2016年「保育園落ちた日本死ね」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 14:28 UTC 版)
「新語・流行語大賞」の記事における「2016年「保育園落ちた日本死ね」」の解説
2016年は、この年鳥越が東京都知事選挙に出馬(結果は落選)したことに伴い選考委員から外れたせいか、政治的な言葉のノミネートが少なくなり、東京都内の30代とされる女性が待機児童問題についてブログに投稿した記事「保育園落ちた日本死ね」 が国政関係で唯一トップ10に入った。この言葉が選出された理由は「待機児童問題の深刻さを投げかけ、世の中を動かした。」というものである。 当該ブログ記事は深刻な待機児童問題に対し東京都在住の女性が執筆したとされるものだが、駒崎弘樹が投稿の2日後に取り上げ、民進党の山尾志桜里衆院議員も国会で取り上げた。授賞式には当該ブログの筆者ではなく山尾が受賞者として出席し、「年の締めにもう1度スポットライトが当たり、うれしい」「今は新語・流行語でも、早く『死語』にできるよう頑張りたい」と述べた。翌日、タレントのつるの剛士が、「きっともっと選ばれるべき言葉や、神ってる流行あったよね。皆さんは如何ですか?」「こんな汚い言葉に国会議員が満面の笑みで登壇、授与って。なんだか日本人としても親としても僕はとても悲しい気持ちになりました」とTwitterで発言したことが、 前年に流行語大賞を受賞したSEALDsなどから激しく非難され、つるのは謝罪に追い込まれた。 この言葉を選出したことについても批判があがり、賞を主催しているユーキャンのウィキペディア日本語版のページが「株式会社ユーキャン死ね」と書き換えられ、ページが半保護状態になるまで編集合戦が繰り返されるなどネットの各地で炎上した。さらに、選考委員の詩人の俵万智のTwitterにも批判が寄せられた 評論家らによる批判や、それに対する選考委員たちからの反論も相次いだ。 批判は以下のとおり。 評論家の石平はTwitterで「普通の日本人の間では、『日本死ね』のような言葉が流行った気配はないし、流行るはずもないのであろう、わざと流行らせたい人がいる」と批判した。 元外交官の佐藤優は、「自民党の保育所に対する政策はとんでもないが、公共圏で使っていい言葉といけない言葉がある。憲政史上、『死ね』と言う言葉が政策に関連するところで出てきたのは初」と疑義を呈した。マラソン選手の有森裕子も「この言葉が全国的に流行ったのでしょうか。そもそも『死ね』という言葉が流行語として認定されることが健全といえるのでしょうか」と疑問を述べ、選考委員のやくみつるが「流行語を選ぶにあたって、過激だとか穏当だとか、選ぶ時に何の尺度にもならない」と発言したことに対して「流行語として見た子どもたちが、どんな思いを抱くでしょう。授賞式で笑顔を浮かべていた国会議員や、選考基準の理解に苦しみます」と批判した。 漫画家の江川達也も「汚く過激かつ破滅的な言葉が世の中を動かしたかに見えたら評価する。というなら、やはり、言葉はどんどん、汚く過激かつ破滅的な方向に走ってしまわないだろうか」と疑義を呈し、「思ってたようにならなかった誰々死ね。が世の中に影響があると思い込んだ人が真似始めることになるだろう。いや、もう既に、昔から、思い通りにならないと、誰々死ね、という子どもが増えて問題になっていた。その子どもがそのままお母さんになっただけだ。もはや、日常的に死ねと使う人がいる」「存在を否定したら終わってしまう。現状のうまくやれない状況を認識させてどうすればうまくいかせられるか教育した方がいい」と述べた。 反論は以下のとおり。 選考委員のやくみつるは情報番組のインタビューで「私も当時は嫌悪感を示した方」だったとしたが、「それとこれとは話が別」と個人的感情を抑えるコメントに留まる。「流行語を選ぶにあたって、過激だとか穏当だとか、選ぶ時に何の尺度にもならない。むしろ、こういう言葉は流行語大賞でなければ拾い得ない」と、必要であれば『死ね』など過激な言葉が選ばれることもあるとした。そもそも流行語という位置づけにふさわしくないという声に対しても「口の端に上るという意味での流行語もあるが、その言葉が物議を醸すなり、そこから議論が巻き起こるのも広い意味での流行語である」との認識を示した。ほかにも同年12月には、賞が世間とずれているのではと批判されている事を受けメディアの取材に応じたが「難しい専門用語が入っているわけでもありません。『ニュースぐらい見ろ』と言いたいですよ」と答えた。また来年(2017年)以降、選考基準を見直すことも「まったくありません」と否定している。 元選考委員の鳥越俊太郎も情報番組に生出演し、『日本死ね』がショッキングな言葉ではあると認めながらも「それ(待機児童問題)に対するいち母親の怒りの言葉が、『死ね』という表現になっているわけです」「だから、『死ね』という言葉だけに引っかかってしまっちゃ、その全体を見誤ってしまう」と指摘。