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ガヴァネスとは? わかりやすく解説

ガヴァネス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/11 14:41 UTC 版)

生徒である子供と一緒に、右に座っているのがガヴァネス。ヴィクトリア朝時代の家庭におけるその目立たない役割にふさわしい控えめな服装と態度を示している。レベッカ・ソロモン『ザ・ガヴァネス』、1851年。

ガヴァネス: governess: Gouvernante:グヴェルナンテ、: gouvernantes:グーヴェルナント)は、個人の家庭内で子供たちを教育し、訓練するために雇われる女性のこと。女家庭教師

本項では英語にもとづいてガヴァネスという語を用いるが、英米以外での例については「女家庭教師」または「家庭教師」の訳語を充てる。

概要

ナニー(当初はナースと呼ばれた)やベビーシッターと異なり、子供たちの身の回りの世話をするのでなく、専ら教育に従事する。その対象は乳幼児でなく、学齢期の児童である[1]

今日ではガヴァネスの存在はまれで、サウジアラビア王族のような大きく裕福な家庭[2]や、オーストラリア奥地のような辺境で見られる程度である[3]。しかし第一次世界大戦前には、ヨーロッパの裕福な家庭、特に適当な学校が近くに存在しない田園地方の場合には、一般的な存在であった。親が、遠くの寄宿制学校に何ヶ月も子女をやるより、手元で教育する方を選ぶかどうかは、時代や文化によって異なっている。ガヴァネスが担当するのは通常は女の子で、男の子の場合は幼少期に限られた。男の子はある程度成長するとガヴァネスの下を離れ、家庭教師(チューター(tutor))の手に移るか、学校に通った。

役割

アレクサンダー・グラハム・ベルの娘に本を読み聞かせるガヴァネス(1885年)

ガヴァネスは児童に「3つのR」(The three Rs/reading、writing、arithmetic)[4]、つまり日本で言う「読み・書き・算盤」を教えた[5]。彼女らはまた、中流婦人に期待される「教養」もその生徒たる若いレディに教えた。それは例えばフランス語その他の外国語であり、ピアノなどの楽器であり、また絵画(通常、油彩よりもより上品な水彩画)などであった。このような専門教育のため男性の教師(芸術家や通訳)が臨時で雇われることもあった。

ガヴァネスと社会

ガヴァネスはヴィクトリア朝の始まった1840年代頃から成人男性の海外移住や晩婚化が進み、大量の未婚女性が生まれてきた時代の職業である。ヴィクトリア朝の中産家庭の<道具立て>(paraphernalia)の一部として根づいた。しかし、社会的に女性が職業をもつのははしたないとされ、家庭においても使用人でもなく家族の一員でもない、<余った女>とも揶揄される、微妙なポジションにいた。このどっちつかずの社会的地位の現れとして、彼女らはしばしば一人で食事をした。ガヴァネスは中流の出自と教育を持っていたが、給金を受ける身であり、決して家族の一員ではなかった。当時の社会においては、ガヴァネスは、結婚していない中流の女性が自立するための数少ない方法の1つであった。そのポジションはしばしば憐憫の対象となるものであり、そこから抜け出すほぼ唯一の手段は結婚であった。生徒が成長してしまうとガヴァネスは新しい働き口を見つけなければならなかったが、まれに、成長した娘のコンパニオンとして引き続き雇われることもあった。

19世紀半ばには、ステレオタイプ化した「困窮化したジェントルウーマン」の救済が社会問題として人びとの関心を集めるようになった[6]1841年ロンドンのハーリ街にガヴァネス互恵協会が設立され、失職中のガヴァネスへの金銭的援助や職場紹介、老齢化したガヴァネスへの支援など慈善的活動を行った。次第に「困窮化したジェントルウーマン」問題はフェミニズムの第一波といわれる女性解放運動へと発展していった。

