2024年は国内外で波乱の1年でしたが、2025年はさらに大きな動きが予想される「動乱の1年」になりそうです。その主たる要素は米国トランプ大統領の動きが読みにくいことです。米国第一の孤立主義と力による経済戦争の展開が米国のみならず、周辺国にも大きな波乱をもたらします。「トランプ爆弾」を中心に新年の世界経済を読んでみたいと思います。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年1月6日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
トランプの「関税」は脅しでは済まない
トランプ次期大統領はすでに貿易面で米国が輸入する品目すべてに最低10%の関税を課すといい、さらにメキシコ、カナダに対しては「麻薬と犯罪の流入」を止めなければ25%の関税を課すと脅しています。中国にも麻薬原料の対米輸出から10%の追加関税を乗せるとしています。
これが早ければ1月20日の就任式早々に実行される可能性があります。
メキシコ、カナダに対してはすでに首脳会談の場で、両国が犯罪、麻薬の持ち込みを停止すればこの関税は取りやめるとし、メキシコ、カナダ両国は対応するとしています。
しかし、麻薬の流入や犯罪者の流入は、止められるのであれば、これまでに止められたはずです。法の手をかいくぐって流入するこれらを止めることは容易でありません。
結果として、関税は「交渉手段」を超えて長期化する可能性があり、1月20日は最大のリスク日となります。メキシコ、カナダで現地生産を進める日本の自動車メーカーも含めて、1月20日に、あるいはそれを事前に宣言すればその日に世界の株価が急落する懸念があります。
現代版プラザ合意も
経済でもう1つの波乱要因は、為替です。
トランプ氏は常々「ドル高は米国産業には大惨事」との認識を示し、FRBには利下げでドル安に導くよう求めています。これに対応しなければパウエルFRB議長を解任すると脅しています。
しかし、FRBのパウエル議長は「大統領にはFRB議長を解任する権限はない。私は辞任しない。金融政策の決定に政治要因は考慮しない」と述べています。そして最近のインフレ指標の高止まりから、「利下げは急がない」「利下げのペースを見直す時が来た」と述べ、トランプ氏の期待には距離のある認識を見せています。
トランプ政策を先取りしてすでにドル高が進んでいます。
FRBの協力が得られないとなれば、トランプ氏は自らの力を行使してドル高を修正しにかかる可能性があります。
それが今日版の「プラザ合意」です。トランプ次期大統領はトランプ氏が所有するフロリダの私邸、「マール・ア・ラーゴ」に主要国トップを集め、そこで為替調節の合意形成(協調介入)に動く可能性があります。
もっとも、1985年のような国際協調の機運が乏しく、とりわけ欧州の首脳がこの呼びかけに応じない可能性もあります。その場合は、米国のリードのもと、日本、韓国など一部の「同盟国」によって、為替調節合意の形成に終わる可能性もあります。当該国が少ない分、ドルを下げるには調整幅を大きくする可能性があります。
その場合、円の対ドル相場は大きく円高に動く可能性があり、自動車や電機などの輸出企業の収益が急悪化し、新NISAで米国株投資をしている投資家は大きなロスを被るリスクがあります。
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