カンニング竹山が受賞者が政治家であることに「すごく違和感がある」と表明したところ、鳥越は「山尾さんが国会でこれを取り上げたことによって、一躍全国的な問題になったんです。ブログはブログでその前からあったんだけども、問題にならなかった」と応じ、自身も審査委員長にとどまった場合、『日本死ね』を選出していただろうと語った。 選考委員の俵万智は「『死ね』が、いい言葉だなんて私も思わない。でも、その毒が、ハチの一刺しのように効いて、待機児童問題の深刻さを投げかけた。世の中を動かした。そこには言葉の力がありました。お母さんが、こんな言葉を遣わなくていい社会になってほしいし、日本という国も日本語も、心から愛しています」とツイートした。 社会学者の古市憲寿もTwitterで「言葉は文脈をともなって初めて意味を持つ。『保育園落ちた日本死ね』が話題になった時、『日本死ねなんてけしからん』という批判よりも、共感が多かったのは、『日本死ね』という言葉ではなく、あのブログが多くの人に読まれたから」と分析。「あのブログも読まずに『日本死ねなんてけしからん』と言われても。ちなみに僕が知る限り、あのブログが騒がれていた当時、『日本死ねなんてけしからん』と言っていたのは、おじさん政治家たちです。いま怒っている人との共通点は、ちゃんとブログ本文を読んでいないこと」と異論を唱えた。また、『死ね』という表現については、「人格攻撃でもなく、あくまでも比喩としての『死ね』と、具体的な他者や人格をおとしめるために使う『死ね』は全然違うよ。しかも、他にどうしようもなく、そうするしかない悲痛な叫びとしての『日本死ね』でしょ」との見解を示した。 保守系雑誌の『月刊日本』も、『日本死ね』騒動にはアメリカ大統領選のトランプ現象と類似しているとして、ドナルド・トランプの過激な発言がポリティカル・コレクトネスに反していたからこそ不満を抱えている人々の共感を得たように、『日本死ね』という怒りの言葉も一般的な常識や倫理に反していたからこそ注目を集めたのではないかと分析。「軽く見てはならない」と指摘した。 また、騒動は保坂展人世田谷区長に飛び火し、Twitterで『日本死ね』が受賞したという記事をツイートすると「国の対応って仰いますけど、そもそも保育園は地方自治体の管轄なんでは?『死ね』って言われるべきは本来は区長だと思うんですけど」「だとしたら一番死ななきゃならないのは『待機児童が1200人を超えてて一向に改善できない保育行政に責任を持つ無能な世田谷区長』っすよね。何他人事かましてんの?」「待機児童全然解消していない世田谷区死ねと言われてるようなもんだぜ。分かってる?」と批判コメントが殺到。ジャーナリストの石井孝明も「山尾衆議院議員に、死ねとののしられるべき1人は保坂さんのような気がします。どう思うのか、罵られたら感想ください」と、東京都の待機児童数で世田谷区が飛び抜けてワースト1位である表を添えたリプライを送って応戦した。 さらに、同月12日に発表された日本漢字能力検定協会主催の『今年の漢字』では、『保育園落ちた日本死ね』の『死』はトップ20にすら入っていなかった。しかも、こちらは全国から一般募集され、得票数で大賞が決まるため、ネットでは再びユーキャンへの非難が噴出した。 ジャーナリストの井上トシユキはこの騒動について「政治色が強いのは余計な混乱を避けるために選ばないのが常套なのに、ユーキャンの場合はガッツリ選んでくる。『日本死ね』は非常に強い言葉で、ネット右翼と左翼で非難の応酬になっている」と指摘。「清水寺の『今年の漢字』(日本漢字能力検定協会)と並んで、年末の風物詩みたいな扱いになっていますが、ユーキャンの流行語大賞は宣伝のための商業的側面があり、ピントがずれ始めてきているところもある。『今年の漢字』で『死』を選びますかという話。選考過程がハッキリしていない点の反発が多く、オープンの場で選んだ方がいいのではないか」と述べた。 『白熱ライブ ビビット』(TBS)が調査したアンケートでは、『日本死ね』を流行語大賞のトップテンに選んだことに『賛成』23%、『反対』77%。J-CASTニュースが行ったネット調査では、『問題提起としては有効だったが、言葉が汚すぎる。受賞は不適切』52.8%、『問題提起としても意味があったとは思えない。単に不愉快になるだけ』31.2%、『この言葉をきっかけに待機児童問題に焦点が当たった。受賞は妥当』15.2%、という結果だった。衆議院議員の足立康史は度重なる暴言騒動の際「『日本死ね』発言を社会が許容している」といった趣旨の釈明を2度行っている。 また、選考委員に対しては、政治信条の偏り以前に、2015年の大賞に「トリプルスリー」、2016年の大賞に「神ってる」を選出してきたことに対して、「そもそも彼らに現代のことがわかっていると言えるのだろうか。」と疑問を呈されるようになり、2017年以降も政権批判のキャッチコピーが取り上げられているが、それに対する批判は減っていった。
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