【解説】 今度はロシアがプレッシャーを感じている番か

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ポール・アダムス外交担当編集委員
アメリカのマルコ・ルビオ国務長官の言うとおり、「ボールは今、ロシア側のコートにある」。これは重要な瞬間といえる。
サウジアラビア・ジッダでの長い協議の末に、アメリカとウクライナが11日に発表した共同声明には、いくつかの大事な文言が含まれている。とりわけ重要なのが、「アメリカはロシアに対し、ロシアがこれに応じることが和平実現の鍵だと伝える」という一文だ。
私たちはここ数週間、アメリカのドナルド・トランプ大統領がウクライナに何を期待し、ウクライナを意のままにするためにどんな露骨な手段を使うのか、しばしば耳にしてきた。
そして今度は、世界が見守る中で、ロシアの意図が試される時が来たようだ。
トランプ氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の関係は、これまでのところ不確実性に包まれている。トランプ氏がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対してかけているような圧力は、米ロの間には見受けられない。
11日の米・ウクライナ共同声明は、トランプ氏が突然、ゼレンスキー氏への態度を変えたと示してはいない。両氏の関係はとげとげしく厄介なもので、その根底には長年の相互不信がある。
だが、11日前の米大統領執務室での険悪な会談によって垂れ込めた醜悪な雲は、平和構築への現実的な動きが始まったことで、消散し始めるのかもしれない。
アメリカは、ウクライナへの情報提供と安全保障面での支援を、直ちに再開することになった。停止はわずか数日で終わる。これにより、今度はロシアがプレッシャーを感じているかもしれない。
取り組みはまだ始まったばかりだ。大量の詳細要素が、今後の交渉で詰められる。
今回の共同声明は、戦争の永続的な終結に関する「実質的な詳細」と、ウクライナが「長期的な安全と繁栄のために」期待できる保証について記している。
一方で最後の段落の文言は、ワシントンの見解を反映したものとなっている。安全と繁栄は、ウクライナが求める具体的な軍事面での保証ではなく、交渉を重ねてきた重要な鉱物資源の取引をまとめることで達成される――というものだ。
共同声明は、ゼレンスキー氏とトランプ氏が「できるだけ早く」取引に合意することで一致したとしている。純粋に商業的な取り決めが将来、ロシアの敵対的な行動をどうやって防ぐのかは、まだ具体的に示されてはいない。
共同声明はまた、「和平プロセスに欧州のパートナーたちが関わること」を、ウクライナ代表団が「再確認した」としている。だが、アメリカが欧州による関与の可能性をどうみているのかは明らかにしていない。
サウジアラビアでの会合は、最近の激しい動きに続く、格好のタイミングでのリセットのように思われる。しかし、だからといって、アメリカとウクライナが今後の進路について完全に一致したわけではない。
ゼレンスキー大統領はトランプ氏について、たとえ以前は考えを固めていなかったとしても、今やはっきり認識しているはずだ。自分が相手にしているのは気まぐれで激しやすく、過去の忠誠や伝統的な外交にほとんど意味を見いださないアメリカの大統領なのだと。
ゼレンスキー氏は、ボールをロシアのコートにとどめようと、できるだけのことをするだろう。だが、自分のコートにボールが戻ってきてしまう可能性があることも、彼は理解している。