の工夫をして生存してきたか、その努力と苦しみも含めた「知恵」を、日本政府と日本国民は共有しなければならない。「米国にしたがってさえおればいい」という能天気な日本政府を抱いていることこそが、私たちにとって極めて危険なのだ。
日本政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ! 戦争熱を煽るな!
欧州の天然ガス価格高騰はどうして起きたのか? [世界の動き]
欧州の天然ガス価格高騰はどうして起きたのか?
1)天然ガス価格上昇
世界的にエネルギー価格が上昇しており、特に欧米で物価上昇が一時的なものでなくなり、インフレ懸念が確実なものとなっている。米FRBはテーパリング開始を22年3月からと前倒しすることにした。
世界的にエネルギー価格はなぜ上昇したのか? 欧州の天然ガス価格急騰はどうして起きたのか? 明かにしておかなくてはならない。
2)英国で電力小売り会社の半数が倒産、新規参入企業を中心に
12月16日の日本経済新聞によれば、「英国エネ会社、半数が市場退場」したという。11月22日、英バルブエナジー社が経営破綻した。利用者数170万、英7位の電力小売り会社である。英国ガス電力市場では、2020年末時点で、52の電力小売会社が営業していたが、21年8月以降、すでに30社近くが破綻した。
大量破産の引き金は、燃料価格の高騰である。21年10月、天然ガス価格が高騰、いったん収まりかけたが、ウクライナ危機で12月14日にまた高騰した。
英国では、消費者保護を目的として、電力小売り価格を規制しており、当局が原価や販売費、利潤などを考慮し上限を決めている。エネルギー価格の急な高騰に「価格調整」が間に合わず、財務体力や価格ヘッジが不十分な新興参入企業に打撃を与えた。10月には資金繰りが切迫、銀行融資に走ったが、倒産が相次いだ。連鎖倒産も起きている。12月1日に破綻したゾグエナジー社は、仕入れ先の卸売業者が潰れ、ガスを安く仕入れる既存契約が無効になり、倒産に至った。
そもそも英国では、サッチャー政権下の1980年代以降、電力・ガスの民営化や自由化が段階的に進み、2010年代には新規参入が相次いだ。今回の記録的な相場急騰で、参入した新興勢を中心に経営破綻した。
新規参入の電力小売会社は、財政体力が弱く、高利の資金調達に頼っている。ガス価格が安定している通常の条件では利益を上げられても、今回のように急騰や乱高下した時、直ぐさま資金繰りが切迫し破綻にいたる。
3)欧州、天然ガス高騰の理由
特に欧州では、天然ガスや液化天然ガス(LNG)の高値が続いている。LNGスポット価格は、21年10月に100万BTU(英国熱量単位)当たり、50㌦を突破し、12月には80㌦まで急上昇した。
欧州の天然ガス危機には、複数の要因が重なっている。
<天然ガス価格 12月6日 日経>
① 需要が回復: コロナ禍から需要が回復してきた。需要が回復し世界的に原油、天然ガスを含めエネルギー価格が高騰している。
② 風力発電の出力が低下: 欧州では今年、風が吹かず、風力発電の出力が低下した。不足を補うため天然ガス火力発電の稼働が高まった。
③ 石炭から天然ガスへの需要シフト: 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換していく過程で、石炭火力ではなくCO2排出量の少ない天然ガス火力に集中した。
④ 欧州の天然ガスは、スポット市場から調達
世界的に天然ガスの価格が上昇しているが、欧州天然ガス市場の特殊性も関係している。欧州は7~8割がスポット市場から調達している。スポット価格は市場需給に従い乱高下する。日本のLNG(液化天然ガス)は長期契約が中心で、スポット調達は3割程度である。欧州が調達している天然ガスのスポット市場価格が80㌦超(100万BTU当り)にまで急上昇した。
これには理由があって、温暖化ガス排出ゼロにむけてEUの欧州委員会が、天然ガスは1年未満の短期契約は認めるものの、長期契約(1年以上の契約)を禁止してきたからである。12月15日、EUの欧州員会は、価格の高騰にもかかわらず、2049年までに原則として天然ガスの長期契約の禁止を確認した。(12月16日、日本経済新聞)
⑤ 投資不足ですぐに増産ができない: コロナ禍の需要減退で投資を絞ってきており、需要が急回復してもすぐには増産できない。また、温暖化対策から、金融機関、投資家は世界的に化石燃料である石油・天然ガス・石炭開発への投資を絞っている。したがって、投資資金が十分に集まらない。
⑥ 米シェールガスが増産、輸出しない: 米シェール企業も多くはベンチャーであり、ハイイールド債などの高利の資金に頼っており、原油・ガス価格が低迷した時、資金繰りに苦しみ操業を停止してきた。原油価格が1バレル30㌦台に下がった時、優良な油井以外、多くは破綻した。今夏、原油価格は1バレル80㌦程度にまで上昇しシェールオイル・ガス価格も上昇したが、投資資金の調達が充分できず、増産には転じたものの米国内需要を賄うのが精一杯で、輸出にまで回らない。輸出に必要な米国のシェールガス液化設備も増産投資しておらず逼迫状態となり、不足している欧州や中国・アジアに輸出できない。22年には液化能力を2割、増やす見込みだがまったく足らない状態だ。
その結果、欧州天然ガス価格が米国価格の5倍(21年10月28日)にまで高騰した。
4)長期的な要因、政治的な要因
LNGの世界全体の需要は、2030年まで年3~6%の伸びを続けるという予測に対し、過去の価格低迷から投資が不足しており、2025年26年までは供給余力はない。不足状態が起きれば再び危機的な状況につながる。投資不足の要因は、金融機関、証券会社などから化石燃料開発への投資の中止表明が相次いでおり、いわば金融市場からの圧力から投資不足を招いていることからの制約もある。
すなわち、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の過程で、時期ごとにどのようにエネルギー転換をしていくか? について、大まかな目標では合意し、一方、炭素税を導入し、各国政府・企業に切り替えを促進させようとしている。しかし、各国ごとに合意した明確な計画がないことに原因がある。各国政府、各企業とも目標を掲げ推し進めているが、この転換のプロセスでCO2排出量の多い石炭火力から天然ガスへの転換も並行して進めることになる。しかし、全体としてどのような計画とペースで転換をすすめるかについて合意はなく、各国や企業群が投資し利益を上げること=企業間競争、市場の動向を「推進要因」として実行されている。いわば、資本主義の無政府性がこういった混乱を招いていると言える。
いま一つは、アメリカ政府のとっている対ロシア戦略、欧州戦略にある。「OPEC+ロシア」は協調して生産調整し、原油・天然ガスの安定供給と価格の安定に努めてきた。しかし、アメリカ政府と米企業はこれに加わらず、自由に(=勝手に)振る舞ってきた。アメリカ政府と企業は例外だというのだ。
2010年代半ばにはシェールオイル、ガスの増産により、米国は世界一の産油国、輸出国になった。米シェールオイル生産が原油価格を乱高下させた要因でもある。トランプ前大統領は、米シェール企業の代弁者となって、「米シェールガスを欧州はもっと買え!」「ロシア産ガスを買うな!」とたびたび発言した。しかし、21年現在のように欧州で天然ガスが不足しても、米国需要を優先する、生産余力がないので輸出しない、米国は安定したエネルギー供給など考慮していない。アメリカと付き合うと大変なことになるのである。
バイデン政権は、21年秋エネルギー価格高騰に際し、おそらく国内支持者を意識したのであろう、「OPEC+ロシア」に原油増産を要請した。米国のシェールオイル・ガス生産が、需要回復に対応できないのが大きな要因であるにもかかわらず、まるで「OPEC+ロシア」が悪いかのように非難しはじめた。こういうアメリカ中心の「唯我独尊」ともいえる考え方、「アメリカ例外主義」には、あらためてあきれさせられる。
米バイデン政権の振る舞いは、自身の米国内での支持率を意識したものであり、米国内の政治事情からきている。長期的なエネルギー政策など考慮していない。ロシアやOPECへの非難、責任転嫁は筋違いである。
5)「ウクライナ危機」を煽ったら、自身に跳ね返ってきた
さらに、アメリカ政府によるロシア戦略が悪影響を及ぼした。「ウクライナ危機」を煽ってロシアを孤立させる米バイデン政権の戦略が、欧州の天然ガス価格をさらに高騰させたのである。21年10月に欧州天然ガス価格が高騰し、11月にはいったんおさまりつつあったが、12月に入り「ウクライナ危機」を煽ったことで、天然ガス価格は再び高騰した。
ロシアから欧州への天然ガスは、いくつかのパイプラインを通じて供給される。かつてウクライナがロシアから欧州へ送るガスを勝手に盗み取り、独メルケル首相の怒りを買ったことがあった。安定供給のため、バルト海海底にパイプラインを施設しドイツとロシアを直接結ぶ「ノルドストリーム2」を建設し完成させた。「ノルドストリーム2」は途中で抜き取ることはできない。ドイツをはじめ欧州諸国は安定したエネルギー供給を確保しなければならないのである。
アメリカ政府はロシアを孤立させる米国の戦略に反すると「ノルドストリーム2」を非難してきた。トランプは、米国シェールガスを買わせるためにも「ノルドストリーム2」を非難し、欧州との同盟さえ傷つけてきた。バイデン政権になっていったん、同盟国ドイツのメルケル首相との関係修復、協調から「ノルドストリーム2」を認めたが、21年秋「ウクライナ危機」を煽るなかで、再度「ノルドストリーム2」稼動阻止に態度を変えた。
ウクライナ、ポーランド、バルト3国はもともと、ロシアを非難することで米国の支持を得た連中が政権についている。米国の意向を汲んで危機を煽る政策をとっていることから、さらには「ノルドストリーム2」が稼働すれば天然ガス通過料収入が減少するので、米国のロシア非難の合唱に加わっている。
ドイツは、安定的なエネルギー基盤を確保しなければならない立場にある。
12月に欧米が軍事的挑発を準備し「ウクライナ危機」が頂点に達したが、そのことでエネルギー価格、特に天然ガス価格がさらに高騰した。米国の挑発に呼応したら、ガス価格は高騰し欧州危機に陥りかねないことが現実となったので、挑発者に加わわろうとしていた欧州各国政府は手を引くことにした。米国一国ではNATOを動かせないので、「ウクライナ危機」は終息した。
欧州での天然ガス価格高騰は、こういう思わぬ政治的「結末」--自分が煽ってつくりだした危機を、自分で終息せざるをえないという少し「間抜けな結末」――をも、もたらしたのである。
1)天然ガス価格上昇
世界的にエネルギー価格が上昇しており、特に欧米で物価上昇が一時的なものでなくなり、インフレ懸念が確実なものとなっている。米FRBはテーパリング開始を22年3月からと前倒しすることにした。
世界的にエネルギー価格はなぜ上昇したのか? 欧州の天然ガス価格急騰はどうして起きたのか? 明かにしておかなくてはならない。
2)英国で電力小売り会社の半数が倒産、新規参入企業を中心に
12月16日の日本経済新聞によれば、「英国エネ会社、半数が市場退場」したという。11月22日、英バルブエナジー社が経営破綻した。利用者数170万、英7位の電力小売り会社である。英国ガス電力市場では、2020年末時点で、52の電力小売会社が営業していたが、21年8月以降、すでに30社近くが破綻した。
大量破産の引き金は、燃料価格の高騰である。21年10月、天然ガス価格が高騰、いったん収まりかけたが、ウクライナ危機で12月14日にまた高騰した。
英国では、消費者保護を目的として、電力小売り価格を規制しており、当局が原価や販売費、利潤などを考慮し上限を決めている。エネルギー価格の急な高騰に「価格調整」が間に合わず、財務体力や価格ヘッジが不十分な新興参入企業に打撃を与えた。10月には資金繰りが切迫、銀行融資に走ったが、倒産が相次いだ。連鎖倒産も起きている。12月1日に破綻したゾグエナジー社は、仕入れ先の卸売業者が潰れ、ガスを安く仕入れる既存契約が無効になり、倒産に至った。
そもそも英国では、サッチャー政権下の1980年代以降、電力・ガスの民営化や自由化が段階的に進み、2010年代には新規参入が相次いだ。今回の記録的な相場急騰で、参入した新興勢を中心に経営破綻した。
新規参入の電力小売会社は、財政体力が弱く、高利の資金調達に頼っている。ガス価格が安定している通常の条件では利益を上げられても、今回のように急騰や乱高下した時、直ぐさま資金繰りが切迫し破綻にいたる。
3)欧州、天然ガス高騰の理由
特に欧州では、天然ガスや液化天然ガス(LNG)の高値が続いている。LNGスポット価格は、21年10月に100万BTU(英国熱量単位)当たり、50㌦を突破し、12月には80㌦まで急上昇した。
欧州の天然ガス危機には、複数の要因が重なっている。
<天然ガス価格 12月6日 日経>
① 需要が回復: コロナ禍から需要が回復してきた。需要が回復し世界的に原油、天然ガスを含めエネルギー価格が高騰している。
② 風力発電の出力が低下: 欧州では今年、風が吹かず、風力発電の出力が低下した。不足を補うため天然ガス火力発電の稼働が高まった。
③ 石炭から天然ガスへの需要シフト: 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換していく過程で、石炭火力ではなくCO2排出量の少ない天然ガス火力に集中した。
④ 欧州の天然ガスは、スポット市場から調達
世界的に天然ガスの価格が上昇しているが、欧州天然ガス市場の特殊性も関係している。欧州は7~8割がスポット市場から調達している。スポット価格は市場需給に従い乱高下する。日本のLNG(液化天然ガス)は長期契約が中心で、スポット調達は3割程度である。欧州が調達している天然ガスのスポット市場価格が80㌦超(100万BTU当り)にまで急上昇した。
これには理由があって、温暖化ガス排出ゼロにむけてEUの欧州委員会が、天然ガスは1年未満の短期契約は認めるものの、長期契約(1年以上の契約)を禁止してきたからである。12月15日、EUの欧州員会は、価格の高騰にもかかわらず、2049年までに原則として天然ガスの長期契約の禁止を確認した。(12月16日、日本経済新聞)
⑤ 投資不足ですぐに増産ができない: コロナ禍の需要減退で投資を絞ってきており、需要が急回復してもすぐには増産できない。また、温暖化対策から、金融機関、投資家は世界的に化石燃料である石油・天然ガス・石炭開発への投資を絞っている。したがって、投資資金が十分に集まらない。
⑥ 米シェールガスが増産、輸出しない: 米シェール企業も多くはベンチャーであり、ハイイールド債などの高利の資金に頼っており、原油・ガス価格が低迷した時、資金繰りに苦しみ操業を停止してきた。原油価格が1バレル30㌦台に下がった時、優良な油井以外、多くは破綻した。今夏、原油価格は1バレル80㌦程度にまで上昇しシェールオイル・ガス価格も上昇したが、投資資金の調達が充分できず、増産には転じたものの米国内需要を賄うのが精一杯で、輸出にまで回らない。輸出に必要な米国のシェールガス液化設備も増産投資しておらず逼迫状態となり、不足している欧州や中国・アジアに輸出できない。22年には液化能力を2割、増やす見込みだがまったく足らない状態だ。
その結果、欧州天然ガス価格が米国価格の5倍(21年10月28日)にまで高騰した。
4)長期的な要因、政治的な要因
LNGの世界全体の需要は、2030年まで年3~6%の伸びを続けるという予測に対し、過去の価格低迷から投資が不足しており、2025年26年までは供給余力はない。不足状態が起きれば再び危機的な状況につながる。投資不足の要因は、金融機関、証券会社などから化石燃料開発への投資の中止表明が相次いでおり、いわば金融市場からの圧力から投資不足を招いていることからの制約もある。
すなわち、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の過程で、時期ごとにどのようにエネルギー転換をしていくか? について、大まかな目標では合意し、一方、炭素税を導入し、各国政府・企業に切り替えを促進させようとしている。しかし、各国ごとに合意した明確な計画がないことに原因がある。各国政府、各企業とも目標を掲げ推し進めているが、この転換のプロセスでCO2排出量の多い石炭火力から天然ガスへの転換も並行して進めることになる。しかし、全体としてどのような計画とペースで転換をすすめるかについて合意はなく、各国や企業群が投資し利益を上げること=企業間競争、市場の動向を「推進要因」として実行されている。いわば、資本主義の無政府性がこういった混乱を招いていると言える。
いま一つは、アメリカ政府のとっている対ロシア戦略、欧州戦略にある。「OPEC+ロシア」は協調して生産調整し、原油・天然ガスの安定供給と価格の安定に努めてきた。しかし、アメリカ政府と米企業はこれに加わらず、自由に(=勝手に)振る舞ってきた。アメリカ政府と企業は例外だというのだ。
2010年代半ばにはシェールオイル、ガスの増産により、米国は世界一の産油国、輸出国になった。米シェールオイル生産が原油価格を乱高下させた要因でもある。トランプ前大統領は、米シェール企業の代弁者となって、「米シェールガスを欧州はもっと買え!」「ロシア産ガスを買うな!」とたびたび発言した。しかし、21年現在のように欧州で天然ガスが不足しても、米国需要を優先する、生産余力がないので輸出しない、米国は安定したエネルギー供給など考慮していない。アメリカと付き合うと大変なことになるのである。
バイデン政権は、21年秋エネルギー価格高騰に際し、おそらく国内支持者を意識したのであろう、「OPEC+ロシア」に原油増産を要請した。米国のシェールオイル・ガス生産が、需要回復に対応できないのが大きな要因であるにもかかわらず、まるで「OPEC+ロシア」が悪いかのように非難しはじめた。こういうアメリカ中心の「唯我独尊」ともいえる考え方、「アメリカ例外主義」には、あらためてあきれさせられる。
米バイデン政権の振る舞いは、自身の米国内での支持率を意識したものであり、米国内の政治事情からきている。長期的なエネルギー政策など考慮していない。ロシアやOPECへの非難、責任転嫁は筋違いである。
5)「ウクライナ危機」を煽ったら、自身に跳ね返ってきた
さらに、アメリカ政府によるロシア戦略が悪影響を及ぼした。「ウクライナ危機」を煽ってロシアを孤立させる米バイデン政権の戦略が、欧州の天然ガス価格をさらに高騰させたのである。21年10月に欧州天然ガス価格が高騰し、11月にはいったんおさまりつつあったが、12月に入り「ウクライナ危機」を煽ったことで、天然ガス価格は再び高騰した。
ロシアから欧州への天然ガスは、いくつかのパイプラインを通じて供給される。かつてウクライナがロシアから欧州へ送るガスを勝手に盗み取り、独メルケル首相の怒りを買ったことがあった。安定供給のため、バルト海海底にパイプラインを施設しドイツとロシアを直接結ぶ「ノルドストリーム2」を建設し完成させた。「ノルドストリーム2」は途中で抜き取ることはできない。ドイツをはじめ欧州諸国は安定したエネルギー供給を確保しなければならないのである。
アメリカ政府はロシアを孤立させる米国の戦略に反すると「ノルドストリーム2」を非難してきた。トランプは、米国シェールガスを買わせるためにも「ノルドストリーム2」を非難し、欧州との同盟さえ傷つけてきた。バイデン政権になっていったん、同盟国ドイツのメルケル首相との関係修復、協調から「ノルドストリーム2」を認めたが、21年秋「ウクライナ危機」を煽るなかで、再度「ノルドストリーム2」稼動阻止に態度を変えた。
ウクライナ、ポーランド、バルト3国はもともと、ロシアを非難することで米国の支持を得た連中が政権についている。米国の意向を汲んで危機を煽る政策をとっていることから、さらには「ノルドストリーム2」が稼働すれば天然ガス通過料収入が減少するので、米国のロシア非難の合唱に加わっている。
ドイツは、安定的なエネルギー基盤を確保しなければならない立場にある。
12月に欧米が軍事的挑発を準備し「ウクライナ危機」が頂点に達したが、そのことでエネルギー価格、特に天然ガス価格がさらに高騰した。米国の挑発に呼応したら、ガス価格は高騰し欧州危機に陥りかねないことが現実となったので、挑発者に加わわろうとしていた欧州各国政府は手を引くことにした。米国一国ではNATOを動かせないので、「ウクライナ危機」は終息した。
欧州での天然ガス価格高騰は、こういう思わぬ政治的「結末」--自分が煽ってつくりだした危機を、自分で終息せざるをえないという少し「間抜けな結末」――をも、もたらしたのである。
米国のインド太平洋戦略の弱点 [世界の動き]
1)米国のインド太平洋戦略の弱点
米国はこれまでの中東に重点を置いた軍事戦略から、勃興する大国である中国を意識したインド太平洋戦略、対中国包囲網へと重点を移している。
しかし、米国のインド太平洋戦略は弱点を抱えている。最大の弱点は、明確な経済戦略がないことだ。支配する戦略は持っているが、インド太平洋諸国と共存共栄する戦略を持っていない。
インド太平洋の国々にとって中国の魅力は、共産党が指導する国家資本主義の政治体制ではない。あくまで「経済の潜在力の強さ」だ。ASEANはすでに中国経済との結びつきのなかで順調な経済発展を遂げ続けている。2021年現在の米国には、中国の経済構想に代わる構想を提起する力量はすでに失われている。
米国が中国に対する批判を、「人権批判」などの政治面や軍事力の脅威だけに集中するならば、しかも「人権批判」の多くは米国政府関係者とその支配下にあるメディアによってつくられた「フェイクニュース」であるが、米国は対抗手段がいかに少ないかを露呈することになる。実際のところ、現在は「半ば露呈している」事態となっている。
「フェイクニュース」を喜んでとりあげているのは、日本政府と豪州政府くらいだ。
ASEAN諸国は、すでに米国の外交戦略の「底」、米戦略の「貧しさ」、「身勝手さ」を見破っている。その結果、「米国戦略に全面的に賛同するわけにはいかない」という態度を示しているのだ。
トランプ前大統領が、米国内の支持層を意識し「アメリカン・ファースト」を掲げTPPを離脱したことで、経済面でより有効に競争する機会を放棄してしまった。バイデン政権はASEAN諸国との関係を修復しようとしているが、しかし果たして、有効な経済戦略を打ち出すことができるか? バイデン政権はTPPに復帰する戦略を描くことができない。実際に「TPPへ復帰しない」と表明している。TPPに復帰すれば各国から安い製品、部品、原材料が米国内に流入し、バイデンの支持基盤である中小企業経営者、労働者などはより没落し支持を失う。それゆえ、できないのである。この点はトランプも同じだった。米国国内政治の事情によって、できないのである。
現時点では、中国がTPPへの加盟申請するに至っている。
何しろ、TPPはそもそも中国を包囲するための経済戦略として構想されたものなのに、身勝手にも米国が勝手に抜けたのだ。
米国の下僕である日本政府や豪政府は、本心では中国の加盟を拒否したいが、拒否する理由を見いだせない。
対中国の経済戦略を描くことができないのは、バイデンの意思や希望の問題ではない、米国経済の実力にかかわっている。格差拡大し貧困層が多数生まれ荒廃した米国社会の実情にかかわっている。
2)軍事だけ先行する米の同盟国政策
<アンソニー・ブリンケン米国務長官とロイド・オースチン米国防長官>
オースティン国防長官はシンガポールを訪れた時の演説で、東南アジアに対し米国は「米国か中国のどちらかを選ぶよう求めているわけではない」と語った。
この発言は、シンガポールのリー・シェンロン首相が米国に対し「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」と強い口調で言ったことを気遣った発言なのだ。
ただ、米国政府の「表面だけの、言葉だけの対応」である。
オースティンのこの発言は、その場限りの、シンガポールのリー・シェンロン首相の顔色を立てるためのものにすぎない。言葉の意味通りなら、並行してすすめている軍事同盟Quadは即時に解散解体しなければならない。米製原子力潜水艦配備を可能とする米英豪のAUKUSを設立してはならない。
しかし、オースティンは、アジア版NATOを構想するQuadに、シンガポール訪問時の演説でも触れた。ASEAN諸国にもQuadに加わってほしいと発言した。
中国の「一帯一路」構想、RCEP構想、あるいはASEANと経済一体化を進める戦略、これに対抗する経済戦略を、米国政府は持っていない。後退した帝国・米国は、すでにインド太平洋に中国の「一帯一路」構想に対抗する経済戦略を提示する力量はないのだ。したがって、シンガポールやASEAN諸国に対し、このように下手に出るしかないのである。こういうところに、インド太平洋における、そして現代世界におけるアメリカの力量の後退が現れている。
ブリンケン国務長官、オースティン国防長官が相次いで東南アジア諸国を訪れたが、重要なことは「政治的な協調だけが、米国とASEANとの修復ではない」ということだ。インド太平洋に対する経済戦略なしに、インドやASEAN諸国、アジア太平洋諸国との米国の希望する同盟、すなわち中国を敵視し包囲し対抗する米国の戦略を、打ち立てることなど不可能なのである。
3)「航行の自由作戦」はASEAN諸国に評判が悪い
ここ数年、米国政府は南シナ海において軍事的な「航行の自由作戦」に重点を置いてきたが、ASEAN諸国の支持は得られていない。得られていないどころか反発を食らっている。
人口6億6千万人を抱え高い成長余力を持つASEANは、一方的な米国の都合で「中国を包囲する」という軍事同盟Quadに加わるつもりはない。ASEAN諸国は米国の「航行の自由作戦」に拒否反応を示している。誰しも経済成長している現状を壊したくはない、ASEANは成長する現状の上に、さらに成長する未来を構想しており、中国との軍事的な対立、紛争を望んではいない。
紛争や対立、戦争を持ち込むのは米国であって、中国ではない。バイデン政権の推し進める米国の戦略は、ASEANの描く未来像と合致しない。米国戦略の成功は、ASEAN諸国の未来像と合致する構想を提起できるか否か、にかかっている。ASEANは米軍が南シナ海をウロチョロ動き回ることに反対しており、これに加わるつもりはないのだ。
東南アジアの大半の国にとって、中国から不必要に反感を買うのを望んでいない、避けられないパートナーだからである。
たしかに、この地域には領土問題が存在するが、ASEANは、アメリカの助けを借りて軍事的な力を背景に領土問題を解決しようとは考えていない。北京と対決しようと望んではいない。そんなことをすれば、解決どころかより問題がこじれ、米中の「力」による国際関係に取って代わり、ASEANやアジア太平洋諸国にとって、自立した外交、自立した経済運営が不可能になるのである。米による過去の東南アジア支配から、身に染みて理解している。
領土問題が未解決のままであり、東南アジア諸国にとって解決する必要があるが、それを実現するための望ましいやり方は、中国との直接の二国間交渉であって、米国との軍事同盟に入ることではないし、米国の軍事行動に加わることではない。そのことは、フィリピンのドゥテルテ大統領が、実例を示して見せた。スプラトリーの所属について前アキノ政権がハーグ国際裁判所へ申し立てたが、ドゥテルテ大統領は「申し立てに中国政府が加わっていないから手続きが間違っている」と公言し、その判決は「紙っ切れ」にすぎない、「(中国との)二国間交渉で解決に臨む」と何度も表明している。
ブリンケンやオースティンがなだめようとも、下手(しもて)に出て協調を演出しようとも、ASEAN諸国は、対中国強硬戦略や軍事的な対立の拡大が米国政府の本心であることは理解しており、米戦略に同調しないのである。あくまで米国が対中国強硬戦略に固執するなら、ASEANは離反するしかない。リー・シェンロン首相が、米国に対し「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」といった意味は、「迫れば離反するぞ!」と言っているに他ならない。
アジア太平洋諸国もASEANの対応を注視しているし。変化した現代の国際関係を理解している。
米国が「一帯一路」構想に代わる壮大な経済戦略を提示できないのなら、米国に協調する意味はほとんどないのだ。
米国がインド太平洋に対抗する経済戦略を打ち出すことができるかが、焦点となるが、今の米国にはできそうにない。
これまで米国は、歴史的には経済的な連携を拡大する戦略をとってこなかったし成功させてこなかった。南米でも、中東でも、クーデターを起こし親米独裁政権をつくり、掠奪的な新植民地主義を実施してきた。最近は傭兵を送り、社会を混乱させて、混乱に乗じて強大な米軍事力を背景に支配する手法にをとってきた。イラクでもアフガンでもシリアでも失敗している。アフガンからの米軍の不名誉な撤退は、米国支配の失敗をよく表現している。米国支配と米軍がつくりあげたのは荒廃した社会だ。
いずれにしても米国はこれまでWin-winの関係、ともに経済発展する関係をつくり出すことに成功してはいない。
ASEAN諸国は中国との経済的な連携関係を深めることで高成長を続けてきている。米国の軍事同盟に入れば、米国との連携を深めれば、現在のような高成長を維持できる保証はない。むしろ、過去支配されてきたような主従関係、新植民地主義による主従関係が復活することを思い起こす。
だから、Quadは米、日、豪、印の4カ国にとどまっており、ASEAN諸国や韓国、その他の国々はQuadに加わらないのである。
米国はこれまでの中東に重点を置いた軍事戦略から、勃興する大国である中国を意識したインド太平洋戦略、対中国包囲網へと重点を移している。
しかし、米国のインド太平洋戦略は弱点を抱えている。最大の弱点は、明確な経済戦略がないことだ。支配する戦略は持っているが、インド太平洋諸国と共存共栄する戦略を持っていない。
インド太平洋の国々にとって中国の魅力は、共産党が指導する国家資本主義の政治体制ではない。あくまで「経済の潜在力の強さ」だ。ASEANはすでに中国経済との結びつきのなかで順調な経済発展を遂げ続けている。2021年現在の米国には、中国の経済構想に代わる構想を提起する力量はすでに失われている。
米国が中国に対する批判を、「人権批判」などの政治面や軍事力の脅威だけに集中するならば、しかも「人権批判」の多くは米国政府関係者とその支配下にあるメディアによってつくられた「フェイクニュース」であるが、米国は対抗手段がいかに少ないかを露呈することになる。実際のところ、現在は「半ば露呈している」事態となっている。
「フェイクニュース」を喜んでとりあげているのは、日本政府と豪州政府くらいだ。
ASEAN諸国は、すでに米国の外交戦略の「底」、米戦略の「貧しさ」、「身勝手さ」を見破っている。その結果、「米国戦略に全面的に賛同するわけにはいかない」という態度を示しているのだ。
トランプ前大統領が、米国内の支持層を意識し「アメリカン・ファースト」を掲げTPPを離脱したことで、経済面でより有効に競争する機会を放棄してしまった。バイデン政権はASEAN諸国との関係を修復しようとしているが、しかし果たして、有効な経済戦略を打ち出すことができるか? バイデン政権はTPPに復帰する戦略を描くことができない。実際に「TPPへ復帰しない」と表明している。TPPに復帰すれば各国から安い製品、部品、原材料が米国内に流入し、バイデンの支持基盤である中小企業経営者、労働者などはより没落し支持を失う。それゆえ、できないのである。この点はトランプも同じだった。米国国内政治の事情によって、できないのである。
現時点では、中国がTPPへの加盟申請するに至っている。
何しろ、TPPはそもそも中国を包囲するための経済戦略として構想されたものなのに、身勝手にも米国が勝手に抜けたのだ。
米国の下僕である日本政府や豪政府は、本心では中国の加盟を拒否したいが、拒否する理由を見いだせない。
対中国の経済戦略を描くことができないのは、バイデンの意思や希望の問題ではない、米国経済の実力にかかわっている。格差拡大し貧困層が多数生まれ荒廃した米国社会の実情にかかわっている。
2)軍事だけ先行する米の同盟国政策
<アンソニー・ブリンケン米国務長官とロイド・オースチン米国防長官>
オースティン国防長官はシンガポールを訪れた時の演説で、東南アジアに対し米国は「米国か中国のどちらかを選ぶよう求めているわけではない」と語った。
この発言は、シンガポールのリー・シェンロン首相が米国に対し「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」と強い口調で言ったことを気遣った発言なのだ。
ただ、米国政府の「表面だけの、言葉だけの対応」である。
オースティンのこの発言は、その場限りの、シンガポールのリー・シェンロン首相の顔色を立てるためのものにすぎない。言葉の意味通りなら、並行してすすめている軍事同盟Quadは即時に解散解体しなければならない。米製原子力潜水艦配備を可能とする米英豪のAUKUSを設立してはならない。
しかし、オースティンは、アジア版NATOを構想するQuadに、シンガポール訪問時の演説でも触れた。ASEAN諸国にもQuadに加わってほしいと発言した。
中国の「一帯一路」構想、RCEP構想、あるいはASEANと経済一体化を進める戦略、これに対抗する経済戦略を、米国政府は持っていない。後退した帝国・米国は、すでにインド太平洋に中国の「一帯一路」構想に対抗する経済戦略を提示する力量はないのだ。したがって、シンガポールやASEAN諸国に対し、このように下手に出るしかないのである。こういうところに、インド太平洋における、そして現代世界におけるアメリカの力量の後退が現れている。
ブリンケン国務長官、オースティン国防長官が相次いで東南アジア諸国を訪れたが、重要なことは「政治的な協調だけが、米国とASEANとの修復ではない」ということだ。インド太平洋に対する経済戦略なしに、インドやASEAN諸国、アジア太平洋諸国との米国の希望する同盟、すなわち中国を敵視し包囲し対抗する米国の戦略を、打ち立てることなど不可能なのである。
3)「航行の自由作戦」はASEAN諸国に評判が悪い
ここ数年、米国政府は南シナ海において軍事的な「航行の自由作戦」に重点を置いてきたが、ASEAN諸国の支持は得られていない。得られていないどころか反発を食らっている。
人口6億6千万人を抱え高い成長余力を持つASEANは、一方的な米国の都合で「中国を包囲する」という軍事同盟Quadに加わるつもりはない。ASEAN諸国は米国の「航行の自由作戦」に拒否反応を示している。誰しも経済成長している現状を壊したくはない、ASEANは成長する現状の上に、さらに成長する未来を構想しており、中国との軍事的な対立、紛争を望んではいない。
紛争や対立、戦争を持ち込むのは米国であって、中国ではない。バイデン政権の推し進める米国の戦略は、ASEANの描く未来像と合致しない。米国戦略の成功は、ASEAN諸国の未来像と合致する構想を提起できるか否か、にかかっている。ASEANは米軍が南シナ海をウロチョロ動き回ることに反対しており、これに加わるつもりはないのだ。
東南アジアの大半の国にとって、中国から不必要に反感を買うのを望んでいない、避けられないパートナーだからである。
たしかに、この地域には領土問題が存在するが、ASEANは、アメリカの助けを借りて軍事的な力を背景に領土問題を解決しようとは考えていない。北京と対決しようと望んではいない。そんなことをすれば、解決どころかより問題がこじれ、米中の「力」による国際関係に取って代わり、ASEANやアジア太平洋諸国にとって、自立した外交、自立した経済運営が不可能になるのである。米による過去の東南アジア支配から、身に染みて理解している。
領土問題が未解決のままであり、東南アジア諸国にとって解決する必要があるが、それを実現するための望ましいやり方は、中国との直接の二国間交渉であって、米国との軍事同盟に入ることではないし、米国の軍事行動に加わることではない。そのことは、フィリピンのドゥテルテ大統領が、実例を示して見せた。スプラトリーの所属について前アキノ政権がハーグ国際裁判所へ申し立てたが、ドゥテルテ大統領は「申し立てに中国政府が加わっていないから手続きが間違っている」と公言し、その判決は「紙っ切れ」にすぎない、「(中国との)二国間交渉で解決に臨む」と何度も表明している。
ブリンケンやオースティンがなだめようとも、下手(しもて)に出て協調を演出しようとも、ASEAN諸国は、対中国強硬戦略や軍事的な対立の拡大が米国政府の本心であることは理解しており、米戦略に同調しないのである。あくまで米国が対中国強硬戦略に固執するなら、ASEANは離反するしかない。リー・シェンロン首相が、米国に対し「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」といった意味は、「迫れば離反するぞ!」と言っているに他ならない。
アジア太平洋諸国もASEANの対応を注視しているし。変化した現代の国際関係を理解している。
米国が「一帯一路」構想に代わる壮大な経済戦略を提示できないのなら、米国に協調する意味はほとんどないのだ。
米国がインド太平洋に対抗する経済戦略を打ち出すことができるかが、焦点となるが、今の米国にはできそうにない。
これまで米国は、歴史的には経済的な連携を拡大する戦略をとってこなかったし成功させてこなかった。南米でも、中東でも、クーデターを起こし親米独裁政権をつくり、掠奪的な新植民地主義を実施してきた。最近は傭兵を送り、社会を混乱させて、混乱に乗じて強大な米軍事力を背景に支配する手法にをとってきた。イラクでもアフガンでもシリアでも失敗している。アフガンからの米軍の不名誉な撤退は、米国支配の失敗をよく表現している。米国支配と米軍がつくりあげたのは荒廃した社会だ。
いずれにしても米国はこれまでWin-winの関係、ともに経済発展する関係をつくり出すことに成功してはいない。
ASEAN諸国は中国との経済的な連携関係を深めることで高成長を続けてきている。米国の軍事同盟に入れば、米国との連携を深めれば、現在のような高成長を維持できる保証はない。むしろ、過去支配されてきたような主従関係、新植民地主義による主従関係が復活することを思い起こす。
だから、Quadは米、日、豪、印の4カ国にとどまっており、ASEAN諸国や韓国、その他の国々はQuadに加わらないのである。
12月10日、英国高等法院、アサンジの米国移送許可の判決 [世界の動き]
12月10日、英国高等法院、アサンジの米国移送許可の判決
<英ロンドンの裁判所前で、ジュリアン・アサンジ被告の釈放を求める支持者(2021年12月10日撮影)>
1)アサンジ、米への移送許可
12月11日の日本経済新聞(ロンドン=佐竹実記者)によれば、英高等法院(高裁の相当)は、12月10日、英国で収監されているジュリアン・アサンジ氏の米国への移送を認める判断を示した。
21年1月、ロンドンの地方裁判所が「移送を認めない」と判決し、米側が上訴していた。アサンジ被告側はなお確定していないと主張している。
アサンジ被告は、2010年ウィキリースで米国の機密文書を大量に公開した。性犯罪容疑により英国で逮捕された後、保釈中の2012年に在英エクアドル大使館に逃げ込み、約7年間保護された。そののち2019年、英警察の逮捕され、有罪判決を受けた。(以上、日本経済新聞記事)
2)何が起きているのか?
米防諜法のもと、ジャーナリズム活動をした罪で、ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジは起訴された。英国下級裁判所は身柄引き渡し要求拒絶の判決を出したが、米政府は英高等法院(高裁の相当)へ上訴し、今回「アサンジ氏の米国への移送を認める判断」を出させたのである。
このあと「身柄引き渡し」の承認は、イギリスのプリティ・パテル内務大臣が行うが、米政府に対する英政府の長年の「卑屈さ」を考えるならば、安易に承認するのは確実だと思われる。
英国高等法院の判決に対して、欧米中心に非難が沸き起こっている。しかし、アサンジ移送を押しとどめるには至っていない。
米政府、支配層にとって、情報操作は新しい現代的な支配のやり方だ。決して真実を多くの民衆に知られないこと、情報を国家システムを通じて管理・統制すること、フェイクニュースの流布は、彼らの「現代的な新しい支配」にとって必要なのだ。これを「民主主義」「人権外交」と自称している。
現代の支配者は、支配のやり方の「真実」を告発する者は決して許さないという姿勢をみせているのだ。アサンジの行ったまともなジャーナリズム活動を許せば、支配が崩れる、そのことを十分に理解しているからこその、厳しい対応なのである。現代の支配者による、ジャーナリズムへの脅しであり、支配が進行しているのである。
3)アサンジの罪とは何か?
アサンジの「罪」とは何か? あらためて確認しておくことが必要だ。
何が、誰にとって都合が悪いのか、あらためて確認しておかなくてはならない。そうすれば、今回の判決の重要性がより一層明確に判断できるだろう。
アサンジとウィキリースの罪は下記の通りである。
① アサンジは、イラク戦争で15,000人以上のイラク民間人の報告されていない死を暴露した。
② アサンジは、キューバにあるグアンタナモ米刑務所での約800人の男性に対する(それは14歳の少年から89歳の老人であるが)拷問や虐待を暴露した。
③ 2009年、ヒラリー・クリントンが米外交官に、潘基文国連事務総長や中国、フランス、ロシアや英国の国連代表を秘密裏に捜査を指示し実行したことを暴露した、
④ そのやり口は、DNA、虹彩スキャン、指紋などから個人パスワードを入手するよう命じたというのだ。ただしこれは、
⑤ 2003年、米軍が率いるイラク侵略前の数週間に、コフィ・アナン国連事務総長の盗聴を含む非合法監視の長いパターンのスパイ行為から始まっており、その継続であることも暴露した。同盟国を含む各国首脳に対し長年にわたりスパイ行為をしてきたのだ。そして、今もやめていない。
この時、日本の首相、閣僚も盗聴の対象であることが暴露されたが、日本政府は米政府に抗議さえしなかった。
⑥ バラク・オバマ大統領、ヒラリー・クリントン米国務長官及びCIAが、ホンジュラスで2009年6月に軍事クーデターを計画し実行したことを暴露した。その結果、不正な殺人軍事政権に変わって民主的に選出されたホンジュラス大統領マニュエル・セラヤは追放された。
⑦ ジョージ・W・ブッシュ大統領、バラク・オバマ大統領とデイビッド・ぺトレイアス米大将が、イラクでニュルンベルグ裁判後の国際法のもと「侵略戦争と定義される戦争」を行い、イエメンで何百人もの市民に対する標的暗殺実行を認可したことを暴露した。そこには米市民も一部含まれていた。
⑧ 米軍が密かにイエメンに対する無人飛行機攻撃を行い、ミサイル、爆弾で多数の一般人を殺したことを暴露した。
⑨ ゴールドマン・サックス社が、ヒラリー・クリントン国務長官の講演に対し、賄賂としか思われないほど大金の657,000ドル(約7,000万円)を支払ったことを暴露した。ヒラリー・クリントンは公的な金融規制と改革を約束しておりながら、企業の命令を実行させると企業幹部に保証したことも暴露した。この暴露は、ヒラリー・クリントンが大統領選挙で敗れた要因の一つになった。
⑩ 一部の英労働党メンバーによる労働党党首ジェレミー・コービンの信用を失墜させ破壊する国内キャンペーンの計画と実行を暴露した。
⑪ CIAや国家安全保障局に使われるハッキング・ツールが、世界中の市民のテレビやコンピュータ、スマートフォンのウィルス対策ソフトをすり抜け、政府が全面的な監視を可能にしていること、米政府は暗号化されたアプリケーションからさえ、人々の会話や画像や個人メールを記録し、保存することを可能にしている実態を暴露した。
CIAや他の米諜報機関が、自動車やスマートTV、Webブラウザや、大半のスマートフォンのオペレーティング・システムやマイクロソフトWindows、macOSやLinuxのようなオペレーティング・システムを標的に定めて侵入できるVault 7を使用し、情報を得ていることを暴露した。ハッキングツールそのもののを暴露したことで、米当局は困り、したがって標的にされた。(以上、クリス・ヘッジズ「アサンジ裁判は現代の報道の自由にとって天王山の戦い」2021年10月29日RT、「マスコミに載らない海外記事21年11月8日」から引用)
米当局だけではない。この諜報活動は、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米・英・カナダ・豪・ニュージーランド政府の諜報機関とそれに協力する巨大IT企業によって、共同して行われ、情報は共有され監理統制されている。
アサンジは、世界の市民にとって、きわめて貴重な仕事をしたのである。私たちはアサンジとウィキリースの活動から大きな恩恵を受けている。
<2020年1月、英国ベルマーシュ刑務所に囚われのジュリアン・アサンジ被告 REUTERS>
4)誰が、何の目的でアサンジを陥れているか?
