分子レベルで見たファンコーニ貧血
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/22 01:49 UTC 版)
「ファンコーニ貧血」の記事における「分子レベルで見たファンコーニ貧血」の解説
ファンコーニ貧血に関与する遺伝子は16種類あり、このうちのひとつは乳癌の起因遺伝子ともなるBRCA2である。これらの遺伝子は損傷DNAの判別と修復に携わるが、遺伝学的欠損があるとDNAを修復できなくなる。ファンコーニ貧血コア複合体は8分子のタンパク質から成っており、一般にはDNAが損壊されて複製を中断した時に活性化される。コア複合体はユビキチン、すなわちDNA修復時にほかの複合体のBRCA2と組み合わさる小さなタンパク分子を加える。修復が済むと、ユビキチンは除去される。 近年の研究では、これらの遺伝子のうちの8種、すなわちFANCA, -B, -C, -E, -F, -G, -L, –Mが、細胞核の中でコアタンパク複合体を構成していることが明らかになった。現時点でのモデルによれば、複合体はFANCAとFANCE上の核局在化シグナルに従って、細胞質から核内に移動する。組み立ては反復するストレス、とりわけ架橋分子(マイトマイシンCやシスプラチン)によるDNA損傷や、FANCM遺伝子によって探知される活性酸素といった複製時のストレスによって活性化される。 組み立てに続いて、コアタンパク複合体が、E3ユビキチン合成酵素として機能するFANCL遺伝子を活性化し、FANCD2遺伝子を単ユビキチン化する。 単ユビキチン化されたFANCD2(FANCD2-Lとも呼ばれる)は、BRCA1/BRCA2複合体と相互に作用する。詳細は不明だが、これと類似の複合体が遺伝子監視に関与しており、DNA修復や染色体の安定化に関連する様々なタンパクと関係を持っている。複合体中のいずれかのタンパクが機能不全の変異を起こすと、DNA修復はずっと効果が低くなる。これは、シスプラチン、ジエポキシブタン 、マイトマイシンCといった架橋結合分子によっておこされた損壊への応答が示すとおりである。骨髄はこの種の欠損にとりわけ鋭敏である。 FAタンパク質別名複合体分子量(kDa)モチーフFANCA - FAコア複合体 160 - FANCB - FAコア複合体 95 - FANCC - FAコア複合体 63 - FANCE - FAコア複合体 60 - FANCF - FAコア複合体 42 HEAT repeat FANCG - FAコア複合体 68 - FANCL - FAコア複合体 43 PHD finger FANCM - FAコア複合体 250 DEAD-like helicase FANCD2 - ID複合体 155 paralogous to FANCI FANCI - ID複合体 140 paralogous to FANCD2 FANCD1 BRCA2 - 380 - FANCJ BRIP1 - 140 - FANCN PALB2 - 140 - FANCO RAD51C - 42 RAD51 paralog FANCP SLX4 SLX-MUS 210 scaffold for multiple nucleases 放射線に反応する他のルートでは、FANCD2は、二重らせんDNAの破損によって活性化されるタンパク複合体ATM/ATRによってリン酸化され、細胞分裂のS相のチェックポイントコントロールに加わると考えられている。このルートは、FA-D1ないしFA-D2を有する患者で、S相のチェックポイントの欠陥の目印となる耐放射線性のDNA複製が存在することによって立証された。このような欠陥は、そのまま制御不能な細胞分裂につながり、これらの患者で急性骨髄性白血病が生じやすくなることについても説明がつくかもしれない。
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