登録日:2023/04/13 Thu 07:26:52
更新日:2024/09/05 Thu 23:03:50
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ようこそ、最先端のカオスへ。
マルチバースとカンフーで世界を救え?!
スタジオA24(『ミッドサマー』)が贈る空前絶後のアクション・エンターテイメント、降臨。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(原題: Everything Everywhere All at Once)は2022年3月に公開されたアメリカ映画。海外での略称は『EEAAO』だが、日本では『エブエブ』が一般的。
日本では2023年3月3日と1年遅れての公開となった。北米配給はA24、日本配給はギャガが行った。
概要
世界で最も有名な映画賞の第95回アカデミー賞にて
作品賞・監督賞・主演女優賞、助演男優賞・助演女優賞×2・衣装デザイン賞・編集賞・作曲賞・歌曲賞(主題歌賞)の最多10部門11ノミネートされ、
このうち作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞(ジェイミー・リー・カーティス)・脚本賞・編集賞の7部門を受賞。
そしてゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞なども含めた数多くの映画祭において、『
ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』を上回って
史上最も多くの賞を獲得した映画となった。
特色
マルチバース(無数に枝分かれした世界、いわゆる並行世界や
パラレルワールド)を題材としており、
前述の通りアカデミー賞を始めとした多数の映画賞を受賞した映画だが、王道からかなりかけ離れた作風であり、日本人の感想では「人を選ぶ」という意見も多い。
ギャグのノリは「ボーボボ」や「劇場版クレヨンしんちゃん」に近いとする感想もみられる。
アクション、ギャグ、
下ネタ、哲学的要素、家族愛、移民問題や同性愛、メタフィクション要素といったあらゆる要素が盛りだくさんかつ濃厚である事から、
「これから観る人は事前に睡眠をたっぷりとって万全の体調で視聴したほうがいい」と助言される事も。
その情報過多と複雑さによって「分かりにくい」「支離滅裂」という評価もあるが、ネット上では考察及び解説する動きも盛んである。
とにかくぶっ飛んだ内容の映画である為、視聴するかどうか悩んでいる人がレビューを見ても参考にならないという意見もある。また視聴した人も他者に内容を伝えづらいという意見もある。
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少し踏み込んだ解説(若干のネタバレ注意) |
あらゆるテーマやメッセージ性が詰め込まれ、情報過多でわかりにくい内容となっている本作品だが、作品のテーマの中に「情報過多」がそのまま含まれている。
インターネット及びスマートフォンが普及した事で常に情報や刺激が自分の意識の中に飛び込んでくるのが現代社会である。
動画配信サイトで1本の動画を視聴すればオススメ動画が新たに表示される。
通販サイトで購入すると「この商品を買った人はこの商品も買っています」と新たに商品ページが表示される。
このアニヲタWiki(仮)も左列には新規項目や更新された項目が並んでいる。
飛び込んでくる大量の情報を処理する過程で発生する混乱という、誰でも少しは感じたことのあるストレスもテーマの一つとなっている。
監督自身がADHD(注意欠如・多動性障害)を診断されており、明言されてはいないが主人公のエヴリンにもその傾向がある(母親及び経営者として常にキャパオーバーなマルチタスクを強いられているというのもあるが)。
視聴して「情報が多すぎて処理が追い付かずに混乱する」という感想を抱くかもしれないが、その感想がそのまま情報の処理が追い付かずに苦しんでいるエヴリンの心境と重なる構図となっている。
さらに、もう一つ挙げられる大きなテーマは「マルチバースによってifの世界を観測した事で発生する虚無感」である。
ある人物がifの世界……入試や部活、進学や就職活動、結婚といった人生の分岐点で違う選択肢を選んだ場合の道を観測したとして、その自分が今よりも成功しているか、それとも失敗しているか、優劣を比較してしまうのは人の心理として避けられない事である。
「あの時ああしておけばよかった」「もしもあの時に戻ってやり直せるなら」と過去や未来を考えているうちに現在の自分を見失う、自分の存在と価値観が揺らいで全てが無意味に思えてしまうという普遍的なテーマも含まれている。
もちろん、マルチバースは創作物にのみ存在する概念であり、現実ではありえない。だが現代社会には近いコンテンツが存在する。SNSである。
かつては芸能人、アーティスト、スポーツ選手といった著名人はマスコミによって日常が報道されていた。
だが、現在では一般人もSNSで自分の生活を発信しており、他者は閲覧する事が出来るようになった。
マルチバース程の解像度はなくとも、他人と自分を比べてしまう事での劣等感や、多数のアカウントを閲覧する事で自分がいてもいなくてもどっちでもいい存在に思えるという、ある種の虚無感を抱く事もあるのがSNSの側面でもある。
ハチャメチャでカオスな内容の映画ではあるが、テーマは誰にでも当てはまる普遍的なものだったりする。
※あくまでも多く挙げられる感想を大雑把にまとめた解説で、これが正解という考察ではないので注意。それほどまでに詰め込まれている映画でもある。
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場面によって画面比がビスタとシネスコに切り替わる方式を採用しているため、IMAXまたはビスタサイズのスクリーンでの鑑賞を推奨する声も少なくなかった。
ちなみに日本では字幕版のみで公開。
英語・中国語・広東語・北京語と劇中で使用されている言語が多岐にわたる為、字幕なしで視聴するのは困難である。
なお映画としては低予算の部類。CGは専門の会社ではなく少数のチームで制作されているが、俳優の演技にシンクロさせる事で宇宙から別の宇宙へのジャンプをシームレスに描いている。
あらすじ
コインランドリーを経営する中年女性のエヴリン。店舗の経営状況は悪化しており、確定申告が終わらなければ店を差し押さえされるピンチであった。
その確定申告の期限日と春節のお祝いパーティの日が被ってしまい、大忙しの一日が始まった。
やっとのことで朝の仕事を終えた後、夫と一緒に税務署に向かうエヴリンだったが、突如として夫のウェイモンドが人が変わったかのように性格が変わって妙な事を喋りだす。
「僕は別の宇宙から来た僕だ。宇宙に危険が迫っている」「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」
突然かつ突飛すぎる言動に混乱するエヴリンだが、否応なしにマルチバースを行き来するかつてないカオスな戦いに身を投じる事になる。
登場人物
日本語吹替は映像ソフト版より。
演:ミシェル・ヨー/吹き替え:塩田朋子
コインランドリーを経営する中年女性。
経営はギリギリで、確定申告を乗り越えられるかの瀬戸際。
父親には広東語、夫には北京語、娘には英語と中国語で話している。
ミシェル・ヨーは本作において主演の他にエグゼクティブプロデューサーも兼任した他、第95回アカデミー賞ではアジア系初となる主演賞を獲得した。
演:キー・ホイ・クァン/吹き替え:水島裕
エヴリンの夫。エヴリンと駆け落ちする形でアメリカに渡った。
優しい性格だが仕事の要領は悪く、エヴリンをイライラさせる場面が多々ある。
演じたキー・ホイ・クァンは過去に『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『グーニーズ』に
子役として出演していたが、映画製作に興味を抱いた事や、アジア系俳優が演じられる役の少なさから俳優業を休止していた。
そして『
X-MEN』の武術指導アシスタントや『2046』の助監督を経て、本作が本格的な俳優復帰作となり、第95回アカデミー賞にて自身初&アジア系俳優では38年ぶりとなるオスカーに輝いた。
演:ステファニー・スー/吹き替え:
種﨑敦美
エヴリンとウェイモンドの娘。
同性愛者であり、女性を恋人として連れてくるも認めてくれない両親に不満を抱いており、家族仲は悪い。
なお、企画立ち上げ当初は『オーシャンズ8』『
シャン・チー/テン・リングスの伝説』に出演する事になるオークワフィナが演じる予定だったが、スケジュールの都合でステファニー・スーに変更された。
演:ジェームズ・ホン/吹き替え:佐々木睦
エヴリンの父親。昔気質で気難しい性格。
駆け落ちしたエヴリンを勘当していたが、春節のお祝いということで中国から飛行機でやってきて、エヴリンの家に滞在している。
若干だが認知症に近い状態で、エヴリンが介護を強いられている。
演:ジェイミー・リー・カーティス/吹き替え:幸田直子
IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁。いわば税務署)の監察官。
エヴリンの経営するコインランドリーに目をつけており、確定申告に不備があった場合は差し押さえも辞さない構えを見せている。
ただし、税の取り立てという職務に忠実なだけで決して悪人ではなく、差し入れのクッキーにお礼を言ったり、再提出の機会と時間を与えるなど良識的な人物。
(私物のカラオケ機材を店の経費として勘定しようとしたり、大量の書類をちゃんと整理せずに期限ギリギリに提出するエヴリンにも問題がある。)
演じたジェイミー・リー・カーティスは本作がアカデミー賞初受賞作となった。
演:ハリー・シャム・ジュニア/吹き替え:武内駿輔
別の世界でエヴリンと共に働くシェフ。
演:タリー・メデル
ジョイのガールフレンド。優しく社交的な性格。
用語説明
いわゆる並行世界、並行宇宙の概念。
初めて他の世界に干渉する技術を開発し、実行した世界。いわばマルチバースにおける全ての始まりとなった世界。
別の世界に接続して知識や記憶、技能をダウンロードして自身にインストールする手法。
格闘技を習得した自分がいる世界に接続すれば、華麗な格闘技を繰り出す事が可能となる。
発動するためのトリガーは「普通ならやらない奇妙な行為をする事」。
具体的には「靴を左右逆に履く」「紙を使って指の股4か所に切り傷をつける」など。
例を挙げると、エヴリンがウェイモンドと駆け落ちをせずに故郷に残る選択肢を選ぶ事によって分岐した世界では……
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ネタバレ注意 |
チンピラに襲われ乱暴されそうになったエヴリン。だが通りかかった功夫少女に助けられた事を切っ掛けに、自身も武術を学ぶ道を選ぶ。
武術を習得したエヴリンは格闘技の道からアクション俳優としてステップアップし、やがては世界的な映画スターとして大成していた。
エヴリンが順風満帆の成功者として輝いている世界と言える。
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その他にも……
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ネタバレ注意 |
料理人として華麗に包丁を振るうエヴリン。しかし新人シェフが更に華麗な包丁さばきを披露して好評を博しており、自身は落ち目となっていた。
コインランドリー経営者よりはマシだが、映画スターの世界と比べればやや格落ちする世界と言える。
指が ソーセージとなった状態のエブリン。こちらの世界ではディアドラと恋人同士の関係になっている。
なお、この世界では紀元前1000万年前にソーセージ指の猿が本来の猿を打倒して種族を繁栄させた事で、全人類の指がソーセージと化したとされている。
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マルチバースにおける最大の脅威とされる謎の存在。全ての世界を抹消するのが目的とされる。
オマージュが満載の本作において全くそういった要素が存在しない、完全にオリジナルの存在である。
ジョブ・トゥパキが作った「マルチバースの情報を全て載せたベーグル」。
ブラックホールを思わせる真っ黒なベーグルであり、全てのマルチバースを消滅させるだけの力を持ってしまった。
なお「Everything Bagel」は実在する料理で、ゴマやガーリックチップなど、様々な香辛料をまぶしたベーグルの事。日本語に訳すとすれば「全部乗せベーグル」である。
ウェイモンドが面白がってそこらに張り付けているシール。
エヴリンは辟易しており、(イライラしている時だったとはいえ)剝がして投げ捨てている。
追記・修正は奇妙な行動を取ってバースジャンプしてからお願いします。
- 👀 -- 名無しさん (2023-04-13 08:40:17)
- ディアドラのトロフィー変な形と思ったらあれだよ -- 名無しさん (2023-04-13 09:31:37)
- いろいろ賛否あるみたいだけど個人的にはめちゃ面白い作品でした。混乱と笑いとヒューマンドラマがどんどん押しかけてくる感じが面白かった。ただ好き嫌いが分かれるってのも分かる。 -- 名無しさん (2023-04-13 09:42:46)
- 『RRR』と被った要素って何だ? -- 名無しさん (2023-04-13 11:03:28)
- ↑肩車部分 -- 名無しさん (2023-04-13 11:34:22)
- あらすじ読んでもどんな内容なのかさっぱり分からん -- 名無しさん (2023-04-13 13:57:19)