アサンジとウィキリースの活動は、現代の世界の支配者にとってきわめて都合が悪いのだ。情報を統制し支配しようとする者にとって、危険であり排除しなければならない。そして、アサンジの排除、抹殺がいま進行している。
米国政府による国家を利用した監視、圧制的権力行使こそ、現代における新しい世界支配のやり方である。「法による支配」を支配者にとって都合のいい道具に変質させ、今回のようにアサンジを有罪にするなど意味を「逆転」させている。連中は法律を不正の道具に変える。人々が知るべき報道、権力の犯罪、彼らの罪を覆い隠す。米支配者は、法廷と裁判の作法を自分たち権力者の犯罪を覆い隠すために使う、フェイクニュースを溢れさせ混乱させる。
こういった支配者の現代的な犯罪とその手法を、世界の人々に暴露するアサンジのような人物は、私たちにとってとても貴重だが、彼ら支配者にとってきわめて危険なのである。
支配者によるアサンジとウィキリークスに対する長年の非難キャンペーンは、1%の支配者が監視国家を利用し世論を操って、これまで歴史的につくり上げてきた「法による統治」を崩壊させたことを暴露した。現代の支配者は、自身を「民主主義」「民主派」の擁護者を装い、「人権外交」を盾に、他方で傭兵部隊を送り、軍事的に破壊し荒廃した国や社会をつくりだした。監視国家の支配を通じてグローバル企業の命令を実行する新たな全体主義の実行者なのだ。
オーストラリア国民であるアサンジを刑務所に入れる法的根拠はない。米防諜法の下で、オーストラリア国民を裁く法的根拠はない。にもかかわらず、米国は強引に英国政府を通じて、アサンジを陥れようとしているのである。
CIAは、各国大使館への安全提供を請け負うスペイン企業UCグローバルを通して、エクアドル大使館でアサンジを秘密裏に捜査した。このスパイ行為には、アサンジと弁護士間の秘密会話記録を含む。この事実は、それだけで裁判を無効にするはずだが、アサンジにおいてはそのようにならない。
帝国主義の設計者、戦争のご主人、大企業支配下にある立法、司法、行政府と、連中の従順なメディアは、これまで歴史的につくり上げてきた「民主主義」社会を、上記の通りの新たなやり方で変質させ破壊しつつある。既存メディアはこれに加担している。あるいは、黙って見過ごしているのである。それらはすべて、言語道断な犯罪行為である。
5)アサンジの米搬送は、ジャーナリズムへの殺人宣告だ
アサンジとウィキリースの活動は、米国傍聴法に対する違反だと、米政府は主張している。
この判決の一方で、アントニー・ブリンケン米国務長官は最近、「報道の自由」について、下記のように発言した。
「報道の自由は、情報を社会に伝え、政府に責任を負わせ、それがなければ語られない物語を語る上で不可欠な役割を果たしている。アメリカは世界中のジャーナリストの勇敢で必要な仕事を擁護し続ける。」#SummitForDemocracy pic.twitter.com/ilitbdzSd1
アントニー・ブリンケン国務長官 (@SecBlinken) 2021年12月8日
ブリンケンのこの言葉は、ワシントンでの「民主主義サミット」の最終日である12月8日の発言であるが、文字通り「歯の浮くようなセリフ」であり、「大げさな芝居」だ。そもそもこれは「ウソ」だ。ブリンケンら米政府の主張する「民主主義」が、1%の支配者の利益を追求する意味に都合よく捻じ曲げられていることの「証し」でもある。この臭い「芝居」を見破らなければならないし、告発しなければならない。
もしウィキリークス創設者が英国から米国に引き渡され、機密資料を公にした容疑で有罪と裁決されれば、それは実質的にジャーナリズムによる国家安全保障報道を終わらせる判例になる。ジャーナリズムそのものへの死刑宣告に他ならない。
もしアサンジが米政府に引き渡され、機密資料を公にしたかどで有罪と裁決されれば、それは、事実上、機密文書を所有するどんな記者も、機密情報を漏らすどんな内部告発者も告訴するために政府が防諜法を使うことを可能にし、国家安全保障に関する報道を終わらせることになるだろう。
日本のメディアは、アサンジ事件と今回の英高等法院判決を報道しない、触れもしない、批判的精神を失っている。彼らがすでにジャーナリズムとしての資格を失っていることの証明である。
今回の英高等法院の判決は、上述のように、極めて重大な意味を持っている。
<英ロンドンの裁判所前で、ジュリアン・アサンジ被告の釈放を求める支持者(2021年12月10日撮影)>
1)アサンジ、米への移送許可
12月11日の日本経済新聞(ロンドン=佐竹実記者)によれば、英高等法院(高裁の相当)は、12月10日、英国で収監されているジュリアン・アサンジ氏の米国への移送を認める判断を示した。
21年1月、ロンドンの地方裁判所が「移送を認めない」と判決し、米側が上訴していた。アサンジ被告側はなお確定していないと主張している。
アサンジ被告は、2010年ウィキリースで米国の機密文書を大量に公開した。性犯罪容疑により英国で逮捕された後、保釈中の2012年に在英エクアドル大使館に逃げ込み、約7年間保護された。そののち2019年、英警察の逮捕され、有罪判決を受けた。(以上、日本経済新聞記事)
2)何が起きているのか?
米防諜法のもと、ジャーナリズム活動をした罪で、ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジは起訴された。英国下級裁判所は身柄引き渡し要求拒絶の判決を出したが、米政府は英高等法院(高裁の相当)へ上訴し、今回「アサンジ氏の米国への移送を認める判断」を出させたのである。
このあと「身柄引き渡し」の承認は、イギリスのプリティ・パテル内務大臣が行うが、米政府に対する英政府の長年の「卑屈さ」を考えるならば、安易に承認するのは確実だと思われる。
英国高等法院の判決に対して、欧米中心に非難が沸き起こっている。しかし、アサンジ移送を押しとどめるには至っていない。
米政府、支配層にとって、情報操作は新しい現代的な支配のやり方だ。決して真実を多くの民衆に知られないこと、情報を国家システムを通じて管理・統制すること、フェイクニュースの流布は、彼らの「現代的な新しい支配」にとって必要なのだ。これを「民主主義」「人権外交」と自称している。
現代の支配者は、支配のやり方の「真実」を告発する者は決して許さないという姿勢をみせているのだ。アサンジの行ったまともなジャーナリズム活動を許せば、支配が崩れる、そのことを十分に理解しているからこその、厳しい対応なのである。現代の支配者による、ジャーナリズムへの脅しであり、支配が進行しているのである。
3)アサンジの罪とは何か?
アサンジの「罪」とは何か? あらためて確認しておくことが必要だ。
何が、誰にとって都合が悪いのか、あらためて確認しておかなくてはならない。そうすれば、今回の判決の重要性がより一層明確に判断できるだろう。
アサンジとウィキリースの罪は下記の通りである。
① アサンジは、イラク戦争で15,000人以上のイラク民間人の報告されていない死を暴露した。
② アサンジは、キューバにあるグアンタナモ米刑務所での約800人の男性に対する(それは14歳の少年から89歳の老人であるが)拷問や虐待を暴露した。
③ 2009年、ヒラリー・クリントンが米外交官に、潘基文国連事務総長や中国、フランス、ロシアや英国の国連代表を秘密裏に捜査を指示し実行したことを暴露した、
④ そのやり口は、DNA、虹彩スキャン、指紋などから個人パスワードを入手するよう命じたというのだ。ただしこれは、
⑤ 2003年、米軍が率いるイラク侵略前の数週間に、コフィ・アナン国連事務総長の盗聴を含む非合法監視の長いパターンのスパイ行為から始まっており、その継続であることも暴露した。同盟国を含む各国首脳に対し長年にわたりスパイ行為をしてきたのだ。そして、今もやめていない。
この時、日本の首相、閣僚も盗聴の対象であることが暴露されたが、日本政府は米政府に抗議さえしなかった。
⑥ バラク・オバマ大統領、ヒラリー・クリントン米国務長官及びCIAが、ホンジュラスで2009年6月に軍事クーデターを計画し実行したことを暴露した。その結果、不正な殺人軍事政権に変わって民主的に選出されたホンジュラス大統領マニュエル・セラヤは追放された。
⑦ ジョージ・W・ブッシュ大統領、バラク・オバマ大統領とデイビッド・ぺトレイアス米大将が、イラクでニュルンベルグ裁判後の国際法のもと「侵略戦争と定義される戦争」を行い、イエメンで何百人もの市民に対する標的暗殺実行を認可したことを暴露した。そこには米市民も一部含まれていた。
⑧ 米軍が密かにイエメンに対する無人飛行機攻撃を行い、ミサイル、爆弾で多数の一般人を殺したことを暴露した。
⑨ ゴールドマン・サックス社が、ヒラリー・クリントン国務長官の講演に対し、賄賂としか思われないほど大金の657,000ドル(約7,000万円)を支払ったことを暴露した。ヒラリー・クリントンは公的な金融規制と改革を約束しておりながら、企業の命令を実行させると企業幹部に保証したことも暴露した。この暴露は、ヒラリー・クリントンが大統領選挙で敗れた要因の一つになった。
⑩ 一部の英労働党メンバーによる労働党党首ジェレミー・コービンの信用を失墜させ破壊する国内キャンペーンの計画と実行を暴露した。
⑪ CIAや国家安全保障局に使われるハッキング・ツールが、世界中の市民のテレビやコンピュータ、スマートフォンのウィルス対策ソフトをすり抜け、政府が全面的な監視を可能にしていること、米政府は暗号化されたアプリケーションからさえ、人々の会話や画像や個人メールを記録し、保存することを可能にしている実態を暴露した。
CIAや他の米諜報機関が、自動車やスマートTV、Webブラウザや、大半のスマートフォンのオペレーティング・システムやマイクロソフトWindows、macOSやLinuxのようなオペレーティング・システムを標的に定めて侵入できるVault 7を使用し、情報を得ていることを暴露した。ハッキングツールそのもののを暴露したことで、米当局は困り、したがって標的にされた。(以上、クリス・ヘッジズ「アサンジ裁判は現代の報道の自由にとって天王山の戦い」2021年10月29日RT、「マスコミに載らない海外記事21年11月8日」から引用)
米当局だけではない。この諜報活動は、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米・英・カナダ・豪・ニュージーランド政府の諜報機関とそれに協力する巨大IT企業によって、共同して行われ、情報は共有され監理統制されている。
アサンジは、世界の市民にとって、きわめて貴重な仕事をしたのである。私たちはアサンジとウィキリースの活動から大きな恩恵を受けている。
<2020年1月、英国ベルマーシュ刑務所に囚われのジュリアン・アサンジ被告 REUTERS>
4)誰が、何の目的でアサンジを陥れているか?
アサンジとウィキリースの活動は、現代の世界の支配者にとってきわめて都合が悪いのだ。情報を統制し支配しようとする者にとって、危険であり排除しなければならない。そして、アサンジの排除、抹殺がいま進行している。
米国政府による国家を利用した監視、圧制的権力行使こそ、現代における新しい世界支配のやり方である。「法による支配」を支配者にとって都合のいい道具に変質させ、今回のようにアサンジを有罪にするなど意味を「逆転」させている。連中は法律を不正の道具に変える。人々が知るべき報道、権力の犯罪、彼らの罪を覆い隠す。米支配者は、法廷と裁判の作法を自分たち権力者の犯罪を覆い隠すために使う、フェイクニュースを溢れさせ混乱させる。
こういった支配者の現代的な犯罪とその手法を、世界の人々に暴露するアサンジのような人物は、私たちにとってとても貴重だが、彼ら支配者にとってきわめて危険なのである。
支配者によるアサンジとウィキリークスに対する長年の非難キャンペーンは、1%の支配者が監視国家を利用し世論を操って、これまで歴史的につくり上げてきた「法による統治」を崩壊させたことを暴露した。現代の支配者は、自身を「民主主義」「民主派」の擁護者を装い、「人権外交」を盾に、他方で傭兵部隊を送り、軍事的に破壊し荒廃した国や社会をつくりだした。監視国家の支配を通じてグローバル企業の命令を実行する新たな全体主義の実行者なのだ。
オーストラリア国民であるアサンジを刑務所に入れる法的根拠はない。米防諜法の下で、オーストラリア国民を裁く法的根拠はない。にもかかわらず、米国は強引に英国政府を通じて、アサンジを陥れようとしているのである。
CIAは、各国大使館への安全提供を請け負うスペイン企業UCグローバルを通して、エクアドル大使館でアサンジを秘密裏に捜査した。このスパイ行為には、アサンジと弁護士間の秘密会話記録を含む。この事実は、それだけで裁判を無効にするはずだが、アサンジにおいてはそのようにならない。
帝国主義の設計者、戦争のご主人、大企業支配下にある立法、司法、行政府と、連中の従順なメディアは、これまで歴史的につくり上げてきた「民主主義」社会を、上記の通りの新たなやり方で変質させ破壊しつつある。既存メディアはこれに加担している。あるいは、黙って見過ごしているのである。それらはすべて、言語道断な犯罪行為である。
5)アサンジの米搬送は、ジャーナリズムへの殺人宣告だ
アサンジとウィキリースの活動は、米国傍聴法に対する違反だと、米政府は主張している。
この判決の一方で、アントニー・ブリンケン米国務長官は最近、「報道の自由」について、下記のように発言した。
「報道の自由は、情報を社会に伝え、政府に責任を負わせ、それがなければ語られない物語を語る上で不可欠な役割を果たしている。アメリカは世界中のジャーナリストの勇敢で必要な仕事を擁護し続ける。」#SummitForDemocracy pic.twitter.com/ilitbdzSd1
アントニー・ブリンケン国務長官 (@SecBlinken) 2021年12月8日
ブリンケンのこの言葉は、ワシントンでの「民主主義サミット」の最終日である12月8日の発言であるが、文字通り「歯の浮くようなセリフ」であり、「大げさな芝居」だ。そもそもこれは「ウソ」だ。ブリンケンら米政府の主張する「民主主義」が、1%の支配者の利益を追求する意味に都合よく捻じ曲げられていることの「証し」でもある。この臭い「芝居」を見破らなければならないし、告発しなければならない。
もしウィキリークス創設者が英国から米国に引き渡され、機密資料を公にした容疑で有罪と裁決されれば、それは実質的にジャーナリズムによる国家安全保障報道を終わらせる判例になる。ジャーナリズムそのものへの死刑宣告に他ならない。
もしアサンジが米政府に引き渡され、機密資料を公にしたかどで有罪と裁決されれば、それは、事実上、機密文書を所有するどんな記者も、機密情報を漏らすどんな内部告発者も告訴するために政府が防諜法を使うことを可能にし、国家安全保障に関する報道を終わらせることになるだろう。
日本のメディアは、アサンジ事件と今回の英高等法院判決を報道しない、触れもしない、批判的精神を失っている。彼らがすでにジャーナリズムとしての資格を失っていることの証明である。
今回の英高等法院の判決は、上述のように、極めて重大な意味を持っている。
アフガン政府崩壊、タリバン政権成立か? [世界の動き]
アフガン政府崩壊、タリバン政権成立か?
<8月15日、カブールの大統領府を掌握したタリバン戦闘員>
1)タリバンが全土平定、首都カブールへ無血入城
タリバンによるアフガン全土制圧は、予想以上の早さですすんだ。8月6日にタリバンが攻勢に出てからわずか10日で、カブールに15日に無血入城、全土を平定した。アフガン政府軍との戦闘はほとんどなく、地方の知事たちはタリバンに抵抗しなかった。アフガン国民の多くは、むしろ平和的に、タリバンを受け入れた。
現時点でタリバンは、外国人の脱出を認め、輸送機が離着陸することは許し、対米協力者だったアフガン人が空港に殺到するのもほとんど見逃している。タリバンは元政府軍人や対米協力者に対する「恩赦」を宣言している。現状では国内の統治にある程度の自信を持っているのではないか。(https://diamond.jp/articles/-/280338 2021年8月26日 タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結 田岡俊次)
米国が20年かけて育て上げたアフガン政府軍は、戦闘をすることなしに武器を捨て、我先に逃亡した。ガニ大統領は、政権を放り出して外国へ逃亡した。
アフガニスタン政府は、多くのアフガン国民の支持を得ていなかったことが、あらためて判明した。欧米諸諸国が「民主主義政権」として成立させたカルザイ、ガニ政権は、けっして「民主主義義政権」ではなかったし、国民の信頼を得ていなかった。それと同時に米政府、米軍が、アフガン国民からまったく支持されていないことも、あらためて判明した。米国と一緒になって軍を派遣した欧州各国政府、日本政府なども、同じく支持されてはいない。
アフガン国民の多くは、タリバンによる戦争の終結、平和を強く望んだということだろう。欧米政府、軍が、20年かけても「民主主義政権」をつくりあげることはできなかったし、平和をもたらすこともできなかった。その意志も能力もなかったことが示された。アフガン国民の多くは、自身の政府の樹立することで、外国の支配を拒否し、独立を求めたともいえる。(www.youtube.com/watch?v=bcT5Bwz5oWo (4) アフガン全土陥落、米軍撤退~911から20年、日本もかかわった報復戦争【半田滋の眼 NO.39】20210818 - YouTube/)
2)タリバン政権が成立した理由
かつて、96年から5年間、タリバン政権があった。ソ連が撤退した後、ナジブラ政権が続いていたが、北部同盟やマスード集団などの軍閥がナジブラ政権を倒し、乱暴狼藉をはたらく暴力支配の政府に代わった。無秩序の部族兵は各地で物資懲発や略奪を続け、国民は悲惨な状態に置かれた。軍閥の各集団は、共産党政権を倒すために米国やサウジから兵器や戦闘指導員等様々な支援を受けてきた。ソ連軍と戦ったアフガンゲリラは8派に分かれて勢力争いの内戦を始めた。生まれたのは軍閥による賄賂、汚職の無法者、乱暴者集団の政府であった。
腐敗した軍閥政府を倒すために、1994年、パキスタンにあった神学校でタリバンは設立された。(神学生をターリブと呼ぶことからタリバン)。タリバンはイスラム神学校の学生を中心に組織され、賄賂をとらず公平だったので、支持を広げていった。タリバンはイスラム法に基づいた公正な社会の建設をかかげ、戦争・戦闘の終結を実現した。アフガン国民の多くは、戦争を終結させたタリバンを支持し、96年にタリバン政権が生まれた。
しかし、欧米諸国は自身の思う通り操ることのできないタリバン政権を敵視し、自由に操れる政府に置き換えようとした。2001年の同時多発テロを契機に、米国はビン・ラディンをかくまっているという理由でアフガンに侵攻しタリバン政権を潰し、米国に従う政権=傀儡政権に変えた。この過程で、欧米諸国は、タリバン政権は「無法者集団」というイメージを広めた。実際には、どうもそうばかりはないようだ。タリバンの「悪いイメージ」は、欧米日の報道機関のアフガン戦争を正当化する作為的な宣伝の部分を、差し引いて受け取らなければならない。
3)タリバンが非難されたいくつかの点について
「無法者集団である」という批判について、中村哲医師は、「タリバンの連中が地元から信頼されている。アフガンの旧来の農村共同体を基盤にしている。・・・・タリバン支配地域では食糧支援は末端まで行き渡った。軍閥支配地域ではそうではなかった。・・・・」と語っている。「無法者集団」という批判は、欧米がつくりだした宣伝の面がある。欧米諸国の思う通りに操れないことをもって「無法集団」と呼んでいる。
表むき「女子教育」を否定するタリバンだが、建て前と現実では違うところがあるようだ。実際にはタリバン政権下でも、女子教育は従来通り行われていた。男女別の学校だったが、産婦人科の医師、看護婦、助産婦、教師、保育士などの女性への学校教育は行われていた。中村哲氏は、「タリバン政権下で看護教育を受けた看護婦を、自身の病院で雇った」と語っている。女子教育の分野が限られていることや、男女別の学校であって異性と接触できないことなどの問題はあるものの、全面的に女子教育を廃止したわけではない。その点は、軍閥支配のころ、あるいはタリバン政権後のカルザイ、ガニ政府の頃と、ほとんど変わりはない。(中村哲が14年にわたり雑誌『Sight』に語った6万字 2002年
https://www.rockinon.co.jp/sight/nakamura-tetsu/article_01.html?fbclid=IwAR1byGKpsfbAwHAVQ3-jwFYzvVBv8efEi21KLLkBZGBTyxkgil7_FqxFT1c)
偶像崇拝禁止からタリバン政権下でバーミアン遺跡を爆破したのは非難されるべきことだ。タリバンの犯罪行為の一つだ。
タリバンがよって立つのは、むしろ古い伝統的な、すなわち地主と小作が残存する農村共同体であり、そこでは「個人の権利」や「人権」は尊重されない社会である。それゆえ、さまざまな問題点を抱えているだろうことは、想像される。
ただ、問題点を抱えてるだろうが、少なくとも欧米やサウジが共産党政権を倒すために支援した軍閥よりも、あるいは欧米が支援して来たカルザイ、ガニ政権よりも、「腐敗・汚職」の点ではずっとマシな政権だった。軍閥は腐敗していたし、無法集団の暴力支配だった。カルザイ、ガニ政権は、欧米の言うなりの政権で腐敗、賄賂が横行しており、ほとんどの国民は支持してこなかった。
4)米国がタリバン政権を打倒した
2001年9月11日の米同時多発テロの後、ブッシュ大統領はテロに対する戦いを宣言した。アフガンへの侵攻は、米国が黒幕とみなすアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの引き渡し要求に、当時のタリバン政権が「ビンラディンが首謀者だった証拠は示されていない」ことなどを理由に拒否したことを名目にして始められた。米国が主導する形で国連安全保障理事会では国連安保理決議(1368号)が採択され、NATO(北大西洋条約機構)は集団的自衛権を発動し、米英をはじめとする連合軍が10月7日から攻撃を開始し侵攻した。
約2カ月でタリバン政権は崩壊し、2001年11月には有志国連合とアフガニスタンの諸勢力の代表らが暫定政府の樹立や国民大会議の招集に合意した。12月には暫定行政機構が発足、2004年12月にはカルザイ大統領が就任した。
一国が他国へ犯罪人の引き渡しを要求する場合、証拠を示し、どういう罪状であるか、という事実関係の書類、裁判の判決を示して、引き渡しを要求する。当時、米国とアフガン政府(タリバン政権)との間には、「犯罪人引き渡し条約」は締結をしていないが、これに準じた運用をするのが常識だ。
(※日産のゴーン会長の極秘裏の出国を助けた米国人の引き渡しを、日本政府は「犯罪人引き渡し条約」に基づき米国政府に求めたが、その時、どのどのような手続きを踏んだか、思い起こさなければならない。証拠などの書類、罪状、判決を示したはずだ。「犯人引き渡し」要求には、これに準じた手続きが必要だ。)
しかし、そういう手続きもなしに米政府は「引き渡し」を要求した。タリバン政権は、裁判が公正に行われるか、など「引き渡し」の条件を確認し、場合によっては引き渡しを検討する立場をとった。
米国政府はこれらを一切無視して、アフガン政府が「オサマ・ビン・ラディンをかくまっている」という理由で、アフガンへ侵攻し戦争を始め、2ヵ月でタリバン政権を崩壊させた。国家間で対立が生じた場合、武力や戦争で解決してはならないという国連憲章に対する明確な違反である。(www.youtube.com/watch?v=3A4ndNxeX90 2021年7月28日、田岡俊次、デモクラシータイムズ)
ついでに言えば、2011年5月、パキスタンに隠れていたオサマ・ビン・ラディンを、米軍が秘密裏に(パキスタン政府の了解なしに)、特殊部隊を送り暗殺した。これも明確な国際法違反だ。ビン・ラディンが犯罪人というなら、証拠を示して裁判にかけるべきである。暗殺すること自体が犯罪である。そればかりか、パキスタンの主権を侵害している。パキスタン政府の了解もなしに勝手に米軍を送り、暗殺させている。
こういう野蛮なこと、不法なこと、犯罪を、米国政府が公然と行い、日本も含む西側諸国政府は、批判・告発せずに支持してきた。これまでも米国はこういうやり方を続けてきた。イラクのフセインもそうだし、リビアのカダフィも同じ。米国は中南米の気に入らない政権は倒し、言うなりの独裁政権に置き換え、力ずくで抑えてきた。戦争後のアフガンの国づくりなどまったくやる積りなどない、米国の利益第一、「アメリカン・ファースト」であって、アフガンの市民のことなど何も考えていない。そのようなことを、アフガン国民は、30年間にも及ぶ戦争状態と支払わされた犠牲を通じて、身に染みて理解している。それゆえアフガン国民は上から下まで反米感情を抱くに至っている。
5)米国がつくったカルザイ政権、ガニ政権はどんな政府だったか?
ガニ政権は、あっという間に崩壊した。アフガニスタン政府に対する国民の信頼は全くなかったことが判明した。米や欧州諸国は、「アフガンに民主主義国家をつくる」と言ってきたが、つくったのは腐敗と賄賂の傀儡政権だった。
アフガン政府の財政は、ほぼ全額が外国からの援助で賄われていた。有志国連合側はアフガン政府軍約30万人、警官約10万人を育成しようとしたが脱走者が多く、その給料を幹部が着服することが横行した。30万人の政府正規軍とされてきたが、実際には6分の1しかいなかった。兵士の人数分の援助を外国から得ながら、浮いた人数分は賄賂として政府中枢の要人に分配された。日本も68億ドル(約7,400億円)を支出してきた。額としては米国に次ぐ。主にアフガン政府の警察官9万人の給与の大部分を日本政府が担ってきた。ここでも実際には9万人もおらず、幹部が着服した。
アフガン政府とは、外国から資金を得る機能をもった「道具」であって、米軍が撤退し資金が入ってなくなり、資金の「吸い口」機能が消えれば役割を終えるのである。群がってきた政権に近い人々はすぐさま離れ、政府が崩壊したのは、アフガン政府のこの性質から来る面が大きい。
米国は、どうしてしっかりした政治制度をつくらなかったのか? そもそも米国政府にはそのような意図はないからだ。米国がつくる傀儡政権とはそういうものだ。米国は、従わなければ戦争で叩き潰し、自分に従わせる政府をつくる。米国の利害のためにやっているのであって、アフガン国民のためにやっているわけではない。誤爆して多くの民間人が多数死んでも意に介さない。アフガン国民のあいだには、この20年かけて隅々まで、反米感情が広がった。
米国の対テロ戦争は20年も続いた。米軍の直接戦費は7,700億ドル(約88兆円)と公表された。対テロ戦争の総額は4~6兆㌦(約450兆円~700兆円)に及ぶと、スティグリッツらが試算している。一方で、20年も続けた対テロ戦争によって、米軍産複合体に安定した収入を保障した。
米軍はこの戦争にピーク時に9万人を派遣、他の国も最大時に約4,000人を出した。米軍の死者は約2,430人、負傷者は2万2,000人余りとされる。他の派遣国軍の死者は約1,150人だった。
一方タリバン兵は人員約6万人と推定されたが、多くの民衆の協力を得ていた。アフガニスタンの民間人の死者は14万人以上とみられる。(田岡俊次の戦略目からウロコ 2021.7.15)
6)米国の威信は失墜した
度重なる介入失敗の歴史は、米国の国際的威信や信用を傷つけてきた。今回もそうだ。そればかりでなく、経済や社会を破壊し疲弊させてしまった。米軍のアフガンからの敗走は、更なる威信低下を上塗りする。
イラク戦争でも、米国は「イラクが大量破壊兵器を保有している」と主張し、2003年3月国連調査団の「なかった」との報告を無視してイラクを攻撃し、占領した。大量破壊兵器を探したが、結局は出なかった。そして7年半、イラクを大混乱させて2010年9月に撤退した。米軍人4,419人、イラク民間人約11万人が死んだ。米国にとって、直接戦費は7,700億ドル(約85兆円)に達したが、重傷を負った米兵の生涯の補償や国債の利息など将来の経費を含むと3兆ドル(330兆円)との推定されている。イラクの人々が負った被害は金額にすればそれ以上だ。
アフガンでもほとんど同じ結果を繰り返したのだ。米国による戦争、武力による支配は、アフガニスタンの破壊と荒廃をもたらした。経済や社会を疲弊させて、撤退に至っている。同じ失敗を繰り返している。
アフガンから米軍が撤退した背景には、米国の都合がある。米国にとってアフガン、中東の重要性はすでに低下している。エネルギー転換から、世界は太陽光、風力への投資競争に入っており、石油・ガスの重要性は急速に薄れつつある。これまで米国にとって、中東を支配することは石油を通じて世界を支配することだった。しかし、いまや米国のシェール石油生産が急増し世界一の石油輸出国になった。これらの情勢の変化により、中東は米国にとって以前ほど重要な地域ではなくなった。
さらには、米国が20年間、アフガン戦争を続けてきたあいだに世界的な情勢は大きく変化した。米国の力は低下し、中国が台頭してきた。覇権交代が迫っている。アフガンからの米軍の敗走は、米国の威信を失墜させたばかりではない、米国の力が後退したことを表している。米国にとって、いまや年間4兆円の軍事費を投じてアフガンで戦争を継続しているような場合ではない。台頭する中国に対抗するために軍事的にも、その資源を対中国に、インド・太平洋戦略に、集中しなければならない。そのような米国戦略の変更の必要性も背景にある。
7)難民を恐れる欧米
2001年9月11日に米同時多発テロが起きると、実行犯が詳細には明かにならないなかで、米国が主導し、国連安全保障理事会で国連安保理決議(1368号)を採択し、NATO(北大西洋条約機構)は集団的自衛権を発動し、アフガンへ侵攻した。1949年に創設されたNATOの歴史で、集団的自衛権を唯一発動し、軍隊を送ったのがアフガン戦争だった。
そのNATO諸国が、アフガン難民の流入を恐れ、受入拒否の姿勢を見せている。自分たちの行為の結果であること、したがって難民発生の責任があることを、NATO諸国はまず認めなければならない。2001年11月にタリバン政権を武力で潰し、NATO諸国を含む「有志国連合」がつくったアフガン政権は、腐敗と汚職の政権で、アフガン国民の支持を得ることができず、20年後に崩壊した。政権関係者、家族らが難民となって国外に流出するというのだから、自らの行為の結果であるその責任を負わなくてはならない。
シリアのアサド政権打倒を企て、反政府テロ勢力を支援した米国を、欧州諸国は支持した。シリア戦争の結果、シリア難民の欧州諸国への流入という事態にあらためて驚き、難民をトルコなどに押しとどめ欧州は受け入れない態度をとっている。やっていることが滑稽にしか見えない。これが「先進国」と自称する政府のやることなのだ。自分たちが振りかざす「民主主義」とか「人権」の意味が分かっていないのではないか?と思われるが、これをアフガンでも再び繰り返していることになる。
世界の難民は、2015年あたりから急増し、現在は8,240万人に達している。米国の軍事介入が難民を増やしたのは明らかだ。その米国の世界戦略は失敗し続けている。戦争で占領しても、米方式の支配は維持継続できない。
難民8,240万人の内訳は、下記の通りだ。アフガン難民は260万人だが、これにアフガン旧政府関係者と家族が、今後新たに、難民に加わることになる。
1)シリア:600万人
2)ベネズエラ:400万人
3)アフガン:260万人
4)南スーダン:220万人
5)ミャンマー:110万人
8)アフガン新政権はどうなるか?
リビアやシリア戦争で生まれてきたISやヌスラ戦線などのイスラムテロ組織は、イスラムではない。米国やサウジが資金を出し雇った傭兵集団である。その証拠は、パレスチナ解放を掲げていないところにある。シリア戦争ではイスラエルと共同してシリア政府と戦ったところにある。ゴラン高原に追いつめられたヌスラ戦線の負傷者はイスラエル軍病院で治療を受けた。タリバンは、米国やサウジに雇われた傭兵集団ではない。ISやヌスラ戦線と混同してはいけない。
タリバンは、旧支配機構にいたカルザイ前大統領、アブドラ首相などとも新生アフガン政府の構想について話し合いをしているようだ。各地域の州知事はタリバンを受け入れている。各地域の伝統的な自治組織である長老会(ジルカ)なども、受け入れているようである。タリバンはまず戦争の停止を実現するだろう、同時に、新政権が国際的に承認されることを求めるだろう。そのために、タリバンが主導しながらも、国民の各勢力をまとめ上げた新政権、旧アフガン政府の州知事や閣僚も入れた新生アフガン政府を構想しているようだ。今後の動向を見極めなければならない。
アフガン国民が期待しているのは戦争の停止、平和であるから、タリバンがこれを実現すれば、タリバン政権を受け入れるだろう。
また、国民の願いは、米国などの外国による支配ではなく、民族独立であるから、この面でも支持を得た。タリバンは、ある種「独立戦争」を戦い、アフガン人は支持した。各地域の伝統的な自治組織である長老会(ジルカ)などを基盤に、州知事や旧アフガン政府の州知事や閣僚も入れた新生アフガン政府を構想する姿勢を見せているのは、タリバンが多くの国民の要求に沿った対応を探っているからであろう。この先の動向を見極めなければならない。
アフガニスタンは伝統的な農業国であり、地方の各地域は農村共同体である。新政権には、水利灌漑などして安定した農業生産の復興がまず求められるだろう。これが次の段階での政権の安定にとって必要となる。食糧増産と供給ができなければ、タリバン新政権は国民から安定的な支持を得続けることができない。
ケシ栽培がアフガン政府、タリバンの一つの資金源と言われてきた。その実態、規模をキチンと把握してはいないが、これをやめるには各地域で安定した農業生産の実現が必要となる。農民がケシ栽培に手を出さなくても済むようにしなければならない。
農業以外の産業の振興には、外国の経済協力が必要になるだろう。アフガニスタンはもともと鉱物資源は豊富であり、その開発も期待される。新政権の経済的な復興、発展に貢献できるのは、米国ではなくて中国である。 タリバン新政権と合意すれば、中国は「一帯一路」構想の一環として、アフガンとの経済協力、投資などに協力するだろう。アフガニスタンには天然ガスや原油、銅鉱山など未開発の鉱物資源があり、中国はすでにアフガニスタン北部の油田開発で協力を始めている。
戦争がなくなり、安定した農業生産ができるようになれば、アフガン難民の帰国が徐々に始まるだろう。
中国とロシアは?
中国は、21年7月、上海にタリバンを呼び王毅外相と会談した。ロシア・ラブロフ外相はすでに18年頃からタリバンと連絡を取っていたという。ロシアとタリバンの間で話し合い、タリバン新政権は「強権を振るわない」、「他国を襲撃する勢力の巣窟にはしない」と約束したという。
8月上旬にロシアと中国で、中国の内陸部で対テロ対策を前提にした共同作戦・演習を行った。(https://jp.sputniknews.com/asia/202107298582069/ SPUTNIK2021年07月29日 21:51)
このことは、タリバン新政府に「テロ勢力の送り出しは許さない」という警告でもある。ロシアと中国、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンなどの周辺諸国が何を警戒しているか、よくわかる。「テロ勢力の巣窟」にならないようにせよ、というのが当面の共通した国際的な要望であろう。
中国もロシアも、米国がやってきたようなアフガンに対する軍事的支配に乗り出そうとはしていない。
タリバンによるアフガン新政権はどうなるか、今後の動向を見きわめなければならない。
(2021年8月26日記)
<8月15日、カブールの大統領府を掌握したタリバン戦闘員>
1)タリバンが全土平定、首都カブールへ無血入城
タリバンによるアフガン全土制圧は、予想以上の早さですすんだ。8月6日にタリバンが攻勢に出てからわずか10日で、カブールに15日に無血入城、全土を平定した。アフガン政府軍との戦闘はほとんどなく、地方の知事たちはタリバンに抵抗しなかった。アフガン国民の多くは、むしろ平和的に、タリバンを受け入れた。
現時点でタリバンは、外国人の脱出を認め、輸送機が離着陸することは許し、対米協力者だったアフガン人が空港に殺到するのもほとんど見逃している。タリバンは元政府軍人や対米協力者に対する「恩赦」を宣言している。現状では国内の統治にある程度の自信を持っているのではないか。(https://diamond.jp/articles/-/280338 2021年8月26日 タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結 田岡俊次)
米国が20年かけて育て上げたアフガン政府軍は、戦闘をすることなしに武器を捨て、我先に逃亡した。ガニ大統領は、政権を放り出して外国へ逃亡した。
アフガニスタン政府は、多くのアフガン国民の支持を得ていなかったことが、あらためて判明した。欧米諸諸国が「民主主義政権」として成立させたカルザイ、ガニ政権は、けっして「民主主義義政権」ではなかったし、国民の信頼を得ていなかった。それと同時に米政府、米軍が、アフガン国民からまったく支持されていないことも、あらためて判明した。米国と一緒になって軍を派遣した欧州各国政府、日本政府なども、同じく支持されてはいない。
アフガン国民の多くは、タリバンによる戦争の終結、平和を強く望んだということだろう。欧米政府、軍が、20年かけても「民主主義政権」をつくりあげることはできなかったし、平和をもたらすこともできなかった。その意志も能力もなかったことが示された。アフガン国民の多くは、自身の政府の樹立することで、外国の支配を拒否し、独立を求めたともいえる。(www.youtube.com/watch?v=bcT5Bwz5oWo (4) アフガン全土陥落、米軍撤退~911から20年、日本もかかわった報復戦争【半田滋の眼 NO.39】20210818 - YouTube/)
2)タリバン政権が成立した理由
かつて、96年から5年間、タリバン政権があった。ソ連が撤退した後、ナジブラ政権が続いていたが、北部同盟やマスード集団などの軍閥がナジブラ政権を倒し、乱暴狼藉をはたらく暴力支配の政府に代わった。無秩序の部族兵は各地で物資懲発や略奪を続け、国民は悲惨な状態に置かれた。軍閥の各集団は、共産党政権を倒すために米国やサウジから兵器や戦闘指導員等様々な支援を受けてきた。ソ連軍と戦ったアフガンゲリラは8派に分かれて勢力争いの内戦を始めた。生まれたのは軍閥による賄賂、汚職の無法者、乱暴者集団の政府であった。
腐敗した軍閥政府を倒すために、1994年、パキスタンにあった神学校でタリバンは設立された。(神学生をターリブと呼ぶことからタリバン)。タリバンはイスラム神学校の学生を中心に組織され、賄賂をとらず公平だったので、支持を広げていった。タリバンはイスラム法に基づいた公正な社会の建設をかかげ、戦争・戦闘の終結を実現した。アフガン国民の多くは、戦争を終結させたタリバンを支持し、96年にタリバン政権が生まれた。
しかし、欧米諸国は自身の思う通り操ることのできないタリバン政権を敵視し、自由に操れる政府に置き換えようとした。2001年の同時多発テロを契機に、米国はビン・ラディンをかくまっているという理由でアフガンに侵攻しタリバン政権を潰し、米国に従う政権=傀儡政権に変えた。この過程で、欧米諸国は、タリバン政権は「無法者集団」というイメージを広めた。実際には、どうもそうばかりはないようだ。タリバンの「悪いイメージ」は、欧米日の報道機関のアフガン戦争を正当化する作為的な宣伝の部分を、差し引いて受け取らなければならない。
3)タリバンが非難されたいくつかの点について
「無法者集団である」という批判について、中村哲医師は、「タリバンの連中が地元から信頼されている。アフガンの旧来の農村共同体を基盤にしている。・・・・タリバン支配地域では食糧支援は末端まで行き渡った。軍閥支配地域ではそうではなかった。・・・・」と語っている。「無法者集団」という批判は、欧米がつくりだした宣伝の面がある。欧米諸国の思う通りに操れないことをもって「無法集団」と呼んでいる。
表むき「女子教育」を否定するタリバンだが、建て前と現実では違うところがあるようだ。実際にはタリバン政権下でも、女子教育は従来通り行われていた。男女別の学校だったが、産婦人科の医師、看護婦、助産婦、教師、保育士などの女性への学校教育は行われていた。中村哲氏は、「タリバン政権下で看護教育を受けた看護婦を、自身の病院で雇った」と語っている。女子教育の分野が限られていることや、男女別の学校であって異性と接触できないことなどの問題はあるものの、全面的に女子教育を廃止したわけではない。その点は、軍閥支配のころ、あるいはタリバン政権後のカルザイ、ガニ政府の頃と、ほとんど変わりはない。(中村哲が14年にわたり雑誌『Sight』に語った6万字 2002年
https://www.rockinon.co.jp/sight/nakamura-tetsu/article_01.html?fbclid=IwAR1byGKpsfbAwHAVQ3-jwFYzvVBv8efEi21KLLkBZGBTyxkgil7_FqxFT1c)
偶像崇拝禁止からタリバン政権下でバーミアン遺跡を爆破したのは非難されるべきことだ。タリバンの犯罪行為の一つだ。
タリバンがよって立つのは、むしろ古い伝統的な、すなわち地主と小作が残存する農村共同体であり、そこでは「個人の権利」や「人権」は尊重されない社会である。それゆえ、さまざまな問題点を抱えているだろうことは、想像される。
ただ、問題点を抱えてるだろうが、少なくとも欧米やサウジが共産党政権を倒すために支援した軍閥よりも、あるいは欧米が支援して来たカルザイ、ガニ政権よりも、「腐敗・汚職」の点ではずっとマシな政権だった。軍閥は腐敗していたし、無法集団の暴力支配だった。カルザイ、ガニ政権は、欧米の言うなりの政権で腐敗、賄賂が横行しており、ほとんどの国民は支持してこなかった。
4)米国がタリバン政権を打倒した
2001年9月11日の米同時多発テロの後、ブッシュ大統領はテロに対する戦いを宣言した。アフガンへの侵攻は、米国が黒幕とみなすアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの引き渡し要求に、当時のタリバン政権が「ビンラディンが首謀者だった証拠は示されていない」ことなどを理由に拒否したことを名目にして始められた。米国が主導する形で国連安全保障理事会では国連安保理決議(1368号)が採択され、NATO(北大西洋条約機構)は集団的自衛権を発動し、米英をはじめとする連合軍が10月7日から攻撃を開始し侵攻した。
約2カ月でタリバン政権は崩壊し、2001年11月には有志国連合とアフガニスタンの諸勢力の代表らが暫定政府の樹立や国民大会議の招集に合意した。12月には暫定行政機構が発足、2004年12月にはカルザイ大統領が就任した。
一国が他国へ犯罪人の引き渡しを要求する場合、証拠を示し、どういう罪状であるか、という事実関係の書類、裁判の判決を示して、引き渡しを要求する。当時、米国とアフガン政府(タリバン政権)との間には、「犯罪人引き渡し条約」は締結をしていないが、これに準じた運用をするのが常識だ。
(※日産のゴーン会長の極秘裏の出国を助けた米国人の引き渡しを、日本政府は「犯罪人引き渡し条約」に基づき米国政府に求めたが、その時、どのどのような手続きを踏んだか、思い起こさなければならない。証拠などの書類、罪状、判決を示したはずだ。「犯人引き渡し」要求には、これに準じた手続きが必要だ。)
しかし、そういう手続きもなしに米政府は「引き渡し」を要求した。タリバン政権は、裁判が公正に行われるか、など「引き渡し」の条件を確認し、場合によっては引き渡しを検討する立場をとった。
米国政府はこれらを一切無視して、アフガン政府が「オサマ・ビン・ラディンをかくまっている」という理由で、アフガンへ侵攻し戦争を始め、2ヵ月でタリバン政権を崩壊させた。国家間で対立が生じた場合、武力や戦争で解決してはならないという国連憲章に対する明確な違反である。(www.youtube.com/watch?v=3A4ndNxeX90 2021年7月28日、田岡俊次、デモクラシータイムズ)
ついでに言えば、2011年5月、パキスタンに隠れていたオサマ・ビン・ラディンを、米軍が秘密裏に(パキスタン政府の了解なしに)、特殊部隊を送り暗殺した。これも明確な国際法違反だ。ビン・ラディンが犯罪人というなら、証拠を示して裁判にかけるべきである。暗殺すること自体が犯罪である。そればかりか、パキスタンの主権を侵害している。パキスタン政府の了解もなしに勝手に米軍を送り、暗殺させている。
こういう野蛮なこと、不法なこと、犯罪を、米国政府が公然と行い、日本も含む西側諸国政府は、批判・告発せずに支持してきた。これまでも米国はこういうやり方を続けてきた。イラクのフセインもそうだし、リビアのカダフィも同じ。米国は中南米の気に入らない政権は倒し、言うなりの独裁政権に置き換え、力ずくで抑えてきた。戦争後のアフガンの国づくりなどまったくやる積りなどない、米国の利益第一、「アメリカン・ファースト」であって、アフガンの市民のことなど何も考えていない。そのようなことを、アフガン国民は、30年間にも及ぶ戦争状態と支払わされた犠牲を通じて、身に染みて理解している。それゆえアフガン国民は上から下まで反米感情を抱くに至っている。
5)米国がつくったカルザイ政権、ガニ政権はどんな政府だったか?
