◆今日(2024.11.15)の朝日新聞の「ひと」欄で、バラの育種家・木村卓功(きむらたくのり)が紹介されていました。多くの人がバラに関心を持つきっかけになるでしょう。ただ、本当は、土曜日発行「be」の「フロントランナー」で、より詳しく取り上げてほしかったと思います。木村は、まさしく、バラの育種のフロントランナーですから。
◆木村はロサ・オリエンティス(ラテン語で「東洋のバラ」という意味)というブランドから耐病性の高い新品種を数多く世に出していますが、バラという植物はもともと高温多湿の環境が苦手です。すぐ病気になったり、害虫の被害にあったりします。ヨーロッパとは異なる高温多湿の日本で、耐病性が高く、美しく、香りのよいバラの育種に取り組むのは、並大抵のことではありません。そのことを、朝日新聞の編集部や担当記者は十分に理解していなかったようです。理解していれば、「フロントランナー」で紹介したでしょう。
◆以前「バラのグローバリゼーション」という記事でも少し触れましたが、現在、耐病性の高いバラが次々と生まれています。その育種の先頭を、日本の木村卓功とドイツのコルデス社が走っているのです。木村やコルデス社などのおかげで、「バラを育てるのは難しい」という、今までの常識は変わってきています。4,000年に及ぶバラ栽培の歴史の中で、耐病性の高い品種の普及という新たなエポックが生まれつつあると言っても過言ではありません。
◆園芸や作庭は、したがってバラの育種や栽培も、文化にほかなりません。画家ボッティチェリの描いた「ヴィーナスの誕生」を見ると、そのことが端的にわかります。もともと古代ギリシアで「愛と美の女神アフロディテ(ヴィーナス)の花」となったバラは、ルネサンスでヴィーナスとともに復活しました。絵画「ヴィーナスの誕生」をよく見ると、向かって左側にたくさんのバラが描かれているのがわかります。またヨーロッパにおける庭づくりは、ルネサンスから盛んになりました。現在日本語の中に定着しているガーデニングという語は、16世紀後半のイングランド(エリザベス1世やシェイクスピアの時代)で使われ始めました。
◆朝日新聞に限りませんが、メディアは文化を広く深く捉えて、取材してほしいものです。来年5月には、「世界バラ会議」が広島県福山市で開かれます。充実した報道がなされることを期待しています。