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イスラエルによるガザへの地上侵攻はどのように、過去の事例を振り返る

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イスラエル軍の砲撃によって破壊された建物のがれきの中で救助作業を行うパレスチナ人や救急隊=10日、パレスチナ自治区ガザ地区のハンユニス/Said Khatib/AFP/Getty Images

イスラエル軍の砲撃によって破壊された建物のがれきの中で救助作業を行うパレスチナ人や救急隊=10日、パレスチナ自治区ガザ地区のハンユニス/Said Khatib/AFP/Getty Images

エルサレム(CNN) 「伏せて!」。救急車がイスラエル側の検問所に近づくと、前方に座っていた救命士が声を潜めて叫んだ。

フロントガラス越しに道路脇の戦車が見えた。車が近づくと、警戒したイスラエル兵士が銃を構えた。

時は2009年1月。CNN取材班は救急車の車列に乗り込み、海岸沿いにガザ地区南部のラファからガザ市内へと向かっていた。車内の担架に身を隠すことを条件に、救命隊は取材班の同乗を許可した。

当時はイスラエルが「キャストレッド作戦」と名付けた軍事作戦の真っ最中だった。これを皮切りに12年、14年、21年、22年と、イスラエルとガザの間で短期・長期の紛争がたびたび勃発することになる。現在進行中の作戦以前の今年5月にもガザへの攻撃が行われていた。

兵士は先頭車両の救命士と短く言葉を交わした後、内部を点検することもなく車列を通過させた。

イスラエルがここまでガザ市内に侵攻したのは05年にガザ地区から撤退して以来だった。当時イスラエル軍は建物や住民がとくに密集した地域、とりわけ人口過多の八つの難民キャンプをおおむね避けていた。中でも密集していたのがアルシャティ難民キャンプで、こうしたキャンプの細い路地に入り込むのが危険なことはイスラエル軍も承知していた。そのため都市部周辺の制圧に専念していた。

イスラエルの戦術はつねに変わらない。素早く行動し、できるだけ多くの領土を制圧しつつ、市街地や住宅エリアでの戦闘は避ける。劣勢の敵に地形の利を存分に活用させることになるからだ。だがガザ都市部での戦闘となれば、また別の要素が加わってくる。

現在、イスラエル軍はイスラム組織ハマスと交戦中だ。だがガザには複数のパレスチナ武装勢力が拠点を置いている。イスラム聖戦やパレスチナ解放人民戦線(PFLP)、パレスチナ解放民主戦線(DFLP)など、数え上げればきりがない。人員や兵器の点ではハマスには及ばないが、本気で抵抗するには十分な数だ。

筆者は08年3月、ガザへ赴いて、イスラエル軍がガザ北部へ侵攻するのを取材した。「ホットウィンター作戦」と呼ばれたこの時の攻撃は、やはりガザ地区からのロケット発射を阻止するのが目的だった。ハマスは前年に対抗派閥ファタハを同地区から追放し、ガザ地区全域を支配していた。だがイスラエル軍が侵攻を試みる地域に到着すると、イスラエル軍の部隊と市街戦を展開していたのはハマスではなく、PFLFの戦闘員だった。戦闘員は腰をかがめて路地を出入りし、RPG(ロケット推進式擲弾<てきだん>)砲やカラシニコフ銃を手に通りを駆け抜けていた。最終的にイスラエル軍は撤退したが、その後もロケット弾は鳴り響いた。

さらにさかのぼること1982年夏、イスラエルはパレスチナ解放機構(PLO)を追ってレバノンを侵攻した。この時イスラエル軍ははるばるベイルートまで進軍し、郊外で歩みを止め、包囲網の構築に乗り出した。今月7日にイスラエルのガラント国防相が発表したのと同じだ。当時でさえ、ベイルートへの侵入、それもパレスチナ難民キャンプに足を踏み入れれば、当事者全員に甚大な被害が及ぶことは分かり切っていた。

その後ベイルートは包囲され、西ベイルートはイスラエルの戦闘機や大砲の攻撃を受けた。地上部隊はベイルートに近づかなかった。

最終的に米国からの圧力で、パレスチナ戦闘員はベイルートおよびレバノンからイエメンやチュニジアなど他の地域に撤退することで合意が結ばれた。イスラエル軍の部隊がレバノン西部を制圧したのは、パレスチナ戦闘員の撤退後のことだ。それから間もない82年9月、依然として西ベイルートを支配下に置いていたイスラエル軍は当時のシャロン国防相の指揮の下、右派キリスト教民兵「カタイブ」がサブラとシャティーラの難民キャンプに入るのを許した。米国の仲介によるPLOとの合意の一環で、キャンプには戦闘年齢の男性はおらず、武器もなかったため、自衛の術がない1000人以上の民間人が虐殺された。

今月7日のハマスの奇襲を受け、イスラエル軍は現在30万人の予備役を動員。前例のない規模のガザ侵攻が行われようとしている。ガザ地区の再制圧もあるのではとの臆測も出ている。

その先に待ち受けているのは、7日の攻撃で残忍性をまざまざと見せつけたハマスだ。これほどの軍事力があるとはだれも想定していなかった。今回の戦争ではおそらく次の段階についても入念に準備していることだろう。

この1週間、イスラエルが数百回におよぶ報復攻撃を行ったことで、ガザの一部はコンクリートのがれきやねじれた金属片の荒れ地と化した。この間パレスチナ人の死者は2000人を超え、多くの民間人や子どもが命を落とした。しかも戦争はまだ始まったばかりだ。

仮に地上侵攻となれば、凄惨(せいさん)さと破壊の度合いはさらに増すだろう。イスラエル軍は、ハマスに捕らえられた女性や子どもを含む100人以上の民間人や兵士の人質がガザ地区周辺に点在していることも頭に入れておかねばならない。人質の居場所はハマスにしかわからないが、イスラエル軍がなかなか近づけない場所、おそらくは密集した難民キャンプに捕らえられているとみられる。

イスラエル上層部はハマスに決定的攻撃を与えたくてたまらないだろうが、その分、代償も高くつく。そしてその代償は全員にふりかかるだろう。

本稿はCNNのベン・ウェデマン記者の分析記事です。

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