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IPv6がIPv4よりも速い理由

北米、及びカリブと北大西洋地域のRIR(Reigional Internet Registry)であるARIN(American Registry for Internet Numbers)のブログで、「Why is IPv6 faster? (なぜIPv6の方が速いのか)」という記事が公開されています。この記事に関連する内容は、NANOG 76で「Prisoner of IPv4(IPv4の囚人)」というタイトルで発表されています(動画58分ごろからがPrisoner of IPv4です)。

ARINの記事では、計測によるとIPv6を利用した方がIPv4よりもRTT(Round Trip Time)が短くなる傾向があるとしています。さらに、それによってWebサイトなどの表示速度が上昇することでSEOとしての効果も期待できるので、Googleによる検索エンジンでの順位が上がると書かれています。

IPv6の方が「速い」とするデータ

NANOGの発表では、「IPv6が速い」と表現する根拠として、他の調査結果などを引用しています。 たとえば、2015年にfacebookが「IPv6はIPv4と比べて平均30から40%速い」と発表したことなどが紹介されています(動画18分50秒ごろ)。

facebookは、2017年の発表でも「IPv6によってパフォーマンスが15%向上、ビデオでは30から35%のパフォーマンス向上が観測できた事例もあった」と述べています。ただ、facebookの発表者は「CGNなどが原因かも知れないが、IPv6の方がパフォーマンスが良い理由は不明」としています。

Linkedinによる計測結果も、NANOGの発表で紹介されています。 Linkedinによると、ヨーロッパ(フランス)でのモバイルキャリアでのIPv6でのパフォーマンスは最大40%良い事例があることが紹介されています。 ここで使われている「パフォーマンス」が何を示しているかですが、発表スライドには「Page download improvement IPv6」とあるので、Webページのダウンロード速度に関するデータだと思われます。 Linkedinの発表では、モバイルキャリアにおけるIPv4でのTCPタイムアウトが4.6%であったのに対して、IPv6では1.6%であったともあります。 なお、Linkedinは、IPv4とIPv6でのTCPタイムアウトの差を発生させている要因に関しては不明としています。

NANOGの発表では、「IPv6の方が速い」という計測結果に対する例外として、「中国だけはIPv4の方が速い」と紹介されています。

なんで???

そこまで書いてあるものの、ARINの記事では、実際のタイトルにある「Why」に関しては明言はしていません。 初っ端から「I don’t know(知らない)」とあります。 ただ、「なぜ」に関して全く言及していないわけではなく、いくつか考えられる理由は紹介されています。

たとえば、RFC 8305やRFC 6555のHappy Eyeballsアルゴリズムによって、ユーザ側の端末がIPv6がIPv4よりも優先的に扱っている可能性が紹介されています。Android CLAT(client translation)によるNAT46がIPv4の通信性能を低下させている可能性も語られています。

IPv4の囚人

NANOG 76の発表タイトルが「IPv4の囚人」ですが、IPv4アドレス在庫枯渇問題による弊害が徐々に通信速度の変化という形で多くのユーザの通信に影響を与え始めているのかも知れません。 ARINの記事も、「IPv6が速い」というタイトルであるものの、実際には「IPv4が遅くなりつつある」ことを示唆する内容です。

IPv6普及率は徐々に上昇しています。Googleの公開している統計データを見ると、IPv6を使ってGoogleにアクセスしているユーザーの割合は、もうすぐ30%を超えそうです。

IPv6が速いかどうかという点が話題になることがありますが、IPv4と比べてIPv6が速いというのは、IPv4が遅くなることで「IPv6が速い」という状況ができつつあることが示唆される発表が徐々に増えています。IPv4が遅くなる原因としては、CGN(Carrier Grade NAT)などのIPv4アドレス在庫枯渇問題対策と同時に、Happy EyeballsなどによってIPv6を優先するためにIPv4を遅くする仕組みが使われていることが考えられます。

私も、Web運営者から「IPv6対応っていつ頃やるべき?」という質問を受けることがあるのですが、以前は、「必要になる理由ができたらで良いのでは?ただし、IPv6に関連する勉強はしておいた方が良いです」と言っていたのですが、最近は、「IPv6も対応した方が表示速度などが改善する状況が増えつつあります」と説明することが多いです。日本でも、NTTフレッツ網では、IPv4 PPPoEよりもIPv6 IPoEを使った方が通信性能が改善する場合もありますし。

IPv4の状況が悪くなればなるほど、WebサイトのIPv6対応が徐々に増えていくという状況が今後は発生するのかも知れません。

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