Debian開発者からユーザーまで集合 Mini Debian Conference 2016 Japanが開催
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フリーのOSディストリビューション「Debian」に関するカンファレンス「Mini Debian Conference 2016 Japan」が2016年12月10日、都内のサイボウズ株式会社のオフィスを借りて開催された。
Debian Projectでは年1回、世界中のDebian開発者が集まる「DebConf」(The Debian Developer Conference)を、さまざまな国で開催している。Mini Debian Conferenceはその各国版といえるもので、各地のDebian開発者が自発的に開催しているものだ。
日本で「Mini Debian Conference」の名称で開催されるのは11年ぶりであり、実行委員会によると将来的にDebConfを日本で開催したいという目標に向けたものだという。

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台湾のDebConf招致活動の紹介
このイベントでは日本国内はもちろん、海外、特に台湾からも参加者や発表者が集まっていた。台湾は地理的に比較的近く、オープンソース活動が盛んで、Mini Debian Conference 2016 Japanと同じフロアで開催されていた「LibreOffice Kaigi 2016.12」で台湾のFranklin Weng氏が基調講演したことは大きな要因だ。
それだけではなく、2018年のDebConfを台湾で開催しようと候補にエントリーして活動していることも、台湾のDebian開発者が参加した目的の一つだ。この招致活動の紹介が、Mini Debian Conference 2016 Japanの最終セッションとして、2つの会場に分かれていた会議室を1つにして発表された。スピーカーはYin-Chun Liu(PaulLiu)氏。

DebConf Taiwan準備のコアチームは4〜5人で、毎日議論して活動しているという。Mini Debian ConferenceやMiniDebCampはすでに何度も台湾で開催しており、ほかにも大きなイベントの開催実績を持つ。
ただし、数百人規模のキャパと2週間の長期間ということで、さまざまな調整が必要になることが語られた。その一つが開催地で、候補が3箇所あるという。1つめの候補はNTU(National Taiwan University、国立台湾大学)だが、キャパが小さく、コストも高くなる。そのかわり交通の便がよく、またまわりにホテルや店なども多いという。
次の候補がYZU(Yuan Ze University、元智大學)だ。「最もわれわれをサポートしている大学」とのことで、料金面では優位で、空港からも近い。ただしまわりに何もなく、ホテルは1つだけだという。
3つめがNCTU(National Chiao Tung University、国立交通大学)だ。とても安くすみ、ホテルや店もまわりにある。近くに大きな半導体工場もあり、スポンサーシップの可能性もある。ただし、空港からは遠く、新幹線に乗ることになるのが短所だという。
セッション中にも参加者の間で、それぞれの長所や短所が議論された。またWeng氏は、大学にとってDebConfを開催するメリット(IBMやGoogleなども含め、世界的な技術者が集まることによる学生の機会)などを訴求する策なども語られた。
こうした会場探しもコアメンバーが自ら実行しているとのことで、熱意と行動力を感じさせるセッションだった。

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
バーチャルシンガーをFLOSSで開発するプロジェクト
台湾の張正一氏は、FLOSSによりVOCALOIDのようなバーチャルシンガーを実現するプロジェクト徴音梅林(ちおんメイリン)と、その中の歌声合成ソフトLINNEについて発表し、聴衆の関心を集めた。