ガヴァネスとの交友関係が続くこともある。ビアトリクス・ポターは元ガヴァネスの子供に送った絵手紙を元にピーターラビットのおはなしを出版した。

フィクション

特に19世紀において、ガヴァネスの登場する有名な小説がいくつも発表されている[7]

小説
映画
漫画
  • 森薫の『エマ』では、主人公のエマとウィリアム・ジョーンズが、ウィリアムの幼少期のガヴァネスであったケリー・ストウナーの家で出会う。(エマはケリーのメイドである。)
  • もとなおこの『レディー・ヴィクトリアン』はガヴァネスの資格を持った主人公ブルーベルがロンドンにやってくるところから物語が始まる。
  • 樹るうの『わたしのお嬢様』のヒロインの一人ミリアム=ウィルスンの母ホリーは没落した名家の娘であり、ガヴァネスとして生計を立てていたが、勤め先の貴族の男性に関係を強要されて妊娠。仕事を辞めざるを得なくなって、もう一人の主人公メリーベル=マーチの両親(妻クララベルはホリーの親友である)に、息子のアーサー(メリーベルの兄)のガヴァネスとして雇われることとなる。作中ではこの設定をはじめ、当時の貴族階級と中流階級、その下に位置する庶民との生活や意識の差が描かれている。
  • 船戸明里の『Under the Rose』に登場するレイチェル・ブレナン。「春の賛歌」の章の主人公。貴族の家との関わりが分かりやすく描写されている。

著名なガヴァネス

他の用法

ガヴァネス(governess)はガヴァナー(governor)の女性名詞であり、知事(governor)が女性である場合には女性知事(governess)となる。しかし女性の場合でも知事(governor)とも呼ばれる。

脚注

  1. ^ A Governess's Duties, Outback House (オーストラリア放送協会)
  2. ^ Ellis, Phyllis (2000). Desert Governess: An Inside View on the Saudi Arabian Royal Family. London: Eye Books. ISBN 1903070015 
  3. ^ Harris, Julia: A career as a Governess? What skills do you need?, Australian Broadcasting Corporation, 15 October 2004.
  4. ^ 頭文字がRなのはreadingのみだが、'rithmeticと省略され、発音はどれもRである。
  5. ^ McDonald, James Joseph, and J. A. C. Chandler (1907). Life in Old Virginia; A Description of Virginia More Particularly the Tidewater Section, Narrating Many Incidents Relating to the Manners and Customs of Old Virginia so Fast Disappearing As a Result of the War between the States, Together with Many Humorous Stories. Norfold, Va: Old Virginia Pub. Co.. p. 241 
  6. ^ 河村貞枝 川北稔(編)「女性解放運動の結社」『結社のイギリス史:クラブから帝国まで』山川出版社 2005 ISBN 4634444402 pp.194-196.
  7. ^ Lecaros, Cecilia Wadsö: ヴィクトリア朝のガヴァネス小説, Lund University, 2000.

参考文献

  • Broughton, Trev and Ruth Symes: The Governess: An Anthology. Stroud: Sutton, 1997. ISBN 0-7509-1503-X
  • Hughes, Kathryn: The Victorian Governess, London: Hambledon, 1993. ISBN 1-8528-5002-7
  • Peterson, M. Jeanne: "The Victorian Governess: Status Incongruence in Family and Society, in Suffer and Be Still: Women In the Victorian Age, ed. Martha Vicinus. Bloomington: Indiana University Press, 1972.
  • 川本静子『ガヴァネス(女家庭教師) ヴィクトリア時代の〈余った女〉たち』中公新書 1994 のちみすず書房

関連項目

外部リンク


ガヴァネス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 00:22 UTC 版)

家事使用人」の記事における「ガヴァネス」の解説

住み込み家庭教師中流階級出身女性はガヴァネスとコンパニオンしか仕事無かったので、ガヴァネスは常に供給過剰状態だった。

※この「ガヴァネス」の解説は、「家事使用人」の解説の一部です。
「ガヴァネス」を含む「家事使用人」の記事については、「家事使用人」の概要を参照ください。

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