読み書き障害をビデオゲームで抑える〜日経サイエンス2025年1月号より
アクション満載のビデオゲームが単語の認識能力を高める
ビデオゲーム「スペースインベーダーエクストリーム2」では,プレーヤーは地球を襲うエイリアンたちを銃で撃破しなければならない。エイリアンは動きが速く,画面上部から次々に降ってくる。そして,最下部に到達するとプレーヤーの“命”を奪う。
Peter Macdiarmid/Getty Images
npj Science of Learning誌に掲載された研究は,このようなゲームが単語の処理が困難な遺伝性の神経疾患「発達性ディスレクシア(発達性読み書き障害)」のリスクがある子供の助けになる可能性を示唆している。話し言葉や音を知覚する能力がゲームによって改善するというのだ。バーチャル世界のエイリアンをやっつけることは単語を識別することとは無関係に思えるかもしれない。しかし,過去の研究で,マスターするのに素早い認知能力と運動能力が必要なアクション型ビデオゲームが,記憶を処理する脳の注意制御領域を活性化することが示されていた。
今回の研究では,ディスレクシアの家族歴があり文字を読み始める前の子供79人に造語の違いを聞き分ける課題(ディスレクシア患者には難しい場合がある)などいくつかの言語テストを受けてもらった。その後,子供たちを4つのグループに分けた。スペースインベーダーエクストリーム2をプレーするグループ,非アクション型ビデオゲームをプレーするグループ,言語聴覚療法(この研究が実施されたイタリアでは言語障害に対する通常の治療法)を受けるグループ,何の治療も受けないグループだ。ゲームをするグループは1カ月半の間,1回45分間のプレーを週に4回行い,言語聴覚療法のグループは約4カ月間に週2回,45分間のセッションに参加した。
単語識別課題で改善
この試験が終了するまでに,スペースインベーダーをプレーした子供の80%以上が単語識別課題で以前よりもはるかに好成績を上げ,他の3つのグループよりも大きく改善した。ゲームがこの特定の課題の成績を大きく引き上げた理由はわからない(他の言語テストでは著しい改善は見られなかった)。だが,この結果は重要だと研究チームはいう。「子供が成長して脳の可塑性の一部を失う前にこうした小さな認知機能を標的にできれば,ディスレクシアの症状が出る前にそのいくつかに対処できるだろう」と論文の共著者の一人で伊ベルガモ大学の神経科学者ゴーリ(Simone Gori)はいう。(続く)
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