- 絶賛する人もいるしキツくて途中で帰ったって人もいる不思議な映画 -- 名無しさん (2023-04-13 15:34:42)
- 色々とぶっ飛んでてカオス(いい意味で)なのに、不思議と泣けるんだよなあ。ほんと唯一無二だと思う。 -- 名無しさん (2023-04-13 15:46:24)
- 旦那の切り替わりの演技本当に凄かった。顔が全く違うんだもん -- 名無しさん (2023-04-13 15:57:44)
- マルチバースの行き方見つけたエブリンって娘を廃人にしまマッドなんだよね -- 名無しさん (2023-04-13 16:58:02)
- 正直この記事を見ても何が面白いのかわからんな -- 名無しさん (2023-04-13 18:53:13)
- キャッチコピーがあかんわ。そのキャッチコピーとミシェル・ヨーならそういう映画だと期待していったのにカンフーはほんまはチョロっとだし -- 名無しさん (2023-04-13 20:11:43)
- とりあえず記事作った人は大絶賛だったんだろうなってのは伝わってくる。 -- 名無しさん (2023-04-13 20:13:10)
- 個人的には何年に一度って位の満足だったけど、好き嫌いは別れるだろうなってのも解る。けど、『賞レース取ったのはポリコレに配慮したから』って人は流石に毒され過ぎ。 -- 名無しさん (2023-04-13 21:56:52)
- 指がソーセージの記述はないんですか? -- 名無しさん (2023-04-13 22:37:51)
- ミシェル・ヨーが声あててたミニオンズフィーバーで目玉シール付いた石が出てきてたけど、流石にそこはオマージュじゃなくて偶然だったのかな -- 名無しさん (2023-04-13 22:40:10)
- 映画の好みに好き嫌いはあれど本国含め好意的評価が多い中、日本では賛否両論がここまではっきり分かれたのは興味深い -- 名無しさん (2023-04-13 23:02:21)
- 個人的には結構好きだったよ。同じマルチバース題材の直近映画だとアントマンより気に入った -- 名無しさん (2023-04-13 23:42:06)
- 割りと日本だとマルチバースがあまり馴染みがない…と同時に解ってる人はそこにばかり目が行ってるって感じがある。 -- 名無しさん (2023-04-13 23:47:12)
- やってることはボーボボのハジケバトルと同じで延々と「5メガネ!!!!!」「なんの!!わりばし!!!!!」を繰り返してるようなもん。だからこそアカデミー席巻した時はマジか…ってなった。世界がハジケリストに乗っ取られている -- 名無しさん (2023-04-14 09:04:37)
- マルチバースもの見てると襲われる虚無主義的な感情に対する答えを得るまでをボーボボやりながらヒューマンドラマやってる感じ -- 名無しさん (2023-04-14 23:13:41)
- つまりどういう事?マルチバースの情報が乗ったベーグル!?...食えばいいのか?それとも捨てればいいの?分からんが兎も角、コメント欄に「ボーボボ」とある時点で理解は出来ないと分かった(笑) -- 名無しさん (2023-04-15 09:14:23)
- ディルドでカンフーするアクションなんてこの映画ぐらいだよ!! -- 名無しさん (2023-04-15 21:07:57)
- 個人的には、まだカオスが足りないというか、もう少し振り切れて欲しい感じがあったというか…家族愛要素とか心温まるヒューマンストーリーとかが、泣ける人には泣けるけど個人的にはノットフォーミーだったかな…ディルドのくだりは笑えたんだけど、ボーボボ観に行ったつもりが真面目にシリアスやってて「スンッ」てなる感じ。スープに味があんまりなくてただパンチの効いた刺激だけがある、一昔前の辛ラーメンみたい。カオス摂取しながら感動したい人には向いてるかも。 -- 名無しさん (2023-04-18 00:01:24)
- ミシェル・ヨーはジャッキー・チェンが「自分の見せ場を食ってしまう」と恐れて一回のみの共演に留めた大物だけど、ガチでレジェンド女優になってしまったなぁ。 -- 名無しさん (2023-04-18 13:30:12
- 混沌としてたなぁ、映画版のクレヨンしんちゃん -- 名無しさん (2023-04-24 00:09:02)
- でパロディとかやってほしい、みさえ主人公で…しんのすけが同性愛者になるけど! -- 名無しさん (2023-04-24 00:10:08)
最終更新:2024年09月05日 23:03