張氏は「楽器は買えば自由に使える。ギターを歯で弾いても燃やしてもいい(笑)」と語り、VOCALOIDはフリーではないと主張した。
VOCALOIDと同じような歌声合成ソフトにUTAUがある。徴音梅林ではUTAUのoto.ini互換(UTF-8対応などの拡張あり)のデータ形式を採用している。これを独自の音声合成ソフトLINNEでは、山梨大学の森勢将雅氏が発表した「WORLD」エンジンを用いて歌声にする。なお、歌声の元になるサンプルデータはプロの声でスタジオで収録したという(VCVとVCのみ)。張氏は任意のピッチに歪みなく対応するなどのWORLDの特徴を、LINNEを使ったデモ動画で示した。
楽曲エディタとしてはUTAUを使っているが、現在独自のlinne-editorを開発しているという。まだ開発中であり、またプレゼンテーションしたPCには入っていないということでデモはされなかったが、後でほかのメンバーから動くところを見せてもらった。
プレゼン中は会場の音響設備の関係で実演ができなかったが、最後にイベントスタッフがミニアンプを手配して実演がなされ、聴衆の喝采を浴びた。
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
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Open Build ServiceをDebianパッケージ化
そのほかにもさまざまな発表がなされた。
台湾のAndrew Lee氏は、Open Build ServiceのDebian形式でのパッケージ化について発表した。Open Build Serviceは、さまざまなディストリビューションやCPUアーキテクチャに対応したビルドと配布のサービスで、openSUSE projectが開発し運営している。Open Build ServiceはWeb上のサービスとして提供されているが、ソースコードも公開されており、Lee氏はこれをDebianパッケージ化したわけだ。
Lee氏はOpen Build Service自体を紹介したあと、Debian形式でパッケージを作成した詳細について解説した。特に苦労したこととしては、Rubyの多数の依存ライブラリーや、JavaScriptライブラリーでライセンスが明記されていないことによるエラーなどが語られた。
氏は「Open Build Serviceはコラボレーションの道具になる」として、勤務先のCollabora社でDebianパッケージ化からOpen Build Serviceを立てて共同作業に利用していると語った。
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
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LinkstationにDebian stretchをインストールした体験
Roger Shimizu氏は、ヤフオクで入手したというBuffaloのNAS「Linkstation」第2世代に、Debianの次期版「stretch」をインストールした体験を発表した。シリアルコンソールがついているのでデバッグに便利だという。
Linkstationではu-boot用のブートイメージを入れかえることで、独自のOSイメージを起動できる。Linkstationで動くDebian stretchはα版が公開されているが、発表時点ではバグがあるためデイリービルドを勧めるということだった。このイメージをダウンロードし、Linkstationのディスクをフォーマットしてイメージを書き込み、起動してポートスキャナーでIPアドレスを探し、インストーラに接続する方法が解説された。
会場にはNASなど組み込み機器向けにDebianをインストールしている人も多く集まり、セッション後も交流や議論をしていた。
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Go言語製ソフトをDebianパッケージ化する道のり
弦本春樹氏は、Go言語で書かれたソフトをDebianパッケージにして公式アーカイブに入れた体験を解説した。対象ソフトは、端末上でインクリメンタルに情報を絞り込んで選ぶのに使われる「peco」だ。弦本氏は「Debian管理者ハンドブック」を見て公式パッケージの作成を学んだという。
苦労した点としては依存ライブラリーの問題などが語られた。ライブラリーの命名ルールが決まる前のライブラリーで自動検出されなかったり、フォークされたライブラリーと元のライブラリーがそれぞれパッケージ化されていて開発状況を確認する必要があったりといったことがあったという。パッケージ化されていないものについては自分でパッケージ化するが、ライセンスが書かれていないものについて、アップストリームでissueを立てて追加してもらったりしたといったことも語られた。
会場では、Debian開発者をまじえて、パッケージングの方法やツールについての情報や議論が飛び交った。
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Let's Encryptをサーバーに設定する方法
西山和広氏は、Let's Encryptのクライアントツール「Certbot」について解説した。Let's EncryptはSSL/TLSサーバー証明書のCA(認証局)で、EV SSLやワイルドカードは対応していないが、無料で利用でき、APIから操作できる。なお、Certbotはかつてletsencryptという名前だったが、2016年に正式リリースにともなって改名された。
西山氏は、インストールや証明書の発行、サーバーの設定などについて解説した。証明書はコマンドラインのcertbotコマンドで発行する。このときメールアドレスを尋ねられるが、メールが送られてくるのは有効期限が近付いた場合や緊急の通知、鍵の紛失などのときだという。証明書の発行でよくある失敗として、BASIC認証がかかってるケースも紹介された。
設定について、Webサーバーやメールサーバーの例が紹介された。Apache httpでの設定は、2.4.7までと2.4.8以降で違うという。自動実行時間をばらつかせる方法や、証明書更新の設定箇所、stagingサーバーでの利用、更新時の通知設定などのノウハウも説明された。
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(編注:2017年1月31日17時00分更新)記事公開当初、Mini Debian Conferenceの名称で初めての開催である旨の説明がありましたが誤りだったためお詫びして訂正致します。
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