【海の日特集 海運・造船編】ポシドニア2024 密着リポート:海運業が下支えするギリシャ経済の活況。ファミリービジネス移行期...次世代リーダーに注目
世界有数の海事都市であるギリシャの首都アテネで6月3―7日、国際海事展「Posidonia(ポシドニア)2024」が開かれた。2年に1度、造船、舶用機器や海洋技術を紹介する世界最大級の展示会。今年で55周年を迎え、28回目の今回は80以上の国・地域から2000を超える出展者が集まり、過去最大規模となった。
■苦境乗り越え船隊増
初日に行われたオープニングセレモニーには、キリアコス・ミツォタキス首相が登壇。2010年代初頭に起こったギリシャ危機によって事実上破綻した自国経済を振り返りつつ、「財政危機、地政学的な課題が数多くあったが、ギリシャ船主の開拓精神、柔軟性、順応性がギリシャの船隊規模を50%増加させることに貢献した」とし、ギリシャの海運業は国の誇りであると強調した。
ギリシャ経済は、苦境を乗り越え、回復傾向にある。米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは今年4月、ギリシャ経済の格付け見通しを「安定的」から上方に向かう可能性を示す「ポジティブ」に修正した。経済成長率は、23年は2・0%だったが、24年は2・9%に上昇する見込み。
ミツォタキス首相は、経済成長の要因として、「海運業がわが国の経済成長に150%以上貢献し、貿易収支のバランスを支えるとともに、より多くの雇用も創出している」と述べ、ギリシャ経済における海運業の重要性を改めて強調した。
インフレに伴う国民の生活費の上昇に関しても言及。最も経済的な輸送方法でエネルギー、生活物資を供給してきた海運の貢献をたたえた。ウクライナ危機に端を発した欧州のエネルギー安全保障についても、実質的にエネルギー供給を支えたのは海運業だったと説明した。
今後のギリシャ海事産業の見通しについては、船舶への電力供給に対応するための港湾インフラ整備を30年までに実施する方針を示した。グリーンエネルギーについて投資の推進や、生産・輸送・供給のグローバルチェーン構築を目指すことも伝えた。
また、ギリシャ最大のピレウス港や第二のテッサロニキ港だけでなく、イグメニッツァ港、ラブリオ港も整備し、世界を結ぶ安全な商業ハブ港を構築する考え。ギリシャ政府が支援する航路に就航する船舶を、低排出船に更新するためのプロジェクトに8000万ユーロを捻出すると述べた。
■ギャップ解消が課題
米キャピタル・リンクは6月3日、ポシドニア開幕に合わせて海事フォーラムを企画した。メインテーマは「Dashing Ahead-Leadership in Action」。海運業の各セグメント、船隊更新、新燃料、テクノロジー分野のリーダーシップについて議論した。
「TAKING GREEK SHIPPING INTO THE NEXT CHAPTER(ギリシャ海運の新たな章)」と題したパネルディスカッションでは、これまでの伝統的なギリシャ海運の経営に対し、ITやテクノロジーを基に、今までとは異なる価値観や視点で行われる、新たな会社経営とのギャップに揺れる次世代のリーダーたちに焦点を当てた。
モデレーターは、ギリシャは伝統的な結束力、適応能力を重視した経営をしてきたとした上で、厳格化する環境規制への対応やデジタル技術、後継者問題に触れた。
登壇者の一人は、ファミリービジネスとして事業を継承していく立場だったが、当初は選択の余地がなかったとしつつ、「さまざまな背景や文化を持つ多くの人々と出会うことで、この仕事に夢中になることができた。世代間の価値観の違いによる先代とのコミュニケーション、テクノロジーのギャップを埋めることが課題だ」と述べた。
世代間のビジョンの違いについて、別の登壇者は「先代は長期的な目標を設定することで、組織の価値観を理解し、組織を作り上げてきた。われわれの世代では新しいテクノロジーを熱心に受け入れ、変化に適応できるようにしてきた。これらを組み合わせることで、将来の世代に対して知恵と熱意を伝えていく」と説明した。
ある登壇者は、先代が残したものを継承する必要性に関して「成熟するにつれて、彼らとは違う自分自身の方法を模索していたことに気付く。彼らから解放されるためでもあると思うが、われわれは年を重ねて、自分の強み、弱みが何であるかを学んでいくものだ」と振り返った。