1日33万人超の感染者急増……追い詰められるインドの病院

動画説明, ベッドと酸素が不足……インド・デリーの病院で

インド政府によると、新型コロナウイルスの新規感染者が24時間で33万人以上に達し、世界的に過去最多となった。感染拡大の深刻な第2波のため、各地の病院で病床や医療用酸素の不足が深刻化し、医療体制は逼迫(ひっぱく)している。

インド政府は23日、24時間で33万2730人の新規感染が確認されたと発表した。2日連続で、世界最多となった。死者は24時間の間に2263人に上った。

病床と医療用酸素の不足から、病院に搬送されても受け入れ不能で帰されたり、何時間も治療を受けられない患者が相次いでいる。ベッドが使えるだけでも幸運とさえ言われるようになった。

各地の火葬場では、集団火葬が行われている。

酸素危機

首都デリーにあるサー・ガンガ・ラム病院のアトゥル・ゴジア医師はBBCに対して、患者急増のため救急外来は満員だと話した。

「酸素供給口がそんなにたくさんない。どこにあっても、常に使われている。次々とやってくる患者さんの中は、自分の酸素ボンベを持ってくる人もいる。持っていない人もいる。助けてあげたいけれども、ベッドが足りないし、たとえ酸素があったとしても供給口が足りないので、酸素吸入ができない」

「電話回線はパンクしている。ひっきりなしにヘルプラインにかかってくる。病院の外もラッシュ状態で、救急車が何台も停まって患者は降りたがっているが、受け入れる場所がない」

「総動員で取り掛かって、容体の安定した患者さんをできるだけ早く退院させて次の患者さんをもっと受け入れたいが、今は厳しい状態だ」

動画説明, 医療用の酸素はどこから来るのか

医療用酸素は、空気を圧縮と冷却することで酸素、窒素、アルゴンに分離し、採取した酸素を液化ガスとして保存する。液化酸素は気化設備を使って気体に戻し、患者に供給する。

空軍が酸素運搬に協力

インドで特に被害が深刻なマハラシュトラ州では23日、州都ムンバイの病院で新型コロナウイルス感染症COVID-19の集中治療病棟で出火し、少なくとも13人が死亡した。その2日前には同州の別の病院で、人工呼吸器への酸素供給が酸素漏れのため絶たれて、感染患者24人が死亡した。

首都デリー周辺で民営病院10カ所を運営する医療法人マックス・ヘルスケアは、2カ所の病院で1時間以内に酸素が枯渇するという「SOS」をメッセージを発信。この不足は後に解消された。

ほかにも、グジャラート、ウッタルプラデシュ、ハリヤナの3州で、酸素不足が深刻となり、インド空軍が協力して酸素を国内各地へ輸送している。

Mass cremations at a crematorium ground in Delhi (22 April)

画像提供, Reuters

画像説明, 新型ウイルスによる死者急増で集団火葬が行われている。写真はデリーの火葬場(22日)
Worker arranges oxygen cylinders for transport to hospital in Hyderabad, India (23 April)

画像提供, Getty Images

画像説明, 病院へ運ばれる酸素ボンベを点検する作業員(23日、ハイデラバード)
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なぜ感染者が急増

インドでは、ウイルスの二重変異が確認されたほか、マスク着用が徹底されないなど感染対策の緩みなど、複数の要因が重なり合い今回の深刻な感染第2波につながったといわれている。

13日には北部ウッタルプラデシュ州アラハバード、ヒンドゥー教の祭典「クンブメーラ」に数百万人が参加し、ガンジス川で沐浴(もくよく)した。クンブメーラが行われたハリドワル市を訪れていた66歳の映画作曲家シュラヴァン・ラソド氏は、地元に帰宅後に感染が確認され、22日に亡くなった。

3月には、新型コロナウイルスの「二重変異株」が確認されている。1つの新型ウイルス変異株の別々の部分で、2つの大きな変異が見つかったことを意味する。

インド国立疾病管理センターのスジート・クマル・シン所長によると、二重変異株のほか、パンジャブ州ではイギリス型の変異株が主流となっている。またマハラシュトラ州と首都デリーでも、イギリス型の感染が目立っているという。

東部コルカタ市の救命救急専門医、サスワティ・シンハ医師は救急外来も病棟も満員だと話した。

「患者や知り合いや隣近所の人たちが、私たちに直接電話してくる。お願いだから、自分の家族や親類を入院させてくれと。しかし残念ながら現状では、私たちがどれだけ最善を尽くしても、受け入れられない患者さんがとんでもなく大勢いる」

「救急医療に関わって20年だが、こんな事態は見たことがない」と、シンハ医師は強調した。

インドのナレンドラ・モディ首相は23日、特に感染被害が甚大な地域の首脳や医療用酸素メーカー各社と対応を協議。各州政府に協力し合い、酸素をためこんだり、「闇市」での非正規売買にかかわらないよう要請し、政府として産業用酸素を医療用に転用できるか検討していると話した。

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<解説> 制度そのものの崩壊―――スティク・ビスワス、BBCオンライン・インド特派員

ここ数日というもの毎朝、助けてほしいというメッセージで目が覚める。

私のスマートフォンを鳴らす人たちは、病院のベッドや助かるための治療薬を求めている。感染した友人や親類のために。酸素や血漿(けっしょう)を求めている。

往々にしてしばらく連絡が途絶えた後、その同じ人たちは自分の「患者」が死んだと連絡してくる。私のツイッターのタイムラインは、まるでインドのCOVID-19作戦司令室だ。国家はほとんど打ちしおれて姿を消してしまった。

患者の命を救うために必要なあらゆる必需品が不足しているか、闇市場で手に入る。加えて、文字通り「玄関先」までウイルスが迫ってくるという恐怖もある。過去3週間の内に、私が住むゲート付き住宅地の中で3棟の建物が「感染封じ込めゾーン」になった。感染者が増えすぎた高層住宅がいくつも丸ごと封鎖されているのだ。

私たちの毎日は日夜、無力感と不安感と恐怖にあふれている。悪い知らせは容赦なく相次ぐ。

インドの最高裁は現状を「国家的緊急事態」と呼んだ。しかしこれは緊急事態どころではない。国内有数の免疫学の専門家は「制度そのものが完全に崩壊」していると呼んだ。デリーやムンバイなどのホットスポットでは、今や生きているだけでも恵まれている。生はいまや特権なのだ。