ガニ政権は、あっという間に崩壊した。アフガニスタン政府に対する国民の信頼は全くなかったことが判明した。米や欧州諸国は、「アフガンに民主主義国家をつくる」と言ってきたが、つくったのは腐敗と賄賂の傀儡政権だった。
アフガン政府の財政は、ほぼ全額が外国からの援助で賄われていた。有志国連合側はアフガン政府軍約30万人、警官約10万人を育成しようとしたが脱走者が多く、その給料を幹部が着服することが横行した。30万人の政府正規軍とされてきたが、実際には6分の1しかいなかった。兵士の人数分の援助を外国から得ながら、浮いた人数分は賄賂として政府中枢の要人に分配された。日本も68億ドル(約7,400億円)を支出してきた。額としては米国に次ぐ。主にアフガン政府の警察官9万人の給与の大部分を日本政府が担ってきた。ここでも実際には9万人もおらず、幹部が着服した。
アフガン政府とは、外国から資金を得る機能をもった「道具」であって、米軍が撤退し資金が入ってなくなり、資金の「吸い口」機能が消えれば役割を終えるのである。群がってきた政権に近い人々はすぐさま離れ、政府が崩壊したのは、アフガン政府のこの性質から来る面が大きい。
米国は、どうしてしっかりした政治制度をつくらなかったのか? そもそも米国政府にはそのような意図はないからだ。米国がつくる傀儡政権とはそういうものだ。米国は、従わなければ戦争で叩き潰し、自分に従わせる政府をつくる。米国の利害のためにやっているのであって、アフガン国民のためにやっているわけではない。誤爆して多くの民間人が多数死んでも意に介さない。アフガン国民のあいだには、この20年かけて隅々まで、反米感情が広がった。
米国の対テロ戦争は20年も続いた。米軍の直接戦費は7,700億ドル(約88兆円)と公表された。対テロ戦争の総額は4~6兆㌦(約450兆円~700兆円)に及ぶと、スティグリッツらが試算している。一方で、20年も続けた対テロ戦争によって、米軍産複合体に安定した収入を保障した。
米軍はこの戦争にピーク時に9万人を派遣、他の国も最大時に約4,000人を出した。米軍の死者は約2,430人、負傷者は2万2,000人余りとされる。他の派遣国軍の死者は約1,150人だった。
一方タリバン兵は人員約6万人と推定されたが、多くの民衆の協力を得ていた。アフガニスタンの民間人の死者は14万人以上とみられる。(田岡俊次の戦略目からウロコ 2021.7.15)
6)米国の威信は失墜した
度重なる介入失敗の歴史は、米国の国際的威信や信用を傷つけてきた。今回もそうだ。そればかりでなく、経済や社会を破壊し疲弊させてしまった。米軍のアフガンからの敗走は、更なる威信低下を上塗りする。
イラク戦争でも、米国は「イラクが大量破壊兵器を保有している」と主張し、2003年3月国連調査団の「なかった」との報告を無視してイラクを攻撃し、占領した。大量破壊兵器を探したが、結局は出なかった。そして7年半、イラクを大混乱させて2010年9月に撤退した。米軍人4,419人、イラク民間人約11万人が死んだ。米国にとって、直接戦費は7,700億ドル(約85兆円)に達したが、重傷を負った米兵の生涯の補償や国債の利息など将来の経費を含むと3兆ドル(330兆円)との推定されている。イラクの人々が負った被害は金額にすればそれ以上だ。
アフガンでもほとんど同じ結果を繰り返したのだ。米国による戦争、武力による支配は、アフガニスタンの破壊と荒廃をもたらした。経済や社会を疲弊させて、撤退に至っている。同じ失敗を繰り返している。
アフガンから米軍が撤退した背景には、米国の都合がある。米国にとってアフガン、中東の重要性はすでに低下している。エネルギー転換から、世界は太陽光、風力への投資競争に入っており、石油・ガスの重要性は急速に薄れつつある。これまで米国にとって、中東を支配することは石油を通じて世界を支配することだった。しかし、いまや米国のシェール石油生産が急増し世界一の石油輸出国になった。これらの情勢の変化により、中東は米国にとって以前ほど重要な地域ではなくなった。
さらには、米国が20年間、アフガン戦争を続けてきたあいだに世界的な情勢は大きく変化した。米国の力は低下し、中国が台頭してきた。覇権交代が迫っている。アフガンからの米軍の敗走は、米国の威信を失墜させたばかりではない、米国の力が後退したことを表している。米国にとって、いまや年間4兆円の軍事費を投じてアフガンで戦争を継続しているような場合ではない。台頭する中国に対抗するために軍事的にも、その資源を対中国に、インド・太平洋戦略に、集中しなければならない。そのような米国戦略の変更の必要性も背景にある。
7)難民を恐れる欧米
2001年9月11日に米同時多発テロが起きると、実行犯が詳細には明かにならないなかで、米国が主導し、国連安全保障理事会で国連安保理決議(1368号)を採択し、NATO(北大西洋条約機構)は集団的自衛権を発動し、アフガンへ侵攻した。1949年に創設されたNATOの歴史で、集団的自衛権を唯一発動し、軍隊を送ったのがアフガン戦争だった。
そのNATO諸国が、アフガン難民の流入を恐れ、受入拒否の姿勢を見せている。自分たちの行為の結果であること、したがって難民発生の責任があることを、NATO諸国はまず認めなければならない。2001年11月にタリバン政権を武力で潰し、NATO諸国を含む「有志国連合」がつくったアフガン政権は、腐敗と汚職の政権で、アフガン国民の支持を得ることができず、20年後に崩壊した。政権関係者、家族らが難民となって国外に流出するというのだから、自らの行為の結果であるその責任を負わなくてはならない。
シリアのアサド政権打倒を企て、反政府テロ勢力を支援した米国を、欧州諸国は支持した。シリア戦争の結果、シリア難民の欧州諸国への流入という事態にあらためて驚き、難民をトルコなどに押しとどめ欧州は受け入れない態度をとっている。やっていることが滑稽にしか見えない。これが「先進国」と自称する政府のやることなのだ。自分たちが振りかざす「民主主義」とか「人権」の意味が分かっていないのではないか?と思われるが、これをアフガンでも再び繰り返していることになる。
世界の難民は、2015年あたりから急増し、現在は8,240万人に達している。米国の軍事介入が難民を増やしたのは明らかだ。その米国の世界戦略は失敗し続けている。戦争で占領しても、米方式の支配は維持継続できない。
難民8,240万人の内訳は、下記の通りだ。アフガン難民は260万人だが、これにアフガン旧政府関係者と家族が、今後新たに、難民に加わることになる。
1)シリア:600万人
2)ベネズエラ:400万人
3)アフガン:260万人
4)南スーダン:220万人
5)ミャンマー:110万人
8)アフガン新政権はどうなるか?
リビアやシリア戦争で生まれてきたISやヌスラ戦線などのイスラムテロ組織は、イスラムではない。米国やサウジが資金を出し雇った傭兵集団である。その証拠は、パレスチナ解放を掲げていないところにある。シリア戦争ではイスラエルと共同してシリア政府と戦ったところにある。ゴラン高原に追いつめられたヌスラ戦線の負傷者はイスラエル軍病院で治療を受けた。タリバンは、米国やサウジに雇われた傭兵集団ではない。ISやヌスラ戦線と混同してはいけない。
タリバンは、旧支配機構にいたカルザイ前大統領、アブドラ首相などとも新生アフガン政府の構想について話し合いをしているようだ。各地域の州知事はタリバンを受け入れている。各地域の伝統的な自治組織である長老会(ジルカ)なども、受け入れているようである。タリバンはまず戦争の停止を実現するだろう、同時に、新政権が国際的に承認されることを求めるだろう。そのために、タリバンが主導しながらも、国民の各勢力をまとめ上げた新政権、旧アフガン政府の州知事や閣僚も入れた新生アフガン政府を構想しているようだ。今後の動向を見極めなければならない。
アフガン国民が期待しているのは戦争の停止、平和であるから、タリバンがこれを実現すれば、タリバン政権を受け入れるだろう。
また、国民の願いは、米国などの外国による支配ではなく、民族独立であるから、この面でも支持を得た。タリバンは、ある種「独立戦争」を戦い、アフガン人は支持した。各地域の伝統的な自治組織である長老会(ジルカ)などを基盤に、州知事や旧アフガン政府の州知事や閣僚も入れた新生アフガン政府を構想する姿勢を見せているのは、タリバンが多くの国民の要求に沿った対応を探っているからであろう。この先の動向を見極めなければならない。
アフガニスタンは伝統的な農業国であり、地方の各地域は農村共同体である。新政権には、水利灌漑などして安定した農業生産の復興がまず求められるだろう。これが次の段階での政権の安定にとって必要となる。食糧増産と供給ができなければ、タリバン新政権は国民から安定的な支持を得続けることができない。
ケシ栽培がアフガン政府、タリバンの一つの資金源と言われてきた。その実態、規模をキチンと把握してはいないが、これをやめるには各地域で安定した農業生産の実現が必要となる。農民がケシ栽培に手を出さなくても済むようにしなければならない。
農業以外の産業の振興には、外国の経済協力が必要になるだろう。アフガニスタンはもともと鉱物資源は豊富であり、その開発も期待される。新政権の経済的な復興、発展に貢献できるのは、米国ではなくて中国である。 タリバン新政権と合意すれば、中国は「一帯一路」構想の一環として、アフガンとの経済協力、投資などに協力するだろう。アフガニスタンには天然ガスや原油、銅鉱山など未開発の鉱物資源があり、中国はすでにアフガニスタン北部の油田開発で協力を始めている。
戦争がなくなり、安定した農業生産ができるようになれば、アフガン難民の帰国が徐々に始まるだろう。
中国とロシアは?
中国は、21年7月、上海にタリバンを呼び王毅外相と会談した。ロシア・ラブロフ外相はすでに18年頃からタリバンと連絡を取っていたという。ロシアとタリバンの間で話し合い、タリバン新政権は「強権を振るわない」、「他国を襲撃する勢力の巣窟にはしない」と約束したという。
8月上旬にロシアと中国で、中国の内陸部で対テロ対策を前提にした共同作戦・演習を行った。(https://jp.sputniknews.com/asia/202107298582069/ SPUTNIK2021年07月29日 21:51)
このことは、タリバン新政府に「テロ勢力の送り出しは許さない」という警告でもある。ロシアと中国、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンなどの周辺諸国が何を警戒しているか、よくわかる。「テロ勢力の巣窟」にならないようにせよ、というのが当面の共通した国際的な要望であろう。
中国もロシアも、米国がやってきたようなアフガンに対する軍事的支配に乗り出そうとはしていない。
タリバンによるアフガン新政権はどうなるか、今後の動向を見きわめなければならない。
(2021年8月26日記)
この先、米バイデン政権はどうなるのか? [世界の動き]
発足後半年、この先米バイデン政権はどうなるのか?
バイデン政権発足から半年、コロナ禍からの米経済の回復には、目を見張るものがある。1980年代以来の、最も早いペースで回復を遂げている。バイデン政権は最高の幕開けを飾ったと言える。急ペースの景気拡大は、バイデン政権が巨額の財政政策を発動したからにほかならない。
しかし、この「成功」が続くかどうかが、急に怪しくなっている。バイデン政権がこの先直面する課題は、ほとんどバイデンの手におえないものばかりだからだ。米経済は急速に回復したが、バイデン政権への支持は、目に見える形で確立していない。米議会での民主党、共和党の勢力図は、バイデンに有利に変化しているわけではなく、ほとんど均衡したままだ。米共和党内ではトランプ前大統領の影響がいまだに強い。
米議会、米政治の勢力図は変わっておらず、バイデンが打ち出した改革法案の大半は成立しないままだ。したがって、バイデンの「3大プラン」は実行できない状態がつづくのだ。
現在は、米議会で膠着状態に陥っているといっていい。このままの状態が今後も続くならば、バイデン政権は「死に体」(レームダック)になりかねない。政権は今、厳しい局面に突入しつつある。
バイデン政権の3大プラン
1)「米国救済計画」 1.9兆㌦: 21年3月中旬、民主党単独で成立し、施行
○内容: 1人1400㌦給付、ワクチン接種強化
○財源: 緊急対策なので、全額を債務で
⇒ すでに実行中。
2)「米国雇用計画」 8年で2兆㌦: 21年3月末に公表。共和党は大幅縮小の対案
○内容:インフラや環境、研究開発に巨額投資
○財源: 法人税率上げなどの企業増税、15年で財源とする
3)「米国家族計画」10年で1.8兆㌦: 4月末に公表、共和党は反発姿勢
○内容:格差是正や子育て支援、教育の負担軽減に投資
○財源: 富裕層への所得増税やキャピタルゲインに課税
バイデンが「3大プラン」実行のための法案を成立させるには、議員数で拮抗する上院(定数100、民主党50、共和党50)で、60票以上の賛成が必要である。共和党議員の10人以上が賛成に回らなければ、改革法案は成立しない。
「米国雇用計画」でインフラ整備するための「インフラ投資法案」が上院で審議に入ったが、成立する見通しが立たないままだ。成立には上院で60議席上の賛成を得る必要がある、すなわち少なくとも10人以上の共和党議員が賛成に回らなければならないが、共和党議員は一致して、法案の財源である一切の増税への反対を表明している。
インフラ計画の財源を法人税率上げから確保するとしているが、共和党議員がまとまって反対している。このままだとプランは頓挫する。
それどころか、米国では長年にわたって税務署の人員と予算を削ってきており、現行税法に規定された徴税さえきちんとできない、きわめて「異常な状態」が続いている、それが現実なのだ。金持ちによる徴税拒否が、やり放題、野放しになっている。共和党は、弱体化した内国債務庁(IRS)の徴税能力を回復させるための予算の増額にさえも反対している。現行の税法で定められた徴税を確実に実行することさえ、できていない。
バイデンの「米国家族計画」もまだプランのままで実行に入っていない。
「3大プラン」以外に、投票権の強化をめざす選挙改革や、不法移民の米市民権獲得への道を開く移民制度改革、労働組合結成要件の緩和など、バイデン政権が打ち出した法案の大半が、議会を通過する見込みが立たない。
「3大プラン」やそのほかの一連の法案成立のために、バイデンはプランの中身を変更し妥協を重ねるだろう。
バイデン政権は、「3大プラン」実行ができなくてレームダックになるか、それとも国債など政府債務の増大によって実行するか、という選択しかない。1年ほどは景気回復は続くだろうが、その先が問題だ。このままの状態が続けば、「機能不全」に陥るしかないように見える。
早晩、バイデンは身動きが取れなくなるだろう。
バイデン政権発足から半年、コロナ禍からの米経済の回復には、目を見張るものがある。1980年代以来の、最も早いペースで回復を遂げている。バイデン政権は最高の幕開けを飾ったと言える。急ペースの景気拡大は、バイデン政権が巨額の財政政策を発動したからにほかならない。
しかし、この「成功」が続くかどうかが、急に怪しくなっている。バイデン政権がこの先直面する課題は、ほとんどバイデンの手におえないものばかりだからだ。米経済は急速に回復したが、バイデン政権への支持は、目に見える形で確立していない。米議会での民主党、共和党の勢力図は、バイデンに有利に変化しているわけではなく、ほとんど均衡したままだ。米共和党内ではトランプ前大統領の影響がいまだに強い。
米議会、米政治の勢力図は変わっておらず、バイデンが打ち出した改革法案の大半は成立しないままだ。したがって、バイデンの「3大プラン」は実行できない状態がつづくのだ。
現在は、米議会で膠着状態に陥っているといっていい。このままの状態が今後も続くならば、バイデン政権は「死に体」(レームダック)になりかねない。政権は今、厳しい局面に突入しつつある。
バイデン政権の3大プラン
1)「米国救済計画」 1.9兆㌦: 21年3月中旬、民主党単独で成立し、施行
○内容: 1人1400㌦給付、ワクチン接種強化
○財源: 緊急対策なので、全額を債務で
⇒ すでに実行中。
2)「米国雇用計画」 8年で2兆㌦: 21年3月末に公表。共和党は大幅縮小の対案
○内容:インフラや環境、研究開発に巨額投資
○財源: 法人税率上げなどの企業増税、15年で財源とする
3)「米国家族計画」10年で1.8兆㌦: 4月末に公表、共和党は反発姿勢
○内容:格差是正や子育て支援、教育の負担軽減に投資
○財源: 富裕層への所得増税やキャピタルゲインに課税
バイデンが「3大プラン」実行のための法案を成立させるには、議員数で拮抗する上院(定数100、民主党50、共和党50)で、60票以上の賛成が必要である。共和党議員の10人以上が賛成に回らなければ、改革法案は成立しない。
「米国雇用計画」でインフラ整備するための「インフラ投資法案」が上院で審議に入ったが、成立する見通しが立たないままだ。成立には上院で60議席上の賛成を得る必要がある、すなわち少なくとも10人以上の共和党議員が賛成に回らなければならないが、共和党議員は一致して、法案の財源である一切の増税への反対を表明している。
インフラ計画の財源を法人税率上げから確保するとしているが、共和党議員がまとまって反対している。このままだとプランは頓挫する。
それどころか、米国では長年にわたって税務署の人員と予算を削ってきており、現行税法に規定された徴税さえきちんとできない、きわめて「異常な状態」が続いている、それが現実なのだ。金持ちによる徴税拒否が、やり放題、野放しになっている。共和党は、弱体化した内国債務庁(IRS)の徴税能力を回復させるための予算の増額にさえも反対している。現行の税法で定められた徴税を確実に実行することさえ、できていない。
バイデンの「米国家族計画」もまだプランのままで実行に入っていない。
「3大プラン」以外に、投票権の強化をめざす選挙改革や、不法移民の米市民権獲得への道を開く移民制度改革、労働組合結成要件の緩和など、バイデン政権が打ち出した法案の大半が、議会を通過する見込みが立たない。
「3大プラン」やそのほかの一連の法案成立のために、バイデンはプランの中身を変更し妥協を重ねるだろう。
バイデン政権は、「3大プラン」実行ができなくてレームダックになるか、それとも国債など政府債務の増大によって実行するか、という選択しかない。1年ほどは景気回復は続くだろうが、その先が問題だ。このままの状態が続けば、「機能不全」に陥るしかないように見える。
早晩、バイデンは身動きが取れなくなるだろう。
ミルバ追悼 [世界の動き]
ミルバ追悼
4月23日、イタリアの歌手ミルバ(1939年7月17日 - 2021年4月23日)が亡くなったと友人のUさんが知らせてくれた。81歳だったという。
<ミルバ Milva,_Gente_1972>
1975年頃、ミルバのアルバム(LPレコード)を買い求め聴いていたことがある「リリー・マルレーン」https://www.youtube.com/watch?v=Q5wZ6AX622I や『レッジョ・エミリアの死者」(”I morti di Reggio Emili”” https://www.youtube.com/watch?v=oHc18XMhFpY)があったと記憶する。LPはまだ家の中のどこかにあるはずだ。そのころすでに国際的に有名だったから、若い頃から活躍していたことになる。初めて彼女の歌を聴きその太い声に驚き、「肉食人種だナ!」と思ったことを覚えている。
ミルバの歌でまず思い浮かぶのは「ベラ・チャオ」だ。もとはロンバルディア地方ポー川流域稲作地帯の「田植え歌」(「やっと起きたところ」:Alla mattina appena alzata)として歌われていたという。「ネオ・リアリスモ」のイタリア映画『苦い米』(1949年)での出稼ぎ女たちの田植えシーンが思い浮かぶ。
https://www.youtube.com/watch?v=8GxEjrW8yiE
その民謡に第2次世界大戦中のパルチザンの詞が置き換えられて「ベラ・チャオBella Cao」として戦中から歌われ始め、戦後はイタリアのみならず欧州各地で歌われた。
「Bella Cao」をWebで検索していたら、2020年コロナ禍で閉じこもり生活を余儀なくされたイタリアの街中に住む人々が、自宅アパートのベランダに出て通り越しにこの歌を合唱しているyou tubeを見つけた。https://www.youtube.com/watch?v=3ES224nHHtA
さらに温暖化気候変動を告発する別の詞が重ねられ子供たちが歌う姿も見つけた。これはイタリアではなく北欧のようだ。「古い革袋に新しい酒を注ぎ入れる」(マタイ福音書)かのように歌い継がれていることに小さく感動した。
もう一つの9・11
また、ミルバとInti-illimaniが一緒に「シモン・ボリバル」(Inti Illimani & Milva - Simon Bolivar:youtube参照)を歌ってるyou tubeを、最近よく聴く.
https://www.youtube.com/watch?v=VY-8thtsITw
1973年9月11日、選挙で社会主義にすすんだチリ・アジェンデ政権が、米国を後ろ盾とするピノチェット将軍のクーデターによって倒された。アジェンデ政権を生み出す過程で社会変革をめざす文化運動「ヌエバ・カンシオン」(新しい歌運動)がチリで興り、人々の間に広がった。クーデターの時、欧州公演を行っていた「ヌエバ・カンシオン」グループの一つ、Inti-illimaniは、そのまま帰国できなくなり、ピノチェト政権末期の1988年までイタリアでの亡命生活を余儀なくされる。
イタリアでの亡命生活のおりに、ミルバとInti-illimaniが一緒に「シモン・ボリバル」を歌っているのだ。シモン・ボリバル (Simón Bolívar:1783年 - 1830年)は、ベネズエラのカラカスに生まれ、南米大陸のアンデス5ヵ国をスペインから独立に導き、統一したコロンビア共和国を打ちたてようとした。生涯をラテンアメリカの人々の解放と統一に捧げた人物として尊敬され、彼の名からボリビアの国名は採られている。
南米の人々の間で歌い継がれた歌を、亡命生活を送っていたInti-illimani と歌う。これもまたミルバの姿なのだろうと思いながら、追悼するのである。
4月23日、イタリアの歌手ミルバ(1939年7月17日 - 2021年4月23日)が亡くなったと友人のUさんが知らせてくれた。81歳だったという。
<ミルバ Milva,_Gente_1972>
1975年頃、ミルバのアルバム(LPレコード)を買い求め聴いていたことがある「リリー・マルレーン」https://www.youtube.com/watch?v=Q5wZ6AX622I や『レッジョ・エミリアの死者」(”I morti di Reggio Emili”” https://www.youtube.com/watch?v=oHc18XMhFpY)があったと記憶する。LPはまだ家の中のどこかにあるはずだ。そのころすでに国際的に有名だったから、若い頃から活躍していたことになる。初めて彼女の歌を聴きその太い声に驚き、「肉食人種だナ!」と思ったことを覚えている。
ミルバの歌でまず思い浮かぶのは「ベラ・チャオ」だ。もとはロンバルディア地方ポー川流域稲作地帯の「田植え歌」(「やっと起きたところ」:Alla mattina appena alzata)として歌われていたという。「ネオ・リアリスモ」のイタリア映画『苦い米』(1949年)での出稼ぎ女たちの田植えシーンが思い浮かぶ。
https://www.youtube.com/watch?v=8GxEjrW8yiE
その民謡に第2次世界大戦中のパルチザンの詞が置き換えられて「ベラ・チャオBella Cao」として戦中から歌われ始め、戦後はイタリアのみならず欧州各地で歌われた。
「Bella Cao」をWebで検索していたら、2020年コロナ禍で閉じこもり生活を余儀なくされたイタリアの街中に住む人々が、自宅アパートのベランダに出て通り越しにこの歌を合唱しているyou tubeを見つけた。https://www.youtube.com/watch?v=3ES224nHHtA
さらに温暖化気候変動を告発する別の詞が重ねられ子供たちが歌う姿も見つけた。これはイタリアではなく北欧のようだ。「古い革袋に新しい酒を注ぎ入れる」(マタイ福音書)かのように歌い継がれていることに小さく感動した。
もう一つの9・11
また、ミルバとInti-illimaniが一緒に「シモン・ボリバル」(Inti Illimani & Milva - Simon Bolivar:youtube参照)を歌ってるyou tubeを、最近よく聴く.
https://www.youtube.com/watch?v=VY-8thtsITw
1973年9月11日、選挙で社会主義にすすんだチリ・アジェンデ政権が、米国を後ろ盾とするピノチェット将軍のクーデターによって倒された。アジェンデ政権を生み出す過程で社会変革をめざす文化運動「ヌエバ・カンシオン」(新しい歌運動)がチリで興り、人々の間に広がった。クーデターの時、欧州公演を行っていた「ヌエバ・カンシオン」グループの一つ、Inti-illimaniは、そのまま帰国できなくなり、ピノチェト政権末期の1988年までイタリアでの亡命生活を余儀なくされる。
イタリアでの亡命生活のおりに、ミルバとInti-illimaniが一緒に「シモン・ボリバル」を歌っているのだ。シモン・ボリバル (Simón Bolívar:1783年 - 1830年)は、ベネズエラのカラカスに生まれ、南米大陸のアンデス5ヵ国をスペインから独立に導き、統一したコロンビア共和国を打ちたてようとした。生涯をラテンアメリカの人々の解放と統一に捧げた人物として尊敬され、彼の名からボリビアの国名は採られている。
南米の人々の間で歌い継がれた歌を、亡命生活を送っていたInti-illimani と歌う。これもまたミルバの姿なのだろうと思いながら、追悼するのである。
チョムスキー 「米支配階級は悪質な階級闘争を繰り広げている!」 [世界の動き]
フィリピンの友人がFacebokで、ノーム・チョムスキーのインタビューを紹介してくれた。2021年6月10日のYouTube番組「Weekends」で流れているそうだ。インタビューは今年初めというが、内容からしてバイデン政権になってからと思われる。
これまでの米政権や、バイデン政権にたいするチョムスキーの評価を述べているところが興味深い。とくに民主党左派がオバマに「騙され」、「家に帰り閉じこもった」のが大きな間違いだった、今後、どういった内容、方向において運動を継続していくべきか、バイデン政権に対しては街頭に出て運動を広げて、政権と民主党に圧力を加え続けることが大切だと、語っているところ、あるいはトランプがなぜ7,400万票もあつめたのか? 彼に投票したのはどんな人々であったのかについて書いているところなどが、興味深い。
現在アメリカ政治の対立の内容、方向を適確にズケッチしている。
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「米支配階級は常に悪質な階級闘争を繰り広げている!」
インタビュー :ノーム・チョムスキー 2021年6月10日YouTube番組「Weekends」
<2018年、ブラジルで記者会見を行う米のノーム・チョムスキー(Heuler Andrey AFP via Getty Images)>
1967年、ノーム・チョムスキーは、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスに米国外交政策の「象牙の塔」を批判するエッセイを公表し、ベトナム戦争批判の第一人者として登場した。多くの学者が大量虐殺を合理化する中、チョムスキーは「真実を語り、嘘を暴くことは知識人の責任である」というシンプルな原則を守った。
画期的な言語学者であるチョムスキーは、現代の他のどの知識人よりも、この原則を守ってきた。チョムスキーは、新自由主義の恐怖、無限戦争の不正、企業メディアのプロパガンダなどを、文章で暴露し批判をし続け、ニクソン大統領の「敵リスト」やCIAの監視対象にもなった人物。チョムスキーの思想に影響を受けた多くの人々と運動があり、92歳になった今も彼は、反資本主義運動の重要な代弁者であり続けている。
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アナ・カスパリアン(Ana Kasparian)とナンド・ビラ(Nando Vila)は、今年初めにジャコビンのYouTube番組「ウィークエンドWeekends」でチョムスキーにインタビューしました。その中でチョムスキーは、「歴史とは絶え間ない闘いのプロセスであり、国民皆保険制度、気候変動対策、非核化を実現するために必要な労働者階級の政治は、必ず実現できる。もっとも私たちがそのために闘う意思があれば、だが。」と私たちに語ってくれました。
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インタビュー:
アナ・カスパリアン: まずは大きな疑問から始めましょう。なぜ議会は、国民の圧倒的な支持を得ている政策を実現しないと、アメリカ国民に言い続けるのでしょうか?
ノーム・チョムスキー: そうですね、議員がどこを向いているかですね。 一つのポイントは、「資金はどこから来るのか? 誰が議員・議会に資金を提供しているのか?」です。実は、資金問題と政治を扱う第一人者であるトーマス・ファーガソン氏による、非常に優れた慎重な研究があります。ファーガソンと彼の同僚は、単純な質問を調査しました。「選挙資金と議会への当選率には、長年にわたってどのような相関関係があるのか?」。 その相関関係は、ほぼ直線的です。「直線的な相関関係」は、社会科学の分野ではほとんど見られません、資金が多ければ多いほど当選率が高くなるという、密接な相関関係が存在するのです。
実際、議会議員が当選すると、次に何が起こるかは、誰もが知っています。就任した初日から、次の選挙のために寄付者候補に電話をかけ始めます。その間に、企業ロビイストの大群が彼らのオフィスを訪れます。当選議員のスタッフは若い子が多く、大量のロビイストが押し寄せるその資源量、富、権力に完全に圧倒されてしまいます。その中から立法案が出てきて、代表者は後にそれに署名し、寄付者との電話を切ることができるときには、たまにそれを見ることもあるかもしれません。ここからどのようなシステムが生まれてくるのでしょうか?
最近のある研究によると、人口の約90%の人は、「収入と代表者の決定には基本的に相関関係がない」、つまり根本的に代表者を持っていないということがわかりました。これは、マーティン・ギレンスやベンジャミン・ペイジなどが以前に行った研究でも同様の結果が得られており、労働者階級と中産階級のほとんどが基本的に代表されていないという全体像が明らかになっています。
議会の代表者の決定には、非常に集中した選挙資金やその他の経済的圧力が反映されています。つまり、もしあなたが議会の代表者で、近いうちに議員を辞めるとしたら、どこに行くのでしょうか? トラックの運転手になりますか? 秘書になりますか?
どこに行くのでしょうか、その理由はわかっているはずです。選挙資金や経済的圧力の意向に従っておれば、楽な未来が待っているのです。
人口の大多数が代表されないばかりか、代表権が大量に奪われるのを確実にする装置はたくさんあります。1980年頃に新自由主義が始まって以来、労働者階級と中産階級からの「富の移転」と呼ばれる「攻撃」がありました。より正確には国民からの強奪について、超一流のランド・コーポレーションが数ヶ月前に調査を行いました。その試算によると、所得水準の下位90%から最上位者に移った富の額は47兆ドルです。
「富の移転」は決して小さな変化ではありません。極端に過小評価されています。レーガンが企業強盗のための蛇口を開いたとき、多くの手段が利用可能になりました。例えば、それ以前には違法でしたが、財務省が法律を施行したタックスヘイブンやシェルカンパニーなどです。どのくらいの金額が盗まれたのでしょうか? それはほとんど秘密ですが、いくつかの妥当な推定値があります。最近発表された国際通貨基金IMFの調査では、タックスヘイブンからの盗みだけで、40年間でおよそ35兆ドルにのぼると推定されています。
この盗難額をどんどん増やすとどうなるでしょうか? 小銭ではなく、人々の生活に影響を与えるのです。片手で「あなたを愛しています、あなたを救います」と旗を掲げ、もう片方の手であなたの背中を刺して金持ちや権力者に貢ぐ、トランプ流のデマゴーグが登場するための完璧な準備ができているのです。
ナンド・ヴィラ: バーニー・サンダースの後、左派は、今あなたが説明してくれたこれらの巨大な問題に対処するために、どこに力を注ぐべきでしょうか?
チョムスキー: まず忘れてはならないのは、サンダースのキャンペーンが目覚ましい成功を収めたということです。この2、3年の間に、サンダースと一緒に活動している人たちは、注目されている問題の範囲を、非常に進歩的な側にシフトさせることに成功しました。これは非常に重要なことです。彼らは、資金もなく、企業の支援も、メディアの支援も受けずにそれを成し遂げました。メディアがサンダースを穏やかに好意的に扱うようになったのは、彼が米民主党・大統領選候補の指名を失った後のことです。それまでメディアは、イギリス労働党の前党首ジェレミー・コービンのように、穏やかな社会民主主義の左に位置する者を強力な力で阻止しようとしていたのです。
サンダースのキャンペーン成功を振り返ると、あなたの質問に対するひとつの答えは、「続けること」だと思います。オバマが当選したとき、多くの左派がオバマを信じてしまったという、ひどい間違いを犯したことを思い出してください。当選当時のオバマは、特に若い人たちから絶大な支持を得ていました。多くの若い活動家や組織者がオバマ氏を当選させるために活動しました。
しかし、選挙が終わるとどうなりましたか? オバマは多くの若い活動家や組織者たちに「家に帰れ」と言いました。そして残念ながら、彼らは家に帰ってしまったのです。オバマは2年のうちに自分の支持者を完全に裏切ってしまい、その結果が2010年の選挙に現れたのです。
右翼が労働者票を獲得したのではなく、米民主党が労働者票を失ったのです。2010年には、組合員でさえも民主党の候補者を支持せず、オバマのやったことを見ていたのです。このような過ちを繰り返すべきではありません。特にバイデンについては、私の意見では、バイデンは読みが甘く、選挙資金提供者から強く迫られる可能性があります。バイデン政権の中にも、特に経済アドバイザーの中には「優秀な人」がいますし、彼らは圧力をかけることができます。
環境破壊にすぐに対処しなければ、他のことはすべて無意味になります。
例えば、気候変動。これ以上に重要な問題はありません。環境破壊にすぐに対処しなければ、他のすべてが無意味になり、話すべきことがなくなってしまいます。サンライズ・ムーブメントなどによるバイデン・ハリス陣営への大きな圧力は、彼らのプログラムをプログレッシブ側に押しやることに成功しました。十分とは言えませんが、それでも彼らのプログラムはこれまでに作られた中で最高のものです。
しかし、米民主党全国委員会(Democratic National Committee)はこのプログラムに手を加え始めました。20年8月までは、米民主党の気候変動プログラムをグーグルで検索すると、バイデン・ハリスのプログラムが出てきました。私が最後にそれを見たのは8月22日でした。その数日後、米民主党の気候変動プログラムを検索したら、そこにはありませんでした。代わりに出てきたのは、「民主党全国委員会への寄付の仕方」でした。何が起こったのかは推測するしかありませんが、争いが起こっているのだと思います。左派は決してオバマのような失敗をしないことです。権力者とその「きれいな言葉」を信じてしまえば、失敗は続くかもしれません。
同じことが企業部門にも当てはまります。彼らは怯えています。企業は「レピュテーション・リスク(評判のリスク)」と呼ばれるものを懸念しており、それは「農民が投石器を持ってやってくる」という意味です。ダボス会議でも、ビジネス・ラウンドテーブルでも、「間違ったことをしたことを世間に告白しなければならない」という議論がなされています。「利害関係者、労働力、コミュニティに十分な配慮をしてこなかったが、今になって自分たちの過ちに気づいた。私たちは、1950年代に「魂のこもった企業」と呼ばれていた、今、真に公益に貢献する企業になりつつある、つまり、今はたくさんの「ソウルフルな企業」があり、その素晴らしい人間性を世間にアピールている、人々から迫られて、時には化石燃料会社からの資金撤退などの措置をとっています」というのです。
私はこのシステムが好ましくありませんし、あなたも好きではないでしょうが、システムは存在するのですから、その中で仕事をしなければなりません。私たちは「このシステムを好まない、存在しない別のシステムを作ろう」とはまだ言えないのです。内部と外部からの圧力と運動によってのみ、新しいシステムを構築することができるのです。
ですから、たとえば、新しい政党をつくったり、労働者が所有する企業や協同組合をつくったりして、別の政治的・社会的枠組みをつくる努力をしない手はありません。要するに、私たちにはさまざまな選択肢があり、それらすべてを追求しなければならないのです。
アナ・カスパリアン: バーニー・サンダースは、人々を目覚めさせ、より多くの人々が政治を階級の観点から考えるようにすることに非常に成功したという点には同意します。というのも、選挙システムがいかに平均的なアメリカ人に対して不正に操作されているかを人々が知ることで、怒りを覚えるからです。私たちが立法者に影響を与えられないことに、人々は非常に苛立っているのだと思います。
チョムスキー: 多数の人々が政治に影響力を持たないということは、アメリカではおよそ250年前にさかのぼることができます。憲法は、明確に民主主義を阻止するという原則に基づいて制定されました。秘密にしていたわけではありません。実際、ハーバード大学法学部のマイケル・クラーマン教授による憲法制定会議に関する主要な学術研究は、『フレーマーズ・クーデター』と呼ばれています。
創設者たちのテーマは、初代最高裁長官だったジョン・ジェイがよく表現しています。「国を所有する者が国を統治すべきである」。 今日、私たちが目にしているのは、国を所有する人々が国を統治することに成功しているということです。
これは一様な手順ではなく、多くの抵抗があり、多くの勝利を勝ち取ってきました。私が子供の頃、例えば1930年代には、主に組織された労働運動(CIOの組織化、過激なストライキ、過激な労働運動)、適度に同情的な政権、そしてあらゆる種類の政治的活動が先導して、大きな勝利を収めました。
アメリカは穏健な社会民主主義へと移行し、その恩恵を今も享受してきましたが、後にその多くは削られてしまいました。アメリカ史の他の時代も似たようなものでした。19世紀後半には、労働騎士団という、今日「ポピュリズム」と呼ばれているものとは全く関係のないポピュリスト運動と、急進的な農民たちが一緒になって大きな運動を起こしていました。
これは基本的には歴史の中で続く階級闘争であり、今はその中の特定の段階にあるのです。闘争を続け、改善し、多少の後退もありますが、前進を続けています。奴隷制度は何百年もの闘争の末に克服されましたが、その後、別の形で復活し、その残滓はまだ残っています。しかし、勝利が全くないわけではありません。常に闘ってきたからこそ、物事は以前よりも良くなっているのです。
実際、この国は60年前よりもずっと良くなっています。主に1960年代のアクティビズムのおかげです。1960年代のこの国がどのようなものだったか思い出してみてください。連邦政府が資金援助する住宅は、法律によってアフリカ系アメリカ人には提供されませんでした。これは、リベラル派の上院議員が望んだからではなく、南部民主党が政策を握っていて何もできなかったからです。今世紀に入ってからもなお、ソドミー禁止法がありました。いろいろなことが変わりました。
簡単なことではありませんが、「思うようにいかないから、もうやめよう」と言ってしまうと、最悪の事態を招いてしまいます。苦労の連続です。例えば、トニー・マゾッキは現代労働界のヒーローの1人で、石油・化学・原子力労組のトップであり、アメリカで最初の本格的な環境保護活動家の1人です。最前線で働く彼の仲間たちは、公害や環境破壊などによって命を奪われてきたのです。まだ環境保護運動が盛んになる前、1970年代前半のことです。マゾッキの組合は、環境危機への対応に取り組んでいましたが、90年代に入ってから労働党の設立を目指して動き出しました。うまくいったかもしれませんが、成功しませんでした。
※ トニー・マゾッキ:(1926年6月13日– 2002年10月5日)はアメリカ人労働者リーダー。石油・化学・原子力労働組合(OCAW)の指導者、1977年から1988年まで副代表を務め、1988年から1991年まで書記兼会計。労働党の共同創設者。彼は「アメリカの職場のレイチェル・カーソン」と呼ばれた。
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レーガンに始まり、クリントン、オバマと続いた新自由主義の攻撃は、労働者を破壊するためのものでした。レーガンの選挙戦は、労働組合への攻撃で幕を開けました。サッチャーもイギリスで全く同じことをしました。新自由主義攻撃の背後で画策した人々は、自分たちが何をしているのかを理解していました。つまり、労働者の自衛能力を排除しなければならないのだ、と。
クリントンはこれを拡大しました。彼の新自由主義的なグローバル化政策は、投資家を保護し労働者をつぶすことを目的としており、それが成功したのです。これは1930年代に似ています。1920年代には、労働者は事実上つぶされていました。20世紀初頭には戦闘的な労働運動が成功していましたが、ウッドロー・ウィルソンの「レッド・スケア」の後、ほぼ壊滅してしまいました。1920年代にはほとんど何もありませんでしたが、30年代になって復活しました。これがニューディール政策や穏やかな社会民主主義につながり、私たちは今でもその恩恵を受けているのです。
私たちは再び再建することができます。実際、非常に興味深い方法でそれが起こり始めています。労働者は新自由主義政策に押しつぶされ、ストライキはほとんど行われていませんでした。労働者は、ストライキをすると潰されると恐れていました。しかし、赤い州(米共和党を支持する州)では、非組合員の間でストライキが始まったのです。ウェストバージニア州とアリゾナ州の教師は、市民から絶大な支持を得ていました。
アリゾナ州北部では、教師たちがストライキを始めたとき、芝生の上に「教師をサポートしよう!」というポスターが貼られていました。教師たちは、単に給料アップを求めていたわけではありません。それは彼らにとって当然のことですが、新自由主義の疫病に見舞われた教育制度の改善を求めていたのです。民営化、予算削減、管理主義、テストのための教育など、これらはすべて超党派的なものでした。共和党はもっと過激なので、ベッツィ・デボスはほとんど公然と全システムの破壊に専念していました。しかし、オバマ大統領の政策はあまり良くありませんでした。
私たちは再び再建することができます。実際、それは非常に興味深い形で実現し始めています。
それは、多くの人々の支持を得た教師のストライキです。他にも、看護師のストライキ、サービス・ユニオンのストライキ、GMの大規模なストライキなどが行われており、今後もこのようなことが起こる可能性があります。労働力の破壊は、極端な不平等を生み出す大きな要因となっています。ローレンス・サマーズ元財務長官のような主流派の経済学者の中にも、「労働者の自衛能力を奪ったことが、極端な不平等の主な要因だ」と結論づけている人もいます。確かに、トニー・マゾッキの創設したオルタナティブな政党(労働党)が復活する可能性を秘めている大きな要因です。
民主党全体を左派に移行するよう圧力をかけることは、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員のスクワッドなどが行っているように、効果が期待できますが、その裏には多くの民衆の行動がなければなりません。民衆の行動が「家に籠れば」、党は右派に移るでしょう。ビジネスクラスはマルクス主義者であり、常に悪質な階級闘争を行っています。彼らは決してやめません。もし、他の人々が闘争から離れてしまったら、何が起こるかわかりますよね。実際、私たちはその40年間を目の当たりにしてきました。
<1933年、ストライキ中のドレスメーカーズユニオンのデモ隊が食堂で休憩している。>
ナンド・ビラ: その階級闘争についてお聞きしたいのですが、たとえばトマ・ピケティ(仏経済学者)は、欧米の民主主義諸国では政党の階級構成がかなり顕著に変化していると指摘しています。
伝統的な左翼政党が、教育を受けたエリートの政党となり、労働者階級が締め出されているという現象が、ここアメリカだけでなくヨーロッパでも起きていますが、これについてはどうお考えですか?
チョムスキー: まずアメリカから見てみましょう。1970年代後半、つまりジミー・カーターの時代になると、民主党は労働者階級に対して、基本的に「あなたたちに興味はありません」と言いました。民主党の労働者擁護活動の最後の息吹は、1978年の「ハンフリー・ホーキンス完全雇用法」でした。カーターは拒否権を行使しませんでしたが、水増しをして歯抜けにしてしまいました。それ以降、民主党はあちこちで身振り手振りを交えながらも、基本的に労働者階級を見捨てていったのです。
クリントン政権になって、北米自由貿易協定(以下:NAFTA)は労働運動の反対を押し切って秘密裏に進められました。労働者は、投資家の権利に関する協定という枠組みがどのようなものか、最後まで知らされていませんでした。労働諮問委員会は、NAFTAの代替プログラムを発表し、「もっと良い方法がある。民主党執行部版は低成長、低賃金の経済になるだろう。高成長、高賃金の経済を実現する方法がある」と主張し続けました。
クリントン政権のプログラムは、議会の研究機関である米国議会技術評価局(Office of Technology Assessment)のプログラムとほとんど同じでした。しかし、誰も労働者に注意を払わず、行政府も気にしませんでした。労働者たちが望んでいたのは、自分たちのバージョンのNAFTAでした。NAFTAは基本的に投資家の権利協定であり、働く人々を無権利状態で競争させるものだったのです。
クリントン政権下のNAFTAでは、企業は非常に高いレベルで労働者の組織化活動を壊すことができました。企業をメキシコに移すと脅すだけで、労働者の組織化活動の約50%が壊されました。その脅しは深刻なものではありませんでしたが、組織化活動を壊すには十分なものでした。これは違法行為ですが、犯罪国家であれば、違法行為を実行することができます。コーネル大学の労働経済学者であるケイト・ブロンフェンブレナーの研究によると、先ほど説明したように、組織化活動の約50%が、企業を移転させるという脅しによって違法に壊されたという結果が出ています。これはほんの一例に過ぎません。
2008年、労働者はオバマ大統領に投票しましたが、2010年にはオバマ大統領の公約の意味を理解した労働者はいなくなりました。当時は、住宅市場の崩壊による巨大な金融危機の真っ只中でした。ジョージ・W・ブッシュ政権下の議会では、TARP(不良資産救済プログラム)法案が可決され、この問題に対処することになりました。
この法案には2つの要素があります。1つは、危機の原因となった銀行を救済するためのもので、銀行は略奪的な融資慣行やその他の不正な半犯罪的行為によって危機を引き起こしました。もう1つは、差し押さえで家を失い職を失った被害者を救済するための法案です。
アメリカの歴史や政治に詳しい人なら、オバマ大統領がどちらの法案を実行に移すか予想できたはずです。2年も経たないうちに、労働者階級、それも組合員である労働者階級は、「この政党は我々のために働いていない、彼らは我々の敵だ」と言い出しました。「彼らは我々の敵だ」と言ったのです。
労働者階級はどこに行けばいいのか? 「伝統的なアメリカを取り戻し、仕事を与えてくれると主張する人たちのところに行けばいい。」 もちろん、そんなことはしないでしょうが、少なくともそう主張しています。トランプの有権者をよく調べてみてください。彼らの多くは、「ああ、トランプは嫌な奴だし、何もしないことはわかっている。でも、少なくとも彼は私たちのことを好きだと言っている」と言います。
トランプは立ち上がって、「俺はお前と一緒だ。君には頑張って欲しいんだ。私は君のように行動する。」 ジョージ・W・ブッシュのようにね。彼は毎週末、テキサスの農場に行って、気温華氏100度の中で木を切っているところを撮影させて、自分が本当の普通の男であることをアピールしていたのを覚えているでしょう。彼は退任後、テキサスに戻ることはなかったと思います。
トランプの有権者について最も入念に調査したのは、左派の社会科学者であるアンソニー・ディマジオ氏です。ディマジオは最近、2020年のトランプの有権者について、これまでにわかっていることを分析しましたが、それによると、やはり福音派や白人至上主義者を除けば、トランプの主な投票基盤は基本的に10万ドルから20万ドルの収入を持つ小市民的なブルジョアであることがわかりました。それは労働者ではなく、中小企業の経営者や保険のセールスマンなどです。それがメインのベースになっているようで、2016年から大幅に増えたのはその部分だけのようです。
多くの働く人たちは、「少なくともトランプは私たちにいいことを言ってくれる。民主党は何もしてくれない」と。例えば、南テキサスを例にとると、ウォーレン・ハーディング(Warren Harding, 1865年11月2日 - 1923年8月2日)は、アメリカ合衆国の政治家。第29代大統領)以来、100年間共和党に投票したことがなかった南テキサスが、なぜトランプに向かったのかについて、多くの研究がなされています。これらはメキシコ系アメリカ人のコミュニティです。なぜ100年間も民主党に投票していたのに、それを破ったのか? まず第一に、米民主党は組織化の努力を少しもしませんでした。「彼らはヒスパニックだから、我々に投票してくれる。知ってのとおり、人々は共和党を好まないから。」
しかし、もっと恐ろしい理由がありました。ここは石油産出地域です。彼らが耳にしたのは、「頭の尖った金持ちのリベラル派が気候危機を主張しているから、バイデンは我々の仕事を奪おうとしている」という言葉だけでした。もし民主党が労働者のことを少しでも気にかけていたら、彼らはそこでこう言っていたでしょう。「いいですか、気候危機があり、私たちは化石燃料から移行しなければなりません。しかし、より良い仕事、より良い生活、より良い経済を手に入れるには、持続可能なエネルギーと建設的な開発に向けて、産業の変革に取り組むことが必要です。」
それがオーガナイザーの仕事だからね。民主党は、労働者階級は彼らの構成要素ではないので、気にしませんでした。だから、南テキサスの人々は、「俺がお前たちの仕事を取り戻してやる」と言う男(トランプ)に投票したんです。
アナ・カスパリアン: 共和党が将来、合法的かつ誠実に労働者階級の政党になれるかどうか、という議論が続いていますね。もちろん、私たちは懐疑的ですが、レトリックが変化してきています。
チョムスキー: まず第一に、労働者はどこかに投票する必要があります。もし、民主党が「我々はあなたのことなどどうでもいい。我々はウォール街と金持ちの為の政党だ。イベントにはハリウッドスターを招いている。我々以外に誰があなたがたのことを気にかけていると思うのか?」と言われれば、「私はあなたが好だ。あなたのように行動する。エリートは嫌いだ」という男(トランプ)に投票します。たとえトランプが労働者たちのために何もしていなくても、実際には騙していても、彼らはその男に投票します。
「労働者階級を支持している」と主張する共和党員を見たいなら、彼らの投票方法を見てください。トランプ政権の1つの立法上の成果である、大金持ちに巨額の資金を与え、労働者階級を後ろから刺している税金詐欺について、彼らがどう投票したかを見てください。
CARESプログラムの運営方法についての投票はどうだったのでしょうか? 資金は銀行に渡り、銀行はその資金の分配方法を決定し、金持ちの顧客に与えるというものです。実際の立法行為を見てみましょう。「私は労働者のために働いています」と言うだけならとても簡単ですよね? 人々は 「少なくとも彼は我々を好きだと言っている」と言うかもしれません。
人々は、もし投票したとしても、ただ不満を感じて投票しているのです。だから、建設的な代替案がない限り、人々は運動に参加しようとはしません。
人々は、もし投票したとしても、ただ不満があるから投票しているのです。覚えておいてほしいのは、人口の半分近くが気にも留めなかったということです。つまり、建設的な代替案がない限り、人々は運動に参加しようとはしません。しかし、サンダースの選挙期間中、ほとんどのリベラル派のコメンテーターは「彼の提案はとても良い。しかし、アメリカの人々にとっては過激すぎる」と言っていました。
どのような提案が過激すぎるのでしょうか? サンダースのプログラムを見てみると、トップは国民皆保険です。国民皆保険制度のない国を知っていますか? フィナンシャル・タイムズ紙の主任特派員のひとり、ラナ・フォロハーは、冗談半分に、もしサンダースがドイツにいたら、右派政党であるキリスト教民主党のプログラムで走ることができただろう、というコラムを書いています。もちろん、彼らは国民皆保険制度に賛成していますが、そうでない人はいないでしょう。
もうひとつのプログラムは、高等教育の無償化です。繰り返しになりますが、これは世界中ほとんどどこにでもありますし、さらにいい制度の国にもあります。フィンランド、ヨーロッパ、メキシコなど、どこでも見られます。それがアメリカ人にとって過激すぎると? つまり、それは主流派の左端から来たアメリカ人に対する侮辱なんです。左派、つまり本物の左派ならば、それを打破して、サンダースが持っているプログラムは、ドワイト・アイゼンハワーもさほど驚かなかっただろうと言えるはずです。
アイゼンハワーは強力なニューディール主義者でした。アイゼンハワーは、ニューディールに疑問を持つ者はアメリカの政治システムに属さないという立場をとっていました。新自由主義の時代には、エリートレベル、つまり権力レベルで物事が右に大きく移動してしまい、少し前まで何が普通だったのかを思い出すことができません。左派は、労働運動を復活させ、労働党に移行し、民主党のリベラルな部分を適度な社会民主主義的な目的に向けて圧力をかけることで、人々の心をつかむことができます(特に気候変動のような問題について)。
核兵器の問題についても触れておきましょう。これはあまり語られていません。核兵器は、私たちの存在に対する大きな脅威です。その脅威は非常に高まっています。トランプ大統領が犯した多くの罪の1つは、軍備管理システム全体を解体し、非常に危険な新しい兵器システムの構築に向けた動きを始めたことです。これらの動きを速やかに止めなければ、私たちは深刻な問題に直面します。他のことでは意見が違っても、人類が生き残るために文字通り必要不可欠なものがあるのです。
ナンド・ビラ: 気候変動が存亡の危機であることには誰もが同意していますが、資本主義を何らかの方法で超えない限り、気候問題を真に解決することはできないように思えます。その解決案を私たちは伝統的に社会主義と呼んできました。社会主義を「ある種の政治的な地平線」として考えることは、今でも有効だと思いますか?
