秋の風物詩といえば「芋煮会」です。
今年も「日本一の芋煮会フェスティバル」が盛況だったようですし、職場の芋煮会、町内の芋煮会、プライベートの仲間たちと芋煮会……と芋煮疲れの方も多いのでは?
おっと、いきなり大多数の国民を無視してしまいました。
東北では「川原などで里芋を煮て食う」という秋の習慣があり、なかでも山形は盛んで、それはもう本当に盛んで、コンビニでは当然のように薪が売られますし、前述のフェスティバルでは、ショベルカーが巨大鍋の芋煮をかき混ぜます。
そんな芋煮会ですが、じつは根深い問題を抱えています。
庄内地方と内陸地方で芋煮の具材と味つけが違う
山形県内では入れる具材と味つけにおいて相容れない勢力争いがあり、「牛肉なんて正気か?」「豚汁を食って楽しいの?」といった争いが毎年毎年、繰り広げられるのです。
庄内地方は「豚肉・味噌仕立て」で、内陸地方は「牛肉・しょうゆ仕立て」。
お互い一歩もゆずりません。
というわけで今回、両者の芋煮をつくって実食してみました。
コウモリ野郎と言われたくないので予め立場を鮮明にしておくと、私は山形の内陸地方出身なので「牛肉・しょうゆ派」です。庄内地方からの敵視は避けられませんが、これはもう仕方ありません。
こちらが庄内地方の「豚肉・味噌仕立て」の材料。厚揚げを入れるのがポイントのようです。
※細かい仕様は地域や家庭で異なります。
そしてこちらが内陸地方の「牛肉・しょうゆ仕立て」の材料。
簡単に調理できる芋煮ですが、里芋の皮をむくのはちょっと大変です。ツルツル滑ってむきにくいのです。
調理担当の妻(埼玉生まれ、埼玉育ち)は私の要望で毎年、芋煮をつくっていますが、けっこう嫌がっています。これは「他県女性と結婚した山形男あるある」でしょう。話題が狭くて恐縮です。
まずは庄内風「豚肉・味噌仕立て」芋煮をつくってみる
まずは里芋を入れて調理スタート。
沸騰したら一度お湯を捨てるかどうか等、地域や家庭によって細かいレシピの違いもありますが、基本的に火の通りにくいものから投入していって、後半に肉→味つけ→ネギでフィニッシュです。
秋晴れの下、ビールでも飲みながらできあがりを待ちましょう。
本当なら川原で薪を燃やして煮たいところですが、庭でコンロを使ってもなかなか楽しいものがありました。
この写真だと、どこの亭主関白かという感じですが、妻も楽しく飲んでおり、作業中を狙って撮影した結果です。念のため。
庄内風ならではの味噌仕立て。何やらタブーを冒しているような…。
完成しました。なかなか美味しそうな豚じr……おっと失礼、庄内風の芋煮です。
……えーとですね。正直、うまかったです。
厚揚げが効いてましたね。妻にいたっては「いつものしゅうゆ味よりこっちの方がおいしいかも」などと、きわどい発言までしていました。
私も「まさか味噌の芋煮を食うことになるとはな……」なんて思ってましたが、ふと子供の頃の記憶が蘇りました。
小学校時代は学校行事、スポーツ少年団の行事、親戚集まって……と毎年、何度も何度も芋煮をやりました。子供たちは子供たちで、大人の鍋とは別に芋煮をつくることも多く、「うちの班は味噌味にしてみよう」「豚肉にしてみよう」「クジラの皮を入れるのがポイント」と、いろいろな芋煮をつくったもので、あげく里芋をジャガイモにしたり、しょうゆと味噌をブレンドしたりと試してみたものです。
そう、豚肉・味噌仕立ては知っている味なのでした。懐かしい。
そして王道の「牛肉・しょうゆ仕立て」芋煮
次は内陸地方の「牛肉・しょうゆ仕立て」を。レモンサワーに飲み進みました。
しょうゆで味つけ。やっぱりこっちの方が馴染みがあります。
王道の仕上がりです。もうちょっと牛肉を入れて、油が浮いていてもよかったかもしれません。
あと鍋は金色のあの鍋がいいですね、やっぱ。
そして安定の美味しさでした。「そうこれこれ!」と言わんばかりの表情をご確認ください。
庄内地方の皆さんスイマセン、やっぱり芋煮といったらこっちです。豚汁と馬鹿にするようなことはしませんが、「牛肉・しょうゆ仕立て」を贔屓にすることはやめられません。だいたい「日本一の芋煮会フェスティバル」が開催されているのは内陸地方の山形市ですし、こちらが本家、メジャーであることは揺るがないのではないでしょうか。
「牛肉・しょうゆ仕立て」をとりまく東北情勢
さて他の県の芋煮は? と調べてみたら、「牛肉・しょうゆ仕立て」はまったくメジャーではありませんでした。むしろカルトです。
※秋田でも「豚肉・味噌仕立て」の場合があったり、福島では味噌としょうゆをブレンドすることもあったり、三陸地方では魚介を入れるなど、地域によって細かく差異があります。
※ドサクサで新潟県を入れてしまっていますが、新潟は東北地方ではありません。
狂信的に牛肉としょうゆ味を推し、ごく一部で盛り上がっているにすぎなかった……!?「日本一の芋煮会フェスティバル」にしたって、どこの何と比べて日本一なのか……!?
というわけで、庄内地方の「豚肉・味噌仕立て」の方が広範囲であり、全国的には一般的と言えるのでした。
しかしだからといって、今さら庄内風の芋煮にシフトすることはできません。芋煮に貴賎なし、相手の地方の歴史や風土に敬意を払いつつ、「うちの芋煮が一番」でいいんじゃないでしょうか。
以上、すっかり歯切れの悪くなった「牛肉・しょうゆ派」がお送りしました。山形の川原で撮影できたら最高でしたね。