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【人材サービス業界】パーソルキャリア CTO 岡本氏が語る 人材サービス業界におけるテクノロジー活用について

こんにちは!TECH Street編集部です。

今回の「CTOインタビュー」は、パーソルキャリア株式会社 CTO 岡本さんです!岡本さんから聞いた、人材サービス業界に関する業界課題やその業界ではたらくエンジニアの特徴についてのお話などお届けします。

 

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岡本 邦宏さん

パーソルキャリア株式会社 CTO 

オーストラリアで事業の立ち上げを経験した後、モバイルコンテンツの事業責任者 兼 子会社のCTO(最高技術責任者)を務める。その後もCTO・技術統括として数多くのベンチャーにて、大規模サービスの立ち上げ・成長に携わる。音声ベンチャー、不動産テックをはじめとする企業の技術顧問などを経て、2020年7月パーソルキャリアに入社。2022年4月、CTO(Chief Technology Officer)に就任。

 

 

 

ーーまずはじめに人材サービス業界について教えてください。

岡本:人材サービス業界の中には、派遣事業や人材紹介サービス事業、アルバイト紹介事業なども含まれるため、ここでは弊社の主力事業でもある人材紹介サービス事業を前提に話したいと思います。

人材紹介サービス事業では、個人、法人顧客に対して、キャリアアドバイザー(以下、CA)や法人営業担当のリクルーティングアドバイザー(以下、RA)を介してマッチングを行なっています。このマッチングを最大化することで、ビジネスが拡大していく、リボンモデルのビジネスになります。

 

ーーパーソルキャリアの人材紹介サービス事業では、どのような部分でテクノロジー活用されているのでしょうか

例えば、転職希望者が転職をしようとした時に、自分の情報を入力しますが、このとき入力されたデータに対して機械学習を活用して、その転職希望者に合った求人をいくつか自動紹介しています。

また、スカウトメールも自動化してますが、スカウトメールは人によってはスパムメールだと感じる人もいるので、どれだけその人の指向やキャリアパスに合ったものを出しているかが非常に重要です。そのため、その部分の精度を上げるためにも機械学習などのテクノロジーを活用しています。

人材紹介サービス事業はオペレーションが複雑なので、テクノロジーの活用によって何か劇的に変わるということはないですが、常に自動化できるところは率先して自動化していく姿勢で対応しています。

人材サービス業界でのテクノロジー活用が難しい理由

ーー人材サービス業界の中でパーソルキャリアは、テクノロジー活用が進んでいる印象があるのですが、業界全体を俯瞰してみたときにテクノロジーの活用が進んでいない会社は多いのでしょうか?

人材サービス業界は、ビジネスの対象が「人」であり、言葉の定義も様々あるのでテクノロジー活用が難しい業界です。そのため、人材サービス業界全体としては、テクノロジーの活用が進んでいない会社は多いと思います。

例えば、「エンジニア」と一括りで言っても、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、SREエンジニア、‥‥と様々ありますよね。また、「この人は経験値でいうとフロントの方が高いけど、直近でやっているのはクラウドである」という場合に、会社によっては「過去の経験値が多い方がいい」と考えるところもあれば、「最近扱っている技術の方を評価する」という会社もいるでしょう。
このようなことも考慮しなければならないので、人を介さずに転職希望者と法人顧客のマッチングを機械で自動化することは簡単ではありません。

弊社では、一部、マッチングの自動化をしていますが、会社によっては、全て人力でマッチングさせている会社もあります。

テクノロジーの力で人をエンパワーメントする

ーーパーソルキャリアでは、今後更にテクノロジー活用を進め、全て機械でマッチングを自動化させるという未来も考えているのでしょうか?