チョムスキー: 社会主義は気候変動に対し有効な対案ですが、覚えておかなければならない事実もあります。そのひとつがタイムスケールです。私たちが環境危機に決定的に対処しなければならないのは、あと10年か20年です。私たちは、数十年で資本主義を転覆させることはできません。したがって、気候危機を解決するには、新自由主義ではなく、ある種の規制された資本主義システムの中で解決しなければならないことを認識しなければなりません。
資本主義といっても、さまざまな種類があります。そこで、新自由主義以前の時代、いわゆる規制資本主義の時代に戻り、解き放たれた資本主義の破壊的な行き過ぎを、政府が真剣にコントロールするという枠組みの中で、進むべき道があるのです。
私たちは、仕事を持つことは素晴らしいことだと考えています。しかし、産業革命初期の労働者は、仕事を持つことは、本質的な人権と尊厳に対する根本的な攻撃であり、わいせつなことだと考えていました。
一方、私たちは、あなたがおっしゃったように、資本主義を弱体化させるための努力をすべきです。例えば、伝統的な社会主義者が常に理解していた資本主義の根本的な悪である「仕事を持たなければならない」という事実があります。
私たちは、仕事を持つことは素晴らしいことだと考えています。産業革命初期の労働者は、仕事を持つことは、本質的な人権と尊厳に対する根本的な攻撃であり、卑猥なことだと考えていました。「賃金労働は、自由人になるまでの一時的なものであるという点で、奴隷制とは異なる」というのが、リンカーン政権下の共和党のスローガンになったほどです。
自由とは、労働者が自分の属する企業を支配することで実現できるものです。最近増えている労働者所有の企業のように、一段階で実現することもできますし、エリザベス・ウォーレンやサンダースが提案している企業の経営委員会に労働者を代表させるように、何段階かに分けて実現することもできます。
労働者代表制はそれほど急進的なものではありません。保守的な国であるドイツにはありますが、これは一歩前進です。しかし、これは一歩前進にすぎません。さらに、資本主義システムの仕組みを変えるために、労働者が所有する企業を設立するなど、実際に現場で直接行動することで前進することができます。
炭素税を導入するなら、黄色いベスト運動を起こしたフランスのようなやり方はやめたほうがいいでしょう。労働者階級に打撃を与えるように設計された炭素税は、反乱を引き起こします。炭素税を導入して、その収益を累進的に国民に還元すれば、労働者階級にもメリットがあります。確かにガソリン代は少し高くなりますが、それ以上の見返りがあるのです。
医療費も同じです。国民皆保険制度を導入すれば、莫大なお金を節約できますが、税金は高くなります。以上が左翼の試練です、教育、組織、活動家。これは非常に広い範囲でチャンスがあると思います。しかし、何をすべきかを知っているだけでは不十分で、それを実行しなければならないのです。
アナ・カスパリアン: 普通の人々に利益をもたらす真の変革のために戦うことができると、どのようにして楽観的でいられるのですか?
チョムスキー: 一つの簡単な方法は、私がスクリーンで見ているものを、皆さんも見ることです。あなたのような人はたくさんいます。
楽観的な人もたくさんいます。私たちよりも劣悪な環境にあっても、彼らは諦めません。私たちには、彼らが夢にも思わないようなチャンスがあります。
私はもう年を取りすぎているのであまりできませんが、以前は世界の最も貧しく落ち込んでいる地域を旅して回っていました。ラオス、コロンビア南部、トルコのクルド人居住区、パレスチナ難民キャンプなど、世界で最も貧しい地域を回っていました。楽観的な人はたくさんいます。私たちよりも劣悪な環境でも、彼らは諦めません。私たちには、彼らが夢にも思わないようなチャンスがあります。彼らはあきらめずに戦っています。
コロンビアの貧しい農村に行くと、高速道路から何時間も離れた場所にあります。その地域に着いて最初に目にするのは、小さな墓地で、最近の準軍事組織による攻撃で殺された人たちのための白い十字架の墓です。町に入ると「歓迎する、食事をしなさい」集会に行くと、彼らは隣の山を、水源を破壊する企業の捕食者からどうやって守るかを話しています。
しかし、彼らは楽観的に闘っています。このような人々をいたるところで目にすることができれば、私たちの特権や優位性をもってしても、彼らの楽観主義に共感しないわけにはいかないでしょう。
(インタビュー終り)
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以下は、チョムスキーの主張に対するコメントです。
チョムスキーの主張は興味深く、多くの点で賛同します。
米民主党に対して、決して社会的な運動を停止することなく、常に政権と米民主党に圧力をかけ続けることを粘り強く追求するというチョムスキーの主張は、米政治を牛耳っているエリート層に対し闘ってその主導権を奪っていくために絶対に必要です。そればかりではなく、現代の米政治をいま闘っている人々、運動体、主張をそのままは表現しているのだと思います。チョムスキーのこういう米政治の現況判断と運動の目標提示にまったく賛同します。
ただ、下記の通り、いくつかの疑問もあります。
1)気候変動にどう対処するか? 気候変動の危機に対して、「社会主義」というプランはどうかと尋ねられ、次のように答えています。
「・・・社会主義は気候変動に対し有効な対案ですが、覚えておかなければならない事実もあります。そのひとつがタイムスケールです。私たちが環境危機に決定的に対処できるのは、あと10年か20年です。私たちは、数十年で資本主義を転覆させることはできません。したがって、気候危機を解決するには、新自由主義ではなく、ある種の規制された資本主義システムの中で解決しなければならないことを認識しなければなりません。」
斎藤幸平氏は、気候変動による危機に対し、資本主義のもとでは不可能であり、資本主義を廃絶し「脱成長コミュニズム」に転換しなければならないと述べていましたが、チョムスキーは「直ぐには資本主義を転覆させ、社会主義、あるいはコミュニズムに転換できないので、規制された資本主義システムのなかで解決しなければならない」と主張しています。
チョムスキーの主張は「現実的な判断」だと思いますが、果たして「規制された資本主義」で気候危機を解決できるのか? あるいは「規制された資本主義」さえも、資本の価値増殖運動と抵触するのであるから反対したり抵抗する資本は存在するわけで、気候危機を回避できる水準まで実現できるのか、斎藤幸平氏ならずともおおいに疑問があります。
2)生産協同組合、あるいは「ニュー・ラナーク」 チョムスキーは、「・・・・・・・最近増えている労働者所有の企業のように、一段階で実現することもできますし、・・・」、「さらに、資本主義システムの仕組みを変えるために、労働者が所有する企業を設立するなど、実際に現場で直接行動することで前進することができます。」と述べています。
資本主義のもとで、「生活協同組合」(=「消費協同組合」)にとどまらず、企業、あるいは「生産協同組合」を組織することを主張しています。ロバート・オーエンの組織した「ニュー・ラナーク」のような生産協同組合、あるいは「労働者の所有する企業」であろうと理解します。
このような試み、あるいは経験は貴重だと思いますが、しかし、資本主義のもとでは、「ニュー・ラナーク」がたどった経過のように、資本との競争で敗退を何度も重ねてきたのもまた事実だと思います。それは、生活協同組合やオルター・トレードなどで、私たちは経験を重ねています。資本の価値増殖運動を否定する、あるいは徹底して批判する連合体(アソシエーション)を人々は立ち上げては、資本との競争に敗け、破壊される過程を繰り返しています。
チョムスキーの「主張」がどういうものか、きちんと理解していませんが、「生産協同組合を設立し、失敗していく」試み、そして数々の失敗を含んだ多くの経験を重ねることで、次のプランが次の世代のなかに生まれ立ち上がって来るだろうと主張しているのでしょうか?
あるいは、資本主義のもとでも、「生産協同組合」、「ニュー・ラナーク」、あるいはそれに類する人々の「連合体」(アソシエーション)をつくっていき、広がっていけば、権力の獲得なしに、資本主義の廃絶が可能であり、未来社会が到来するというのでしょうか?
インタビューだけ聞いても、どちらなのか判別できていません。何れにしても資本主義を廃絶し、未来社会へ移行するその「移行形態」、「道筋」が、明らかではありません。「まず労働者が権力を奪取して、主要産業を国有化し民主的に統制し、大資本の権力の基盤を奪い、社会主義に移行する」(=「革命」)という「移行形態」について、ソ連社会主義の失敗から、ロシア革命のような「移行形態」に触れないで、あるいは否定して、自己を峻別して、別の道筋を探るかのような「対応」を示しています。果たしてそのような態度で済ましていいのでしょうか?
チョムスキーが「アナキズム」を掲げているのも同じような意味合いなのか、すなわち「あいまい」、あるいは意図的に「不明確」にしているからなのか、どうなのか判別できていません。
いずれにせよ、資本主義をどのように廃絶するのか? どのような「移行形態」を構想するのか? について、私の理解によれば、「曖昧な記述」のままになっているように思われます。 現在のアメリカ社会で主張できる「限界」によるものなのでしょうか?
チョムスキーの主張の「見極め」については、引き続き検討したいと思っています。
中国に対抗した軍事力強化に踏み込むな! [世界の動き]
中国に対抗した軍事力強化に踏み込むな!
中国脅威論、尖閣問題を口実に対立を煽るな!
1)バイデン政権の外交の柱は対中国強硬路線
<航空自衛隊の「パトリオットPAC3」出典:航空自衛隊ホームページ>
5月3日から5日までロンドンで主要7カ国G7(米、日、独、仏、英、伊、加)外相会議が開かれ、中国の南シナ海、東シナ海などでの行動に対し「深刻な懸念」を示す共同声明を発表した。「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、「両岸問題の平和的解決を促す」ことを盛り込んだ声明の内容は、4月16日のワシントンでの菅首相とバイデン大統領との日米首脳会談後の共同声明とほぼ同じだ。
外相会議には米国が「中国包囲網Quad」に入れようとするインド、オーストラリア、韓国、南アフリカ、東南アジア諸国連合(ASEAN)がゲストとして招かれていた。
バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、対中政策こそが最重要課題なのだ。米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎない。
バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、正確にいうと「できないことを理解している」。米国一国で対処する力量はないのだ。日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する。すでに米国は日本を含む同盟国の軍事能力の整備(=ミサイルシステムの配備)、財政的負担を求めている。
2)米戦略:Quadを「アジア版NATO」に!
バイデン大統領は4月28日の施政方針演説で、「欧州でNATOと共に行っているようにインド太平洋地域で強力な軍の存在を維持する」と述べ、対中強硬路線を実行するため米国は日本、インド、オーストラリアと4カ国の連携(「米日豪印戦略対話:Quad」)でNATOに似た対中国包囲網を形成しようとしている。共同軍事演習もすでに何度か行っている。中国の潜水艦基地のある海南島周辺で、明確に仮想敵を中国とした対潜哨戒のQuad軍事演習に自衛隊は参加している。
日本はその先鋒をかついで包囲網形成に努めている。
しかし、米国の思惑通りに進むか否か、疑問だ。米国はQuadを「対中包囲軍事同盟」にしたがっているが、インドはこれを嫌い、より緩やかな「開かれたインド太平洋」という表現を強調している。元々インドは非同盟運動の中心を担ってきたし、当時の米国は非同盟運動を敵視してきたため、インドの軍備はソ連から調達した。現在も米国の反対を無視して、ロシアから対空ミサイル「S400」を導入し、米国だけに依存しないように巧妙な政策をとり続けている。経済関係でも2018年のインドの輸出の9.1%、輸入の14.5%は香港を含む中国との取引だ。そのため、Quadにはあまり乗り気ではない。
オーストラリアは、18年の輸出の34.1%が中国向けで、中国との経済関係は緊密だ。モリソン豪保守党政権が中国にコロナウイルス感染の情報開示を求め、トランプ政権と一緒になって中国政府の「責任」を追及するという無責任なキャンペーンに加わった。これに対し中国は抗議するとともに、豪州からの輸入規制を実施し、現在の豪中関係は最悪の状況となっている。軍事的には、オーストラリア軍は、陸軍2万9000人、戦闘機89機、やや旧式の潜水艦6隻、駆逐艦2隻、フリゲート8隻という小規模な軍隊で、中国と軍事的に対抗する上であまり役立たない。
Quadを「対中包囲軍事同盟」にするために米国が最大の期待を寄せているのが日本だ。陸上兵力15万人、戦闘機330機、潜水艦22隻、軽航空母4隻を含む水上艦51隻を有する自衛隊となる。
しかし、米国の対中強硬戦略にひたすら追随することは、日本の安全保障と利益に合致しない、私たちにとってはきわめて危険な事なのだ。
3)「台湾有事」はあるか?――米司令官「6年以内に台湾有事」
米国のインド太平洋軍司令官に4月30日就任したジョン・アキリーノ海軍大将は、就任前の3月23日、米上院軍事委員会で、「中国の台湾侵略は思いのほか早く来ると考える。6年以内に軍事行動を起こす可能性がある」と述べた。前任のデイビットソン司令官も同じ発言をしていた。
どうして6年以内なのか? その根拠は?
1996年に「台湾独立派」とみなされていた李登輝氏が台湾総統に選ばれる時、中国は(愚かにも)ミサイルを威嚇発射したが米空母2隻が南シナ海に出てくると、軍事力に劣る中国はたちまちのうちに威嚇をやめたことがある。これを契機に中国は米国に対抗する「接近阻止・領域阻止」を掲げ、「海軍力、空軍力の増強を図り、2027年には軍の現代化を達成する」としてきた。その2027年まで6年以内であることを根拠に言っているに過ぎない。
軍人は予算獲得のために、えてして「危機」を唱えがちで、いわば「毎度のこと」である。米軍・米政府は知ったうえで、対中国強硬路線のために、ウソを煽っている。こんなウソを、情勢をキチンと評価もしないでまともにとりあげる方が滑稽だ。日本のメディアのことを言っている。「危機」は中国からもたらされてはいない。米政府・米軍が米国内で煽っている反中国感情の高まりこそが、「危機」の発信源だ。武力紛争が起きる可能性を完全に否定はできないとすれば、その根拠は「台湾有事論」を煽る米国政府と米軍にある。これは対中国強硬戦略の一部なのだ。
中国が台湾に軍事侵攻する可能性、現実性はない。台湾が戦場になれば密接に結びついた台湾―中国の経済関係が破壊され、例えば、台湾(TSMC)から半導体が入ってこなくなる。世界一の貿易国・中国は大混乱に陥り、中国経済は大打撃を受ける。中国にとって当面は「現状維持」が最も現実的だ。
一方、台湾の人々のほとんどは、「独立」したいわけではないし、「統一」したいわけでもない。8割以上の人が「現状維持」が一番いいと認識している。(台湾の世論調査の結果)。
バイデン政権と米軍は、まるですぐにでも戦争の危機が迫っているかのような言い方を吹聴しており、日本政府は無批判にそのまま追従している、というのが現状なのだ。
4)日本政府は尖閣での対立を煽るな!
日本政府が尖閣諸島での中国との対立を煽るのも、米政府が「中国脅威論」「台湾有事」を煽るのと同一の目的からきている。米国の対中国強硬戦略に呼応し、中国との対決をにらみ日本の軍事力を強化するための国内世論づくりの宣伝なのだ。もちろん違いもある。尖閣問題では、日本政府が米国支配層に意図的に操られている面があることだ。
尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。米国でさえ尖閣を日本の領土とは認めていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民があえて誤解するように宣伝している。
それから日本政府が主張する「固有の領土」論自体が、国際的には通説ではない。「固有の領土論」よりも、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約、日中共同宣言、日中平和条約などを最新の条約などを尊重するのが、国際的な常識である。
かつて日中国交回復時の難問は、尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して、締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。
しかし、外務省、日本政府は対応を変え、こっそりと「棚上げ合意はない」という主張を始めたのである。自民党内で小泉、安倍が、外務省内では「アメリカンスクール」が主導権を握るに至ったことと相応する。
2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。仕掛けられた「策」にそのままはまり、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。中国政府は抗議し、「領土権は棚上げ、施設権は日本」という合意を、日本政府から破棄したとみなすに至っている。
このような経過を決して忘れてはならない。しかし、日本国民の多くは無自覚だ。
5)中国の軍事力は?
2020年、世界の軍事費はコロナ禍にもかかわらず、前年比2.6%増の約214兆円(過去最高額)にまで増加した。
各国とも経済はマイナス成長で税収減少、コロナ対策で厳しい財政運営なのに、軍事費は増加した。サイバー攻撃、宇宙空間、ミサイル防衛システムの強化など、内容が変わりつつある。
2020年各国のGDPと軍事費、 軍事費のGDP比
1)米国: 2,200兆円、 84兆円(7,780億㌦) (4.4%増) 3.8%
2)中国: 1,500兆円、 27兆円(2,520億㌦) (1.9%増) 1.8%
3)日本: 520兆円、 5.3兆円 1%
米国の軍事費は、突出しており世界の軍事費の約4割を占める。中国の軍事費はGDPとともに急増している。額は世界2位であるが、米軍事力に比べればまだ「防衛的」であると言えるところはある。
中国は核兵器(ICBM,SLBM)を約200発保有している、米国、ロシアの各約9,000発に比べれば数は少ない。核軍拡競争はしないという立場をとってきたことになる。中国は核保有国5ヵ国のなかで唯一、「核兵器の先制使用はしない」と宣言している。
中国の通常兵器は、ミサイル中心である。米国のように空母群で世界中に出かけるような攻撃的な軍備はこれまで持って来なかった。日本・韓国・グァムなどの米軍基地や米韓・米比軍事演習によって、中国は長らく軍事的に包囲されてきた。それへの対抗から、中国は東海岸に1,250発(米国防総省による)の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)を配備するに至っている。中国は米ソ(のちに米ロ)間のINF(中距離ミサイル禁止)条約に入ってこなかった。陸海空軍に加えミサイル軍を創設している。
現代の最強兵器はミサイルである。一旦戦争が始まったら、戦闘初期において空軍基地、空母をミサイルで破壊すれば戦闘機を含めた空軍攻撃力を無化できる。中国の東海岸に配備されたミサイルは、日本の米空軍基地、日本近海の米空母を狙っている。自衛隊の迎撃ミサイルシステム(イージス艦、PAC3など)は、性能からしてそもそも当たらない、旧式の兵器になりつつある。万が一当たったとしても1,250発を同時に撃ち落とせるものではない。
中国にとって1,250発の短・中距離ミサイルは「防衛的」ではあるが、日本国民にとっては米軍基地が日本にあることから、きわめて危険であり「脅威」なのだ。日本国民はこの現実を知らなくてはならない。
台湾有事、もしくは米中戦争が起きたら、日本にある米軍基地は攻撃の対象になる。米軍の戦争に自衛隊が参戦したら、自衛隊基地も攻撃対象となる。ミサイル兵器の性能から、南西諸島の自衛隊基地は全滅する。自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時に全滅する。日本の他の米軍基地もすべて破壊される。短・中距離ミサイルは、グァム基地までは届くが、ハワイや米本土には届かない。しかし、日本全土は射程内に入っている。
米国にとっては、「台湾有事」でも米本土は被害を受けないが、中国、台湾、日本、韓国は違う、戦場になり、大きな被害を受けるのだ。
米国政府による日本のミザイル整備によって、仮に台湾有事で戦争になったとしても、被害を受けるのは台湾や日本、中国であり、米国ではない。米政府にとって、「日中共倒れ」こそ日本へのミサイル整備の現実的な狙いなのである。
ほとんどの日本人はこういった現実を理解していない。
それから、「台湾有事」となっても、米国の核ミサイルは発射しない、「地域紛争(台湾)のためにニューヨークを危険に陥れることはしない」(H・キッシンジャー)。
したがって、日本にとって、米国とともに中国と戦争をするという選択肢は、絶対にありえないことなのだ。
6)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ(米ランド研究所)
東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実もキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。
「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」時代が到来している。米シンクタンク・ランド研究所のレポートは、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。
ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」のレポートによれば、
○中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。この地域の米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
○アジアの米空軍基地は、戦闘の初段階の中国のミサイル攻撃によって、無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、一瞬にして空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。
○中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
○米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。
7)菅政権は、どうするのか? 4月16日の日米首脳会談で何を決めたのか?
米バイデン政権は、中国の軍事力に対抗した日本の軍事力の強化を菅首相に求めた。具体的には、中国に対抗した短・中距離ミサイルシステムの配備だ。そのために首脳会談でわざわざ現実性のない「台湾有事」に言及し、「脅威」を煽ってミサイル配備をやろうとしているのである。
日本の短・中距離ミサイル配備は他国に届くから「専守防衛」ではなくなる、憲法に反する。憲法を無視しなければ短・中距離ミサイルを配備はできない。2019年から言われてきた北朝鮮のミサイルに対抗するため「敵基地攻撃能力」が議論が、この動きと照合する。軍事的にみて北朝鮮は脅威ではない、「敵基地攻撃能力」の本当の狙いは、中国である。韓国への米高高度防衛ミサイル(THAAD)配備がそうであったように。
日本の配備する中距離ミサイルは、核ミサイルではない。中距離ミサイルの射程(当初は1000㎞程度としているが、いずれ5,500km)からすれば、他国(中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアなど)に届く。これまで自衛隊は専守防衛だから、他国に届く兵器を持ってはいけないとしてきた。「専守防衛」なので、持ってはいけない兵器として、①大陸間弾道ミサイル、②攻撃型空母、③長距離戦略爆撃機の3例が国会で例示されてきた経緯がある。(田岡俊次『目からウロコ』)
米国の凋落が目立ってきた現在、バイデン政権にとって、対中国強硬政策が外交・軍事のすべてである。これを米国単独ではもはやできない、したがって、同盟国である日本に中国の軍事力に対抗できるミサイル配備を中心とした軍事力強化を行え! 実質的には中国と日本で戦争をしろ!と要求しているのだ。日本の軍備の根本的な転換を求めているのである。
4月16日の日米首脳会談で、菅首相は米国の要求に応じる方向で合意した。きわめて危険だ。
ミサイル配備は米国製の高価格のミサイル、監視衛星その他を買わなければならない。現在は、イージス艦、PAC3などのように「ミサイル+レーダー」だが、すでに時代遅れになりつつある。今後は「高性能高速ミサイル+監視衛星」のシステムになるだろう。そうすれば、ミサイルシステムの導入のために、長年にわたって莫大な金額を支出し続けなければならなくなる。
中国のミサイルに対抗しようとすれば、軍事・外交的ばかりか、財政的にも破綻するのが目に見えている。米国の戦略のために、日本が税金を投入し米国製の高価なミサイルシステムを開発費を負担したうえで購入し、更新し続け、日本の安全保障を危険に晒そうとしているのである。
菅政権は対中強硬戦略に米国とともに踏み込む姿勢をみせているが、日本にとって、米国と共同して中国の軍事力に対抗し、ミサイル軍事力を強化するという選択肢は、きわめて危険であり、絶対にありえないことなのだ。
8)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ
日本にとって最大のリスクは、米中の対立が管理不能な状態となって戦争に至ることだ。日本は米中戦争の戦場となる。
現在は、米中対立と戦争の回避を、わが国の安全保障の最大の目標と位置づけなくてはならない時だ。それなのに菅政権は、米国の対中国強硬戦略に従い日米同盟の抑止力強化を図っており、そのことがかえって戦争の誘因となりかねないにもかかわらず、あえて危険を増大させる方向へ踏み込んでいる。
果たして国際情勢を理解しているのだろうか? ほとんどわかっていない。それゆえ無頓着、無責任な態度をとっているとしか見えない。あるいは、オリンピック開催へ突き進んでいるのと同じように、日本政府は、破綻するまで、いったん決めた路線を修正したり、転換できない「体質」となっているということなのか!
今なすべきことは、米中間の対立回避、戦争回避である。そのために日本は米国の影響から徐々に離れ、日中関係の改善を図るべきだ。それ以外に選択肢はない。米中戦争の戦場となる他の東アジア諸国と共同して、対話を求める努力を始めなければならない。
ASEAN諸国、韓国、ニュージーランドはすでにそのように振る舞っている。
そのためには憲法9条を表に立てて交渉するべきである。唯一の戦争被爆国であるという事実は、世界政治のなかで、日本に特殊な立場を与えてきたし、現代世界のなかで新たに現実性を帯びてくるだろう。また、沖縄戦という民間人を巻き込む悲惨な戦争を経験した国、平和時において東アジアとの連携のうちに経済発展を遂げた国として発信するメッセージも、今なお世界にとって意味あるものとなる。そういった方針を実行できる政権に変わらなければならない。
米国の都合による米中対立の枠内で、日中関係を改善することは絶対にできない。軍事的対立を煽る米国政府の政策に全面的に協力して、東アジアで平和的関係を打ち立てることはできない。ましてや中国や北朝鮮に対抗しミサイル軍事力を強化してはならない。敵基地攻撃能力の保持、自衛隊ミサイルの長射程化や艦艇のプレゼンスなどは、緊張を引き起こし対立と戦争の危険を高め、日本の安全保障を破壊し日本国民を危険な事態へと追い込むばかりである。
その一方で、中国に対しては、米国の庇護のもとにではなく日本が独自に働きかけなければならない。米国と一緒になって強面(こわもて)で向き合うばかりではいけない。日中関係の改善のためには、まず尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。「こっそりと」ではなく、「明確に」だ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを正式に打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。いたずらに対立を煽ってはならない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。人の住まない島をめぐって争う意味はない。米軍事力を頼みにして、「虎の威を借りる狐」の態度をとってはならない。
自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力比較からすればすでに大差がついている。中国に対抗して軍拡競争をすべきではない。
対立と戦争の原因となる政策を即刻やめるべきだ。外交交渉によって対立や戦争が起きる原因、要因をひとつひとつ慎重に潰して行かなくてはならない。そうして平和的な関係をつくり上げていくのが、私たちの望みだ。
中国脅威論、尖閣問題を口実に対立を煽るな!
1)バイデン政権の外交の柱は対中国強硬路線
<航空自衛隊の「パトリオットPAC3」出典:航空自衛隊ホームページ>
5月3日から5日までロンドンで主要7カ国G7(米、日、独、仏、英、伊、加)外相会議が開かれ、中国の南シナ海、東シナ海などでの行動に対し「深刻な懸念」を示す共同声明を発表した。「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、「両岸問題の平和的解決を促す」ことを盛り込んだ声明の内容は、4月16日のワシントンでの菅首相とバイデン大統領との日米首脳会談後の共同声明とほぼ同じだ。
外相会議には米国が「中国包囲網Quad」に入れようとするインド、オーストラリア、韓国、南アフリカ、東南アジア諸国連合(ASEAN)がゲストとして招かれていた。
バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、対中政策こそが最重要課題なのだ。米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎない。
バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、正確にいうと「できないことを理解している」。米国一国で対処する力量はないのだ。日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する。すでに米国は日本を含む同盟国の軍事能力の整備(=ミサイルシステムの配備)、財政的負担を求めている。
2)米戦略:Quadを「アジア版NATO」に!
バイデン大統領は4月28日の施政方針演説で、「欧州でNATOと共に行っているようにインド太平洋地域で強力な軍の存在を維持する」と述べ、対中強硬路線を実行するため米国は日本、インド、オーストラリアと4カ国の連携(「米日豪印戦略対話:Quad」)でNATOに似た対中国包囲網を形成しようとしている。共同軍事演習もすでに何度か行っている。中国の潜水艦基地のある海南島周辺で、明確に仮想敵を中国とした対潜哨戒のQuad軍事演習に自衛隊は参加している。
日本はその先鋒をかついで包囲網形成に努めている。
しかし、米国の思惑通りに進むか否か、疑問だ。米国はQuadを「対中包囲軍事同盟」にしたがっているが、インドはこれを嫌い、より緩やかな「開かれたインド太平洋」という表現を強調している。元々インドは非同盟運動の中心を担ってきたし、当時の米国は非同盟運動を敵視してきたため、インドの軍備はソ連から調達した。現在も米国の反対を無視して、ロシアから対空ミサイル「S400」を導入し、米国だけに依存しないように巧妙な政策をとり続けている。経済関係でも2018年のインドの輸出の9.1%、輸入の14.5%は香港を含む中国との取引だ。そのため、Quadにはあまり乗り気ではない。
オーストラリアは、18年の輸出の34.1%が中国向けで、中国との経済関係は緊密だ。モリソン豪保守党政権が中国にコロナウイルス感染の情報開示を求め、トランプ政権と一緒になって中国政府の「責任」を追及するという無責任なキャンペーンに加わった。これに対し中国は抗議するとともに、豪州からの輸入規制を実施し、現在の豪中関係は最悪の状況となっている。軍事的には、オーストラリア軍は、陸軍2万9000人、戦闘機89機、やや旧式の潜水艦6隻、駆逐艦2隻、フリゲート8隻という小規模な軍隊で、中国と軍事的に対抗する上であまり役立たない。
Quadを「対中包囲軍事同盟」にするために米国が最大の期待を寄せているのが日本だ。陸上兵力15万人、戦闘機330機、潜水艦22隻、軽航空母4隻を含む水上艦51隻を有する自衛隊となる。
しかし、米国の対中強硬戦略にひたすら追随することは、日本の安全保障と利益に合致しない、私たちにとってはきわめて危険な事なのだ。
3)「台湾有事」はあるか?――米司令官「6年以内に台湾有事」
米国のインド太平洋軍司令官に4月30日就任したジョン・アキリーノ海軍大将は、就任前の3月23日、米上院軍事委員会で、「中国の台湾侵略は思いのほか早く来ると考える。6年以内に軍事行動を起こす可能性がある」と述べた。前任のデイビットソン司令官も同じ発言をしていた。
どうして6年以内なのか? その根拠は?
1996年に「台湾独立派」とみなされていた李登輝氏が台湾総統に選ばれる時、中国は(愚かにも)ミサイルを威嚇発射したが米空母2隻が南シナ海に出てくると、軍事力に劣る中国はたちまちのうちに威嚇をやめたことがある。これを契機に中国は米国に対抗する「接近阻止・領域阻止」を掲げ、「海軍力、空軍力の増強を図り、2027年には軍の現代化を達成する」としてきた。その2027年まで6年以内であることを根拠に言っているに過ぎない。
軍人は予算獲得のために、えてして「危機」を唱えがちで、いわば「毎度のこと」である。米軍・米政府は知ったうえで、対中国強硬路線のために、ウソを煽っている。こんなウソを、情勢をキチンと評価もしないでまともにとりあげる方が滑稽だ。日本のメディアのことを言っている。「危機」は中国からもたらされてはいない。米政府・米軍が米国内で煽っている反中国感情の高まりこそが、「危機」の発信源だ。武力紛争が起きる可能性を完全に否定はできないとすれば、その根拠は「台湾有事論」を煽る米国政府と米軍にある。これは対中国強硬戦略の一部なのだ。
中国が台湾に軍事侵攻する可能性、現実性はない。台湾が戦場になれば密接に結びついた台湾―中国の経済関係が破壊され、例えば、台湾(TSMC)から半導体が入ってこなくなる。世界一の貿易国・中国は大混乱に陥り、中国経済は大打撃を受ける。中国にとって当面は「現状維持」が最も現実的だ。
一方、台湾の人々のほとんどは、「独立」したいわけではないし、「統一」したいわけでもない。8割以上の人が「現状維持」が一番いいと認識している。(台湾の世論調査の結果)。
バイデン政権と米軍は、まるですぐにでも戦争の危機が迫っているかのような言い方を吹聴しており、日本政府は無批判にそのまま追従している、というのが現状なのだ。
4)日本政府は尖閣での対立を煽るな!
日本政府が尖閣諸島での中国との対立を煽るのも、米政府が「中国脅威論」「台湾有事」を煽るのと同一の目的からきている。米国の対中国強硬戦略に呼応し、中国との対決をにらみ日本の軍事力を強化するための国内世論づくりの宣伝なのだ。もちろん違いもある。尖閣問題では、日本政府が米国支配層に意図的に操られている面があることだ。
尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。米国でさえ尖閣を日本の領土とは認めていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民があえて誤解するように宣伝している。
それから日本政府が主張する「固有の領土」論自体が、国際的には通説ではない。「固有の領土論」よりも、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約、日中共同宣言、日中平和条約などを最新の条約などを尊重するのが、国際的な常識である。
かつて日中国交回復時の難問は、尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して、締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。
しかし、外務省、日本政府は対応を変え、こっそりと「棚上げ合意はない」という主張を始めたのである。自民党内で小泉、安倍が、外務省内では「アメリカンスクール」が主導権を握るに至ったことと相応する。
2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。仕掛けられた「策」にそのままはまり、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。中国政府は抗議し、「領土権は棚上げ、施設権は日本」という合意を、日本政府から破棄したとみなすに至っている。
このような経過を決して忘れてはならない。しかし、日本国民の多くは無自覚だ。
5)中国の軍事力は?
2020年、世界の軍事費はコロナ禍にもかかわらず、前年比2.6%増の約214兆円(過去最高額)にまで増加した。
各国とも経済はマイナス成長で税収減少、コロナ対策で厳しい財政運営なのに、軍事費は増加した。サイバー攻撃、宇宙空間、ミサイル防衛システムの強化など、内容が変わりつつある。
2020年各国のGDPと軍事費、 軍事費のGDP比
1)米国: 2,200兆円、 84兆円(7,780億㌦) (4.4%増) 3.8%
2)中国: 1,500兆円、 27兆円(2,520億㌦) (1.9%増) 1.8%
3)日本: 520兆円、 5.3兆円 1%
(ストックホルム平和研究所(SIPRI)、4月27日日経)
米国の軍事費は、突出しており世界の軍事費の約4割を占める。中国の軍事費はGDPとともに急増している。額は世界2位であるが、米軍事力に比べればまだ「防衛的」であると言えるところはある。
中国は核兵器(ICBM,SLBM)を約200発保有している、米国、ロシアの各約9,000発に比べれば数は少ない。核軍拡競争はしないという立場をとってきたことになる。中国は核保有国5ヵ国のなかで唯一、「核兵器の先制使用はしない」と宣言している。
中国の通常兵器は、ミサイル中心である。米国のように空母群で世界中に出かけるような攻撃的な軍備はこれまで持って来なかった。日本・韓国・グァムなどの米軍基地や米韓・米比軍事演習によって、中国は長らく軍事的に包囲されてきた。それへの対抗から、中国は東海岸に1,250発(米国防総省による)の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)を配備するに至っている。中国は米ソ(のちに米ロ)間のINF(中距離ミサイル禁止)条約に入ってこなかった。陸海空軍に加えミサイル軍を創設している。
現代の最強兵器はミサイルである。一旦戦争が始まったら、戦闘初期において空軍基地、空母をミサイルで破壊すれば戦闘機を含めた空軍攻撃力を無化できる。中国の東海岸に配備されたミサイルは、日本の米空軍基地、日本近海の米空母を狙っている。自衛隊の迎撃ミサイルシステム(イージス艦、PAC3など)は、性能からしてそもそも当たらない、旧式の兵器になりつつある。万が一当たったとしても1,250発を同時に撃ち落とせるものではない。
中国にとって1,250発の短・中距離ミサイルは「防衛的」ではあるが、日本国民にとっては米軍基地が日本にあることから、きわめて危険であり「脅威」なのだ。日本国民はこの現実を知らなくてはならない。
台湾有事、もしくは米中戦争が起きたら、日本にある米軍基地は攻撃の対象になる。米軍の戦争に自衛隊が参戦したら、自衛隊基地も攻撃対象となる。ミサイル兵器の性能から、南西諸島の自衛隊基地は全滅する。自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時に全滅する。日本の他の米軍基地もすべて破壊される。短・中距離ミサイルは、グァム基地までは届くが、ハワイや米本土には届かない。しかし、日本全土は射程内に入っている。
米国にとっては、「台湾有事」でも米本土は被害を受けないが、中国、台湾、日本、韓国は違う、戦場になり、大きな被害を受けるのだ。
米国政府による日本のミザイル整備によって、仮に台湾有事で戦争になったとしても、被害を受けるのは台湾や日本、中国であり、米国ではない。米政府にとって、「日中共倒れ」こそ日本へのミサイル整備の現実的な狙いなのである。
ほとんどの日本人はこういった現実を理解していない。
それから、「台湾有事」となっても、米国の核ミサイルは発射しない、「地域紛争(台湾)のためにニューヨークを危険に陥れることはしない」(H・キッシンジャー)。
したがって、日本にとって、米国とともに中国と戦争をするという選択肢は、絶対にありえないことなのだ。
6)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ(米ランド研究所)
東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実もキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。
「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」時代が到来している。米シンクタンク・ランド研究所のレポートは、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。
ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」のレポートによれば、
○中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。この地域の米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
○アジアの米空軍基地は、戦闘の初段階の中国のミサイル攻撃によって、無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、一瞬にして空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。
○中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
○米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。
7)菅政権は、どうするのか? 4月16日の日米首脳会談で何を決めたのか?
米バイデン政権は、中国の軍事力に対抗した日本の軍事力の強化を菅首相に求めた。具体的には、中国に対抗した短・中距離ミサイルシステムの配備だ。そのために首脳会談でわざわざ現実性のない「台湾有事」に言及し、「脅威」を煽ってミサイル配備をやろうとしているのである。
日本の短・中距離ミサイル配備は他国に届くから「専守防衛」ではなくなる、憲法に反する。憲法を無視しなければ短・中距離ミサイルを配備はできない。2019年から言われてきた北朝鮮のミサイルに対抗するため「敵基地攻撃能力」が議論が、この動きと照合する。軍事的にみて北朝鮮は脅威ではない、「敵基地攻撃能力」の本当の狙いは、中国である。韓国への米高高度防衛ミサイル(THAAD)配備がそうであったように。
日本の配備する中距離ミサイルは、核ミサイルではない。中距離ミサイルの射程(当初は1000㎞程度としているが、いずれ5,500km)からすれば、他国(中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアなど)に届く。これまで自衛隊は専守防衛だから、他国に届く兵器を持ってはいけないとしてきた。「専守防衛」なので、持ってはいけない兵器として、①大陸間弾道ミサイル、②攻撃型空母、③長距離戦略爆撃機の3例が国会で例示されてきた経緯がある。(田岡俊次『目からウロコ』)
米国の凋落が目立ってきた現在、バイデン政権にとって、対中国強硬政策が外交・軍事のすべてである。これを米国単独ではもはやできない、したがって、同盟国である日本に中国の軍事力に対抗できるミサイル配備を中心とした軍事力強化を行え! 実質的には中国と日本で戦争をしろ!と要求しているのだ。日本の軍備の根本的な転換を求めているのである。
4月16日の日米首脳会談で、菅首相は米国の要求に応じる方向で合意した。きわめて危険だ。
ミサイル配備は米国製の高価格のミサイル、監視衛星その他を買わなければならない。現在は、イージス艦、PAC3などのように「ミサイル+レーダー」だが、すでに時代遅れになりつつある。今後は「高性能高速ミサイル+監視衛星」のシステムになるだろう。そうすれば、ミサイルシステムの導入のために、長年にわたって莫大な金額を支出し続けなければならなくなる。
中国のミサイルに対抗しようとすれば、軍事・外交的ばかりか、財政的にも破綻するのが目に見えている。米国の戦略のために、日本が税金を投入し米国製の高価なミサイルシステムを開発費を負担したうえで購入し、更新し続け、日本の安全保障を危険に晒そうとしているのである。
菅政権は対中強硬戦略に米国とともに踏み込む姿勢をみせているが、日本にとって、米国と共同して中国の軍事力に対抗し、ミサイル軍事力を強化するという選択肢は、きわめて危険であり、絶対にありえないことなのだ。
8)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ
日本にとって最大のリスクは、米中の対立が管理不能な状態となって戦争に至ることだ。日本は米中戦争の戦場となる。
現在は、米中対立と戦争の回避を、わが国の安全保障の最大の目標と位置づけなくてはならない時だ。それなのに菅政権は、米国の対中国強硬戦略に従い日米同盟の抑止力強化を図っており、そのことがかえって戦争の誘因となりかねないにもかかわらず、あえて危険を増大させる方向へ踏み込んでいる。
果たして国際情勢を理解しているのだろうか? ほとんどわかっていない。それゆえ無頓着、無責任な態度をとっているとしか見えない。あるいは、オリンピック開催へ突き進んでいるのと同じように、日本政府は、破綻するまで、いったん決めた路線を修正したり、転換できない「体質」となっているということなのか!
