W杯でイラン政府に抗議、政府支持派と会場で対立
ナディーム・シャド、BBCニュース
中東カタールで開かれているサッカーのワールドカップ(W杯)会場で、イラン政府による女性弾圧に抗議する人たちと、政府支持者たちが衝突している。イラン国内では、政府を批判した元代表選手が逮捕されている。
25日のイラン対ウェールズ戦の会場となったアフマド・ビン・アリ・スタジアムでは、イラン政府に抗議する人たちが旗を奪われたり、怒鳴られたり、嫌がらせを受けたと話した。イラン政府に抗議する人たちが手にしていた、イラン革命以前の旗を、政府支持者が取り上げたという。
イラン政府を批判する内容のTシャツなどを、会場警備員が取り上げることもあったとされる、イランでの反政府デモの合言葉になっている「女性、命、自由」というフレーズが書かれたTシャツを着た人たちを、政府支持者たちが罵倒することもあったという。
イラン国内で続く反政府抗議は、今年9月に首都テヘランでクルド系のマサ・アミニさん(22)が頭髪を覆うスカーフを適切に着けていなかったとして、いわゆる道徳警察に逮捕され、数日後に亡くなったことがきっかけだった。各地のデモで多くの若者が政府当局の鎮圧で死亡。逮捕者への死刑判決も相次いでいる。
こうした状況で25日の試合会場にいたイラン人女性の1人は、イランの治安当局に殺された抗議者たちの名前を腕や胸に書いていたところ、政府支持者のクレームを受けて、カタール警察に腕や胸を洗うよう命令されたと話した。
アミニさんの顔が描かれたTシャツを、スタジアム内で着ることを禁止されたという女性もいる。
国内の反政府抗議について外国メディアの取材に答えるイランの女性たちが、男性グループに嫌がらせを受ける様子も、目撃されている。男たちは、女性たちを罵倒し、「イラン・イスラム共和国」と連呼したり、女性たちを携帯電話で撮影したりしていた。
試合は、イランが2-0でウェールズに勝った。キックオフ前にイラン代表選手たちが国歌を斉唱すると、スタンドからはブーイングややじの口笛が響いた。21日の対イングランド戦では、イランの代表選手が試合前に国歌斉唱を拒否。イラン国内での反政府デモへの連帯を示す行動と受け止められた。
元代表選手が逮捕
25日の試合会場には、元イラン代表のDFヴォリア・ガフーリ選手の名前が書かれた帽子をかぶる人たちもいた。
イラン政府を批判してきたガフーリ選手は24日にイラン国内で、「プロパガンダ拡散」の疑いで逮捕された。
イラン代表として国際大会で28試合に出場してきたガフーリ選手は、2018年のW杯にも代表選手として出場。そのため、今大会で代表チームの選出から漏れたのは、大勢にとって予想外だった。
ガフーリ選手は、国内で有名なクルド系イラン人の一人として、クルド系国民の権利擁護を強く主張してきた。
国連の人権理事会は24日、特別会合を開き、イラン当局による抗議デモ弾圧など、イラン国内の人権状況を調査するため、調査団を設置する決議案を採択した。
国連は、イランはすでに「完全な」危機状態にあり、これまでの9週間ですでに300人以上が死亡し、1万4000人が逮捕されたと指摘した。
これに対してイラン政府は「傲慢」な政治的策略だと批判した。