仮にCAやRAの知見やノウハウを上手くデータ化できたとしても、マッチングを全て機械で自動化するつもりはありません。

なぜなら、私たちの強みはCAやRAといったアドバイザーの熱量やノウハウによるものがとても大きいからです。CAやRAが高いパフォーマンスを発揮して活躍してくれるからこそ、それが参入障壁となり、企業としての特性や差別化ポイントになっていることは間違いありません。

確かに、私たちテクノロジー組織としては、CAやRAがやっている作業のデータ化や自動化を常に目指し、マッチングの自動化を進めていますが、それはCAやRAをサポートするものとして捉えています。


 ーー人の力とテクノロジーの力、両方が重要ということですね。

人材サービス業界に限らず、私は「テクノロジーの力で人をエンパワーメントする」ということをテーマとしていて、人の可能性を広げるところには必ずテクノロジーが存在すると考えています。

テクノロジーの部分だけを切り出して、ATS(採用管理システム)ツールだけを提供する会社もありますが、私たちは、人の力もテクノロジーの力も両方駆使して、幅広く転職希望者と法人顧客のニーズに応えたいと思っています。

「人材紹介サービス事業」と「裁判」の共通点

 ーー「機械で全て自動化するつもりはない」という話もありましたが、人を対象とするビジネスだからこそ、そもそも全てを自動化することはできないという面もありそうですね。

そうですね。これは私の持論ですが、「裁判」とも似ていると思います。というのも、もし、機械が人を裁いたら、それに私たちは納得できないと思います。それと同じで、「自分の将来を機械に決めてもらう」というのはやはり抵抗があります。なので、人を対象としているビジネスだからこそ人が介在せざるを得ない部分があると感じます。

また少し別の話になりますが、品質を追求するという観点では、例えば「顧客満足度」や「VOC(顧客の声)」などがあります。しかし、品質という言葉は抽象度が高く変数がとても多いので、それをテクノロジーが全部やろうとしてもできません。そのため結局、品質を追求する上でも人が介在してしまいます。

 

ーー「自分の将来を機械に決めてもらうのは抵抗がある」という話もありましたが、それでも将来的に、例えば人が介在しない生成AIによる人材紹介サービス事業が誕生する可能性はあるのでしょうか。

可能性はありますし、それを目指すベンチャー企業は生まれてくると思います。しかし、オリジナルのテクノロジーのようにみえても、ベースはOpenAI社の技術を使っているため参入障壁が低く、それだけでは他社に真似されやすいと思います。データの量や複雑性をどれだけ収集し分析して、綺麗な見た目で提供しているか、というサービスなので、それのみで企業として成長するのは難しいのではないかと思います。

日本特有の人材サービス業界における課題

ーー続いて、岡本さんが考える人材サービス業界の課題についてお聞かせください。

人材業界は「人」がビジネスの対象なので、そこには「法律」が絶対に関わってきます。例えば、個人情報の取り扱いに関するガバナンスがどんどん厳しくなっていくと、必要な情報が入手できなくなり、それが日本特有の足枷になります。

個人情報の取り扱いに関する法規制が緩い国では、思い切ったことができるかもしれませんが、日本では慎重にならざるを得ず、セキュリティガバナンスの対応に追われてしまうため、本来やりたかった戦略的な施策などができません。そして、売上に直結しない内輪向けの対応ばかりが増えてしまうといった状況に陥ってしまいます。これは日本特有の人材サービス業界の課題だと思います。

法律によって私たちが開発できる範囲が限定的になるのは仕方ないので、それに則ったフレームワークで早急に方針を立てて対応するしかありません。

 

ーー最後に岡本さんが思うエンジニアが人材サービス業界ではたらく面白さや魅力についてお聞かせください。

私たち人材サービス業界は、「人が今後どのように生きていくかをデザインする仕事」だと思っています。「人の人生をデザインする」という点において、現在は働き方が多様で、働き方を豊かにする方法も1つではないので、「こうした方が良い」という明確な答えはありません。明確な答えがない上に、そして「人」を対象としたビジネスだからこそのテクノロジー活用の難しさはありますが、だからこそテクノロジーを突き詰めていく面白さがあると思っています。

 

以上がパーソルキャリア株式会社 CTO 岡本さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のCTOインタビューもお楽しみに。 

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

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