2022年10月、26歳だった手塚雅さんは入浴中、左胸にしこりのようなものを感じた。気になって病院を受診すると、ステージ4の乳がんと診断された。医師は言った。「ここではもう、できることがない。おいしいものを食べるなり、好きなことをするなりしてください」

 突然の事態に、雅さんはぼうぜんとした。付き添いの祖母は号泣した。その時、雅さんが心に思い浮かべたのは、当時交際していた黒岩大誠さん(27)の姿だ。「いつか結婚できたら」と話し合っていた仲だったが「こうなったら、私の方から別れを告げるべきだ」と思った。

 しかし病院に駆けつけた大誠さんの口から聞かされたのは、雅さんにとって予想外の言葉だった。(共同通信=武田惇志)

 ▽「おばあちゃんより先に」

 現在28歳の雅さんは名古屋市南区出身。地元の中学校を卒業後、市内の公立高校に進学した。高校2年の時にマイコプラズマ肺炎を発症。ぜんそく持ちだったため重症化し、楽しみにしていた京都への修学旅行も初日しか行けなかった。結局、入院を余儀なくされ、単位が取れなくなり退学。同級生と一緒に卒業できなくなったのを悔やんだ。

 だがその後も勉強は続け、18歳の時に高卒認定試験に合格。治療を終えた翌年に、愛知県内の私大を受験して合格した。レズビアンの友人がいたことから「ジェンダーについて学びたい」と考え、卒業論文は文学と性的マイノリティーがテーマだった。

 卒業後は病院事務の仕事に就職したが、人間関係がうまくいかず、ほどなくして退職。2022年に別の会社に転職した。大誠さんと出会ったのは、その転職活動中だった。出会ってから2カ月後、初デートの際に思いを打ち明けられたという。

 住宅会社に就職した大誠さんとは時々、こんなふうに将来について話し合った。「社会人になりたての今はお金がないけど、数年後に結婚できたら」「2人とも子供好きだから、子供はほしいね」

 2022年6月、雅さんは会社から案内があり、健康診断を受けた。エコー検査も受けたが、何の問題も見つからなかった。だが、異変に気づいたのはそれからわずか4カ月後のことだった。

 「なんか、左胸に硬いものがあ...