子殺し
『景清』(幸若舞) 阿古王が夫景清を裏切り、頼朝の兵たちを宿所へ導く。景清は2人の子、いや石といや若に「あさましき母に添うよりも、閻魔の庁で父を待て」と言い聞かせ、殺す〔*『出世景清』(近松門左衛門)4段目では、牢に入れられた景清の眼前で、阿古屋が2人の子を殺して自害する〕。
『士師記』第11章 エフタは神に戦勝の祈願をしたために、はからずも自分の娘を燔祭として捧げることとなった→〔最初の人〕2a。
『撰集抄』巻6-10 時朝(ときとも)大納言家には、先祖の大織冠(=藤原鎌足)以来伝わる大切な硯があった。侍の仲太がこの硯をとり落とし、真っ二つに割ってしまう。10歳になる若君が、「私が割ったことにすれば、父も許してくれるかもしれぬ」と考え、仲太の過ちを我が身に引き受ける。しかし父大納言は、「家宝の硯を割る者はただではおけぬ」と、若君の首を斬った。仲太は出家した(後の性空上人である)〔*『今昔物語集』巻19-9の類話では、父親は子を殺さない〕→〔追放〕1a。
『保元物語』(古活字本)巻下「為朝鬼が島に渡る事並びに最後の事」 院宣を受けた討手が、大嶋の為朝の館へ押し寄せる。為朝は今はこれまでと、9歳の子為頼を刺し殺した後、自害する。
*→〔誤解による殺害〕2の『義経千本桜』3段目「すし屋」・〔血〕5の『忠臣ヨハネス』(グリム)KHM6・『ペンタメローネ』(バジーレ)第4日第9話・〔盲目〕7の『入鹿』(幸若舞)・〔和解〕2の『妹背山婦女庭訓』3段目「山の段」。
★2.主君の若君や主君の妻の身代わりとするために、家来が自分の子を殺す。
『国性爺合戦』初段 臨月の后華清夫人が敵の鉄砲に当たって死ぬ。呉三桂は后の腹を切って若君を取り出し、代わりに、生まれて間もない我が子を刺し殺して后の腹に押し入れる。追って来た敵軍は、后・若君ともに死んだものと思う。
『太平記』巻18「程嬰杵臼が事」 亡君智伯の3歳になる若君を程嬰がかくまい、杵臼は我が子が若君と同年なので、これを智伯の遺児と披露して山中にこもる。敵兵に囲まれた杵臼は、我が子を刺し殺し自らも切腹して、敵を欺く〔*『曽我物語』巻1「杵臼程嬰が事」の異伝では、11歳の子が若君の身代わりに自害する〕。
『百合若大臣』(幸若舞) 別府兄弟が、百合若大臣を玄海が島に置き去りにして、「百合若は戦死した」と、百合若の妻に告げる。別府兄弟は百合若の妻に懸想文を送るが、拒否される。怒った別府兄弟は、彼女をまんなうが池に柴漬け(ふしづけ)にしようとする。しかし百合若の家来だった門脇の翁が、自分の娘を身代わりに池に沈めて、百合若の妻を救う。
*→〔にせ首〕1の『一谷嫩軍記』3段目「熊谷陣屋」・『菅原伝授手習鑑』4段目「寺子屋」・『満仲』(能)。
『摂州合邦辻』「合邦内」 家督争いのために、俊徳丸の命が狙われる。継母の玉手御前は俊徳丸を救おうと、彼に偽りの恋をしかけ毒酒を飲ませて、癩病にさせる。病人であれば家督は継げず、したがって俊徳丸の身も安全だからである。玉手御前は父親を怒らせてその刃にわざと刺され、血を流して死ぬ。寅の年・寅の月・寅の日・寅の刻に誕生した玉手御前の血を用いれば、俊徳丸の癩病は治るのである。
*生まれた年・月・日・刻が1つに揃った女の生き肝→〔恋わずらい〕2aの『肝つぶし』(落語)。
『二十四孝』(御伽草子) 貧しい郭巨夫婦は、老母を養うため、口べらしに3歳の子を殺そうとする。子を生き埋めにする穴を掘ると、黄金の釜が出てくる。
『アウリスのイピゲネイア』(エウリピデス) アガメムノン率いるギリシア軍がトロイアへ船出するためには、彼の娘イピゲネイアを女神アルテミスに捧げねばならない。アガメムノンは娘を呼び、祭壇へ上げる。しかし、最後の瞬間に娘の姿は消え、代わりに1頭の雌鹿が生贄とされるべく横たわっていた。
『創世記』第22章 神がアブラハムに「汝の子イサクを山で燔祭として捧げよ」と言う。アブラハムは祭壇を造り、息子イサクを殺そうと刃物をとる。神はアブラハムの信仰心を賞し、イサクの代わりに羊を焼くように命ずる。
★6.母親が子を殺す。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第14章 プロクネは、自分と夫テレウス王との間の1人息子イテュスを殺し、夫テレウス王に食べさせる。
『楡の木陰の欲望』(オニール) アビーは、3人の成人した息子を持つイフレイムの後妻になった。彼女がイフレイムの死後に財産を得るには、子供を産まねばならない。イフレイムは老齢なので、アビーはイフレイムの三男エビンを誘惑して、子供を得る。イフレイムは、子供を自分の胤と信じて相続人にする。エビンは、利用されたと知って、アビーを罵る。アビーは今では本気でエビンを愛するようになっていたため、狂乱して嬰児を殺す。
『変身物語』(オヴィディウス)巻8 カリュドンの猪狩りの後に獲物の奪い合いが起こり、メレアグロスは伯父を殺す。メレアグロスの母アルタイアは兄弟が殺されたことに憤り、息子メレアグロスの生命のこもった丸木を焼いて、メレアグロスを死なせる〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第8章に類話〕→〔魂〕1a。
『メデイア』(エウリピデス) かつてメデイアは、父王に背いてまでイアソンを助け、彼に金羊毛を得させた(*→〔眠る怪物〕2の『アルゴナウティカ』(アポロニオス)第4歌)。しかしイアソンはメデイアから受けた恩を忘れ、コリントスの王女と結婚する。メデイアは激しくイアソンを非難し、コリントスの王女とその父を毒で殺す。さらに、イアソンとの間に生れた2人の子供をも刺し殺して、去って行く→〔龍〕3b〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章に簡略な記事〕。
*母親が、成長した息子と再会して殺す→〔再会(母子)〕3の『人間の証明』(森村誠一)。
*嬰児殺し→〔赤ん坊〕9の『ファウスト』(ゲーテ)第1部、〔夫殺し〕4の『桜姫東文章』。
『悪魔の手毬唄』(横溝正史) 青池リカが夫源治郎との間にもうけた娘・里子は、顔半分が赤痣におおわれていた。源治郎は3人の愛人に3人の娘(泰子・文子・千恵子)を産ませており、彼女たちは皆美貌だった。リカは彼女たちを殺そうと考え、まず泰子を、次いで文子を、呼び出して殺す。しかし里子が母リカの悪事を知り、千恵子の身代わりになって夜の闇の中に立つ。リカは千恵子と思い込んで、自分の娘・里子を殺してしまう。
『神霊矢口渡』4段目「頓兵衛住家の場」 渡し守・頓兵衛は、2階に寝ている新田義峯を殺そうと(*→〔宿〕3c)、闇の中、下から刀を突き上げる。断末魔の悲鳴が聞こえたので、頓兵衛は「してやったり」と梯子を駆け上がり、義峯の夜着を引きまくる。折から月影がさし、頓兵衛は瀕死の娘お舟を見出して驚く。彼女は義峯を逃がし、その身代わりに寝所に臥していたのだった→〔太鼓〕5。
『リゴレット』(ヴェルディ) 浮気者のマントヴァ公爵が、多くの娘たちをもてあそぶ。彼は学生姿に変装して、道化師リゴレットの娘ジルダを誘惑する。リゴレットは怒り、殺し屋にマントヴァ公爵殺害を依頼する。しかし、それを知った娘ジルダが自ら犠牲になろうと決意し、公爵の身代わりとなって短刀で刺される。殺し屋から、死体の入った袋を受け取ったリゴレットは、袋の中に瀕死の娘ジルダを見出して驚愕する。
*→〔宿〕6に記事。
『地獄変』(芥川龍之介) 絵師良秀は地獄変の屏風を描くために、「美しい上臈(じょうろう)の乗る檳榔毛(びろうげ)の車が、燃え上がる様を実際に見たい」と望む。堀川の大殿が、良秀の娘を車に乗せて示すので、良秀は驚愕する。しかし、火が放たれ地獄さながらの光景が現出すると、良秀は娘を救うことも忘れ、恍惚としてそれに見入る。娘は悶え苦しんで焼け死に、良秀は炎熱地獄の屏風絵を完成させる。
『修禅寺物語』(岡本綺堂) 面作師(おもてつくりし)夜叉王の娘かつらは、将軍源頼家の身代わりとなって北条幕府の討手と闘い、瀕死の重傷を負って家へ戻る。夜叉王は「若い女の断末魔の表情を、後の手本に写しておきたい。苦痛をこらえてしばらく待て」と命じ、死に行くかつらの顔を模写する。
*父親が讒言を信じて子を殺す→〔卵〕4の『今昔物語集』巻2-30。
*親が狂気に陥って我が子を殺す→〔狂気〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章・〔狂気〕3の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章。
子殺し
子殺し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/02/04 03:05 UTC 版)
詳細は「子殺し#ヒト以外の動物の場合」を参照 子殺しは大人の個体が同種の子どもや卵を殺す行為で多くの種で観察されている。魚類のように自分の子を識別せずに食べるようなケースもあるが、性的対立は子殺しの一般的な原因の一つである。レンカクのようにメスが同様の行為をすることも知られているが、ほとんどの場合オスが行う。もっともよく研究されているのは脊椎動物で、ハヌマンラングール、マウス、イエスズメ、ライオンなどが代表的な例であるが、無脊椎動物にも見られる。その一つの例がクモの一種Stegodyphus lineatusである。このクモのオスはメスの巣に侵入して卵包を捨てる。メスは生涯で一つのクラッチしか持たないためにこれは繁殖成功を著しく減少させる。そのため怪我や死もまれではない激しい闘争が起きる。レンカクではオスが子育てをするためにオスはメスにとって希少資源である。メスはオスの巣へ侵入し、抵抗するオスの子たちを殺す。オスはその後、メスとつがい、新たな子を育てる。 このような行動は犠牲となる性の側に対抗適応を進化させるために、両性にとって負担となる。そのため異性がやってくると妊娠中の子を中絶するような、犠牲を最小化するような適応を発達させた種もおり、マウスではブルース効果として知られている。
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