青森の豊かさ徹底追求、創刊半世紀の季刊誌 「土臭い、地味な雑誌」のスタイル一貫
青森県内の話題を主に紹介する季刊誌「青森の暮らし」は2025年1月が前身の創刊から50年の節目だ。「地域の暮らしの豊かさを掘り起こし、追求するのが役目」と編集長の下池康一さん(74)。出版業界が活字離れや電子媒体の普及による部数の伸び悩みに苦しむ中、地元へのフォーカスが半世紀の発行を支えた。(共同通信=遊佐直子)
1975年1月に発行元の社名と同じ「グラフ青森」として創刊し、2009年から現在の名前へリニューアル。県内各地の祭りや郷土の味覚、自然などを取り上げる。近年は単行本の制作にも力を入れ、県内の書店を中心に人気を集める。
下池さんは創刊間もない時期から携わる。東京の大学を卒業した当初は農林水産業関連の出版社に勤務。農家や漁師を一軒ずつ回って話を聞く中で生産者の考え方や土地の動き、歴史が見えてくるのに面白さを感じた。北海道や大分県で4年間働いた後、Uターンしてグラフ青森に入った。
下池さんによると、1980年代後半に青森市内だけで7社ほどあったタウン誌の出版社は現在3社。先行きを危ぶまれたのはグラフ青森も例外ではない。こだわってきたのは流行の店や食べ物を追うのではなく、地域に向き合ってじっくりと深掘りする姿勢。自ら「土臭い、地味な雑誌」と話すスタイルを貫く。
インターネットが普及していない頃、県内の温泉だけをまとめた単行本は1万5千部の好評に。観光ガイドのように本を手にしながら湯巡りをする人もいたという。津軽地方の伝統的な汁物「けの汁」など郷土の家庭料理や特産品の調理方法を紹介するレシピ本も5作続く人気を博し、読者に愛されるシリーズを生み続けている。
企画は社員6人全員が出し合う。大切にするのは「こんな本があったらいいな」という読者としての目線。以前はパティシエだった編集者の織田千花子さん(40)は「無理に都会へ寄せたものじゃなく、青森だからこそできるものを作りたい」と話す。
民俗的な歴史資料として次世代に残していくだけでなく、取材先同士をつなげた新たな企画ができないかと模索中だ。下池さんは「お金じゃない豊かさがたくさんある。地方の人口は減ったとしても、人の魅力は変わらずあるからね」とほほ笑んだ。