今なすべきことは、米中間の対立回避、戦争回避である。そのために日本は米国の影響から徐々に離れ、日中関係の改善を図るべきだ。それ以外に選択肢はない。米中戦争の戦場となる他の東アジア諸国と共同して、対話を求める努力を始めなければならない。
ASEAN諸国、韓国、ニュージーランドはすでにそのように振る舞っている。
そのためには憲法9条を表に立てて交渉するべきである。唯一の戦争被爆国であるという事実は、世界政治のなかで、日本に特殊な立場を与えてきたし、現代世界のなかで新たに現実性を帯びてくるだろう。また、沖縄戦という民間人を巻き込む悲惨な戦争を経験した国、平和時において東アジアとの連携のうちに経済発展を遂げた国として発信するメッセージも、今なお世界にとって意味あるものとなる。そういった方針を実行できる政権に変わらなければならない。
米国の都合による米中対立の枠内で、日中関係を改善することは絶対にできない。軍事的対立を煽る米国政府の政策に全面的に協力して、東アジアで平和的関係を打ち立てることはできない。ましてや中国や北朝鮮に対抗しミサイル軍事力を強化してはならない。敵基地攻撃能力の保持、自衛隊ミサイルの長射程化や艦艇のプレゼンスなどは、緊張を引き起こし対立と戦争の危険を高め、日本の安全保障を破壊し日本国民を危険な事態へと追い込むばかりである。
その一方で、中国に対しては、米国の庇護のもとにではなく日本が独自に働きかけなければならない。米国と一緒になって強面(こわもて)で向き合うばかりではいけない。日中関係の改善のためには、まず尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。「こっそりと」ではなく、「明確に」だ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを正式に打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。いたずらに対立を煽ってはならない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。人の住まない島をめぐって争う意味はない。米軍事力を頼みにして、「虎の威を借りる狐」の態度をとってはならない。
自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力比較からすればすでに大差がついている。中国に対抗して軍拡競争をすべきではない。
対立と戦争の原因となる政策を即刻やめるべきだ。外交交渉によって対立や戦争が起きる原因、要因をひとつひとつ慎重に潰して行かなくてはならない。そうして平和的な関係をつくり上げていくのが、私たちの望みだ。
バイデン政権の大規模財政政策の意味 [世界の動き]
バイデン政権の大規模財政政策の意味
<5.8兆㌦の財政政策への賛成を求めるバイデン>
1)バイデンはトランプを追い落とし、主導権を握らなければならない
バイデン政権は発足したものの、米社会は格差は拡大しており、荒廃・分断されたままである。大統領選ではトランプは7,400万票も獲得し、米政治はまさに二分された様相を見せた。米共和党は現在もなおトランプ支持勢力が主流を占めていて、21年1月のトランプ支持者による連邦議会乱入事件を擁護しており、「大統領選挙に不正があった」といまだに主張している。これを批判した共和党№.3の要職にあった保守派のリズ・チェイニー(チェイニー元副大統領の娘)は党指導部から放逐された。共和党は、プアホワイトのプライドをくすぐる白人至上主義のカルト集団に変質しつつある。
バイデン政権は、トランプに奪われた白人貧民層、白人の非大卒の支持をどっさり民主党に引き込む必要がある。そうやって民主党の支持基盤を大きく変えなければならない。そのためには、貧困層を救済する効果ある施策を実行することが必要だ。コロナ対策のワクチン接種では成果をあげた。巨額の財政出動もこれを狙っている。
すぐさま成果を上げて、2022年の中間選挙で、まずはトランプとトランプ支持勢力を米政治から追い払わなければならない。でなければバイデン政権は安定しない。その上で2024年の大統領選挙に臨まなければならない。
2)バイデンの大規模財政政策
米財政出動は下記の通り、極めて大型であり、米経済の急回復と債務急増をもたらしている。
①「米国救済計画」 1.9兆㌦: 21年3月中旬、民主党単独で成立し、施行
○内容: 1人1400㌦給付、ワクチン接種強化
○財源: 緊急対策なので、全額を債務で
②「米国雇用計画」 8年で2兆㌦: 21年3月末に公表。共和党は大幅縮小の対案
○内容:インフラや環境、研究開発に巨額投資
○財源: 法人税率上げなどの企業増税、15年で財源を予定する
③「米国家族計画」10年で1.8兆㌦: 4月末に公表、共和党は反発姿勢
○内容:格差是正や子育て支援、教育の負担軽減に投資
○財源: 富裕層への所得増税やキャピタルゲイン課税で財源を予定する
出動した巨額の財政出動は、早くも米経済を急回復させ効果をあげている。IMFの元首席エコノミスト、オリビエ・ブランシャール「財政出動によって、20年の米GDPは12.6%、21年は12,8%に達する」としている。
しかし同時に財源が国債などであり米政府が債務を急拡大したことも事実だ。「米国雇用計画」、「米国国家計画」の財源は、法人税増税、富裕層への所得増税で賄うとしているが、実現するかどうかは不明だ。バイデン政権の支持基盤の一つの金融資本が、増税には抵抗するだろう。そもそも米国は税務署員をリストラしてきており、これまでも巨大資本、富裕層の徴税逃れが多いのだ。バイデン政権の計画通り、財源を確保できるかは、不明だ。
上記の米財政政策の対策規模総額は5.8兆㌦に達する、名目GDPの28%であり、規模で突出している。ちなみに、日本はGDPの15.6%、ドイツは11.9%(OECD調べ)
現時点の、米連邦政府(債務)は▲27兆㌦であり、過去最大最悪のレベルだ。
企業債務(非金融部門)(債務)は、▲11兆㌦であり、リーマン・ショック前を上回る。
家計部門 (貯蓄)は、1~2兆㌦である。
財源が確保できなければ、政府債務はさらに増大する。高い成長を達成しない場合も、債務は増大する。
いまは「成長期待」なのであるが、「景気過熱リスク」はすぐ先に見えている。
財政支出は、短期的には確実に好景気をもたらすだろう。インフレ率は今のところ2%以下と適度に上昇しているし、10年物米国債の金利も1.6%程度に収まっており、現段階までは良好である。
ただし、財政政策と金融緩和が主導する景気回復であり、いずれ金融引締めの時期が来る。FRBでは金融緩和終了=「テーパリング」の議論がすでに出ている。インフレ率が急上昇し引き締めが後手に回れば、24年を待たずして金融危機と深刻な景気後退に陥る可能性はある。近いうちにその危険性が増した時期を迎えるだろう。
<5.8兆㌦の財政政策への賛成を求めるバイデン>
1)バイデンはトランプを追い落とし、主導権を握らなければならない
バイデン政権は発足したものの、米社会は格差は拡大しており、荒廃・分断されたままである。大統領選ではトランプは7,400万票も獲得し、米政治はまさに二分された様相を見せた。米共和党は現在もなおトランプ支持勢力が主流を占めていて、21年1月のトランプ支持者による連邦議会乱入事件を擁護しており、「大統領選挙に不正があった」といまだに主張している。これを批判した共和党№.3の要職にあった保守派のリズ・チェイニー(チェイニー元副大統領の娘)は党指導部から放逐された。共和党は、プアホワイトのプライドをくすぐる白人至上主義のカルト集団に変質しつつある。
バイデン政権は、トランプに奪われた白人貧民層、白人の非大卒の支持をどっさり民主党に引き込む必要がある。そうやって民主党の支持基盤を大きく変えなければならない。そのためには、貧困層を救済する効果ある施策を実行することが必要だ。コロナ対策のワクチン接種では成果をあげた。巨額の財政出動もこれを狙っている。
すぐさま成果を上げて、2022年の中間選挙で、まずはトランプとトランプ支持勢力を米政治から追い払わなければならない。でなければバイデン政権は安定しない。その上で2024年の大統領選挙に臨まなければならない。
2)バイデンの大規模財政政策
米財政出動は下記の通り、極めて大型であり、米経済の急回復と債務急増をもたらしている。
①「米国救済計画」 1.9兆㌦: 21年3月中旬、民主党単独で成立し、施行
○内容: 1人1400㌦給付、ワクチン接種強化
○財源: 緊急対策なので、全額を債務で
②「米国雇用計画」 8年で2兆㌦: 21年3月末に公表。共和党は大幅縮小の対案
○内容:インフラや環境、研究開発に巨額投資
○財源: 法人税率上げなどの企業増税、15年で財源を予定する
③「米国家族計画」10年で1.8兆㌦: 4月末に公表、共和党は反発姿勢
○内容:格差是正や子育て支援、教育の負担軽減に投資
○財源: 富裕層への所得増税やキャピタルゲイン課税で財源を予定する
出動した巨額の財政出動は、早くも米経済を急回復させ効果をあげている。IMFの元首席エコノミスト、オリビエ・ブランシャール「財政出動によって、20年の米GDPは12.6%、21年は12,8%に達する」としている。
しかし同時に財源が国債などであり米政府が債務を急拡大したことも事実だ。「米国雇用計画」、「米国国家計画」の財源は、法人税増税、富裕層への所得増税で賄うとしているが、実現するかどうかは不明だ。バイデン政権の支持基盤の一つの金融資本が、増税には抵抗するだろう。そもそも米国は税務署員をリストラしてきており、これまでも巨大資本、富裕層の徴税逃れが多いのだ。バイデン政権の計画通り、財源を確保できるかは、不明だ。
上記の米財政政策の対策規模総額は5.8兆㌦に達する、名目GDPの28%であり、規模で突出している。ちなみに、日本はGDPの15.6%、ドイツは11.9%(OECD調べ)
現時点の、米連邦政府(債務)は▲27兆㌦であり、過去最大最悪のレベルだ。
企業債務(非金融部門)(債務)は、▲11兆㌦であり、リーマン・ショック前を上回る。
家計部門 (貯蓄)は、1~2兆㌦である。
財源が確保できなければ、政府債務はさらに増大する。高い成長を達成しない場合も、債務は増大する。
いまは「成長期待」なのであるが、「景気過熱リスク」はすぐ先に見えている。
財政支出は、短期的には確実に好景気をもたらすだろう。インフレ率は今のところ2%以下と適度に上昇しているし、10年物米国債の金利も1.6%程度に収まっており、現段階までは良好である。
ただし、財政政策と金融緩和が主導する景気回復であり、いずれ金融引締めの時期が来る。FRBでは金融緩和終了=「テーパリング」の議論がすでに出ている。インフレ率が急上昇し引き締めが後手に回れば、24年を待たずして金融危機と深刻な景気後退に陥る可能性はある。近いうちにその危険性が増した時期を迎えるだろう。
「水平分業」が半導体産業のスタイルに [世界の動き]
「水平分業」が半導体産業のスタイルに
1)世界の半導体企業の時価総額ランク
21年3月の世界の半導体企業の「時価総額」上位5社は、下記の通りとなっている。20年前と比べ「顔ぶれ」は大きく入れ替わった。
21年3月末の「時価総額」
1)TSMC(台) : 5,468億㌦
2)サムスン(韓) : 4,743億㌦
3)エヌビディア(米):3,092億㌦
4)インテル(米) :2,528億㌦
5)ASML(蘭) :2,218億㌦
2000年末時、「時価総額」
1)インテル(米) : 2,023億㌦
2)テキサス・インスツルメンツ(米): 1,604億㌦
3)サンマイクロ・システムズ(米): 897億㌦
4)クアルコム(米) : 615億㌦
5)STマイクロ・エレクトロニクス(米): 387億㌦
<TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)>
半導体企業では、受託生産企業(ファウンドリー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.:台湾積体電路製造)が、時価総額で世界首位となった、全産業の中でも世界11位。微細化量産技術で競争力を獲得し、最先端のロジック半導体の受託生産で世界市場の60%以上を生産している。またASML(蘭)は、微細化を可能にする露光装置で独走している。背景には、微細化量産技術競争がある。
TSMCに半導体製造を委託している企業として、売り上げに占める比率の順に、アップル(25.4%)、AMD(9.2%)、メディアテック(8.2%)、ブロードコム(8.1%)、クアルコム(7.6%)、インテル(7.2%)、エヌヴィディア(5.8%)と続く。
TSMCは、1987年設立、Morris Chang CEO、従業員5万人、2020年売上:455億ドル(前年比31.4%増、時価総額が5,597億ドル(21年5月)、全世界500社以上の顧客企業に半導体を納入している。
TSMCは、20年春に線路幅5㌨品で量産・納入を開始し、22年3㌨品量産、24年2㌨品量産を始める計画だ。サムスン電子は、メモリー分野で世界シェア1位であるとともに、受託生産企業としてTSMCの後を追っている。20年末に5㌨品量産を始めたが、未だ歩留まり(良品率)が悪いようだ。主力は7㌨品を量産中。インテルは7㌨品の量産に失敗した、現在は14㌨品を量産している。7㌨品の量産は23年になる見込み。
線路幅が小さいほど、性能が良くなるし、面積は小さくなるので一定のシリコン結晶材からより多くの半導体を生産できる(コストダウンできる)。
ASMLは微細化に実現する製造装置の一つのEUV露光装置を独占する。キャノン、ニコンは競争に敗れ露光装置市場からすでに退場した。
2)「垂直統合モデル」の崩壊、「水平分業」へ
インテルは、自社でCPUの設計から量産まで行う「垂直統合モデル」で長らく半導体産業に君臨してきたが、この「垂直統合モデル」が敗退・崩壊し、「水平分業」が広がっている。それを象徴するのがTSMCの躍進である。前述の通り、半導体産業で時価総額世界一位となった。
米AMDはPC用CPU設計に特化し、量産はTSMCに委託し、性能の優れたCPU(Rizen5000シリーズ)をすでに供給している。データセンター用CPUでもシェアをあげている。
アップルはこれまで、自社PC(アップルコンピュータ)用CPUをインテルから受給してきたが、自社で高性能CPUを開発設計しTSMCへ量産を依頼し、自社PCに使用し始めた。
半導体はPC用ばかりでない。最近ではスマホ用、クラウド=データセンター用、ゲーム用のCPU市場が急速に拡大している。スマホ用はすでに米クアルコム社など各社が設計し、TSMCやサムソンが量産し、スマホメーカーに供給する態勢ができ上っている。
米エヌビディアは、主力のGPU(画像処理半導体)を、ゲーム用やデータセンター向けに急速に伸ばしている。データセンター用GPU+CPU「グレース」を開発し、インテルの納入先を奪いつつある。
アマゾンは、データセンターの頭脳として自社で開発設計した半導体「クラビトン」を、TSMCで量産しすでに実用化済だ。不必要な機能をそぎ落とし省電化した。
グーグル、マイクロソフトも自社のデータセンター用に自社開発した半導体を活用しようとしている。
90年代半導体王国だった日本の半導体企業のほとんどは、競争に敗れ市場から退場していった。メモリー生産のキクオシア(東芝系)、光センサーCMOS半導体生産のソニー、半導体製造装置の東京エレクトロン、シリコン結晶材の信越化学とSUMCO、そのほか材料・原料を納入する企業が残っているだけである。
半導体産業におけるこれら「再編の動き」は、インテルの「垂直統合モデル」が敗退し、設計ソフトを使った各社での設計、TSMC・サムスンでの受託生産、ASMLを含む各社による製造装置生産などの「水平分業」に置き換わりつつあるということだ。すなわち半導体産業の業態が大きく変貌したのである。
2000年代から、半導体の設計・開発と生産を別の企業が担う「水平分業」が加速し、受託生産が急拡大した。かつては、半導体の付加価値は設計にあるとされ、生産は外注して、投資とリスクを抑える事業モデルが広がった。受託生産は、量産技術が革新するたびに、莫大な資本を投下し、巨額の設備投資を更新することが適宜必要とされ、スピード感をもって対応しなければ競争に敗け「勝者総取り」となる厳しい市場だ。当初は、高リスク、低リターンの割の合わない事業とされた。
ところが、数ある受託生産企業のなかで抜きんでた量産技術を常に革新し保持してきたTSMCが勝ち残り、「勝者総取り」の様相を呈している(残りの多くの受託生産企業は敗退し退場していった)。そして「勝者総取り」のファウンドリー企業が優位になる「転換」が起きたのである。
製造装置でも、微細化露光装置で抜きんでたASMLが同じように露光装置市場で「勝者総取り」の地位を得ている。
開発・設計への特化においては、最先端の領域で研究開発ができているかが重要になっている。半導体の設計ソフトは、米クアルコム、英アームが支配的な地位を保持している。
これらは半導体産業において、「垂直統合モデル」が敗退し「水平分業」に置き換わったことを示す。
<サムスン電子本社>
※「垂直統合モデル」について
現在、「垂直統合モデル」を形成している業界に自動車産業がある。自動車会社が配下に組み立て子会社、部品会社、下請け、材料会社など、多数の企業を垂直構造に統合している。トヨタはそのトップに君臨している。
この自動車業界でも、CASE化によって根本的な技術革新が起きており、莫大な額の投資がなされる開発競争に入っている。リチウム電池製造、モーター+インバータシステムなどの有力な部品会社、車のコンピュータ化を実現する巨大なIT企業などが参入し、トヨタ一社では賄いきれない莫大な額の投資が必要となっため、各企業が参入し、開発競争に有利とみられる企業と連携したりして、熾烈な開発競争を繰り広げている。従来の「垂直統合モデル」が再編・解体される過程に入った。果たしてトヨタがこの先も自動車産業に君臨し続けることができるか? 極めて流動的であり予断を許さない。
かつて1970年から1990年頃まで、日本の電機産業は長い期間を経て「垂直統合モデル」を形成し、その結果、米GE、米ゼニス、蘭フィリップスなど「テーラー生産システム」の家庭用電機大企業を駆逐し、世界市場を席巻していた。トップに電機独占が君臨し、その下に子会社、組み立て子会社、部品会社、計測器会社、下請け、孫請けなど何層にも階層を形成し、すそ野は東南アジアを中心に海外にも広がっていた。「すそ野」(下請け、孫請け、部品会社)は、低賃金の利用形態でもあった。
これが、1990年代になり、パソコン、携帯電話などで一挙に巨大な市場が生まれ、一方で、欧米を中心に仕様・規格を先行して決定するなどして特定企業が参入し、スピード感を持った投資競争で主導権を握り、日本の電機産業の独占的な地位を崩していった。そのことは、日本の電機産業における「垂直統合モデル」崩壊の端緒となった。いまでは、家庭用電機製品は、中国、韓国などの企業がより機動的で柔軟な「垂直統合システム」に再編し、世界市場を席巻している。
3)一方、中国勢はどうか?
中国企業は、上記の半導体量産技術、開発設計ソフト、製造装置、半導体材料などにおいて、莫大な投資を行い急速に技術を吸収しつつあるものの、最先端の半導体を自前で設計し量産、調達できる水準にまでは達していない。
現時点での最大のネックは、半導体受託生産である。TSMCに生産依頼しなければ、最先端の半導体を入手することはできない。米政府による勝手な制裁(「安全保障上問題がある」とするこじつけの理由)で、米商務省産業安全保障局(BIS)は、2020年5月、ファーウェイとその関連企業への輸出管理を強化すると発表した。ファーウエイは、5Gスマホ用のCPUを、子会社の海思半導体(ハイシシリコン)で設計・開発し、TSMCに委託生産していたが、20年9月からはTSMCの半導体を調達できなくなり、スマホ市場で大打撃を受け世界シェアを落とした。最先端スマホを生産できなくなるとともに、20年11月には、資金調達のため、低価格スマートフォンブランド「栄耀(オナー)」を手放さざるを得なくなった。
TSMCに代わる役割を担う中国の半導体受託生産企業SMIC(中芯国際集成電路製造)の時価総額は、349億㌦で半導体大手では22位であるが、現在は14㌨品の量産しかできておらず、TSMCに比べると量産技術は10年程度の遅れがある。米国は、20年12月、SMICを制裁し、10ナノ以下の製品を作る技術のSMICへの輸出を制限した。
設計開発においては、現在は使用している米クアルコム、英アーム社などの最新の設計ソフトを今後も引き続き使い続けることができるかどうかが焦点で、米政府は制裁の姿勢を見せている。
こういう「不法なこと」、「野蛮なこと」が公然と行われている。これが、先進国・米国のやり口なのだ。米国の覇権を維持するためには、何でもやるという姿だ。
そして、自身のことを「民主主義国」と呼んでいる。自分で自分の、評判を落としていることが理解できないのだろう。あるいは、理解したうえで、フェイクニュースを溢れさせれば、何でもごまかせると思っているということか。
中国政府は、米国の制裁に関係なく、独自に最新の半導体を調達できるようにするため、自前で最高水準の設計技術、量産技術の獲得にむけて莫大な投資を行っている。しかしまだ、最先端半導体を中国内で生産・調達できるに至っていない。少なくとも数年~10年程度かかるだろう。
4)中国への米国の対抗手段に半導体産業が使われる!
半導体の受託生産は世界的にみて一部の地域、台湾、韓国、中国に集中している。特に台湾(ほとんどはTSMC)は、6割以上を占めている。
2021年半導体受託生産世界シェア (台湾トレンドフォースの予測 国籍は企業の本社所在地別)
①台湾 : 64%
②韓国 : 18%
③中国 : 6%
④その他 : 12%
5月12日日経によれば、台湾半導体4社投資計画は、14兆円に達している(内訳:TSMC:11兆円、南亜科技:1,2兆円、UMC:5,850億円、力晶積成:1.086兆円)。投資計画先の9割が台湾であり、海外の新工場の立ち上げには乗り気ではない。
サムスンは(5月13日、発表)、ソウル近郊平沢(ピョンテク)に、2兆円を投資して第3新工場を建設し、22年下半期に稼働させ、最先端半導体の受託生産とメモリーを生産する。また、2030年までに、システム半導体分野に16.5兆円投資し、TSMCを追い上げる。
こんな時に、世界的な半導体不足が起きている。
米中対立で、半導体の「国産化」、あるいは半導体生産の米・欧州地域への誘致の要請など生産・供給の分断が進むなか、米中を中心にコロナ後の製造業での景気が急回復し、半導体需要が急増した。一方、そんな時に、21年2月米テキサス州の寒波による停電で半導体工場が生産停止した。また3月10日、火災でルネサスエレクトロニクス(自動車用半導体、40㌨m品を生産)が生産を停止した。被災した半導体工場はすぐには再稼働できない。代わりに生産しようにも、TSMCやサムソンなど半導体受託生産企業はフル生産状態で応じられない。しかも、自動車用半導体は前世代仕様(線路幅、28㌨、40㌨、64㌨m品)で利益率の低いため、生産・供給は優先されず、そのため各自動車会社は半導体不足による長期にわたる減産を強いられる事態が生まれている。
20年に発売されたソニーの「Playstation5」は、コロナ禍での巣ごもり需要で好評であるが、TSMCに依頼したCPUが従来の半分である月8万台程度分しか調達できないため、ゲーム機が店頭に入荷しても即時売り切れとなる状態が続いている。ゲーム機の新品価格は5万円弱であるが、ネットでは8万円前後で取引されている。
TSMCは、米国アリゾナ州に5㌨品工場を誘致されているが、米政府がいくら補助金を出すか、まだ決まっておらず、計画は動き出していない。海外工場新設は、TSMCにとっては、二重に投資が必要となる。また、台湾以外では、エンジニアの人材確保きわめて困難であり、製造エンジニアの教育・訓練も長期にわたって実施しなければ量産にこぎつけない。補助金を得たとしても、結果的に長期にわたって大幅なコスト増となる。一方、各社とも半導体生産の設備投資を行っているから、23年以降は半導体が余り「設備過剰」「人員過剰」となることも考慮しなければならない。半導体は小さく軽く輸送費はかからないため、世界中に工場を分散することに、それほどメリットはないのだ。
米国政府はTSMCを誘致したがっているが、TSMCはそれほど乗り気ではない。EUも、半導体受託生産企業(特にTSMCとサムスンを)誘致しているが、今のところ関心を示しているのはインテルのみである。
TSMC、サムスンにとっては、売上の20~30%を占める中国企業も重要な顧客である。しかも今後、購入額が確実に増える顧客である。「台湾有事」「地政学的リスク」を持ち出して中国の顧客を放棄させ、工場誘致を迫る米・EUのやり方にTSMCもサムスンも、抵抗感を持っている。米政府は中国への対抗手段のために、半導体企業に工場分散を要求しているのだが、半導体産業にとっては「いい迷惑」なのだ。その上、上述の通り、世界的な半導体不足も起きている。
冒頭の半導体企業の時価総額ランク(トップ5)を見ても明らかなように、中国勢は入っていない。受託生産企業は台湾のTSMCが独占的な地位を得ている。
この状況をとらえ、凋落しつつある米国が中国の台頭を抑えるために、「半導体産業」を人質にとって、「中国への制裁」を発動しているのである。まさに「自分勝手で不法な振る舞い」というしかない。
半導体ハイテク企業の囲い込みで中国に対抗し覇権を維持したいという米政府の戦略は、一時的に効果を挙げるだろうが、果たして長期的にみてうまくいくのかどうか。成功する見通しは、おそらくない。
1)世界の半導体企業の時価総額ランク
21年3月の世界の半導体企業の「時価総額」上位5社は、下記の通りとなっている。20年前と比べ「顔ぶれ」は大きく入れ替わった。
21年3月末の「時価総額」
1)TSMC(台) : 5,468億㌦
2)サムスン(韓) : 4,743億㌦
3)エヌビディア(米):3,092億㌦
4)インテル(米) :2,528億㌦
5)ASML(蘭) :2,218億㌦
2000年末時、「時価総額」
1)インテル(米) : 2,023億㌦
2)テキサス・インスツルメンツ(米): 1,604億㌦
3)サンマイクロ・システムズ(米): 897億㌦
4)クアルコム(米) : 615億㌦
5)STマイクロ・エレクトロニクス(米): 387億㌦
(21年3月12日、日本経済新聞)
<TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)>
半導体企業では、受託生産企業(ファウンドリー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.:台湾積体電路製造)が、時価総額で世界首位となった、全産業の中でも世界11位。微細化量産技術で競争力を獲得し、最先端のロジック半導体の受託生産で世界市場の60%以上を生産している。またASML(蘭)は、微細化を可能にする露光装置で独走している。背景には、微細化量産技術競争がある。
TSMCに半導体製造を委託している企業として、売り上げに占める比率の順に、アップル(25.4%)、AMD(9.2%)、メディアテック(8.2%)、ブロードコム(8.1%)、クアルコム(7.6%)、インテル(7.2%)、エヌヴィディア(5.8%)と続く。
TSMCは、1987年設立、Morris Chang CEO、従業員5万人、2020年売上:455億ドル(前年比31.4%増、時価総額が5,597億ドル(21年5月)、全世界500社以上の顧客企業に半導体を納入している。
TSMCは、20年春に線路幅5㌨品で量産・納入を開始し、22年3㌨品量産、24年2㌨品量産を始める計画だ。サムスン電子は、メモリー分野で世界シェア1位であるとともに、受託生産企業としてTSMCの後を追っている。20年末に5㌨品量産を始めたが、未だ歩留まり(良品率)が悪いようだ。主力は7㌨品を量産中。インテルは7㌨品の量産に失敗した、現在は14㌨品を量産している。7㌨品の量産は23年になる見込み。
線路幅が小さいほど、性能が良くなるし、面積は小さくなるので一定のシリコン結晶材からより多くの半導体を生産できる(コストダウンできる)。
ASMLは微細化に実現する製造装置の一つのEUV露光装置を独占する。キャノン、ニコンは競争に敗れ露光装置市場からすでに退場した。
2)「垂直統合モデル」の崩壊、「水平分業」へ
インテルは、自社でCPUの設計から量産まで行う「垂直統合モデル」で長らく半導体産業に君臨してきたが、この「垂直統合モデル」が敗退・崩壊し、「水平分業」が広がっている。それを象徴するのがTSMCの躍進である。前述の通り、半導体産業で時価総額世界一位となった。
米AMDはPC用CPU設計に特化し、量産はTSMCに委託し、性能の優れたCPU(Rizen5000シリーズ)をすでに供給している。データセンター用CPUでもシェアをあげている。
アップルはこれまで、自社PC(アップルコンピュータ)用CPUをインテルから受給してきたが、自社で高性能CPUを開発設計しTSMCへ量産を依頼し、自社PCに使用し始めた。
半導体はPC用ばかりでない。最近ではスマホ用、クラウド=データセンター用、ゲーム用のCPU市場が急速に拡大している。スマホ用はすでに米クアルコム社など各社が設計し、TSMCやサムソンが量産し、スマホメーカーに供給する態勢ができ上っている。
米エヌビディアは、主力のGPU(画像処理半導体)を、ゲーム用やデータセンター向けに急速に伸ばしている。データセンター用GPU+CPU「グレース」を開発し、インテルの納入先を奪いつつある。
アマゾンは、データセンターの頭脳として自社で開発設計した半導体「クラビトン」を、TSMCで量産しすでに実用化済だ。不必要な機能をそぎ落とし省電化した。
グーグル、マイクロソフトも自社のデータセンター用に自社開発した半導体を活用しようとしている。
90年代半導体王国だった日本の半導体企業のほとんどは、競争に敗れ市場から退場していった。メモリー生産のキクオシア(東芝系)、光センサーCMOS半導体生産のソニー、半導体製造装置の東京エレクトロン、シリコン結晶材の信越化学とSUMCO、そのほか材料・原料を納入する企業が残っているだけである。
半導体産業におけるこれら「再編の動き」は、インテルの「垂直統合モデル」が敗退し、設計ソフトを使った各社での設計、TSMC・サムスンでの受託生産、ASMLを含む各社による製造装置生産などの「水平分業」に置き換わりつつあるということだ。すなわち半導体産業の業態が大きく変貌したのである。
2000年代から、半導体の設計・開発と生産を別の企業が担う「水平分業」が加速し、受託生産が急拡大した。かつては、半導体の付加価値は設計にあるとされ、生産は外注して、投資とリスクを抑える事業モデルが広がった。受託生産は、量産技術が革新するたびに、莫大な資本を投下し、巨額の設備投資を更新することが適宜必要とされ、スピード感をもって対応しなければ競争に敗け「勝者総取り」となる厳しい市場だ。当初は、高リスク、低リターンの割の合わない事業とされた。
ところが、数ある受託生産企業のなかで抜きんでた量産技術を常に革新し保持してきたTSMCが勝ち残り、「勝者総取り」の様相を呈している(残りの多くの受託生産企業は敗退し退場していった)。そして「勝者総取り」のファウンドリー企業が優位になる「転換」が起きたのである。
製造装置でも、微細化露光装置で抜きんでたASMLが同じように露光装置市場で「勝者総取り」の地位を得ている。
開発・設計への特化においては、最先端の領域で研究開発ができているかが重要になっている。半導体の設計ソフトは、米クアルコム、英アームが支配的な地位を保持している。
これらは半導体産業において、「垂直統合モデル」が敗退し「水平分業」に置き換わったことを示す。
<サムスン電子本社>
※「垂直統合モデル」について
現在、「垂直統合モデル」を形成している業界に自動車産業がある。自動車会社が配下に組み立て子会社、部品会社、下請け、材料会社など、多数の企業を垂直構造に統合している。トヨタはそのトップに君臨している。
この自動車業界でも、CASE化によって根本的な技術革新が起きており、莫大な額の投資がなされる開発競争に入っている。リチウム電池製造、モーター+インバータシステムなどの有力な部品会社、車のコンピュータ化を実現する巨大なIT企業などが参入し、トヨタ一社では賄いきれない莫大な額の投資が必要となっため、各企業が参入し、開発競争に有利とみられる企業と連携したりして、熾烈な開発競争を繰り広げている。従来の「垂直統合モデル」が再編・解体される過程に入った。果たしてトヨタがこの先も自動車産業に君臨し続けることができるか? 極めて流動的であり予断を許さない。
かつて1970年から1990年頃まで、日本の電機産業は長い期間を経て「垂直統合モデル」を形成し、その結果、米GE、米ゼニス、蘭フィリップスなど「テーラー生産システム」の家庭用電機大企業を駆逐し、世界市場を席巻していた。トップに電機独占が君臨し、その下に子会社、組み立て子会社、部品会社、計測器会社、下請け、孫請けなど何層にも階層を形成し、すそ野は東南アジアを中心に海外にも広がっていた。「すそ野」(下請け、孫請け、部品会社)は、低賃金の利用形態でもあった。
これが、1990年代になり、パソコン、携帯電話などで一挙に巨大な市場が生まれ、一方で、欧米を中心に仕様・規格を先行して決定するなどして特定企業が参入し、スピード感を持った投資競争で主導権を握り、日本の電機産業の独占的な地位を崩していった。そのことは、日本の電機産業における「垂直統合モデル」崩壊の端緒となった。いまでは、家庭用電機製品は、中国、韓国などの企業がより機動的で柔軟な「垂直統合システム」に再編し、世界市場を席巻している。
3)一方、中国勢はどうか?
中国企業は、上記の半導体量産技術、開発設計ソフト、製造装置、半導体材料などにおいて、莫大な投資を行い急速に技術を吸収しつつあるものの、最先端の半導体を自前で設計し量産、調達できる水準にまでは達していない。
現時点での最大のネックは、半導体受託生産である。TSMCに生産依頼しなければ、最先端の半導体を入手することはできない。米政府による勝手な制裁(「安全保障上問題がある」とするこじつけの理由)で、米商務省産業安全保障局(BIS)は、2020年5月、ファーウェイとその関連企業への輸出管理を強化すると発表した。ファーウエイは、5Gスマホ用のCPUを、子会社の海思半導体(ハイシシリコン)で設計・開発し、TSMCに委託生産していたが、20年9月からはTSMCの半導体を調達できなくなり、スマホ市場で大打撃を受け世界シェアを落とした。最先端スマホを生産できなくなるとともに、20年11月には、資金調達のため、低価格スマートフォンブランド「栄耀(オナー)」を手放さざるを得なくなった。
TSMCに代わる役割を担う中国の半導体受託生産企業SMIC(中芯国際集成電路製造)の時価総額は、349億㌦で半導体大手では22位であるが、現在は14㌨品の量産しかできておらず、TSMCに比べると量産技術は10年程度の遅れがある。米国は、20年12月、SMICを制裁し、10ナノ以下の製品を作る技術のSMICへの輸出を制限した。
設計開発においては、現在は使用している米クアルコム、英アーム社などの最新の設計ソフトを今後も引き続き使い続けることができるかどうかが焦点で、米政府は制裁の姿勢を見せている。
こういう「不法なこと」、「野蛮なこと」が公然と行われている。これが、先進国・米国のやり口なのだ。米国の覇権を維持するためには、何でもやるという姿だ。
そして、自身のことを「民主主義国」と呼んでいる。自分で自分の、評判を落としていることが理解できないのだろう。あるいは、理解したうえで、フェイクニュースを溢れさせれば、何でもごまかせると思っているということか。
中国政府は、米国の制裁に関係なく、独自に最新の半導体を調達できるようにするため、自前で最高水準の設計技術、量産技術の獲得にむけて莫大な投資を行っている。しかしまだ、最先端半導体を中国内で生産・調達できるに至っていない。少なくとも数年~10年程度かかるだろう。
4)中国への米国の対抗手段に半導体産業が使われる!
半導体の受託生産は世界的にみて一部の地域、台湾、韓国、中国に集中している。特に台湾(ほとんどはTSMC)は、6割以上を占めている。
2021年半導体受託生産世界シェア (台湾トレンドフォースの予測 国籍は企業の本社所在地別)
①台湾 : 64%
②韓国 : 18%
③中国 : 6%
④その他 : 12%
5月12日日経によれば、台湾半導体4社投資計画は、14兆円に達している(内訳:TSMC:11兆円、南亜科技:1,2兆円、UMC:5,850億円、力晶積成:1.086兆円)。投資計画先の9割が台湾であり、海外の新工場の立ち上げには乗り気ではない。
サムスンは(5月13日、発表)、ソウル近郊平沢(ピョンテク)に、2兆円を投資して第3新工場を建設し、22年下半期に稼働させ、最先端半導体の受託生産とメモリーを生産する。また、2030年までに、システム半導体分野に16.5兆円投資し、TSMCを追い上げる。
こんな時に、世界的な半導体不足が起きている。
米中対立で、半導体の「国産化」、あるいは半導体生産の米・欧州地域への誘致の要請など生産・供給の分断が進むなか、米中を中心にコロナ後の製造業での景気が急回復し、半導体需要が急増した。一方、そんな時に、21年2月米テキサス州の寒波による停電で半導体工場が生産停止した。また3月10日、火災でルネサスエレクトロニクス(自動車用半導体、40㌨m品を生産)が生産を停止した。被災した半導体工場はすぐには再稼働できない。代わりに生産しようにも、TSMCやサムソンなど半導体受託生産企業はフル生産状態で応じられない。しかも、自動車用半導体は前世代仕様(線路幅、28㌨、40㌨、64㌨m品)で利益率の低いため、生産・供給は優先されず、そのため各自動車会社は半導体不足による長期にわたる減産を強いられる事態が生まれている。
20年に発売されたソニーの「Playstation5」は、コロナ禍での巣ごもり需要で好評であるが、TSMCに依頼したCPUが従来の半分である月8万台程度分しか調達できないため、ゲーム機が店頭に入荷しても即時売り切れとなる状態が続いている。ゲーム機の新品価格は5万円弱であるが、ネットでは8万円前後で取引されている。
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TSMCは、米国アリゾナ州に5㌨品工場を誘致されているが、米政府がいくら補助金を出すか、まだ決まっておらず、計画は動き出していない。海外工場新設は、TSMCにとっては、二重に投資が必要となる。また、台湾以外では、エンジニアの人材確保きわめて困難であり、製造エンジニアの教育・訓練も長期にわたって実施しなければ量産にこぎつけない。補助金を得たとしても、結果的に長期にわたって大幅なコスト増となる。一方、各社とも半導体生産の設備投資を行っているから、23年以降は半導体が余り「設備過剰」「人員過剰」となることも考慮しなければならない。半導体は小さく軽く輸送費はかからないため、世界中に工場を分散することに、それほどメリットはないのだ。
米国政府はTSMCを誘致したがっているが、TSMCはそれほど乗り気ではない。EUも、半導体受託生産企業(特にTSMCとサムスンを)誘致しているが、今のところ関心を示しているのはインテルのみである。
TSMC、サムスンにとっては、売上の20~30%を占める中国企業も重要な顧客である。しかも今後、購入額が確実に増える顧客である。「台湾有事」「地政学的リスク」を持ち出して中国の顧客を放棄させ、工場誘致を迫る米・EUのやり方にTSMCもサムスンも、抵抗感を持っている。米政府は中国への対抗手段のために、半導体企業に工場分散を要求しているのだが、半導体産業にとっては「いい迷惑」なのだ。その上、上述の通り、世界的な半導体不足も起きている。
冒頭の半導体企業の時価総額ランク(トップ5)を見ても明らかなように、中国勢は入っていない。受託生産企業は台湾のTSMCが独占的な地位を得ている。
この状況をとらえ、凋落しつつある米国が中国の台頭を抑えるために、「半導体産業」を人質にとって、「中国への制裁」を発動しているのである。まさに「自分勝手で不法な振る舞い」というしかない。
半導体ハイテク企業の囲い込みで中国に対抗し覇権を維持したいという米政府の戦略は、一時的に効果を挙げるだろうが、果たして長期的にみてうまくいくのかどうか。成功する見通しは、おそらくない。
尖閣諸島をめぐる日中対立を煽るな! [世界の動き]
米中対立に巻き込まれたら、日本に未来はない!
尖閣諸島をめぐる日中対立を煽るな!
<尖閣諸島>
1)バイデン政権の外交の柱は対中強硬路線
バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれている。米政府にとって 「中国が最重要課題なのは疑う余地がない」(ブリンケン国務長官)のであり、米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎないことを私たちはよく知っていなければならない。(猿田佐世『世界』4月号、「対等な日米関係?」)
バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する、と表明している。日本を含む同盟国の軍事能力の整備、財政的負担を求めてくるだろう。
対中強硬路線を実行するための一環として「日米豪印戦略対話(クワッド)」呼ばれる枠組みを提唱したが、インドがあまり乗り気ではない。韓国、ASEAN、ニュージーランドも参加しない立場を明確にしている。米国にはすでに以前の「権威、力」はない。
バイデン政権の高官に、カート・キャンベル/アジア・太平洋調整官などが就き、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる人たちが復活した。他の同盟国はいざ知らず、米政府にとって日本政府を操るのは思惑通り行きそうだ。
2)尖閣での対立を煽るな!
米支配層は「尖閣問題」を煽る日本政府を利用することで対中戦略、米中対立と世界の分断を推し進めようとしている。その戦略を自ら進んで推し進め対米依存を深める政治家や官僚が日本政府の中枢にいる。
2)ー1:日本政府の立場
「日米、尖閣に安保適用明記へ 首脳会談で共同文書作成
共同通信(3月26日)によれば、4月上旬菅首相が訪米する日米首脳会談で日米両政府は共同文書を作成する方針だ。政府関係者によると、東・南シナ海で影響力を強める中国を念頭に、「尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象」だと明記する方向で最終調整している。日本政府は、米政権や国務長官が代わるたびに「尖閣が日米安保の適用範囲」であることを確認してきた。
日本政府は、米軍の存在を背景に、歴史問題、慰安婦問題などを解決することなく中国に対する強硬な姿勢、要求を実現しようとする立場を追求している。問題は、大きく変化しつつある2021年現在の国際情勢、東アジア情勢において、この外交・軍事政策に果たして「現実性」があるのかということだ。隣人への要求を実現するために暴力団に仲介を頼むようなものだからだ。日本がより一層米国に従属していかざるを得なくなる。
尖閣問題では、日本政府は日本国民が誤解するように宣伝している。メディアを含む多くの日本人は、尖閣諸島の主権に関する国際的状況を把握していない。日本政府が尖閣諸島を「我が国固有の島」としているので、米国も支持していると勝手に思い込んでいる。
日本政府、政治家は、国際政治の現状とその変化少しも認識しないで、米国に頼ればいいという無頓着で無責任な態度をとり続けている。
2)-2:米国政府の立場
米国にとって、日中間の領土問題での対立を「適度に煽る」のは、これを利用し日本を米国の影響下に引き容れるのに有効であるからだし、操ることも容易になるからだ。「ジャパン・ハンドラー」が復活しバイデン政権高官に入っている事から、尖閣での対立を米国の対中政策に利用するであろうことは容易に想像できる。
しかし、尖閣での対立を煽るのは「利用する為」であり、米国が尖閣の領有をめぐって日本のために戦争をするつもりなどない。
バイデン新政権も「日米安全保障条約第5条に基づく、尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の関与は揺るぎない」ことを確認した。その一方で、2月28日米国防総省カービー報道官は、①尖閣諸島の管轄権は日本であるが、②領有権に関してはいずれの国の立場も取らない」(日本政府が尖閣を自国領土と主張していることを支持しない)ことも明言した。(こんな重要なことを、日本政府は触れないし、メディアも報じない。)
そのことは米政府・米軍は尖閣のために中国と闘わないことを明言したことに他ならない。米軍の参戦は「戦争権限は米議会にある」とする米憲法に従う、米議会が他国の領土の為の参戦を支持することはない、ゆえに、日米安保条約5条にしたがって自動的に参戦することはない、という従来の立場を確認したにすぎない。米国が「尖閣諸島の領有権は日・中・台のいずれの立場も取らない」としていることは、対立を煽るが武力紛争に介入しないことを意味している。
3)尖閣の領有
尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。日本政府は「尖閣諸島は日本固有の領土」と主張しているが、米国も含め国際的には認められていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民が誤解するように宣伝している。
3)-1:日本政府の主張
尖閣諸島が日本の領土であるという日本政府の主張は、下記の通り「固有の領土論」、「先占の法理」を根拠としている。
① 1885年:沖縄県を通じて尖閣諸島の現地調査を幾度も実施。無人島であることだけでなく、清国を含むいずれの国にも属していない土地であることを慎重に確認した。
② 日清戦争、1894年(明治27年)7月25日から1895年(明治28年)4月17日にかけて日本と清国の間で行われた戦争で編入した。
③ 1995年1月14日閣議決定で日本の領土(沖縄県)に編入(先占の法理)した。
※「先占の法理」とは:どこの国にも属していない場所を先に実効支配した国がその領土を主張できるという、国際法で認められる領有権取得の方法
この日本政府の主張で、一番弱いのは国際法上の「先占の法理」である。
「先占の法理」は植民地争奪合戦で出遅れたドイツの学者が主張した法理である。例えばアフリカとかアラビア半島とか住人はいるが、明確な国家はない。だから「国家」である西側諸国が出かけて、これは自分のものと言えば認められるというものだが、現地住民の権利を認めない考え方でもある。国際司法裁判所等が第2次大戦以降現地住民の考えを重視するようになり、植民地主義的「先占の法理」は国際司法裁判所の裁判でも使用されていない。かつ、「清国を含むいずれの国にも属していない土地であることを慎重に確認した」とする日本政府の主張は、どの様な手段で確認したのかはほとんど明確でない。(以上、孫崎享氏ブログより引用)
日本政府は上記の歴史的経緯から尖閣諸島が「固有の領土」であると主張している。
3)ー2:ポツダム宣言受諾
日本は第2次大戦終了時においてポツダム宣言を受諾した。ここでは、日本の領土は「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とされている。過去の経緯がどうあれ、日本は本州、北海道、九州、四国以外は「吾等(連合国)ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とされている。カイロ宣言は次の決定を行っている。「並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」と記している。「盗取」という言葉に注目しておくべきだ。
ポツダム宣言をないがしろにすることは、第2次世界大戦で決まった国境線を変えることであり、現在と将来の対立と戦争の原因をつくることだと、私たちはキチンと知っておかなくてはならない。「固有の領土論」は、ポツダム宣言をはじめとする後に締結した条約とその意味を、無視したりないがしろにする危険な志向、意味を含んでいることを知っておかなくてはならない。日本政府はそのような態度をとっているのである。
多くの日本人はそのことを知らない。
国際的には「固有の領土論」は認められていない。そんなことも知らない。
3)ー3:沖縄返還時は?
