fbpx
  Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

「DeepSeekショック」は氷山の一角。中国の技術力を舐めすぎた欧米と日本は、ここから何度もショックを経験する=高島康司

中国の生成AI「DeepSeek」の登場が、アメリカのIT業界に大きな衝撃を与えている。低コストかつハイエンドGPUなしで開発されたこのAIは、米国の技術優位を揺るがす可能性があると見られ、ニューヨーク株式市場ではAI関連銘柄が暴落した。一部では「スプートニク的瞬間」とも呼ばれるこの事態は、単なる技術革新以上の意味を持つのか? 中国のAI技術の台頭と、世界のテクノロジー覇権の変化を考察する。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

【関連】今ここが人工知能「人間超え」の出発点。米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職…2025年には劇変した世界が待っている=高島康司

※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2025年1月31日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

個人投資家に有益な情報と時事ニュースが無料で届く!

DeepSeekは、本当に「スプートニク的瞬間」か?

生成AIのチャットプログラム「DeepSeek」が公開された。ユーザー登録すると誰でも無料で使える。これがいま「スプートニク的瞬間」と呼ばれる大きなショックをアメリカのIT業界に引き起こしている。

1月27日、ニューヨーク株式市場でAI関連銘柄が大きく売られ大暴落した。AIの開発を主導しているハイエンド半導体の製造企業「エヌビディア」の株価は17%も下落し、その時価総額は1日でおよそ6,000億ドル、日本円でおよそ92兆円減少した。これは、アメリカ史上最大の下落である。

NVIDIA CORP<NVDA> 日足(SBI証券提供)

NVIDIA CORP<NVDA> 日足(SBI証券提供)

このショッキングな下落の背景は、中国のAI開発企業「DeepSeek」が低コストで開発した生成AIが、アメリカのAI産業の優位性を揺るがしかねないとの見方が広がり、AI関連銘柄が大きく売られたからだ。

「DeepSeek」は、中国のヘッジファンドマネージャーである梁文峰が設立したスタートアップが開発したAIモデル「DeepSeek R1」を基盤にした生成AIのチャットプログラムである。同モデルは、米国のモデルに比べて圧倒的に低コストで、かつわずか数カ月で開発され、さらに最先端の「Nvidiaチップ」を使わずに完成している。

「DeepSeek」の研究チームは、約600万ドル(約9億2,000万円)をかけてローエンドでデータ転送速度の低い「H800 Nvidiaチップ」を約2,000個使用し、AIモデルを開発したと述べている。一方、アメリカの企業はAI開発に十倍の90億ドル(約数千億円)を投入しているので、はるかに安価に高度な生成AIのプログラムの開発に成功している。また、「DeepSeek」はオープンソースモデルであり、ユーザーが自分のコンピュータで直接利用できる点が特徴だ。

また「DeepSeek」の特徴の1つは、非常に少ない電力で稼働することだ。「Open AI」や「Google」などのアメリカ企業のAI開発には、際限のない電力とエネルギーが必要となる。そのためAIの開発には、巨大なデーターセンターと、それを稼働させるための電力供給を可能にする新たなインフラの建設が必要になる。「DeepSeek」だと電力消費量が少ないので、新しいインフラの投資も少なくて済む。

「スプートニク的瞬間」

さらに「DeepSeek」の発表は、別なショックも引き起こした。これまで米政府はアメリカと中国の技術覇権争いの要となるAI分野で中国が優位に立つことを阻止しようと、画像処理半導体(GPU)などのハイエンド技術の中国への輸出を禁止した。しかし、「DeepSeek」の進歩は、中国のAIエンジニアが限られたリソースで効率性の向上を追求し、規制の影響を回避できていることを示唆した。

こうした特徴を持つ「DeepSeek」の発表を、投資家のマーク・アンドリーセンは、旧ソ連が1957年に世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功したことになぞらえ、「AIの「スプートニク的瞬間」」と呼んだ。中国がアメリカの技術に依存せず、既存のものを上回る高度なAIプログラムの開発に成功したからだ。これは誰も想像していなかったということで、これを「スプートニク的瞬間」と呼んだのだ。

「DeepSeek」の成功により、「Open AI」やその他のアメリカのAIサービス提供会社は、確立された優位性を維持するために価格を引き下げざるを得なくなるだろう。また、より効率的なモデルがはるかに少ない支出で開発できるのであれば、「メタ」や「マイクロソフト」などのIT企業による巨額の支出にも疑問が投げかけられることになるのは間違いない。

一方トランプ大統領は先週、「OpenAI」や他のIT企業と協力して最大5,000億ドル(約78兆円)を投じる新たな「スターゲート・プロジェクト」を発表している。そのようなときに、アメリカのIT企業が開発したAIのプログラムの競争力に疑問を呈する「DeepSeek」が発表になったのだ。最悪のタイミングだったかもしれない。

Next: 「ChatGPT4o」より優秀?中国の技術力は侮れない

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー