ドイツ、ワクチンの特許放棄に反対 知的財産の保護主張
新型コロナウイルスワクチンを途上国に広める目的でワクチンの特許を放棄することについて、ドイツ政府は6日、特許がワクチンの生産を妨げてはいないとして反対の姿勢を示した。
ドイツ政府は「知的財産の保護は技術革新の源泉であり、今後もそうありつづけなければならない」とした。
新型ウイルスワクチンの知的財産権の放棄は、インドと南アフリカが世界貿易機関(WTO)で提案したもの。両国は約60カ国とともに、世界中のワクチン生産量を拡大できるとして、過去半年間にわたりワクチンの特許の無効化を求めていた。
5日には、アメリカ政府がこの提案への支持を表明した。
欧州連合(EU)は先に、特許放棄について協議する用意があるとしていた。一部加盟国は全面的な支持を示した。
賛成派は特許放棄によって、より多くのメーカーが新型ウイルスワクチンを生産できるようになり、貧困国で予防接種にアクセスできる人が増えると主張している。
一方で医薬品メーカーなど反対派は、期待するほどの効果が得られない可能性があると主張している。
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インドと南アフリカの提案をめぐっては、アメリカのドナルド・トランプ前政権やイギリス、欧州連合(EU)から強い反発があがっていた。
しかし、トランプ氏の後任のジョー・バイデン政権が5日に支持を表明したことを受け、提案を後押しする気運が高まった。
WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長はBBCの番組ニューズアワーで、アメリカの支持を歓迎すると述べた。そして、現在の不公平感は「正しくない」とし、加盟国はワクチン生産に関する現実に即した合意に至るよう交渉すべきだと述べた。
オコンジョ=イウェアラ氏は現場で必要な原材料や技術的な専門知識が不足していることを認めたうえで、世界のワクチン供給量を増やすにはとにかく取り組みを始める必要があるとした。
こうした中、ドイツのイェンス・シュパーン保健相はアストラゼネカ製ワクチンについて、全成人への接種を認めると述べた。同国は当初、同ワクチンを接種した人の一部に血栓がみられたことを受け、接種対象を60歳以上に限定していた。
ドイツの主張
ドイツ政府は6日、声明を発表し、アメリカが支持する提案は「ワクチン生産全体に大きな影響を与える」と主張した。
同政府は「ワクチン生産を制限するのは生産能力と高い品質基準であり、特許ではない」とし、製薬会社はすでに関係各所と連携して生産を強化していると述べた。
ドイツはEU最大の経済大国であり、最も広く使用されている新型ウイルスワクチンの1つを開発した製薬会社ビオンテックなど、主要な製薬部門が集まっている。
今回のドイツ政府の表明は、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が特許放棄に関する提案について「議論する用意がある」と発言したことを受けたもの。
フォン・デア・ライエン氏はこれまで、知的財産権の放棄に反対の立場を表明していた。わずか数週間前には米紙ニューヨーク・タイムズに対し、「特許放棄には全く賛成できない」と述べていた。
各国の反応
一方、フランスやイタリアなど他の加盟国はこの提案を全面的に支持した。
特許放棄については、今週2日間の日程で行われるEU首脳会議で議題にあがると報じられている。
欧州以外では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も支持を表明した。
イギリス政府は「問題解決のためにWTO加盟国と連携している」とし、新型ウイルス感染症「COVID-19ワクチンの生産と供給の増加を促進するため、アメリカとWTO加盟国と協議している」と明らかにした。
貧困国のワクチン不足
多くの発展途上国は、特許や知的財産の保護を義務付ける規則が、パンデミックに対処するのに必要なワクチンやその他製品の生産拡大を妨げていると主張している。
低所得国が深刻なワクチン不足に直面する中、ワクチンの特許放棄を求める声が上がっている。
一方で、製薬業界を中心とした反対派は、特許放棄ではこの問題は解決しないと主張している。
国際製薬団体連合会(IFPMA)のトマス・クエニ理事長はBBCのラジオ番組「トゥデイ」で、「現在のようなワクチンの品質と安全性を損なうことになるのではと深く懸念している」と述べた。
「対処すべきはサプライチェーンにおける不足や欠乏だ。また現在、富裕国が貧困国へのワクチンの早期分配に消極的であることも残念だ」
実際に有益な効果を得るには、製薬会社が生産技術などのノウハウを貧困国と共有する必要があると指摘する専門家もいる。