1972年、米国は沖縄を返還したが、この時米国務省報道官は①尖閣諸島の管轄権は日本、②領有権に関してはいずれの国の立場も取らない」とした。この時も米国は尖閣諸島の日本の領有権を認めていない。
3)ー4:日中国交回復時にどうしたか?
日中国交回復時の難問は尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。
しかし、外務省、日本政府は対応を変え、「棚上げ合意はない」という主張をこっそりと始めたのである。
2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。そのことに「対応」するため、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。
併せて、日中両国は尖閣諸島での軍事紛争をさけるため、「日中漁業協定」を結んでいた。協定は、「中国船が入った場合、日本は撤退を求める、問題があれば外交で処理する」と規定している。併せて日中双方で、「尖閣に関し、国内法を使わない」覚書を双方で交換した。
しかし、これを破ったのが民主党の菅直人政権であり、国内法を使用し中国漁船を拿捕するという行為に出た。さらに野田政権は尖閣を国有化した。
問題は日本政府が一方的に「棚上げ合意」を破棄したことにある。そのことによって日本政府、中国政府共に、自分たちの領有権を主張する状態に戻った。戻したのは日本政府である、中国政府ではない。
4)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ
東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実をキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。
「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」状態が到来している。米ランド研究所のレポートによれば、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」レポートによれば、
・中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
・アジアの米空軍基地は中国のミサイル攻撃で無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。尖閣もミサイル攻撃の対象となる。
・中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
・米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。
5)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ
今なすべきことは、米国の影響から離れ、日中関係の改善を図るべきだ。米国の都合による米中対立の枠内で日中関係の改善は絶対に実現できない。日中関係の改善のためには、尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。それ以外にない。
いたずらに対立を煽ってはいけない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。米軍事力を頼みにして、自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力からすればすでに大差がついている。いったん戦争がはじまった場合、自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時にして自衛隊は全滅する。
対立と戦争の原因となる政策を採るべきではない。対立や戦争が起きる原因をひとつひとつ慎重に潰していって、平和的な関係をつくり上げるのが私たちの望みだ。
尖閣諸島をめぐる日中対立を煽るな!
<尖閣諸島>
1)バイデン政権の外交の柱は対中強硬路線
バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれている。米政府にとって 「中国が最重要課題なのは疑う余地がない」(ブリンケン国務長官)のであり、米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎないことを私たちはよく知っていなければならない。(猿田佐世『世界』4月号、「対等な日米関係?」)
バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する、と表明している。日本を含む同盟国の軍事能力の整備、財政的負担を求めてくるだろう。
対中強硬路線を実行するための一環として「日米豪印戦略対話(クワッド)」呼ばれる枠組みを提唱したが、インドがあまり乗り気ではない。韓国、ASEAN、ニュージーランドも参加しない立場を明確にしている。米国にはすでに以前の「権威、力」はない。
バイデン政権の高官に、カート・キャンベル/アジア・太平洋調整官などが就き、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる人たちが復活した。他の同盟国はいざ知らず、米政府にとって日本政府を操るのは思惑通り行きそうだ。
2)尖閣での対立を煽るな!
米支配層は「尖閣問題」を煽る日本政府を利用することで対中戦略、米中対立と世界の分断を推し進めようとしている。その戦略を自ら進んで推し進め対米依存を深める政治家や官僚が日本政府の中枢にいる。
2)ー1:日本政府の立場
「日米、尖閣に安保適用明記へ 首脳会談で共同文書作成
共同通信(3月26日)によれば、4月上旬菅首相が訪米する日米首脳会談で日米両政府は共同文書を作成する方針だ。政府関係者によると、東・南シナ海で影響力を強める中国を念頭に、「尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象」だと明記する方向で最終調整している。日本政府は、米政権や国務長官が代わるたびに「尖閣が日米安保の適用範囲」であることを確認してきた。
日本政府は、米軍の存在を背景に、歴史問題、慰安婦問題などを解決することなく中国に対する強硬な姿勢、要求を実現しようとする立場を追求している。問題は、大きく変化しつつある2021年現在の国際情勢、東アジア情勢において、この外交・軍事政策に果たして「現実性」があるのかということだ。隣人への要求を実現するために暴力団に仲介を頼むようなものだからだ。日本がより一層米国に従属していかざるを得なくなる。
尖閣問題では、日本政府は日本国民が誤解するように宣伝している。メディアを含む多くの日本人は、尖閣諸島の主権に関する国際的状況を把握していない。日本政府が尖閣諸島を「我が国固有の島」としているので、米国も支持していると勝手に思い込んでいる。
日本政府、政治家は、国際政治の現状とその変化少しも認識しないで、米国に頼ればいいという無頓着で無責任な態度をとり続けている。
2)-2:米国政府の立場
米国にとって、日中間の領土問題での対立を「適度に煽る」のは、これを利用し日本を米国の影響下に引き容れるのに有効であるからだし、操ることも容易になるからだ。「ジャパン・ハンドラー」が復活しバイデン政権高官に入っている事から、尖閣での対立を米国の対中政策に利用するであろうことは容易に想像できる。
しかし、尖閣での対立を煽るのは「利用する為」であり、米国が尖閣の領有をめぐって日本のために戦争をするつもりなどない。
バイデン新政権も「日米安全保障条約第5条に基づく、尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の関与は揺るぎない」ことを確認した。その一方で、2月28日米国防総省カービー報道官は、①尖閣諸島の管轄権は日本であるが、②領有権に関してはいずれの国の立場も取らない」(日本政府が尖閣を自国領土と主張していることを支持しない)ことも明言した。(こんな重要なことを、日本政府は触れないし、メディアも報じない。)
そのことは米政府・米軍は尖閣のために中国と闘わないことを明言したことに他ならない。米軍の参戦は「戦争権限は米議会にある」とする米憲法に従う、米議会が他国の領土の為の参戦を支持することはない、ゆえに、日米安保条約5条にしたがって自動的に参戦することはない、という従来の立場を確認したにすぎない。米国が「尖閣諸島の領有権は日・中・台のいずれの立場も取らない」としていることは、対立を煽るが武力紛争に介入しないことを意味している。
3)尖閣の領有
尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。日本政府は「尖閣諸島は日本固有の領土」と主張しているが、米国も含め国際的には認められていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民が誤解するように宣伝している。
3)-1:日本政府の主張
尖閣諸島が日本の領土であるという日本政府の主張は、下記の通り「固有の領土論」、「先占の法理」を根拠としている。
① 1885年:沖縄県を通じて尖閣諸島の現地調査を幾度も実施。無人島であることだけでなく、清国を含むいずれの国にも属していない土地であることを慎重に確認した。
② 日清戦争、1894年(明治27年)7月25日から1895年(明治28年)4月17日にかけて日本と清国の間で行われた戦争で編入した。
③ 1995年1月14日閣議決定で日本の領土(沖縄県)に編入(先占の法理)した。
※「先占の法理」とは:どこの国にも属していない場所を先に実効支配した国がその領土を主張できるという、国際法で認められる領有権取得の方法
この日本政府の主張で、一番弱いのは国際法上の「先占の法理」である。
「先占の法理」は植民地争奪合戦で出遅れたドイツの学者が主張した法理である。例えばアフリカとかアラビア半島とか住人はいるが、明確な国家はない。だから「国家」である西側諸国が出かけて、これは自分のものと言えば認められるというものだが、現地住民の権利を認めない考え方でもある。国際司法裁判所等が第2次大戦以降現地住民の考えを重視するようになり、植民地主義的「先占の法理」は国際司法裁判所の裁判でも使用されていない。かつ、「清国を含むいずれの国にも属していない土地であることを慎重に確認した」とする日本政府の主張は、どの様な手段で確認したのかはほとんど明確でない。(以上、孫崎享氏ブログより引用)
日本政府は上記の歴史的経緯から尖閣諸島が「固有の領土」であると主張している。
3)ー2:ポツダム宣言受諾
日本は第2次大戦終了時においてポツダム宣言を受諾した。ここでは、日本の領土は「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とされている。過去の経緯がどうあれ、日本は本州、北海道、九州、四国以外は「吾等(連合国)ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とされている。カイロ宣言は次の決定を行っている。「並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」と記している。「盗取」という言葉に注目しておくべきだ。
ポツダム宣言をないがしろにすることは、第2次世界大戦で決まった国境線を変えることであり、現在と将来の対立と戦争の原因をつくることだと、私たちはキチンと知っておかなくてはならない。「固有の領土論」は、ポツダム宣言をはじめとする後に締結した条約とその意味を、無視したりないがしろにする危険な志向、意味を含んでいることを知っておかなくてはならない。日本政府はそのような態度をとっているのである。
多くの日本人はそのことを知らない。
国際的には「固有の領土論」は認められていない。そんなことも知らない。
3)ー3:沖縄返還時は?
1972年、米国は沖縄を返還したが、この時米国務省報道官は①尖閣諸島の管轄権は日本、②領有権に関してはいずれの国の立場も取らない」とした。この時も米国は尖閣諸島の日本の領有権を認めていない。
3)ー4:日中国交回復時にどうしたか?
日中国交回復時の難問は尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。
しかし、外務省、日本政府は対応を変え、「棚上げ合意はない」という主張をこっそりと始めたのである。
2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。そのことに「対応」するため、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。
併せて、日中両国は尖閣諸島での軍事紛争をさけるため、「日中漁業協定」を結んでいた。協定は、「中国船が入った場合、日本は撤退を求める、問題があれば外交で処理する」と規定している。併せて日中双方で、「尖閣に関し、国内法を使わない」覚書を双方で交換した。
しかし、これを破ったのが民主党の菅直人政権であり、国内法を使用し中国漁船を拿捕するという行為に出た。さらに野田政権は尖閣を国有化した。
問題は日本政府が一方的に「棚上げ合意」を破棄したことにある。そのことによって日本政府、中国政府共に、自分たちの領有権を主張する状態に戻った。戻したのは日本政府である、中国政府ではない。
4)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ
東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実をキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。
「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」状態が到来している。米ランド研究所のレポートによれば、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」レポートによれば、
・中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
・アジアの米空軍基地は中国のミサイル攻撃で無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。尖閣もミサイル攻撃の対象となる。
・中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
・米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。
5)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ
今なすべきことは、米国の影響から離れ、日中関係の改善を図るべきだ。米国の都合による米中対立の枠内で日中関係の改善は絶対に実現できない。日中関係の改善のためには、尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。それ以外にない。
いたずらに対立を煽ってはいけない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。米軍事力を頼みにして、自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力からすればすでに大差がついている。いったん戦争がはじまった場合、自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時にして自衛隊は全滅する。
対立と戦争の原因となる政策を採るべきではない。対立や戦争が起きる原因をひとつひとつ慎重に潰していって、平和的な関係をつくり上げるのが私たちの望みだ。
バイデン政権の対中政策は? [世界の動き]
バイデン政権の対中政策はどうなるか?
<1月21日、バイデン、大統領就任演説>
1)EUは対中国で米国と共闘する意志がない
20年12月30日、習近平とEU首脳がオンライン会議を開催し、EUと中国との投資協定締結で大筋合意した。
EUは「中国の過去の協定でもっとも野心的な内容だ」と評している。
「投資協定」の内容は、「EU企業の中国への参入制限を緩和する」、「労働者保護に関し中国政府は、強制労働を禁じるILOの関連条約の批准に向け努力する」というものだ。
バイデン政権発足の直前に成立させた中国とEUの投資協定の大筋合意は、メルケル首相とマクロン大統領が、対中国で米国と共闘する意志がないと、明確に表明したことを意味する。
一方、20年12月、英国―中国間で、年間輸出入額100兆円規模の自由貿易協定をまとめた。
EU、英国をせっついたのは、コロナ危機による景気減速が背景にあるとともに、それ以上に中国経済との分離は破滅を招かずにはいられない、という判断があるからだ。バイデン政権成立前の「政治的空白期間」を狙い、協定をまとめた。
それはEU、英ともに、一方的に米国に従属するわけにはいかないという意思表示でもある。
EU、特に独メルケル首相は、米国とは一定の距離をおいた独自の政治・経済国際協調体制構築を構想している。「トランプ米政権に振り回された」4年間に対する対応であり、EUが米国に振り回されず独自の道を歩む意思表示でもある。
英国はEU離脱による孤立(英国支配層にとっては「オウンゴール」)という独自の事情も加わる。EU離脱は英国を「米国への追従」へと追いやるが、中国との関係を保っておくことで米英関係の平衡を保とうとしているのだ。
全体として、米国の国力の低下を意識した対応とみていいだろう。
中国との投資協定は、これまで欧米がやってきたように途上国に「民主主義」制度や価値観を教え導入させるための方法(=新植民地主義)と、位置づけることはもはやできない。すでに中国経済は十分に大きく、EU、英が「教え」を押しつける関係にはない。
しかし、米国・バイデン新政権は、不快感を抱いただろう。
バイデン政権は、同盟国であるEU、英、日などと連携して中国に対処したいと考えているが、政権発足前に、EU、英ともに、投資協定、自由貿易協定をさっさと結んでしまった。もっとも、バイデン政権の「願望」は、「公式」には貿易や投資の協定に反対する理由にはならない。そもそも米国は経済における自由化を主張してきたからだ。
発足時にすでにバイデン政権には、EUの間に溝がある。ただこの溝はもともとトランプ政権がつくったものでもある。
国際協調と同盟国との連携がバイデン政権の対中戦略の柱だが、少なくとも米欧間でそれが実る可能性は低い。
2)ASEANは米中等距離外交
20年末に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の合意に達した。RCEPは、中国と日本や太平洋諸国15カ国が加盟する。貿易の拡大と地域の経済成長の促進につながる比較的「緩い」経済連携だ。各国とも恩恵を受けるとともに、アジア経済の中核として、中国の地位が確立され中国に長期的利益をもたらす。
中国とASEANのあいだには、2005年に「物品貿易協定」が発足し、10年初めにはASEAN先行6カ国と中国間で関税が廃止された。中国とニュージーランドの間には、2008年FTA(自由貿易協定)が発効した。
その結果、中国、ASEAN、ニュージーランド間の商品貿易は、世界貿易全体の伸び率を大きく上回り、増大した。
RCEPの発効は、アジアの産業活動が中国を中心に集中・再編されることを意味する。RCEPの未来は、少し前の日本と東アジア諸国の関係、「雁行的発展・垂直分業システム」として機能した歴史を、別の条件下で繰り返すと見ればわかりやすいだろう。
ASEAN諸国は、ここ10年ほどは「米中等距離外交」の姿勢を堅持しており、その条件下で世界でも最も経済発展を成し遂げている。ASEAN諸国は、アジア地域での米軍の行動によって紛争や対立を引き起こすのを強く拒否する立場をとっている。
3)米中対立はどうなるのか?
バイデン政権で、以前の米国は蘇るか? その可能性は極めて低い。そもそもトランプ政権の登場が、それ以前の伝統政治が限界に達していたからだ。米中間層が没落し、格差は拡大し、ワシントンの「エリート政治」に対する反発が大きくなっていた。トランプはこの反発を自身への支持にかえた。
バイデン政権は、何よりも金融資本、軍産複合体の支持をもとに、アンチ・トランプを政権の求心力の源として出発した。しかし、トランプ政権の政策も継承せざるをえない。外交政策、対中国政策は変わる余地が少ないだろう。
今のところ、中国に対するバイデン政権の対応は、「前政権の強硬姿勢を継承しつつも、異なる手法で中国に臨む」というトーンを続けている。現時点は、同盟国であるEUや日本、ASEAN、インドなどと連携した対中政策へと再編するため調整している段階だ。
1月25日、サキ米大統領報道官が「(中国に対しては)多少の戦略的忍耐で対応していきたい」と表明した。「戦略的忍耐」が失敗したオバマ政権の北朝鮮政策を連想させることを嫌ってか、のちに発言を修正したが、「……「戦略的忍耐」はバイデン政権の対中政策の基本方針になるだろう。しかし、あくまで当面だろう、その方針が米国の求める「実績」をあげるかは、極めて心もとないからだ。」(2月12日、日本経済新聞、呉軍華・日本総合研究所上席理事)
国際協調と同盟国との連携がバイデン政権の対中戦略の柱だが、少なくとも米欧間でそれが実る可能性は低い。NATO内での対立は尾を引いている。EUや日本、韓国への軍事費負担の要求は引き続くだろう。上述の通り、メルケル首相とマクロン大統領は、対中国で米国と共闘する意志がない。
日本は米国に従っている。米、インド、オーストラリアと連携して対中包囲網を形成しようとしている。ただし、米、印、豪、日で中国を包囲できない。この試みには見込みはない。ASEAN諸国はすでに米中等距離外交の立場をとっており、米国による対中政策に加担しておらず、対中包囲網にも参加していない。
バイデン政権の中国との対決姿勢はいったん止まるかもしれない、しかしその先はわからない。
バイデン政権の「戦略的忍耐」で、対決に向かう米中関係の流れはいったん止まるだろう。だが、これで安定軌道に入ったと見てはならない。金融資本、軍産複合体という米支配層の「忍耐次第」では、中長期的にはいっそう激しく揺れ戻す可能性がある。(2月21日記)
バイデンの外交政策は?
<1月21日、バイデン、大統領就任演説>
1)EUは対中国で米国と共闘する意志がない
20年12月30日、習近平とEU首脳がオンライン会議を開催し、EUと中国との投資協定締結で大筋合意した。
EUは「中国の過去の協定でもっとも野心的な内容だ」と評している。
「投資協定」の内容は、「EU企業の中国への参入制限を緩和する」、「労働者保護に関し中国政府は、強制労働を禁じるILOの関連条約の批准に向け努力する」というものだ。
バイデン政権発足の直前に成立させた中国とEUの投資協定の大筋合意は、メルケル首相とマクロン大統領が、対中国で米国と共闘する意志がないと、明確に表明したことを意味する。
一方、20年12月、英国―中国間で、年間輸出入額100兆円規模の自由貿易協定をまとめた。
EU、英国をせっついたのは、コロナ危機による景気減速が背景にあるとともに、それ以上に中国経済との分離は破滅を招かずにはいられない、という判断があるからだ。バイデン政権成立前の「政治的空白期間」を狙い、協定をまとめた。
それはEU、英ともに、一方的に米国に従属するわけにはいかないという意思表示でもある。
EU、特に独メルケル首相は、米国とは一定の距離をおいた独自の政治・経済国際協調体制構築を構想している。「トランプ米政権に振り回された」4年間に対する対応であり、EUが米国に振り回されず独自の道を歩む意思表示でもある。
英国はEU離脱による孤立(英国支配層にとっては「オウンゴール」)という独自の事情も加わる。EU離脱は英国を「米国への追従」へと追いやるが、中国との関係を保っておくことで米英関係の平衡を保とうとしているのだ。
全体として、米国の国力の低下を意識した対応とみていいだろう。
中国との投資協定は、これまで欧米がやってきたように途上国に「民主主義」制度や価値観を教え導入させるための方法(=新植民地主義)と、位置づけることはもはやできない。すでに中国経済は十分に大きく、EU、英が「教え」を押しつける関係にはない。
しかし、米国・バイデン新政権は、不快感を抱いただろう。
バイデン政権は、同盟国であるEU、英、日などと連携して中国に対処したいと考えているが、政権発足前に、EU、英ともに、投資協定、自由貿易協定をさっさと結んでしまった。もっとも、バイデン政権の「願望」は、「公式」には貿易や投資の協定に反対する理由にはならない。そもそも米国は経済における自由化を主張してきたからだ。
発足時にすでにバイデン政権には、EUの間に溝がある。ただこの溝はもともとトランプ政権がつくったものでもある。
国際協調と同盟国との連携がバイデン政権の対中戦略の柱だが、少なくとも米欧間でそれが実る可能性は低い。
2)ASEANは米中等距離外交
20年末に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の合意に達した。RCEPは、中国と日本や太平洋諸国15カ国が加盟する。貿易の拡大と地域の経済成長の促進につながる比較的「緩い」経済連携だ。各国とも恩恵を受けるとともに、アジア経済の中核として、中国の地位が確立され中国に長期的利益をもたらす。
中国とASEANのあいだには、2005年に「物品貿易協定」が発足し、10年初めにはASEAN先行6カ国と中国間で関税が廃止された。中国とニュージーランドの間には、2008年FTA(自由貿易協定)が発効した。
その結果、中国、ASEAN、ニュージーランド間の商品貿易は、世界貿易全体の伸び率を大きく上回り、増大した。
RCEPの発効は、アジアの産業活動が中国を中心に集中・再編されることを意味する。RCEPの未来は、少し前の日本と東アジア諸国の関係、「雁行的発展・垂直分業システム」として機能した歴史を、別の条件下で繰り返すと見ればわかりやすいだろう。
ASEAN諸国は、ここ10年ほどは「米中等距離外交」の姿勢を堅持しており、その条件下で世界でも最も経済発展を成し遂げている。ASEAN諸国は、アジア地域での米軍の行動によって紛争や対立を引き起こすのを強く拒否する立場をとっている。
3)米中対立はどうなるのか?
バイデン政権で、以前の米国は蘇るか? その可能性は極めて低い。そもそもトランプ政権の登場が、それ以前の伝統政治が限界に達していたからだ。米中間層が没落し、格差は拡大し、ワシントンの「エリート政治」に対する反発が大きくなっていた。トランプはこの反発を自身への支持にかえた。
バイデン政権は、何よりも金融資本、軍産複合体の支持をもとに、アンチ・トランプを政権の求心力の源として出発した。しかし、トランプ政権の政策も継承せざるをえない。外交政策、対中国政策は変わる余地が少ないだろう。
今のところ、中国に対するバイデン政権の対応は、「前政権の強硬姿勢を継承しつつも、異なる手法で中国に臨む」というトーンを続けている。現時点は、同盟国であるEUや日本、ASEAN、インドなどと連携した対中政策へと再編するため調整している段階だ。
1月25日、サキ米大統領報道官が「(中国に対しては)多少の戦略的忍耐で対応していきたい」と表明した。「戦略的忍耐」が失敗したオバマ政権の北朝鮮政策を連想させることを嫌ってか、のちに発言を修正したが、「……「戦略的忍耐」はバイデン政権の対中政策の基本方針になるだろう。しかし、あくまで当面だろう、その方針が米国の求める「実績」をあげるかは、極めて心もとないからだ。」(2月12日、日本経済新聞、呉軍華・日本総合研究所上席理事)
国際協調と同盟国との連携がバイデン政権の対中戦略の柱だが、少なくとも米欧間でそれが実る可能性は低い。NATO内での対立は尾を引いている。EUや日本、韓国への軍事費負担の要求は引き続くだろう。上述の通り、メルケル首相とマクロン大統領は、対中国で米国と共闘する意志がない。
日本は米国に従っている。米、インド、オーストラリアと連携して対中包囲網を形成しようとしている。ただし、米、印、豪、日で中国を包囲できない。この試みには見込みはない。ASEAN諸国はすでに米中等距離外交の立場をとっており、米国による対中政策に加担しておらず、対中包囲網にも参加していない。
バイデン政権の中国との対決姿勢はいったん止まるかもしれない、しかしその先はわからない。
バイデン政権の「戦略的忍耐」で、対決に向かう米中関係の流れはいったん止まるだろう。だが、これで安定軌道に入ったと見てはならない。金融資本、軍産複合体という米支配層の「忍耐次第」では、中長期的にはいっそう激しく揺れ戻す可能性がある。(2月21日記)
バイデンの米国はどうなるか? [世界の動き]
バイデンの米国はどうなるか?
1)政治的にみると
バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の影響を大きく受ける
①バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の影響を大きく受ける政権
大統領選挙において、ウォール街、軍産複合体はバイデンを支持した。いつもに増して巨額の選挙資金が投入された「金権選挙」となった。金融資本、軍産複合体はバイデン政権成立のために動いた。このままトランプに任せていたら、米社会の荒廃と混乱がさらに大きくなり米支配層の支配が脅かされかねないという危機感を抱き、本気でトランプを引きずり下ろしたのである。
元軍大将ら489人がバイデンを支持し、トランプ大統領批判を行った。これらの中には統合参謀本部副議長を務めたセルバ退役空軍大将、カーター、ヘーゲル両元国防長官、ブッシュ(子)政権のエーデルマン国防次官らが含まれている。彼ら軍事・安全保障にかかわるエリート層も、バイデン政権成立のために総動員されたということだろう。
したがって、「選挙時の動向からみて、バイデン政権はどの政権より、金融資本・米国のグローバル企業、軍産複合体の影響を受ける。」(1月20日、孫崎享)。
② 組閣の顔ぶれ――オバマ政権閣僚から横すべり
組閣の顔ぶれを見ると、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官(元陸軍大将)、ジャネット・イエレン財務長官(前FRB議長)らが任命された。オバマ政権のスタッフが閣僚、高官にそのまま滑り込んだというのがその特徴だ。女性、黒人、性的少数者などを閣僚に配置しているが、民主党左派で大統領候補を争ったバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、及びアレクサンドラ・オカシオ・コルテス議員らは徹底して外している。金融資本と対立する勢力を完全に排除した。民主党左派は、大統領選挙の際の票集めに利用されたということになる。
とくに国務省人事に注目すべきだ。
アントニー・ブリンケン国務長官:
元国務副長官、クリントン、オバマ両政権で外交の要職を歴任したバイデンの側近。イラク、アフガニスタン、シリア、レバノンへの軍事介入を、当時のバイデン副大統領の周辺にいて主張してきた。
2013年アサド政権が化学兵器を使ったとしてシリア攻撃を主張したが、オバマ政権が見送った際に不満を漏らした。17年にトランプ政権がシリア攻撃をした時、これに賛成した。
初会見で早速、「中国ウイグル族にジェノサイドがあった」と発言し、中国政府が抗議している。
<アントニー・ブリンケン国務長官>
ビクトリア・ヌーランド国務次官(女性):
元国務次官補、キャリア外交官で、これまで国務省広報官やNATO大使を務めた。2014年のウクライナ・クーデターによる政権転覆を主導した。夫は著名なネオコンであるロバート・ケイガン。
<ビクトリア・ヌーランド国務次官補>
中東やウクライナへの軍事介入を主導したオバマ政権のスタッフがそのまま国務省幹部の地位についている。国務省は、世界のどこにでも軍事介入を主張してきた布陣をとっている。
政権のこの陣容は、失敗し退陣したかつての「エリート政治」そのものの復活だ。
③選挙票にあらわれたバイデン政権の不安定な基盤
ワシントンの「エリート政治」は、「プア・ホワイト」を中心に反感を買い、トランプ政権を生み出してきた。バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の政権であり、大統領選挙時の票数でいえば、民主党票のうちの左派を除くと、全票数の30%程度の支持の上に立っており、きわめて不安定な政権なのだ。
したがって、バイデン政権は「エリート層の政権」でありながら、かつての「エリート政治」をそのまま実行できない。格差拡大の一定程度の是正、貧困層の救済を行わなければならない。少なくともその「ポーズ」を取らなくてはならない。でなければ、2年後の中間選挙、4年後の大統領選挙で敗れる。トランプ支持者、民主党左派支持者の言い分を、実績でもって一定程度抑え込まなくてはならない。
そのためバイデン政権は、意図するしないにかかわらず、コロナ対策や格差拡大是正を中心とする内政に引きずりこまれる。貧困層の救済、格差是正、失業者救済、医療アクセスの改善・救済に一定程度取り組む姿勢を見せなければならない。トランプのような「フェイク」ではなく実績を上げなければならない。
大統領選挙結果に現われたように、トランプ票は7,400万票もあった。トランプ支持者と支持勢力は広範囲に広がっていたことが判明した。国内外に「敵」をつくりだし、アメリカ第一主義、「白人至上主義」でプライドをくすぐり、フェイクニュースで煽ったため、「Qアノン」など確固たる極右政治勢力をつくってしまった。
この先「軍産複合体」「金融資本」は、おそらくトランプの政治勢力の影響力を徹底的に排除するつもりだ。
「軍産複合体」「金融資本」の支配は、民主・共和双方にまたがる。下院における弾劾審議でネオコンの代表であるチェイニーの娘が共和党員にもかかわらず、弾劾支持に回ったことにも表われている。議会はトランプ弾劾でモタモタしているが、少なくとも24年の大統領選挙に出馬できなくなるまでトランプ排除に努めるだろう。これもバイデン政権が労力を裂かなければならない内政の一つだ。
他方で民主党左派は、貧困層の救済、格差是正、失業者救済、医療アクセスの改善・救済を正面に掲げ、貧困対策を要求しているが、これをより徹底して行うよう政権に求めるだろう。
米国社会は今、深刻な対立のなかにある。
これから先のバイデン政権の4年間は、内政を中心に厳しい情勢が続く。
④ 新自由主義の時代の終り
時代的により長いレンジで見るならば、バイデン政権の抱える課題と困難は、米社会がこれまで30~40年にわたり新自由主義政策を導入し、富裕層への富の集中、貧困者の増大させてきたその結果がもたらしている。かつて分厚かった米国の中間層を没落させてしまったその「ツケ」が重くのしかかってきている。米国中間層はかつて「米民主主義」の担い手だった。これを没落させ米社会を荒廃させてしまったから、「エリート政治」への反発が広がり、4年前にトランプを生みだしたのだ。
もっともトランプは米社会の荒廃を解決しなかった。国内外に「敵」をつくりだし、「アメリカ第一主義」でプライドを煽り、フェイクニュースで目をそらし、深刻な問題の解決を回避してきた。フェイクニュースをまき散らし白人至上主義の政治的主張する集団さえ形成されている。その結末が「議会襲撃」事件である。
当然のこと、うまくいかないのでバイデン政権の登場となったのである。
このような米社会の荒廃と混乱は新自由主義の結果であり、新自由主義が資本主義再生のプランであった時代は終わったということだろう。
バイデン政権は、当面内政に集中せざるを得ないが、どこまで修復できるか、その見通しは暗い。
2)経済的に見ると、
バイデン政権は内政に集中せざるをえない、
①10年10兆ドルの歳出計画
コロナ危機で全米の失業率は6.7%=1,070万人の失業者を抱えている。とりわけ低所得者層への打撃が深刻だ。財務長官には、イエレン前FRB(米連邦準備理事会)議長を指名した。イエレンは、大量失業と所得格差に立ち向かうと語った。
バイデン政権は10年で10兆ドルの歳出計画によって、「社会の荒廃に対処し格差拡大を是正をする」と表明している。 問題は果たして実行できるか?だ。 議会での予算案承認がまず関門となるが、その先にも大きな困難がある。
10兆ドルの内訳は、以下の通りだ。
・環境インフラ整備に4年で2兆ドル支出する。
・公立大学の一部を無償化する。多くの学生は学費をローンで借り支払っており、卒業時に5~15万ドル程度の借金を抱える。格差や階級を固定することになっており、若者の不満が非常に大きい。
・育児・介護へは、10年で7,750億ドル支出する。
バイデン政権は、10兆ドルで「1,860万人分の雇用創出効果がある」と宣伝している。
財源をどうするか?――バイデンによれば、富裕層への増税で10年で4.3兆ドル確保するとしている。
その構想は、
・連邦法人税を21%から28%へあげる。
・巨大IT企業(GAFAM)の税逃れを終わらせる、最低でも純利益の15%を納税(=「ミニマム税」)させる。
・富裕層増税――年収100万ドル以上の高所得者に、株式譲渡益税を20%から39.6%に引き上げるなどとしている。(以上、1月27日、日本経済新聞)
このような増税の実現は簡単には実現しない。議会で承認されなければならず、議員数の構成からして実現は容易ではない。
② 本当の困難
でも本当の困難はその先にある。仮に実現したとしても増税規模は10年で4兆3,000億ドルであり、10兆ドル支出の財政政策には足らない。単純計算すれば、債務はこの先10年で、最低でも5.6兆ドルも悪化する。一層の財政赤字は避けられない。
これとは別に、コロナ感染対策、ワクチン接種費用、雇用対策費などを別途支出しなければならず、その分財政赤字は増大する。
バイデン政権とっては米国債発行によって不足する財源を賄うしかない。すでに米連邦政府の債務残高は増え続け、現在のところ27兆ドルで過去最大に達している(過去10年で2倍に膨らみGDP比は130%に達した。1930年の大恐慌時の2.5倍の水準となっている)。この債務がさらに急増するということなのだ。
2020年の利払い負担は、年3,380億ドル(約35兆円)とされる。一時0.5%まで下がった長期金利は、現在1.1%まで上昇中だ。景気期待の財政政策と債務増大懸念で、金利には上昇圧力がかかっている。金利が上がれば利払い負担が増大してしまう。
債務の大きさから、米政府、FRBはさらなる金利上昇は絶対に避けなければならない状況に置かれている。
米議会予算局(CBO)の試算によると、米経済が今後、2%弱の潜在成長率であると仮定すると、連邦債務は30年には少なくとも33兆ドル(GDP比150%)にまで増える。これは「控えめな予測」だ。
他方、米政府の財政政策の効果は、20年12月に決めた9,000億ドルの対策の実際の景気押上げ効果は、6,600億ドルにとどまった(米調査機関調べによる)という。
要するに米経済が2%の成長率だと、将来的には債務は拡大してしまうということだ。債務が拡大しないためには2%をはるかに超えるより高い成長を達成しなければならないのだが、あらゆる予測は2%程度の潜在成長率であり、歳出規模ほどにはGDPは伸びないと試算している。
現時点においても米国内の資金の大半は、短期投資(株式や債券)に流れており、産業構造を転換し高成長を実現するエネルギー転換、ESG投資、インフラ投資などには向かっていない。
米財政は、コロナ対策費、社会保障費の増大で慢性的な赤字体質は避けられない、しかも財政出動が持続的成長につながりそうにない。軍産複合体は年80兆円の軍事費の縮小には同意しない。これらのことは、バイデン政権とそのあとに続く政権が、10年で10兆ドルの財政政策を続けることさえ困難であることを予測させる。
③ 低成長では米経済は転落する
これまで30~40年、米経済は財政赤字と貿易収支が大幅赤字(双子の赤字)でも、グローバリゼイションで世界経済が拡大し日欧や中国、新興国の政府、民間企業が外貨準備や金融機関の安全資産として国際通貨である米ドル、米国債を買い、資金は米国に還流してきた。その還流してきた資金が米国内や米国を通じて世界へ投資されていくという循環が成立し、米経済を成長させてきたし、長期金利を低い水準にとどめてきた。
問題は、コロナ危機とバイデノミクスがこの先、米経済の低成長しかもたらさなければ、この微妙な市場バランス、資金循環を崩し、米国にファイナンスされない事態が生まれかねないことだ。巨額債務を持続可能にしてきた低金利環境を転換させかねないことだ。
米中覇権争いは、決着がつくまでまだまだ期間を要するだろうが、ハイテク開発競争や軍事力によってではなく、米経済の転落によって決着がつく可能性も出てきたということを心配しなければならなくなった。
したがって、バイデン政権の格差を是正し、社会の荒廃に対処する政策は、そう簡単にはうまく行かない。おそらく早晩、続けられない局面となる可能性が高い。
米社会の分断と荒廃
1)政治的にみると
バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の影響を大きく受ける
①バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の影響を大きく受ける政権
大統領選挙において、ウォール街、軍産複合体はバイデンを支持した。いつもに増して巨額の選挙資金が投入された「金権選挙」となった。金融資本、軍産複合体はバイデン政権成立のために動いた。このままトランプに任せていたら、米社会の荒廃と混乱がさらに大きくなり米支配層の支配が脅かされかねないという危機感を抱き、本気でトランプを引きずり下ろしたのである。
元軍大将ら489人がバイデンを支持し、トランプ大統領批判を行った。これらの中には統合参謀本部副議長を務めたセルバ退役空軍大将、カーター、ヘーゲル両元国防長官、ブッシュ(子)政権のエーデルマン国防次官らが含まれている。彼ら軍事・安全保障にかかわるエリート層も、バイデン政権成立のために総動員されたということだろう。
したがって、「選挙時の動向からみて、バイデン政権はどの政権より、金融資本・米国のグローバル企業、軍産複合体の影響を受ける。」(1月20日、孫崎享)。
② 組閣の顔ぶれ――オバマ政権閣僚から横すべり
組閣の顔ぶれを見ると、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官(元陸軍大将)、ジャネット・イエレン財務長官(前FRB議長)らが任命された。オバマ政権のスタッフが閣僚、高官にそのまま滑り込んだというのがその特徴だ。女性、黒人、性的少数者などを閣僚に配置しているが、民主党左派で大統領候補を争ったバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、及びアレクサンドラ・オカシオ・コルテス議員らは徹底して外している。金融資本と対立する勢力を完全に排除した。民主党左派は、大統領選挙の際の票集めに利用されたということになる。
とくに国務省人事に注目すべきだ。
アントニー・ブリンケン国務長官:
元国務副長官、クリントン、オバマ両政権で外交の要職を歴任したバイデンの側近。イラク、アフガニスタン、シリア、レバノンへの軍事介入を、当時のバイデン副大統領の周辺にいて主張してきた。
2013年アサド政権が化学兵器を使ったとしてシリア攻撃を主張したが、オバマ政権が見送った際に不満を漏らした。17年にトランプ政権がシリア攻撃をした時、これに賛成した。
初会見で早速、「中国ウイグル族にジェノサイドがあった」と発言し、中国政府が抗議している。
<アントニー・ブリンケン国務長官>
ビクトリア・ヌーランド国務次官(女性):
元国務次官補、キャリア外交官で、これまで国務省広報官やNATO大使を務めた。2014年のウクライナ・クーデターによる政権転覆を主導した。夫は著名なネオコンであるロバート・ケイガン。
<ビクトリア・ヌーランド国務次官補>
中東やウクライナへの軍事介入を主導したオバマ政権のスタッフがそのまま国務省幹部の地位についている。国務省は、世界のどこにでも軍事介入を主張してきた布陣をとっている。
政権のこの陣容は、失敗し退陣したかつての「エリート政治」そのものの復活だ。
③選挙票にあらわれたバイデン政権の不安定な基盤
ワシントンの「エリート政治」は、「プア・ホワイト」を中心に反感を買い、トランプ政権を生み出してきた。バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の政権であり、大統領選挙時の票数でいえば、民主党票のうちの左派を除くと、全票数の30%程度の支持の上に立っており、きわめて不安定な政権なのだ。
したがって、バイデン政権は「エリート層の政権」でありながら、かつての「エリート政治」をそのまま実行できない。格差拡大の一定程度の是正、貧困層の救済を行わなければならない。少なくともその「ポーズ」を取らなくてはならない。でなければ、2年後の中間選挙、4年後の大統領選挙で敗れる。トランプ支持者、民主党左派支持者の言い分を、実績でもって一定程度抑え込まなくてはならない。
そのためバイデン政権は、意図するしないにかかわらず、コロナ対策や格差拡大是正を中心とする内政に引きずりこまれる。貧困層の救済、格差是正、失業者救済、医療アクセスの改善・救済に一定程度取り組む姿勢を見せなければならない。トランプのような「フェイク」ではなく実績を上げなければならない。
大統領選挙結果に現われたように、トランプ票は7,400万票もあった。トランプ支持者と支持勢力は広範囲に広がっていたことが判明した。国内外に「敵」をつくりだし、アメリカ第一主義、「白人至上主義」でプライドをくすぐり、フェイクニュースで煽ったため、「Qアノン」など確固たる極右政治勢力をつくってしまった。
この先「軍産複合体」「金融資本」は、おそらくトランプの政治勢力の影響力を徹底的に排除するつもりだ。
「軍産複合体」「金融資本」の支配は、民主・共和双方にまたがる。下院における弾劾審議でネオコンの代表であるチェイニーの娘が共和党員にもかかわらず、弾劾支持に回ったことにも表われている。議会はトランプ弾劾でモタモタしているが、少なくとも24年の大統領選挙に出馬できなくなるまでトランプ排除に努めるだろう。これもバイデン政権が労力を裂かなければならない内政の一つだ。
他方で民主党左派は、貧困層の救済、格差是正、失業者救済、医療アクセスの改善・救済を正面に掲げ、貧困対策を要求しているが、これをより徹底して行うよう政権に求めるだろう。
米国社会は今、深刻な対立のなかにある。
これから先のバイデン政権の4年間は、内政を中心に厳しい情勢が続く。
④ 新自由主義の時代の終り
時代的により長いレンジで見るならば、バイデン政権の抱える課題と困難は、米社会がこれまで30~40年にわたり新自由主義政策を導入し、富裕層への富の集中、貧困者の増大させてきたその結果がもたらしている。かつて分厚かった米国の中間層を没落させてしまったその「ツケ」が重くのしかかってきている。米国中間層はかつて「米民主主義」の担い手だった。これを没落させ米社会を荒廃させてしまったから、「エリート政治」への反発が広がり、4年前にトランプを生みだしたのだ。
もっともトランプは米社会の荒廃を解決しなかった。国内外に「敵」をつくりだし、「アメリカ第一主義」でプライドを煽り、フェイクニュースで目をそらし、深刻な問題の解決を回避してきた。フェイクニュースをまき散らし白人至上主義の政治的主張する集団さえ形成されている。その結末が「議会襲撃」事件である。
当然のこと、うまくいかないのでバイデン政権の登場となったのである。
このような米社会の荒廃と混乱は新自由主義の結果であり、新自由主義が資本主義再生のプランであった時代は終わったということだろう。
バイデン政権は、当面内政に集中せざるを得ないが、どこまで修復できるか、その見通しは暗い。
2)経済的に見ると、
バイデン政権は内政に集中せざるをえない、
しかし格差、貧困問題の解決は極めて困難だ
①10年10兆ドルの歳出計画
コロナ危機で全米の失業率は6.7%=1,070万人の失業者を抱えている。とりわけ低所得者層への打撃が深刻だ。財務長官には、イエレン前FRB(米連邦準備理事会)議長を指名した。イエレンは、大量失業と所得格差に立ち向かうと語った。
バイデン政権は10年で10兆ドルの歳出計画によって、「社会の荒廃に対処し格差拡大を是正をする」と表明している。 問題は果たして実行できるか?だ。 議会での予算案承認がまず関門となるが、その先にも大きな困難がある。
10兆ドルの内訳は、以下の通りだ。
・環境インフラ整備に4年で2兆ドル支出する。
・公立大学の一部を無償化する。多くの学生は学費をローンで借り支払っており、卒業時に5~15万ドル程度の借金を抱える。格差や階級を固定することになっており、若者の不満が非常に大きい。
・育児・介護へは、10年で7,750億ドル支出する。
バイデン政権は、10兆ドルで「1,860万人分の雇用創出効果がある」と宣伝している。
財源をどうするか?――バイデンによれば、富裕層への増税で10年で4.3兆ドル確保するとしている。
その構想は、
・連邦法人税を21%から28%へあげる。
・巨大IT企業(GAFAM)の税逃れを終わらせる、最低でも純利益の15%を納税(=「ミニマム税」)させる。
・富裕層増税――年収100万ドル以上の高所得者に、株式譲渡益税を20%から39.6%に引き上げるなどとしている。(以上、1月27日、日本経済新聞)
このような増税の実現は簡単には実現しない。議会で承認されなければならず、議員数の構成からして実現は容易ではない。
② 本当の困難
でも本当の困難はその先にある。仮に実現したとしても増税規模は10年で4兆3,000億ドルであり、10兆ドル支出の財政政策には足らない。単純計算すれば、債務はこの先10年で、最低でも5.6兆ドルも悪化する。一層の財政赤字は避けられない。
これとは別に、コロナ感染対策、ワクチン接種費用、雇用対策費などを別途支出しなければならず、その分財政赤字は増大する。
バイデン政権とっては米国債発行によって不足する財源を賄うしかない。すでに米連邦政府の債務残高は増え続け、現在のところ27兆ドルで過去最大に達している(過去10年で2倍に膨らみGDP比は130%に達した。1930年の大恐慌時の2.5倍の水準となっている)。この債務がさらに急増するということなのだ。
2020年の利払い負担は、年3,380億ドル(約35兆円)とされる。一時0.5%まで下がった長期金利は、現在1.1%まで上昇中だ。景気期待の財政政策と債務増大懸念で、金利には上昇圧力がかかっている。金利が上がれば利払い負担が増大してしまう。
債務の大きさから、米政府、FRBはさらなる金利上昇は絶対に避けなければならない状況に置かれている。
米議会予算局(CBO)の試算によると、米経済が今後、2%弱の潜在成長率であると仮定すると、連邦債務は30年には少なくとも33兆ドル(GDP比150%)にまで増える。これは「控えめな予測」だ。
他方、米政府の財政政策の効果は、20年12月に決めた9,000億ドルの対策の実際の景気押上げ効果は、6,600億ドルにとどまった(米調査機関調べによる)という。
要するに米経済が2%の成長率だと、将来的には債務は拡大してしまうということだ。債務が拡大しないためには2%をはるかに超えるより高い成長を達成しなければならないのだが、あらゆる予測は2%程度の潜在成長率であり、歳出規模ほどにはGDPは伸びないと試算している。
現時点においても米国内の資金の大半は、短期投資(株式や債券)に流れており、産業構造を転換し高成長を実現するエネルギー転換、ESG投資、インフラ投資などには向かっていない。
米財政は、コロナ対策費、社会保障費の増大で慢性的な赤字体質は避けられない、しかも財政出動が持続的成長につながりそうにない。軍産複合体は年80兆円の軍事費の縮小には同意しない。これらのことは、バイデン政権とそのあとに続く政権が、10年で10兆ドルの財政政策を続けることさえ困難であることを予測させる。
③ 低成長では米経済は転落する
これまで30~40年、米経済は財政赤字と貿易収支が大幅赤字(双子の赤字)でも、グローバリゼイションで世界経済が拡大し日欧や中国、新興国の政府、民間企業が外貨準備や金融機関の安全資産として国際通貨である米ドル、米国債を買い、資金は米国に還流してきた。その還流してきた資金が米国内や米国を通じて世界へ投資されていくという循環が成立し、米経済を成長させてきたし、長期金利を低い水準にとどめてきた。
問題は、コロナ危機とバイデノミクスがこの先、米経済の低成長しかもたらさなければ、この微妙な市場バランス、資金循環を崩し、米国にファイナンスされない事態が生まれかねないことだ。巨額債務を持続可能にしてきた低金利環境を転換させかねないことだ。
米中覇権争いは、決着がつくまでまだまだ期間を要するだろうが、ハイテク開発競争や軍事力によってではなく、米経済の転落によって決着がつく可能性も出てきたということを心配しなければならなくなった。
したがって、バイデン政権の格差を是正し、社会の荒廃に対処する政策は、そう簡単にはうまく行かない。おそらく早晩、続けられない局面となる可能性が高い。
中国政府によるアント・グループ統制の真相とそこからくみ取るべき教訓 [世界の動き]
中国政府によるアント・グループ統制の真相と
1)中国政府によるアント・グループ統制の意味
中国の電子取引大手アリババの金融会社アント・グループに対する中国当局の規制強化が一気に加速している。
アント・グループは、スマホ決済サービス「アリペイ」の機能を拡大し、支払い手段から、貸出、預金、資産運用、保険などの広範囲の金融サービスへと急速に拡大しており、いわば「金融帝国」を確立しつつあった。
大きな武器となったのが、買い物履歴情報などを含む個人データの収集と分析により、個人の信用リスクを想定し、個人への融資、いわば「消費者金融」を最大の収益部門へと押し上げていったことだ。
ただし、アント・グループの融資は融資市場全体の1~10%程度で、それ以外は他の金融機関との協調融資としているものの、他の金融機関にもアント・グループのAIによる「信用リスク計画システム」を使用させ、金利収入の15%前後に当たる高い手数料を得ている。そのことによって、この事業はアント・グループはリスクを負うことなく、利益を上げるビジネスモデルとなっているのである。(以上、1月23日日本経済新聞より)
「信用リスク計画システム」は、アリババのEコマースの支払い「アリペイ」によってえた膨大な個人情報をベースにAIも導入しつくりあげられており、誰も真似できない。
この急拡大しているアント・グループがリードする融資事業は、その規模からして、いつのまにか従来の銀行の役割を奪いかねない動きを見せているのだ。
すでに、既存の金融機関のシェアを奪って莫大な利益を得ている。しかもその規模は、膨大になりかつ独占的となりつつある。銀行法などの規制にしたがって業務を行っている既存の銀行・金融機関は競争上極めて不利となり、アリペイの傘下に入ることになってしまう。このままでは「アリペイ」が銀行市場、融資市場をも支配しかねない可能性が生まれてきているのである。政府にとってももはや看過できない脅威となってしまったのだ。
2)20年11月、突然の上場延期
21年1月初め、「アント・グループ」は、中国当局の求めに応じて「金融持ち株会社の設立を検討」すると報じられた。そのことは、同社が銀行と同じ規制を受け入れて当局の軍門に下ることを意味する。
「アント・グループ」は、「金融業務から撤退する」か、「当局の強い規制を受け入れて生き残る」かの選択を迫られ、後者の道を選んだということになる。
3)これは決して中国だけの問題ではない
米フェイスブックの子会社ディエム(旧リブラ)も、個人データの収集・分析を生かして金融分野への参入を目指しており、「アント・グループ」と同じような動きを見せている。Eコマースが拡大する限り、アメリカをはじめ、各国で同じ事態、条件が生まれている。
先進国政府は、中国のように「できない」のか、それとも「やらない」のか、どちらだろうか?
先進国は民主主義であって、中国のような強権政府ではないので、中国政府がやったように統制はしないということなのだろうか?
4)GAFAMに富が集中する
コロナ危機により他の産業が減収や赤字となっているにもかかわらず、米IT大手5社GAFAMは巨大な利益を上げている。社会の生み出した富がGAFAMに集中している、吸い上げられているというのがより正確だ。コロナ禍で、格差拡大がいっそう進んでいるのだが、これまでとは質的に違った格差拡大の仕方をしている。
GAFAMの事業は、「アント・グループ」のような融資事業が中心ではないから、今回の事件とまったく同じように論じることはできない。
ただ、IT大手はすでに十分大きくなりすぎた。その一方で、本社を税金の低い国に置くなどして、税金をほとんどい払っていない。IT大手に富は集中するのに、税金として国家・政府に捕捉されないので、人々に再分配されない。現代において格差が拡大している道筋の一つでもある。
IT大手の専横を防ぐ「力」は、もはや政府・国家にしかない。
EU各国で検討されてきた「デジタル税」に米トランプ政権は反対してきた。IT大手に対するデジタル税が構想されて何年かすでに過ぎたが、各国政府の足並みはいまだにそろわず、なかなか実現しない。そのあいだにIT大手は大きくなるばかりだし、コロナ危機でさらに大きくなっている。
IT大手が国家権力に影響力を持ったら、いずれ「専横」を防ぐことができなくなる。そのことは、富がほんの少数者にさらに集中し、他方、貧困がいっそう広範囲に広がる、すなわち荒廃した社会となってしまうのではないか、そういう懸念が広がる。
今回の中国政府による「アント・グループ」への規制をとらえ、強権国家・中国を非難する声もあるようだが、それよりも重要な問題である、巨大になりすぎたIT大手に対する対応の仕方の一つを教えてくれている、と考えることが重要ではないか。
そのような問題提起とみるべきである。
国家や政府しか巨大IT企業を統制できないのはほぼ明らかだ。
膨大な利益を社会から吸い上げる巨大IT企業から、政府が確実に税金をとり、国民に再分配するしか方法はない。
ただ、そこで大きな問題となるのは、「国家や政府が誰の国家や政府であるか?」である。
最終的に問題となる、最も「悩ましい問題」というべきかもしれない。
米IT大手の2020年10~12月期業績
(21年2月4日、日本経済新聞)
売上高 増加率 純利益 増加率
1)アップル : 1,114.39億㌦ 21% 287.55億㌦ 29%
2)マイクロソフト: 430.76億㌦ 17% 154.63億㌦ 33%
3)アルファベット: 568.98億㌦ 23% 152.27億㌦ 43%
4)フェイスブック: 280.72億㌦ 33% 112.19億㌦ 53%
5)アマゾン : 1,255.55億㌦ 44% 72.22億㌦ 2.2倍
大手5社全社が、売上高、純利益とも過去最高を更新した。
そこからくみ取るべき教訓
1)中国政府によるアント・グループ統制の意味
中国の電子取引大手アリババの金融会社アント・グループに対する中国当局の規制強化が一気に加速している。
アント・グループは、スマホ決済サービス「アリペイ」の機能を拡大し、支払い手段から、貸出、預金、資産運用、保険などの広範囲の金融サービスへと急速に拡大しており、いわば「金融帝国」を確立しつつあった。
大きな武器となったのが、買い物履歴情報などを含む個人データの収集と分析により、個人の信用リスクを想定し、個人への融資、いわば「消費者金融」を最大の収益部門へと押し上げていったことだ。
ただし、アント・グループの融資は融資市場全体の1~10%程度で、それ以外は他の金融機関との協調融資としているものの、他の金融機関にもアント・グループのAIによる「信用リスク計画システム」を使用させ、金利収入の15%前後に当たる高い手数料を得ている。そのことによって、この事業はアント・グループはリスクを負うことなく、利益を上げるビジネスモデルとなっているのである。(以上、1月23日日本経済新聞より)
「信用リスク計画システム」は、アリババのEコマースの支払い「アリペイ」によってえた膨大な個人情報をベースにAIも導入しつくりあげられており、誰も真似できない。
この急拡大しているアント・グループがリードする融資事業は、その規模からして、いつのまにか従来の銀行の役割を奪いかねない動きを見せているのだ。
すでに、既存の金融機関のシェアを奪って莫大な利益を得ている。しかもその規模は、膨大になりかつ独占的となりつつある。銀行法などの規制にしたがって業務を行っている既存の銀行・金融機関は競争上極めて不利となり、アリペイの傘下に入ることになってしまう。このままでは「アリペイ」が銀行市場、融資市場をも支配しかねない可能性が生まれてきているのである。政府にとってももはや看過できない脅威となってしまったのだ。
2)20年11月、突然の上場延期
21年1月初め、「アント・グループ」は、中国当局の求めに応じて「金融持ち株会社の設立を検討」すると報じられた。そのことは、同社が銀行と同じ規制を受け入れて当局の軍門に下ることを意味する。
「アント・グループ」は、「金融業務から撤退する」か、「当局の強い規制を受け入れて生き残る」かの選択を迫られ、後者の道を選んだということになる。
3)これは決して中国だけの問題ではない
米フェイスブックの子会社ディエム(旧リブラ)も、個人データの収集・分析を生かして金融分野への参入を目指しており、「アント・グループ」と同じような動きを見せている。Eコマースが拡大する限り、アメリカをはじめ、各国で同じ事態、条件が生まれている。
先進国政府は、中国のように「できない」のか、それとも「やらない」のか、どちらだろうか?
先進国は民主主義であって、中国のような強権政府ではないので、中国政府がやったように統制はしないということなのだろうか?
4)GAFAMに富が集中する
コロナ危機により他の産業が減収や赤字となっているにもかかわらず、米IT大手5社GAFAMは巨大な利益を上げている。社会の生み出した富がGAFAMに集中している、吸い上げられているというのがより正確だ。コロナ禍で、格差拡大がいっそう進んでいるのだが、これまでとは質的に違った格差拡大の仕方をしている。
GAFAMの事業は、「アント・グループ」のような融資事業が中心ではないから、今回の事件とまったく同じように論じることはできない。
ただ、IT大手はすでに十分大きくなりすぎた。その一方で、本社を税金の低い国に置くなどして、税金をほとんどい払っていない。IT大手に富は集中するのに、税金として国家・政府に捕捉されないので、人々に再分配されない。現代において格差が拡大している道筋の一つでもある。
IT大手の専横を防ぐ「力」は、もはや政府・国家にしかない。
EU各国で検討されてきた「デジタル税」に米トランプ政権は反対してきた。IT大手に対するデジタル税が構想されて何年かすでに過ぎたが、各国政府の足並みはいまだにそろわず、なかなか実現しない。そのあいだにIT大手は大きくなるばかりだし、コロナ危機でさらに大きくなっている。
IT大手が国家権力に影響力を持ったら、いずれ「専横」を防ぐことができなくなる。そのことは、富がほんの少数者にさらに集中し、他方、貧困がいっそう広範囲に広がる、すなわち荒廃した社会となってしまうのではないか、そういう懸念が広がる。
今回の中国政府による「アント・グループ」への規制をとらえ、強権国家・中国を非難する声もあるようだが、それよりも重要な問題である、巨大になりすぎたIT大手に対する対応の仕方の一つを教えてくれている、と考えることが重要ではないか。
そのような問題提起とみるべきである。
国家や政府しか巨大IT企業を統制できないのはほぼ明らかだ。
膨大な利益を社会から吸い上げる巨大IT企業から、政府が確実に税金をとり、国民に再分配するしか方法はない。
ただ、そこで大きな問題となるのは、「国家や政府が誰の国家や政府であるか?」である。
最終的に問題となる、最も「悩ましい問題」というべきかもしれない。
****************************
米IT大手の2020年10~12月期業績
(21年2月4日、日本経済新聞)
売上高 増加率 純利益 増加率
1)アップル : 1,114.39億㌦ 21% 287.55億㌦ 29%
2)マイクロソフト: 430.76億㌦ 17% 154.63億㌦ 33%
3)アルファベット: 568.98億㌦ 23% 152.27億㌦ 43%
4)フェイスブック: 280.72億㌦ 33% 112.19億㌦ 53%
5)アマゾン : 1,255.55億㌦ 44% 72.22億㌦ 2.2倍
大手5社全社が、売上高、純利益とも過去最高を更新した。
これからの世界はどうなるのか? [世界の動き]
これからの世界はどうなるのか?
コロナ禍に襲われ解決できず、世界はある深淵を迎えている。年初にあたり、これからの世界はどうなるだろうかと、考えてみた。
1)米大統領選挙の結果から言えること
20年の米大統領選挙は、いつも通り「大騒ぎ」になった。「大騒ぎして何も変わらない」というこれまでの歴史を繰り返すのだろうか?
選挙の一つの性格を指摘しておきたい。20年の米大統領選挙に費やされた費用は、過去最高66億ドル(調査機関「責任ある政治センター」調べ)で、16年選挙の3倍近くにのぼった。バイデンが16億ドル、トランプが11億ドルの選挙資金を集めた。1人200ドル未満の小口献金の割合は低くなり、証券・投資会社や法律事務所などの大口献金の割合が高くなった。米フォーブス紙集計によれば、10億ドル以上の資産を持つ富裕者(とその配偶者)のうち、190人(合計6.4億ドル)がバイデンに、127人(合計3.3億ドル)がトランプに献金した(12月16日日経)。
20年の米大統領選を見る限り、これまで以上に富裕層が選挙で大きな影響力を行使し、金権政治に一層傾いたと言える。「米政治は金次第」、これが米大統領選と米政治の一つの特徴だ。欧米日の支配層やメディアが、「民主主義」とたたえる米政治のリアルな姿だ。
トランプを担ぐ右派ポピュリズムは、「エリート支配に対する非エリート層の反感」という性格を持ち、7,400万票も獲得した。ウォール街やシリコンバレーの強者におもねり、ラストベルトの弱者、白人の貧困者(プア・ホワイト)をないがしろにしてきたエリート政治への反発が、16年にトランプ政権を登場させたのだが、金融危機による中間層の没落、アフガン・イラク戦争により米国民に苦痛を強いたエリート政治への反発は、今もなお大きく残っていると票数は教えている。
バイデンの勝利(約8,000万票)によって、既存の「エリート政治」が復活するならば、再び米国民の同じ不満と怒りを呼びおこしかねない。オバマ政権もヒラリー・クリントン候補も、民主党政権は、軍産複合体やウォール街と「親和性が高かった」。バイデンはその副大統領だった。
バイデンの支持層は2つあり、ひとつは既得権益層である富裕層、ウォール街、軍産複合体。いま一つは、民主党左派に結集したエリート支配への反感、すなわち富裕層への批判勢力だ。
すでに、バイデン政権が公表しはじめた人事において、既存の支配層と民主党左派との対立と闘争が始まっている。バイデン政権の要職には多くのオバマ政権の外交・経済チームが返り咲いている。左派は「大企業の幹部やロビイストを要職に起用すべきではない」(アレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員)と主張している。
票数に現われた3つの政治的グループ(確固たるグループを形成しているわけではなく支配層に組織された側面も持つ)は、どれも主導権を握ってはいない。そのため政権が発足しても、対立は続き現状を転換する政策を大々的に打ち出すことはできないだろう。米政治が混乱することは米国人民にとっては大変だが、米国が影響力を低下させることは、世界の人々にとってはいいことだ。
米政権が変わっても、米国は簡単には変わらないだろう。
とくに対外政策では、これまでのトランプ政権の政策(・中国との覇権争いと米中対立、・世界経済の分断、・イスラエル寄りの中東政策と中東での緊張の激化、・軍事負担をEU日本などの同盟国に求めるなど)と大きく変わることはない。国内政策は、格差拡大と米国社会の分断を修復する方向への転換を図ると予測されるが、上下院議員数からして大掛かりな転換は期待できそうにない。国民皆保険の実現などは、米国民の継続した闘争とさらなる盛り上がりが、必要になってくるのだろう。いずれにしても選挙だけでアメリカが変わるはずはない。
2)コロナ禍が「社会の見直し」を迫る、この先、世界は変わる
コロナ禍は世界的に、不安定雇用者、低所得者層に打撃を与え、資本主義と民主主義の「揺らぎ」(米メディアの表現)を露呈させた。
コロナ禍でデジタル化が加速し、それにより雇用が変化し、格差を一層拡大しつつある。中間層の賃金が停滞してきたが、さらに低下させかねない。デジタル化、AIなどの現代の産業革命は、この先格差を更に拡大し、確実に社会の分断を深める。テレワークのできない産業の不安定雇用労働者は、すでに収入は減少し、あるいは職を失っている。
格差拡大・分断を防ぐには、教育や人材投資、労働者の権利尊重、人権尊重が重要であるにもかかわらず、手当はなされていない。そのような手当をしないところに新自由主義の特徴がある。
例えば、日本社会はこの点では大きく遅れており、生産性は上がらず、デジタル化の波に乗りきれず、コロナ後にさらに格差を広げる。
一足先に新自由主義によって中間層を没落させた米社会は、トランプ政権を登場させた。事態を改善するのではなく国内外に「敵」をつくりだしフェイクニュースを扇動して「プア・ホワイト」の支持を得た。トランプの登場は決して偶然ではない。米社会の分断、貧困化と米国の国際的地位の没落がその背景にあり、それへの一時的な対処とごまかし、すなわち根本的な解決の回避なのだ。
われわれにとって心配なのは、日本政府と支配層が、米政治とその政策のあとを追ってきたところにある。ちなみに安倍政治は、トランプ政治のコピーであるともいえる。荒廃する新自由主義社会での米国政治に似た支配スタイルを採ってきた。貧困化と格差拡大を解決するのではなく、内外に「敵」をつくりだし、中国・韓国に対する排外主義を煽り、分断支配の「新しい支配体制」をつくってきた。その主な内容は、メディア支配と利用である。特徴的なのは、「表」でTV・新聞などの主要メディアを支配し政権の影響下において巧妙に利用したことだ。これと並行し「裏」で、ネトウヨを政権影響下におき、政権擁護の情報の発信、政権を批判する人の人身攻撃を行った。ネットと個人との直接結びつきをつくり、世論を形成する手段を手にした。
これは安倍政権が獲得したかつてない「政治手法」であり、非常に危険だ。
米社会の分断と荒廃は、近い将来の日本社会の姿にほかならない。同じ新自由主義なのだから、同じ結果をもたらす。
コロナ危機が促進させたいま一つは、中国経済の躍進だ。日本経済センターは12月10日に、中国が米のGDPを2028年に抜くという予測を公表した。19年調査では、36年以降の見通しだった。コロナ禍で早まった。20年の経済成長は、先進国は軒並みマイナスだが、中国はプラス成長(+2.1%予測)を維持する。(2035年時点の予測、中国の名目GDP:41.8兆ドル、米+日:41.6兆ドル。一人当たりのGDP予測は、中国:2.8万ドル、米国:9.4万ドル、日本:7万ドル。)
中国はコロナを抑え込んだ数少ない国だ。一方、欧米社会は、コロナを抑えることができない。新自由主義による「自己責任」の考え方によって、国家は国民を救わない。欧米日社会は、共産主義による独裁ではなく自由社会だから、例えば中国のように、強制的にかつ大規模・一斉にPCR検査を実施することはできないのだそうだ。その結果、中国のように感染者と非感染者を分けることができず、感染を防ぐことができないのだそうだ。政府ができることはなくて、ひたすら国民に、マスクと三密回避、ソーシャルディスタンス、自粛を呼びかけるだけだ。正確には、コロナ封じ込めに成功しているのは、中国だけでなく、シンガポール、台湾、ベトナム、ニュージーランドである。これら諸国の成功例を学び導入することはできるはずなのに、やらない。メディアは成功例、その対策を報じない。日本には科学ジャーナリズムは存在しない。
おそらくコロナ危機は、まだまだ長引く。ワクチンが効果をもたらすには、即刻ではない、数年かかるだろう。そのあいだに格差は拡大する。様々な社会の矛盾が顕在化する。社会は停滞し、貧困層にしわ寄せがくる。
3)現代の産業革命、環境負荷を避けるESG投資競争
パリ協定の最後尾にいた日本政府も、遅ればせながら20年10月には「2050年CO2排出量実質ゼロ」(菅首相)を表明した。2011年3月の福島原発事故以後も、原発推進と高効率石炭火力発電推進をエネルギー方針としてきたが、原発事故後10年を経て世界のエネルギーは温暖化防止、サステイナブルなエネルギー源への転換が確実なものとなり、再生可能エネルギーへと舵を切らざるを得なくなった。日本はエネルギー転換で大きく出遅れた。
再生可能エネルギーへの転換においては、石油や天然ガスなどの地下資源のように地政学的要因によるのではなく、技術力、充電器と組み合わせた効率的な電力システムをいかに構築するかという技術革新が、主導権を握るカギとなる。
太陽光パネルはすでに中国企業がほとんどを生産している。風力発電も欧州と中国企業が先行している。風力発電量において中国はトップを走り、欧州は全面的に風力発電を導入し、すでに主要電源としている。
現時点では、これらの発電システムと充電器を組み合わせた電力供給システムの構築が、エネルギー転換の資本主義的な競争になっているが、日本企業と日本社会は、あらゆる点ですでに大きく出遅れている。
4)債務が増大した
ほとんどの国で過去40年で、もっとも債務が増大した。危機に際し政府が財政政策を採り、債務を膨らませてきた。08年の金融危機時にも、今回のコロナ・パンデミックでも、政府・民間部門ともに債務が激増した。コロナによる世界的な経済危機にもかかわらず、世界的な金融緩和が株価を押し上げている。富裕層は金融緩和による資金を株式証券に投じている。このような道筋を通じても格差拡大、二極化をもたらしている。
各国政府はコロナ対策にすでに合計10兆ドルを支出している。これは08年の金融時の支援策の約3倍の規模だ。国際金融協会(IIF)によると世界の債務残高の国内総生産(GDP)比は19年末で321%、わずか半年後の20年6月には362%に急増した。平時に、これほど急激な増加が起きたことはない。
対GDPの債務比率の大きさで、日本はすでに突出しており、先進国のトップを走っている、もはや抜け出せないレベルだ。
2008年の金融危機のあと、ギリシャ国債が暴落の危機に瀕した。危機になっても確実に債務は残ること、強引に返済が求められることを、ギリシャ国民の陥った悲惨な現実を通して、われわれに教えてくれた。ギリシャ政府は緊縮財政を採らされ、福祉予算や年金は削られ、国民生活は破壊された。その姿は、日本社会と多くの日本人が、近い将来に被る姿ではないかと想像させる。
5)政治的緊張の激化
米国の権威の低下(=欧米の言葉でいえば「民主主義への信頼の低下」)、中国の台頭を前にして、米中間の緊張が煽られている。相応して軍事的緊張も高まりつつある。コロナ危機が一層緊張を高めた。多国間協力がいくつか消えている。多くの国、国民は、米中のどちらかにつくかの選択を迫られているかのようだ。
米中貿易摩擦から半導体などのハイテク産業での対立、経済制裁を振り廻しての世界経済の分断は、米政権が一方的に行ったことだ。米国は自らの世界支配と覇権維持の為には何でもやるという姿を、強烈にわれわれに教え込んでいる。この先も同じような態度をとるだろうことは、容易に予測できる。
すでにASEAN諸国は、米中対立に対し「中立的対応」を採っている。より賢明な対応であろう。日本政府は、米政権の意向に従うばかりである。EUから離脱しよりどころを失った英国も、米追従の政策を採るようだ。
米国の影響下にいることに決して未来はない。これは日本の支配層にとってもそのように言えるだろう。
主役なき時代を迎えた。
コロナ危機で、世界秩序が再編され、再構築される速度が増した。。
購買力平価ベースのGDPでは、中国はすでに米国を追い抜いている。
購買力平価ベースGDP(出典CIA FACTBOOK:現在は削除されている)
世界の経済の比較に購買力平価ベースを使用(マクドナルド換算)
出典 WORLD FACTBOOK、単位兆ドル(切り捨て)。
1位:中国25.3兆ドル、
2位:米国19.3兆ドル、
3位:インド9.4兆ドル、
4位:日本5.4兆ドル、
5位:ドイツ4.1兆ドル、
6位:ロシア4.0兆ドル、
7位:インドネシア3.2兆ドル、
8位:ブラジル3.2兆ドル、
9位:英国2.9兆ドル、
10位:仏2.8兆ドル、
以下メキシコ、伊、トルコ、韓国2.0兆ドル
こういった最近の世界のいくつかの変化は、米国の力の後退であり、米覇権の時代が終わりつつあることを示しているだろう。
それとともに、この30年、40年続いてきた新自由主義政策によってもたらされた結果でもあるだろう。分断と格差・貧困をもたらした新自由主義政策は、支配層のプランとしては、もはや「有効性」を失ったと言っていい。
時代の転換の一つの意味、内容である。
この転換に対する人々の徹底した批判と変革のプラン、プランを実現する人々の新しい関係の構築が必要である。私たちの立場から考えれば、人々のつながり、その新しい関係を形成・再編しなければ、時代の変化に対抗できないし、ましてや私たちの望む社会を実現することができない。時代の「転換」に翻弄されるだけではないだろうか。
ネットによって世界中と新たな関係が形成されたけれども、同時に人々の分断や情報コントロールに置き換えられた面もあって、なかなか単純ではない。現代社会の変化に即した、人々の新しい連携する関係を構想し、つくりださなくてはならない。
私たちは混迷の時代にいる。現実世界は複雑であって先行きの不安が重くのしかかる。年初にあたり、すっきりした初夢を抱くのは難しいようだ。(2020年12月31日記)
コロナ禍に襲われ解決できず、世界はある深淵を迎えている。年初にあたり、これからの世界はどうなるだろうかと、考えてみた。
1)米大統領選挙の結果から言えること
20年の米大統領選挙は、いつも通り「大騒ぎ」になった。「大騒ぎして何も変わらない」というこれまでの歴史を繰り返すのだろうか?
選挙の一つの性格を指摘しておきたい。20年の米大統領選挙に費やされた費用は、過去最高66億ドル(調査機関「責任ある政治センター」調べ)で、16年選挙の3倍近くにのぼった。バイデンが16億ドル、トランプが11億ドルの選挙資金を集めた。1人200ドル未満の小口献金の割合は低くなり、証券・投資会社や法律事務所などの大口献金の割合が高くなった。米フォーブス紙集計によれば、10億ドル以上の資産を持つ富裕者(とその配偶者)のうち、190人(合計6.4億ドル)がバイデンに、127人(合計3.3億ドル)がトランプに献金した(12月16日日経)。
20年の米大統領選を見る限り、これまで以上に富裕層が選挙で大きな影響力を行使し、金権政治に一層傾いたと言える。「米政治は金次第」、これが米大統領選と米政治の一つの特徴だ。欧米日の支配層やメディアが、「民主主義」とたたえる米政治のリアルな姿だ。
トランプを担ぐ右派ポピュリズムは、「エリート支配に対する非エリート層の反感」という性格を持ち、7,400万票も獲得した。ウォール街やシリコンバレーの強者におもねり、ラストベルトの弱者、白人の貧困者(プア・ホワイト)をないがしろにしてきたエリート政治への反発が、16年にトランプ政権を登場させたのだが、金融危機による中間層の没落、アフガン・イラク戦争により米国民に苦痛を強いたエリート政治への反発は、今もなお大きく残っていると票数は教えている。
バイデンの勝利(約8,000万票)によって、既存の「エリート政治」が復活するならば、再び米国民の同じ不満と怒りを呼びおこしかねない。オバマ政権もヒラリー・クリントン候補も、民主党政権は、軍産複合体やウォール街と「親和性が高かった」。バイデンはその副大統領だった。
バイデンの支持層は2つあり、ひとつは既得権益層である富裕層、ウォール街、軍産複合体。いま一つは、民主党左派に結集したエリート支配への反感、すなわち富裕層への批判勢力だ。
すでに、バイデン政権が公表しはじめた人事において、既存の支配層と民主党左派との対立と闘争が始まっている。バイデン政権の要職には多くのオバマ政権の外交・経済チームが返り咲いている。左派は「大企業の幹部やロビイストを要職に起用すべきではない」(アレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員)と主張している。
票数に現われた3つの政治的グループ(確固たるグループを形成しているわけではなく支配層に組織された側面も持つ)は、どれも主導権を握ってはいない。そのため政権が発足しても、対立は続き現状を転換する政策を大々的に打ち出すことはできないだろう。米政治が混乱することは米国人民にとっては大変だが、米国が影響力を低下させることは、世界の人々にとってはいいことだ。
米政権が変わっても、米国は簡単には変わらないだろう。
とくに対外政策では、これまでのトランプ政権の政策(・中国との覇権争いと米中対立、・世界経済の分断、・イスラエル寄りの中東政策と中東での緊張の激化、・軍事負担をEU日本などの同盟国に求めるなど)と大きく変わることはない。国内政策は、格差拡大と米国社会の分断を修復する方向への転換を図ると予測されるが、上下院議員数からして大掛かりな転換は期待できそうにない。国民皆保険の実現などは、米国民の継続した闘争とさらなる盛り上がりが、必要になってくるのだろう。いずれにしても選挙だけでアメリカが変わるはずはない。
2)コロナ禍が「社会の見直し」を迫る、この先、世界は変わる
コロナ禍は世界的に、不安定雇用者、低所得者層に打撃を与え、資本主義と民主主義の「揺らぎ」(米メディアの表現)を露呈させた。
コロナ禍でデジタル化が加速し、それにより雇用が変化し、格差を一層拡大しつつある。中間層の賃金が停滞してきたが、さらに低下させかねない。デジタル化、AIなどの現代の産業革命は、この先格差を更に拡大し、確実に社会の分断を深める。テレワークのできない産業の不安定雇用労働者は、すでに収入は減少し、あるいは職を失っている。
格差拡大・分断を防ぐには、教育や人材投資、労働者の権利尊重、人権尊重が重要であるにもかかわらず、手当はなされていない。そのような手当をしないところに新自由主義の特徴がある。
例えば、日本社会はこの点では大きく遅れており、生産性は上がらず、デジタル化の波に乗りきれず、コロナ後にさらに格差を広げる。
一足先に新自由主義によって中間層を没落させた米社会は、トランプ政権を登場させた。事態を改善するのではなく国内外に「敵」をつくりだしフェイクニュースを扇動して「プア・ホワイト」の支持を得た。トランプの登場は決して偶然ではない。米社会の分断、貧困化と米国の国際的地位の没落がその背景にあり、それへの一時的な対処とごまかし、すなわち根本的な解決の回避なのだ。
われわれにとって心配なのは、日本政府と支配層が、米政治とその政策のあとを追ってきたところにある。ちなみに安倍政治は、トランプ政治のコピーであるともいえる。荒廃する新自由主義社会での米国政治に似た支配スタイルを採ってきた。貧困化と格差拡大を解決するのではなく、内外に「敵」をつくりだし、中国・韓国に対する排外主義を煽り、分断支配の「新しい支配体制」をつくってきた。その主な内容は、メディア支配と利用である。特徴的なのは、「表」でTV・新聞などの主要メディアを支配し政権の影響下において巧妙に利用したことだ。これと並行し「裏」で、ネトウヨを政権影響下におき、政権擁護の情報の発信、政権を批判する人の人身攻撃を行った。ネットと個人との直接結びつきをつくり、世論を形成する手段を手にした。
これは安倍政権が獲得したかつてない「政治手法」であり、非常に危険だ。
米社会の分断と荒廃は、近い将来の日本社会の姿にほかならない。同じ新自由主義なのだから、同じ結果をもたらす。
コロナ危機が促進させたいま一つは、中国経済の躍進だ。日本経済センターは12月10日に、中国が米のGDPを2028年に抜くという予測を公表した。19年調査では、36年以降の見通しだった。コロナ禍で早まった。20年の経済成長は、先進国は軒並みマイナスだが、中国はプラス成長(+2.1%予測)を維持する。(2035年時点の予測、中国の名目GDP:41.8兆ドル、米+日:41.6兆ドル。一人当たりのGDP予測は、中国:2.8万ドル、米国:9.4万ドル、日本:7万ドル。)
中国はコロナを抑え込んだ数少ない国だ。一方、欧米社会は、コロナを抑えることができない。新自由主義による「自己責任」の考え方によって、国家は国民を救わない。欧米日社会は、共産主義による独裁ではなく自由社会だから、例えば中国のように、強制的にかつ大規模・一斉にPCR検査を実施することはできないのだそうだ。その結果、中国のように感染者と非感染者を分けることができず、感染を防ぐことができないのだそうだ。政府ができることはなくて、ひたすら国民に、マスクと三密回避、ソーシャルディスタンス、自粛を呼びかけるだけだ。正確には、コロナ封じ込めに成功しているのは、中国だけでなく、シンガポール、台湾、ベトナム、ニュージーランドである。これら諸国の成功例を学び導入することはできるはずなのに、やらない。メディアは成功例、その対策を報じない。日本には科学ジャーナリズムは存在しない。
おそらくコロナ危機は、まだまだ長引く。ワクチンが効果をもたらすには、即刻ではない、数年かかるだろう。そのあいだに格差は拡大する。様々な社会の矛盾が顕在化する。社会は停滞し、貧困層にしわ寄せがくる。
3)現代の産業革命、環境負荷を避けるESG投資競争
パリ協定の最後尾にいた日本政府も、遅ればせながら20年10月には「2050年CO2排出量実質ゼロ」(菅首相)を表明した。2011年3月の福島原発事故以後も、原発推進と高効率石炭火力発電推進をエネルギー方針としてきたが、原発事故後10年を経て世界のエネルギーは温暖化防止、サステイナブルなエネルギー源への転換が確実なものとなり、再生可能エネルギーへと舵を切らざるを得なくなった。日本はエネルギー転換で大きく出遅れた。
再生可能エネルギーへの転換においては、石油や天然ガスなどの地下資源のように地政学的要因によるのではなく、技術力、充電器と組み合わせた効率的な電力システムをいかに構築するかという技術革新が、主導権を握るカギとなる。
太陽光パネルはすでに中国企業がほとんどを生産している。風力発電も欧州と中国企業が先行している。風力発電量において中国はトップを走り、欧州は全面的に風力発電を導入し、すでに主要電源としている。
現時点では、これらの発電システムと充電器を組み合わせた電力供給システムの構築が、エネルギー転換の資本主義的な競争になっているが、日本企業と日本社会は、あらゆる点ですでに大きく出遅れている。
4)債務が増大した
ほとんどの国で過去40年で、もっとも債務が増大した。危機に際し政府が財政政策を採り、債務を膨らませてきた。08年の金融危機時にも、今回のコロナ・パンデミックでも、政府・民間部門ともに債務が激増した。コロナによる世界的な経済危機にもかかわらず、世界的な金融緩和が株価を押し上げている。富裕層は金融緩和による資金を株式証券に投じている。このような道筋を通じても格差拡大、二極化をもたらしている。
各国政府はコロナ対策にすでに合計10兆ドルを支出している。これは08年の金融時の支援策の約3倍の規模だ。国際金融協会(IIF)によると世界の債務残高の国内総生産(GDP)比は19年末で321%、わずか半年後の20年6月には362%に急増した。平時に、これほど急激な増加が起きたことはない。
対GDPの債務比率の大きさで、日本はすでに突出しており、先進国のトップを走っている、もはや抜け出せないレベルだ。
2008年の金融危機のあと、ギリシャ国債が暴落の危機に瀕した。危機になっても確実に債務は残ること、強引に返済が求められることを、ギリシャ国民の陥った悲惨な現実を通して、われわれに教えてくれた。ギリシャ政府は緊縮財政を採らされ、福祉予算や年金は削られ、国民生活は破壊された。その姿は、日本社会と多くの日本人が、近い将来に被る姿ではないかと想像させる。
5)政治的緊張の激化
米国の権威の低下(=欧米の言葉でいえば「民主主義への信頼の低下」)、中国の台頭を前にして、米中間の緊張が煽られている。相応して軍事的緊張も高まりつつある。コロナ危機が一層緊張を高めた。多国間協力がいくつか消えている。多くの国、国民は、米中のどちらかにつくかの選択を迫られているかのようだ。
米中貿易摩擦から半導体などのハイテク産業での対立、経済制裁を振り廻しての世界経済の分断は、米政権が一方的に行ったことだ。米国は自らの世界支配と覇権維持の為には何でもやるという姿を、強烈にわれわれに教え込んでいる。この先も同じような態度をとるだろうことは、容易に予測できる。
すでにASEAN諸国は、米中対立に対し「中立的対応」を採っている。より賢明な対応であろう。日本政府は、米政権の意向に従うばかりである。EUから離脱しよりどころを失った英国も、米追従の政策を採るようだ。
米国の影響下にいることに決して未来はない。これは日本の支配層にとってもそのように言えるだろう。
主役なき時代を迎えた。
コロナ危機で、世界秩序が再編され、再構築される速度が増した。。
***********
購買力平価ベースのGDPでは、中国はすでに米国を追い抜いている。
購買力平価ベースGDP(出典CIA FACTBOOK:現在は削除されている)
世界の経済の比較に購買力平価ベースを使用(マクドナルド換算)
出典 WORLD FACTBOOK、単位兆ドル(切り捨て)。
1位:中国25.3兆ドル、
2位:米国19.3兆ドル、
3位:インド9.4兆ドル、
4位:日本5.4兆ドル、
5位:ドイツ4.1兆ドル、
6位:ロシア4.0兆ドル、
7位:インドネシア3.2兆ドル、
8位:ブラジル3.2兆ドル、
9位:英国2.9兆ドル、
10位:仏2.8兆ドル、
以下メキシコ、伊、トルコ、韓国2.0兆ドル
********************************
こういった最近の世界のいくつかの変化は、米国の力の後退であり、米覇権の時代が終わりつつあることを示しているだろう。
それとともに、この30年、40年続いてきた新自由主義政策によってもたらされた結果でもあるだろう。分断と格差・貧困をもたらした新自由主義政策は、支配層のプランとしては、もはや「有効性」を失ったと言っていい。
時代の転換の一つの意味、内容である。
この転換に対する人々の徹底した批判と変革のプラン、プランを実現する人々の新しい関係の構築が必要である。私たちの立場から考えれば、人々のつながり、その新しい関係を形成・再編しなければ、時代の変化に対抗できないし、ましてや私たちの望む社会を実現することができない。時代の「転換」に翻弄されるだけではないだろうか。
ネットによって世界中と新たな関係が形成されたけれども、同時に人々の分断や情報コントロールに置き換えられた面もあって、なかなか単純ではない。現代社会の変化に即した、人々の新しい連携する関係を構想し、つくりださなくてはならない。
私たちは混迷の時代にいる。現実世界は複雑であって先行きの不安が重くのしかかる。年初にあたり、すっきりした初夢を抱くのは難しいようだ。(2020年12月31日記)
「金融危機は今すぐ起きそうではないが、いずれ今後起きる」 [世界の動き]
「金融危機は今すぐ起きそうではないが、いずれ今後起きる」
1)3月危機
コロナ危機が世界中に広がるという「想定」から、20年3月、株価が急に暴落したばかりか、金・米国債市場からも資金が流出し、機能不全に陥った。暴落を恐れ、あらゆる投資が「現金」へと向かい、流動性が一瞬にして消失した。各国中央銀行は、大量の資金で国債を買い支え、金融緩和を行い、爆発を回避することができた。あれは金融恐慌に至る一歩前でぎりぎりの対応だった。
2) 金利低下、金利変動なし
コロナ危機で、各国中央銀行は大量の金融緩和を行い国債を買い支えた。さらに各国政府は中央銀行と組んで、巨額の財政支出に追い込まれた。
米10年物国債利回りは、20年4月以降、0.7%のままだ。
イールド・カーブ・コントロール(YCC)を導入した日本は、金利変動がほぼ消えた。
日本の国債の価格・金利が、「動かなくなって」すでに久しい。金融緩和によるカネ余り主導で株高が続く。クレジット市場もその後を追うだろう。これらのことはすでにバブルの域に入っていることを示している。
クレジット市場は、「炭鉱のカナリア」で金融危機に際し、まずその価格が動くだろうが、現在はその動きは見えない。金融崩壊をもたらす爆発のマグマが地下で増大しているような不気味な「危うさ」が広がっている。
3)政府の企業への資金繰り支援策
コロナ危機で各国政府とも、企業に給付金や利子補給の実質無利子・無担保融資などの制度で支援している。当面は企業の資金繰り悪化や倒産などを防いでいるが、この先景気が回復しなければ、これら融資は不良債権に転化する。銀行は貸し倒れに備えた与信費用が一段と膨らむ。
信用コストが膨らめば銀行の財務にも響く。
4)日銀「金融システムレポート」
10月22日、日銀は「金融システムレポート」を公表(半年に1度公表)した。レポートは、「新型コロナ感染拡大による回復が滞ると、貸し倒れに備えた与信費用の増加などで大手銀行の自己資本比率が2022年度に最大4.6㌽下がる」と試算している。
「リスクシナリオの場合の試算」:銀行は22年度には自己資本規制8.5%を下回る。
・大手銀行では自己資本比率:7.6% 19年度比▲4.6㌽
・地方銀行では :7.1% 19年度比▲2.8㌽
自己資本比率が8%を切ると銀行は貸出を減らす行動をとる。そうなれば、資金繰りが悪化しての倒産・廃業が増加する。
<日銀>
5)すでにバブルの域か?
世界の金融の大きな問題は、コロナ発生前でさえ、多くの企業などの借入比率が極端に高かったことだ。
コロナ危機で、さらに借入比率は拡大しているはずだ。現在はローン返済の猶予を認める各国の大々的な政策で、損失の全容がまだ見えない。
大手米銀行は、危機に対処するため準備金を積み増しているが、例えば、インド、イタリア、そのほかの新興国・途上国の銀行は備えができていないし、備えることができない。
世界的に見ると「まだら状」ではあるが、中国など一部を除き、欧米日など多くの国々で経済のV字回復の可能性はますます遠のいている。企業の資金繰り悪化と倒産が、これから顕在化するだろうし、不良債権が積み上がるだろう。
金融緩和で国債の利回りが世界的に急低下しており、超低金利は銀行から稼ぐ力を奪っている。リターンを求めて高リスク投資を増やせば、金融システムが崩落・爆発する危険を大きくすることになる。
国際決済銀行(BIS)ヒュン・ソン・シン
「コロナショック当初(20年3月)は、流動性危機が最重要課題だったが、現在はそれが支払い能力の危機へと変わってきている。銀行はいずれ(脆弱な企業を襲う経営破綻と不良債権の波の)矢面に立つことになる」
「銀行は危機の発生源ではないにしても、無傷ではいられない」
「調査結果は、すでに融資基準が相当厳しくなっていることを示している」(10月15日、日経)
世界銀行・首席エコノミストカーメン・ラインハート
「金融業界の脆弱性に目を向けると長期的には、かなり悲観的にならざるをえない」
「信用収縮が起きる公算は本当に大きいと思える」(10月15日、日経)
<世界銀行>
金融システムの慢性的に負荷が増大している。ただ、金融危機は必ずしも、リーマン・ブラザーズが破綻した時のような道筋で爆発するわけではない。
どのような道筋を経て金融の混乱、金融危機が起きるか? あらかじめ想定することは難しい。
が、おそらく、次のような過程をたどるのではないか?
今後、企業への資金繰りが悪化し倒産に至れば、貸し手である金融機関にデフォルト(債務不履行)がじわじわと増えるだろう。そうなれば、金融システムにかかる負荷が増大し(自己資本比率が下がり)、与信条件が厳しくなるだろう。その過程が、仮に急速に進めば、信用収縮、さらには金融恐慌へと至るだろう。
20年3月以降、各国の中央銀行は、市場機能を維持するためには「必要なことは何でもする」意思を明確にしているし、欧米の銀行の自己資本率は08年に比べまだ高いことなどから、今すぐ金融危機には至らないかもしれないが、いずれ起こるだろう。
いまは金融爆発に向けて可燃物を蓄積している状態だ。(10月27日記)
1)3月危機
コロナ危機が世界中に広がるという「想定」から、20年3月、株価が急に暴落したばかりか、金・米国債市場からも資金が流出し、機能不全に陥った。暴落を恐れ、あらゆる投資が「現金」へと向かい、流動性が一瞬にして消失した。各国中央銀行は、大量の資金で国債を買い支え、金融緩和を行い、爆発を回避することができた。あれは金融恐慌に至る一歩前でぎりぎりの対応だった。
2) 金利低下、金利変動なし
コロナ危機で、各国中央銀行は大量の金融緩和を行い国債を買い支えた。さらに各国政府は中央銀行と組んで、巨額の財政支出に追い込まれた。
米10年物国債利回りは、20年4月以降、0.7%のままだ。
イールド・カーブ・コントロール(YCC)を導入した日本は、金利変動がほぼ消えた。
日本の国債の価格・金利が、「動かなくなって」すでに久しい。金融緩和によるカネ余り主導で株高が続く。クレジット市場もその後を追うだろう。これらのことはすでにバブルの域に入っていることを示している。
クレジット市場は、「炭鉱のカナリア」で金融危機に際し、まずその価格が動くだろうが、現在はその動きは見えない。金融崩壊をもたらす爆発のマグマが地下で増大しているような不気味な「危うさ」が広がっている。
3)政府の企業への資金繰り支援策
コロナ危機で各国政府とも、企業に給付金や利子補給の実質無利子・無担保融資などの制度で支援している。当面は企業の資金繰り悪化や倒産などを防いでいるが、この先景気が回復しなければ、これら融資は不良債権に転化する。銀行は貸し倒れに備えた与信費用が一段と膨らむ。
信用コストが膨らめば銀行の財務にも響く。
4)日銀「金融システムレポート」
10月22日、日銀は「金融システムレポート」を公表(半年に1度公表)した。レポートは、「新型コロナ感染拡大による回復が滞ると、貸し倒れに備えた与信費用の増加などで大手銀行の自己資本比率が2022年度に最大4.6㌽下がる」と試算している。
「リスクシナリオの場合の試算」:銀行は22年度には自己資本規制8.5%を下回る。
・大手銀行では自己資本比率:7.6% 19年度比▲4.6㌽
・地方銀行では :7.1% 19年度比▲2.8㌽
自己資本比率が8%を切ると銀行は貸出を減らす行動をとる。そうなれば、資金繰りが悪化しての倒産・廃業が増加する。
<日銀>
5)すでにバブルの域か?
世界の金融の大きな問題は、コロナ発生前でさえ、多くの企業などの借入比率が極端に高かったことだ。
コロナ危機で、さらに借入比率は拡大しているはずだ。現在はローン返済の猶予を認める各国の大々的な政策で、損失の全容がまだ見えない。
大手米銀行は、危機に対処するため準備金を積み増しているが、例えば、インド、イタリア、そのほかの新興国・途上国の銀行は備えができていないし、備えることができない。
世界的に見ると「まだら状」ではあるが、中国など一部を除き、欧米日など多くの国々で経済のV字回復の可能性はますます遠のいている。企業の資金繰り悪化と倒産が、これから顕在化するだろうし、不良債権が積み上がるだろう。
金融緩和で国債の利回りが世界的に急低下しており、超低金利は銀行から稼ぐ力を奪っている。リターンを求めて高リスク投資を増やせば、金融システムが崩落・爆発する危険を大きくすることになる。
国際決済銀行(BIS)ヒュン・ソン・シン
「コロナショック当初(20年3月)は、流動性危機が最重要課題だったが、現在はそれが支払い能力の危機へと変わってきている。銀行はいずれ(脆弱な企業を襲う経営破綻と不良債権の波の)矢面に立つことになる」
「銀行は危機の発生源ではないにしても、無傷ではいられない」
「調査結果は、すでに融資基準が相当厳しくなっていることを示している」(10月15日、日経)
世界銀行・首席エコノミストカーメン・ラインハート
「金融業界の脆弱性に目を向けると長期的には、かなり悲観的にならざるをえない」
「信用収縮が起きる公算は本当に大きいと思える」(10月15日、日経)
<世界銀行>
金融システムの慢性的に負荷が増大している。ただ、金融危機は必ずしも、リーマン・ブラザーズが破綻した時のような道筋で爆発するわけではない。
どのような道筋を経て金融の混乱、金融危機が起きるか? あらかじめ想定することは難しい。
が、おそらく、次のような過程をたどるのではないか?
今後、企業への資金繰りが悪化し倒産に至れば、貸し手である金融機関にデフォルト(債務不履行)がじわじわと増えるだろう。そうなれば、金融システムにかかる負荷が増大し(自己資本比率が下がり)、与信条件が厳しくなるだろう。その過程が、仮に急速に進めば、信用収縮、さらには金融恐慌へと至るだろう。
20年3月以降、各国の中央銀行は、市場機能を維持するためには「必要なことは何でもする」意思を明確にしているし、欧米の銀行の自己資本率は08年に比べまだ高いことなどから、今すぐ金融危機には至らないかもしれないが、いずれ起こるだろう。
いまは金融爆発に向けて可燃物を蓄積している状態だ。(10月27日記)
(文責:小林治郎吉)
米大統領選挙で何が変わるか? [世界の動き]
米大統領選挙で何が変わるか?
1)トランプの外交政策とは? 何をしてきたか?
①米中対立をあおり、世界を分断した
中国に対し貿易戦争を開始し、ハイテク戦争にまで発展させた。米ドルが国際通貨であることを利用し、「安全保障」のためという根拠のない身勝手な理由で、中国企業・個人に「経済制裁」を加え、中国ばかりか友好国へも中国製品(ファーウェイ製の5G 基地局など)を採用しないように脅しをかけてきた。傍若無人の振る舞いだ。この米中対立は世界経済を分断しつつあるし、政治的な対立をも生じさせている。一方的に米国に原因と責任がある。中国とのハイテク戦争を、民主党は支持している。
中国は経済封鎖、制裁に対抗するために、半導体の自国開発・調達策をとらざるを得なくなっている。そのために多額の開発資金を実際に投資している。今や半導体の設計開発ソフト・製造技術・素材材料などにおいて全面的な開発競争に入っている。ファーウェイは携帯電話や基地局の輸出が不可能となり、中国国内以外の売り上げは落ちている。当面は米国有利に展開しているようだが、最終的にどちらが覇者になるかは不明だ。中国の半導体開発、自国調達ができるようになれば、いずれ決着がつくだろうが、それまでは数年単位の長い時間を要するだろう。
②中東の新たな枠組みをつくった。
在イスラエル米大使館をエルサレムに移した、イスラエルが第3次中東戦争で占領したままのシリア領ゴラン高原のイスラエル主権を、トランプ政権は初めて認めた。
そのうえで、イスラエルとバーレーン、UAEとの国交回復実現を、トランプ政府は背後から推し進めさせた。今後、サウジを含めた湾岸諸国とイスラエルとの経済関係が拡大していくだろう。イスラエルは湾岸諸国、ば^レーンから石油を輸入することができるようになった。
パレスチナ問題の正当な解決を強く主張してきたリビア、シリア、イランにを敵視し、リビア、シリアには戦争を仕かけ、様々な理由をつくり出してイスラエルとともに軍事的に攻撃してきた。その一方で米国は、親米的なサウジや湾岸諸国に対する「アラブの大義」を放棄させ、イスラエルとの友好関係の拡大へと転換させてきた。中東の支配者たろうとするサウジはこの米国の中東政策に乗った。
米政府は、不法の上に不法を重ねている。中東における対立は新たな内容をはらみつつある。
③トランプの「悲願」、公約であった米軍の紛争地からの撤退や、ロシアとの良好な関係の構築は進展しなかった。
この「公約」に対して、米支配層・軍産複合体があらゆる手段を動員し反対し押しとどめた。「ロシア疑惑」など、まったく証拠も示さないフェイクニュースで世論をつくり、プーチンのロシアとの接近をさせなかった。米民主党は米支配層・軍産複合体の意向にしたがって動き、公約を実現させないように振る舞った。オバマ、ヒラリー米民主党政権は、軍産複合体と「親和性」高かった。
その結果、トランプ政権は米支配層、軍産複合体の意向に沿った軍事戦略をとることになった。軍事戦略はオバマの時とほとんど変わらず、軍産複合体の意向通りとなった。
ただしその軍事戦略は、例えば中東ではうまくいっていない。シリアでは米軍は敗北し撤退した、アフガンでも米軍は現地での戦闘で敗北を重ね、撤退へと追い込まれている(=タリバンとの和平交渉し米軍は撤退しようとしている)。イラクでも米軍の存在は人々の非難の対象となっている。
④「パリ協定」からの離脱、地球温暖化対策の国際的枠組みから離脱した。トランプの支持基盤である石炭・石油業界の利益確保を優先した。トランプは「取引」で目先の成果を上げ、石炭・石油業界に利益をもたらし、支持を得ようとした。
⑤18年に「イラン核合意」を破棄した。英仏独ロ中とともに努力の末、「核合意」したにもかかわらず、米国だけが勝手に破棄した。その「狙い」は、イランの原油輸出を「制裁」で抑え、米シェールオイル輸出を増やすという目先の利益獲得のためだ。中東の緊張を高めたい軍産複合体は、この「核合意破棄」を支持した。米国支配層内では特に強い反対はなかった。
トランプ政権はベネズエラへのクーデターを支援し、介入したが、「失敗」に終わった。しかし、ベネズエラのマドゥロ政権は「民主的でない」とイチャモンをつけ「制裁」を発動し、ベネズエラ石油の輸出を減らすことに成功した。そのことにより、米シェールオイル輸出を拡大させた。米民主党もベネズエラ政府批判、制裁では同調している。
⑥トランプはコロナ危機のさなかに、WHOを脱退した。米国でのコロナ対策に失敗し、感染拡大を招いたので、中国とWHOを名指しして非難し、自身への批判から逃れようとしている。
⑦NATOへの米国の関与・負担に疑問を呈し、各国に軍事費増大を求めた。日本への軍事負担要求、米兵器の購入要求を強め、安倍政権は従った。日本政府に対してはトランプの「取引」は成功した。
⑧北朝鮮との関係改善をはかった。実際には進展はなく、一つの「ショー」を演じて見せた。
<バイデン元副大統領とトランプ大統領>
2)バイデンになったら、何が変わるか?
まず外交は?
①対中国政策については、変わらない。
共和党・民主党ともにトランプ政権以前から、中国の台頭・影響力強化を「敵対視」し、抑えつけようとしてきた。対中強硬策は、米国内では超党派の路線なので、バイデンになっても変わらない。発言の「トーン」は変わるだろうが、実質は変わらない。バイデンになっても、米中対立は激化し、経済的なブロックの形成から、政治的な対立にまでおよび、世界はいっそう分断されるだろう。
②中東での新たな枠組み、すなわちイスラエルとバーレーン、UAE間の国交回復はそのまま引き継ぐはずだ。サウジとイスラエルの国交回復、経済関係の実現・拡大を支えるだろう。
サウジや湾岸諸国にとっては、原油収入があるうちに早急に「時代の流れ」である「エネルギー転換」を実現し「産業転換」しなければならない。でなければ未来はない。そこにイスラエルの技術が必要なのだ。米国の傘下でこれを実現しようとしている。バイデンもこれを支えるだろう。
リビアのカダフィ政権を潰し、シリアのアサド政権に戦争を仕掛け、イランを敵視する中東政策の基本は変わらないだろう。バイデンとて、中東政策において親イスラエル、親サウジの立場は変わることはない、したがって、パレスチナを見放し、イラン敵視する政策は、大きくは変わらないだろう。
③NATOや日本韓国そのほかの同盟国との関係は、トランプの乱暴なやり方は控え「波風」を立てないようにはするだろうが、基本は変わらない。日本を含む同盟国に対し軍事費の負担増、米兵器購入要求は引き続き強要する。とくに東アジアにおいて、日本や韓国に「相応の軍事費の負担」を強要するだろう。
④「パリ協定」復帰、WHO復帰、「イラン核合意」復帰は可能だ。バイデンは復帰すると言っているし、おそらく復帰するだろう。
トランプ政権で生じた同盟国との間の「波風」を収め、同盟国の協力と「相応の負担」を求める従来の米民主党の外交政策に転換するだろう。
バイデンは国内政策においては、いくらか異なる主張をしている。しかし、実際に違った政策を実行するかどうか、実際にできるかは、はなはだ疑問だ。おそらく公約通り実現できる可能性は高くない。
⑤新型コロナ対策は、しっかりと対策を立てなければ、経済活動が再開できない。中国はすでに20年7~9月期に前年同期比で経済成長するまでにコロナを抑え込んでいる。
バイデンはコロナ対策を公約の一つに掲げている。中間層、貧困層の「コロナ不安」を票に取り込もうという戦略からだ。
トランプでもバイデンでもコロナ対策はせざるをえないだろう。しかし、3,000万人以上もの無保険者が多いこと、資本家はコロナ対策よりも経済活動を再開したいことから、そう簡単に解決はできない。まず財源を確保しなければならない、予算を議会で通さなければならない。それらがまずやるべきことだが、どれほどできるかで対策をどれくらい実行できるかが、政権発足後、半年ほどたてばいずれ判明するだろう。
バイデンになっても、それほど急にコロナ対策が効果を発揮するとは思えない。
⑥バイデンは、「トランプ減税」(17年)の撤廃と大企業と1%の富裕層の税負担を増やす公約を掲げ、大多数の人々、没落した米中間層へアピールしている。また、「オバマ・ケア」の復活(「国民皆保険制度」ではなく、「オバマケア」)も訴えている。病気になり多額の医療費負担で没落する中間層が増えている。失業して健康保険を失った人も多い。
掲げている公約は確かに大きく異なる。米社会の貧困化の進行は悲惨な事態を招いているので、格差是正を取り組まざるを得ないのだが、大企業・富裕層は抵抗、もしくはすり抜けに努めるに違いないし、財源の問題もある。民主党内には、国民皆保険制度に反対する勢力がいて、バイデンを「社会主義者」と非難している。容易ではない。実際に、バイデンがどの程度実現できるかは疑問が残る。実現には市民運動、民主運動などの継続した運動が、一層必要となるだろう。
⑦エネルギー転換、温暖化対策を、バイデンは取り組むと表明している。実際のところ、石油・石炭から再生エネルギーへの転換は米経済にとっても中長期的に避けることはできない。バイデンになれば、エネルギー転換、新しい産業革命により一歩、踏み込むことになるだろう。そこに、資本にとっての市場と利益があり、雇用も拡大する。エネルギー転換は欧州や中国との競争になる。2兆ドル投資すると表明しているが、実行できるかどうかは、まだわからない。(日本政府のように、総花的に予算を編成し、結果的には「エネルギー転換が遅れる」事態となることは十分に予想できる。)
石炭産業、シェールオイル産業などはトランプの支持基盤なので、トランプ政権のままなら、これら産業により配慮するだろうが、彼とて「エネルギー転換」を避けることはできない。実際に、オイルメジャー資本でさえ、石炭・石油など炭素系エネルギーから再生可能エネルギーへ投資を転換しつつある。
3)結論として、
バイデン大統領になったとしても外交政策はほとんど変わらないし、国内政策を転換するにはいくつもの解決しなければならない難題がある、結局のところ、いつもの大統領選挙と同じように、盛り上がった大きな「興奮」の割には、大きくは変わらないのではないかと推測している。
したがって、11月3日に「革新的な新しい世界が訪れる」ことはない。
米国社会の深刻な貧困化、分断が進行した背景にあるのは、米国の衰退であり中国の台頭であり、世界の無極化である、そのなかで現れた米国の横暴な振る舞い、「悪あがき」である。米国が世界一の軍事力を持っていること、米ドルが国際通貨であることから、今のところ、この「悪あがき」ができるのだ。
米国内では富者に富を集中しこれまでの既得権益層を満足させてきた。その結果、米国社会で起きているのは、中間層の没落であり貧困層の増大、格差拡大、米社会の荒廃である。
トランプは社会の分断のなかで広がる人々の不満と不安を、敵をつくり、人種差別を煽り、フェイクニュースでごまかしてきたのだ。
米支配層にとって、このような政府、やり方を「少し」修正せざるをえないところにまで追い込まれている。ただし、米支配層の利益を優先するなら、大きく転換することはなく、「落日の帝国」の様相を一層深めることになるだろう。
トランプだから「暴君」として振る舞ったのではない。衰退する米国の「悪あがき」なのだ。バイデンになって「衣装」は変わるかもしれないが、「悪あがき」そのものは変わらない。 したがって、われわれの悪夢も当分、続く。(10月26日記)
1)トランプの外交政策とは? 何をしてきたか?
①米中対立をあおり、世界を分断した
中国に対し貿易戦争を開始し、ハイテク戦争にまで発展させた。米ドルが国際通貨であることを利用し、「安全保障」のためという根拠のない身勝手な理由で、中国企業・個人に「経済制裁」を加え、中国ばかりか友好国へも中国製品(ファーウェイ製の5G 基地局など)を採用しないように脅しをかけてきた。傍若無人の振る舞いだ。この米中対立は世界経済を分断しつつあるし、政治的な対立をも生じさせている。一方的に米国に原因と責任がある。中国とのハイテク戦争を、民主党は支持している。
中国は経済封鎖、制裁に対抗するために、半導体の自国開発・調達策をとらざるを得なくなっている。そのために多額の開発資金を実際に投資している。今や半導体の設計開発ソフト・製造技術・素材材料などにおいて全面的な開発競争に入っている。ファーウェイは携帯電話や基地局の輸出が不可能となり、中国国内以外の売り上げは落ちている。当面は米国有利に展開しているようだが、最終的にどちらが覇者になるかは不明だ。中国の半導体開発、自国調達ができるようになれば、いずれ決着がつくだろうが、それまでは数年単位の長い時間を要するだろう。
②中東の新たな枠組みをつくった。
在イスラエル米大使館をエルサレムに移した、イスラエルが第3次中東戦争で占領したままのシリア領ゴラン高原のイスラエル主権を、トランプ政権は初めて認めた。
そのうえで、イスラエルとバーレーン、UAEとの国交回復実現を、トランプ政府は背後から推し進めさせた。今後、サウジを含めた湾岸諸国とイスラエルとの経済関係が拡大していくだろう。イスラエルは湾岸諸国、ば^レーンから石油を輸入することができるようになった。
パレスチナ問題の正当な解決を強く主張してきたリビア、シリア、イランにを敵視し、リビア、シリアには戦争を仕かけ、様々な理由をつくり出してイスラエルとともに軍事的に攻撃してきた。その一方で米国は、親米的なサウジや湾岸諸国に対する「アラブの大義」を放棄させ、イスラエルとの友好関係の拡大へと転換させてきた。中東の支配者たろうとするサウジはこの米国の中東政策に乗った。
米政府は、不法の上に不法を重ねている。中東における対立は新たな内容をはらみつつある。
③トランプの「悲願」、公約であった米軍の紛争地からの撤退や、ロシアとの良好な関係の構築は進展しなかった。
この「公約」に対して、米支配層・軍産複合体があらゆる手段を動員し反対し押しとどめた。「ロシア疑惑」など、まったく証拠も示さないフェイクニュースで世論をつくり、プーチンのロシアとの接近をさせなかった。米民主党は米支配層・軍産複合体の意向にしたがって動き、公約を実現させないように振る舞った。オバマ、ヒラリー米民主党政権は、軍産複合体と「親和性」高かった。
その結果、トランプ政権は米支配層、軍産複合体の意向に沿った軍事戦略をとることになった。軍事戦略はオバマの時とほとんど変わらず、軍産複合体の意向通りとなった。
ただしその軍事戦略は、例えば中東ではうまくいっていない。シリアでは米軍は敗北し撤退した、アフガンでも米軍は現地での戦闘で敗北を重ね、撤退へと追い込まれている(=タリバンとの和平交渉し米軍は撤退しようとしている)。イラクでも米軍の存在は人々の非難の対象となっている。
④「パリ協定」からの離脱、地球温暖化対策の国際的枠組みから離脱した。トランプの支持基盤である石炭・石油業界の利益確保を優先した。トランプは「取引」で目先の成果を上げ、石炭・石油業界に利益をもたらし、支持を得ようとした。
⑤18年に「イラン核合意」を破棄した。英仏独ロ中とともに努力の末、「核合意」したにもかかわらず、米国だけが勝手に破棄した。その「狙い」は、イランの原油輸出を「制裁」で抑え、米シェールオイル輸出を増やすという目先の利益獲得のためだ。中東の緊張を高めたい軍産複合体は、この「核合意破棄」を支持した。米国支配層内では特に強い反対はなかった。
トランプ政権はベネズエラへのクーデターを支援し、介入したが、「失敗」に終わった。しかし、ベネズエラのマドゥロ政権は「民主的でない」とイチャモンをつけ「制裁」を発動し、ベネズエラ石油の輸出を減らすことに成功した。そのことにより、米シェールオイル輸出を拡大させた。米民主党もベネズエラ政府批判、制裁では同調している。
⑥トランプはコロナ危機のさなかに、WHOを脱退した。米国でのコロナ対策に失敗し、感染拡大を招いたので、中国とWHOを名指しして非難し、自身への批判から逃れようとしている。
⑦NATOへの米国の関与・負担に疑問を呈し、各国に軍事費増大を求めた。日本への軍事負担要求、米兵器の購入要求を強め、安倍政権は従った。日本政府に対してはトランプの「取引」は成功した。
⑧北朝鮮との関係改善をはかった。実際には進展はなく、一つの「ショー」を演じて見せた。
<バイデン元副大統領とトランプ大統領>
2)バイデンになったら、何が変わるか?
まず外交は?
①対中国政策については、変わらない。
共和党・民主党ともにトランプ政権以前から、中国の台頭・影響力強化を「敵対視」し、抑えつけようとしてきた。対中強硬策は、米国内では超党派の路線なので、バイデンになっても変わらない。発言の「トーン」は変わるだろうが、実質は変わらない。バイデンになっても、米中対立は激化し、経済的なブロックの形成から、政治的な対立にまでおよび、世界はいっそう分断されるだろう。
②中東での新たな枠組み、すなわちイスラエルとバーレーン、UAE間の国交回復はそのまま引き継ぐはずだ。サウジとイスラエルの国交回復、経済関係の実現・拡大を支えるだろう。
サウジや湾岸諸国にとっては、原油収入があるうちに早急に「時代の流れ」である「エネルギー転換」を実現し「産業転換」しなければならない。でなければ未来はない。そこにイスラエルの技術が必要なのだ。米国の傘下でこれを実現しようとしている。バイデンもこれを支えるだろう。
リビアのカダフィ政権を潰し、シリアのアサド政権に戦争を仕掛け、イランを敵視する中東政策の基本は変わらないだろう。バイデンとて、中東政策において親イスラエル、親サウジの立場は変わることはない、したがって、パレスチナを見放し、イラン敵視する政策は、大きくは変わらないだろう。
③NATOや日本韓国そのほかの同盟国との関係は、トランプの乱暴なやり方は控え「波風」を立てないようにはするだろうが、基本は変わらない。日本を含む同盟国に対し軍事費の負担増、米兵器購入要求は引き続き強要する。とくに東アジアにおいて、日本や韓国に「相応の軍事費の負担」を強要するだろう。
④「パリ協定」復帰、WHO復帰、「イラン核合意」復帰は可能だ。バイデンは復帰すると言っているし、おそらく復帰するだろう。
トランプ政権で生じた同盟国との間の「波風」を収め、同盟国の協力と「相応の負担」を求める従来の米民主党の外交政策に転換するだろう。
バイデンは国内政策においては、いくらか異なる主張をしている。しかし、実際に違った政策を実行するかどうか、実際にできるかは、はなはだ疑問だ。おそらく公約通り実現できる可能性は高くない。
⑤新型コロナ対策は、しっかりと対策を立てなければ、経済活動が再開できない。中国はすでに20年7~9月期に前年同期比で経済成長するまでにコロナを抑え込んでいる。
バイデンはコロナ対策を公約の一つに掲げている。中間層、貧困層の「コロナ不安」を票に取り込もうという戦略からだ。
トランプでもバイデンでもコロナ対策はせざるをえないだろう。しかし、3,000万人以上もの無保険者が多いこと、資本家はコロナ対策よりも経済活動を再開したいことから、そう簡単に解決はできない。まず財源を確保しなければならない、予算を議会で通さなければならない。それらがまずやるべきことだが、どれほどできるかで対策をどれくらい実行できるかが、政権発足後、半年ほどたてばいずれ判明するだろう。
バイデンになっても、それほど急にコロナ対策が効果を発揮するとは思えない。
⑥バイデンは、「トランプ減税」(17年)の撤廃と大企業と1%の富裕層の税負担を増やす公約を掲げ、大多数の人々、没落した米中間層へアピールしている。また、「オバマ・ケア」の復活(「国民皆保険制度」ではなく、「オバマケア」)も訴えている。病気になり多額の医療費負担で没落する中間層が増えている。失業して健康保険を失った人も多い。
掲げている公約は確かに大きく異なる。米社会の貧困化の進行は悲惨な事態を招いているので、格差是正を取り組まざるを得ないのだが、大企業・富裕層は抵抗、もしくはすり抜けに努めるに違いないし、財源の問題もある。民主党内には、国民皆保険制度に反対する勢力がいて、バイデンを「社会主義者」と非難している。容易ではない。実際に、バイデンがどの程度実現できるかは疑問が残る。実現には市民運動、民主運動などの継続した運動が、一層必要となるだろう。
⑦エネルギー転換、温暖化対策を、バイデンは取り組むと表明している。実際のところ、石油・石炭から再生エネルギーへの転換は米経済にとっても中長期的に避けることはできない。バイデンになれば、エネルギー転換、新しい産業革命により一歩、踏み込むことになるだろう。そこに、資本にとっての市場と利益があり、雇用も拡大する。エネルギー転換は欧州や中国との競争になる。2兆ドル投資すると表明しているが、実行できるかどうかは、まだわからない。(日本政府のように、総花的に予算を編成し、結果的には「エネルギー転換が遅れる」事態となることは十分に予想できる。)
石炭産業、シェールオイル産業などはトランプの支持基盤なので、トランプ政権のままなら、これら産業により配慮するだろうが、彼とて「エネルギー転換」を避けることはできない。実際に、オイルメジャー資本でさえ、石炭・石油など炭素系エネルギーから再生可能エネルギーへ投資を転換しつつある。
3)結論として、
バイデン大統領になったとしても外交政策はほとんど変わらないし、国内政策を転換するにはいくつもの解決しなければならない難題がある、結局のところ、いつもの大統領選挙と同じように、盛り上がった大きな「興奮」の割には、大きくは変わらないのではないかと推測している。
したがって、11月3日に「革新的な新しい世界が訪れる」ことはない。
米国社会の深刻な貧困化、分断が進行した背景にあるのは、米国の衰退であり中国の台頭であり、世界の無極化である、そのなかで現れた米国の横暴な振る舞い、「悪あがき」である。米国が世界一の軍事力を持っていること、米ドルが国際通貨であることから、今のところ、この「悪あがき」ができるのだ。
米国内では富者に富を集中しこれまでの既得権益層を満足させてきた。その結果、米国社会で起きているのは、中間層の没落であり貧困層の増大、格差拡大、米社会の荒廃である。
トランプは社会の分断のなかで広がる人々の不満と不安を、敵をつくり、人種差別を煽り、フェイクニュースでごまかしてきたのだ。
米支配層にとって、このような政府、やり方を「少し」修正せざるをえないところにまで追い込まれている。ただし、米支配層の利益を優先するなら、大きく転換することはなく、「落日の帝国」の様相を一層深めることになるだろう。
トランプだから「暴君」として振る舞ったのではない。衰退する米国の「悪あがき」なのだ。バイデンになって「衣装」は変わるかもしれないが、「悪あがき」そのものは変わらない。 したがって、われわれの悪夢も当分、続く。(10月26日記)
先進国は日本化をたどる! 金融が歪む! [世界の動き]
低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する
先進国は日本化をたどる! 金融が歪む!
資本主義は、これを解決できない!
<日銀>
1)コロナ経済危機
米国の6月の雇用統計(7月2日発表)では、失業率:11.1%、失業者は1,775万人。
米政府の「給与保護プログラム」(6,600億ドル、12月末が支給期限)は、「5,000万人の雇用を支えた」(ムニューシン財務長官)という。
欧州の5月失業率は7.4%。企業に政府が給与の一部を支払う政策で支える雇用は、EU主要5ヵ国(独、仏、伊、英、スペイン)で4,500万人に達する。労働者全体の約3分の1に及び、EU各国は数兆円の財政負担を強いられている。
日本の場合、国内の宿泊業や飲食業をはじめとした休業者数は5月に423万人に達した。補正予算で1.6兆円を計上した「雇用調整助成金」の利用者は延べ300万人程度であるが、9月末に支給期限を迎える。
コロナ危機で需要が消失し、世界各国で生産が縮小し、落ち込みは2008-09年金融危機以上となっている。サービス業、製造業で倒産が相次ぎ、失業者が増大している。いずれ「コロナ恐慌‥‥」と誰かが名づけるだろう。
先進各国を中心に、財政出動し、消失した需要の一部を支えている。そのことで各国の財政赤字は一挙に膨らんだし、今も膨らんでいる。
それとともに、先進各国の金融政策が大きな変貌を遂げている。2020年3月、コロナ禍への対応で先進各国の中央銀行は大量に国債を購入し、強引に流動性を確保し金融危機を回避した。社債やCPの購入等、一時的な企業の資金繰り支援にまで踏み込んで、金融崩壊を食い止めた。その額がとてつもない規模になっている。この金融政策は今も続いている。
このような金融政策は、すでに信用配分の領域に踏み込んでおり、かつて非伝統的とみなされていた金融政策が「ニューノーマル(新常態)」となりつつある。金融崩壊を避ける為の「やむを得ない対応」だが、やめるにやめられなくなっている。抜け出せない深い穴に向かって螺旋的に回転しながら落ちていっているかのようだ。
<FRB>
2)ジャパニフィケーション
低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する
日本の賃金はこの30年、ほとんど上昇していない。最低賃金(時給)900円さえ実現していない。女性や高齢者、技能実習生などの低賃金不安定雇用の単純労働者層を新たにつくりだし、労働市場に投入してきた。低賃金を利用した旧態依然の関係を温存してきたため、低生産性の企業は温存され企業の新陳代謝は遅れ、全体として日本企業の労働生産性は低いままだ。OECDで最低の部類に入る。
賃金は上がらず、労働者数は減少し、高齢化が進むので、総需要が総供給を下回る状況が続く。需要低迷が長期化すると、人的資本投資や研究開発投資が阻害され、潜在成長率の低下が継続的に起こる。すでに実質金利(自然利子率)の低下は続いている。実質金利は自然利子率より下げられない。したがって、十分な景気刺激効果が得られない。日本経済は四半世紀にわたり低成長、低インフレ、低金利が続き、これが常態化した社会・経済となり、金融政策が「ニューノーマル」の時代を迎えた。
そのようにして、日本経済は潜在成長率を一層低下させてきたのである。この30年間におよぶ「日本の停滞」が欧米の先を行く「日本化」と呼ばれたのだ。
その背景には、新自由主義という現代資本主義が社会構造を変質させたことにある。大多数の人々のゆっくりとした、しかし確実な貧困化が進んだ。富は一握りの上層に集中した。
低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散し、政府債務が増大する、これを「日本化(ジャパニフィケーション)」と呼ぶ。先進各国の「日本化」はささやかれてはいたのだが、今回のコロナ危機で各国とも一挙に「日本化」に踏み出し、新たなグローバルスタンダードになったかのようだ。
<欧州中央銀行>
3)歪む金融、各国の金融政策はどこに向かうのか?
「日本化」は実体経済の長期低迷という側面にとどまらない。財政・金融政策の面での債務拡大をもう一つの特長としている。今回のコロナ危機で各国中央銀行とも国債を大量に購入し、債務を一挙に拡大させた。主要先進国における「日本化」は、グローバル金融危機以降の政策対応の帰結として「必然的なもの」となった。
金融政策は一貫して名目金利の実効下限制約に直面し続けるから、低成長、低インフレが継続するなかで低金利環境の長期化はある意味で自然なことだ。だが金融政策運営では、危機に際し国債を購入して対処する緊急時の「非伝統的政策」が恒常的な政策手段となり、中銀のバランスシートの膨張が続くことになる。
コロナ危機によって世界的な恐慌となった時、各国政府、特に先進国政府・中央銀行が、日本と同じ金融政策を採った。政府は国債を増発し、中銀が国債を大量に購入し、先進各国が一斉に日本が先に採用した金融政策を踏襲したのである。
2020年3月以降、FRBのバランスシートが金融危機時以上に急拡大している。財政赤字拡大で米政府債務残高のGDP比は、第2次世界大戦直後の水準を超え、財政再建の重い荷物を背負う。
日本は、コロナ対策で第一次、二次の補正予算も含め、20年度支出は160兆円を超え、新規赤字国債発行90兆円を含め20年度の赤字国債発行総額は253兆円と過去最大となる。基礎財政収支の赤字幅はマイナス60兆円に膨らんだ。財政事情は一段と悪化する。
2020年末の日米欧の中央銀行の資産は、前年末比1.5倍の約2,400兆円と、世界GDPの約6割に膨張する見込みだ。金融危機が起きた08年末は、600兆円未満だった。中央銀行の担う金融政策への過度の負担が加速度的に増大しており、将来の正常化を困難にしかねない。
その結果、中央銀行による緊急時の金融政策は、財政政策との境界が極めて曖昧となってしまった。特に金融資産の大量購入により様々なリスクへの対価に働きかけることで、価格・数量の両面から資源配分へ強力な介入をしたことになる。コロナ危機後もこうした金融政策が先進国で共通した対応となり定着するだろう。
他方、財政政策面でも主要先進国はコロナ危機への対応として未曽有の財政拡張策を繰り出している。日本と同様、大規模な政府債務の下での政策運営を余儀なくされるようになる。財源は国債を増発して賄い、中銀が低金利環境を維持することで、実態として財政の持続可能性を支える構図が定着していく。定着すれば、何があっても低金利にしなければならなくなる。国債金利が上がれば、国債利払いだけで国家財政が破綻するからだ。
日本では2016年以降、短期・長期金利の双方に操作目標を設定する「イールドカーブ・コントロール政策(YCC)」がとられている。この枠組みは低金利環境を安定的に実現することで、金融政策の政府債務管理政策への統合を暗黙裡に可能としている。中銀は「政府からの独立性」を標榜してきたが、実質的に政府と一体の金融政策に近づきつつある。
これは、目先の財政政策を実行したい政府にとって、中央銀行の金融政策が利用しやすくなるだけだ。ある意味「中銀の独立性」破壊であるが、そんなこと以上に、政府が将来にツケつけを回し、より大きな破綻を準備する上での「障害」を無くしているに他ならない。破綻への道を突き進んでいることこそ大問題なのだ。
現代資本主義はこの債務拡大を押しとどめることができない、押しとどめる要因を内部に持っていない。そのことは、現代資本主義システムが、持続可能な社会システムではないと主張しているようなものなのだ。
4)中央銀行の金融政策に依存する政府
中銀の資産膨張のリスクは解決できるのか?
それとも破綻するのか?
「日本化」の下で恐ろしいのは、政府が中銀の資産膨張のリスクに関与しないこと、しようとしていないことだ。
中央銀行は、金融・経済の安定を確保するため、財政の持続可能性に一層注意を払う必要があり、物価安定よりも、長期金利を低位安定をめざすことになるだろう。それは中銀による大規模な国債購入によって長期金利を低位安定させることになる。中銀による政府財政政策への配慮は、中銀への更なる依存と制御不可能な財政膨張を招くリスクを増大させる。金利の低位安定の金融政策運営は、実際的には政府の債務管理政策として機能し、財政政策と金融政策の境界を事実上取り払う。この場合、金融政策への更なる依存が、政治的により安易な選択肢となる。結果として、制御不能な財政膨張と一段の金融政策への依存へと進んでいく。
今回のコロナ対策のように中銀ファイナンスによる財政拡大は、例えそれが必要であり暗黙裡なものであったとしても、無コストでないことを政府・日銀は公けに確認し、政府が責任を持つことが何よりも重要だ。
これまで避けてきたし逃げてきた、そうやって繰り延べしてきた。その結果、膨大な債務が蓄積した。もはや避けることができない、逃げることができない局面に直面している。
目の前の危機の回避に努めることで、より大きな危機を準備している。最終的な「破綻の道」へ進むように「収斂」しているかのようであり、避けられそうにないということだ。
安倍政権の政策、振る舞いは、「いくら国債を発行しても、日本銀行がそれを際限なく購入すれば、誰も財政負担をしなくていい」というおとぎ話を信じているようにしか見えない。目の前の国民の支持を得るため借金を重ね、ツケは将来の世代に確実に回る。ツケが回るだけでなく、それ以上に、将来の日本経済が破綻するしかなくなる。
もっとも、いつ、どのような道筋を通って、どのように「破綻」が訪れるかは、誰もわからない。
しかし、破綻となれば、最終的には国民にツケが回る。
国民にツケが回るとはどういうことか? 例えば、ギリシャ危機後に被ったギリシャ国民の困窮を思い起こさなければならない。
あるいは、円が暴落し高インフレとなり、戦時国債が暴落し紙切れになり、大半の国民が生活困窮に陥ったあの敗戦直後からの数年のような事態が、われわれに降りかかることを思い起こさなければならない。
先進国は日本化をたどる! 金融が歪む!
資本主義は、これを解決できない!
<日銀>
1)コロナ経済危機
米国の6月の雇用統計(7月2日発表)では、失業率:11.1%、失業者は1,775万人。
米政府の「給与保護プログラム」(6,600億ドル、12月末が支給期限)は、「5,000万人の雇用を支えた」(ムニューシン財務長官)という。
欧州の5月失業率は7.4%。企業に政府が給与の一部を支払う政策で支える雇用は、EU主要5ヵ国(独、仏、伊、英、スペイン)で4,500万人に達する。労働者全体の約3分の1に及び、EU各国は数兆円の財政負担を強いられている。
日本の場合、国内の宿泊業や飲食業をはじめとした休業者数は5月に423万人に達した。補正予算で1.6兆円を計上した「雇用調整助成金」の利用者は延べ300万人程度であるが、9月末に支給期限を迎える。
コロナ危機で需要が消失し、世界各国で生産が縮小し、落ち込みは2008-09年金融危機以上となっている。サービス業、製造業で倒産が相次ぎ、失業者が増大している。いずれ「コロナ恐慌‥‥」と誰かが名づけるだろう。
先進各国を中心に、財政出動し、消失した需要の一部を支えている。そのことで各国の財政赤字は一挙に膨らんだし、今も膨らんでいる。
それとともに、先進各国の金融政策が大きな変貌を遂げている。2020年3月、コロナ禍への対応で先進各国の中央銀行は大量に国債を購入し、強引に流動性を確保し金融危機を回避した。社債やCPの購入等、一時的な企業の資金繰り支援にまで踏み込んで、金融崩壊を食い止めた。その額がとてつもない規模になっている。この金融政策は今も続いている。
このような金融政策は、すでに信用配分の領域に踏み込んでおり、かつて非伝統的とみなされていた金融政策が「ニューノーマル(新常態)」となりつつある。金融崩壊を避ける為の「やむを得ない対応」だが、やめるにやめられなくなっている。抜け出せない深い穴に向かって螺旋的に回転しながら落ちていっているかのようだ。
<FRB>
2)ジャパニフィケーション
低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する
日本の賃金はこの30年、ほとんど上昇していない。最低賃金(時給)900円さえ実現していない。女性や高齢者、技能実習生などの低賃金不安定雇用の単純労働者層を新たにつくりだし、労働市場に投入してきた。低賃金を利用した旧態依然の関係を温存してきたため、低生産性の企業は温存され企業の新陳代謝は遅れ、全体として日本企業の労働生産性は低いままだ。OECDで最低の部類に入る。
賃金は上がらず、労働者数は減少し、高齢化が進むので、総需要が総供給を下回る状況が続く。需要低迷が長期化すると、人的資本投資や研究開発投資が阻害され、潜在成長率の低下が継続的に起こる。すでに実質金利(自然利子率)の低下は続いている。実質金利は自然利子率より下げられない。したがって、十分な景気刺激効果が得られない。日本経済は四半世紀にわたり低成長、低インフレ、低金利が続き、これが常態化した社会・経済となり、金融政策が「ニューノーマル」の時代を迎えた。
そのようにして、日本経済は潜在成長率を一層低下させてきたのである。この30年間におよぶ「日本の停滞」が欧米の先を行く「日本化」と呼ばれたのだ。
その背景には、新自由主義という現代資本主義が社会構造を変質させたことにある。大多数の人々のゆっくりとした、しかし確実な貧困化が進んだ。富は一握りの上層に集中した。
低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散し、政府債務が増大する、これを「日本化(ジャパニフィケーション)」と呼ぶ。先進各国の「日本化」はささやかれてはいたのだが、今回のコロナ危機で各国とも一挙に「日本化」に踏み出し、新たなグローバルスタンダードになったかのようだ。
<欧州中央銀行>
3)歪む金融、各国の金融政策はどこに向かうのか?
「日本化」は実体経済の長期低迷という側面にとどまらない。財政・金融政策の面での債務拡大をもう一つの特長としている。今回のコロナ危機で各国中央銀行とも国債を大量に購入し、債務を一挙に拡大させた。主要先進国における「日本化」は、グローバル金融危機以降の政策対応の帰結として「必然的なもの」となった。
金融政策は一貫して名目金利の実効下限制約に直面し続けるから、低成長、低インフレが継続するなかで低金利環境の長期化はある意味で自然なことだ。だが金融政策運営では、危機に際し国債を購入して対処する緊急時の「非伝統的政策」が恒常的な政策手段となり、中銀のバランスシートの膨張が続くことになる。
コロナ危機によって世界的な恐慌となった時、各国政府、特に先進国政府・中央銀行が、日本と同じ金融政策を採った。政府は国債を増発し、中銀が国債を大量に購入し、先進各国が一斉に日本が先に採用した金融政策を踏襲したのである。
2020年3月以降、FRBのバランスシートが金融危機時以上に急拡大している。財政赤字拡大で米政府債務残高のGDP比は、第2次世界大戦直後の水準を超え、財政再建の重い荷物を背負う。
日本は、コロナ対策で第一次、二次の補正予算も含め、20年度支出は160兆円を超え、新規赤字国債発行90兆円を含め20年度の赤字国債発行総額は253兆円と過去最大となる。基礎財政収支の赤字幅はマイナス60兆円に膨らんだ。財政事情は一段と悪化する。
2020年末の日米欧の中央銀行の資産は、前年末比1.5倍の約2,400兆円と、世界GDPの約6割に膨張する見込みだ。金融危機が起きた08年末は、600兆円未満だった。中央銀行の担う金融政策への過度の負担が加速度的に増大しており、将来の正常化を困難にしかねない。
その結果、中央銀行による緊急時の金融政策は、財政政策との境界が極めて曖昧となってしまった。特に金融資産の大量購入により様々なリスクへの対価に働きかけることで、価格・数量の両面から資源配分へ強力な介入をしたことになる。コロナ危機後もこうした金融政策が先進国で共通した対応となり定着するだろう。
他方、財政政策面でも主要先進国はコロナ危機への対応として未曽有の財政拡張策を繰り出している。日本と同様、大規模な政府債務の下での政策運営を余儀なくされるようになる。財源は国債を増発して賄い、中銀が低金利環境を維持することで、実態として財政の持続可能性を支える構図が定着していく。定着すれば、何があっても低金利にしなければならなくなる。国債金利が上がれば、国債利払いだけで国家財政が破綻するからだ。
日本では2016年以降、短期・長期金利の双方に操作目標を設定する「イールドカーブ・コントロール政策(YCC)」がとられている。この枠組みは低金利環境を安定的に実現することで、金融政策の政府債務管理政策への統合を暗黙裡に可能としている。中銀は「政府からの独立性」を標榜してきたが、実質的に政府と一体の金融政策に近づきつつある。
これは、目先の財政政策を実行したい政府にとって、中央銀行の金融政策が利用しやすくなるだけだ。ある意味「中銀の独立性」破壊であるが、そんなこと以上に、政府が将来にツケつけを回し、より大きな破綻を準備する上での「障害」を無くしているに他ならない。破綻への道を突き進んでいることこそ大問題なのだ。
現代資本主義はこの債務拡大を押しとどめることができない、押しとどめる要因を内部に持っていない。そのことは、現代資本主義システムが、持続可能な社会システムではないと主張しているようなものなのだ。
4)中央銀行の金融政策に依存する政府
中銀の資産膨張のリスクは解決できるのか?
それとも破綻するのか?
「日本化」の下で恐ろしいのは、政府が中銀の資産膨張のリスクに関与しないこと、しようとしていないことだ。
中央銀行は、金融・経済の安定を確保するため、財政の持続可能性に一層注意を払う必要があり、物価安定よりも、長期金利を低位安定をめざすことになるだろう。それは中銀による大規模な国債購入によって長期金利を低位安定させることになる。中銀による政府財政政策への配慮は、中銀への更なる依存と制御不可能な財政膨張を招くリスクを増大させる。金利の低位安定の金融政策運営は、実際的には政府の債務管理政策として機能し、財政政策と金融政策の境界を事実上取り払う。この場合、金融政策への更なる依存が、政治的により安易な選択肢となる。結果として、制御不能な財政膨張と一段の金融政策への依存へと進んでいく。
今回のコロナ対策のように中銀ファイナンスによる財政拡大は、例えそれが必要であり暗黙裡なものであったとしても、無コストでないことを政府・日銀は公けに確認し、政府が責任を持つことが何よりも重要だ。
これまで避けてきたし逃げてきた、そうやって繰り延べしてきた。その結果、膨大な債務が蓄積した。もはや避けることができない、逃げることができない局面に直面している。
目の前の危機の回避に努めることで、より大きな危機を準備している。最終的な「破綻の道」へ進むように「収斂」しているかのようであり、避けられそうにないということだ。
安倍政権の政策、振る舞いは、「いくら国債を発行しても、日本銀行がそれを際限なく購入すれば、誰も財政負担をしなくていい」というおとぎ話を信じているようにしか見えない。目の前の国民の支持を得るため借金を重ね、ツケは将来の世代に確実に回る。ツケが回るだけでなく、それ以上に、将来の日本経済が破綻するしかなくなる。
もっとも、いつ、どのような道筋を通って、どのように「破綻」が訪れるかは、誰もわからない。
しかし、破綻となれば、最終的には国民にツケが回る。
国民にツケが回るとはどういうことか? 例えば、ギリシャ危機後に被ったギリシャ国民の困窮を思い起こさなければならない。
あるいは、円が暴落し高インフレとなり、戦時国債が暴落し紙切れになり、大半の国民が生活困窮に陥ったあの敗戦直後からの数年のような事態が、われわれに降りかかることを思い起こさなければならない。
(文責:小林治郎吉)